冷やしスイカ始めました
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/02 00:39



■オープニング本文

 今年は西瓜大王には会えなかった‥‥。
 少年の儚い夢――以前夢の中で西瓜の精霊?らしき人物に会っていたりする。だから、困った時は彼に願えばどうにかしてくれるだろうと思っていた少年だったが、そう都合よくはいかないらしい。今年の七夕に彼は現れず、少年の畑には普通の西瓜が沢山実をつけている。

 豊作だった。獣からの被害もなく、順調な収穫が続いている。

 けれど、問題もあった。

 今年は兎に角暑いのだ。皆食べたい気分はあるのだろうが、暑過ぎて外に出る事自体を嫌がっている。買い物に行くのでさえ億劫となり、買い物に来ても出来るだけ手早く軽いものを選んで買ってゆく。
 夏の味覚の一つである西瓜であるが――重さに負けて、なかなか客の手は伸びない。

「甘くて美味しいのに‥‥これじゃあ、西瓜がかわいそうだ」

 丹精込めて作った西瓜が、食べられずに腐ってゆく等、見ていられない。
 何かいいアイデアはないものかと首を捻る。

「そうだ! 川床だ!!」

 そして、暫く考えて辿り着いたのは川床で西瓜を冷やすというものだ。
 幸い、この近くには緑生い茂る山があり、そこには適度な広さの川が流れている。
「少し運ぶのは面倒だけど、うまくいけばみんなに西瓜を食べて貰える!」
 納涼――自然の風に吹かれながら、木陰で川のせせらぎをBGMに西瓜を食べる。
 氷を買う必要もない為、運搬費はかかるが元は取れるかもしれない。
「そうと決まれば、早速準備をしないと‥‥」
 西瓜は日々成長する。待ってはくれないのだ。急いでギルドに走る。

 そして、

「冷やし西瓜始めたいんです!」

 少年の言葉に窓口は目を丸くするのだった。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
鞘(ia9215
19歳・女・弓
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ルルー・コアントロー(ib3569
18歳・女・巫
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟


■リプレイ本文

●志体の実力

   ガラガラガラ

 ギルドから荷台を借りて、山道を引いて進む助っ人達――。
 こういう時はやはり頼りになるのは大型相棒。ネプ・ヴィンタールヴ(ib4918)の駆鎧ロギが率先して荷台を引っ張ります。その後ろにはもふらのもふ秋がのんびり歩き、時折飛び来る蝶々に視線を奪われて‥‥なんとも長閑な光景。しかし、まだ太陽は昇り始めたばかりだというのに、気温はぐんぐん上がり汗が額を伝います。

「頑張るのですよ〜! 鴇ちゃん見てて下さいなのです!」

 そんな中でロギを操縦するネプはきっと汗だくです。鉄の塊の中、団扇で扇ぐ事も出来ずに。けれど、大好きな人の為必死にロギを動かします。出発直後はロギの肩に座っていた鴇ノ宮風葉(ia0799)ですが、熱を持ち始めた機体に耐えかねて場所を移動、西瓜と共に運んで貰おうという事でしょう。

「ほらほら、ネプくん。急がないと日が暮れちゃうわよ」

 そんな厳しい応援を浴びせながら‥‥しかし、それも気のおけない仲だからこそ。

「風葉嬢は、いい性格しとるの」

 それを知ってか知らずか彼女の管狐・つねきちの呟き。
 一方、彼女達と同様に荷台に乗って西瓜を見つめているのは乃木亜(ia1245)です。山盛りの西瓜は綺麗に積まれているように見えて微妙に形は異なり、僅かな振動であっちへこっちへ。予め、藁を敷き白い布を被せてなお、この気の配りよう細心の注意を払います。その横では、彼女を真似るようにミズチの藍玉も待機中。しかし、いかんせ知能はお子様。すぐに飽きてしまい、ピィピィ彼女の横で構ってアピール。

「お仕事終わったら西瓜食べられるから我慢してね」

 そう言って宥めようとして、あららそれは逆効果?

「ピィー♪」

 西瓜と聞きいて喜び出した藍玉がぴょんぴょん跳ねれば、荷台は大きく揺れ始めごろんと一つ転がりました。
 これでは折角の西瓜が割れてしまう! 慌てて手を伸ばす乃木亜です。けれど、積まれた西瓜が邪魔をして手は届きません。しかし、飛び出た西瓜は、

「すいかっ♪ すいかっ♪ すっいっか〜♪ およ? 飛んできたよ?」

 と鼻歌交じりに歩いていたプレシア・ベルティーニ(ib3541)の手によって救出されたようでした。いきなりの飛来に目を丸くして吃驚顔。
「全く、色気より食い気なのはいいが、仕事を確実にこなさねば、食べる事は出来ぬぞ」
 そこにひょっこり顔を出して渋い声の管狐・玖耀が忠告します。

「ぶぅ〜、わかってるも〜ん」

 その言葉に頬を膨らまし、子供のように拗ねるプレシア。

「あ、着きましたよ」

 そこへ少年の声がかかり歩みを止めて――眼前には清流と言うに相応しい川が流れていました。木漏れ日の下、僅かにそよぐ涼しい風。透き通った水は何処までも綺麗で冷たそうです。

「素敵な所ですね」

 思わず顔を綻ろばせ、ルルー・コアントロー(ib3569)が言葉します。
「味を知らなきゃ宣伝もできねえし、まずは一つ」
 そう言ってプレシアの手の西瓜を奪いナキ=シャラーラ(ib7034)が川に浸けて‥‥各々準備に入ります。辺りの木を見渡して手頃な土台探しです。
「つねきち、あそこらへんの木を頼むわね。ほら、ネプくんも急いで」
 風葉が早速指示を飛ばして、若干やれやれとした面持ちのつねきちは風刃を発動。すると、しゅぱぱぱっとものの見事に数本の木を倒します。それを抱えて加工するのはネプ君でした。手にした斧を振り被り、薪割りよろしく次から次へと――それを今度は、

「運ぶもふ〜」

 ともふ秋さんの出番です。ご主人であるルルーに代わり力仕事を担当。、近くにいた村雨紫狼(ia9073)に木材を背に乗せて貰い、土台を組む滝月玲(ia1409)の元へと運びます。
「あぁ、有難う。こっちに頼むよ」
 そんなもふ秋を優しく撫でて、受け取ると玲はまずは頭に図面を描いて、川幅は割りとありますが、深くない為色々工夫が出来そうです。
「すみません、風葉さん。一旦水を塞き止めて貰えますか?」
 そう声をかければ、造作もないと言う様に彼女はあっさり石の壁が出現させて、水の流れを遮断します。
「ミーアもお手伝いするのですよ!」
 その間に手早く土偶ゴーレムのミーアの力を借りて、支柱を立てて回ります。

「うわぁ〜、さすがは開拓者の皆さんです!」

 その手際のいい動きに、少年はただただ感心するばかり。
「こっちもぼけっとしてられないよっ」
 そこへ少年の肩に手を置いて、声をかけたのは石動神音(ib2662)――屈託のない笑顔を見せた彼女に見覚え有。

「あ、あなたは!」

「あはは〜覚えててくれたんだね。神音も西瓜大王さんに会えなくて残念だよー。だから、今年は神音達で頑張ろう。そしたら、出てきてくれるかもしれないよ?」

 それもその筈、彼女とは夢で二度も会っています。

「あなたも西瓜大王知ってるんですね!」

 その事に喜びながら耳打ちされて、

「そっか、客寄せショー‥‥すごい! 面白そうです!」

 といつの間にやら意気投合。その場で飛び跳ね始めます。それを見取って、

「ショーだけにやりまショー‥‥ってか?」

 紫狼が寒い駄洒落を一つ。
「馬鹿言ってんじゃねえよ、このやろー!」
 そんな彼に何故だかナキがツッコミを入れて、
「そろそろ冷えた頃です。皆さん、一度味見をしてみましょう」
 鞘(ia9215)の一声で、少年の西瓜のお味見会。

「んん〜、甘ぁ〜〜い♪」
「確かにこれは美味しいですね」

 まだ作業は始まったばかりではありましたが、しばし西瓜でクールブレイク。
「あ、皆さん。皮を捨てないで下さいね」
 そんな中、食べ終わった西瓜を見つめルルーが声をかけました。


●工夫の賜物
 さて、時間はお昼過ぎ――川床設置班とは別れて動き出したのは宣伝班。太陽の日差しが眩しいこの時間は都であっても、やはり人の数は少ないようです。
「さあ、旨い西瓜も食ったしいっちょあたしも頑張らないとな」
 ジプシーであるナキはビキニ姿で恥ずかしがる様子もなく声高らかに呼び込みます。

「めちゃ甘ギガウマ冷やし西瓜、もうすぐ販売開始だぜ! ワオ!」

 西瓜模様の布を縫い付けて、前面に西瓜をアピールします。時折、手にしていた桶から水を撒き、その横では奇妙な物体がふよふよ浮かび目を惹きます。
「おかーさん、あれ何ぃ?」
 加えて、宣伝班はナキだけではありません。さっきの西瓜でパワー全開! 藍玉も暑い地面に耐えながら、乃木亜の為と水芸披露。スキル・水柱で持ってきていた西瓜を打ち上げ、涼を誘います。藍玉の零れ水が打ち水となり、知らずのうちに僅かながら涼しくなって、口上が人々を引き寄せました。

「かき氷や他の料理、お子様向けのショーもありますので、ぜひおいでください」
「ピィピィ」

 ある者はミズチの愛らしい姿に、またある者はナキの麗しのダンスに。そして、またある者は浮かぶ物体に‥‥ナキのダンスと共に浮かぶそれは、時に素早く時に緩やかに‥‥まるでステップを踏むかのように彼女に寄り添い踊ります。

「たまげた。西瓜がおどっとる」

 年配の男性が目を丸くしました。それをちらりと見取って、ナキはにやりと笑います。

(「大成功だな、近藤」)

 そして、浮かぶ西瓜を撫でてやれば、西瓜も大喜びです。実はこれ――種を明かせば極簡単なもの。近藤・ル・マン‥‥ナキの相棒である鬼火玉に西瓜柄の布を被せた覆面鬼火だったのですが、遠目ではそれに気付きにくく集客効果は絶大です。

「おお、今度は美人姉妹‥‥にしては、片方は小さいな?」

 後から歩いていた二人を見つけて、誰かの言葉。そこには鞘の姿がありました。

「冷やし西瓜始めますので、是非おいでください」
「冷たくって甘くって、とっっっても美味しいんだよー!」

 人妖のかたなと共に同じ衣装を身につけた鞘。人妖であっても姉妹と見間違うほどそっくりなのです。その姿に男のみならず、女も次第と目がいきます。

「近日、オープン予定です! 川床を使い涼しさも満点ですのできっとご満足頂けると思います」

 いつもは無表情に見えるほどクールな鞘ですが、実家が蕎麦屋とあって営業スマイルはお手のもの。温和で優しい笑顔を見せれば男性達には、輝きのオーラが発生したように見えた事でしょう。

「行く、絶対行く!」

 鼻の下を伸ばしながら、気持ちは明日へとトリップする人続出です。

「おっきな桃色の駆鎧とあの西瓜お化けが目印だよっ♪ お越しの際は足元気をつけてね」

 一方、性格は全く鞘とは逆なかたなは持ち前明るさで、自然と人を惹き付けます。


 そして、日が暮れれば今度はプレシアの出番でした。

「ほ、ほ、ほ〜たる来いなの〜♪」

 人の集まりそうな場所で夜光虫を発動し、ぴかぴかさせれば今度はカップルや帰り道の親の目を引きます。時には、結界呪符『白』を使ってコミカルに、でっかいはんぺんと言い笑いを取って、

「ほほう、プレシアもやるではないか。では、我も頑張るかのう♪ それ、変身じゃ」

 と巧に声音を変えて、玖耀は女声でそういうとひらりと人魂で変身し、姿を梟に変え、空を少し旋回した後彼女の肩へと止まります。

『おぉ!!』

 その見事な変化に人々は喚声と共に拍手が送りました。

「何故妾がこんなことを‥‥」

 その隅では神音の相棒・くれおぱとらがつまらなそうに呟きます。
 なんでも神音はショーの準備で忙しいとかで、彼女は単独で宣伝中。

「わ〜猫さんだぁ」

 黒猫であるくれおぱとらに興味を持って、手を伸ばしたのは少女です。他人に触られるなど気に食わない彼女ですが、ここは我慢。絶品西瓜を引き合いに出されては手伝わざるおえません。

「もっともっと見たかったら、お山の川床に来てね。冷やし西瓜と待ってるよー!」

 その後も場所を変えて、客寄せはを行い大きな手応え。引き続き、ナキも酒場を回って順調です。

 その頃設営班はといえば、
「うぅ〜、もう練力がもたないのですぅ〜」
 と弱音を吐いて、
「何言ってんの! 宣伝組が大勢人連れて来たらどーすんのよ! 急ぐ急ぐ、しっかり作る!」
 と激を飛ばされていたり。しかし、当の本人は相棒に任せっきり。
「お主も横着せんと、自分で木ぃ切りゃええじゃろうに‥‥」
 そう言ったつねきちに、
「いや、無理。あたし、力仕事は無理だから」
 ときっぱり断る彼女。さすが団長です。
「まあ、床も机も出来た訳ですし後は明日に回してもいいでしょう」
 そんな彼らを見つけて、ずっと作業に徹していた玲が声をかけます。
「ミーア、頑張ったのです! 撫でてほしいです、マスター」
 それを聞いて作業をやめ、褒めてほしいと飛びつく彼女。
「うわっ、待て! おまえ土偶なんだから抱きつくのはっ!!」

   どっすぅぅんっ

 かくて設置班もなかなか順調なようでした。


●西瓜の魅力

   トントントントントン

 オープンまであと少し。仮設で作られた調理場には包丁の小刻みな音が木霊します。それもそのはず西瓜のみならず、折角なのだからと、西瓜をメインに他の料理も提供するらしいのです。
「別行動で悪いが、火燐。川床の方を頼むな」
 昨日は一緒に作業をしていた玲と相棒の火燐ですが、今日は少し離れてしまうみたいです。茣蓙や座布団の用意に回るよう指示を出し、玲本人は調理場でかき氷の準備に入ります。
「おりこうなのですね〜」
 その様子を見取って、ルルーの言葉。彼女の手元には大きな桶があり、寿司酢の香りが漂います。
「ああ、気性は荒いはずなのだがよく働いてくれる。しかし、それはルルーさんのもふ秋さんも同じでは?」
 ルルーの言葉に笑顔を返して、彼女の相棒に視線を送れば懸命に働くふもらがいます。
「はい、それは」
 そう言いかけた彼女でしたが、そこへ思わぬ訪問者。稲荷の匂いを嗅ぎ付けて、やってきたのはくいしんぼうはペルシアです。
「あくまでこれは付け合せですけれど‥‥だって、メインはこれですし」
 それに嫌な顔一つせず、ルルーが下の壷を指差して、そこには大量のお漬物。勿論素材は西瓜です。
「味見、してみますか?」
「うんっ♪」
 接客用のメイド服のプレシアが漬物を摘まんで、すると今度は玖耀登場。
「全く‥‥またつまみ食いか」
 と呆れ顔。しかし、さり気に彼も味見します。
「んむ、美味い」
 笑顔が調理場を包みました。


「机、座布団、蚊取り豚‥‥万事よし! もういつでも開けるぜ」
 衣装を甚平に着替えた紫狼が宣言します。
「こっちもOKなのです〜」
 そこへ接客班もお着替え完了。少年の前に並びます。
「それでは皆さんよろしくお願いします」
 その言葉を合図にネプの駆鎧に火燐がのぼりを持たせて、そこにはでかでかと『冷やし西瓜始めました』の文字が記されているのでした。


 さて、蓋を開けてみれば大盛況。昨日の宣伝が功をそうしたようで次々と客は舞い込みます。
「おお、足湯ならぬ足水か」
「気持ちいい〜」
 僅かな時間で作り上げた川床には、所々床が抜かれ足を浸けられるようになっています。それは少年のアイデアでした。少しでも涼しくなれるように、微力ながら彼も彼なりに考えたという事でしょう。

「はいは〜い、お待たせだよ!」

 かたなが小さな身体ですいすい人の波を掻き分けて注文の品を届けます。

「はい、こちらは西瓜とお稲荷さんですね。お待たせしました」

 そしてここでも鞘は0文スマイル。片手には玲が西瓜をくり抜いて作ったシロップ入れ――カキ氷を注文した者には追加シロップのサービスだとか。
「我ながら上出来です」
 それを奥からちらりと眺めて玲も納得の出来のよう。引っ切り無しに注文される氷をがりがりやるうちに、職人染みてきたようです。

「むぅ〜、水着エプロンは構わないけど尻尾のお触りは禁止だよー!」

 そんな忙しい折に起こった事件――それはどこにでもいるスケベなお客の悪戯でした。メイド服からチラリと見えたプレシアの尻尾を掴んで、これには彼女も堪らず声を上げてしまいます。
「何々、何があったのですかー?」
 そこへやってきたのはミーアさん。今日は浴衣に身を包み、ナイスでグットなチラ見せを演出中。一際男性の視線を集めます。そんな彼女が事情を聞いて、文字通り一肌脱ぎました。

「どうせ触るならミーアが引き受けるのですー☆」

 羞恥心を持ち合わせていないとみえて、派手に片方の袖を下ろして全開アピール。男性客は喜びます。

「男ってのは土偶とわかってても見たいものなんだよな」

 それを見てしみじみと言葉する紫狼さん。彼自身もその一人なのかもしれません。空席になった場所を手早く片付けながら、しかしその先に固まったネプを見つけて、

「どうした‥‥ってうわぁぁ!!」

 姿をみればなぜだか女物の水着を着用したネプがいるではありませんか! パレオをつけているとはいえ、違和感のなさに若干戸惑いを覚えます。

「誰にやられた!」
「違うのです〜。これはその、鴇ちゃんのたっての希望で‥‥あぅ、いらっしゃいませなのです〜」

 顔を真っ赤にしつつも、彼女の為なのか必死で接客するネプ君。けなげと言うか、なんというか、愛の力は羞恥心さえ抑え込むようでした。
「いや〜、まさか着てくれるとは思わなかったのよねぇ」
 それを見て呟く風葉に、
「ふむ、御主なかなか人の扱いに慣れておるのじゃな」
 と渋い顔で現れたのはくれおぱとら。
「あんたは? 使われているように見えるけど?」
 その言葉にはスルーして、彼女は日が暮れかけたのを知って仮設の舞台に視線を送ります。すると、いよいよショーは開始らしく、ドラムロールが木霊して慌ててミーアが戻ってナレーション兼司会を務めます。

「昔々ある所に悪巧みを考えている南瓜さんがいたのです。世界を橙色にする。そんな野望を抱いて、日々南瓜の色に濃さを増す研究をしておりましたのです」

 一寸周りを暗くして、皆の期待が高まります。

「ふふふ、まずは小手始めに子供達に熱々の南瓜を食べさせてやる〜」

 夢に見た南瓜大王に変装し神音が登場。手には調理したての南瓜が湯気を出しています。

「ほらほら〜そこの子供。この熱々の南瓜食べたいだろう」

 舞台前列の子供にけしかけても勿論嫌がるのは必至です。それでも無理強いしようとする南瓜に待ったの声。舞台とは反対側から現れたのは西瓜頭。

「我輩は西瓜大王! このくそ暑い日に南瓜なんてナンセンスであーる!」

 と紹介を交えて南瓜の元へと駆け出します。カンテラをうまく使いスポットライトを当て、少し上には火燐がなにやら丸いモノを支えています。そして、別から光を当てれば、きらきら光を撒き散らし、それはまさに今で言うミラーボール――。

「すっげーー! なんかわかんないけどすげーー!!」

 突然現れたヒーローと見た事もない演出に子供のみらなず、大人も吃驚しています。その後はお決まりの戦闘劇――元来ヒーローはピンチに陥るもの。定石に従って窮地に陥る西瓜です。が、ここはお馴染みお約束。

『ガンバレーー、西瓜大王!!』

 司会のミーアが指示を仰いで子供達からの声援により復活です。そして、

「くらえ! 種ビーム!!」
「ぐわぁぁぁ」

 見事決着――少年扮した西瓜大王の勝利です。ショーが終わると、川床からは拍手が止まず、舞台裏では二人がガッツポーズを決めていたり。工夫を凝らした演出は玲によるものなのでした。
「いいなあ、やっぱヒーローは‥‥ほれ、お疲れさん」
 それを裏から見ていた紫狼は戻ってきた二人に皮の水筒を差し出します。
「ありがとだよー」
 それを嬉々として受け取ってごくりと飲めば、中身は普通のお茶のよう。
「いやー俺って年長者やんかー☆ これくらいはやらんとな」
 いつぞやは神音に素敵なものを見せて貰った彼なのです。いや、それがなくても彼は紳士――これ位の気遣いは当たり前。少年にもちゃんと差し入れは欠かしません。

「えーとえーと、確かにそうです! 四捨五入すれば三十代なのですマスター!」

 そんな所に現れて、こういう時だけきっちり回転する頭。

「‥‥そこ、余計なこと言わんでいーわいっ!」

 と鋭いツッコミを繰り出して、しかし相手は土の塊。痛みは彼へと帰ってきて――。はらりと涙が零れます。
「く〜〜、この山葵がたまんねぇ」
 一方ではルルーの山葵稲荷に刺激を頂いて、笑顔ながら瞳を潤ませるお客さん。ツーンとくるそれは好評でした。甘い西瓜と食べる事で味が更に引き立ちます。思わぬところで効果を発揮した稲荷です。そして、西瓜多めで出した冷麺も――。

「これ甘くってデザートみたい」
「意外といけるね〜」

 と嬉しい声。どうやら甘い西瓜果汁が麺に絡みデザート感覚でいけるとか。キムチも用意しましたが、ここは必要無さそうです。かくて、川床の一角で冷やされた西瓜達があっという間に姿を消していくのでした。


 そして、川床西瓜を始めて早七日――あまり長期間拘束する訳にはいかないと、ひとまず助っ人達のお仕事は終了を迎えます。その最終日、店を終えて皆で集まり紫狼の提案で花火を楽しむ彼ら達。勿論西瓜も忘れません。
「楽しかったー! またやりたいな」
 少年と一緒にショーに出ていた神音が言います。少年も彼女と続けたそうですが、こればかりは仕方がありません。収穫が終わるまでは続ける為、明日からは違う人と共にやるそうです。
「また来てね。待ってるから」
 そう返して、自慢の西瓜を差し出します。
「うむ、実に美味いの。誇ってよいぞ、少年」
 その隣ではグルメらしいくれおぱとらが西瓜を齧り味を賞賛。太鼓判を頂いて彼も嬉しそう。
「火燐もご苦労様。うまいか?」
 そのまた横では玲と火燐がしっとりと静かな時間を過ごしていたり。少し上流ではネプと風葉がいいムード。鞘とかたなペアも満足げに西瓜頬張って、各々静かな夜を過ごします。
「西瓜もいいけど、ルルーの稲荷も絶品もふ〜」
「ふふふ、有難う」
 そして彼女らも、新しい食べ合わせを楽しんでいるのでした。