迷子のこにゃんこさん
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/27 00:32



■オープニング本文

●ともだち
「それじゃあ、みっちゃんよろしくね」
「うんっ」
 満面の笑みを浮かべて、みっちゃんこと実(みのり)は腕に子猫を抱えて頷いた。
 
 話は少し前に遡る。
 いつもの仲良し友達は今親と一緒に里帰りをしていて、思いの他静かなお正月。本来なら凧上げやら羽根突きやらで遊びたいのであるが、相手がいないのでは仕方がない。母親と二人、火鉢を囲みのんびりした時間を送っている。
「つまんない…」
 目の前で膨らむ餅を見つめ彼女が言う。
「そうね…いつも一緒だものね」
 彼女より一つ年上の二人の少年――みっちゃんにとってはかけがえのない存在。
「早く帰ってこないかな…」
 三角座りの膝におでこをのせぐっと蹲る。
 北面の合戦の開始によって、大事を見て帰りを見送っているらしい。合戦の場所からは離れているとはいえ、親心としては安全を確認してから動きたいという事だろう。
「みー、みー」
 ――とそこへ聞き慣れない声がした。
「猫さん?」
「みーみー」
 その声を逸早く察知して、みっちゃんが鳴き声のする方へと駆け寄る。
 薄い壁、使い古された畳…探るように耳を当てれば、外の方からだ。
「ちょっといってくる」
 彼女はそう言って、まだ寒い外へと飛び出した。
 するとそこには一人の青年が立っている。
「おやっ、元気だね。君、ここの子かな?」
 柔らかい笑顔で青年の腕にはまだ生まれたばかりと思われる真っ白な子猫が抱かれている。
「うん、そう。おにーさんは? もしかして開拓者さん?」
 ここらでは見かけない顔――腰には簡素な刀が下げられているのに気付いて、彼女が問う。
「はい、よく知ってますね…ととっ」
 その言葉に関心した青年だったが、突然暴れ出した子猫によって話を中断され苦笑する。しかし、その子猫が彼女の足元に擦り寄ると彼はどこかほっとして、
「その子、可愛いでしょ…けどね、捨てられてた子なんです」
 少し寂しそうな目をして彼が続ける。
「捨て猫さんなの? かわいそう」
 みっちゃんもそれを聞き、抱えていたもふらのぬいぐるみをぎゅっと引き寄せ、未だみーみー鳴いている子猫を見つめる。
「あの、どなたですか?」
 そこへみっちゃん母が顔を出し、話は室内へと持ち込まれる事となった。


●おねがい
 いきさつはさっき話した通り。旅の途中で捨てられた子猫を見つけて、ほってはおけず拾ってきたらしい。しかし、彼も開拓者――今の合戦に赴こうと考えており、その間この子猫を預かってくれる人はいないかと探していたのだという。
「幸い彼女にも懐いているようですしお願いできませんか?」
 少しだけでいいとの事。子猫と戯れる娘の姿をちらりと見ればさっきまでの落ち込みようとは雲泥の差。預かるだけならと了承する。
「有難う御座います。必ず戻ってきますので」
 青年はそういうと、世話代を置いてみっちゃんに声をかけその場を後にした。

 それから数日後――
「おかーさん、みーちゃんがみーちゃんが」
 目を真っ赤にして言う娘に母はびっくりする。
「みーちゃんがどうしたの?」
 しかし、それで動揺しては元も子もない。宥めるように背中をさすり、落ち着かせてから内容を聞き出せば、どうやらみーちゃんことあの預かった子猫がいなくなってしまったらしい。
「おにーさんから頼まれたのに、みっちゃんどうしよう?」
 こうなってはいつもの泣き虫さんが顔を出す。
「わかったわ。じゃあ一緒に探しましょ。きっとまだこの近くにいる筈よ。子猫だもの、遠くには行けないわ」
「うん」
 母の言葉に力を貰って、手を引き辺りを捜索する。けれど、静かだった近所も日が経つに連れ賑わいを取り戻す。こうなっては子猫の声など聞き取りようがない。
「困ったわね…」
 母が思案する。猫一匹の事、ギルドに依頼を出す余裕はない。かといって二人では都中を探す事は出来ない。
「みーちゃん、みーちゃん!」
 娘の声が行きかう人々の足音に掻き消された。


■参加者一覧
ダイフク・チャン(ia0634
16歳・女・サ
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
露草(ia1350
17歳・女・陰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
水月(ia2566
10歳・女・吟
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志


■リプレイ本文

●ぐうぜん
 都を彷徨う親子を見つけて、御陰桜(ib0271)が忍犬の桃と共に歩みを止める。
「お嬢ちゃん、ナニか探し物?」
 そう視線を合わせるようしゃがんで問えば、彼女は小さく「みーちゃん」と答える。
 それに続いて「子猫なんです」と言葉したのは彼女の母親らしい。今にも泣き出しそうな娘に気を配り、二人を見つめる。
「わかったわ。お姉さん達も一緒にみ〜ちゃん探してあげる♪」
 そんな二人を放っておける筈もなく、桜は言葉した。
「わんこさんも手伝ってくれるの?」
 そう問う少女に桃もわんと答えて、その拍子に目に入ったのは首の模様。そこだけ毛色が違い、桃の花の形のようにみえる。
「ふふふ、この子きゅ〜とでしょ。桃って言うのよ」
 そう教えれば、少女の気がそれたのか暗くなった顔に光が僅かに差していた。
 その後も彼女を見つけて手伝いを買って出た開拓者は多い。
「あらあら大変…みっちゃん、はやくみーちゃんを探し出してあげましょうね?」
 通りすがりに彼女を見取って露草(ia1350)と管狐のチシャが言う。すると、今度は露草を見つけた弖志峰直羽(ia1884)が事情を聞いて、
「みっちゃん、仔猫のおかーさん頑張ってたんだね。巽君達の代わりに、みっちゃんとピンチは俺達でお助け、だよっ☆」
 と声をかける。巽と言うのは彼女の親友の事。彼ら同様に付き合いが長い直羽が加わって、彼女も嬉しいようで笑顔復活。露店の方へと駆けてゆく。
「あっ!」
 そしてまたもや出会い――。


「あれ、あれたべてみたいの♪」
 生後間もない真っ白の子猫又・小雪を抱えて、露店を散策していた礼野真夢紀(ia1144)である。
 小雪にとっては見るもの全てが新鮮なのだろう。一夜干しされた魚を販売している店を見つけて、小さな手を伸ばしそこにある鰈をねだる。
「まあまあ、仕方ありませんの」
 そんな彼女に微笑みを浮かべで真夢紀も楽しそうだ。
「みーちゃん!!」
 しかし、そこでまだ幼い少女の声がした。そして、次の瞬間あろう事か真夢紀の腕から小雪を奪い取ろうとする。
「え、え…どういうことですの!?」
「や、こわい…まゆきたすけて〜」
 二人とも突然の行動に困惑を隠せない。
「みっちゃん、その子は違うんじゃない!」
 そこへ露草が待ったをかけて――どうやら人間違いならぬ猫間違いのようだ。
「そんなにこの子に似ていたんです?」
 事情を聞いて、やっと落ち着いた真夢紀が問う。
「うん」
 頷く回答に彼女は偶然以外の何かを感じていた。母親の方に子猫の大きさを問えば、確かに小雪位で瓜二つだという。
(「これも何かの縁ですの」)
 彼女はそう思い小雪と視線を交わし、
『私達も手伝う!』
 二人の声ははもっていた。 


●じゅんび
「まずはどんな子か聞こうかと思ったけど、小雪ちゃんみたいなので間違いないんだね?」
 人が増えた事もあって作戦を立てるべく一旦茶屋に集まり状況把握。
 筆を用意して絵を描いてもらおうと考えていた直羽だったが、そっくりさんがいればそれは不要。お饅頭を頬張りながら彼の質問に大きく頷く。
「他に特徴はない? 桃みたいに模様があるとか」
 そこで今度は桜の質問。
「何かあったかしら?」
 みっちゃん母はそう言って首を傾げたが、子供の視点を侮るなかれ。
「あのねー、お耳の先がきれーなピンク色でお目めが黄色なんだよ」
 決定的とは言えないが、それでもないより断然いい。
「そしてねー、みーみーなくんだぉ」
 餡子をほっぺたにつけたまま彼女が言う。
「少し曖昧な情報ですが、柚乃、頑張る」
「あいたも綾香様とご近所猫をあたってみるみゃ」
 それに答えて柚乃(ia0638)の言葉にダイフク・チャン(ia0634)も続く。
「じゃあ、最後にみーちゃんを見た場所は覚えている?」
 その問いには、
「うん、大丈夫だよ。いつものお散歩ルートだもん」
 と答えて、一つの疑問。
「いつも? まだ預けられたばかりだったのでは」
 柚乃が首を傾げる。
「預かって一週間と少しですから…」
 それには母親が答えて、
「そうだよっ、それからはみーちゃんとずっと一緒だったの」
 嬉しげに言ったみっちゃんだったが、そこではっとし陰が差す。今の一言で思い出されたようだ。目に涙が滲んでいる。
「もう、実ったら…泣いてたら探せないでしょ」
 そういう母をそっと押し止めて、ここで彼女を慰めたのは水月(ia2566)だった。
 いつもは無口の彼女がみっちゃんの心を察し静かに頭を撫でる。
「わたしも一緒に探してあげる……だからみっちゃんも泣かないで」
「そうだよ! ボクにお任せだよ!!」
 そこへ人妖のコトハも現れて…集まった開拓者の言葉を受け、彼女はぐしぐし涙を拭く仕草が愛らしい。
「さあ、それじゃあ本格的に捜索開始だー!!」
『おー』
 コトハの号令に皆拳を突き上げた。
「すいません…私は夕食の用意もあるのでお任せしていいですか?」
 そういうみっちゃん母にみんなは快く頷いて、ご近所探索班は一部彼女に同行する。だが、一匹だけ気の乗らないものもいたり。それはエルレーン(ib7455)のもふら・もふもふだった。
(「正直、めんどくさいもふ〜」)
 けだるそうな顔がそれを物語っている。けれど当の主は、
「迷子のこねこちゃんよ…あぅ、かわいそうなの! さあ、もふもふ! こねこちゃんを見つけるの!」
 びしっと明後日の方向を指差して、気合十分で捜索に燃えているようだった。


 彼らの予想――それは妥当に考えて、狭い溝やら壷の中やら。あるいは木に登って降りれないか。誰から拾われたという事も考えられる。最悪の事態は考えたくないが、とにかくまずは聞き込みが先決だ。
 みっちゃんと共にその散歩コースに同行するのは、真夢紀と小雪、そして直羽だ。
「お願いっ羽九尾ちゃんっ! 後で好きな物奢るし、毛の手入れもばっちりしてあげるから!」
 そう拝むように言って、彼の猫又・羽九尾太夫には別行動をお願いするらしい。屋根やら隙間やら、ダイフク班同様猫にも聞き込みに回って貰うようだ。
「お願いなの」
 みっちゃんもそれに習って頭を下げれば、羽九尾太夫は優雅に微笑み路地へと消えてゆく。
「さぁ、じゃあ俺らも…」
「そうですね」
 迷子防止の為荒縄をつないで、小雪も意気揚々と探索を開始するのだった。


●じょうほう
「そう言えばあたいと綾香様と出会ったときは、綾香様がいきなりあたいの頭の上に飛び乗ってきたみゃね〜」
 道を歩きながらダイフクが言う。それ以来綾香様はそこが落ち着くのか、今日も頭に乗っている。
「それはダイフクがふらふらと迷子になって泣きそうな顔してたからニャ!」
 そう言ってぺちりと叩く猫パンチ。どうやら、保護者気分らしい。
「ひどいみゃ。あたし迷子じゃなかったみゃ」
 そう言うが、
「いーや、迷子だったニャ」
 と軽くあしらうのもお手のもの。実に楽しそうだ。しかし、
「ニャ!」
 勿論仕事の事も忘れてはいない。耳に入った野良猫の会話が引っかかったのか飛び降り駆け出していく。
「綾香様?」
 それにつられて、ダイフクも後を追って…その先では、
「白い子猫が猛スピードで駆けてたのを見たのかニャ?」
 綾香様が野良猫にそう尋ねる所だった。


 一方、ご近所聞き込み班の管狐二匹は得意の『狐の早耳』を実行し、辺りに探りを入れる。
「最近あたしの出番が多いのよね。今年はいい年になりそうだわー♪」
 煙から再び実態へ戻った後に柚乃の首に巻きつく伊邪那。
(「…ただの襟巻ですが」)
 そう思う柚乃であるが、勿論口には出さない。それに防寒の理由であっても好意がなければ巻く事はしないだろうし、そう考えればこれも愛情表現のひとつなのだろうか。
「どうだったのですか? 子猫さんの情報は」
 そんな彼女に少し首を傾げて柚乃が問う。
「野良猫も結構多いみたいだから、少し難しいわね」
 その答えに緩く肩を落とす。
 まだ季節は一月。路地を吹き抜ける風が身に沁みる。が焦っても仕方がない。
「何があったのでしょうか…」
 捨て猫という表現は嫌いだ。いらない子を連想させる。
(「きっと親猫に不幸があったとか…」)
 そう信じて、今は彼女を見つける事だけに専念する。
「何処かの母猫さんがみーちゃんを見て、我が子のように気にかけてくれていたらいいのですが…」
 みっちゃんから聞いたお気に入りの場所。そこに赴いていた二人だったが、残念ながらそこに子猫の姿はない。
「そんな顔しないの。まだまだ始めたばかりでしょ」
 それを察してが伊邪那が元気付ける。
「きっと見つかるわよ。こんな子、ほっとく訳ないじゃない…ねぇ、そこの野良。こういう子猫見なかったかしら?」
 今度はみーちゃんに姿を変えて、彼女が大型犬に問う。
「わぅ?」
 その様子に首を傾げた犬だったが、次の瞬間何を思ったか柚乃の方に飛び掛って――。
「きゃ!」
 思わず転倒しそうになった彼女だが、間一髪。
「何してくれてるのよ! このアホ犬!!」
 伊邪那の飯綱雷撃によってあえなく返り討ち。
 地面には柚乃がみーちゃんの好物だと聞いて手にしていた鰹節の袋が落ちていた。


 そして、露草も同様に鰹節を持ち歩いている一人である。
 そんな彼女らにも群がるもの――それが目当てなのか距離を取りつつ野良猫がついて来ているようだ。
「なんだか行列みたいになってきました」
 ちらりと後ろを覗いて露草が言う。
「そうですわね。けど、わたくしあのようなもの達と喋るなんてごめんですわ」
 だが、頼りの相棒はプイッと視線をそむけてしまう。
「どうしても駄目ですか?」
 そんなチシャをじっと見つめていると、
「おぬしが聞かんのなら妾が聞こうかえ?」
 そこへ颯爽と現れたのは羽九尾太夫。屋根からぴょんっと飛び降りて野良猫達に声をかける。
「ああっ、何てことするの、ですわ! わたくしの作戦がっ!!」
「作戦?」
 慌てて叫んだチシャの言葉を露草が復唱。
「そうですわ! じらしておいて聞き出してわたくしを褒めて…って露草が聞いちゃ駄目ですわ〜!」
 うっかり心中を暴露してしまい、赤ら顔で羽九尾の許へと走る。
「あらあら、チシャったら」
 そんな彼女を見て、露草はくすりと笑って、結果を待つ。
 すると、暫くして先に戻ったチシャによれば、
「見たって、ちっちゃい子。ここらで見かけない子だったから覚えてるようですわ」
「だが、教えてほしくばその鰹節を分けろと言うとるようじゃのう」
 それに続いて羽九尾も露草に報告する。
「わかりました。みーちゃんの為なら少しくらい問題ないです」
 そう言って袋から取り出し、集まっている猫達に配ってゆく。
「ここから西の通り三つ先。二人の子供に追いかけられていた…という事じゃ」
 そして話を聞き出せば、どうやら子供に追われていたらしい。それを複数の猫が目撃している。
「ありがとう」
 そんな野良達にも丁寧に礼言い、
「そんな事する事ないですのに…」
 とチシャは面白くなさそうだ。羽九尾はその様子に小さく笑うと、報告の為また姿を消すのだった。


「成る程、有難う」
 舞い戻った相棒を撫で直羽が言う。
「この位当然なのじゃ。それよりもおぬし極上の刺身を期待しておるぞ」
 そう言って彼女も満更ではなさげだが、ともかく報酬はきっちり頂くらしい。
「はいはい、わかっております」
 そんな言葉に苦笑して、
「という事は西の通りが怪しいですね。その進路は散歩道?」
 念の為真夢紀が問う。しかし、答えはノー。
「みっちゃんが行くのは長屋周辺だけ…おかーさんが遠くに行っちゃ駄目っていうから」
 とのこと。通りで見つからない筈である。
「西にみーちゃん行ったの?」
 彼女自身も余り行かないとあって不安が浮かぶ。
「うん、あっちに行ったのは確かみたいだよ」
 そんな彼女に答えたのは戻ったばかりの水月とコトハだった。


 これは二時間前に遡る。
 水月とコトハは大人の視点よりも子供の視点の方が低く、加えて猫や小動物に対する興味が高いと考え、子供に絞り聞き込みを開始していた。時折猫の鳴き真似をしながら、水月はコトハを頭に乗せて通りを歩く。
「なーなー、それ本物?」
 すると人妖を見たことがないのだろう。一人の少年がコトハに興味をもったようで話しかけてくる。それに水月はこくりと頷いて、言葉を返すのはコトハのお仕事。
「そーだよ! ボク、コトハって言うんだ。よろしくね」
 そう答えてにっこり笑顔で少年に挨拶する。
「すげー…」
 それに少年はびっくりしたようだった。
「ねえねえ、この辺で白い子猫見なかった? 耳の先がピンクでみーみー鳴く子なんだけど?」
 そこですかさずコトハが尋ねる。
「え…猫か。ここらじゃいっぱいいるからなぁ。けど、待って…仲間にも聞いてみる」
 彼は知らないようだが、代わりに誰か知ってはいないかと探ってくれるらしい。何件もの長屋を回って――一緒について歩けば、案外子供の方が情報網は広い。あっちへこっちへと移動が続き、始めの場所からは割と遠くまで来てしまっている。それに加えて、いちいちコトハに興味を持ちすんなりとはいかなかったが、二人は諦めなかった。水月は超越聴覚を使い抜かりはない。そして、ついに有力情報。
「私、見たよー。すごくちっちゃい子でしょ? 可愛くて撫でようとしたら逃げてったの」
「で、どっちに行ったの?」
 コトハが問う。
「幽霊長屋の方…あそこ怖いんだよ〜そこに駆けてったから追いかけられなくて」
「幽霊、長屋…」
 水月が小さく復唱する。
「そうか、うんありがとね。キミもずっと付き合ってくれて有難う」
 その言葉に少年も笑みを浮かべて会釈してみせる。
「コトハ…一旦、戻ろ……」
「うん、そうだね」
 そう交わしての帰り道。その途中で何やら賑やかな二人組。目を凝らせば、エルレーンともふもふのようだ。
「ちょっといい加減入ってよ。出ないといつまで経っても進まないでしょ!」
 店と店の隙間の前でエルレーン。
「え〜?! だってここ暗いもふよ。それに汚いもふ」
 とそれに反論を浴びせるもふもふ。
「でも、もしこの奥にこねこちゃんが居たらどうするの! 見てこなきゃわからないでしょ」
「けどけどそんな所は入ったら我輩のふあふあの毛皮が汚れるもふよ!」
 喧嘩漫才のような光景に思わず歩みを止めてしまう。
「行ったらご褒美あげるっていっても駄目?」
「本当もふか〜? けどなんか怪しいもふ」
 落ち手前、下手に出た彼女を疑って返されたのはやはり実力行使。
「…うるさいぃ、行っけえぇぇ!!」
「もぎゅー!」
「ママーあれ、何してるのぉ?」
 通りすがりの子供がそう尋ねたが、親は声を潜めてその場をそそくさと立ち去るのだった。


●でばん
 情報を共有する。そういう訳で、一通りの聞き込みを終えて戻ってきた彼らは全ての情報を総合し、幽霊長屋へと向かうことを決意した。そこはその名の通り、幽霊が出そうな位立地が悪く日が当たらない場所で、今は人は住んでいないのだという。
「これは確かに怖いです」
「ほんとにここにいるのー」
 腕の中で小さくなって小雪と真夢紀が言う。
「けど、ここらに来たのは間違いないみたいみゃ。綾香様情報だから確実みゃ」
 そこに確信めいた口振でダイフクが付け加える。
「ふふふ〜、となるとここは桃の出番ね!」
 そこでずっと沈黙を保っていた桜がずいっと前に出た。
「桃ちゃのお鼻で探すの?」
 その様子を見てみっちゃんが問う。
「そうよ。さっきまでも頑張ってくれてたんだけど人が多くてうまくいかなかったのよね。けど、ここなら人も少ないから匂いの選定もしやすいし…できるわよね、桃?」
 そう言って優しく撫でると元気よく桃も返事を返す。
「じゃ、これ」
 そこで手渡されたのは預かってからずっと使っているという毛布だった。
「桃しっかり覚えるのよ♪」
 そう言って匂いを覚えていざ出陣。皆を引き連れてくんくん長屋の方へと踏み込んでいく。そして、
「わんっ、わんわん!」
 ある長屋の中――竈の前に来た時桃は激しく吠えた。
「ここみたいよ」
 それが発見の合図のようで桜もその場で立ち止まる。しかし、家庭用とはいえ竈の中は暗く見え辛い。
「出てくるニャー、もう大丈夫ニャ」
「そうじゃ、さっさと出てくるといいのじゃ」
 そう呼びかけるが、どうしたことか一向に顔を出さない。
「まさか…じゃないよね?」
 そこで過るのは最悪の結末。しかし、気配は確かにそこにあり生体反応も僅かにある。
「みー…」
 そして、声がして、一行はほっと息を吐く。
「どうやら怖いみたいニャ。いきなり沢山の人が集まってて怯えてるニャ」
 助けに来たというのに、まだ幼いみーちゃんにはそれが判らないらしい。ここは、慣れたみっちゃんに任せるべきなのかもしれない。けれど、
「行かないで。みっちゃんも怖いのぉ…」
 暗い長屋とあって怖がりみっちゃんとしては一人は無理のようだ。
「困ったなぁ、こうなるとどうしたら…」
 そう呟く仲間に彼女も察して、
「もふらさま、いてくれるなら出来ると思う」
 泣きそうなのを堪えて言葉する。そういえば今日はあのもふらの人形は抱えていない。急いで探しに出たのだろう。そこで注目をされるのは勿論――。
「もふ?」
 黒くなった身体を見つめて居心地悪そうにしていたもふもふさん。
「やったね、もふもふ。今度こそ頑張るのよ!」
「もふ!?」
「もふらさま、お願い。みっちゃんにちからをかして…」
 ぎゅっと抱きしめられて、訳が判らぬまま話が進んでいく。そこで二人に任せて外に出る事十数分。
「もっふーーーー!??!?」
 なぜだかもふもふの悲鳴が上がり、その後から子猫を抱えたみっちゃんが姿を現すのだった。


「皆さん、お疲れ様でした。大した物はご用意できませんがゆっくりしていって下さいね」
 みっちゃんの長屋に戻った一行を待っていたのは温かな鍋。
 皆の疲労を考えて、ささやかながらみっちゃん母が用意してくれたらしい。問題の子猫は安心したのかいつもの毛布に包まり穏やかに眠っている。
「少しミルクをしゅましておいたので落ち着くのかもしれません」
 乳離れはしているとはいえ、それでもまだ幼い子猫にはミルクの香りが落ち着くのだろう。いきさつを聞けば、何の事はない。みーちゃんは散歩の途中で白い猫を見たのだと言う。
「もうっ! そんな事で迷子になっちゃうなんて駄目駄目ちゃんでしてよ!」
 そう叱ったチシャがいたが、親猫と見間違ったと聞いては頬を膨らます他ない。そして、見失った直後に遭遇したのは元気なお子様達で。いきなり追いかけられて必死で逃げて行き突いた先があそこだったようだ。
「けど、大事無くてよかったです」
「しんぱいかけちゃだめなの〜」
 そう言ったのはあの二人。同じ位の猫に諭されてはしゅんと頭を落とす。
「そうだぉ。みっちゃんも心配したんだから!」
 そして、この子も。めっとちゃんと言う所が成長した証かもしれない。そんな彼女を暖かく見守る直羽。
「おにーちゃん、おねーちゃん…みんなありがとなの〜」
 それに続いてみっちゃんが礼儀正しくお礼を述べる。
「いいのよ。こねこちゃんもみっちゃんも笑顔になったんだし。ねー、もふもふ」
 エルレーンの言葉にしかし、もふもふは少しイジケ気味だ。それというのも、あの後何があったのかと言えば、答えは簡単。尻尾を叩かれたのだ。
 みっちゃんがもふもふを抱えるようにして竈に歩み寄れば、おのずと尻尾が垂れ下がる。それを目掛けて子猫は飛び掛ってきたのだ。後から聞いた話では、みっちゃんのぬいぐるみも実は修理中との事。あの尻尾がどうやら子猫は気になるらしい。
「言わなくてごめんだったの〜」
 そこで何度も謝るみっちゃんだが、若干のトラウマになったもふもふである。
「ほら、煮干あげるから、ねっ」
 そういうエルレーンに仕方なく絆されて、近寄れば視線はしかし子猫の方で。
「…もふっ!」
 僅かに毛を逆立てているのだった。