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■オープニング本文 ●おあしす! 「サンドワーム、ですか?」 突然の来訪者が提示した名前に、一三成は首を傾げた。 「えぇ、馬鹿みたいに巨大な砂蟲でね。見たことあるかしら」 「僅かですが、報告には聞いています」 「あれがオアシスの周囲に縄張りを作っちゃってね。十匹、二十匹と退治したいのよ」 「‥‥」 その女性の提案に、三成は、長くて薄いため息を付いた。 「ちょっと数が多くてね」 女性は、口端を持ち上げて意地悪そうな笑みを浮かべている。黒い肌に白く長い服を纏い、スマートで、それでいて開けた胸元は強調され、何より特徴的であるのは、その細長く尖った耳。 エルフ。 アル=カマル人口のほぼ三割を占めるという人々だ。 「‥‥で、どうする? 報酬額は提示した通り支払われるわ」 氏族からの書簡をトントンと叩く彼女を前に、小さく、解りましたと頷くや、三成の手がすっと取られる。エルフの彼女は、三成の細い掌をきゅっと握り締めた。 「なら契約は成立。私はメリト・ネイト。ご覧の通りベドウィンよ」 ●判らない真意 「ふむ、成程。新大陸か」 瓦版を手にご主人が呟く。そんなご主人を眺めながらおいらは毛繕いを始める。 新大陸――おいらにはよくわからにゃいが、どうやら新しい場所が見つかったらしい。ギルドにもそっちへの依頼が増えてきているのをおいらは知っている。けれど、無茶をする気はない。確かにご主人と一緒にお仕事はしたいけれど、少し前うなされているご主人の声で目が覚めて、その時の事が気にかかるから今はそっとしておいた方がいいと思った。 けれど、そんな心とは裏腹に今回はご主人から動き出す。 「なあ、ポチ。魚‥‥好きだったよな」 徐に振り返って、ご主人が言う。 「そりゃ猫だから好きにゃ」 「大物を釣るにはいい餌が必要だな」 「そうにゃね」 なんだか当たり前の会話――一体何が言いたいのかさっぱにわからにゃい。 「餌の調達に行く気はあるか?」 「にゃ?」 餌の調達‥‥一般的に考えればオキアミとか海老とかだから海に行くと言う事だろうか。 どっちにしてもお出掛けが出来るのは嬉しい。こんなご主人であっても、ご主人である事は変わりなく、おいらにとっては大事な人にゃのだ。 「どうなんだ?」 答えないおいらに向って、ご主人が先を促す。 「構わにゃいにゃ。たとえ火の中、水の中にゃ! お供するのにゃ」 にこりと笑顔で答えたが、ご主人は相変わらずの仏頂面。 「そうか。ならば、砂の中も問題ないな」 「へ?」 しかし、返ってきた単語に吃驚し、思わず目が点になる。 「どういうことにゃ?」 困惑するおいらを余所にご主人は手にした瓦版を持ち上げた。そして、 「言った通りだ‥‥新しい餌になりそうだから、このサンドワームとやらを捕まえる」 「ええっーーーーーーーーーーー!!!!!!」 子供のような発想――冷静なご主人からは考えられない。しかし、目の前にいる男は紛れもなくご主人で――至って真面目に仕度を始めている。 そして、一時間もしない内にご主人は適当な依頼を探し出し参加手続きを済ませて戻ってくる。 「いつまで固まっているんだ。明日、現地入りするぞ」 固まったままのおいらに手を伸ばして‥‥呆気に取られたおいらを余所に、ご主人は早々と夕飯の仕度を始めるのだった。 |
■参加者一覧
周藤・雫(ia0685)
17歳・女・志
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
リゼット(ib0521)
16歳・女・魔
シルビア・ランツォーネ(ib4445)
17歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●砂漠 「暑いな‥‥」 アル=カマルの大地を踏んだ一抹の第一声はそんなものだった。 砂だらけの大地だというのに、相変わらずの着流しにその上から一枚の布を巻きつけただけという至って簡素なもの。自分から動いた割には準備が良いとは言いがたい。 「本当に、見渡す限り砂ばかりですね」 その横では同行者の一人である周藤・雫(ia0685)も初の砂漠に感想を漏らす。そんな彼女の肩には相棒の迅鷹の烈火が留まっていた。燃え盛る炎のような色のその体――とても綺麗であるが、ここではいかんせ暑さに拍車をかける。 ふんっ その姿を前に鼻息荒く鋭い眼光を向けているのはシュヴァリエ(ia9958)の相棒・ドミニオンだった。くそっ、暑過ぎるといわんばかりにイライラ尻尾を忙しなく動かしている。 「我慢だ。ドミノ」 それを宥める様にシュヴァリエが彼の腹を撫でる。そこには羽毛のような毛が生えており実に手触りがよさそうだ。 「私も触ってみたいかも」 そう言って近付こうとするのは土偶ゴーレムのセシリアだった。ゴーレムに果たして、手触りがわかるのかは謎であるが、見た目は人と変わらず温和な表情を浮かべている。 グルルル しかし、ドミニオンはそれを許さなかった。ぎろりと目を光らせ威圧する。 「えっ、嫌われた?」 その様子に彼女はびくりと肩を竦めた。 「すまんな。ドミノはプライドが高いんだ」 「そのようですね」 相棒の代わりに謝るシュヴァリエにセシリアの相棒であるリゼット(ib0521)も割って入る。 ピィピィー そんな中、周りを気にして主人の乃木亜(ia1245)から離れないのはミズチの藍玉だった。見た事のない景色とその暑さに若干の不安を抱いているらしい。 「大丈夫、少し暑いかも知れないけど我慢してね」 まるで子供に言い聞かせるようにそう告げて、彼女自身も目の前に広がる光景に少なからず驚いているようだ。 「しっかし、なんだな。でっけぇ砂蟲を餌に釣りってかぁ? あんた何考えてるんだ?」 とそこで一抹と同世代である黎乃壬弥(ia3249)が彼の肩に手を置き問う。 「ほんとよ。資料ではサンドワームって10m以上もあるんでしょ? そんなデカブツ使って釣り上げたい獲物って何よ‥‥? ドラゴンでも捕まえるつもり?」 それに混じって聞くのはずしりと重いアーマーケースを手にしたシルビア・ランツォーネ(ib4445)だ。 「少し思い当たることがあってな‥‥試してみたくなった」 「思い当たる事?」 意味深な言い方をする一抹に、壬弥の相棒・定國も首を傾げる。 「なんにせよ、ものぐさなのか行動的なのか今一分からんな、おまえのご主人は」 それを少し離れ他場所に移動して、ひそひそとポチに呟いたのは一度彼と仕事を共にしているウルグ・シュバルツ(ib5700)――ここまで来るにあたって、相棒のシャリアに乗ってきたのか水を与えながら言葉する。 「うっしゃあ! サンドワームの一本釣り!! このリィムナちゃんにお任せだよ!!」 思い思いに新天地の砂を踏みしめて‥‥。 ここにもう一人――大きな勘違い‥‥いや、奇抜な発想をしている少女がいる。彼女の名前はリィムナ・ピサレット(ib5201)。相棒の迅鷹・サジタリオと共に真っ赤な太陽に指差し宣言する。 かくて、龍三匹、鷹二羽、猫又、ミズチ、そしてゴーレムにアーマーと個性溢れる編成の討伐隊が一路、問題のエリアへと足を踏み入れるのだった。 ●対策と準備 さて、話は遡って現地に向う前の事――。 単純な討伐依頼といえど作戦会議は必要であり、彼らもそれなりに計画を立てている。 ギルドに届いている資料をもとに卓を囲んで‥‥考えたのはサンドワームの性質を利用した正攻法な作戦だ。 「気配や物音に反応して地中から出てくるんでしょ? だったらゲートクラッシュで思いっきり地面ぶっ叩いてやれば反応ある筈よ」 改良したばかりの機体・サンライトハート改。軽量化に成功し、突進力とパワーを大幅にアップさせたその機体で暴れれば確かに砂の下にも響くだろう。 「単純ですけれど、効果はあると思います」 「なら、あたしは鈴をつけてそれを餌にする!」 雫のその意見を聞いて、手を高らかと挙げたのは勿論リィムナだ。 「ふむ、おびき寄せるにはそれで十分だろうが念の為。攻撃にも使えるし、焙烙玉も用意しておくか」 相手の大きさを考えれば、彼等がたとえ歴戦の開拓者であっても備えあれば憂いなし。強力な火薬はいざと言う時に役に立つだろう。 「では、私も」 「私も持っていきます」 ウルグに続いて、雫、乃木亜も持参をする事を告げる。 「持っていくのは勝手だが、ギルドに掛け合えば必要物として出して貰えるかもしれない」 ぼんやりしているようでそういう所は抜かりない一抹である。 「すみません。そう、ですね‥‥後で頼んでみます」 なぜだかその提案に謝罪の言葉を返す乃木亜。どうやら癖らしい。 「それでは砂蟲攻撃の際は私に任せて頂ければ、烈火に頼んで思う位置に投下します」 表情一つ変えぬまま雫の言葉。 「足止めの際は罠が有効‥‥私は使えませんが、リィムナはフロストマインが使えるとの事。設置して頂けますか?」 こちらもクールな表情でリゼットが言う。 「了解了解! お任せだよっ!」 その言葉に元気よく答えて‥‥罠位置は印を付けて置く事になり、話は終盤を迎える。 「おい、問題のオアシスはどうする? 砂が入ったらまずいだろう?」 そこに口を挟んだのはまたもや一抹だ。 「そう言えば忘れてたなぁ」 その事を失念していた仲間が苦笑する。 「出来るだけ離れた場所で行えば問題ないだろう」 「そうですね。引き離しさえすれば汚染は防げます」 「そんなもんか? まぁ、いい。布でも被せるか」 言いだしっぺであった彼であるが、長引くのを嫌ったのか適当にそう付け加えて‥‥作戦会議は十分もしないうちに終了した。 「ちっ‥‥折角のオアシスなのに、水浴びする美女はいねぇのか?」 空から問題のオアシスを眺め壬弥が言う。 地上では、現在オアシス保護の為の布被せ作業が行われている。 「なんで私がこんな事っ!」 土木作業要員じゃないのよとアーマーの中で呟きながら、被せた布の上に持参した石を置いていく。 「やはり少し地盤が悪いな」 地上で戦うメンバーは慣れない足場の感覚を確かめて――。 「お足があちちなのにゃ」 忙しなく足を上げ下げしながらポチが言う。焼けた砂、靴をはかない猫又にはかなり厳しい。 「俺の肩に乗れ」 そこで一抹が優しさを見せた。その言葉に瞳を輝かせ、すぐさま駆け上る。 「ちょっと、藍玉〜!!」 その様子を見て、藍玉も真似をしたから困りものである。 猫又よりも地面への接地面が多いミズチ――腹の辺りはさぞ熱かろう。自分も〜と訴え、乃木亜にしがみ付き登ろうと必死に体を擦り付ける。けれど、登れる筈もなく、 どてっ 懸命に止めようとした彼女であったが、アタックに負けて転倒した。 「何か楽しそうです‥‥」 戯れる光景を見てセシリアが言う。 「あなたはあなたでしょ。お子様じゃないんだから」 「そうだけど‥‥」 少し羨ましく思ったのだろうが、クールに返され残念げだ。 「これで我慢して‥‥ね?」 まだ縋り付いてくる藍玉に氷霊結で氷を作って、乃木亜はほっと一息つく。 「大変だな、おまえも」 ぽむっと置かれた手に視線を上げれば、そこにはウルグとその後ろに隠れるシャリアの姿があった。 「その子も甘えん坊なんですか?」 「ああ、ついでに人見知りもあって‥‥この通りだ」 苦笑を浮かべつつ言う彼であるが、決して嫌っている訳ではないようだ。 「よし、こっちは準備完了。そっちは?」 「OKよ」 そして、リィムナとシルビアが作業を終えて、いよいよ作戦の火蓋は切って落とされる。 ●ご対面 ずどぉーーーん 「どうよ、このパワーー!!」 燦々と輝く空の下、金色の機体が大地を揺らす。 ただ、砂であるから衝撃は吸収されて大きく振動する事はない。 「こっないかな〜、こっないかな〜」 その近くでは自前の対砂蟲用釣具を前にリィムナが喜々としていた。 その釣具と言うのは、至ってシンプルなもので荒縄にブレスレットベルをつけたに過ぎない。音に反応し、喰らいついた所を引っ張り上げる腹心算らしい。 ゴゴゴゴゴーー 地中深くの唸り‥‥。 ギャーギャー それに気付いたサジタリオ。やはり開拓者よりケモノの類いの方が敏感らしい。烈火や他の龍達も僅かに表情を変え警戒している。 「くるんだな、定國‥‥最初から全力でいけよ!!」 グゴゴゴゴォーー 手にした槍に酒を吹きかけ壬弥も気合を入れて‥‥まさにその時だった。 どごぉぉぉぉん 顔出しと同時に、挨拶とばかりに放たれたのは爆砂砲。天空高く砂塵が舞う。巨体だというのに、その俊敏な動きは予想以上だ。鈴の音を掻き消して、大きな口は荒縄等気にする事無く、全てを飲み込んでゆく。 「うっしゃ、フィッーーーーシュ!!」 掛かったとばかりに大地をしっかり踏み締め踏ん張るリィムナであるが、いかんせ足場が砂と言う事もあり力が入らない。引き上げるどころか急激に引き込まれていく。 「縄を離せ!!」 誰かが叫んだ。けれど、彼女にも意地がある。 「あたしの豪快一本釣りの称号は伊達じゃないんだからね!! くらえっ、アークブラスト!!」 片方の手を高々と上げて宣言し、砂蟲の頭上には激しい閃光――サンダーの上位版であるそれがもろに砂蟲を直撃する。しかし、悲鳴を上げたかに見られた砂蟲だったが、思った程は堪えていないようだった。暑さと砂から皮膚を守る為、相当頑丈に出来ているらしい。それどころは圧倒的なパワーを見せ付けて、動きを緩めず砂の中へと引きずり込んでゆく。 「セシリア、お願い」 「わかったわ」 引き込まれかけているリィムナを前にリゼットの指示を出せば、率先してセシリアが前に出る。 「援護します」 それに乃木亜・藍玉が参戦した。溶けかけた氷の上から藍玉が水牢を発動し足止めを狙う。そして、セシリアには乃木亜が神楽舞『速』で支援する。何度もかけ続ければ、次第と効力は上がっていく。 「これでも喰らいなっ!!」 そこに上空からの壬弥の攻撃が冴えて渡る。スタンピードで速度を速めチャージで攻撃を補助、平正眼からの雪折の一閃。手にしていたのは槍だけではなく、腰には刀を差していた壬弥である。流れるような一連の動きで、砂蟲の胴を斬ってみせた。何度も修羅場を潜って来た彼らだからこそ出来た技――冷静な判断に迷いのない一撃。 「おい、今のうちだ!!」 「はい!」 その声に答えてセシリアが見事に縄を切断した。 「ごめん、ありがとう」 短く礼を言うリィムナににこりと微笑を返す彼女。なんて表情豊かなのだろう。 「悠長な事をしている場合ではないぞ!! もしかしたらもう一匹いるかもしれん」 情報によれば砂蟲同士でも縄張りを巡って殺(や)り合うとの事。突如現れ始めたのなら、その可能性も否定出来ない。 「俺らもいくぞ!」 グゴォォォォ シュヴァリエの言葉に答えてドミニオンが滑空を始める。駿龍ならではの高速飛行を駆使して、弾丸を思わせる速さで距離を詰めれば、すでにシュヴァリエはオーラを纏い準備万端。そして、血肉を切り裂く鋭く鈍い音に確かな手応え‥‥彼らは壬弥とは逆側の肉を斬り裂き離脱する。 「やっぱり龍は機動力が違うな」 ぼんやり空を眺め言う一抹に、 「ごっご主人!! そんな事言ってる場合じゃないのにゃ〜〜!!」 ポチは何やら悲鳴を上げてツッコむのだった。 ●縄張り 空からの攻撃が続く中、地上班とて黙っていた訳ではない。 しかし、思わぬ珍客の相手をする羽目になり、動けずにいた。 その客と言うのは、シュラムと呼ばれる砂に擬態するスライムの一種である。ぽこぽこと跳ね出てくるそれに仰天し、藍玉など脅えて乃木亜の後ろに隠れてしまっている。 「こんな情報聞いてなかったが‥‥面倒だなっ」 シャリアと共に空に移動し、それを見取って援護に入ったウルグ。 一体一体はさほど大きくないのだが、それゆえに狙いを定めるのは難しい。シャリアには安定飛行の指示を出し、彼は狙撃に専念する。シャリア自身もクロスボウを持ってはいるが、砂蟲の攻撃を避けつつとなると難しいらしい。 「雑魚が纏わり付いてくるんじゃないわよっ!」 アーマーに取り付くシュラムを必死で振り払いながらシルビアが叫ぶ。しかし、思いの他粘着率が高く、取り剥すのにも一苦労だ。 「ここは私が」 それを見取って、リゼットが後方からフローズで一旦固めに入る。 だが、相手も黙ってはいなかった。単体では分が悪いと悟ったのか、シュラムは一所に集まり始め質量を増やして‥‥更なる変貌を遂げたのだ。 「これはまた‥‥砂蟲といい勝負だな」 数百はいたシュラムが終結し一個の個体となって、大きさはギルドの建物に匹敵するかもしれない。それを下から眺めて一抹が呟く。ぴょんと一回跳ねたそれは凄まじい砂塵を巻き上げ視界を奪う。砂蟲と巨大シュラム‥‥どちらも厄介な相手である。 「おお! 大物だねっ!!」 しかし、彼らも開拓者――相手が何であれまだ策があるのなら最後まで諦めない。 リィムナが愛称・サジ太を呼び寄せ同化する。 「いっくよ、鬼さんこちらぁ!」 そして、彼女は走り出した。足に同化したサジ太と共に目指すは彼女自身が仕掛けた罠だ。もう一セット用意していたらしく鈴のついた縄を手に風のような速さで走り抜ける。 「まだアレがあったか‥‥なら、もう一捻りするべきだな」 シュラムと砂蟲の位置関係を見取り、一抹がポチをわし掴んで、 「ご、ご主人‥‥これはまさか」 「あぁ、アレの出番だと伝えてこい」 「うにゃああああ!!!」 内容もそこそこに彼はポチを雫に向って投げる。 「どうしたというのだ?」 飛ばされてきたポチをキャッチして彼女が問えば、 「焙烙玉を、シュラムに、落としてほ‥‥がくっ」 「シュラムに?」 本来の予定とは違う標的に、しかし、考えあっての事だろう。 「わかった。お願い、烈火‥‥」 下げていた袋からそれを取り出し、彼女は焙烙玉に火を付け相棒に託す。すると、心得たとばかりに烈火は飛び立ち、一目散にシュラムの元へと向かっていく。 (「一体何をするつもりだ」) それを見て空班が心中で呟いた。俄かに浮き足立った地上班。その中で彼が珍しく指示を飛ばしているのだ。ある意味お手並み拝見である。 そんな動きになっているとは露知らず、リィムナは砂蟲の罠への誘導を狙っていた。 だが、そこへ向かわせる最短ルートにはシュラムが邪魔をしているようで思うようにはいかない。砂塵の中に潜って移動してくれれば助かるのだが、どうもその気はないようで微妙な状態である。 「皆、一旦罠の後ろに退避しろ」 声を荒らげることなく一抹が言う。その間も音を頼りに口をうろうろさせている砂蟲と、巧みに分離と合体を繰り返し攻撃を繰り返すシュラム。そこへ烈火が到着し、火のついた焙烙玉を落とし込む。場所は丁度シュラムの真ん中だった。そして、 どごぉぉぉぉぉん 弾力のある体の一部が弾け飛んだ。まるで潰れたゼリーのように‥‥飛んだ破片は散り散りに瘴気に還っていく。その後見えたのは赤く丸い塊――そう、核だ。 「あれねっ!!」 そう言って突進しようとしたシルビアだが、先にすり抜けた影にびくりとする。 怒涛の勢いで突き進み、ばくりと喰らいついたのは砂蟲だった。 「うわ‥‥すごっ」 核を半分に引きちぎり飲み込む。それを前に思わずリィムナは声を出す。しかし、悠長に見ている場合ではない。核を飲み込むと同時に、そのままその先の砂場に潜ろうと体をうねらせる。 「よしっ!」 だか、それは狙い通りで――なぜなら、そこには吹雪の罠が仕掛けられていたからだ。 「今度こそ、やらせて貰うわよっ! ゲートクラッシュ!!」 動きを止めていたシルビアであったが、隙を見たりとアーマーで迫り重い一撃をお見舞いする。その後は皆の一斉攻撃――シュラムが砂蟲により撃破されたこともあり、形勢は有利に運ぶ。上と下、同時に攻められては流石の砂蟲も対処のしようがない。 藍玉の水柱に、定國のラッシュフライトからの壬弥の平突。烈火の風斬波に肉を裂かれ、そこを狙ってウルグのマスケットが唸りを上げる。そして、最後はあの二人だった。 「ドミノ、焼き尽くせ!」 ぐごぉぉぉぉ 自信過剰とは言わせないとばかりに、派手に火炎を撒き散らし砂蟲は巨大な火柱と化す。 「終わったか」 それを見取って、一抹は構えていた賊刀を降ろすのだった。 ●砂蟲の使い道 戦いは終わった。 あれだけ暴れていたのだ。もし、他にも砂蟲が居たのだとすれば音に気付いて出てくる筈である。――となると、ここに出現したとされる砂蟲は一匹だけだったという事だ。それにさっきのあの行動からするに、もしかしたら縄張り争いの相手はあのシュラムだったのかもしれない。 「音に喰らいく‥‥か。何はともあれうまくいったな」 音におびき寄せ襲わせる。一抹がそこまで考えていたのかは分からないが、討伐完了である。 「もう、くたくたよ‥‥砂漠でアーマーは暑過ぎるわ」 ほっとしたのかはたまたアーマーが太陽光で熱され蒸し風呂状態にでもなっていたのか、ふらつきながらえらい装備のシルビアが這い出してくる。 ピィ、ピィ〜〜 その横では同様にのびている藍玉の姿があった。もともとミズチは水属性――水分を持っていかれ、一回り萎んだ様にも見える。 「あの、暑さに慣れてないので動き過ぎると身体を壊してしまいますし、少し休んで行きませんか?」 それを見越して乃木亜が進言する。 「賛成です、私もくたくた」 と、それに賛同して手を上げたのはセシリアだ。 「あら、いい色だこと‥‥」 くすりと笑って彼女に触れようとしたリゼットだが、思わぬ熱さに手を引っ込める。 「なら、オアシスに戻るか」 ウルグの言葉に皆が頷いた。 「して、あれはどうするね?」 焦げてしまった砂蟲に視線を送り、壬弥が問う。 「そうだな。あのでかさでは運ぶのは難しいが、一部くらいなら持って帰れるか?」 じっくりと思案して、見えている口の部分から2m程の位置で刀を構え両断する。 「うむ、お見事」 その刀捌きに雫が言葉した。支給品である賊刀で、あれ程の切れ味‥‥改めてわからない人だと思う。 「すまんが、そこの三匹‥‥これを引っ張って帰る気はないか?」 重量にしてどのくらいかわからないが、オアシスに被せていた布に包みつつ、一抹が龍に問う。だが、三匹はそんな気がある筈もなく、知らん顔。 「なら、ポチ‥‥お前が」 「無理にゃ!!」 砂まみれになりながらポチも即答。 「くそっ、仕方ないな」 そこで彼は空を見上げ笛を吹いた。 すると暫くの後、彼が予めチャーターしていたらしい飛空船が姿を現す。 (「本気だったんだ」) それを見て心中皆が呟く中、一方では――。 「なあ、定國‥‥砂蟲、食えるのかね?」 などと‥‥相棒に真剣に問う男がいる。 彼の名は黎乃壬弥――もうすぐ四十を迎える。 その後――報酬を受け取り、持ち帰った砂蟲はある漁港に運ばれて――。 「ご主人? まさかこの為に」 次の依頼に入ったらしい一抹を見上げポチが問う。 「あぁ、因縁の対決‥‥というやつだ。巨大アヤカシアンコウとのな」 「巨大アンコウ?」 いつになく好戦的な笑みを浮かべて言う一抹に首を傾げるポチ。 何があったのかは知らないポチであるが、 (「ま、よくわからにゃいけど、なんか生き生きしてるにゃ♪」) そんな一抹の姿が嬉しくて、ポチも彼の見る海へと視線を向ける。 この後、その対決が一体どうなったかは定かではないが‥‥。 ただ、チャーターやら何やらで彼らの儲けがなかった事は言うまでもない。 |