【妖精】皆、おいでませ
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/14 00:42



■オープニング本文

●白い妖精はどこに?
 寒い季節に現れるという「白い妖精」の話は、開拓者ギルドでも評判となった。
 開拓者ギルドに勤める若い女性は、特に「素敵な出会い」がお目当てである。
 彼女たちもまた、妖精発見の報告を待ち望んでいた。
 ギルドには、知恵と工夫を凝らした依頼がいくつも貼り出される。
 美しい景色を探すもの、楽しい雰囲気を演出するもの‥‥内容はさまざまだ。
 さらに貼り出される場所もさまざまなので、偶然にも新しい何かが見つかるかもしれない。
 そんな期待までもが膨らむ「白い妖精」の探索となった。


●冬は囲炉裏で
「寒いにゃ〜」
 ボロ屋には隙間風が流れ込み、そこかしこから冷気が忍び寄る。
 一応ご主人の家には囲炉裏があるから、その近くに陣取ってぬくぬく暖をとるのがおいらのお気に入りにゃ。けれど、そんな時に限ってお客さんが現れて、おいらの幸せのお邪魔虫。

「なぁぁお」

 おいらの天敵――ご主人の昼寝友達?
 この凄く寒い日になんでやってきたのか庭側の戸の前で声をかける。

「ごまふか。ご苦労なこったな」

 それに気付いて面倒臭げに戸を開けるご主人。おいらが相手だったら、玄関に回れと促すくせに、相手がセレブ猫となると対応が違う。とはいっても可愛いくて役に立つのはおいらだし、そこまでおいらも子供じゃないから見て見ぬフリ。がらりと空いた戸からは予想通りさむさむな空気が舞い込んで、思わず身を縮める。

「? これはなんだ?」

 そんなおいらを余所に、ご主人はごまふを抱き上げると首についた紙切れに目を向けた。

「なぁぁお」

 そして、それに答えたごまふの言葉を不本意ながらおいらが翻訳する。

「ご主人。それ‥‥ごまふのご主人からの手紙で、ご主人に頼み事らしいにゃ」
「頼み事だと?‥‥全く面倒だな」

 そしてごまふを下すと、囲炉裏の傍に座り手紙に目を通す。

「何の依頼にゃ?」

 それに乗じて、おいらは素早くご主人の膝を占拠した。
 いつものご主人なら追い払うだろうけど、今は冬。おいらの体温が暖房代わりになるようで、追い払いはしにゃい。それを判っているから、久々のご主人の膝を堪能する。

「‥‥全く厄介な依頼だな」

 しかし、おいらのご機嫌とは裏腹にご主人の顔色は暗い。

「どういう依頼にゃ?」

 それが気になっておいらが尋ねる。

「見ての通りだ‥‥なんでも白い妖精とやらを見たいから如何にかしろだと。そんな御伽話を信用するとは‥‥金持ちの考えはわからん」

 そういえば聞いた事がある。最近巷で噂になっている奴だ。

「具体的にはどうするにゃ?」
「ジルベリアにある別荘の敷地でかまくらをつくれという事らしい。そこで宴会を開いて、その妖精を呼び寄せようってはらだ」
「かまくらにゃ? お外出るにゃ?」

 場所がジルベリアと言う事はつまり‥‥一面銀世界が予想される。しかもかなり深いハズ。
 そうでなければかまくらなどできないはずだが、しかし寒さも半端ではない。

「寒いの嫌にゃ‥‥けど、妖精しゃんは気になるにゃ」

 寒さと好奇心――その狭間でおいらの天秤が上下する。

「‥‥くそっ、面倒だが行くか」
「え?」

 けれど、ご主人の決断は早かった。

 絶対嫌がりそうなご主人なのに即答とは! 明日は嵐かもしれにゃい。

「ないんだよ、もう」
「へ?」
「もうじき備蓄した食糧が尽きる。その前に如何にかしないといかんだろう」

 全く表情を変えずにご主人が言う。

「そうなのにゃ? 正月のおせち代くらいは?」
「んな贅沢品は買えん。だがこれで稼げば別だが‥‥」
「やるにゃ! やるしかないのにゃ!!」

 その答えにおいらが今度は即答する。

「そうか、よく言った。重労働になるが頑張れ」

 しかし、次のご主人の言葉に一瞬目が点になる。

「それは、まさか‥‥おいらだけ行け、とかいうパターンにゃ?」
「勿論だ。俺の分はなんとかなる」

 ごそごそと押入れを探して酒瓶を取り出しご主人が言う。
「ごしゅじぃ〜〜ん‥‥そのお酒は」
「昨日買った。なかなかの一品だ」

 その言葉においらの怒りが爆発した。
 切り詰め切り詰め頑張っているおいらを盗んで無駄遣いとは‥‥。

「喰らうにゃ! 正義の鉄槌! 猫キィックーーー!!」

   げしっ

 ご主人よりも早く蹴り出して――おいらは仲間集めの為にギルドまで。
 残されたご主人の横には、呑気に欠伸をするごまふの姿があるのだった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
若獅(ia5248
17歳・女・泰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
フラウ・ノート(ib0009
18歳・女・魔
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
刃兼(ib7876
18歳・男・サ
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●いざ、かまくらのその前に
 白い妖精を求めて――かまくら作りを請け負った開拓者達は今、空にいた。
 ごまふの飼い主がチャーターした飛空船。それに乗ってジルベリアの別荘を目指している。

「ポチ、お久し振り!」
「相変わらず大変ねぇ」

 そんな中、見知った顔がポチを抱き上げる。久方振りの再会とあって、若獅(ia5248)も紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)も自分の相棒そっちのけだ。

「もふ〜! もふ龍も撫で撫でしてほしいもふ〜!」

 その様子を見取って、ご立腹なのは紗耶香のもふらのもふ龍さん。

「うちは別にかまへんどすぇ。えぇえぇ、別に気にしまへん」

 そう言葉にし必死で取り繕うのは若獅の人妖、黄・雀風(ホァン・クーフェン)。見かけは淑女であるが、物言いが何処か幼い。

「ふふふ、あれでは寂しいのが見え見えなのじゃ」

 それを遠目に何時も持ち歩いている酒を引っ掛けながら、もう一人の人妖・蓮華が羅喉丸(ia0347)の肩でご機嫌に呟く。

「雪か‥‥どんなものか楽しみだな」

 一方では揚州出身の刃兼(ib7876)が膝に猫又のキクイチを乗せて、静かに期待を膨らませていた。

「刃兼ちゃん、雪知らないの? すごくキレーなんだよ!」
 
 そこへぱたぱたと駆け寄って楽しげに話すのは、ジルベリア出身で名前にも『雪の妖精』の意味を持つルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)だ。寒いのか今はまるごとじらいやで完全防寒体勢である。その横では、白の体毛に緑の鬣の霊騎・ダイコニオンが彼女を見守っている。

「わーこっちにも猫又さんがいるんだね〜! 男の子みたいだし、くれおぱとらのぼーいふれんどになってくれないかなぁ?」

 するとそこへポチへの挨拶を終えた石動神音(ib2662)がメスの猫又・くれおぱとらを抱いて現れる。

「妾の婿は妾が決める。口出し無用よ!」

 しかし、当の本人は乗気ではないようで知らん振り。その視線の先では、わんこのような駿龍・シャリアが主のウルグ・シュバルツ(ib5700)を囲むように体を寄せている。

「寒いのはわかるが、これは何でも‥‥」
「くるる?」

 切ない声を返されて苦笑を浮かべるウルグ。蛇がとぐろを巻くような状態とあって、全く身動きが取れない。

「我の暮も駿龍。よろしくお願いします」

 そこへ同胞を見つけたりと嶽御前(ib7951)が龍共々丁寧に挨拶した。けれど、シャリアが人見知りとあって素早く顔を隠してしまう。

「ほほぉう、ごまふさん、ってゆーのね。ごまふさん♪」

 そんな中で唯一依頼者達の方に興味を持ったのはフラウ・ノート(ib0009)だった。丸々と太ったごまふの姿をじっと見つめる。

「フラウ、丸いからって饅頭に見えてるんじゃねぇのか?」
「ち、違うわよ!」

 そこに茶化すように服の中から顔を出して、彼女の猫又リッシー・ハットがにたりと笑った。どうやら主共々寒いのが苦手らしく、寒さに対して共同戦線を張っているらしい。

「いいね〜。今回もキミきゃわうぃいいねぇ〜的美少女揃いじゃんー! これならば勝るっ!」

 船の最後尾、皆が見える位置に陣取って村雨紫狼(ia9073)はどこか妖精と言う言葉に懐かしさを覚えつつも、目の前のロリッ娘達に今日も目を輝かせている。

「マスター、ミーアも見て欲しいのですぅ☆」

 ――と突如現れた己の美少女土偶ゴーレム・ミーアに大胆に抱きつかれて、色んな意味で天国を見る事に彼なのだった。


●雪の落とし穴

「ぬあああ、本当に一面真っ白でありんす〜。寒いでありんす寒いでありんす〜けどすごいで」

   ずぼっ

 飛空船を降りた直後の事。目の前に広がる銀世界にキクイチのテンションはMAXを超え、飛び出した先で思わぬ洗礼を受ける事となる。
 雪深い大地――積もり積もった雪に足を捕られたのだ。目の前には見事にキクイチの猫型が形作られている。

「ほう、これが銀世界か。きれいなものだな」

 羅喉丸もあまり雪には馴染みが無い様で目の前の世界に感嘆の声を漏らす。

「はははっ、はしゃぎすぎだぜっ。おまえんとこの猫又はよぉ」

 そう言って慎重に踏み出す紫狼だったが、

「マスターは今回唯一のアラサーなのです。だから寒さには弱く慎重に‥‥ってやーん」
「おわぁぁ」

   ずどーーん

 何やら解説めいた言葉を発していたミーアのすってんころりんによって、雪の海へと超ダイブ。かなり奥深くまで身を落とす事となって、慌てて雪の中を見回すミーアに紫狼の声――。

「おまえ、どじっ娘も大概にしろよ! それに俺はまだ若いんだブルワアア!」
「キャー、マスター! 誰ですか、それー!!」

 などとお戯れ。一同見下ろし笑顔が絶えない。

「それではお願いしますね」

 そんな皆に一礼して、早々とごふま達が屋敷の方へと帰ってゆく。

「ちょっと待ちな。一抹の旦那」

 それに混じって仕事をさぼろうとしていた一抹だったが、若獅の手に捕まって静かに溜息を付くのだった。



 足元の装備を失念していた彼らだったが、かんじきを履いて早速作業に入る。

「この辺など如何でしょう?」

 料理を運ぶ事を考慮して紗耶香の提案で場所は屋敷のすぐ横――調理場からも近い所に決定する。

「もふ龍はこれを運べばいいもふか?」

 にこにこ笑顔でそう言って、一般的なもふらは怠け者のイメージがあるが、このもふらにはそれは当てはまらないらしい。辺りの雪をそりに乗せ、所定の場所に運ぶのを手伝っている。

「楽ちんにゃ〜」

 その上ではぬくぬく毛皮の上でご機嫌なポチの姿があったり。

 さてかまくら作りには、主に二つの方法がある。
 作りたい大きさの外周を足で踏み固めたその後に、一つは雪で小山を作りくり抜く横穴式。そしてもう一つは手間がかかるが安全だと思われるブロックを作って組み立てるブロック式だ。

「神音はぶろっく式でいくのだよー!」

 そう宣言して用意してきた木箱に雪を詰める。だがしかし、慣れない作業に四苦八苦。雪は見た目よりも重く、かんじきを履いても雪の足場に思うように動けない。

「わわわっ」

 うっかり足を捕られた彼女だったが、

「暮、お願いします」

 と一声かけた嶽御前のおかげで大事には至らない。すいっと尻尾を延ばして暮が彼女の体を支えたのだ。

「わぁ、ありがとだよ」

 そう言って身を起こす彼女に嶽御前も和やかな笑顔を返す。

「我も雪は慣れないゆえ、気をつけてまいりましょう」
「そうだぜ。神音たんの怪我は見たくない」

 するとそこへ便乗して声をかけたのは焚き火前の紫狼だった。

「もう、そういうなら作業手伝ってよー!」

 暖を取りまったりしている彼に向かって神音が叫ぶ。

「いや〜俺の代わりはミーアがやるからさっ。俺って最年長やん! 皆の作業を見守りつつ、大人な気配りをする為に許可は貰ってる訳よぉ。だから、疲れたらいつでも歓迎だ。今もほれ、特製のお汁粉を‥‥ってげ!」

 鍋にたっぷりと作っていた筈のそれが半分ほどなくなっているのに気が付いてはっと辺りを見回せば、すぐ近くでそれを食す一抹の姿がある。

「おっさん、それは俺が愛を込めて作った特製の汁粉なんだぜ!」

 そう訴えても一抹は何処吹く風。

「おっさん!」

 更に声を張り上げて言う紫狼に彼の言い分はと言えば、

「おまえアラサーとか言ったが、俺はアラフォーだ。よって俺の方が年上。だから俺を敬え」
「あぁん?」

 よくわからない理屈を並べて、一抹は何杯目かの汁粉を啜り始める。

「ご主人はほっといた方がいいにゃよ。言って無駄なのにゃ」

 そこへ通り縋ったポチが助言して、

「そうか‥‥まぁいい。じゃあここは頼んだぜ、おっさん!」
「ああ」

 気持ちを切り替えると、紫狼は再び大地を踏み締める。

「やったー! マスターも手伝ってくれるのですねー、嬉しいですぅ☆」

 だが、またしても現れたミーアに抱きつかれて…紫狼は二度目の雪原に身を埋めるのだった。



 一方その頃、横穴式に挑むグループは――地道な作業が続いていた。
 雪を掻き集めるのは大型朋友の出番である。シャリアはウルグの力になりたくて、健気に辺りの雪を尻尾で掻き集めている。

「雪に塩を入れると固まりやすいと紗耶香が言ってたな」

 ある程度ドーム型になってきたので、固めに入ろうとウルグが言葉する。

「俺は盛り切ったら一晩寝かせて天蓋部分は湯をかけて凍らせれば頑丈になるって聞いたぜ?」

 すると若獅も情報を持っているらしく意見を述べる。

「折角だ。どっちもやってみるか」

 ――とこれは羅喉丸。ドームの上で踏み固めつつ言う。

「もしそれで駄目なら、あたしのフローズで一発ですわ」

 そこへフラウも現れて、なかなか順調のようだ。

「ふむふむ、形になってきたようのじゃの」

 それを傍観するのは人妖二人。なんとなく出来た雪の山に座って各々で作業を眺めている。

「おぬしも飲むか?」

 その誘いに雀風は微笑を浮かべて、

「よろしいどすか? あんたはん可愛らしいし、嬉しいおすわぁ」

 そこで蓮華が何かに気付いた。美人で雅な言葉遣いの彼女。
 しかし、何かが違う。雰囲気? 匂い? その正体を薄く感じ取って尋ねてみる。

「まさか、御主は」
「へぇ、男どすぇ」
「なんとっ!!」

 思わぬ衝撃発言に蓮華は驚きを隠せなかった。


●仕上げは美しく
 数日作業を続けて――朝夕雪が降る為折角作ったかまくらが翌朝には雪に埋まり、雪払いという余分な作業を強いられる。そこで意気揚々と現れたのはくれおぱとらだ。

「妾の力、とくと見よっ!」

 かぁぁと目を見開いてスキル・黒炎波を発動しようとした彼女だったが、一向にそれは現れない。冷たい風だけがその場に流れている。

「あれはきっと活性化忘れてるぜ」

 それを見取ってぼそりとリッシー。

「ちょ、駄目でしょ。そういう事は言っちゃ! えっと‥‥くれおぱとらさん。調子悪いようね」

 聞こえていないか不安になりつつもフラウがフォロー。そこへ、

「そうですね。では、お湯を用意致しましょう。それで溶かしつつ作業通路を確保すると言う事で、一抹さんお手伝い下さいませんか?」

 ――と嶽御前がぼんやりしている彼を捕まえて、スキル・火種を活用し湯作りに取り掛かる。彼女はここ数日お風呂の用意も手伝っていた。作業の後の一風呂‥‥自分も疲れているだろうに気遣いを忘れず、よく働いている。
 そんなこんなで予定日までには十分間に合いそうだ。そもそも進行状況を見計らい、ごまふ側が機を見て知人達に招待状を出したようで抜かりはない。

「もう少し、もう少しなの」

 小柄なルゥミは率先して横穴を掘る作業をかって出る。
 真横に掘るのではなく、少し斜め上に掘る事が重要――その忠告を守り、少しずつ掘り進んでいく。しかしこの作業――踏み固めが緩いとすぐ崩れてしまう為危険が伴なう。掘る傍ではダイコニオンが掘り出した雪を更に外へとかき出しているようだ。

「大丈夫か?」

 それに刃兼も付き添っていた。キクイチは作業三日目とあってもまだはしゃいでいるようで、よく言う『猫は炬燵で』理論は当てはまらないらしい。それでも楽しんでいるのならと自由にしているようだ。

「もう少しでいけそうだよ!」

 小さな体を雪だらけにして彼女が刃兼を振り返る。――と、その時だった。

「ずんずん掘れるでありんす〜っておぴょ! ルゥミに刃兼、どうしたでありんす?」

 ルゥミのすぐ近くの床になる部分からもぐらのように顔を出して、キクイチが目を丸くする。

「まさか‥‥おまえ雪原の中を進んでいたのか?」

 突如現れた相棒に苦笑しつつ刃兼が問う。

「そうでありんすよ! 中も真っ白で面白いでありんす!」

 それに答える彼に、

「へぇ、すごいね。あたいもずっと掘ってるんだよ」

 とルゥミも興味津々の様子。

「じゃあ、わっちも手伝うでありんす」

 そう言って抜け出して、彼女の横でお手伝い――仕事と言えど、存分に楽しんでいるキクイチであった。


 そして作業最終日。かまくら自体はほぼ完成。
 人が三、四人は入れる程度のかまくらが複数立ち並び、最後の仕上げに取り掛かる。

「それではいきますわ! フローズ!」

 フラウが魔導書を開いてスキルを発動。それらを強固なものへと変えてゆく。

 サボっていた筈の一抹でさえ知らぬ間に一つ、小さいものではあるが完成させている。

「うっしゃあ! 折角だからツリーも作ろうぜ!」

 季節はもうすぐクリスマス――紫狼はミーアにモミの木を切らせる。

「俺は雪像でも作っておくかな。ポチ、そこを動くなよ。モデルになって欲しいんだ」

 そう言って雪玉を作り始めるのは若獅だ。次々と作り始めてはいるが、なんとも芸術的でいささか理解しがたい。

「ん〜これは犬か?」
「いや、兎じゃろう?」

 そんな雪像を眺めながら、首を傾げる羅喉丸と蓮華である。
 他にもお楽しみを増やそうと、皆終日まで作業をやめないのであった。


 さて当日は朝から厨房は大忙し。お昼前の開催に向けて料理人達が慌しく動いている。
 場所がかまくら内とあって、そう多くのものは持ち込めない。それでもセレブっぷりをアピールするように豪華食材が並んでいる。

「本当にいいんでしょうか‥‥」

 それを手伝う為、厨房に来た女性陣は用意されていた食材に呆気にとられていた。高級海老を始め、蟹に鮑に鯛に鮟鱇。それも獲れた手のものが並べられ、野菜も鮮度は抜群である。

「すごいわ、これは凄いものができそうね」

 料理人である紗耶香の傍で鍋作りを手伝うフラウから思わず言葉が零れる。

「粕汁作ろうと思ってる神音が空しくなってくるよ〜」

 酒粕とて妥協しないらしく超高級銘柄の物が用意され、格差をまじまじと痛感する。

「まあ、いいじゃねぇか。提供してくれるってんだし、いっちょ頑張ろうや」

 その言葉に皆頷いて、調理場が可動し始めれば徐々にいい香りが漂い出して、

「妖精来るといいですね」

 手を動かしながら誰かがポツリと呟いた。


●舞い降りたのは

   ひゅ〜〜どんっ どんどんっ

 晴天の空の下、ごまふ飼い主プレゼンツかまくらパーティーの幕が開く。
 白い妖精を見たい。主催者はそうであったが、招待客の半分以上はかまくらと料理が目的のようで各々に楽しい時間を過ごしている。

「あら、かわいい。雪玉みたいねぇ」
「ありがともふ〜」

 訪れたマダムに撫でられてもふ龍は上機嫌。こちらではもふらは珍しいのかもしれない。人だかりが出来始めている。

「よしよし、悪いな‥‥シャリア。けどいい機会だ、もっと人に」
「くるる」

 慣れようなと言いたかったが、不安げな声を上げられてはその言葉を飲み込むしかない。朋友用に作った大き目のかまくらでウルグが微苦笑を浮かべる。

「おいらだったら怖くないかにゃ?」

 そう言ってポチが背中に飛び乗った。そして、首を滑り台代わりに滑って見せる。

「ああ、大丈夫だろう」

 その様子を見取ってウルグは料理を取りに移動した。するとそこには、熱心に料理を食すフラウ達の姿がある。

「どの料理もおいしいわ〜♪ 特にこの鍋‥‥良いダシ出てるし、しっかりとした味が食材に染込んで馴染んでる」

 目の前にあるのはトマト鍋。真っ赤な色のその鍋がうまいらしい。彼女の横では、餅と格闘しているリッシーの姿がある。

「喉に詰まらせるなよ」

 そんな姿を見てくすりと笑うとウルグは手近にあったパンを手に取って、シャリアの元へと急ぐ。

「いい。これはブイヨンがポイントなのよ」

 すると別の方では饒舌に喋る猫又が。

「そうか、ぶいよんだね。けど、ぶいよんって何?」

 どうやら神音とくれおぱとらのようだ。ジルベリアの料理を覚える為、自称グルメの相棒の解説を真剣に聞いている。

「それは確かルゥミさんが作られていた筈。彼女にお聞きになっては如何ですか?」

 そこへ暮と共に嶽御前が現れて、助言すれば早速彼女を探し始める。しかし、

「あれ、いない?」

 それを不思議に思い首を傾げたその時だった。 

『あれは、妖精!』

 暗くなり始めた頃の事、屋敷の屋根の上に妖精と思しき姿の少女が舞い降りる。
 キラキラ輝くドレスの裾を翻しながら、背中の真っ白い羽を羽ばたかせ優雅に舞う。それに合わせて、音楽が奏でられると彼女はくるくると踊り始めた。その光景はなんとも幻想的で‥‥かまくらに篭っていた者達も、自然と外に呼び寄せられる。

「綺麗だ」

 口々にそんな言葉が零されていた。

「妖精に願いをか」

 それを見つめて、羅喉丸も魅せられたように呟く。

「幼いゆえに、なかなかの趣向じゃな」

 肩にはやはり蓮華が座して、同じようにそれを見つめている。

「く〜サイコーだぜ! ルゥミたん、マジで妖精じゃん!!」
 
 周りはまだ気付いていない者もいるようだが、紫狼は見抜いているらしい。そう、あそこで踊っているのは他でもないルゥミなのだ。どうせならと彼女は妖精に似せた衣装を用意していたらしい。

「あ、あれは‥‥」

 そんな想いに奇跡が起きた。
 ルゥミの踊るその傍に輝く光。遠目であるからはっきりとは判らないが、蝶々位のサイズのそれが彼女と共に舞い始める。

「おぉ! これはこれは」

 ある者は誰かの仕掛けだと思ったかもしれない。しかし、それは仕掛けなどではなく本物の妖精――夕日が地平線に消えゆくほんの一瞬だけ。それは存在していた。


●そして、宴会はフィナーレへ
 吹雪く前にとすぐさま作られていた氷灯籠に火が灯され、昼とは違った雰囲気を皆に提供する。
 次から次へと運ばれてくる料理の中には、手軽につまめる物も多い。若獅の肉まんなどがいい例だった。寒い地方とあって、先程ウルグが手にしていたパンには香辛料をきかせた餡を詰められており、冷えた体を温める効果があるのだという。中でもかまくら内で食べられる紗耶香提案のチーズフォンデュは人気があった。

「熱々だからやけどしないようにね」
「わかってるもふー!」

 濃厚なチーズを鍋で溶かして野菜をつけたり、パンをつけたり。セレブマダムが買い込んでいた切り餅も七輪で焼いた後チーズにつければ、天儀とジルベリアのコラボ料理の完成である。そして、ルゥミ作のロールキャベツ(本来はカーリカーリリートと言う様だが)にもこのお餅が一役かう。シェフのお遊びでお肉と一緒に巻き込んだものを作っていたらしい。それが煮込まれると餅は溶け、肉と絶妙のハーモニーを奏でセレブさん達の舌を唸らせたようだ。

「なぁ、ポチや一抹の旦那の幸せってどういうの?」

 何処か寂しげに一人酒に老け込んでいた一抹を見つけて、ポチを抱えて現れた若獅が尋ねる。

「さあな。それは人それぞれだろう」

 けれど、一抹の態度は素っ気無かった。だが、それでいい。別に答えて貰えるとは思っていない。

「あぁ、そうだな。俺は雀風や仲間と一緒に笑ったり共闘したり‥‥皆とずっと一緒にいられること、かな‥‥」

 ただそう言ってポチを一抹の膝に返す。

「いいと思うにゃよ。おいらも皆がいれば幸せにゃ」

 その代わりにポチが答えて、にこりと笑って見せる。

 その言葉にどこか納得すると若獅は雀風を呼び寄せ料理を取りに消えてゆく。

「うにゃ?」

 よく判らないポチだったが、一抹は何か察したように黙ったまま彼女を見送っていた。
 


 長いようであっという間だった。帰り支度を整えて皆飛空船に乗り込む。
 白い妖精――一体それが何であったかはわからない。しかし、彼らは目撃した。
 キラキラ光る小さき者を‥‥それを一番実感したのはルゥミだろう。

「妖精さん、ありがとう!」

 舞を終えたその後に彼女の耳元には輝くものがあった。それは妖精からの贈り物。
 スノードロップの花の可愛らしい耳飾りだ。それをキラキラ好きのくれおぱとらは羨ましげに見つめて、「駄目だよ!」と神音から注意されていたりする。

「や〜妖精は見れたし、うまい飯に土産まで貰って万々歳だったな!」

 作業の疲れは何処へやら、余ったらしいと餅を頂きながら小さくなるかまくらと屋敷を見下ろして、皆思い思いに帰路につくのだった。