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■オープニング本文 ふんふ、ふん ふんふふん♪ 鼻歌まじりに男――新海明朝は支給品の鍋蓋を磨く。 部屋の棚には数十枚の鍋の蓋が重ねられ、そのどれもがきちんと手入れされているようだ。 最後の一枚を研き終えて新海は日課となっている運試し、もとい支給品受け取りの窓口に向かう。 「あら、今日はご機嫌ですねっ鍋の人」 冗談混じりの受付嬢に新海も軽く対応する。 「何さ〜その言い方。昨日は久々に梅干しの人だったさね」 「あら、じゃあ連続記録は二十三でストップですか?」 「いや‥‥二十八の間違いさね」 にやりと自慢の笑顔を見せて、新海は実に爽やかに笑ってみせる。 そんな彼の下に現れたのは馴染みの顔――以前の事件での依頼人兼発端者の鍛冶屋の男である。 「新海ぃ〜今日はどうだったんですかい?」 今日の結果が気になったのだろう。半ば駆け足でこちらにやってくる。 「さぁ、じゃあどうぞ」 新海は促されて、抽選の袋に手を入れた。そして、 「そりゃ」 掛け声と共に引き当てたのは――やはりいつものソレだった。 「は〜いでは、鍋の蓋の獲得回数の記録更新おめでとうございます〜」 どこから取り出したのか、新海に紙吹雪を降らせる受付嬢。 「そうだ、鍋の蓋に愛されてる新海さんにとっておきの情報を教えてあげましょうか?」 「何さぁ?」 いきなり顔を近付け覗き込まれて、新海が首を傾げる。 「実は最近見つかったらしいんです! あの伝説の剣豪が使ったっていう鍋の蓋が…」 「ななっ! 伝説さねっ!! それはすごそうさぁ〜」 「ふふふ、そういうと思って調べておきましたから、よかったら行ってきたらどうですか? 今、展示されてるそうですよ」 可愛くウインクをして、娘がメモを差し出す。そこには走り書きで場所が記されている。 「ありがとさねっ。早速行って新しい鍋蓋の使い道を模索して‥‥」 そう言いかけた新海だったが、近くから伝わる冷めた視線に気付き、言葉を詰まらせる。 「‥‥何さ、その目は‥‥‥そんな目で見なくても大丈夫さね。見に行くだけだし、それにもうあんな無茶な鎧は使わないさ‥‥ちゃんと研究して試作して‥‥防具としては使えない事は重々承知してるさぁ〜」 しどろもどろになりながら身振り手振りで説得を試みる。 「本当ですかい? あの時の二の舞はやめて下せぇ〜よ」 「もっ、もちろんさね」 釘を刺されて、新海が明らかに動揺しつつ返答した。 「えぇ? ないってどういうことさね!」 伝説の鍋蓋を求めてやってきた新海だったが、現地に着くとそこには困り果てた管理人の姿しかなかった。 話によれば、どうやら盗賊に入られ盗まれてしまったようだ。犯人は二人組だったらしい‥‥警備の者が追い駆けたが間に合わず山の方に消えたという。 「ここらの山は険しいでぇ〜、まだそう遠くには行ってないと思うんだけぇ、あんさん開拓者ならその犯人捕まえてくださらんでしょうかぁ?」 なまりのキツイしゃべり方で頼まれて、新海は決意する。 (「これは俺の為にあるような依頼さね! やらなきゃバチがあたるさぁ」) 勝手の思い込みに後押しされて‥‥。 「よっしゃ! この鍋蓋の申し子・新海明朝にまかせるさぁー!」 新海は力強く快諾する。 (「人相手なら、この新開発・試験済みの鍋蓋製のくない・新型が使えるはずさ!」) 自信作らしいそのくないを握り締め、新海は仲間を集める為ギルドに向かうのだった。 |
■参加者一覧
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
星乙女 セリア(ia1066)
19歳・女・サ
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
ガルフ・ガルグウォード(ia5417)
20歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
かえで(ia7493)
16歳・女・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●再会 「あんたら‥‥あの時の親切な人達」 ギルドから人数が集まったと連絡を受けて、やってきた新海は集まった顔触れに見知った顔を見つけ、目を丸くする。それもそのはず、前回の事件を手伝ってくれたメンバーがなんと四人もいたからである。 「どもっ」 素っ気無く挨拶する只木岑(ia6834)に続いて、他のメンバーも軽く自己紹介を始める。 「新海さん、あなたのさねーに偽物ですわ」 さっきから岑を見つめていた剣桜花(ia1851)だったが、ふと思い立ったように視線を移すしびしっと言い放つ。露出度の高い服からは収まり切らないらしい豊満な胸を露になっている。 「偽物って何のことさね?」 「その『さねー』ですわ。私の知人が本家本元‥‥あなたのは所詮」 「あ〜〜〜〜新海さん、この人の言う事はあんまり聞かなくていいからねぇ〜」 新海の脳裏に浮かんだ疑問符を察して、岑が割って入る。 「ああ〜ん、ひどいですわ‥‥御主人様‥‥」 「はいはい、あんまり困らさないでね〜〜でないと嫌いになっちゃうよぉ〜」 好き好きオーラを全開にしている桜花に比べて、岑の態度は至ってドライだ。懸命のアプローチをのらりくらりとかわしている。 「あの、新海さん。ちょっとちょっと」 そんな二人に呆気に取られていた新海だったが、横から声をかけられそちらを向けばそこには星乙女セリア(ia1066)の姿があった。にっこり笑顔で、新海を自分の正面に据えて‥‥彼女は手を合わせる。 「今度は一体なんでさぁ??」 二回拍手を打って、深々と礼をするセリア。背中にはやはり大きな袋が背負われている。 「鍋蓋大明神様、お願いします。後七体のもふら様(のぬいぐるみ)が当たります様に‥‥」 「鍋蓋、だいみょうじん??」 「どうやら、セリアは新海殿の連続記録をあやかりたいらしい…」 困った顔を浮かべていた新海に、篠田紅雪(ia0704)が解説するのだった。 ●新海のスキル ふんふふん ふふんふん♪ 新海とその一行は、村人に盗賊が逃げたという山の方角を聞いて、早速足を踏み入れていた。険しい山というだけあって、中腹を過ぎた辺りから足場が狭く、油断すれば落ちてしまいそうである。それど、新海は全く気にしていないようだ。大手を振りながら、先頭を進む。 「あの〜新海さん、一つ聞いてもよろしいですか?」 後ろを歩いていたかえで(ia7493)が声をかける。 「ん? 何さね?」 「迷うことなくずんずん進んでますが、まさか盗賊さんの居場所‥‥ご存知なんですか?」 「いんや」 「はい?」 「そんなの知らないさね。でも‥‥こんなに人もいるさぁ〜そのうち」 どすっ 新海の言葉が終わらぬうちに、和奏(ia8807)の主刀が新海を捕らえた。新海はあまりの痛さにその場にしゃがみ込んでいる。 「まさかと思ってましたが、何も考えず進んでいたとは‥‥」 雪斗(ia5470)も呆れて、ため息をつく。 「大丈夫さねぇ〜俺は鍋蓋の申し子さぁ。俺が歩けば鍋蓋に当たる。向こうから俺を引寄せてくれるさね‥‥」 「えっ、マジですかっ!! 新海さんっ」 「そんな特殊能力まで持ってるんですか!!」 それを聞いて、目を輝かせたのはガルフ・ガルグウォード(ia5417)とセリアである。ガルフの腰には、新海からもらったと思しき鍋の蓋が携帯され、自分も鍋蓋を引いた経験からか彼に親近感を抱いているようだ。普通なら呼び捨てにするのだが、一目置いているらしく、敬語・さん付けになっている。 「そんな能力、ある訳ないだろう‥‥」 「なんだ、残念」 和奏も少し期待していたのか、それを聞きぼそりと呟く。しかし、ガルフの耳にはそれは届いていないようだった。新海を心底尊敬する眼差しで見つめている。 「あんた、すごいぜっ。俺なんてまだまだだぁ〜。どうすりゃそんなスキルを手に出来るんで? 伝授してほしいぜ」 「あぁ〜〜全く」 その様子を傍から見ていた紅雪が頭を抱える。そして、 「雪斗殿、和奏殿、なんというかこのままでは埒が明かぬ故、ここらで一度心眼を使って頂けぬかな。横穴も多いし、数を絞る意味でもいい頃合だと思うのだが」 「わかりました」 「了解です」 志士の二人が新海をほったらかしに心眼を発動する。 「はっ! わかったさねっ!!」 ――と、そこで突然新海が動いた。何を察知したのかしっかりと前を見据え歩き出す。 「あぁ、待ってくれよっ、新海さ〜ん」 それに続いて駆け出したガルフ――そして、二人が突如視界から消える。そう、文字通りすっと‥‥。 『えっ!!』 それを見た一同に動揺が走った。集中が途切れて、心眼は中断される。 ――が、数秒もしないうちに‥‥その原因は明らかとなった。 「あぁぁぁぁ〜〜〜〜〜助けてぇ〜〜〜〜〜〜」 耳に届くは蚊細い声――慌てて、声の方に駆け寄れば何の事はない。足を踏み外し落ちそうになっている二人の姿がある。仲良く崖に手を掛けて、必死で耐えている。 「早くこれに捕まって下さい!!」 雪斗は、自分が携えていた槍の柄を二人に差し出す。 「かたじけねぇ〜」 「ありがとうさねぇ〜」 他のメンバーも手伝って、二人は無事救出されるのだった。 その後も新海の暴走は続いてた。 上ったり下ったり彼の勘がメンバーを翻弄する。一応、各自で足跡などを探しているものの、あまり収穫はない。 「今度こそ、絶対間違いないさね!!」 大分下って、新海が見つけたのは割と平坦な場所にある小さな横穴。 そこに伝説の鍋蓋があると、彼の直感が告げているらしい。 「はぁ〜今度こそ当たりであってほしいですね」 雪斗が苦笑を浮かべつつ、心眼を発動させ確認する。 ――と、そこには確かに生命反応があった。 「今度は間違いないようです。よかったですね、新海さん」 「そうでしょうとも! 俺の勘に狂いはないさね!!」 「いや…四回間違えてたから」 再びぼそりとつっこんだ和奏だったが、新海の耳には届いていない。 「さて、そうと決まれば誘き出し作戦開始だぜっ。その名も鍋蓋ホイホイ発動!!」 「それでは、我々は花火の準備を」 予め決めていた二つの作戦。二班に分かれて、それぞれ位置につく。 「どうするんさね? その鍋の蓋」 新海がガルフの取り出した鍋の蓋を見て、尋ねる。 「いやぁ〜犯人さんも鍋蓋フリークかもしれねぇ〜し、ここは鍋蓋には鍋蓋をってことで、ここで叩いて誘き出せたらと‥‥」 腰につけていた磨き抜かれた鍋蓋を構えて、ガルフが言う。横ではセリアもそわそわした状態でそれを見守っている。 カンカンカン 準備を整えて、ガルフは力一杯蓋を叩いた。 しかし、音が響いたその後に‥‥なんら変化はない。 「やはりな」 空しい沈黙を破って、紅雪が言う。 「なんか期待はずれ‥‥」 新海のような反応を見せてくれなかった盗賊にセリアも気を落とす。 「それでは、花火班にお願いしましょう」 そう言って、和奏が花火班の元に合図を送る。それを見取って岑が花火に火をつける。 「あぁ働く御主人様って素敵‥‥」 岑に見惚れながら呟いて抱きつきかけた桜花だったがやはり岑の方が一歩先をいく。手が届きそうでいて届かない距離。うまくその距離を保っている。そんな中で花火の音は山全体に木霊していた。 「なんだなんだ???」 花火の音を聞きつけて、穴より駆けて来る人影。鍋蓋班が先にそれを察知。ガルフはここぞとばかりに、特製の痺れ薬付き撒菱を通路にばら撒く。そして――先に来た男がそれを思い切り踏みつけた。 「やばいよ、兄貴って‥‥‥っ痛って〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 半ば涙目になりながら、男その一がその場でぴょんぴょん飛び跳ねている。 「あぁ〜バカヤロー!! 何、こんな原始的な罠にひっかかってってげっ!」 後から来た兄貴と呼ばれた男は気がついた。そう、今ある状況に――仲間の男以外に、自分を見つめる眼がある。その数、十――ガルフ・セリア・紅雪・和奏‥‥そして新海。 「やべっ! 逃げるぞ、弟よ!!」 痛がる弟にも構わず、腕を強引に引っ張って正面突破を試みる。撒菱を軽く飛び越えて、男は必死だ。 「逃げたさね‥‥」 それをまじまじと見たのち新海らは、慌てて男達を追いかけるのだった。 ●乙女の鉄拳 前に見えるは太陽の光―――それすなわち出口なり。男は必死で走っていた。横にはまだ痛がっている弟がいる‥‥けれど、そんな事を気にしている余裕などない。視界が開けて、男は確信する。 (「いけるっ!」) だが、しかし―― ばいんっ 開けたはずの視界の先に、再び訪れた壁――それは温かく、柔らかく、どこかいい香りもする‥‥。 「いやぁん」 男がぶつかったもの、それは桜花の胸だった。中の様子を伺おうと、岑他花火班が入口へと向かってきていたのである。その途中、桜花の手をひらりとかわした岑の位置に男が突進。岑に抱きつくつもりが男を捕まえてしまったようだ。 「うほっ」 まさかの幸運に男の鼻の下が伸びる。 「いいねぇ〜柔肌‥‥たまらな、ぎゃふんっ!!」 男が言いかけた言葉――しかし、それが紡がれる事はなかった。桜花の鉄拳が、男の頭上に振り下ろされたからだ。 「誰ですの、あなたは!! よくも御主人様の前でこのような事を!! 御主人様に嫌われたらどうするんですかっ! あなた責任とれますの! ちょっとなんとかいいなさいよっ!!」 一発目で意識を失った男に、桜花の非難と拳が続く。 「あぁ〜もう、それくらいでいいんじゃないかなぁ〜」 顔の形が変わりつつある男――さすがに可哀想になって、岑が説得に入る。 「御主人様〜〜だって、だってこの男が」 「あぁ〜わかったからね〜、大丈夫‥‥気にしないから、もうやめたげようねぇ〜」 「はい。御主人様がそういうなら‥‥けど、ひとつだけいいですか?」 しおらしい態度で桜花がなにやら胸の谷間より取り出している。 (「なんだろう?」) 疑問を感じながら、待つ岑の背に一瞬の悪寒――本能が警告していた。 「御主人様、それではこちらにちょっと判子を‥‥」 差し出された紙――名前の部分しか見えないように折りたたまれている。 「なんですか? それ??」 かえでが、男を桜花より遠ざけようと近付いて、その紙を横からさらい広げ出す。 「あぁ〜ちょっと駄目です、かえでさんっ」 焦る桜花の前で、広げられた紙‥‥そこには『婚姻届』の文字がある。 「ははははぁ〜本当冗談もほどほどにしてほしいなぁ〜」 乾いた笑いで切り返すが、正直心では動揺を隠せない。 「あたくしは至って本気でしたのに‥‥」 桜花の呟きをスルーして、岑がぎこちなく笑い続けている。 「あっと…えぇ〜と、どうなってるさね?」 遅れて到着した鍋蓋班は、ぼこぼこの盗賊と微妙な空気の漂う花火班に疑問を抱くばかりであった。 ●伝説の鍋の蓋 かくて、新海一行は無事鍋の蓋を取り戻した。盗賊兄弟は今、村の病院で監視されながら治療を受けている。あの後、兄貴の方は意識回復までに時間がかかり、代わりに弟の方から盗んだ鍋の蓋の在り処を聞き出し、奪還してきたのである。 「こんなボロイ鍋の蓋が本当にすごいものなんかねぇ‥‥」 取り返した鍋蓋を見つめながら、ガルフが言う。 盗賊・弟の話に寄れば、伝説の噂を聞きつけて高く売れるだろうと思い盗んだはいいが、質屋に持っていった所『換金拒否』されたらしかった。伝説とはいえ、所詮鍋の蓋‥‥使えなければ価値がないと判断されたのかもしれない。 「あの、私聞いてみたかったんですが、この鍋の蓋の伝説ってどんなものなんですか? 実は翳すだけで勝手に攻撃を受けてくれる魔法の鍋蓋だったとか?」 冗談交じりに、セリアが尋ねる。 「ええっ、そんなものなんですか‥‥自分はてっきり絶対に吹きこぼれないとか、しつこい汚れも擦らずさっと水に漬けるだけでとれるとか、取っ手が取れて収納楽々だとか思ってましたが」 「あの、お二方‥‥ギルドの解説見てないさね?」 『はい?』 二人の反応が素早くて、さすがの新海も理解する。 「この伝説の鍋の蓋は、かの剣豪が敵襲にあった際に思わず掲げたっていうすごい防御力のある鍋の蓋さね。だから、ここ見てほしいさ‥‥傷跡がって、あれ?」 新海が指差した場所‥‥そこにはその時受けたはずの太刀筋が残っているはずだった。しかし、その場所には太刀というよりは小刀で切りつけたような微妙な傷しかない。 「んん? なんかおかしいさ、コレ。そういえばこの蓋の材質も微妙に‥‥」 「まさか、あの盗賊が偽物を!!」 きっと表情を強めて、言う紅雪。 「それであってますけぇ〜」 ――と、そこへ管理人である男が姿を現す。 「あってるってどういうことさね?」 新海の言葉を聞き男は申し訳なさそうに、ぽつりぽつりと話を始めるのだった。 「あれは、三ヶ月前のことですけぇ〜この村はあの剣豪の故郷でぇ〜、その伝説ももちろん本物でしたけぇ。確かに伝説の鍋の蓋はあったんだぁ。けど、やっぱし月日が経ち過ぎて木製のそれはもぉ腐りかけてたぁ。 んだもんで、修理つーか、保存が効く様に専門家に手ぇ入れてもらっただよ。したらぁなんとこれ以上空気に晒しちゃなんねぇ〜ちゅーこと言われて、けどもう村自体ではお祭り騒ぎになってたぁ。折角発見された貴重なもんだぁ観光の目玉にもなるぅ。村おこしになる言うて大々的に宣伝したぁのにぃ〜見せられなくなったぁ言うたら、えらいこっちゃ。 そこで村長に相談しただぁ〜よぉ。したら、この際もう後には引けんからぁ〜複製作ってぇ飾ったらええ〜て事になっただよぉ〜」 すまなそうにそう言って、男は深々と頭を下げる。 「別に騙すつもりはなかったけぇ〜一応、ちゃんと複製してるんだぁ〜けど、わかる人にはわかるもんなんだぁ〜ねぇ〜。複製とはいえ一応は本物ってことになってたけぇ、取り返してもらう必要があったんだぁ」 「なるほどそうだったさねぇ」 鍋蓋を見つめながら、新海が管理人の肩に優しく手を置く。 「大丈夫さね。口外するつもりはないさね‥‥少し残念だけど、まぁ仕方ないさぁ。なぁみんな??」 そう言って、振り返ると思い思いの表情を浮かべてはいるものの概ね同意しているようだ。 「本当ありがとうごぜぇ〜ますだぁ。せっかくなんでぇ〜今回新しく売り出したこの煎餅、持っていってくだせぇ〜」 男から差し出された菓子折り――その箱には、でかでかと伝説の鍋蓋煎餅と明記されている。どうやら、中の煎餅の形が鍋蓋になっているようだ。 「それじゃあ、後でありがたく頂くさねっ」 新海は自慢の笑顔でそう言うと、仲間と共にその村を後にする。 「あぁ〜結局、新型くない使えなかったさねぁ〜」 ――そう、嘆きながら‥‥‥。 |