闇に潜む闇
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/10 09:46



■オープニング本文

●怪談に似て非なるもの
 奇妙な話と言うのはあるモノで‥‥それは夏の風物詩の一つでも御座います。
 しかしそれは自分に関係がないからこそ楽しめるもの。それが自分の身に降りかかったら‥‥それは笑い事では済まされません。けれど、人は時として己の恐怖に打ち勝つ為、怖いとわかっているものに立ち向かい、己を試そうとする。その正体が何であるかわからないというのに‥‥その場の雰囲気がそれを安全であると思わせていたので御座います。


「彼がいなくなったんです! 探して下さい!!」
 夏祭りの次の日に警備隊に駆け込んできたのは若い娘達――。
 それも一人や二人ではない。数は十人を超えているようだ。皆、自分の彼がいなくなったと悲鳴に近い声を上げている。
「あ〜皆さん落ち着いて下せぇ! 一人ずつ聞きますから」
 声を張り上げて、ここの警備隊員の喜助が叫ぶが各々が好きに言葉する為、その声に掻き消されて届かない。
「あ〜〜、こりゃあ参ったもんだなあ」
 いつもなら財布を落としただのスリにあっただのと言った用件で女気の少ない詰め所であるが、今日ばっかりは逆に多過ぎて困りものである。
「ほどほどが一番だって〜のに、全く」
 喜助は肩にかけた手拭いで汗を拭い、再び声を出すのだった。

●度胸試し
 そして、日が暮れる頃にはやっと彼女達の話を聞き終えて――彼女達の案件の全てが同じ理由のものだと言う事に不審を抱く。それは皆昨日の夏祭りでの事らしかった。
 近くの神社で祭りがある。彼と共に彼女達はそれぞれ祭りに向ったらしい。そこへ行く道すがら、奇妙な男に出会ったのだと言う。
「神社までは石段を上がっていけばいけるのに、彼ったらその男の言葉に挑発されて」
「挑発? どういったもので?」
「肝試しみたいなものだったのだと思います。男は石段ではなくて迂回する道を指差してこう言いました。『お兄さん、度胸試しをしないかい?』と」
 少し男の声音を真似たのだろう。低い声を出して、彼女が説明する。
「私は怖いから嫌だって言ったんです。そしたら、彼が俺だけ行くって言い出して‥‥男はこうも言いました。『この道を無事通り抜けて神社に辿り着けたなら、必ず叶う恋愛成就の御守りを進呈しよう』と。そんなのいらないのに、彼聞かなくて‥‥行ったっきり帰ってこないんです!!」
 最後は助けを求めるように、喜助の両腕を掴み迫る。
 そんな内容のものばかりだった。
「山道で消えた男達‥‥か」
 確かに話題となっている神社には迂回する道がある。しかし、暗くなったとしても道に迷うほどのものではなく、危険な場所も少ない。木々が立ち並んでいるとはいえ、崖などがある訳ではないのだ。――とするならば、なぜ男達は帰ってこないのか? 嫌な予感が脳裏を過る。
「とにかく現場にいってみるしかねぇ」
 喜助はそう思い同僚の将太を促して――。
 現場に到着した二人を待っていたのは男達の持ち物であろう小物だけだった。草鞋や手拭い、お面等――足跡もぱらぱら残っているようだが、そのどれもが途中でぷつりと途切れている。
「一体何が‥‥」
 わからなかった。祭りに参加していた屋台の主人達に聞き込みをして、度胸試しを主催していた男を捜したが、彼さえも見つからない。
「毎年やっとったみたいやで。道に悪戯程度のトラップ作って脅かしとったみたいやったけど‥‥今年はなんか様子が違ったような」
「どう違ったのかわかるかねぇ?」
 唯一の情報――手掛りになりそうだと喜助が問い詰める。
「なんや暗い感じがしたわ。いつもに増して気合が入ってるなと思うくらいに‥‥目も虚ろで背後に靄のようなもんが」
「それだ! ありがてぇ!!」
 虚ろな表情に変な靄――これから推測するに、自分達の手に負える事件ではない。ミイラ取りがミイラになる前に専門家に頼みに行かねばと一目散に走り出す。
「喜助、何処へ?」
 判らず問う同僚に彼は振り返って、
「これはアヤカシの仕業に違いねぇ。だから、ギルドにいってくらぁ〜」
 迅速に事を解決する為隊長への報告も忘れて、ギルドに向かう彼であった。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
忠義(ia5430
29歳・男・サ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
エシェ・レン・ジェネス(ib0056
12歳・女・魔
水野 清華(ib3296
13歳・女・魔
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰


■リプレイ本文

●失念
「まぁ、十中八九はアヤカシの仕業よね〜〜」
「変な靄ってあたりでおかしいって気付いてほしいもんだけどねぇ‥‥」
 ここはギルドの一室――依頼書を片手に集まった開拓者達がその正体に推測を立てる。葛切カズラ(ia0725)とリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)、その他集まった皆の意見はやはり一致していた。
「やっぱりそうだと思ったんでさぁ。で、どうやって捕まえるんで?」
 その中で一人だけ浮いた感じの男――それは勿論依頼主の喜助である。
「捕まえる? アヤカシであれば討伐してそれでお終いだ。行方不明の男達は」
「そのアヤカシに会ってみないとだけど、いなかったら探してみるつもりだよ」
 鉄龍(ib3794)のその言葉に続けて、水野清華(ib3296)が言う。生きている可能性は少ないが、それでもまだ死と断定する事は出来ない。
「しかし、たまたまだろうが狙いはだいぶ偏っているねぇ‥‥。無駄に意地があるのも困りものだなぁ‥‥ほんと」
 そこで話を別に切り替え始めたのは雲母(ia6295)だった。椅子に腰掛け、煙管の紫煙を燻らせながら覇王然とした態度を見せている。
「おや、俺様はてっきりリア充爆発しろっていう大人げないアヤカシかと思ってたんだが、違うのか?」
 そこへ決して敬語とは言い難い口調で皆に茶を配るのは戦う執事の忠義(ia5430)。
「アヤカシがそんな感情持ち合わせている訳なかろう? 今一頼りないわねぇ‥‥こっちの男共も」
 再びぷかりと煙を吐き出して、溜息混じりに雲母が言う。けれど、忠義はそれを気にしてはいなかった。それより何より、相手のいない彼にとっては実行こそしなかったが、『爆ぜろ』と思った事は何度もあるようで、複雑な想いを隠している。

(「しかし、執事たるもの‥‥他人の恋バナは応援するもんなんですぜ」)

 そう自分に言い聞かせて、行き場のない怒りを納めに入る。だが、僅かながらもれていたようで、気付けば手にしていた急須にヒビが入っていた。
「おや、どうかされたんで?」
 そんな事を知る由もなく、話は順調に前へと進んでゆく。
「数も正体もわからないとなれば闇雲に動いても仕方ないわ。だから、その現場とやらで同じ状況を再現してその男が出てくるのを待つって事でどう?」
 正攻法であるが、確実かもしれない。靄という事もあり知能は低そうであるし、加えて誘う男の存在もあり、その男を捕まえられれば大きな手掛りになるかもしれない。

「その男の人もアヤカシに操られているかもしれないしね」
「囮で釣ってそのまま巣とか寝床に案内して貰えれば重畳よね〜」

 口々に喜助に説明し、彼らの方針はもうあらかた決まっているらしかった。そして、その囮役には鴇ノ宮風葉(ia0799)が名乗りを上げる。普段から深く帽子を被っている為、男子に間違われやすい事もあるが、元は巫女であったから瘴索結界も使えるのだ。
「憑依やら何やらが絡んでるかもだから攻撃系スキルは持ってけないけど、何とかなるでしょ」
 そう言って、ちらりと仲間の清華と雲母に視線を送る。この二人は彼女の団員でもあり、清華とは師弟関係で、雲母とはよきライバルとして繋がっている。そして、もう二人――彼女と共に囮に参加する仲間と陰陽寮の同級の者。
「現場の調査はいいんでさぁ?」
 話が纏まりかけた事に気付いて喜助が問う。
「それは警備隊がやってくれてるんでしょ? 別に必要ないかな?」
 皆に問うように視線を向けた風葉だったが返答がないのを見て肯定と取り、彼らは喜助が引き上げてきて行方不明者達の持ち物を見るだけに終わる。
「それでは、まだ夜までは時間がある事ですし一旦解散てぇ事で」
 時間はまだお昼過ぎ――夜に向けて、彼らは各々時間を潰すのだった。


「おや、一人足りないようですが?」
 再び集まって――一人足りない事に気付いて忠義が問う。しかも、それが大事な囮役とあっては頂けない。
「きっと何か大事な用事でも出来たんでしょ。いいわよ、一人でも」
 そう言って涼しい顔を見せる風葉だったが、皆は心配なようだ。
「あによ? 仕方ないじゃない、それにそんなヤワじゃないし」
「でも、鴇ノ宮さん。一人はやっぱり‥‥」
 師の実力を知らない訳ではないが、それでも万が一と言う事もある。
「なら、清華が代わりに行けばいいんじゃない?」
「えぇ!!」
「清華さん、怖いのかしら?」
 明らかな動揺――その様子を見取ってカズラが問う。
「そ、そんな事はないよぅ‥‥でもぉ」
「まぁ、いい。ここでいても埒が開かん。とりあえずその神社とやらに移動しよう」
 このまま居ても時間の無駄。鉄龍の一言で一行は神社の前へと駒を進めるが――待っていたのは‥‥。


「アヤカシは怖くないけど‥‥暗いなぁ、ここ」
 問題の山道前は思いの他暗かった。それもその筈、祭りは終了している。開催中であれば、石段の両側には提灯が下げられ、うっすり情緒ある灯りで辺りが照らされているのであるが、今日はそれがない。外灯などある筈もなく、灯りと言えば彼らが手にしている提灯・カンテラの類いのみ。ここで始めて、あの時と同じ状況を再現する事等出来ないと悟る彼らである。

「ぬかったな。男も‥‥まぁいる訳ないか」

 山道入り口にいる筈の男――だが、人が来ない事がわかっているのか、やはりそこに姿はない。
「どうする? それでも山道歩いてみる?」
 風葉が瘴索結界を発動するかをあぐねいて仲間に問う。
「こうなれば虱潰しに行くしかないわね」
 そう言って、リーゼロッテも同様に探索に入った。
「あらあら〜、やっぱりこわいの〜」
 そこへちょっとした悪戯を‥‥入り口付近でまごついている清華にカズラの触手が忍び寄る。そして、すっと足首を撫でれば、

「わひゃあっ!!」

 と声を上げて飛び上がる彼女。やはりこういうのは苦手らしい。その声に何かが動いた。

『いたわっ!!』

 それは木々の天辺――目視ではわからない。結界発動の二人が声を上げる。僅かな音を立てて、その影も彼らに気付いたのか慌ててその場から離脱を始める。その動きはカナリ速くて、
「追うわよ!」
 そう叫んだ時にはもうかなりの差がついていた。
「ちっ!」
 暗視を行使して矢を放った雲母だったが、それを持ってしても一歩届かず――途中で見失い、その日はどうする事も出来ないのだった。


●正体
「黒い靄‥‥間違いなく、あれが事件に関わったアヤカシだろうな」
 一夜明けて、不甲斐ない結果に終わった開拓者達が再びギルドに集まっている。
「飛んで行った先に何かありませんかねぇ?」
 何処かに向かったらしいその靄の方角を教えて喜助に尋ねて、
「この方角だと‥‥まさか!」
「まさか、何かしら〜?」
 趣味で遊女をやっているカズラが少し語尾に甘さを残しつつ問う。
「今晩、こっちの地区でも祭りがあるんでさぁ。山の中にある神社で」
「本当か。それは好都合だが」
 好機ではあるが、一般客を巻き込まないとも限らない。
「きっと同じような手を使ってくる筈だ。しかし、祭りを中止してはまた逃げられるかもしれんし」
「そこは俺ら警備隊に任せて下せぇ! アヤカシは字は読めねぇだろう?」
 何か考えがあるらしい喜助が問う。
「あぁ、あの類いは多分」
「なら、手の打ち様はあるってぇもんだ!」
 地域密着型の警備隊である。ここは力の見せ所とばかりに、喜助が駆け出す。
「さて、私達も負けてはいられないわね」
 開拓者達もそれを見送り、再び準備に入る。
 そして、暫くギルドの資料を漁ってあるアヤカシに辿り着いた。

「雲骸‥‥飛行、変形アヤカシですか」

 昨日のあれ‥‥今までの情報と照らして導き出された答え。
 今度は万全の体制である。


「そういう訳で、山道付近には何があっても近寄らないで下せぇ」
 警備隊を総動員して祭りの行われる神社付近にチラシを配って、屋台はそのままに警戒態勢を敷く――その様子を窺いながら、辺りの瘴気を探るのは勿論開拓者達である。

「今日は提灯があるから怖くないね〜」

 昨日の脅えっぷりとは裏腹に清華が風葉の横を歩く。風葉は念の為、マフラーをしっかりと巻きつけ、カップルを装い男を捜す。
 黒い靄の行き着いた先はここで間違いないようだった。木の立ち並ぶ付近から感じる瘴気の気配。きっと獲物が男に誘導されてくるのを窺っているのだろう。
 夜と言う闇をいいことに姿を隠して‥‥資料によれば、変形は出来るらしいのだが色までは変えれないとあって、それを彼らも本能で悟っているようだ。本来は上空に存在し、飛空船を襲うアヤカシらしいのだが、どういう訳か今回は地上に獲物を求めて移動してきたようだ。数からして複数‥‥下に下りてきてもらわなければ戦い様がない。
 そして、暫くして彼らの前に男は現れた。虚ろな瞳に何処となく沈んだ表情――仕掛け人の特長とも一致している。
(「かかった」)
 待ってましたの登場に風葉が心中で呟く。
「お兄さん、度胸試ししていかんかい?」
 その言葉を聞き、風葉は待機班に合図を送った。この男で間近いない。話を合わせながら、演技を続ける。
「へぇ、面白そうね‥‥じゃなくて、だなっ。何処を行けばいいんだい」
「あっちの道を登り切って境内に行くだけだ。うまくいけば恋愛成就の御守りをやる」
 清華が止める演技をし、それでも行こうとする風葉。しかし、男は無表情で聞き流すのみ。心ここにあらずと行った様子である。風葉が清華と道を別つと同時に、ゆっくりと待機班が男の背後に近付く。そして、どすっと鈍い音。

「とりあえずはここで眠っていて貰おうか」

 それは手加減を加えた鉄龍の一撃だった。ここで術を使えば相手に悟られるかも知れないし、この後の事も考慮するとまだ殺(や)るには早いと判断したからだ。

「先行きますぜ」

 縄をかけている間に風葉が襲われてはと暗視の出来る雲母と忠義が先に向かう。
 残りの面子も手早く済ませると、一旦喜助に彼を引き渡し後を追うのだった。


「成程、絶好の狩場という訳ね」
 周りは背の高い木が立ち並び、視界は不明瞭‥‥黒い体を隠すには絶好の場所だと風葉も思う。山道に入ってから、ずっと感じるアヤカシの気配。瘴索結界もばっちり反応を感知している。後は仕掛けてくるのを待つだけ‥‥相棒がいれば上空からも攻撃出来るのだが、そうもいかない。すぐ先では祭りが行われているというのに、ここだけが別次元のような雰囲気を漂わせている。
「数はどれ位で?」
「さぁ、靄が集まっている位しかわからん」
 雲母の暗視を使っても黒いものが重なってしまえば正確な数までは見通す事は出来ない。
「くるわよっ! 私の真上!!」
 そこで風葉が声を上げた。向かってくる靄の位置を即座に仲間に知らせる。
「そこかっ!」
 それに従って雲母が弓を引き、その間に忠義が前へ。風葉の盾となる様割って入る。
「数は?」
「四体、四方から! 一体は雲母が落とした」
 暗がりに目は慣れつつあるが、それでもやはり見難い事この上ない。物理は通じる相手のようだが、忠義の武器が空を切る。剣気で牽制し半ば勘を頼りに地断撃を飛ばすが、それも当たっているのか微妙な所である。

「ちっ、位置さえ判れば!」

 その状況に苛立ちを覚え、忠義が舌打つ。

「遅くなったわね。これでどうかしら?」

 とそこへ後続班が追いついた。交戦中と知って、まずはリーゼロッテのアークブラストが辺りを照らす。

「あそこだね! アムルリープ!」

 その一瞬を彼らは逃さない。木々の隙間から見えた黒い塊目掛けて、清華のスキルが冴える。それが鳥に姿を変えて逃げようとしていた雲骸を捉え、眠りを誘い次々と下へと落してゆく。それを辛うじて、回避したものにはカズラの斬撃符――。
 符で作り出した未知の生物を更に鏃状に変えて投げ放ち射止める。個体的には大した事はない雲骸は思いの他あっさりと打ち落とされていた。そこへ待ち受けているのは、前衛職の二人。適当な場所に鉄龍が灯りをを置いて辺りを明るくした為、視界の問題は解消されている。

「留めは俺様にお任せを‥‥今宵の執事は血に飢えてるんで、後覚悟して下せえ」
「相手はただの靄だがな」

 さり気無く突っ込みを入れて、二人は武器構える。忠義は再び地断撃で、鉄龍はオーラドライブ掛けの剣を振り抜いて、残りの雲骸も無に還る。視界のハンデを克服した後は、あっと言う間だった。

「これで全部かしら?」

 そして、目の前にいた一匹が活動を停止したのを確認してカズラが言う。

「みたいね。瘴気の反応はないわ」

 それに風葉が答える。後に残ったのは僅かなぬめりだけだった。靄のように見えた雲骸であるが、実質は気体と言うよりは不安定な個体だったようで、それだからこそ物理も通ったようだ。

「一応、確認しますね」

 そう言ってゆっくりとファイヤーボールを作り打ち上げて、辺りを観察するがやはそれらしい靄はない。

「後は、あの男と行方不明の男達ですかねぇ」
「そうね。早いところ済ませてしまいましょ」
 忠義とリーゼロッテの二人の言葉に皆頷くのだった。


●結果
「やはり遅かったか」
 行方不明の男達の居場所が聞き出せないかと思っていた彼らだったが、拘束した男の元に戻って問い詰めようとしても時既に遅かった。さっき退治した中に彼を操っていたモノがいたのかもしれない。戻った時には既に事切れている。それから察するに、

「出会った時から既に息はしていなかったのかも知れない。打ちつけた時もあまり手応えがなかったし、冷たかったからな」

 彼を眠らせた鉄龍が言う。

「それじゃあ、行方不明の人達はどうするの? もし生きてたら居場所が‥‥」
「その可能性は多分、ないわね」

 皆薄々勘付いている。
 喜助に見せてもらって品物とアヤカシの情報、そしてさっきの戦闘‥‥。

「とりあえず明日もう一度調べれば明らかになるわ」
 

 そして、朝――喜助と共に訪れた第一の現場で新たな物品が発見される。それは男達のモノだったのだろう衣服の切れ端だった。喜助達が見逃していた木の上からで極少しではあったのだが‥‥それから推測するに、

「次から次へと獲物が舞い込むと場所を空けないといけないものね〜。奴らは咄嗟に自分のテリトリーである空に男達を持ち去った。そして、取り込みつつじわじわと‥‥といったところかしら?」

 不定形状の敵によくあるタイプ――すぐに取り込んでしまえば悲鳴は聞こえないし、骨や証拠も残らない。残念ながら今回はそのタイプに当たるようだ。

「全ては夜に終わっていたという事なら、仕方ないでさぁ」

 助けたかった。そう思う喜助であるが全てが遅過ぎたのだ。新たな犠牲者が出なかっただけでもよしとするしかない。

「お嬢さん達には我々から話しておきまさぁ。有難う御ぜぇました」

 警備隊の代表として喜助がぺこりと頭を下げる。全てがいい結末を迎える訳ではない。喜助はその事を噛み締めながら、報告へと向かうのだった。