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■オープニング本文 彼は悩んでいた。 ずっとずっと悩んでいた。筆一本で生きていく事を考えて早数十年――しかし描いた作品はこれといって注目される訳でもなく、普通の売れ行き。売れない訳ではない‥‥ただ、人気がある訳でもない。いくら枚数を描こうと変わり映えしない自分の絵。 自信を失くしていた。 彼は浮世絵師である。見世物小屋の看板役者の絵を描き、版元にそれを木版化し量産出来るようにしてもらう。しかし、彼に入るのは原図料と少しの売り上げの一部のみ――それも売れ行きによって左右する出来高制。他はどうだかは知らないが、彼はこの版元と長い付き合いであり、今更別の版元に売り込むつもりはない。けれど、何か釈然としない想いを抱き続けている。 (「何なんだ? このもやもやした気持ちは?」) 描いても描いても納得がいかない。なぜ納得がいかないのかも判らない。 悪循環‥‥抜け出せるのか判らないこの沼で、自分はこのまま朽ち果てていくのかと思うと、気が気でならなかった。そんな折、ふらっと出かけた山で彼は一人の少女に出会う。 「おじさん、ここいい?」 まだ十歳に満たない少女――山には似つかわしくないロングのワンピース。無邪気な笑顔で彼の横に座ると、彼の書いていた絵に視線を落す。そして、じっくりとそれを見つめて、後は満面の笑顔‥‥。 「素敵だね、この絵‥‥世界が輝いて見える」 それはただの風景画だった。それも薄墨で描いた未完のもの‥‥いつも描く彼の絵とは全く違う。それを褒められて、彼は久しく味わっていなかった喜びを覚える。 「そうか、有難う」 誰かから感想を貰うのは久し振り。遠目でお客を見る事はあれど、直接聞くことは多くない。 「じゃあこれはどうかな?」 褒められた事が嬉しくて、調子に乗り出した彼。 ラフの束から本職の役者絵を取り出して、少女に差し出す。 「ん〜〜、これはちょっと‥‥」 しかし、それを見た少女の顔は明らかに曇っていた。 「それはどうして‥‥」 何がいけないのか。答えが出そうな予感に、彼が詰め寄る。 「みんな寂しそう」 「えっ?」 笑顔や決めポーズをした役者達の絵――けれど、それを寂びしそうと彼女は言う。 「な‥‥なんでそう思うのかな?」 動揺を隠しつつ問う彼に、 「さぁ? そう思ったから。それだけっ」 そう言い彼女は駆け出してゆく。 「あぁ、ちょっと‥‥」 引き止めようとしたが、遅かった。気付けば、もう姿は小さくなっている。 「またね、おじさん。私はいつもここにいるから〜」 そういい残して、少女は森の方へと姿を消した。 それからだ。心のもやもやが更に大きくなり始めたのは‥‥。 「もう一度あの少女に会えば何か変わるだろうか‥‥」 「少女?」 心の中で呟いたつもりが、どうやら声に出ていたらしい。版元の前だった為、それを聞「た主人が聞き返す。 「あぁ、すいません‥‥こっちの話で」 「そうかい? しかし、イマイチだねぇ〜今回の売り上げもかなり低いよ」 そう言いつつ上がりを繕う主人。 「次もこんなだと、悪いがそろそろ‥‥」 「へぇ、頑張ります‥‥」 首切り宣告――しかし、それにさえ上の空。突きつけられた現実にはっと気付いて首を振る彼の前には、もう主人の姿はない。 「何やってるんだ、私は‥‥」 『あの少女にもう一度会おう』 長屋に戻った彼は決意する。だが、彼女のいる山には異変が起きていた。 「なんだ、これは‥‥」 山の麓の看板にはアヤカシの出現により立ち入り禁止と書かれている。 「彼女はこの山に住んでいるようだったが‥‥大丈夫だろうか?」 以前来た時とはうって変わって、山にはぼんやりと瘴気が立ち込めている。 「くそっ、手に負えんなあ〜」 そんな山道を眺めていると、下山してくる若者が数名。一人は負傷しているようで、仲間の肩を借りている。 「あの、君達は‥‥」 「あぁ、開拓者だよ。依頼を受けて山小屋の住人を助けたんだが、一人足りなくてな‥‥その捜索中にしくじった‥‥」 「何‥‥だって? まさかその一人というのは」 「十歳にも満たない少女らしい」 「えっ」 きっとあの少女に間違いない。彼の心に動揺が走る。 不気味に陰を落とす山――その何処かで彼女は恐怖に怯えているかもしれない。 「無事でいてくれ」 彼は祈るような思いを抱いたまま、その山に足踏み入れる。そして、彼も――。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
一心(ia8409)
20歳・男・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
白南風 レイ(ib5308)
18歳・女・魔
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲
鳳櫻(ib5873)
18歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●僅かな情報 「気にはなるけど、とにかく情報は大事だよ」 琉宇(ib1119)の言葉に従って、それぞれ情報を集める。 山の状況、住人への救助状況など‥‥勿論、負傷したとされる開拓者への聞き込みも忘れない。 「そうですねぇ、お嬢さんの名前を教えていただけますか?」 そう言って親御さんに尋ねているのは一心(ia8409)だ。捜索の際の呼びかけは基本であり、名前がわからないと話にならない。 「相手の数は? 後、絵師さんの事も聞きたいです」 絵心がある雪切・透夜(ib0135)は、いなくなったらしい絵師の動向にも気を遣っているようだ。しかし彼の情報はそう多くなく、目撃情報は少ない。あの人もいなくなったのかと、負傷した開拓者が驚いた位だ。 「名前は聞いてないが、絵師だったのか、あの人‥‥もしあの時まま山に入ったのだとすると、危ないと思う。なんせ蓑と笠、後は道具箱のようなものを持ってた位だ」 「道具箱‥‥ですか」 何が入っていたのかわからない。けれど、青年の話ではどうみても戦える装備ではなかったという。 「準備等は十分ではないという事ですね‥‥心配です‥‥。運よくお二人が合流できていると良いのですが‥‥」 とこれは柊沢霞澄(ia0067)――手を合わせ祈るように窓を見つめる。 『無謀な事を』誰もがそう思ったが、言葉には出さなかった。 「危険をおして助けに行った事が、無駄にならないようにしなくちゃ、です。何かしたかった‥‥その気持ちはキレイなものは筈です」 それを察してか、白南風レイ(ib5308)が言葉する。 「絵師さんたち‥‥無事でいてくださいね」 思うものがあったのか鳳櫻(ib5873)からも切実な声が漏れた。 「けど、おまえらも気をつけろよ。相手は複数‥‥しかも、突然飛び出してくるタイプだ。後、でかいのはジルベリアの戦いで見た奴だった」 「あれで‥‥となると大物かもしれないわね。まずはアヤカシ退治が先かしら?」 思いがけない情報に袁艶翠(ib5646)が思案する。 「そんな、なんだか強そう‥‥」 それを聞き、レイの額に汗が流れた。 びゅゅゅゅゅーーーー 窓の先では風が音を立てている。 今日も雪がチラつき、気温はぐっと冷え込んでいるようだ。 「急いだ方がよさそうです」 外を覗いて、ルエラ・ファールバルト(ia9645)が呟く。 「けれど、二重災害になるといけませんので私たちも油断しないで参りましょう‥‥」 「そうですね。それには黒墨と甘酒が必要だ」 「黒墨? 何に使うの?」 疑問に思ってルエラが尋ねる。 「今回の敵に有効そうなので」 透夜はそう言って、仲間達と何かを量産し始めるのだった。 ●行軍と探索 「それでは、幸運を祈る」 登り始めて僅か数十分――何事もなく進んでいた彼らだったがここで道を分つ事となる。それはどういうことかと言えば、先に小屋ないし洞穴を探索に回る捜索班と、先に頂上へ向かいつつ敵を誘導。囮も兼ねた行軍班とに分かれたからだ。 問題の山には木々が多く立ち並び、枝に積もった雪が彼らの視界を妨げる。この季節であるから動物の気配はなく、風の音だけが辺りを支配し不気味さを増大させていた。 「瘴気が薄く漂っているみたい‥‥」 常に瘴索結界を発動し辺りを探りながら進む霞澄。その後ろでは、琉宇も一定の間隔を置いてバイオリンを奏で、まだ見ぬアヤカシを誘き出す為尽力を尽くす。捜索班に敵が行かないよう‥‥怪の遠吠えで常に呼びかけるのだ。 (「どこから来る?」) 辺りを警戒しながら、手にした銃は離さず艶翠が呟く。 「さっ、さむい」 その横では寒さに弱いらしいレイが弱音を吐いていた。 「もっと着込んでくればよかったじゃない?」 「え、これでも着込んでます。けど寒いものは寒いです」 身体を抱きしめて彼女が言う。 「しっ、静かに何か来ます」 そこで会話は中断した。静まった山中――僅かに地面が震えている。 「霞澄、数は?」 「一体‥‥ですけれど、かなり大きいようです‥‥」 そのサイズに青褪めながらも、しっかりとその方角を仲間に指示する。 「わ、わわわわわ」 そこに現れたのは氷の巨人・アイスゴーレムだった。 体長はゆうに三メートルを超え、地響きを立てて進んでくる。歩みこそ遅いが、その破壊力は凄まじく回りの木をなぎ倒さんばかりだ。 「雪景色は、静かなものが一番なんですか‥‥ねぇッ! 援護頼みます!!」 「了解よ」 「は、はい」 その返事を聞く間も無く透夜が駆ける。 大きな斧を携えて、先ずは一撃――彼より倍以上ある相手であるから狙うは足。それも関節を狙って、がっと音を立てて振り抜くが全くびくともしなかった。堅く固まった氷の身体は例え関節といえどそう簡単には砕けない。 「これならどうですか!」 そこへレイのファイヤーボールが巨人を牽制に入る。 氷vs炎――分はどちらにあるのか? 俄かに巨人が動揺を見せる。 「くらなさい!!」 そこへ艶翠のマスケットが呻りを上げた。発射音と共に硝煙を立ち昇らせて、狙うは胸。けれど、ここは彼のフィールド‥‥弾丸は中までは届かず、風が吹き抜けレイの炎が消えると同時にじわじわ解けた身体の再生が始まっている。 「まさかと思っていたけど、アイスゴーレムだよ‥‥あはは」 後方で攻撃に出れない琉宇がぼそりと呟いた。 「向こうが騒がしいですね」 山に轟いた銃声に捜索班である一心、ルエラ、鳳櫻が振り返る。 彼らは小屋の捜索を終え、現在近辺の洞穴を目指して進んでいる。 小屋の方はと言えば慌てて飛び出したのだろう少し荒れてはいたが、特に変わった様子は無く、絵師が辿り着いた形跡も無い。それでも行き違い防止の為に、書置きを残して出てきた彼らである。 「はやく二人を見つけてあげないと‥‥春香ちゃーーん、西賽さーーん。何処にいますか〜〜!!」 一心が聞き出した少女の名を鳳櫻が叫ぶ。勿論、西賽というのは絵師の名だ。何件かの版元をあたって、やっと見つけ出した名は本名ではなかったが、呼びかけるには十分だ。 足跡を探したくても、この雪では残っている筈もなく、頼りと言えばこの山に木霊するであろう己の声とルエラの心眼のみ。しかし、心眼の効果は一瞬であり、思うようには進まない。 「兎に角見つかるまでは諦めないで行きましょう。次はあちらです」 先に見えるのは洞穴群――こんな山の中だ。もし活動していたとしても、雪を凌ぐ為何処か屋根のある場所に逃げ込むのが打倒だと一心は推測する。幾つもある洞穴まで後少し――深くも無いが浅くも無い。雪の足場に細心の注意を払いながら進む。 なぜなら、そこに何かが潜んでいるかもしれないのだから――。 ●迂闊な行動 「私は馬鹿だ‥‥」 思わず言葉に出した男‥‥目の前には一人の少女が横たわっている。 彼女の名は春香――この山に入って暫くして、男は彼女が倒れているのを発見。近寄ってみれば怪我は無かったがすごい熱だったので、慌てて近くの洞穴に運び今に至る。 だが、手にしていたのは道具箱と食料のみ。絵を書く為の道具が無造作に納められたそれには、薬の類は多くない。何か有った時用にと薬草と包帯が納められているのみで、出来た事と言えば雪を掻き集めて手拭いに包み作った氷嚢だけ。持ってきていた食料は底をつき、焚き火にくべる木さえ後僅か‥‥開拓者でもないのにこんな場所に飛び込んで、何もしてやれない。自分の無力さに嫌気を通り越し、虚しさまでこみ上げてくる。 ズキューーン ズキューーン ――とその時だった。 はっと聴こえた音に振り返り、耳に神経を集中する。 「今のは‥‥銃声?」 その音に眠っていた少女も薄ら目を開け問う。 「助けが来たんだ‥‥待っててくれ、見てくる」 「あっ、おじさん」 呼び止めようとする声を聞く間もなく男は出口へと走り出す。外へ近付くにつれ、その音は大きく確かなものとなり、別の音も耳に届き始める。 「春香ちゃーーん、西賽さーーん!!」 (「間違いない。助けだ」) 名を呼ぶ声に、自分も声を出し接触を試みる。 そして、ついに人影を発見した。 数は三人――いずれも服装から開拓者だと察しがつく。 「ここだーーー! 助けてくれーー!!」 その声に自ずと歩を速め、雪を蹴る。 「駄目だ! 来るなっ!」 「えっ?」 その言葉が届いた時には既に遅かった。 ザバッ 地面が盛り上がり、男の周囲から半透明の物体が飛び出し彼を襲う。 それはフローズンジェルと言う半透明のアヤカシであり、捕えた獲物を凍結させる能力も持っている。四方八方か飛び掛られて、男は身を縮めて動けない。 「くそっ、間に合うか?!」 それでも何もしない訳にはいかない。一心が弓を取り、鳳櫻とルエラが駆け出す。 「くらいなさい!」 手にした太刀から香るのは梅の香り――瘴気を払うそれは彼女のスキル白梅香だ。近くにいた一体を一刀両断し、男に飛びかかると彼を庇うように手にしたベイルを突き出す。すると、盾は一瞬光を纏いアヤカシ達を弾き返した。ベイルに付いた宝珠の効果が発動し、防盾術と組み合わされて凍結は辛うじて回避したようだ。 「邪魔だ! 消えろ!!」 一心の矢も取り囲む一体を射止め、瘴気に返す。 だが、数が多くいっぺんには仕留めきれない。 「逃がさないです!!」 そこで取り出したるは秘密兵器――出発前のアレである。 「それっ!」 手にした小瓶には甘酒と墨汁が入っていた。それをアヤカシ目掛けて投げつければ、雪に潜ろうが色と匂いで居場所を察知できるという優れものである。ただ、長くは持たないのだが、その場さえ凌げればどうとでもなる。知能は低い‥‥居場所の特定が出来れば、恐れる相手ではなかった。 「そこだ!」 「甘いです!」 「くらえ、二刀流なのです!」 たった三人といえど彼らは開拓者。 なんとか打ち倒し、縮こまった絵師の下へ駆け寄る。 「もう大丈夫ですから。顔を上げて下さい」 そっと肩に手を置き、ルエラが言う。 「よし、辺りにはもういないようです」 そう溢してほっと肩を下ろしたのは、鏡弦で残党を確認していた一心だ。 「あの、春香さんとはご一緒じゃないんですか?」 とこれは鳳櫻。 「ああ、いけない! 早く来てくれ! まだ熱があるんだ!」 『ええっ!』 その言葉に三人は顔を見合わせ洞穴に戻るのだった。 「厄介な相手よね、全く」 一方、アイスゴーレムを相手にしていた彼らはといえばまだ交戦中だったりする。 状況がアヤカシの味方をしている以上、そう易々とは倒れてはくれないようだ。それでも策はあった。奴が一体である事、動きが鈍い事は開拓者らにとってはあり難い。交戦しながら、少しずつ自分達に有利な場所へと導いていく。 「核を‥‥胸の核を狙うんだ!」 相手の弱点を思い出した琉宇が指示を飛ばす。 日は暮れかけ、これ以上長引けばますます不利になってしまいそうなこの状況。 でも彼らの目は死んではいない。 「精霊さん‥‥皆さんの怪我を癒して‥‥」 そんな彼らを助けるのは霞澄――閃癒の光が仲間を包み、小さな傷を癒してゆく。その光を感知し巨人は腕を振り被り叩きつけ、妨害に入る。既に彼が通ってきた道は穴ぼこだらけだ。 「みんなそろそろいけそうだよ」 地図を手に指示してきた琉宇――何かが整ったらしい。 「これで決めるわよ!」 「はい」 それを期に後衛の二人が頷き合い武器を構える。 「ファイヤーボール!!」 そして、先制したのはレイだった。 再び炎を繰り出し相手を牽制。その間に透夜が足元に接近し、裏筋目掛けて渾身のポイントアタック。何度目かのそれに流し斬りの効果も絡めれば、確実に弱点を捉えひびが入る。そこへ空かさず、艶翠の弾丸が飛んだ。 「グゴォォォォ」 それを悟り巨人も防御の体制、足を庇うがその弾はそこへは向かわない。大きく軌道を変えて胸の奥にある核目掛けて突き進んでゆく。足を庇う為屈んでくれた事が幸いした。こちらももう何発目か判らない弾丸が胸を当たり、よろめく巨人。 「これで終わりにしましょう!!」 そして、辛うじてバランスを取っていた方の足に斧を振り貫けば、重心は後ろに流れ転倒する。そこへ最後の一発――それはまっすぐと巨人に向かい、仰け反った胸に着弾する。 そこで彼は自分が追い込まれていた状況を理解した。人間のように知能が働いていればどうにか出来たかもしれない結末――背後に足場はなく、彼はその身を深いの谷へと投げ出す形となる。そう、開拓者達はこれを狙っていたのだ。小さくなる巨人を見送ると、後に残るのは盛大な破壊音――。 「やったでしょうか?」 「さぁ、核に届いたと思うけどどうかしら? けど、あたし達の目的は救助優先。先を急ぎましょう」 「ですね」 その言葉に一同納得し、捜索に戻る。 そして、洞穴で待機していた捜索班と合流したのはそれから三時間後のことだった。 ●明かされた事実 「しかし、大事無くてよかったです」 なぜあのような無謀な行動をしていたのかを聞いて鳳櫻が言う。 だが、当の本人の顔は全く優れない。 「どうしたんですか? 西賽さん。もう暫くの辛抱ですよ」 一緒に救出された少女はまだ療養中であり、話を聞ける状況ではなく沈んでいるのだろうと思った透夜が元気付けようと声をかける。 「僕もね、絵を描くんです‥‥もし、刺激がほしいのであれば今までの冒険話とかお話しますよ。だから、元気出して下さい」 そっと肩に手を置き、穏やかに笑う。 「違うんだ」 「え?」 しかし、彼から返ってきた言葉は思いもよらぬものだった。 「あの少女ではないんだ」 『ええっ!!』 ぼそりと告げたその事実に他の仲間も顔を見合わせる。 「どういう事ですか? 情報では未救出の人間はあの子とあんただけでしたよ?」 依頼書を確認して鳳櫻が尋ねる。 「私にもわからない‥‥けど違うんだ、私が会った少女とは‥‥。探しに行ったらあの子が倒れていたし、山を下りるにもアヤカシがいて動けなかった。少女を残してはいけないから残ったが‥‥まさかあの少女だけだったとは‥‥」 悲観にくれる彼に言葉を失くす開拓者達――。 「えっと‥‥ちなみにどんな少女だったんですか? お聞かせ下さい」 そこで透夜が紙を取り出し、彼の話を元に絵を描き始める。流れるような筆運びでさらさらと‥‥日頃は人よりも風景を描く事が多い彼であるが、それでも出来るだけ彼の証言に近付けようと事細かに聞き丁寧に仕上げる。そして、 「そう、こんな感じだ」 その完成絵を前に西賽をぼんやりとそれを見つめて言う。 「そう言えばあのアヤカシはここらでは珍しい類とか‥‥何が原因でしょうか?」 ふとその事を思い出し誰ともなく呟く。 「さぁ、それが分れば、苦労しない、よね‥‥」 困ったようにレイが続けて‥‥瘴気に包まれた山と謎の少女。 まだ、彼の悩みとこの山の謎が解決に至るには時間がかかるようだった。 |