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■オープニング本文 ●死霊の玉座 人骨を敷き詰めた寝床に、小柄な少女が寝そべっていた。 少女は気だるそうな表情を浮かべたまま、手元でハツカネズミを遊ばせている。 「封印されたと聞いていたが‥‥酒天め、いまいましい」 ふいにつぶやく少女。 その小さな手をきゅっと握り締める。ハツカネズミは血飛沫と共に肉塊へと変わる。 修羅の王――祭りの喧騒に誘われるようにして封印を解かれた酒天童子。かつて朝廷と覇を争ったとも言われる王が復活したとの報に、少女は不快感を露わにした。 それも、酒天は再度封じられるでもなく、開拓者ギルド預かりの身となったと言うではないか。朝廷との間に再び血の雨でも降ろうものなら面白いものを‥‥どうも、そういった様子ではない。 「ならば争わせるまでじゃ」 手元の肉塊を混ぜ捏ねるようにして放り出すと、ハツカネズミは再び腕を駆けはじめた。 「ふふ‥‥」 少女の口元に、凄惨な笑みが浮かんだ。 ●興味 「いや〜、終わった終わった」 やっと罠師の講師という大役から解放されて、少しの間都に滞在していた青年――彼の名はキサイという。鈴鹿のシノビの一人で罠を専門に扱う特殊なシノビである。めったに里から出る事の無い彼は、久々の都を堪能し、そろそろ里を目指そうかと思っていた時の事だった。 「どうにも納得がいかねぇ」 「何がだい?」 「だってあれだぜ。開拓者が付いていたってぇのに、一夜のうちに荷物が全てなくなったと言ってんだ」 隣のテーブルで話す声に耳を傾けつつ、蕎麦を啜る。 「しかもだ。その開拓者達も居なくなったんだとよ」 「なんだい、それ? 騙されたんじゃないのかい?」 その話を聞き、もう一人の男が眉を顰める。 「まぁ、確かに偽士っつ〜奴らもいるみたいだが‥‥ちゃんとギルドで依頼したから、間違いない。本家本元‥‥登録された開拓者だったはずだぜ」 (「消えた開拓者と荷物か‥‥」) 必死で説明する男の言葉を纏め、自分の中で咀嚼し予想を立てる。 (「荷物は色々準備していれば襲撃して運ぶのは造作も無いが、人間は? 殺したら遺体が残っちまう。簡単に消すにはアヤカシに食わせるか? けど、そんな簡単に手名付けられるものか? こないだのような馬鹿とは違うだろうし‥‥」) これは彼の癖――何においてもそうなのだが、一度相手の状況に立って、自分ならどうするかの思考を巡らせる。 (「どのくらい荷物があったのかは知らないが、開拓者の護衛をつける位だからある程度量はあっただろう。そして、人もそれなりにいた筈だ」) 「情報が足りないな」 あっという間に蕎麦を食べ終えて、ぼそりと呟く。 「場所は? どんな状況だったんだ?」 その言葉を知って知らずか、会話は更に続く。 「あぁ、どうやら雨の日だったらしいぜ。忽然と全てがなくなったから目撃情報は全く無いが、出発した日の夕方から夜にかけて強い雨が降ったらしい。後、変な跡も残っていたんだってよ」 「跡‥‥荷車の車輪とか?」 「馬鹿いえ、変な跡と言っただろうが‥‥何かを引き摺ったような‥‥それでいて、粘り気のあるもののついた気持ち悪い跡だったそうだ」 「ええっ、なんだそれ‥‥」 あからさまに嫌がって見せて、男の手が止まる。 「お客さん、お茶のおかわりは?」 そんな会話を聞くのに夢中になっていたキサイの元へ店員が声をかける。 「ああ、ありがとう。けど、いいや」 しかし、彼の心は今そこにはなかった。軽くそう答えて、再び思考に入る。 (「引き摺り後か‥‥袋に積めた? でも、粘りはどうなる?? 一体、何だ?」) 遺体を隠す為に袋に入れたとして、移動をスムーズにする為に何か塗ったかとも考えた彼であるが、そんな手間のかかる事を果たして人がするだろうか。 「俺ならやらない」 跡が残っているのはその相手がそれを気にする事がなかったから‥‥いや、気にしなかったからかもしれない。とすると、相手は人間で無い可能性が高くなる。 「アヤカシ‥‥」 いつの間にか声に出して、結論をまとめに入る。 (「でも、そんなアヤカシいたか‥‥」) 教え込まれたアヤカシの名と特徴を思い返し検索するが、該当するものが思い浮かばず額に汗が浮かぶ。 けれど、彼はそこで立ち止まる性格ではなかった。 「面白いじゃん‥‥新種のアヤカシ‥‥。捕まえてやる」 新種なら確実に研究の対象となるだろう。彼は罠師であり、捕獲も得意分野に入る。 里には『帰りが遅れる』と伝書を飛ばして、この件についての依頼が出ていないか探しに入る。 すると案の定、この事件に関する依頼は出されたばかりであり、彼は迷うことなくその依頼の参加手続きを済ませるのだった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
藤吉 湊(ib4741)
16歳・女・弓
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲
オルカ・スパイホップ(ib5783)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●推理と準備 「さて、それでみんなの予想は蛞蝓(ナメクジ)か蝸牛(カタツムリ)って事だな」 出発前のディスカッションで皆が出した答え―― 今回の事件に関与しいてると思われるアヤカシの正体は一様にそれではないかという事だった。その理由は二つ、一つは敵が出たのは雨の夜の後だという事。そしてもう一つはあの引き摺り後だ。 「おいらも資料を探してみたなりが、結局見つからなかったなり」 陰陽寮の資料を漁ってきた平野譲治(ia5226)‥‥彼は新種と言うより亜種ではないかと考えていたらしいのだが、結局空振りに終わる。 「まぁ、行ってみれば判る事だよ。とりあえず、囮になりそうな物を準備して持っていこうよ。けどキサイさん、大丈夫かな?」 必要となりそうな物を書き出した紙をキサイに手渡し、琉宇(ib1119)が問う。 「ああ、出来るだけ揃えて貰うさ。あっちもこのままほっとく訳には行かないだろうから、多少高くついても出すだろうぜ」 まかせろと言わんばかりの表情を見せ交渉にキサイが走る。 「しかし、倒すだけならまだしも捕獲とは‥‥ったく、物好きどもめ!」 「ホント、なかなかに厄介よね‥‥倒してしまったら瘴気になってしまうもの」 そう外野で話しているのは巴渓(ia1334)と袁艶翠(ib5646)だ。確かに力押しが出来ないのは面倒極まりない。 「もし予想通りなら、気持ち悪いかも‥‥」 「出来るだけ触るのは遠慮したいですわね」 とこれは柚乃(ia0638)とジークリンデ(ib0258)――ねばねばとあっては女性でなくとも、好きな者はそういないだろう。暫くの後、キサイはいとも容易く交渉を成立させ戻ってくる。 「なんや、えらい早いなぁ〜」 その速さに目を丸くしたのは藤吉湊(ib4741)だ。彼女は商人志望であり、彼の交渉の早さに感心している。 「で、で、いつ出発ですか〜」 興味津々に問うオルカ・スパイホップ(ib5783)に、彼は明日だと答えるのだった。 そして翌日――大八車を引いて、荷物の割には昼前に現場に到着した彼らである。 その場所は、晴れているというのに何処か暗くひっそりとしていた。それもその筈、そこは鉱山村の跡地であり、今は使われておらず人の気配は全くない。残されているのは、無残に放置された民家や作業に使っていたらしい木箱の類と、問題の引き摺り後のみだ。 「雨が降ったっていうのに消えないっておかしいよね」 その跡を実際に目にして琉宇が呟く。土は何処か固められたような雰囲気もあり、他と比べて微妙に色が変わっている。 「ちょっとこれ、おかしくねえか?」 その跡を辿っていた渓が声を出した。そして、指差す先に目を向ければ、民家の残骸が引き摺り跡の下になり地面に埋まっており、その表面が微妙な状態になっている。 「これは‥‥溶けたのか?」 板を取り上げてキサイが言う。普通ならば削れてささくれたり、あるいは重さでひびが入ったりするだろうが、その板はぬるぬるで木がまるで蝋燭が溶けた時の様な表面になっていたのだ。 「ではこれもそのアヤカシが?」 と今度は同様の状態になっている草を手に取り柚乃が問う。 「どうやら、これはやばそうな臭いがするぜ。もしこれがそのアヤカシのやったものなら触れるのはまずい」 彼はそう言って、辺りに視線を巡らせた。跡は途切れてしまっていたが、ある程度の目星はつきそうだ。家の数も少なく、近くの採掘場となった穴も限られている。 「では、柚乃にお任せ下さい」 彼女はそう言って意識を集中する。手っ取り早く相手の場所を見つける為である。瘴索結界を発動し瘴気の跡がないか辿る。それは思いの他早く見かった。鉱山洞の一つから異常な程の瘴気反応が感知されたからだ。 「多分、ここだと思います」 「あっさり過ぎるわね」 呆気ない居場所の発見に拍子抜けの艶翠だ。 「俺が見てくる」 「じゃあ僕も」 相手の形状や数が判らなければ罠の仕掛けようがない。渓とオルカが偵察に向かう。かなり深くまで進むと問題のそれはいた。相手に悟られないよう松明は使えない為、闇に目が慣れるまで待って確認する。それはやはり大きな蝸牛のようだ。 それを確認し、二人は早々と仲間の下へ。待っていた仲間が二人を見て声を上げる。 「そ、袖に蛭(ヒル)が」 「うわぁぁぁぁ!!!」 慌てて払いのけ踏みつけたが、思ったより多く血を吸い出されていたのだろう。地面に僅かな染みが残り、腕にも傷が残る。 「気付かなかったの?」 そう問う艶翠に首振る二人。案外判らないものである。 「まさかこれもアヤカシ?」 踏みつけた屍骸がないのを見て柚乃が呟いた。 「成る程な」 報告を受けてキサイが罠の規模を考える。 「推理的中なりっ! なら、問題ないなり! 秘策をもってきてるのだ」 その横では譲治が上機嫌で罠作りを手伝っている。 「しっかし、こんな浅くていいなり? 数はあっても全然おいらでも上がれるなりよ?」 だが、彼が掘った穴は僅か一m程であり、期待していたほどの深さはない。激深なものを想像していた柚乃も拍子抜けである。 「深かったら除いて見たかったのに」 と小声で呟いている。 「馬鹿みたいに深く掘ればいいってもんでもないの。これだから素人は‥‥いいか? 相手はでかいし動きも遅いと推測される。となればもっと楽に仕留める方法はあるんだよ。ま、後は明日になってのお楽しみだ」 悪戯に笑って、キサイは早々と今日の仕事を切り上げ民家の方に戻り始める。 「あれ、今日はやらないの?」 そう声をかけた仲間に彼は空を指差し、 「やるならこっちの有利な時に‥‥ってな」 沈みゆく夕日を眺めながら、そう告げるのだった。 ●現れた強敵 「うらぁ、かかってきな!」 先発囮として渓が中へと入って行って数分。挑発する声は坑道内に木霊し、入り口付近で待っている仲間の下にも届いている。 「うまくいくといいのですが」 その穴を見つめてジークリンデが呟く。この場所からキサイの罠までは約二十m‥‥そこまで誘導するのが彼らの勤めだ。少し高台の位置に湊が待機。後衛メンバーが多い今回の依頼では、渓とオルカの他にも艶翠達も自然と前へ出ざる負えない。 駆けてくる足音を聞いて、茂みに隠れて皆気を引き締める。 入り口までは渓が誘導、外に出てからは用意してきた撒き餌を並べ反応を見る。そして、釣られた物を見取り、予備の撒き餌を使って罠まで誘導しようというのだ。 「来ました」 動く速度は極めて遅い。ゆっくりと姿を現すアヤカシに息を呑む。 「なんて姿なの‥‥」 艶翠が思わず呟いた。 まず見えたのは血に汚れた鋭い牙。そして、てらてらと光沢のあるその体からは死臭を漂わせ、背中と思しき場所には無数の人骨がまるで戦利品のように貼り付けられている。その様相は既に蝸牛といえる程可愛いものではない。体長は彼らの身長をゆうに超え、もはや化け物‥‥普通の蝸牛と違い、両サイドには手のような触手が六本も伸び、消えた荷物の中にあったと思しき武器が握られている。 日の下に現れて、相手はぱたりと動きを止めた。渓が一旦茂みに逃げた事もあるだろう。目標を見失ったように角らしき部分を伸び縮みさせて、辺りを伺っている。 『どちらに食いつくか』 誰もがそれを見守る。けれど、巨大蝸牛は目の前のオルカの用意した鉄くずにも、ジークリンデが用意した鶏肉にも反応を示さなかった。少し肉には手を伸ばしかけたが、すぐに止めてしまう。 「なんでだろ? どっちもお気に召さないようだね」 それを見て琉宇が言った。武器が無くなったという事は鉄が好きなのかと考えた者がいたが残念ながら違ったらしい。 「ちょっとそんな呑気な事を‥‥帰りそうです」 その様子を見取って、柚乃が言う。 「そうだね、それじゃあ湊さん‥‥あれを」 「まかしときっ」 その言葉に彼女は弓を取り、何かの袋を結わえ付け奴の口に放つ。 その中身は塩だった。相手が蛞蝓なら塩は利くのではないかと推測したのだ。駄目元で試す価値はある。れけど、蝸牛にはこれといった変化は現れない。 「くらっ!‥‥うなりっ!‥‥うなぁー!」 そこで飛び出して、譲治が塩をぶちまける。 「僕も手伝うよ〜」 それに加わったのはオルカだ。――が、彼女が動いたのを見て蝸牛の動きが変わった。二本の触手を伸ばして彼女に襲い掛かる。 「うえっ!」 それに吃驚し、飛び退く彼女。 「させません!」 そこへ柚乃が白霊弾を放つ。けれど、それは僅かに掠ったのみだ。 「なら、これならどうかしら?」 その隙を見て、今度はジークリンデが渦巻く炎を発生される。伸ばした手を慌てて引っ込めるが、少し遅かった。じゅっと肉が焼ける音と共に身を少なからず縮める。しかし、致命傷には至らない。なぜなら、瞬時に殻に閉じ篭ったからだ。 「なんてこと!」 折角の攻撃をかわされ、言葉が漏れる。多少はダメージを負わせたようだが、所詮はかすり傷程度のもの。炎が消えると、何事もなかったように姿を現す。 「なら、この殻を壊すまで!!」 そう言って渓は絶破昇竜拳を、オルカは疾風脚をを叩き込もうと前に出る。それをサポートするのは琉宇だ。防御を下げる旋律を奏でている。だが下げている筈なのに、弾いたのはくっついていた人骨のみだった。それどころか、その骨の中から招かれざる客――小さな蛞蝓の群れが顔を出し始める。その数の多さと言ったら尋常ではない。 「ったく、次から次へと困ったものね!」 それに苛立ちを覚えながらも、対応するのは艶翠だった。四丁もの銃を使いまわし、単動作と荒野の決闘を駆使し、出てきた雑魚を撃ちつつ、隙を狙っては巨大蝸牛にも攻撃を加えてゆく。 「みんな、一旦引いて!!」 そこへ声をかけたのは琉宇だった。先程とは違う曲を奏でれば、這い出してくる蛞蝓達の動きを止まる。それは重力の爆音の効果で、押さえつけているのだ。 「食らうなりっ!」 そこに譲治の斬撃符が飛び、一度に数匹が瘴気に返ってゆく。けれど、相手が小さ過ぎて思うようにはいかないようで、投げても投げてもキリがない。 「これじゃあ埒が明きません」 そこで再びジークリンデが炎を起した。一掃とはいかないが、目に見えて数は減ったようだ。 「おーい、まだか‥‥って、えらい事になってるな」 とそこへなかなか罠の方にこないのを心配してやってきたキサイが言う。 だが、仲間達はそれどころではなかった。六本の触手と蛞蝓達の相手で精一杯。誘導するどころではない。 「何か変わった事はなかったか?」 後方から援護していた湊に駆け寄りキサイが問う。 「そんな言われても‥‥そう言えば、なくですんなり出てきたんやろ?」 鉄にも肉にも興味を持たなかった蝸牛――けれど、渓の挑発ではあっさり出てきたのを思い出し言う。それが何を意味するのか、彼女にはさっぱりわからない。 「‥‥囮は渓だったんだよな‥‥とすると‥‥まさか、オルカ! オルカの時はどうだった!」 必死に詰め寄る彼に動揺する湊。 「大事なことなんだ! どうだった!」 「そういえばそうだったかも‥‥」 「そうか!」 その言葉に何か閃いたらしい。キサイが湊に耳打ちし、彼女に指示を出す。それを受けて彼女は林の方へと視線を向けた。けれど、そう簡単に思うものは見つからない。焦り始めた時、声がする。それははるか上空だった。一匹の鳶が飛んでいる。 「あれしかないっ!」 彼女はそう言って弓を構え難なく射抜いて、巨大蝸牛の元に走るのだった。 ●それの欲するもの ぱたぱた走る湊の手には死んだ鳶―― 巨大蝸牛に見える位置まで走ってきて彼女は徐に矢を引き抜く。 「これでどないや!」 射止めたばかりの鳶からは血が流れ、地面を染めてゆく。彼女の言葉に皆沈黙した。勿論、蝸牛も‥‥目は無いが前と思しき位置を彼女の方に向けている。 「そんなもの利く訳‥‥」 そう思われたのだが、結果は違っていた。 湊の逃走に合わせて、蝸牛は周りの開拓者には目もくれず動き出す。体からはさっきより体液を滲ませ、進む速度を上げているようだ。 「わひゃ、早いなぁ〜」 必死で逃げる彼女に助太刀一人。 「僕に任せて〜えへへ〜、僕を捕まえられるかな〜」 すいっと鳶を引っ掴むと得意げに蝸牛を挑発して見せる。流石は兔獣人‥‥兔と亀ならぬ、兔と蝸牛の競争だ。その間雑魚はといえば、ジークリンデがフロストマインにより凍らせ足止めを謀っている。 「お、来たな」 そこでようやくキサイの元に奴が現れた。 罠まで後数m――ぎりぎりまで待って目的の位置に来たと同時に、彼は手にした導火線に火をつける。 ドン ドン ドン ドン 時間差で爆発するのは小型の火薬‥‥掘った穴にはこれを仕込んでいたらしい。次々と誘爆して、最後の一つに達した時派手な音を立てて地面がずしんと沈み込む。 『えっ、ええ??』 それを前に後から追いかけていた仲間達が目を丸くする。 「どうよ、この技」 土煙に舞う中、彼は得意げにそう告げた。 地盤の緩い所を利用して仕留めた巨大蝸牛‥‥けれど、それを終えた頃には皆満身創痍――長時間に渡る戦闘により皆その場に座り込む。 昼過ぎに捕獲に成功した彼らであるが、ギルドが用意していた荷車は思いの他小さく、急遽飛空船の手配となった為、輸送はまたもや明日へと変更になる。それがまずかった。 次の日罠の中を覗いた彼らは呆然とする。そこにいたはずの蝸牛は、なんと横穴を掘って別ルートで逃げたらしい。上ばかり気にしていた彼らは、まさかの穴掘りに落胆する。 「悪い‥‥俺の不注意だ」 仕留めた事にほっとして最後まで気を回さなかったとキサイが言う。 「そうでもないです。血が餌になると気付けなかったのは事実ですし、相手を思うほど弱らせられなかったのですから」 そう言って彼を慰める。 「ま、ギルドもギルドなんやし‥‥もっとポジティブにいこうやないの! あいつの情報はうちらが知ってる訳で、今後の役に立つって」 にこりと笑って、情報は金になると豪語する湊が言う。 「でも、残念なり〜〜。次は逃がさないなりよっ!!」 ――とこれは譲治だ。友達の琉宇と肩を組み決意を新たにする。 「ま、あの場合仕方なかったんじゃねえか?」 「ですです〜」 それに続くように泰拳士ズも頷き返す。 「まあ、どんな奴かわかっただけでもやった価値はあるんじゃない?」 銃の手入れをしつつ言う艶翠に、柚乃も頷いた。 連れ帰る事は出来なかったが未知のアヤカシ――念の為、もう一度奴のいた鉱山洞に戻ったところ、そこは別の場所に抜ける道が存在し、その先には何かを運んだような後が残っていた事から、武器の類いはそこから誰かによって持ち去られたのではという判断が下された。 そして、アヤカシについては皆がその詳細を纏めてギルドに提出。数日後『甲骸』と名がつけられ、賞金付きのアヤカシとして手配される事となるのだった。 |