|
■オープニング本文 ●探し人 「また出たぞ〜! 盗賊だぁ!!」 闇を駆け抜ける一つの影――しなやかな身のこなしに隙のない動き。 豪邸に押し入った一つの影は瞬く間に金庫の金を盗み出し去っていく。 そして、その行き先は貧民街――建物伝いに屋根を飛び越えて‥‥行った先でその影は盗み出した筈の金をばら撒いてゆく。 「あぁ、ラストドロップ様のお恵みだ‥‥」 貧民街の住人はその影の主をそう呼び、有り難く金貨を拾うのだった。 鍋の人inアル=カマルである。 照る付ける太陽と砂の大地で彼はやっぱり鍋蓋を引いていた。 「ここでもやっぱりこれさね?」 合戦が一段落して天儀に戻ろうかと考えた彼であったが、その直後彼は面白い噂を耳にする。それは彼と同様に、鍋蓋を操る者がいるというものだ。 「しかし、一体どこにいるさね」 ここ数日、何件かの酒場を巡回・情報収集を繰り返している彼であるが、結局のところまだ確かな情報は得られない。わかっているのは、相手が鍋蓋を使うという事と表向きジプシーをしているという事だけだ。 「男か、女かだけでも判るといいさけども‥‥」 麦酒を煽りながら彼が呟く。 この酒場にはステージがあり、今二十歳前の少女の剣舞が行われていた。剣舞と言っても泰のそれとは違い、勇ましくも軽やかでどこか芝居かかっている。そして、衣装も独特であり、魔法のランプの出てくる主人公が着ていたような衣装を見につけ、少年のようにもみえる。 「やっぱり異国は違うさねぇ〜」 それに見惚れて、新海は思わず言葉した。 ●悪戯? 「あら、お兄さん。つまらなかった?」 本日のステージを終えて、フロアに流れてきた踊り子達がお客相手に声をかけて回る。これもどうやらこの店のサービスらしい。新海の下にはさっきの剣舞を舞っていた小麦色の肌のいかにも健康的な少女がやってくる。 「ステージはよかったさね。ただ、ちょっと探し人が見つからなくて‥‥」 「探し人? どんな奴?」 もしかしたら知っているかもしれないと彼女が問う。 「それがわからないさぁ〜。鍋蓋武器を扱うってことくらいさね」 「ふ〜ん、じゃあそれはお兄さんじゃないの?」 彼の答えに即座に返して、彼女は新海の腰にぶら下がった鍋蓋に視線を向ける。 「確かにそうさけども、自分を探す馬鹿はいないさぁ〜」 それに苦笑して頭を掻く彼に彼女は笑顔を返して――、 「やっと笑ったね。ま、ここに来たなら楽しんでいって貰わないと‥‥笑顔の方が似合ってるよ」 などと声をかけて彼女は新海の背を軽く叩き、別のお客の下へと移動する。 「やられたさねっ」 新海もそれに感心しながら、彼女を見送った。 そして、暫くはぼんやりと酒場の雰囲気を楽しんで――はたとある疑問が脳を掠める。それは、 「なんでこれが武器だとわかったさぁ?」 腰にぶら下がっているのはただの鍋蓋。実際は彼考案の鍋蓋製の手裏剣であるが、今は刃が収納されている為、それは普通の鍋蓋にしか見えない。なのに、彼女はあっさりとそれを武器だと見抜いている。天儀であれば彼を知る者も多いが、ここは異国。加えて、ここではまだ鍋手裏を使った事はない。ともすれば――。 「まさか、彼女が!!」 がたんと大きな音を立てて立ち上がった彼に視線が集まる。 「マスター、さっきのジプシーは何処に住んでるさぁ!?」 フロアから彼女がいなくなっている事に気付いて、彼が問う。しかし、守秘義務だのなんだのを盾に、マスターは教える気がなさそうだ。 「それに彼女は自由を愛するジプシーだよ。日雇いだから、明日は何処にいるかはわかるわけないさっ」 「そんな‥‥」 がっかり肩を落とす彼にマスターは慰めるように肩に手を置いて、 「惚れちゃならねぇ女だ‥‥というか、まだ少女だぜ?」 「わかってるし、違うさねっ!」 にやりと笑う主人に全力で否定し、新海は酒場を後にするのだった。 ●彼女の名は その直後、大きな屋敷からは叫び声が聴こえて‥‥思わずそちらを振り返れば、 「あ、あれは!」 それは一瞬の出来事だった。 屋敷の扉からひらりと飛び降りた人影の手には紛れもなく、鍋の蓋が盾のような具合に握られているではないか。 「負えっ!! 今度こそ、ラストドロップを逃がすなぁ!!」 その影を負う男達の言葉に新海ははっとする。 「ラストドロップ‥‥鍋蓋使いの名前がわかったさぁ」 今まで掴めなかった手掛り‥‥だが、ここに来て大きな進展である。 「きっと何か訳ありさね」 鍋蓋を愛する者に悪人はいない。そう勝手に解釈し、彼は一旦宿に戻るのだった。 そして後日―― 「ラストドロップは義賊みたいさねっ!」 瓦版の見出し『ラストドロップ、またも進入に成功! 悪徳業者に一泡ふかす』の言葉と、巷の噂を頼りに彼は確信する。 「となると、俺も鍋蓋使いとして手伝いたいさぁ」 などと興味は更に膨れ上がり、接触の策を練り始める。 そんな彼に神も味方した。 なぜなら、秘密裏にある地主が用心棒を雇っているという話が彼の耳に迷い込んだのだ。ギルドに頼まないところをみると、後ろ暗い所が少なからずあるようだ。 「ちょっと気が引ける気もするけども‥‥これは絶好のチャンスさぁ」 新海はそう思い、その地主の元へと足を運ぶのだった。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
志宝(ib1898)
12歳・男・志
万里子(ib3223)
12歳・男・シ
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
コトハ(ib6081)
16歳・女・シ
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●地主 「よく来たな。主らには屋敷の警備を任せる。まぁ、ぜいぜい働くがいい」 集められたロビーで、どちらかといえば悪人面の地主が言葉する。富や名誉に固執するタイプの典型的な体格――弛むお腹は贅沢三昧してきた跡が見て取れる。 「ちょっと旦那ぁ〜。それだけってのはあんまりじゃないかい。それなりのモノを頂かないとあたし達だって動きようがないってもんだぜぇ?」 そんな地主に擦り寄って媚を売るのは金髪の少女・ナキ=シャラーラ(ib7034)だ。まだ十歳ではあるが、これでも立派なジプシーである。 「そうだよー。警護するにしてもこんな広いお屋敷。道わかんないよー」 それに続いてブーブー言い出したのは志宝(ib1898)だ。彼もまだ十二とあって、幼さが残っている。そんな二人を前に、地主は表情を一変させた。 「子供だと? 一体どうなっている!」 二人を追い払うように押しのけて、近くにいたメイドに怒声を浴びせる。そして、平手がとんだ。 「ひ、ひどいさねっ! 親父に打たれた事はあるけども」 だが、彼女に当たる前に飛び出して鍋蓋で受け止めたのは、勿論鍋の人である。 「ふんっ。ジンだかなんだか知らんが、子供に用はない。わしの財産がかかっているんだ。もっとマシな人間を集めておけっ」 そう言って話もそこそこに男はその場を後にする。 「手荒な雇い主だなぁ、こりゃあ」 しかし、その場には同情する者は少なく、金目当ての者は適当に霧散し始め、良識のある者は早々に玄関から退場し仕事を下りる。 そんな中、新海は殴られかけたメイドに声をかけた。 しかし、彼女はビクリと肩を震わせ、少し後退する。 「大丈夫?」 志宝も堪らず駆け寄ると、彼女は小さく謝礼を述べてペコリとお辞儀した。その際、ちらりと見えて服の隙間から青痣が見て取れる。 「あの、何か出来る事は」 弱々しい声で彼女が言う。 「そんな、別に‥‥」 そう言いかけた新海を遮って、 「じゃあここの見取り図貰えるか? 警備に必要だから」 とさらりとナキが要求し、彼女から屋敷の見取り図をゲットするのだった。 ●偽者 「偽ラストドロップで誘き出すさね?」 用心棒の募集にラストドロップの噂――それにつられた者は彼だけでない。 ある者は義賊と言う言葉に反応し、またある者はその姿勢に興味を持つ。 「しーぃ、おまえも興味があるんだろ? だったら協力しようぜ」 にまにましつつナキが言う。 「あたいも気になってるんだよね、その義賊。だからみょーちょーも一緒に会ってみない?」 さり気無く名前を間違えたのは鼠獣人の万里子(ib3223)だ。 「自分はあまり賛成出来ないのですがね」 そう言うのは和奏(ia8807)。 ラストドロップ‥‥通称・ラスドロに余りいい感情を持っていないらしい。彼は地主からの仕事はきっちりこなそうと考えているようだ。 「まぁ、義賊と言えば聞こえはいいが、盗みに違いないからな」 それに蓮蒼馬(ib5707)がフォローを入れる。 「確かに‥‥けど、きっと已むに已まれぬ事情があるさねっ! 鍋蓋がそう言ってるさぁ!」 「鍋蓋が喋るのですか?」 ――とそこへ現れたのは二人のメイド。 一人は笑顔で、もう一人は無表情に彼らを見つめている。 「遅いじゃないか!」 それはナキの言葉――彼女らとは協力体制にあるらしい。 「ごめんなさい。ちょっと捕まっておりまして」 笑顔のメイド・秋桜(ia2482)が可愛らしく謝罪する。 「仕方ないのです。あの男達調子に乗って樽いっぱいのまそうとするのですから」 その後ろではもう一人のメイド・コトハ(ib6081)が言葉する。 「樽いっぱいってそんな飲んだの!」 「情報を聞き出す為です。勿論、酒笊々を使っておりましたから問題ありません」 そういう秋桜であるが少し頬が紅い。 「まぁ、俺はあの鍋蓋使いに会えるなら何でもいいさね。俺も協力させて貰うさぁ」 その回答に一同ほっとする。何処か危なっかしい彼の事――目の届く場所にいてくれないと色々困るのだ。 そして、暫く後――ナキが酒場の舞台を借りて踊り始めた。 それを不思議に思い尋ねる新海に、 「ラスドロ様はジプシーと聞きました。ですから、私も出来るだけ本家に近付きたいと思い、動きを参考にしているのです」 との回答。 「そうさね? けどあんなのとは違ったさぁ」 「え?」 一度新海は彼女に会っている。その時のそれとナキのそれは全く別物であると主張する。 「確かに身のこなしというか仕草は似通ってるかもしれないさぁ。でも本家は剣舞だったさぁ」 あの独特の舞を思い出しつつ、彼が言う。 そして、彼が動いた。ナキのいる舞台に向かい、あろう事か鎧を脱ぎ始める。そして、手にしたのは手近にあった小さなナイフ――それを両手に構えて‥‥上機嫌だった客達が沈黙する。 「ほっ、おりゃっ、とりゃ」 そこで彼はなんと踊り出した。飛び入りとはいえ、酒場と言う所は大抵の客が男である。その手の趣味があるものを除けば、見たいモノは限られている。そんな訳で、 「帰れー!」 「むさい男はお呼びじゃねーー!!」 等と罵声が飛ぶ。 「なにそれ、たこ踊り? 面白過ぎ〜」 そんな中ナキだけが彼のそれを見て爆笑していた。思わず秋桜もくすりと笑う。 しかし、至って彼は真剣に踊り続けた後、 「うっ、足がつったさねっ!!」 慣れない動きに転倒――暫く動けなくなるのだった。 ●本物 一方その頃、地主の屋敷には思わぬものが届いていた。 それは、ラストドロップからの予告状である。 「何々、玉無しの地主さん‥‥今夜貴方のコレクションを頂きに参りますだとっ! 今更こんなものを送りつけおって! 挑発のつもりか!!」 どんっと机が割れるのではと思う程叩きつけて地主が言う。 「警備の者に伝えますか?」 「当ったり前だ! 何の為に人を雇ったと思っている!」 「旦那様、お食事が出来ました」 再び叩くかと思われたが、食事の到着とあって苛立ちが若干緩和する。 「いいな。警備に伝えろ。賊が来る! 逃がすな、とな」 「はい、承知しました」 給仕とは入れ替わる召使いを敵のように睨む地主。 「豚の丸焼き香草風味で御座います」 「ふん、そうか」 折角の解説も軽くあしらい、彼は下品に肉に齧り付く。 (「ふ〜ん、ラストドロップねぇ」) それを聞き、給仕が僅かに微笑するのだった。 予告状に記した時刻――屋敷の近くで身を隠す影。 それは万里子と新海、向かい側には秋桜とコトハの四つである。 「コスモス様、手筈通りにお願い致します」 そう告げると、秋桜はコクリと頷いて素早く身を翻す。 暗がりでよく判らなかったらしいのだが、新海の記憶を元に衣装を合わせて腰には新海が貸したらしい鍋手裏が装備されている。そして、手筈はこうだ。偽のラスドロで撹乱している間に、予告状で挑発しておいた本物との接触を図る。ついでに彼女説得用に、地主の悪事の証拠も集める為、内部調査をやってしまおうと言うものだ。警備班として中にいるのも四名。時を待つ。 何処かで鳴らされた鐘によりそれは実行に移された。蒼馬の居る南門からの侵入――慌てて動き出す用心棒達。しかし、彼女を目視していても捕らえる事出来ない。なぜなら、 「おわっと、これはすまない! あわわ、失敬」 不慣れな武器を扱う駄目開拓者を演じて、蒼馬が妨害を始めたのだ。 絡踊三操と呼ばれる三節棍は扱いが難しく、素人が手にすれば怪我する事間違いなし。リーチが長いとあって、尚更危険である。 「うわっと」 それでも抜けていこうとする者がいれば、わざと躓き足に絡める。その動きが自然過ぎて、誰もそれに気付かない。 「うっわ、どっちいった? ねぇ、どっちこっちあっち?」 それに混じって志宝も弓を構えて、右へ左へ動き回る。 「ガキっ、邪魔だっつってんだろうが!」 そう言って尻尾を掴んだ男だったが、すぽんと抜けて目を丸くした。 「いやぁ〜ん‥‥なんて。えへへ〜、獣人だと思った?」 それに茶化して答える志宝。一族の故人を連想するものを身につけ弔う習慣に乗っ取ってつけているそれは、彼自身のものではないらしい。 「ごめんね、返してもらうよ」 軽やかにくるりと反転し手にしていた弓で打ち付けて、彼は大事そうにそれをまたもとの場所に取り付けるのだった。 そして、コトハは無事地主の屋敷侵入。 メイドとは仮の姿――シノビである彼女には隠密行動は朝飯前だ。 (「あるとするならばここでしょうか」) 地主の書斎――地図上では小さな一室であるが、この手の男と言うのは大事なものは片時も離したくないと言う心理が働き、手の届く所に置きたがるものだ。破錠術で鍵開けに入る。だが、意外にもそこに鍵はかかっていなかった。超越聴覚を使い、聞き耳を立てれば中から聴こえるのは僅かな吐息。中にまだ地主はいるらしい。そっと戸を開ける。するとそこには、ぎっしりと本が並んでいた。そして、テーブルには食べかけの料理が並べられている。 「まさか」 それにはっとし辺りを見回せば、隠し金庫になっていたらしい本棚の一部が開いている。 (「先を越された‥‥というよりは、始めから侵入していた?」) 何らかの方法で。いや、手はある。押し入るとばかり思っていたが、初めから潜入していたとすれば合点がいく。少しだけ残っていた葡萄酒を味見して、彼女のそれは確信に変わる。 「これは眠り薬‥‥」 単独犯でありながらどのように情報を得ていたのか秋桜も気にしていた。しかし、答えは至った簡単だったのだ。給仕でも召使でも料理人でも構わない。兎に角雇われればいい。皆が夜までに集めた情報によれば、地主は相当暴力的だったとかで人の入れ替わりが激しかったと言う。ならば、内部に潜入する事は容易い。 「とりあえず証拠を」 ラスドロの狙いは金だけらしい。他のものに異常は見られない。ともすれば、まだ悪事証拠はここに残っているかもしれない。本の間やら引き出しやらを物色する。 「何をしている」 迂闊だった。夢中になっていたらしい。はっとし振り返った先には、意識を取り戻た地主が銃を構えていた。 ●義賊 「ごめんね〜。偽ドロさん」 金庫から持てるだけの金貨を取り出して、本家ラスドロが用心棒達が通り過ぎるのを待つ。ナハトミラージュ‥‥霧の精霊の力を借りて姿をぼやけさせる事により自身を見つけにくくしている為、容易に彼女を見つける事は出来ない。騒ぎを起こしてくれた相手に感謝しつつ、時を待つ。 「キミがらすとどろっぷ‥‥だよね?」 だが、その余裕が油断となっていた。いきなり背後を叩かれて彼女が思わず身構える。 「それ! それを見たかったさぁ〜、見せてもらってもいいさね!」 けれど、相手に彼女を捕らえる気はないらしい。彼女が手にしている鍋蓋にばかり視線を送っている。 「あはは〜ごめんね。この人、鍋蓋好きだから」 「ええ、知ってる」 まだどこか大人になりきれていない少女が新海の様子を見つめくすりと笑う。 「あたい万里子。色々お話したくて、演出してみたの‥‥ごめんね? あたいも義賊やってるから個人的にも興味があって‥‥ここじゃあアレだし、別の場所で会えないかな?」 騒ぎが続く中で万里子が問う。 「仕事をやり易くしてくれたし、一度だけなら」 「わお、やったぁ〜。じゃあ、脱出だね」 「そうね」 にこりと笑い合う二人を余所に、新海はと言えば彼女の鍋蓋武器をガン見したままだ。 「さ、いくよ」 そう促して出口へと急ぐ。幸い、用心棒は偽ドロに係きりだ。 「じゃ、後日連絡するわ」 そう言って一番手薄だった南口から出て行こうとする。 だが、そこに突きつけられたのは一本の刀――その先には和奏の姿がある。 「それを置いていって貰います」 いつも大人しいだけに凄みがあった。困惑する本家をしっかりと見つめている。 「言わせて頂きますが、善意の表現を盗品で済ませようとする発想が卑屈な上にせこいです。もっと方法はあるでしょう。それは返して下さい」 ずばんと心を射抜くような正論‥‥けれど彼女にも意地がある。 「盗品って私はお金しか取ってない。それにこれは不正に取り立てられたお金よ! 返して貰って当然だわっ!」 彼女がきっと睨み応戦する。 「なら、役所に申し出て裁いて頂けばいい。こんなやり方間違っています」 その言葉にぎゅっと唇を噛みしめる。彼女自身もわかっているらしかった。 「けど、あいつらは金を盾に全てを揉み消す‥‥だから、こうするしか」 ぎゅっと皮袋を握り締め彼女が言う。 「あ〜‥‥なら一旦ここは預かるって事でどう? 今、他の仲間が証拠探しに回ってるし‥‥きみの気持ちはあたいもよく判るけど、少しだけ。きっとどうにかしてみせるから」 そう言って万里子が説得に入る。彼女も義賊だと言っていた事がここで幸を相した。納得がいかない様だったが、沈黙の後彼女は皮袋を手放す。 「わかった、じゃあ見ててあげる。本当にあの地主をどうにか出来るならやって見せて。そしたら私も行動を改めるわ」 『有難う』 彼女のその言葉にひとまず礼を言う一行。だが、その時にはもう姿はない。 「あぁ! まだちゃんと見てないさね。待って欲しいさぁ〜」 その後には彼女を(正確には彼女の鍋蓋を)名残惜しそうに見つめる新海がいるのだった。 ●証拠 「ふむ、賊がお前のような女だったとはな」 ゆっくりと立ち上がり地主が言う。 「ふん、いいのですか? 私はあなたが寝ている間にあるモノを見つけたのですよ」 実際はまだであるが、ここははったりをかます必要があると見て冷静に言葉する。 「あるモノだと? 馬鹿馬鹿しい。そんなものないわっ」 そういう男であるが、若干目は泳いでいた。その視線を彼女は見逃さない。眼球の動きを見取り、何度も通過する場所を探る。 (「そこか!」) 彼女がそれを発見したその時だ。扉が蹴破られ秋桜が飛び込んでくる。戻りが遅いのを知って探しに来たようだ。即座に状況を判断し二人の間に煙遁を発動する。 「助かりました」 短く礼を言い、問題の場所に破錠術を行使。中の物を掴み取り離脱する。 「おのれおのれおのれぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」 その後には地主の怒声が空しく木霊していた。 そして翌日――アレだけ暴れたと言うのに賊を捕まえられなかった彼らを地主は勿論解雇する。ただ、金を取り戻したとあって警護に参加した者には報酬が出ており、それをみんなで分ける事にしたようだ。 「しかし、これは一体?」 盗み出したものを見つめコトハが言う。 「血相を変えていたと言う事は何か大事なものなんでしょうが、判りません」 その横では秋桜もそれを見つめ首を傾げる。 「兎に角まずは彼女に会って今度こそちゃんと見せてもらうさねっ」 新海が笑顔で言う。 「どうやって?」 連絡先は聞いていない。その事に気付いて頭を抱える彼なのだった。 |