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■オープニング本文 ●俺らはヒーローになる 「来たな、俺らの季節か‥‥」 にんまりと笑みを浮かべるガキ大将こと牡丹が言葉する。 その周りには子分らしき子供達が十数名――彼を取り囲み同様の笑みを浮かべている。 彼らが見据える先にあるもの、それは暦。 ここは牡丹の家であり、その暦にはくっきりと赤で印がつけられている。 「二月三日、どうかしたか?」 そんな異質のムードをぶち破って、登場したのはお馴染みの仲良し三人組の一人・太郎だった。 「なっ、なんでここにいる!! 戸は閉めてたはずだ!」 それに吃驚して牡丹がそちらに視線を向けると確かに戸は閉まったままだった。しかし、 「こっちだおぅ」 ――と別の声がして、視線をそちらに走らせればそこには巽と共にいるみっちゃんの姿がある。 「くそっ、庭からか‥‥」 それを見て頭を抱えてみせる牡丹。けれど、これは意外と良くある光景だった。 長屋の性質上家同士は繋がっているし、壁も薄い。話も筒抜けである事が多く、庭と言っても簡単な塀があるくらいで、ある意味丸見えに近い。ともすれば、鍵などかけても仕方が無いと裏口の鍵はおろか、昼間なら玄関でも鍵がかかっていた試しがない。 「で、何の相談? また悪戯か」 それを茶化すように、巽が牡丹に言う。 「バカ言え! これは年に一度の一大いべんとなんだ」 「いべんと? なになにぃ」 その言葉に釣られたようで、みっちゃんが牡丹の袖を引っ張る。 「ふっふっふっ、聞いて驚け‥‥それは節分だ!!」 「せつ、ぶん? 豆まく日だよね?」 「あぁ、そうだ。だが、その日俺達はヒーローになる」 「ひーろー??」 聞き覚えのない言葉を使う牡丹に首を傾げるみっちゃん。 それを聞き太郎が解説に入る。 「ヒーロー‥‥確かせいぎの味方のことだったと思う」 「せいぎのみかたぁ!! それってかっこいいよね、かいたくしゃさんみたいだよね!!」 「あぁ、そうだ。俺らがかっちょよく鬼を退治する日なのだ!!」 いつもに増して得意げに宣言した牡丹に、瞳を輝かせるみっちゃん。 太郎と巽の中でも牡丹の言葉が耳に木霊し、興味という光が灯る。 「ねぇ、どうやったらおに倒せるの?」 「豆をまくんだ」 「お豆さん? みっちゃんもやりたい! お豆でやっつける〜」 そして、ついには彼らに加担したいと申し出る。 「むむ、おまえ女だからな‥‥けど根性あるし、いいぜっ」 以前まではみっちゃんの事を弱虫扱していた彼であるが、肝試しの一件で彼女の事を一目置いているガキ大将だ。人数は多い方がいいとあって、意外とあっさり了承する。 「わーい、みっちゃんせいぎのみかた〜〜!!」 それに喜ぶみっちゃんを前に太郎と巽が困惑する。 「――で、おまえらはどうするんだ? 今なら入れてやってもいいぜ」 それを見取って悪戯に尋ねれば、 「‥‥俺ら三人でひとつだからな」 「みっちゃんやる。なら、僕もやる」 そう言って牡丹と固く握手する二人―― かくて、子供達の『鬼を追い出せ節分大決戦(牡丹命名)会議』が着々と進められるのだった。 ●節分の悪夢 一方その頃、大人達と言えば同じ議題である集会が行われていた。 「また、あの日が来るのね‥‥憂鬱だわ」 一人の奥さんが頬に手を当て、深く溜息を付く。 「去年は散々な目に会いましたからなぁ‥‥」 白髪の混じった老人もその言葉に同意するように言葉した。 「あら、たかが節分でしょうに、どうかされたんですか?」 その様子を不思議に思い尋ねたのは、みっちゃんの母だ。 同様の表情を見せているのは、この長屋で初めて節分を迎える太郎、巽の両親達である。 「たかが? そういえばそちらさんは初めてでしたな‥‥あやつらを相手にするのは骨が折れますぞ。なんせ去年は怪我人も出ましたからな」 「怪我人!? 一体何が‥‥」 その思いもよらぬ事態に、目を丸くする三人組の両親ズ。 「なんていうか、あの子達は本気なんです。福を呼び、鬼を払う‥‥そういう行事だという事はわかっていると思うのですが‥‥怖がるどころか対抗心が凄まじくて‥‥それはもう」 そこまで言って、彼女は寄り添う亭主に身を預ける。 「そういう訳で、今年は開拓者を雇ってお願いしようと思っておるのだが、異論はないかな?」 唐突にまとめに入ったこの長屋のまとめ役に、一同手を揚げる者等いない。 (「一体どういう節分なの??」) 疑問ばかり残るが、郷に入っては郷に従え。三人組の両親ズもその意向に従う。 「女性陣は、当日は別所にて太巻きの準備にかかって下さいます様お願いしますぞ」 そう締め括って、長屋の集会は終了を迎える。 そして、翌日長屋の大人達で費用を工面して、ギルドに鬼役募集の依頼が舞い込む事になるのだった。 |
■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
白 桜香(ib0392)
16歳・女・巫
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
光河 神之介(ib5549)
17歳・男・サ
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●布告、受ける 節分当日、子供達のもとに届いた一通の手紙――。 それは子供達に読めるよう振り仮名付きで書かれた宣戦布告の手紙だった。 「くっ‥‥奴らホンキみたいだ‥‥」 牡丹がその手紙を握り締めて‥‥周りには既に集まった子供達の姿がある。朝食の準備を終えて、大人達は皆何処かへ消えてしまったように彼らには見えているだろう。 「どうしよ‥‥ママ、食べられちゃうかも‥‥」 乗り気だったみっちゃんだが、突然の母消失に今にも泣き出しそうだ。 「馬鹿いえ、俺らが何のためにじゃんびしてきたと思うんだ! 俺らが勝てばもんだいない」 「‥‥けど、負けたら?」 「バカな事考えんな! 俺らはかならず勝つ!!」 ぐっと拳を握って、牡丹は瞳に炎を宿すのだった。 さて、ここに至る経緯は数日前に遡る。 「子供の頃って英雄に憧れるよね〜」 出された茶を啜りながら弖志峰直羽(ia1884)が言う。彼らは長屋の依頼で集まった助っ人であり、今し方方針が決まり落ち着いた所だ。その作戦とは、鬼の総本山から遣わされた十二鬼将を設定し、それらの一人として彼らに対抗しようというのだ。 「しかし、大人達が怖がる程の反撃とは‥‥どんな反撃をするのでしょう?」 とこれは白桜香(ib0392)。その横では、Kyrie(ib5916)と蓮蒼馬(ib5707)もその話に耳を肩向けている。 「はぁ、今年も鬼役か‥‥たまには投げる側も‥‥いや、我慢我慢」 そう言って頭を振ったのは光河神之介(ib5549)――どうやら、これまでにも経験があるらしい。 「なんで? 悪役って楽しいと思うけど〜」 そこで声をかけたのは兔獣人の龍水仙凪沙(ib5119)だった。彼女は根っから楽しみなようで、大きな耳を揺らしつつ、心をときめかせている。 「まあ、折角だからな。ここは悪役に徹して子供達に楽しんでもらうとしよう」 蒼馬もそう励まして、親達に人質役を依頼すればこの際皆でという事になり、全員参加の大芝居が決定する。 「家に居たくない理由でもあるのでしょうか?」 不思議に首を傾げる開拓達だった。 ●鬼将、現る 「いたっ! あそこだっ!!」 子供達が長屋から見える位置に陣取っていた鬼を見つけて対峙する。 「よくぞ来た‥‥だが、そう簡単に親達は返さんぞ」 そう言ってでんっと立ちはだかる六人の鬼――けれど、子供達も負けていない。前に並ぶは、牡丹、太郎、巽の男の子三人組。その後ろにみっちゃんも控え、涙をこらえている。そして、更に後ろには牡丹の子分と思しき子供達も一緒だ。 「へっ、そんな大口叩いていられるのも今のうちだ。俺らにはこれがあるんだからなっ」 そう言って豆を取り出し、彼らが牽制する。 豆を使って、彼らは本気で勝つつもりらしい。 「では、参る!!」 それを見て鬼達が一斉に動き出せば、子供達は豆を投げつけながら散り散りに逃げ始める。 (「ふふふっ、みんな吃驚してる♪ これは大成功の予感だわ」) 『雷鬼』に扮して雷閃で放電を繰り返しながら凪沙はにやりと笑い、身近な家の戸を引く。 「さて、何処にいるのかなぁ〜?」 先程あれだけ騒がしかったというのに、中は思いの他静かだった。それ程広くない部屋‥‥自ずと隠れ場所の察しはつく。 そろりそろりと中に入って、ガタンと閉まる戸の音に思わず身体をびくつかせて、その一瞬を子供達は待っていた。 「くらえ〜〜」 中に潜んでいたのは二人。太郎も混じっている。戸の方を向いた拍子に、彼らは飛び出し彼女の足元をすり抜ける。その際二人の手には縄が握られ、彼女の足をひっかけようというのだ。 「うひゃあ!!」 それにまんまとしてやられて、バランスを崩す凪沙。そこへ頭目掛けて投げつけられる大量豆――それも普通の豆ではなかった。本来ならばらばら降ってくる筈の豆なのだが、どうもそれが違うようで、ごつんごつんと当たり頭に響く。 かばっと顔を上げて、手にしている豆をみれば子供の手には拳骨位の大きさに固められた豆玉が握られている。どうやら、糊化何かで貼り付け固めたらしい。それを目の当たりにして、手にした鍋蓋で防御に入る。 「それ反則〜〜」 「豆に違いないから。ずるくない」 「む〜〜」 その言葉に頬を膨らませる彼女。 「この鬼、尻尾あるぞ〜〜」 もう一人がそう言って、彼女の尻尾をに触ろうと近付いてくる。 「いや〜〜そこはダメ〜〜」 彼女は慌てて立ち上がり、逃げに徹するのだった。 一方、もう一人‥‥いや、もう二人の鬼はまだスタート地点に居た。 「動かざる事山の如し、峻嶺の『巌鬼』様だぁ〜〜!!」 そう名乗りを上げて舞傘を開いた直羽だったが、大鎧を着込んでいる為思うように動けず、艶やかな朱色の鎧に見事に咲き誇る桜が、今は何処か空しく見える。 「あの、その‥‥大丈夫ですか?」 それに気付いて歩みを止めた桜香が声をかけた。彼女は桃色の『桜鬼』に扮しており、どこか可愛らしさが漂っている。 「んーあっと‥‥多分、動けるはずなんだよね。ちょっと待って‥‥気合入れてみるから」 そう言いつつ必死で足を動かそうとするが、一mmたりとも動かない。 (「抜かった‥‥」) この場所まで移動してから着込んだ為、動けないとは思いもしなかった彼である。 「肩、お貸ししましょうか?」 微動だにしない彼を見て、彼女が手を差し伸べる。 「うぅ、ありがとう」 そう言って話していると、追ってこない鬼達を不振に思ったらしい。子供達が徐々に姿を現す。初めは家から覗く位だったが、動けないと悟ると大胆に駆け寄って来始めたのだ。 「変なの〜? 何で止まったままだ??」 不思議そうに見つめる子供達に囲まれて、困った桜香が意を決する。 「わわわ、どうしましょう‥‥とりあえず、桜鬼です。がおーー!!」 『‥‥‥』 彼女なりの精一杯の威嚇――まだ十四である。普通なら子供側にいてもおかしくないのに、今回は頑張る事を決意して今ここに居る。手にした布製中綿の棍棒を振り翳すが、残念ながらその反応は極めて薄い。ぽかーんと見つめる彼らに思わずで赤面する桜香だ。 「おにさん、女の子なの?」 いつの間にやら先頭に立っていたみっちゃんがぽつりと問う。 「がおがおーーー!」 それに答えず必死に鬼役を務める彼女であるが、やはり全くといっていいほど効き目がない。子供達は不思議そうに彼女を見るばかりだ。 「えっと、あっと‥‥ごめんなさーーい!!」 ついに恥ずかしさに耐え切れなくなって、逃走を始める彼女。 「待って〜、桜のおにのおねえちゃ〜〜ん! 泣かないで〜!」 「ちょっ、あの、俺は?!!」 逃げゆく桜香に声をかけた直羽であるが、彼女はそれどころではない。 残された直羽に突き刺さる視線。興味の視線に晒され、面の下の額に汗が流れる。 (「こなくそ――!!」) そう思い意地で手を上げた彼だったが、ふいに受けた背中の衝撃――振り返ればそこには巽の姿がある。どうやら、彼は直羽の背に飛び蹴りをしかけたようだ。 けれど、重量のある大鎧はビクともしない。 (「お、意外といけるかも」) だが甘かった。弾かれ転んだ巽であるが、全く動じることなく今度は腕に掴り始める。 「今だーー! 皆もこいつに掴まれーー!!」 その声に一人二人と飛びつき始め耐え切れなくなってゆく。そして、 ぐらりっ 踏ん張っていた身体が後ろに倒れる。 「うわっ、ちょ待っ‥‥」 「みんなてったーい!! 豆隊じゅんび! 投げろ!!」 『てりゃあーー!!』 巽の掛け声に従う仲間達――重過ぎる鎧を如何する事も出来ず、秘策の豆玉の直撃もあって、 「わ、マジ‥‥参りまし‥‥いやーーー!!」 彼は大きな音を立てて撃破されるのだった。 ●意地、見せる あっさり負けた鬼も居たようだが、懸命に鬼を勤め上げる者も勿論存在する。 それは、Kyrieと蒼馬の二人だった。 「咲き誇る美獣、血粧鬼。ここから先は行かせません」 長屋の庭に逃げていた子供達の前に立ちはだかってKyrieが言葉する。 「フハハハ! 見事この俺様を倒して人質を取り戻して見せるのだな!」 そこへ挟み撃ちにする形で蒼馬も現れ、じりりと詰め寄る。 「くそぅ! 食らえ食らえ食らえ〜!」 そう叫んで闇雲に投げる子供達であるが、それをスキルを使って紙一重でかわして見せてにやりと笑う。勿論、お面をしている訳であるから、直接の表情は読み取る事は出来ない。 「これならどーだ!」 そう言って枡ごと投げつける子供。しかし、それをあっさりと受け取って、一歩踏み込み挑発する。 「どうした‥‥それで終わりか? その程度の攻撃では俺を捉えられんぞ! この疾風の迅鬼様にはなっ!!」 手にした枡を子供の頭に乗せて返し、余裕綽々だ。 一方向かいでは、Kyrieが子供達の相手をする。しかし、蒼馬と決定的に違い、彼は豆を避けずにいた。多少は我慢するつもりらしい。二人の鬼に挟まれて、万事休すな子供達に救世主が現れる。それは、勿論大将の牡丹だった。 「くらえっ! これが俺の秘密兵器だ!!」 屋根伝いにやってきたのだろう牡丹が銃を構える。 「おい、あれ‥‥」 ぱんっ そして、その銃が唸りを上げた。蒼馬は辛うじて避けたものの、流れた弾がKyrieに向かい、ばたりと倒れる。 「やったぜっ!!」 それに上機嫌の彼――手にした銃には宝珠らしきものが見え隠れしている。 「何で、あんなもの‥‥」 唖然顔の蒼馬だったが、よく見れば実際のモノとは違うらしい。 「見たか! 俺の魔法の空気銃の威力を!!」 屋根の上でふんぞり返って、自慢する牡丹に拍手する仲間――。 「空気銃? ん、これは?」 その言葉に地面に視線を走らせれば、そこには豆が転がっていた。どうやら、これが弾らしい。 「お、おい。大丈夫か?」 それでも気になって蒼馬がKyrieに駆け寄る。 「うっ、ううう‥‥」 しかし、鬼もそれだけでは終わらなかった。 倒れた筈のKyrieが呻き声を上げて立ち上がる。地を這いずる様に徐々に体勢を起こして‥‥その拍子に彼の面がかたりと落ちる‥‥その下の顔に愕然とする子供達。 『ぎゃあ〜〜〜〜〜、化け物〜〜〜〜〜!!』 近くにいた者は腰を抜かし、まだ少し離れた者は一目散に家へと駆け込んでゆく。 そこにあった顔、それは口裂け女を思わせる強烈なものだった。 白塗りに釣り上がった目、そして耳まで裂けたような口‥‥額には鬼の文字が刻まれ、口からは血糊を吐き出し、怖さを増幅している。 「はっははは‥‥さすがは血粧鬼。迫力が違うな」 段取りを聞いていた蒼馬でさえ、ぞくっとした程だ。 「フフフフフ」 彼はそれに微笑を返して、再び活動を開始した。 「おらおらぁ、悪い子はいねぇかーー!!」 がらりと戸を開けて中を見回す神之介――両手に木刀、自称『神鬼』という事で言葉に凄みを持たせ、立ち振る舞いにも気をつける。ある家に踏み込んで、ふと上をみればぶらぶらと揺れる盥が一つ。縄が備え付けられ、その縄を辿れば押入れに繋がっているではないか。 (「あそこだな」) それを察して音を立てないよう座敷に上がる。 (「所詮、子供の浅知恵‥‥簡単なもんだな」) そう思いつつもそっと近付き、彼は勢いよく襖を開いた。 だが、そこにあったのは、小さな茶運び人形だけ。開けたと同時にキコキコ動き出す。 「なんだ?」 疑問に思ってそれを見つめているとその先、入り口側を走り抜ける子供の姿。 「くぉら! 待ちやがれっ!!」 そこで急いで土間飛び降りれば、さっきと違った感触が足を襲った。 「うおぉぉぉぉぉ!!」 つるんっ そこにはさっきまでなかった筈の大量の豆――しかもご丁寧に油まで塗りつけているようでよく滑る。 「ちっくしょ〜〜まさかこんな‥‥!?」 綺麗にすっ転んで見上げた先にはさっきの盥。今にも落ちてきそうに揺れている。 「その手はくわねぇってぶ!!」 そう思い飛び起きれば、顔を目掛けて豆玉が投げつけられて、さすがの彼も怒りが込み上げてくる。 「くそぅ、悪ガキどもめっ!!」 そう言って立ち上がるが再び油豆に足を捕らて、 「ちょ、本気にも程があるっつーの‥‥」 天井を見上げそう呟くのだった。 ●豆、食べる 戦いは終わった――。最後まで粘ったKyrieと蒼馬だったが、子供達の泣き落とし作戦によって奮戦空しく撃沈。倒れた仲間を回収して、親達を引き渡す。 「こ、この長屋の子供達がこれほどの強者とは‥‥」 蒼馬が肩膝をついて悔しそうにそう言葉し、彼に支えられながら移動する凪沙は子供達を見つめ予告する。 「今年は退こう。だが来年はさらに強い鬼が来るだろう。覚悟しておくのだな」と――。 それをきっちり見送って子供達は天に拳を突き上げ、そして―― 『大勝利だぜーーーー!!』 子供達は皆誇らしげな笑顔でお互い喜び合う。 「さぁ、皆お腹すいたでしょう? 恵方巻出来てるわよ」 そこへ長屋の奥様達による恵方巻が振舞われ、それぞれに小さな口を目一杯開けて齧り付く。鬼の金棒に見立てた太巻き‥‥黙って食べるべきなのだが、子供達が黙る筈がない。 「あのおにさん達もごはん食べてるのかな?」 その中でふとみっちゃんが言葉する。 「さぁ? そもそも鬼ってごはん食べるのか?」 ――とこれは巽だ。 「ピンクのおにさん、泣いてたもん‥‥なんかかわいそうだった」 勝利した筈なのに、どこか悲しげな雰囲気が流れ始める。 「そんなしみったれた顔してっと、またやってきちまうぞ」 そこへ軽く豆を軽く投げて神之介が言う。 服を着替えて、皆戻ってきたらしい。いつもの衣装で食事に加わる。 「みっちゃんは優しいね」 そう言ってしゃがんで桜鬼であった桜香が頭を撫でる。 「そうだぞ。確かに鬼退治に一生懸命なのはわかるけど、怪我する人がいたら台無しになっちゃうからな」 「直にぃ〜」 パチンとウインクして諭す様に現れた直羽を見つけ、みっちゃんが駆け寄っていく。 「でも、鬼悪い奴」 そう言う太郎に、 「そうですね。けれど、相手を思う心は必要です。それを忘れてしまうと鬼になってしまいますよ」 と柔らかく笑って桜香が切り返す。一応、幼いとはいえ節分の鬼が本物でない事は知っているだろう。自慢げに玩具の銃を抱えていた牡丹が急に黙ってしまう。 「それ、買って貰ったのかい?」 それを見つけて蒼馬が歩み寄った。 「お古だけどな‥‥俺の宝物なんだ」 それをぎゅっと抱えて太郎が言葉する。 「そうか‥‥いい銃だ。けど、人に向けないようにな。腕を磨くのはいい事だが、その手段を間違えちゃあヒーローにはなれないぜ」 反省はしているのだ。その様子を見れば明らかであるから遠回しに注意する。すると、彼も判ってくれた様でこくりと頷いてみせる。 「お疲れ様でした」 そんな光景を眺めながら、残りの開拓者は美味しい料理と笑顔に囲まれて‥‥今年の節分は無事怪我人もなく終了するのだった。 |