【罠師】老人と山賊
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/31 00:33



■オープニング本文

「え、マジで‥‥」
 里に戻ったキサイを待っていたのは、まさかの解雇宣告だった。
 と言っても実際は少し語弊がある。罠師と言う職業は職人に分類されるものであり、どこかに属し雇われているという訳ではない。しいていえば彼の場合、里の立場上朝廷に仕えていると言えなくもないが、正式なものではない。
 では、何を解雇されたのか? それは、弟子としての立場である。
「え〜〜とそれはつまり独立しろと言う事ですか?」
 混乱する頭を必至で整理して、キサイが問う。
「ああ‥‥以前から思っていた事だったが、今回正式にお許しが出た。もう、お前も二十歳だ。講師もとりあえず勤め上げた事もある。好きにするといい」
「けど、お‥‥いや、私は一昨日の依頼でも失敗しましたし‥‥」
 帰るのを遅らせてまで着手した依頼――その結果が芳しくなかった事を報告して、少し悔しそうな表情を見せる。勿論相手は新種のアヤカシであったし、加えて上級アヤカシだったとはいえ失敗は失敗であり、まだまだ未熟だったと痛感したばかりだ。
「なんだ、独立するのが嫌なのか? あれだけぶつぶつ言っていたではないか?」
「それは、その‥‥」
「歯切れが悪いな、おまえは。なら、どうしてほしいのだ?」
 彼としっかり向き合う形で師匠が問う。
「‥‥‥わかりません。ただ、まだ少し消化不良で」
「そうか。なら、旅に出てはどうだ? 自分を知るいい機会になるかもしれん」
「は、はぁ」
 唐突な提案であるが、興味がないと言えば嘘になる。暫く考えた後、出発を決意する。
「あ、言っておくが資金は出ないからな。その都度自分でどうにかするように」
「それくらいは判ってます!」
 親のような事を言う師匠にそう答えて、彼は早速身支度を始めるのだった。


 そして、出発早々事件は起こる。それは恥ずかしながら山賊との遭遇だった。
「くそくそくそっ!!」
 ギルドの窓口を半ば八つ当たり気味に叩いて、若干窓口が困惑している。
「あ、あの〜お気持ちは判りますが落ち着いて下さいね。周りへの迷惑にもなりますので」
「あ、ごめん‥‥いや、悪かった。あ〜〜と、それで依頼は受けてくれるのか?」
 こほんと咳払いを一つして、キサイが問う。
「えぇと、お受けは出来ますがそれなりの額が必要で‥‥」
「それはわかってる。けど、今は払えない。金は荷物の中なんだ‥‥だから後払いで頼む!!」
「しかし、それは‥‥」
 拝むように頼まれて、窓口はとりあえず経緯を確認に入る。
 キサイの話では、山を越えようとしていた時の事だったと言う。
 持病の癪で地面に倒れていた老人がいた。時間は夜の零時を回っており、人気はなく通りかかったのは彼だけだったし、近付けばその老人の呼吸は絶え絶え――今にも天に召されそうだった為、処置をせねばと荷物を置いて彼の看病に当たったと言う。しかし、それがまずかった。しばらくして、持参した里の薬が効果を発揮し顔色もよくなり始め、ホッとした所を山賊に襲われたと言う事だ。
「爺さんを庇って戦って、追い払ったと思ったら俺の荷物は持ってかれてたんだ‥‥」
 キサイが悔しげに奥歯を噛み、窓口に告げる。
「しかも、あれだぜ。気付いたら庇ってやってたじじぃもいつの間にかいなくなってたんだ‥‥あれは絶対グルだ。ちくしょう、俺としたことが」
 罠師というのにまんまと騙されたとあって、更に表情が険しくなる。
「老人と山賊‥‥っと、ちょっと待って下さい! そういえばそんな話、他にも聞いた気がします!!」
 それをふと思い出して、ばたばた書類の束に走る窓口。
 それを傍観して待てば、どうやら他にも何件か同様の被害が出ているようだ。
「この依頼の被害内容と同じなのでは?」
 探し出した依頼書をキサイに差し出し確認を求める。
「‥‥あぁ、間違いない。ふう、助かったぜ。これで依頼料払わなくて済む」
「え?」
「この依頼、俺も受けるぜ。依頼申請はなし。参加手続きに切り変えで」
 含みのある笑みを見せてキサイが言う。
(「自分のもんは自分で取り返す! あのじじぃ、見てやがれ!!」)
 彼の心中ではふつふつと復讐の炎が燃え上がる。
「わ、わかりました‥‥それでは手続きに入りましょう」
 そんな表情を間近でみせられ、窓口は困惑しつつ手続きに入るのだった。


■参加者一覧
周藤・雫(ia0685
17歳・女・志
クロウ(ia1278
15歳・男・陰
ラクチフローラ(ia7627
16歳・女・泰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
レオン=アランカドラス(ib5852
16歳・女・魔
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
ジク・ローアスカイ(ib6382
22歳・男・砲


■リプレイ本文

●心境
「これでいいか?」
 キサイがそう言ってギルド前に荷車を止める。
 山賊が人の良心に付け込んで荷物を騙し取っている‥‥死人こそ出ていないが、手口は蹲る人影に気を取られているうちに鈍器で殴打し、荷物を奪っていくと言うのだから卑怯極まりない。唯一、やられなかったキサイであるが荷物を取られているのだから被害者の一人である。そこで彼らが山賊達を捕らえる為考えた作戦はと言えば、尤もシンプルなものだった。それは、

「こう言った場合はやはり、囮を使って誘き出すのが定石だな」

 表情一つ変えず提言した琥龍蒼羅(ib0214)の作戦。
 それに皆が同意し、早速準備に入る。
「生け捕りって事だし、盗賊なんてありふれた悪党を懲らしめるのはちょちょいのちょいだけど一工夫ってところ、かな」
 依頼書のそれを確認してラクチフローラ(ia7627)が言う。
「相手はご老人と言うし、何らかの理由があるんだろーけど、人助けしようとする優しい心を利用するのは良くないね」
 とこれはレオン=アランカドラス(ib5852)――彼女は相手の動機に目を向けているようだ。
(「ちぇ‥‥盗賊とかそういう輩は死ねばいいのに」)
 過去の一件からそう思うクロウ(ia1278)であるが、ここは口に出さずに留めておく。
「しかし、通常盗賊と言う者は後の憂いを絶つ為にも、目撃者を攫うか始末する筈だが‥‥その行動、興味深い、ね」
 そう言って思考の海に潜っているのは今回が初依頼となるジク・ローアスカイ(ib6382)だった。彼の源動力は好奇心らしく気になり出すとどこまでも追求せずにはおれないらしい。
「初仕事からこの巡り会い‥‥キサイさん、素敵な人」
 そんな中で、何処か違ったベクトルが働いているのは各務英流(ib6372)だ。彼女の瞳はキサイを捕らえて離さない。
「あ〜〜と、俺は何をすればいい?」
 その熱い視線を感じて、キサイは困っていた。里では修行の日々に追われこういった経験はないらしい。
「あ、なら俺と同じ追跡役なー。顔知られてるだろうし」
「じゃあじゃあ、神音は使用人の役で行くねー!」
「では、私は護衛という役回りでいかせてもらいます」
 そうこうするうちに話はスムーズに纏まって、荷車の護衛に周藤・雫(ia0685)と英流が、使用人にラクチフローラと石動神音(ib2662)が、そして商人にジクが扮し、付き添いとして修道女・レオンが付く事となる。
「貴方の為に、頑張ります‥‥」
 出発前に固く手を握って、乙女回路にぬかりはない英流なのだった。



 時は夜――満天の星空に月が輝き、旅人の夜道にはなかなかないい夜である。そんな日にがらがらと車輪の音を響かせながら、偽商隊は穏やかな道を進んでゆく。
「急な事とはいえいい夜、だ」
 紫の髪が月明かりに映え、服装もそれらしくジクの商人姿ははまっている。
「そうですね、ジ」
「ああ、若旦那と呼んでくれて構わない、よ」
 名前で呼びかけた雫だったが、それに被せる形で演技を続ける彼。時折心眼を使用し警戒する雫であるが、今のところ山賊の気配はない。見受けられるのは彼らを見守りつつ後を付けている追跡班の面子だけだ。

 そして暫く歩いて‥‥彼らは詳細と同じ状況に遭遇する。
「おじーさん、大丈夫?」
「どうかされましたか、ご老人?」
 山道に蹲る人影を見つけ、彼らは歩みを止める。目深にフードを被っている為、顔は見えないがちらりと見えるのは長くのびた白い髭。咳き込む声もしわがれている。辺りを警戒しつつも普通を装って尋ねる二人であるが、神音は背拳の準備をし、レオンは奇襲に備えている。
「おお、ご老人! どうされた、か?」
 ジクも一旦車を降り大袈裟に近寄れば、僅かに見えた口元が――笑っていた。それと同時に彼らを囲む人の群れ。重量のある棍棒が握られている。
「年端もいかぬ娘子達もいるんだ、命ばかりは‥‥ぐはっ!」
「あぁ、神よお助け下さいませー!」
「きゃあああ!!」 
 口々に悲鳴を上げるが、彼らは容赦なく棍棒を振り翳す。
「ちっ、コレまでかっ!」
 そして、最期まで粘った雫だったが、とうとう彼らの餌食となる。
「ふっ、ちょろいぜ」
 山賊の一人が言った言葉――
 しかし、それは彼らが言えた言葉でなかった事に気付く由もなかった。



●出会ってみれば
「何か違う気がする」
 自分の時と差異を感じてキサイが呟く。
「どっちにしても捕まえればわかること。後を追いましょう」
 そう言って商隊のメンバーに武器を返し蒼羅が先を急ぐ。
 囮班は殴られたかのように装ってはいたが、実のところうまく急所を回避している為、特に支障はない。追跡班は後から来る面子にわかるよう印を残しながら、荷車を押す山賊達の後をつける。
「爺さんにしては体力あるなー」
 車を引く腕は逞しく背筋の通った歩き方‥‥どうみても老人のようには思えない。
「まさか、あれは」
「どういうことだよ? 俺が襲撃食らった時は確かにじじいだったぜ?」
 蒼羅が言いかけた言葉の先を察して、キサイが言う。
「どっちでもいいんじゃんさー、相手は盗人。歳なんてどうでもいいよー」
 そのやり取りに若干呆れて、クロウは一人歩みを速めた。言葉こそいつもの調子だったが、瞳には黒い影を落として‥‥それほどまでに彼の盗賊に対する憎悪は強いらしい。それを感じ取って、二人もペースを速める。

 そして、早々とアジト前に到着したクロウは早速調査に入った。
 突入までに中の状態を把握しておこうと人魂を飛ばして、山賊達のアジトは砦のような造りになっていた。まずは周囲を取り囲む背の高い木を繋げて立てた塀――それを乗り越え中に入れば、そこには遊牧民が使いそうないくつかテントが存在し、ちゃんとした小屋は一つのみだ。しかも、外敵の侵入は余り警戒していないらしく、その小屋の扉には鍵がついていない。それをいい事に人魂を忍び込ませると、そこには一人の老人の姿がある。蝋燭を片手に倉庫であろうこの小屋でじっと戦利品を見つめている。
(「一体何を?」)
 そう思いかけたその時、老人はくるりと振り返った。
 そして、あろう事かクロウの人魂が隠れている方向をじっと見据えている。
(「ばれたか?」)
 一瞬焦りはしたが、老人は暫く見つめた後またごそごそと動き始める。
(「ま、まさかな‥‥」)
 彼はそれにほっと胸を撫で下し、人魂を解除した。

「どうかしたのか?」
 その微妙な変化を察して、追いついた蒼羅が問う。
「いやー、何も。数は多いけど問題なーし。荷物の位置もばっちりだからいつでもどうぞー」
「俺の、俺の荷物は!」
 問うキサイに、けれど彼が答える前に囮班が到着し返答は得られない。
「さっ、じゃあいっちょ暴れるよー」
 全員揃ったのを確認して、神音の一声で彼らは強行を開始するのだった。


「けっ、しけてやがるぜ」
 一方、山賊はそんな事になど露知らず、運んできた荷台を前に悪態を付いていた。それもその筈、荷台に積んでいたものが米とガラクタに等しい武器ばかり‥‥彼らでなくともがっかりするのは当たり前である。
「何がしけておるのかのう‥‥?」
 ――とそこへやってきてのはさっき倉庫にいたらしい老人だ。
「はっ、老いぼれにもう様はねえんだよっ」
「ほほう、いいのか? そんなこと言うて‥‥」
 蔑んだ態度を取る若者達に老人は冷静に思わせ振りな言葉を残す。
「何が出来るって言うんだよっ、隠居じじぃは帰って寝てろ」
『そーだ、そーだ!』
 そして口々に浴びせられる罵声――しかし、老人は落ち着いたものだ。
「そうかの。では、外のお客さんどうするのかの?」
 その思わぬ言葉にはっとして、若者達がざわめき出す。
「‥‥なんだよ、お客さんって‥‥」
「おや、気付かんかったか‥‥お前達が連れてき」

   どごぉぉぉぉん

「まっ、精々頑張る事じゃな」
 言葉がかき消されたが、そんな事を気にする事もなくそう告げて、彼は慌てふためく若者を前にすっと姿を隠すのだった。


 それは晴天の霹靂の如く打ち落とされたレオンのサンダーだった。
「雷は『神鳴り』 あんたたちのやっとこと、カミサマは見逃さないんだよっ!」
 頑丈な筈の丸太扉も彼女のそれにかかれば亀裂が入り、そこに間髪入れず打ち込まれたのは泰拳士二人の渾身の一撃――ラクチフローラの空気撃と神音の爆砕拳で扉が吹き飛ぶ。
「なっ、なんだとっ!! お前はさっきの」
 破片と共に舞い上がる土煙の奥にジクの姿を見つけて山賊の一人が言葉する。
「さて、先程は世話になった、ね。借りは変えさせてもらう、よ」
 そんな彼に火縄銃を突きつけて、爽やかに笑って見せる。
「こんなのもあるんだよっ」
 ――とその後ろからスカートを捲り上げ取り出した短筒を構えてレオンが言う。
 それに武装シスターってどうよっ!と突っ込む者がいたが、あっさりやられてしまい彼女には届かない。
「それなりに手加減はするぜー?‥‥それなりには」
 そう言って黒い笑みを浮かべて、斬撃符を飛ばしているのは勿論クロウだ。
 言葉とは裏腹に容赦ない攻撃が山賊達を襲う。
「とりあえずやっちゃうよー」
「武器を持ってかかってくるなら手加減はしないからそのつもりで」
 そして、真っ先に入った神音とラクチフローラは各々百虎箭疾歩やら荒鷹陣をうまく駆使して捕縛にかかる。
 そんな中、倉庫を目指しているのはキサイだった。雫のサポートを受けて小屋へ向かう。
「無闇な殺生はしたくありません‥‥寝てて下さい」
 小屋への進路に立ちはだかる輩を前に雫が言う。そして、初手を雪折で牽制すれば力の差を見せ付けられ逃げ腰になる山賊達――。砦を捨てて落ち延び様と扉に向かう者には蒼羅の手裏剣が飛ぶ。
「理由がどうあれ、逃がす訳にはいかんな」
 足元を狙ったそれは見事な命中率だった。それでも回避し逃げる者には最期の砦――英流が立ちはだかる。シノビ流体術を駆使して、もう観念しなさいと呼びかける。
 そんなこんなで、あっと言う間に山賊はお縄に付く事となった。野外の一所に纏められ、神音持参の荒縄で縛り上げればおとなしいものだ。
「これで全部のようだな」
「ありましたか?」
 倉庫から出てくるキサイを見つけ英流が尋ねる。しかし、彼の表情は芳しくない。
「そういえば、おじいさんな人いないね」
 そこで始めてそれに気付いて一同も首を傾げる。
「けど、さっき倉庫では一人見たぜー」
 人魂での調査――あれは夢ではないだろう。
「はっ、何を探してるのかしらねぇが、俺らは大物しか狙わねぇぜ?」
 ――とそこで一人の山賊が言葉して、更に謎が深まってゆく。
「ふぉふぉふぉ、大物じゃと? 笑わせてくれるは‥‥人を殺す度胸も無い癖にの」
 その声にはっして皆が振り返れば、そこにはキサイの荷物を持った一人の老人の姿があるのだった。


●絡み合った勘違い
「はて、何処から話すべきかのう‥‥」
 まるで子供に昔話を聞かせるように老人が言葉する。
 彼は以前シノビをやっていたらしかった。けれど、体力の限界を感じ、己の技を後世に残したいと仲間と共に弟子を募った。そして数ヶ月前、その訓練は完了し彼らは隠居したのだと言う。
 しかし、その後善からぬ噂が立ち始める。老人に成り済ましての卑怯な手口――敵を欺く法としてそういうのが無い訳ではない。始めは気にしていなかったが、徐々にそれが彼らの弟子の行いである事を知って、動かざる得なくなる。己の技を盗賊稼業に利用されたのだ。
「がっかりじゃった‥‥筋はいいものをこんな事に使うとは」
 はぁと息を吐き出し老人が続ける。
「だからの。こやつら成敗しようと思ったんじゃ! しかし、顔は割れておるから簡単にはいかん。アジトを着き止め懲らしめた後役所にと思ったんじゃが、思わぬ事態が起こってしもうた」
「思わぬ、事態?」
「そう、それは‥‥留さんの心臓発作じゃ」
『発作っ?!』
 その言葉に聞いて開拓者は驚き、若者達には苦笑が混じる。
「そこ笑うでない! 久々じゃったからのう‥‥山中を駆け回り身体に負担をかけてしまったらしい。皆で来る筈が、色々あってここに来たのはわしだけじゃ」
「‥‥って事は、あれか? 俺が出会った爺さんは本家本元で具合が悪かったと?」
 意外な真実を目の当たりにして、キサイが目を丸くする。
「そうじゃあ。おまえさんは留さんの命の恩人じゃよ」
 そう言われて納得しかけた彼だったが、ふとおかしな点が浮上する。それは勿論『なぜ、あの後荷物を奪ったのか』というところだ。
「あれは些細な間違いじゃ。おぬし、鈴鹿のシノビじゃの。その包み‥‥留さんもそうじゃ。鈴鹿特有の施しがある。だから留さんのものだと思ったんじゃよ」
 その言葉に仲間がキサイに確認すれば、確かにそうらしく静かに頷いてみせる。
「けど、キサイおにーさんは襲われたって?」
「あれも勘違いじゃ。留さんは青い顔で蹲り、おまえさんは傍にいた。だから、わしらはおまえさんが襲ったと思ったんじゃ。じゃが、途中で違う事に気付いての‥‥だから、何もせんかったじゃろ?」
「なんだよ、それ‥‥」
 事の真相が重なり合った勘違いの産物だったと知り、一同も苦笑を浮かべる。
「あの時逃げたのが間違いじゃった。薬を取りに戻らんとと思っての。すまん」
 そこで老人がぺこりと頭を下げる。
「ええ〜とつまりは商人をやったのはこちらの若者達であると、そういう事ですね?」
「あぁそうじゃ」
「――と言う事は一件落着です、か?」
 なんだかしっくりこない結果ではあるが、山賊を捕まえ倉庫の物を返えせばそれで依頼は完了である。
「いやっすまんかったのぅ。わしも歳じゃし、こういうのは若いもんがするに限る。こやつらの後の事はよろしゅのう」
 爽やかにそう言って老人は荷物をキサイに返し、仙人を思わせる身のこなしでふっと姿を消して見せる。
「あれならまだ十分いけると思いますけど」
 そんな彼を見送って開拓者は山を降りるのだった。


 そして、山賊達と荷物をギルドに引渡し、各々ロビーで一服する。
「なかなか面白い人に会えました、ね。実に興味深い」
 今回の事件を振り返り、満足げな表情を浮かべてジクが言う。
「なんかややこしい事件だったなー」
 山賊の処罰が気になりつつも、クロウの表情は明るい。
「山賊は別としてあの老人は相当なものだったな」
 折角弟子になったと言うのに、あの若者達は勿体無いとは蒼羅は思う。
「しかし、キサイの事件と一連ものとの差異に気付けなかったのは誤算でした」
 手口や状況が似ていた事にあって、そこまで気付けなかった彼らである。
「ま、いいじゃない。すーぱーおじーちゃんに会えたんだし、他の人にも会いたかったかも」
 神音は前向きにそんな事を考え、英流はじっとキサイの横に寄り添って、
「私の仕事ぶり、いかがでした?」
 と笑顔でのアタックが続いている。
「全く、何をやっているんだか」
 それを傍観しながら、各々仕事終わりの余韻を楽しむのだった。