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■オープニング本文 邪気を払う‥‥二月の恒例行事と言えば、豆まきが一般的である。 『鬼は外、福は内』の掛け声で親しまれているこの行事――しかし、これは一種の儀式的ものであり、実際のアヤカシには勿論通用しない。しかし、これをする事で何か得られるものがあるのだとすれば、それは願掛け。今年も一年、病気に合わずいい年であります様にと年始の挨拶同様願うのだ。けれど、その願いは今年は聞き届けられる事はないようだった。 「にゃにゃ! 鬼が豆を食べるのかにゃ?」 いきなり聞かされた話に目を丸くするおいら。 おいらは猫又であり、このぐうたらご主人の相棒をしている。 「そうなんだと‥‥全く、節分の意味はどうなるんだか」 今日は珍しく買い物に出ていたらしい。買い込んで来た食材を適当に整理しながら、ご主人が話を続ける。その中ににぼしがあったので、するりと一匹抜き取って、おいらは齧り始める。 「で、その鬼しゃんはどこにいるのにゃ?」 がしがし齧りつつおいらが問う。 「‥‥おまえ、堂々と摘まみ食いか?」 ――が、それに気付かれてはっと口を離す。 「一本くらい堅い事なしにゃ。で何処にいるにゃ?」 「おまえと出会った場所だ」 「へ?」 いきなり真面目にそう告げられて‥‥おいらの目が点になる。 「おまえと出会った山の麓の里だとさ。ただ、少し話にばらつきがある」 「バラつき?」 なぜそんな話をおいらにするのかよくわからないが、この感じは仕事になりそうなので黙って聞いておく事にする。 「そうだ。鬼だ言う割には見た目が小さい」 「子鬼にゃのでは?」 「いや、違うな。子鬼は一メートルもないだろう」 「うにゃ??」 話によればその鬼は体長一メートル前後で、変な胴体をしていたらしい。 「変ってどんな感じにゃ?」 「それはわからん」 きっぱりとそう言って話しはそこで終わり――。 ご主人はそそくさと買ってきたらしい漬物をあてに酒を飲み始める。 「ご主人、その鬼退治行かないのかにゃ?」 あっさりとそこで話を切り上げられて、思わず尋ねるおいら。 「俺が行くとでも? まさかだな」 「じゃあ何でそんな話したのにゃ?‥‥‥って、まさかこのパターンは」 「そうだ、ポチ。おまえ一人‥‥いや、一匹で行って来い」 「ええええええええっ!!!!」 いきなりの宣告に思わず二本立ちになる。 「最近やっと働いてくれ出したと思ってたのに、またそれにゃか!」 じわりとこみ上げてくる涙‥‥けど、ご主人は何処吹く風だ。 「去年は本当に働いたと思う。だから今年はおまえに任せる」 そう言ってぱくりと切った沢庵を口に運ぶ。 「そんなの駄目にゃ!! おいらが許さないのにゃ!!」 おいらはそう言ってご主人に飛び掛るが、結局返り討ちに合いしぶしぶ支度を始めるのだった。 |
■参加者一覧
ティエル・ウェンライト(ib0499)
16歳・女・騎
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
クロック(ib5571)
21歳・女・砲
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
山奈 康平(ib6047)
25歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●豆な人々 「ここが被害のあった里なのにゃ」 ポチの案内で訪れた里――そこは、畑が広がりなかなか長閑な場所だった。 そんな場所に鬼が出で、しかも豆だけを狙っていくとは何とも不思議な話である。 「何処から来て、去っていくのか? 追ったりしてないのか?」 余りやる気有り気とは思えない様子で山奈康平(ib6047)が住人に問う。 「いんやー、それがここいらは夜になると真っ暗じゃけぇねぇ〜。追うのも簡単じゃあないんよぉ」 「では、足跡の様なものは残っていなかったのですか?」 と今度は長谷部円秀(ib4529)――畑に何らかの形跡が残っていないか目を配る。 「それも難しいけぇ‥‥なんせ昼は家畜を放牧しとるからなぁ‥‥変わった足跡は見つからなんだよぉ」 そう申し訳なさそうにいう住人に一同首を捻る。 「しかし、豆以外に手を出していないとは相当な執着だな。余程味を占めたか?」 「それともぶつけられなくしてしまおうとの魂胆か‥‥」 「何にしても面白いではないか」 ウルグ・シュバルツ(ib5700)と康平に続いて、成田光紀(ib1846)が煙管片手にぷかりと煙を吐き出して、笑って見せる。 「皆考えてもみよ‥‥豆を食う鬼ぞ。わざわざ食ってやるあたりに無用な反骨精神を感じるではないか。これを見物せずしてなんとする?」 「確かにね。けどアヤカシは生物の念のようなものを食べることが多いし、今回の相手はケモノか何かではないかな」 ――とそこに自分なりの推理を加えてきたのは蝙蝠獣人のクロック(ib5571)だった。銃の手入れをしながら言葉する。 「聞いていたのと違うけど、困っている人がいるのなら助けるのが騎士の務めです!」 ティエル・ウェンライト(ib0499)はそう言って、強く拳を握り決意を露わにする。 「んで、具体的にはどうするにゃ?」 そこに仲介に入ったポチが皆を見回す。 「そうですねぇ、やはりオーソドックスに囮を使うのが得策でしょうか?」 「ですです。農家の方々のお豆さんは私達が守ります。だから、協力願えないでしょうか?」 既に半分近くを持っていかれている為、素直にうんとは頷けない。けれど、顔の前で手を合わせて彼女にお願いされて、住民達はようやく首を縦に振る。 「絶対お願いしますだよ」 その言葉に固く頷く開拓者達――。 「では、その付近に落とし穴でも掘っておきましょう。そうすればかかってくれるかもしれない」 「なら、鳴子も仕掛けておいた方がいいな。気付く易くなる」 「ではそれで」 おのおの意見を出し合って、早々と準備に取り掛かる彼らであった。 村を一通り見て回って、被害のあった付近で手頃に戦える場所を確保し、罠と豆の移動を始める。 「しかし、何と言うか‥‥ご主人がものぐさだと大変だな」 そんな中で、鳴子の設置の手伝いに同行していたポチを見つめ、ウルグが言う。 「ウルグしゃん‥‥同情してくれるのにゃ」 その言葉に思わず苦笑し振り向くポチ。 「まあな‥‥そういや、ここはおまえと主人にとっては思い出の場所なのだろう? どんな縁だったんだ?」 その表情を見て軽くポチの頭を撫でてやりながら、彼が問う。 「言ったら笑われるかもしれにゃいにゃ‥‥」 それに照れつつ視線を逸らす。 「どんなだ? いってみ」 そう聞いたが、それにはポチは答えようとはしなかった。視線を前に戻してしまう。 そこで彼は一息ついて、その先を諦めた。 「ま、いいさ。早く終わらせて帰ろうな。それにはポチの力が必要だ」 そう切り返して、再び作業に戻る。 「はいにゃのにゃ!」 その言葉に振り向き、ポチは力強く頷くのだった。 一方では分けて貰った豆を頬張りながら、罠の位置を確認する者がいたり。 「うむ、これだけおいしければ鬼が食べるのも仕方ないですね」 もぐもぐと頬張りながらと、気付けばあっという間に半分が胃袋に消えている。 「あ、あたしにも少し頂けるかな?」 そんな彼女を見つけて、クロックが言う。 昼間の里に食いしん坊な二人の笑顔が花が咲いていた。 ●豆を求めて 相手は夜出没する。依頼書にも書かれていたことだが、そこが今回のネックとなる。その鬼が出たとしても真っ暗闇では姿の確認が難しい。松明を持参して戦う訳にはいかず、かといって始めから篝火を仕掛けておけば相手の警戒を誘ってしまう。村人の言うように、日が落ちると辺りは真っ暗になるようだ。 「おいらの出番にゃね」 皆が近くの物陰に隠れる中、康平と場所を同じくしていたポチが目を光らせる。猫目は闇に強い。相手が現れ囮にかかるのを察知したら、合図を送る手筈になっている。開拓者達も徐々に目が闇に慣れつつあるが、それでも猫と人では雲泥の差である。 「いけそうか?」 康平がポチに問い、ポチはこくりと頷く。 暫くして‥‥夜もかなり更けてきた頃、相手は姿を現した。 カララ カラララ 周囲に張った鳴子の音が微かに響く。 まだきっちり中までは入っていないようだ。 「数は五‥‥まだこっちに気付いてにゃいのにゃ‥‥」 押し黙った声でポチが告げる。別の場所にいる仲間達も音で侵入を捕らえている。 『もう少し‥‥あと少し‥‥』 皆が心中で呟く。 落とし穴まで後数m――豆までの距離は十mを切っている。そして、 ずぼっ どすぅぅん 「今なのにゃ!!」 一つの穴が成果を上げた時、ポチが叫んだ。 「きましたね‥‥先手必勝。一気に攻めますか!」 そう言って逸早く刀を構えたのは円秀だ。罠のある方向に稲妻が轟く。 それは彼の発動させたスキル・雷鳴剣――ぴしゃりと稲妻が走り、敵のシルエットが露になる。 「ほう、顔は確かに鬼のようだが‥‥その実態はいかがなものぞ?」 それに続いて光紀が符を飛ばし、生み出したのは火炎獣――巨大蟷螂の姿をした式が向かうのは敵の許ではない。鳴子の設置と同じくして、仕掛けられていたのは照明となる篝だった。撒き餌を囲むように設置されたそれに一瞬にして火を灯し、相手の正体が明らかとなる。 「なに、あれ‥‥牛?」 そこにあったのは奇妙な姿の牛だった。 顔は鬼のような形相だが、胴体は牛そのものである。 「なぁんだ、へんてこな顔してんのね」 それを見据えてクロックがマスケットを構え撃つ。胴体が牛だけに、狙いは付けやすかった。轟いた銃声と共に、一体の鬼もどきが悲鳴を上げる。けれど、一発位ではビクともしない。闇に浮かんだ篝火の赤が彼らを刺激したのかもしれない。暴れ牛よろしく方々に散らばり突進を開始する。 「わひゃあ!!」 「のわっ!!」 その速さといえば図体に似合わず、思いの他速かった。 ティエルとウルグの服を自慢の角で引き裂いて見せる。そして、それは先制した円秀の下にも向かっていた。二体同時に彼を襲う鬼もどき――地響きを鳴らして我武者羅に突き進んでくる。 「危にゃいのにゃ!」 それを察知してポチが駆けた。それを後方では康平の神楽舞・攻が支援する。距離では間に合わないと察すると、ポチはかまいたちを発動し、その風の刃が一体を襲い円秀の手前で転倒する。 「感謝です!」 ぐっと刀で鬼もどきの突進を受け止めながら、彼が叫ぶ。 そこへウルグの空撃砲が炸裂した。足を弾いて、どっと鬼もどきが弾かれる。 「ていっ!!」 そして、円秀の刀が振り下ろされて‥‥鬼もどきは活動を停止する。 それと同じくして残りの三体も力尽きたようだ。 残されたのは穴にかかった一体だけである。 「力仕事なら私にお任せください!」 穴の中でじたばたしている一体を適度に弱らせて、ティエルがそれを引き上げる。 「しかし、本当に変わった牛‥‥ですね」 改めてそれと向かい合い、円秀が呟く。 「なんだつまらん。こやつら結局ケモノの類いと見える。現にほれ、遺体が残っておるぞ」 そういったのは光紀だ。彼は既に倒した四体の方に目を向けている。 「さて、それじゃあよろしく頼むよ」 そこで引き上げた一体を放し、ウルグがポチに告げる。 「おまかせにゃ」 ポチはそう答えると、そそくさとその一体の追跡を開始するのだった。 ●豆の声を聞け 夜が明けた。そして、時間は昼―― ポチが帰ってくると、彼と共に開拓者達はある場所へ向かう。そう、それは鬼もどきのねぐらだった。一体を泳がせ、ポチに追跡させたのはこの為である。案の定、へばった鬼もどきは何も知らず自分のねぐらへと帰っていったのだ。 「かなり険しい場所だな」 高い木々が立ち並んでいるだけに思ったよりきつい。けれど、暫く行くと割と道は穏やかになり始める。そして、それは少し山を登った所に存在した。 木が多く陰になった場所――余り牛が生活するのにいい環境とは思えないけれど、彼らはそこで暮らしているらしい。水場は近くにあるものの、主食となる草の類いは余り多くないようで、辺りの雑草や葉は既に食い尽くされている。 「成程、餌がなくなったから降りてきたとそういう訳か」 その状況を見取ってウルグが言う。 「けれど、このまま野放しにしていてはまた被害が出ます! 後顧の憂いを絶つためにも敵を確実に討ちましょう!」 そう言ってティエルが飛び出した。 がさりと茂みが音を立て、そこにいた鬼もどきが一斉にこちらを見据える。 「ちょっと待て‥‥」 それを遮る様に康平が前に出た。いつになく真剣な面持ちで前進する。 「康平さん?」 それに皆疑問を浮かべたがそのまま見守ると、彼はゆっくりと口を開いて‥‥。 「いいか、お前らよく聞けよ‥‥お前らが食った豆はなぁ、村の奴らが大事に育てた豆なんだよ」 『はぁ?』 突然の言葉に一同、唖然と彼を見つめる。 「あれを作るのにどれだけ時間と手間がかかってると思っているんだ。豆、感謝して食ったか? どうせなら、喰わずに自分で収穫してみろ。天地への感謝の念が沸くぞ」 「あの〜、康平さん??」 それは明らかに説教で‥‥困惑した面持ちで再びティエルが声をかける。 「なんだ? 文句でもあるのか?」 「いえ、そうじゃないですけど‥‥ケモノ相手にそれはどうかと」 「ふん、とりあえず言っておきたかっただけだ。気にするな」 「そっ、そうですか」 その威圧感に思わず身を引く彼女。 「ふふふ、面白いではないか。ケモノに説教‥‥よいよい」 それに光紀は賛同した。くすりと笑って傍観している。 けれど、それが長く続くはずがなかった。 訳が判らず、ぐだぐだ言う人間を鬼もどきは敵と見なしたのだ。 鼻息荒く、昨夜同様突進を仕掛けてくる。数は昨日の倍――つまり十体。 木々が立ち並んでいる為、戦いにくい。けれど、視界のハンデがない分彼らには有利だった。 「昨日の様にはいかないんだからっ!!」 盾をぐっと突き出してタイマン勝負に出たティエル――真っ向から突進を受け止めると、ぐっと堪えて相手が怯んだのを見計らい大振りに剣を振り被る。そして、 「我が渾身の一撃受けてみよー! とりゃー!」 気合一発、頭部目掛けて打ち下ろせば切断は無理でも十分意識を浚ってゆく。 「全く、うじゃうじゃいい加減見飽きたぞ」 そう言って、つまらなげに符で蹴散らすのは光紀だ。 康平は力の歪みで相手を牽制し、ウルグは昨日同様空撃砲で転倒を狙う。前衛が少ないだけに時間はかかったが、それでも相手はケモノ。大きな特殊能力がある訳ではない。 「これで終わりです!!」 周りに引火しないよう注意しながら円秀の紅蓮紅葉が数頭を焼き払い、鬼もどきからは煙が立ち上り、辺りに沈黙が訪れる。 「ん? この香り‥‥」 それにクロックが鼻をひくつかせれば、その横でポチも同様の反応を見せていた。 「どうかしましたか?」 そう問う仲間に、二人は顔を見合わせるとある提案をするのだった。 ●豆を食った鬼牛 「ホントにホントですか?」 疑いの眼差しでティエルが言う。 「間違いないわ、賭けてもいい」 「そうにゃ、絶対間違いないにゃ」 その横でクロックとポチが口を揃えて言う。 一人と一匹の提案で、面倒臭げに鬼もどきの遺体が運ぶ一行である。 そして、それは里へと持ち帰られると更に旋風を巻き起こす。 「こんなもん、どうすっべぇ〜」 「もう、正体はわかったでぇ。顔もみたくないだべぇ〜」 口々に言葉する住民達を前にポチは円秀に視線を送る。 すると、彼は苦笑いし作業に入るのだった。 そして、半時‥‥里の中央には人だかりが出来始めていた。 「これは、うめぇべ」 「でしょでしょ! 意外だよねぇ〜」 「確かにうまいな。これは豆のおかげか」 簡易的に設置されたテントの中で皆が口々に言う。 そこでは、今打ち上げという名の食事会が催されている。 そして、使われているのはなんとあの鬼もどきの肉である。 ケモノ肉は食べられる。以前、巨大烏賊を退治した事もあり、焼けた遺体から立ち上った香りが極上の肉の匂いに近かった事から、ポチとクロックが提案したのだ。二人の野生の本能に間違いはなかったらしい。それを捌くのは、円秀と村の奥様方――円秀は料理屋をする程の腕前であり、それを知っていたポチが調理を頼んで今に至る。 「しかし、ケモノを捌く事になるとは」 一通り捌き終えて彼が言う。 「お疲れ様か?」 そこに光紀が声をかける。 「良質の豆を食べたからいい肉に仕上がった‥‥そういう訳か」 その横ではロースト肉を頬張るウルグの姿がある。 「ふむ‥‥豆は食われてしまったが無駄ではなかったという事だな‥‥普通の牛にも与えてみたら新しい特産に出来るかもしれないぞ」 そういうのは康平だ。畑仕事をしていた手前、そっちの方に気が回るらしい。 「試してみるべ」 それに住民の一人がが真剣に答えている。 「ふふふ、討伐もうまくいって美味しい料理にもありつけて‥‥有り難いことだわ」 そう言ってクロックは豪快に肉に齧りついた。 噛めば噛むほど上質の肉汁が口に広がり、まさに絶品である。 ポチも小さく切って貰った肉を頬張り楽しげだ。 (「ご主人も来たら良かったのに‥‥」) 思い出の場所――あの時の食事もこんな風に賑やかだった事を思い出す。 「おや、おまえさん。いつぞやの猫又かい?」 ――とそこへ昔を知る人物が現れてどきりとする。 「ち、ちがうにゃ」 そう言って視線を逸らすが、相手にまじまじと見つめられ相手は確信したようだ。 「いや、そうだね‥‥あの時の腹ペコ猫だろう? いやぁ〜あの時はたまげたねぇ〜。どれだけ腹が減ってても、まさか人の足にか‥‥」 「うにゃ〜〜〜〜、言わないで欲しいのにゃ!!」 ポチはそれを遮るように大声を出し言葉を掻き消す。 一方その頃、一抹はといえば自宅のぼろ屋でくしゃみをひとつ――。 鼻を啜りながら空を見上げて‥‥ 板間に立つ彼の足首には小さな丸い傷が数個、残っているのだった。 |