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■オープニング本文 カン コン カン コン 年が明けて、外ではリズミカルに羽根を突く音がする。 「正月さね〜」 そんな事を思いつつ、新型武器の開発に疲れた身体を小さなちゃぶ台に任せて、綿の入った半纏を着込み火鉢の温かみを噛み締める新海。やっと完成した鍋蓋手裏剣――しかし、それは今彼の手元にはない。年末に一通りの作業を終えて出来たそれは、現在商品化に当たって審査中だからだ。そわそわする心を落ち着けながら、彼はぼんやりと庭を見る。 「あ、あれは!!」 外では寒さにも負けず元気に遊ぶ子供達。しかし、彼の目に映るのはそれではない。 かっと目を見開きピントを手元に合わせれば、そこに羽子板の変わりに鍋の蓋が握られているではないか。 「あ‥‥あれは鍋次郎!!」 鍋蓋に名前を付けているのかどうかは定かではないが、それを見取って彼は形振り構わず、裸足のまま庭へと飛び出す。 「うわぁ、ばれたぁ〜〜〜!! にげろぉ〜〜!!」 「あぁ!! 待つさねっ‥‥とおおっ!!」 裸足で駆け出した彼――最近は部屋に篭りっきりで開発に勤しんでいた為、身体が鈍っていたのかもしれない。子供達を追いかけようとした矢先、凍った地面に足を取られ派手にすっ転ぶ。そして、 ごちんっ お約束のように頭を打ち付けて、意識を手放す。 そして――目を開いた時には見たこともない世界にトリップしているのだった。 そこは科学と機械が支配する世界――人は機械の奴隷と化している。 意思を持った機械人形が人間を支配して全てにおいて管理し、彼らの娯楽の為に人間は存在するのだ。そこで、新海はといえば‥‥あるゲームの選手として働かされているようだった。 「‥‥もう疲れたさぁ」 動きやすい柔軟素材で出来た専用の服に身を包み、手には円盤状のモノを持たされる。そう、それはメタリックにした鍋蓋といった感じではあるが、使い方はかなり異なる。料理に使うものではなく、この競技に使う道具なのだ。 「疲レル、知ルカ。オマエハ我々ノ道具。死ニタクナケレバコートニ出ロ」 彼を管理する機械がそういうと、新海に見える位置に小さなスイッチをチラつかせた。それは彼に埋め込まれたチップの発動スイッチであり、それを一度オンにすれば、新海には途方もない苦痛が訪れるという代物だ。 「わ、わかったさね‥‥だから、許してほいしさぁ」 それを見取って、慌てて腰を上げる彼。 (「あのスイッチさえなければどうにかなるさのに‥‥」) そう思うも、今は指示に従うしかない。しぶしぶコートに向かう。 ライトアップされた競技場――観客席には機械人形が座り、相手は自分と同じ生身の人間が同様な恰好をさせられ立っている。そして、競技スタートの合図と共に、二人は走り出す。目指すは二人の間に出現した光の玉。この競技はこの玉で相閧???ゥす事が要求される。手にした鍋蓋型のラケットでその玉を受け止め、相手の身体に打ち込めばポイントゲット。30ポイントで勝負は決まるが、大抵30ポイント行く前にどちらかが行動不能になり勝負を決するデスゲーム。連続ポイントをすれば特殊な技が使えるようになり、玉の威力も増す。そんな競技であるから、お互い必死だった。 『うぉりゃああああああああ!!』 玉がヒットすれば勿論痛みを伴う。その痛みは灼熱に焼き焦がされるような苦痛であり、それを逃れる為には例え相手が同種の人間であれやらざる負えない。 「悪いがこれで最後さねっ! 重力鍋蓋クラッシュさぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 天高く上がった光の玉を鍋蓋で受け止めて叩きつける様に打ち返す。相手もカバーしようと鍋蓋を差し出したが、連続ポイントによる球威の倍増に耐え切れず、バランスを崩して床へと叩きつけられる形となる。 「ぐはっ!!」 その悲鳴と共に競技場に歓声が木霊した。 「勝者、新海―――――!!」 そのコールを聞くと同時に、新海は倒れた相手に近付き謝罪する。 敵だったとはいえ、同じ人間であるから本当はこんな事やりたくはないのだ。 「み、ごと‥‥だったぜ‥‥あんたなら、やれる、かもなっ‥‥」 相手は息も絶え絶えにそういうと、微笑さえ浮かべて彼に一枚の紙差し握り込ませる。 「これは?」 「後は、頼む‥‥ぜ」 監視の目からうまく刺客を見つけて手渡された紙――最後の言葉も妙に意味深なのもがある。新海は困惑しながらも、それを押し殺して立ち上がる。会場はまだ割れんばかりの歓声が木霊していた。 そして――ようやくその日の試合を済ませて戻って来た彼は、狭い部屋で託された紙を開いてみる。 とそこには、機械人形への反乱計画が記されていた。 「時が来たってことさね…」 誰の発案かは判らないが、この際誰でもいい。奴らに報復する。もう、好き勝手に扱われるのはうんざりだった。その紙切れには、もうすぐ行われるチーム戦の詳細と、その時だけはあのスイッチを無効化される事が記されており、選抜された選手達にはこの反乱計画を伝えているらしい。同意するしないは本人次第になってしまうが、まず仲間と思って間違いないだろう。もし、同意しなくても彼はやるつもりだ。多くの人間が玩具のように‥‥いや、玩具として扱われている。 「こんな世界、間違ってるさぁ」 ぎゅっとその紙切れを握り締め、彼は決意の炎を静かに燃やすのだった。 ※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
ガルフ・ガルグウォード(ia5417)
20歳・男・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
百々架(ib2570)
17歳・女・志
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
鳳櫻(ib5873)
18歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●欠けた戦士 競技当日、少しの間だけ許された作戦会議。そこに集まったのは今まで勝ち続けてきた精鋭とも言えるメンバーの筈だったが、それでも油断が死を招く。 「今、何て言ったよ?」 「予定シテイタ一名ガ昨日ノ試合デ負傷。行動不能トナッタ。従ッテ六名デ執リ行ウ」 抑揚のない言葉でそう告げて、機械は何事もなかったように出て行こうとする。 「ルールは? もう一度ちゃんと確認させてくれよ」 それを引き止めてガルフ・ガルグウォード(ia5417)が問う。 「イツモ通リダ。タダ、相手ハアヤカシ――ラケットナシ。素手デ打チ返シテクルダケ。ドチラカガ全滅スルマデ終ワラナイ」 「そんな‥‥」 あまりにも無常なルールに思わず声が出る。 「ソレマデ精々考エル事ダ」 無機質な顔がそう言って今度こそ部屋を退出し、残された六人を重い空気が支配した。 「七枚の扉を開かなきゃなのに、どうしたら‥‥」 まさかの欠員――会場脱出には七人必要なのだ。 告げられた現実に石動神音(ib2662)が困惑の色を見せる。 「けれど、やるしかないです。何か考えなければ」 それに冷静に答えるのは鈴木透子(ia5664)だ。 「そうさね、なってしまった事を嘆いても仕方ないさぁ。一人いなくてもどうにかなるさね!」 「そうね、機械人形達の奴隷なんてもううんざりだわ!」 「新海師匠がやるってんなら俺も行くぜ」 その言葉に百々架(ib2570)とガルフが答える。 「ふむ‥‥それは言いとして、御主その恰好は?」 「え?」 さっきから皆が疑問に思っていた事を代弁し朱鳳院龍影(ib3148)が問う。彼女も通常の選手服と違い、派手な空賊風の衣装を身につけているのだが、それ以上にガルフのものは異質である。 「こっこれは‥‥自分の趣味じゃないんです。決して」 涙ながらに答える彼のその衣装は、フリル満載の女物。一昔前にはやった魔法少女を思わせる華やかなピンクのスカート。その裾からは筋肉質なおみ足が覗いている。 「大変だったさねぇ〜」 それを見て慰める新海。しかし、そんな者ばかりではない。 「負けてられないわっ!」 ――と自分もそれに近い衣装で闘志を燃やす百々架やら、 「新海さん、お久しぶりなんだよー。そして、おねー‥‥いや、おにーさん、可愛い過ぎ♪」 などと笑顔で告げる神音がいたりと‥‥先程までの空気が嘘のようだ。 そして、あっという間に時間は過ぎて彼らは入場口に立たされ、扉が開くのを待つ。 戦いの舞台は、古代遺跡をモデルにしているらしかった。天井の高い建物がでんっと中央にあり、その周囲には崩れた柱やら壁やらが存在している。そして、そこに吹き抜ける一陣の風――入口付近は砂漠のようになっており、吹き抜ける砂塵の中からぼんやりと現れる選手達はまるで某映画の宇宙へ向かうあのシーンのようだ。 けれど、会場を包んだのは感動ではなく爆笑だった。 「うう、俺の‥‥この服のせいだ」 折角の登場なのにと再び肩を落とすガルフ。 「気にしない。それも今日までの辛抱です‥‥あの、気に入っているのであれば別ですが」 「違う!!」 こそりと付け加えた透子の言葉に、全力で否定するガルフだった。 ●先手奪取 がしゃあああん なんとも響きの悪い鍋蓋銅鑼で試合はスタート――。 一斉に皆動き出す。先手を取ったのは選手達だった。 数が少ない事もある。彼らはペアになり、それぞれ手近な敵に狙いを定める。 「とにかく殲滅しましょう」 まず初めに前に出たのはちびっこペアの透子・神音。短所は長所――背の低さを利用して、機械アヤカシのいる中へと突っ込んで、相手が球を作り出したと同時に、その場を離れる。 「この方が困ると思います」 彼女が作戦会議中に言った言葉――数が多いという事は、的が多いという事でもある。作り出した球はいた筈の彼女には当たらず、別の誰か‥‥ここでは他のアヤカシに当り同士討ちになるのではと考えたのだ。 「ぐきゃ!」 「ふぎゃ!」 案の定、敵同士でいざこざが発生している。それに追い討ちをかける様に、 「ねぇねぇ、あそこにいるあやかし機械があなたの事ぽんこつって言ってたよ」 などと吹聴し駆け回る神音がいる。おどけた表情を絶やさずに、時には舌を出して挑発し攻撃させ、それをさらりと避けれて仲間同士の接触に持ってゆく。実にいい作戦だ。 しかし、相手も黙ってはいない。雑魚はそれでどうにかできるが大物相手には通用しない。それに加えて数の優勢はあちらにある。雑魚を盾に、後方にいた大アヤカシがパスを回して続けている。 「ぐごごごごごーーー!!」 会場を揺るがす程の咆哮と共に、直径一メートル程に膨れ上がった球体が選手を襲う。 「どどどど、どうしようダー‥‥じゃなかった、新海さん!!」 鍋蓋を構えて大きく突撃していた百々架だったが、その恐ろしい光に気付いてペアである新海に問う。 「そっそんなこといきなり言われても‥‥落し蓋! あれやってみるさあ!!」 「ええっ!! このサイズに!?」 百々架の必殺技である『迅技・落し蓋』であるが、超度級の光球にうまくいくか心配である。 「俺も助太刀するさね!!」 迷っている暇はなかった。背を合わせる形でやってきた新海に、彼女も頷く。 「わかった! 愛の共同作業ね!! ダーリン」 「へ? ダー‥‥何さぁ?」 「つべこべ言わない!!」 よくわからないやりとりの後、迫る光球を前に二人は自分の鍋蓋を前の突き出す。 『ぐっ』 そして、少し掠った後手元を返し鍋蓋を下にズラして突き上げようと試みる。だが、その攻撃は思いの他重かった。 ぷちっ ずどぉぉぉぉぉぉん 突き上げ切れず、変に掠って止めたせいで二人を飲み込み破裂する。 「だ、大丈夫か!!」 思わず駆け寄ったガルフと龍影に、目を回しながら手を振る二人。大丈夫ではないが、戦闘不能でもないらしい。それに、それだけ大きな攻撃であったから勿論周囲にいた敵も巻き込まれている。 「なんでもありじゃの」 そんな様子を見て、ふうと龍影が溜息を付く。 「くそっ、師匠になんてことを‥‥許せねぇ」 「なら、私らもやってみるかの」 怒りを露にするガルフの横で彼女がそう呟いた。 ●解除のヒントは 「何、攻撃は出来ぬが拘束は可能のようじゃ」 雑魚を粗方蹴散らして、現在会場に残っているのは中級以上の機械アヤカシ。しかし、身長のある彼女はそれら相手にも一歩も引けを取らない。ガルフとのパスを巧みに生かして威力をアップ、適度な所で彼女は自慢の体を武器に相手を拘束する。 「どうじゃ、本望であろう」 豊満な胸に押しつけて‥‥機械アヤカシにそういった感情があるかは謎であるが、がっちりと相手の背に手を回し羽交い絞めにすれば、相手は全く動けない。その隙を見てガルフが渾身の一球をお見舞いする。威力が増すように高く跳び上がりアタックの体勢――翻る裾からのサービスショットは残念ながら拝めない。なぜなら、そこら辺の規制はきっちり行き届いていたりする。 「明日を切り開け! 流星鍋蓋スラッシャーッ!!」 白い歯をきらりと輝かせて打ち込めば、それを見取り龍影が退く。拘束を解かれても、ギリギリ過ぎて対応の仕様が無いのだ。手を掲げる前に被弾し消滅する。 「うっしゃあ!」 嬉々とした様子の彼に微笑む龍影。意外と息の合ったペアである。 だが、ここからが山場だった。相手も知恵の回る者、ないし体力の備わった猛者ばかり。次第に、疲労が選手を襲う。壁に隠れての回避が増え、相手のペースにのまれてゆく。口には出さないが、明らかに大アヤカシが出現させる光球は彼らの初期に出せるものと威力が違うようで、多分数倍はあるのだろう。 「何あれ、ずるーい」 神音がそれを見て愚痴る。 「それは仕方がありません。私達は機械の玩具です。始めから勝たせる気なんてないんでしょうから」 「そんなー」 「ここはやむ負えません。勝負は捨てて本来の目的を優先しましょう。あたしが皆に伝えてきます、時間を稼いで頂けますか?」 真剣な面持ちで透子が言う。 「了解だよ!」 神音はそう言ってもの影から飛び出した。そして、迫るアヤカシ達ににやりと笑う。 「受けてみるがいいよー! 大回転かのんあたっく〜!!」 言い放つや否やその場でぐるぐる回転を始め、そこやかしこに光球が乱れ飛ぶ。その隙に透子が他のメンバーの下に走る。 本来の目的‥‥まずはここを脱出するのが先決である。 しかし、まだ問題は残っていた。スイッチの問題だ。この会場を脱出するには七枚の扉のランプを破壊した後、同時にスイッチを押す必要がある。けれど、彼らは六名。ランプの破壊は出来ても押す事がままならない。 『やっぱり無理なのか‥‥』 皆の脳裏に弱気な言葉が浮かぶ。 このチャンスを逃せば、次はいつ? いや、もう一生このままかもしれない。 「諦めちゃ駄目さねっ、何か‥‥きっと何かあるさぁ」 逸る気持ちを抑えながらいつになく真剣に新海がぶつぶつ繰り返す。 「ダーリン、危ない!!」 そこに光球が飛来し、百々架が悲鳴を上げた。距離があり助けに行く余裕はない。彼女は一か八か手近な壁の残骸を放り投げる。すると、それが間一髪――新海の前で光を受け止め砕け散る。 「そうか! これさねっ!!」 それで何か閃いたらしかった。新海がすくっと立ち上がる。 「みんな、いけるさねっ!! 配置に‥‥っておわぁ!!」 彼の言葉をアヤカシの一撃が遮ったが、皆には言いたい事が伝わっていた。 ●切り開く未来 新海の一言でさり気無く各自扉に向かう。その間にもアヤカシ達の攻撃は止まらない。けれど、それが観客や主催者を欺く負い風となる。ただ、隠れ逃げ惑っているように見える彼らを不審がる者などいない。ランプを壊す際も細心の注意を払い、避けたと見せかけて相手に壊させたり、弾かれ当ったよう自然を装う。一人だけ壊さなかったのは神音だった。 最後まで回転アタックを続けていた事もある。しかし、実際は――。 「いくよーー、みんなぁ〜〜!!」 ランプだけを取り外して神音がそれを宙にほおり投げる。これが合図になるのだ。新海の視線が誰もいない扉に注がれる。うまくいく保証はない。けれど、やるしかない。着ていた服の袖部分を引き裂いて、鍋蓋ラケットに被せる。柔軟性のある素材だけに、なんとか被せ終えると、後は今までの勘を頼りにタイミングを見計らう。 『鍋蓋の神よ、頼むさねっ!!』 そして、彼はそれを誰もいない扉へと投げ放った。それはまっすぐに飛び、問題の扉へと向かう。だが、その先にのしりと立ち塞がるは大きな鬼――。 「駄目さね!! しっぱい」 ちゅどぉぉぉん だが、その鬼は寸での所で透子に光球に阻止され大事には至らない。そして、 パリーーン 地面に落ちた音を聞き、皆がスイッチに手を掛ける。 ガッ すると、扉は見事に開いていた。 「緊急事態発生、緊急事態発生!!」 その警報に会場は一気に混乱する。 今までの熱気は何処へやら、観客は慌てふためき、隣の客と揉みくちゃになっている。 「落チ着ケ、直チニ奴ラヲ捕獲セヨ」 そう指示を出す主催者だったが、簡単には動けるものではない。気付いた頃には選手達は地下へと辿り着いていた。 「よく思いついたのう」 コアへの通路を走りながら龍影が感心する。彼は自分の鍋蓋を投げてスイッチを押して見せたのだ。 「百々架のおかげさねっ!」 「やんっ、ダーリンったら」 「あの、そのダーリンってのは」 「ふふふ、もうダーリンで良いでしょ? 別にあなたの答えは聞いてないけど」 「はぁ?」 懐かしい感じのするその響きではあるのだが、はっきりとは思い出せない彼である。 「これか!」 暫く走って辿り着いた先――そこには巨大な鍋がぶら下がっていた。 「まさか、こんな鍋に俺らは支配されてたのか?」 その表面を光が駆け抜けており、メインCPUである事は明らかだ。 「侵入者発見、発見!」 だが、悠長にしている場合ではない。ようやく到着した警備兵が鍋を囲み、彼らの前に立ちはだかる。 「最後の大勝負ってか」 「これ以上あなた達なんかに自由を奪わせないわ!! あたしは愛する旦那様の奴隷になるんだから!!」 そう言って再び戦闘を開始する。 広くて天井の高い倉庫のような場所だった。身体能力は抜群の彼らである。意思があるといえど、警備兵は指示に従うよう簡単なプログラムで動いている者も多い。機械に作られた機械‥‥滑稽なものである。そんな彼らを相手にするのは、さっきの戦いよりは楽だった。レーザーを回避し、直接攻撃。止めは光球でドミノ式に倒してゆく。広さも十分、障害物は敵のみ。ここならパス回しも難しくはないだろう。 「行きます!」 球を透子が出現させた仲間に繋ぐ。それは撹乱しながらの作業ではあったが、ここまで乗り切ってきた彼らに出来ない事ではない。 「あたしの速さは光の如く! 必殺・愚土本図!!」 「ふむ、テンペストガンじゃ!」 「いっけぇ〜〜鍋蓋ソニック!!」 口々に叫んで繋ぎ威力は徐々に大きくなる。 「師匠、後は‥‥って、ん?」 次に待つ新海に光球を送ったガルフであるが、挙動不審な行動に思わず目が点になる。 「俺、ラケット持ってないさね!!」 『ええ!!』 その言葉にはっとする一同。そういえばさっき開錠の為投げたのは彼の鍋蓋だ。 けれど既に光球は彼の元に向かっており、このままでは自滅してしまう。 「神音、いけるか?」 「まかせて‥‥新海さん、ごめんねっ!!」 「えっ何さ‥‥ってぐはぁぁぁぁ!!」 投げつけられた彼女の鍋蓋を受け取ると同時に受けた衝撃――それは前からではなく後ろから。彼女は彼の横に来ると同時にそのまま反転。彼に回し蹴りを叩き込んだのだ。前から来る光球を新海に被弾させず、コアを破壊する為には彼に受け止めさせるしかない。 けれど踏ん張れる余裕もなかった彼を支える為、咄嗟に取った苦肉の策だ。 「死なば諸共、やってやるさね!!」 それを理解した時、彼は光球と共に鍋へと向かっていた。そして、 どごぉぉぉぉぉぉん 爆音と共に鍋コアには穴が開き、システムはダウン。敵であった機械人形達は次々と機能を停止してゆく。崩れ行くその場から彼らはやっと脱出し、待っていたのは意外な結末。 『よくやった。これからは我々が君達を支配しよう』 脱出した先で不敵に笑う朋友達。 「まさか、あの計画は‥‥」 「キュ〜」 そこでたまふたに起こされて、現実に戻る新海。 「夢‥‥だったさね?」 心配げに見つめる相棒を撫でて、辺りを伺う。 「やーい、お間抜け新海〜」 そこでかけられた声に振り返れば、鍋次郎を手にした子供の姿――。 「こらぁ〜それを返すさねぇ〜〜!!」 彼は草履すらも履かずに、その子供を笑顔で追いかける。 その後ろに相棒のたまふたも続いて、『鍋蓋大戦』は彼の記憶の中に仕舞われるのだった。 |