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■オープニング本文 「ひーろーもいいけど、みっちゃんはやっぱりお姫様がいい」 節分が無事終了し、少しずつ春に近付くこの季節――神社の近くには梅の花がちらほら咲き始めている。 そんな日の午後、石段に座って‥‥もふらのぬいぐるみを抱いた少女・みっちゃんは少し顔を赤らめてそう言った。 「そいえば、もうすぐひなまつり」 その横にいた太郎がぽつりと呟く。みっちゃんを挟む形で逆サイドには巽の姿もある。 「ひなまつりってあれだろ? 甘酒のむ日」 「違うもん! 女の子がお姫様になれる日だもん!!」 冗談なのか、はたまた本気だったのか‥‥そう答えた巽を全力で否定するみっちゃん。 「姫様って‥‥なれるわけないじゃん。俺らふつーの子供だぞ」 「なれるもん!」 「どうやって?」 「ひなまつりは女の子のせっくなんだもん!! なれうっていったらなれうんだからっ!!」 必死に言葉するうちに、何処か舌足らずな発音になっている。 「何、そんなひっしになってるんだ? たかがひなまつりじゃん」 『たかが』雛祭り――されど、雛祭り。みっちゃんの心にぐさりと矢が突き刺さる。 「いいもん! そんなこという巽ちゃにはおもちもあらえもあげないもん!」 「あらえ?」 「あられ‥‥のことだと思う」 その言葉に冷静に太郎が通訳を加えている。 「巽ちゃのばかぁ〜〜!! いーーだっ!」 ぴょんっと石段から飛び降りて、みっちゃんはとてとて駆けて行く。 「‥‥俺、まずいこと言った?」 巽の言葉に太郎も首を傾げるばかりだった。 そして、数日が過ぎた。 「なぁもうゆるしてくれよぉ〜」 みっちゃんの家の前で巽が言う。いくら鍵かがかかっていないとはいえ、断りなしに入るのは気が引ける。それに、どうやら戸にはつっかえ棒をしているらしく、簡単には開かない。庭の方にもそれらしい仕掛けを施している。 「ねぇ、もう許してあげたら?」 みっちゃん母もそう娘に声をかけるが、彼女はむすっとしたままだ。 「だって巽ちゃ、みっちゃんがお姫様になれないっていったんだぉ!! ひなまつりだったらなれるのに‥‥ひどいもん!」 「けど、ほら‥‥本気じゃなかったと思うわよ? いつも仲良しさんだったじゃない?」 「もう、知らないもん!」 ふぅと頬を膨らませて、ぷいっと視線を逸らして見せる。 「はぁ‥‥全く意地っ張りな子ね‥‥そんなだったら、誰も相手にしてくれなくなっちゃうわよ?」 思わせ振りに母がそう言う。 「誰もって、おかぁさんもぉ?」 「そうねぇ〜どうかしら?」 「やだ!! おかぁさんはみっちゃんの味方でいてくれなきゃやだぁ〜」 ぱっと立ち上がり、母に抱きついて訴える彼女。 「たつっち、また今度にしよ」 そんなやり取りがあったとは露知らず、外では太郎がそう促して、 「ん‥‥わかった」 巽はしぶしぶその場を後にする。 「巽ちゃ!!」 その後、急いで戸を開けたが遅かった。そこにはもう二人の姿はない。 「‥‥どうしよう‥‥二人ともいっちゃった‥‥」 時間が経ち過ぎてしまった。意地を張っていたが為になかなかに切り出し辛い。 謝りたいのに謝れない日々が続いて、もうすぐ問題の雛祭りである。 『どうしたら、許してくれるかな?』 二人の心に浮かぶ言葉――それがずっと駆け巡り、一つの答えに辿り着く。それは、 『そうだ! 相手に喜んでもらおう』 切り出しにくい事もその雰囲気に包んでしまえば何とかなるかもしれない。 そこまで深く考えたかどうかはさておいて、二人は計画を練り始める。 「太郎、手伝ってくれ」 巽は太郎の手を引き、走り出す。 「おかぁさん、作り方教えてほしいの」 みっちゃんは母に助けを求め、台所に立った。 かくて、互いの計画が水面下で行われ始める。 そして、その実行日は勿論雛祭りの日になるのだった。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
水鏡 雪彼(ia1207)
17歳・女・陰
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
白 桜香(ib0392)
16歳・女・巫
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●助っ人の力 「さぁ、帰った帰った」 もう何件目が判らない店を訪れて‥‥巽と太郎が必至に布を集めて回る。 けれど、庶民は古着が基本でありそう簡単に譲ってくれる筈もなく、長屋の大人を頼りに何とか集めたものは端切ればかり。これでは継接ぎだらけの着物しか作れない。 「みっちゃん、これじゃあ喜ばないよな‥‥」 ばらばらの端切れを前に巽ががっくりと肩を落とす。 「どうしたの、二人共?」 ――と、そこへ声をかけたのは二人と馴染みのある弖志峰直羽(ia1884)だった。 「あ、直羽兄ちゃんだ」 その後ろにも視線を送れば数人の開拓者が二人を見つめている。 「その端切れは? 何か作るの?」 さも偶然を装って接近した彼らであるが、実は事情は予め知っていた。風の噂というのは案外広がるのが早いもので、三人の不仲を聞きつけてやってきたのだ。 「これで服‥‥作る。けど、ぼろぼろ」 「服? どんなのかしら?」 そっと視線を合わせるようにしゃがみ込んで万木・朱璃(ia0029)が問う。 「お姫様の服‥‥みっちゃんに着せるやつ」 「んー、何か事情がありそうだね」 「よかったら話してほしいでござりまする」 それを察して琉宇(ib1119)と寿々丸(ib3788)が促す。 「もう時間がないんだ! お願いします!」 事情を説明して二人が皆に頭を下げた。 子供らしからぬ行動――けれど、それが真剣さを物語っている。もとより手伝う気だった彼らはそれを快く引き受ける。そして、 「じゃあ桃の節句も近いし、みっちゃんをお雛様にしてみようと思うんだけど、どうかな? 巽君と太郎君はお内裏様って事で」 パチンとウインクをして皆に問えば、残りのメンバーも異存はないようだ。 「でも、そんな時間」 「そこはそれ、ここはお姉さん達にまかせなさい!」 胸を張って腕まくりをし、朱璃が答える。 「けど、布が」 「なら、これを使って‥‥俺には必要ないから」 そう言って薄絹の単衣を差し出したのは蓮蒼馬(ib5707)だ。まだ使われていないらしく、皺一つない。 「本当にいいの?」 子供ながらにそれが高いものだと悟って、おずおずと問う二人に彼はこくりと頷いてみせる。 「でしたら、周りの子も誘ってみましょう。折角のお祭りです。多い方が楽しいですし、皆ですれば早く終わるよ」 そう言って真亡・雫(ia0432)は早速近所の子供達を集めに走る。 「あ、けどみっちゃんには内緒にしたい。当日驚かせたいから」 その言葉に一同は同意し、内密に雛壇作りがみっちゃんの目の届かない所で開始される。長屋の子供達総出で、朝から晩まで――みんなが飽きてしまわないように‥‥琉宇が時折バイオリンを奏で安らぎを運んだ。そして、 「何とか間に合いそうね」 前日に雛壇を見上げて繕いを終えた朱璃がほっと言葉するのだった。 一方、みっちゃんもみっちゃんで巽と太郎の事を想い、日夜台所に立っていた。そんな彼女の横には助っ人として現れた水鏡雪彼(ia1207)と白桜香(ib0392)の姿がある。 「こんなのであられできるの?」 小さな丸麩を見つめてみっちゃんが問う。 「ご飯でも出来るんだけどね。こっちの方があられっぽいでしょう」 そう言ってそれを油で揚げるみっちゃん母に雪彼と桜香も目を丸くしている。 「油は危ないから揚がった後のを溶かした砂糖に絡める作業をお願いするわ」 そう言って砂糖の入った鍋と揚がった麩を渡され、三人は雛あられの作成に入る。 「おいしくなーれ、おいしくなーれ」 杓文字でゆっくりと回して、あられに砂糖を絡める彼女。それを微笑ましく見つめながら、桜香は鍋が倒れないよう押えている。 「みっちゃんは巽君と太郎君を招いてご馳走してあげるんですよね」 「うん。みっちゃんひどいこと言っちゃったから‥‥ごめん、するの」 じわりと目尻に涙を浮かべながら彼女は手を動かす。 「‥‥大丈夫ですよ。うんと美味しいものを作って皆で食べたら、きっと仲直り出来ますから」 「そうだよ。美味しいお菓子いっぱい作って、二人を喜ばせよ! あ、みっちゃんのお母さん。桜餅も作っていいよね」 優しく彼女の頭を桜香が撫でて、雪彼もそれを励ます。 「ええ、沢山作りましょう。余ればご近所さんに配ればいいですし」 「雪彼、今まで同世代のお友達いなかったから喧嘩した事ないけど‥‥みっちゃんは巽ちゃんと太郎ちゃんが大好きだから、自分の考えを分かって欲しいから怒ったんだよね?」 その問いにみっちゃんはこくりと頷いた。 「そうだよね。仲直りしたいって気持ちはいい事だよ」 彼女を横からぎゅっと抱きしめて、そう言った雪彼にみっちゃんも手を止め抱きしめ返す。そして、彼女が声をあげた。わぁと必至で堪えていた涙が積を切る。そんな彼女を見守りながら、料理班もゆっくりと準備は進んでゆくのだった。 ●第三の計画 「うへっ、できたぁ〜」 桜でんぶのついた手で額の汗を拭って、みっちゃんが満面の笑顔を浮かべる。 目の前には色とりどりの手作り料理――散らし寿司は勿論、桜餅に菱餅、雛あられにお澄ましと豪華絢爛な料理が並んでいる。中には少し歪なものもあったりするが、それはご愛嬌。当日には家事の得意な朱璃も助っ人に入って、滞りなく料理も完成したようだ。 「さぁ、後は二人を呼んでくるだけだね」 そう促せば、彼女は割烹着のまま駆け出していく。 「あらあら、あの子ったら」 それを見て母他女性陣がくすりと笑う。 「さて、こちらも最後の仕上げですね」 そうして、すぐさま次の準備に入る開拓者達――。 「こちらのお料理、移動させますね」 朱璃がそう言って、ばたばたと動き出す。今日は晴天――雛壇のある会場で食べようと言う事だろう。 ただし、その前にとっておきのサプライズが三人を待っている事を彼らはまだ知らない。 「そろそろです、蒼馬さん。準備頼みます」 「わかった」 最終の仕上げに入っていた蒼馬が連絡役の雫の言葉を受けて、こっそりとその場を抜け出す。手には節分の際に使用された鬼の面と蝙蝠外套が握られている。 「出来た!」 「完璧」 丁度その折、こちらの準備も完了したようだった。かなり大きな雛壇にボンボリやら牛車やらの小物までちゃんと再現されている。 「みっちゃん喜んでくれるかなぁ」 桜色に染めた薄絹の単衣を手に巽が呟く。 「たつっち、呼びに行く」 そんな彼に太郎が声をかけるが、まだ少し緊張しているらしい。 「ほら、巽殿。折角作ったのでございまする。なんなら、寿々もお供しまするから頑張りまする」 無邪気に笑って寿々丸が促す。 「時は無限じゃない。『今しか、ないかもしれない』そう思うといいと思うよ」 その横では雫も彼を後押しする。 「お、おう」 その言葉に勇気付けられて二人は彼女の許を目指し、その途中で三人は再会した。 手にはもふらのぬいぐるみ‥‥けれど、どちらもまだ切り出し辛いようで暫しの沈黙――。 「あのね、たつ‥‥うぅっ!!」 ようやくみっちゃんが口を開きかけた時、ぽとりともふらが地面に落ちた。 それにはっとして前を見れば彼女を横抱きにする黒い影――。 『みっちゃん!!』 二人が彼女の名前を呼ぶが、彼女は口を塞がれ言葉にならない。 「俺は鬼の総本山の十二鬼が一人! こないだはやられたが‥‥ほほぅ、可愛らしいお姫様がいるではないか。どうやら喧嘩中と見える‥‥俺の大好物だ! 頂いていくぞぉ〜」 そう名乗りを上げて、瞬く間にその鬼は神社の方へと駆けていく。 「えっ、ええっ??」 思わぬ鬼の出現に二人も動けなかった。ただただ目を丸くして立ち尽くしている。 「あわわ、大変でござりまする‥‥兄上様が言っておりました。喧嘩した子を喰らう鬼がいると‥‥あれはもしや‥‥とすると実殿は‥‥」 がたがた震える演技を見せて寿々丸が二人を煽る。その言葉が耳に届いたか、はっとして太郎と巽が顔を見合わせる。 「みっちゃん‥‥何か言おうとしてた。まさか、謝りに? なのに、俺」 『今しかないかもしれない』 さっき雫からかけられた言葉が頭を過ぎる。 「まだ間に合う筈! たつっち、いこ!」 「おう!! 寿々っち、さっきの鬼どっち行った?!」 そこで一番冷静だったと思われる彼に巽が問う。 「多分、神社の方でございまする! 寿々についてくるでございまする!!」 そう言って寿々丸が駆け出し、巽が続く。 「たつっち、待って!」 太郎ももふらのぬいぐるみを拾って、その後を追いかけるのだった。 「仲良くしない子は‥‥ってあぁ」 瞬脚を活かして神社までやってきた鬼こと蒼馬であるが、思いの他怖がられ泣き出した彼女に、頭を悩ませていた。大事なもふらも取り落とし、頼れるものがなくなったみっちゃんの涙腺は留まる事を知らない。 (「困ったなあ」) まさかここまで効果があるとは‥‥そんなに怖がらせるつもりはなかったのだが、始まったものは仕方がない。この芝居がうまくいく事を祈り到着を待つしかない。 「巽ちゃ〜〜、太郎ちゃ〜〜!!」 天まで届くのではないかと思われる大音量に境内に咲く梅が僅かに震えて見える。 ばたばたばたっ とそこに二人が現れた。寿々丸は神社入り口付近で息を切らし距離を置いている。 『みっちゃんを返せっ!!』 びしぃと睨み付けて、巽と太郎が言う。ぜいぜいと息を切らしながら武器も何もないというのに、震える足を堪えて‥‥二人の眼光にはそれでも闘志が宿っている。 「むむ‥‥お前たち、喧嘩していたのではないのか?」 二人の登場に半ばほっとしながら、みっちゃんと巽達を交互に見、鬼が問う。 二人の登場に泣き声はいつの間にか止まっていた。 「巽ちゃ、太郎ちゃ‥‥」 「待ってろ‥‥今、行くから」 顔を涙でぐしゃぐしゃにしたみっちゃんが二人を見つめる。 「ふふふ、どうするつもりだ。俺に勝てるとでも?」 蒼馬の挑発に二人は答えなかった。ちらりと太郎に視線を送り、巽が駆け出す。 蒼馬の前まで行くとすっと身を低くし滑り込み股の間をすり抜ける。その間、後ろでは手にしたもふらを振り被る太郎の姿がある。お面越し視界が狭い為、二人をうまく捕らえ切れない鬼。ばふっと当たったもふらさまに上体を崩して、すり抜けた巽は後ろにいたみっちゃんの手を引き駆け出している。 「巽ちゃ! ありが」 「そんなの後だ、逃げるぞっ太郎!」 「りょーかい!」 言葉もそこそこに顔をバウンドして戻ったもふらを太郎が受け止め巽に続く。 「後の事は寿々に任せるでござりまする!! てやー」 「むむー、これは敵わん。だが、また喧嘩するようなら攫いに行くぞ〜」 三人に聞こえるようそう叫んで彼らの役目は終了する。 「お疲れ様でございまする」 三人が去るのを見届け、寿々丸が蒼馬にそう告げた。 ●二人のお内裏様 「ぱんぱかぱーん! もう、準備万端だよっ!」 戻ってきた三人を皆が出迎えて、巨大な雛壇を前にみっちゃんの目が輝く。 「俺達が作ったんだ‥‥あの、あの時はごめん」 「僕も気付けなくてごめん」 「みっちゃんもね、悪かったの‥‥ごめんなのぉ〜」 そんな二人を見つめて、みっちゃんもまごまごしつつ謝る。 「さぁ、無事仲直りした所で‥‥姫様お召物を」 そう言って雫が促せば、既にスタンバイしていた三人官女に扮した女性陣が桃色の着物を手に彼女を簡易更衣室へと誘う。そして、太郎と巽も衣装チェンジ。あっという間にお内裏様に変身し、それぞれ雛壇へ上がる。そして、 「さぁ、はっぴー雛祭りの始まりだー!」 その一声にいつもはバイオリンの使う琉宇が楽器を三味線に持ち替えて、雛祭りの曲を奏でて雰囲気を一層盛り上げに入る。 「ちっ、俺がなんで五人囃子なんだよ〜」 そうぼやく牡丹の傍には鬼役の彼も戻ってきている。 「そう言うな。五人囃子はいわば姫を守る護衛部隊みたいなものだぞ」 「そうでございまするぞ。楽隊とは仮の姿でございまする」 と告げればヒーローに憧れるお年頃――実際は違う気がするのだが、やる気になる牡丹達である。そして、主役の三人は‥‥一番上で料理を楽しんでいた。 「これもこれもこれもみーんなみっちゃんが作ったんだおぅ」 小皿に取り分けてもらったものを二人に差し出しせば、 「これもお雛様?」 先に気付いたのは太郎君――どうも興味をそそられたらしい。菜の花ちらし寿司の土台に桜でんぶの衣装を着せて、小さな白飯御握りに海苔で目鼻をつけた食べられるお雛様をじっと見つめている。それと同様にピンクの着物を纏ったみっちゃんは間違いなくお雛様そのものだった。十二単を着るのは重かろうと工夫して、そう見えるように作られた打掛に、頭には冠を被せて‥‥耳には直羽が持ってきた桜の耳飾りが揺れている。 「うん、よく似合ってる!」 遠目でそれを見ながら、直羽が呟く。傍に行きたい所だが、二人のお内裏様が彼女を守っているのなら自分の出る幕ではないだろう。 「ふふ、残念だったね。直羽ちゃん」 「え?」 その声に視線を外せば、そこには桃の花を手にした雪彼の姿があった。 「ねぇ、知ってる? 桃の花の花言葉」 そっと彼の耳にそれをかけて彼女が問う。 「さぁ、なんだろう?」 「『天下無敵』‥‥笑った時の直羽ちゃんって凄く似合う気がするの」 「ええっ」 思わぬ答えに少し驚いたが、彼女は気にする事無く笑ってみせる。 「みんな知ってました? 雛祭りは女の子の予行練習の日なんですよ」 そう言って桜香は三人に優しく説明する。 「女の子がお姫様になるのはお嫁さんになる時‥‥だから、巽くんの言葉も合ってない訳じゃないんです。でも、みっちゃんの言う事も間違っていません。なぜなら、練習でも本気でやらないといけませんもの」 ふふっと笑ってそう言う彼女に周りが頷く。 「そうだね、気持ちは大事だよね」 それに琉宇も同意見のようだった。 「お姫様やヒーローになんてなれない? そう否定するかもしれないけど‥‥ううん、なれるかどうかじゃなくて、なるって気持ちが大事なんじゃないかな。今日のはお芝居だったけど、二人はヒーローになれたし、みっちゃんはお姫様になれたよね」 さり気無く種明かしも交えて彼が言う。 『ええーー! あれお芝居だったのぉ!!』 それに驚く三人だが、種が明らかになった所で怒っている訳ではない様だ。 「そうだ、二人共ありがとなのぉ〜」 とさっきのお礼がまだだった事を思い出して、みっちゃんが二人に抱きつく。 「可愛いな、あの子達‥‥」 自作の着物ではしゃぐ子供達を眺めつつ、朱璃の目にはいつか見る自分の子供の姿が映っているようだった。ただ、まだ肝心の相方が見つかっていなかったりするのだが、きっと‥‥と彼女は思う。 (「この雛あられ、俺の娘にも食べさせてやりたいな」) そんな想いを抱いて、あられを口にするのは蒼馬だ。 相手を想い願う事‥‥それぞれ違うようだが、そんな彼らの想いを早咲きの桃の花は静かに見守り続けるだった。 |