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■オープニング本文 「それはほんまか?」 男の些細な発言に聞き返す連れ。 「あぁ、間違いないだす‥‥わしの叔父上の曽祖父はあの城の建築に携わったもふ師だす。ただ、それがあるのはたった一つだけみたいだす」 その言葉を耳にして男の瞳がきらりと光る。 彼の遥か先に聳え立つのはもう老朽化した城――。 高さはそこそこあるのだが、平地に周りが堀という造り。土台が水に侵食されているとあって、少し傾きつつある。加えて補修工事に費用がかかり過ぎるし、歴史的文化財としてはそれ程重要ではない為、既に取り壊しが決まっているらしい。 「へぇ、あんなおんぼろ城にそんなお宝がねぇ‥‥」 「どうかしただすか?」 顎に手を当て不気味に笑う男に連れが問う。 「な〜〜に、いい儲け話を一つ。思いついただけや」 男は更に口元を吊り上げる。 (「確かあの城の今の所有者は元の家系とは違う筈‥‥とすると、この事は知らない筈や。いける、いけるで‥‥これは」) 商人である彼の勘がそう告げていた。 今年ももう年の瀬、秋が過ぎて季節は冬――。 気温も寒いが、懐も寒い。そんな町人達のこの時期の娯楽は少なく、出歩く人も多くない。 「あの城を買い取りたい? それはまたどうして?」 突然やってきた男に思わず問い返す。 「いやぁ〜あの城、丁度いいサイズなんでさぁ。どうせ取り壊すんでっしゃろ? 悪い話ではない〜思いますけど」 相手に真意を悟らせないようにごく自然に、うまく話をはぐらかす。 彼の実際の目的――それはあの城のもふ瓦。 昨日聞いた友人の話――あの城の天守閣のもふ瓦のどれかにはどうやら宝珠のかけらが埋め込まれているという。もふらの顔の鬼瓦だけでも珍しいのだが、それに宝珠の欠片付きとなればなかなかの値打ち物である。それに、もう一つ。彼には考えがあった。 「一体何を考えているんですか‥‥あなたは? それをお教え頂けないとお譲り出来ませんなぁ」 疑わしげに見つめる城の所有者に、参ったとばかりの素振りを見せる彼。 「頑固でんなぁ〜あんさんも。仕方ない、お教えしましょう。実はあの城を使って大きい見世物を考えてるんですわ。この時期、なかなか人は外に出たがらへん。そんな町人を外に出す‥‥絶好の見世物をね」 商人らしい営業スマイルを見せて、概要を話し始める。勿論、欠片の事は伏せてある。 「成る程、それなら城の取り壊しも楽だ‥‥その催しに私も一枚かまして頂けるなら、お譲りしましょう」 その話を聞いて、城主もその気になってきたようだ。 「はぁ、仕方ありまへんなぁ〜。旦那、商売上手や。わかりました、屋台・賭けの収益の三割でどないですか?」 男はここで折れてみせた。そうなれば相手はしてやったりと思うのが心理。 「では、それで。城をお譲り致しましょう」 「おおっ、おおきに〜旦那はん」 感激する芝居――城主の手を握り、あからさまに喜んで見せる。 しかし、その裏ではしめたとばかりに微笑する彼がいた。 そして、数日後―― 都中に男の考えた催し開催の張り紙が張り出され、意外な事実に驚く城主。 「あの瓦に宝珠だと! 聞いてないぞ!!」 それを知った所で時既に遅し。 話はもうついているし、城の所有権は既に自分からあの男にすり替わっている。けれど、このままでは悔しいではないか。そんな事実を知らなかったとはいえ、納得がいかない。 そんな怒りを買っているとはつゆ知らず、商人の方は催しに向けて成功祈願に神社を訪れて、 「もふらさま、どうかあんじょうよろしゅうたのんます」 北風が吹く中でお社を合掌し、その場を後にするのだった。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰
藤吉 湊(ib4741)
16歳・女・弓
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●スタート奪取? 賑わう都に喜ぶ主催者――年の瀬のこの時期には珍しい程の人の波。それもそのはず、今日はもふ瓦争奪戦の開催日であり、城を取り囲む外堀には様々な屋台が所狭しと立ち並んでいる。そんな会場の片隅で元城主は着々とある計画を進めていた。 「了解だよ。ルンルン忍法であの商人さんをギャフンと言わせちゃうから」 にっこり笑って、そう言ったのはルンルン・パムポップン(ib0234)――シノビである。 「とりあえずよろしく頼む。私は他の用が有る故」 「他の用?」 その言葉に首を傾げた彼女だったが、悟られてはまずいと彼は足早に去って行きその先を聞くこと叶わない。 「まっいっか」 彼女はそれを気に留めることなくあっさり放棄し、参加者受付のテントに向かうのだった。 「さ〜て、始まりました! もふ瓦争奪戦!! 実況は私吉衛門がお送りいたします。今回、突如発覚したこの城の事実。いやはや意外でしたが、利縁さん、いつお気付きに?」 駆け出した開拓者を余所に実況担当が主催者に尋ねている。しかし、観客はと言えばそれより何より選手らの動きである。中を通る者も多いだろうとあって、城の壁は一部取り壊されており、危うさに拍車がかかっている。そんな城に向かう為、スタートからとばしたのはライ・ネック(ib5781)となぜだかメイド服のペケ(ia5365)だった。二人は共に早駆を発動し、ぐっと前に出る。 (「来るなら来なさい! 望むのは笑いのみ!!」) 心中でそう呟くライ――この勝負、もふ瓦よりもウケを狙うらしい。しかし、期待した罠は橋には仕掛けられていないようで、あっさりと渡れてしまったりする。 「え、マジでってぶっ!!」 だが、その先――第一の門は固く閉ざされていた。 「ん、ふふふっ。これでこそ‥‥です」 顔を真っ赤にしつつ、扉の前で崩れる彼女。その横で派手に門を蹴り飛ばしたのは、酔拳の達人・水鏡絵梨乃(ia0191)だ。それに続くように、夫婦参戦でビキニアーマー爆乳サムライの朱鳳院龍影(ib3148)の拳も呻る。残っていたもう片方の扉を打ち砕き、何もなかったかのように突き進む。 「下手な小細工など入らぬ。私は堂々と一直線を目指すのみ」 「うむ、それでこそ私の妻だ」 そう言い切った龍影に、合いの手を入れたのは勿論彼女の相方の雲母(ia6295)だ。煙管の煙を燻らせながら、悠々と彼女の後を追いかける。――彼女曰く、「走りたくないから妻に頑張ってもらう」らしく今回の戦い‥‥彼女は援護に回るらしい。走る彼女を目視出来る距離を保ちつつ、進んでいくようだ。一の丸から二の丸へ、猪突猛進の勢いの選手達。 そんな中で開始から一歩も二歩も出遅れている者がいた。それは獣人陰陽師の寿々丸(ib3788)である。 「大きなお城でございまする〜」 スタート地点の橋の上、遥か先にある城を眺め感想等を漏らしている。 「おおっ、どうした事だ! 寿々丸選手!! ただの観光か?」 「違いまする。これも作戦で御座います」 そう実況に膨れて見せて、とてとて他の選手達を追い始める彼である。 「ふふふ、甘いです甘いです。橋よりこっちの方がずっと早いんだから〜。みよっ、ルンルン忍法波紋走り!」 その声に観客が視線を向ければ、唯一堀に下りて進んでいるルンルンの姿が見て取れる。 「おおっ、さすが開拓者!! 水面をすいすいアメンボのようだ!!」 水蜘蛛を発動し進む彼女に驚きと歓声が沸く。だがしかし、進んだ先の石垣を前に立ち往生。 「かなりの高さね」 予想よりも高かった。しかも、水面からの跳躍は踏ん張りが利かない。突起を頼りに、三角跳を発動するが―― 「いやぁ〜〜〜」 足場の確保にしくじって、この寒空の中その身を水中に落とす事となる。 「いやはや、この季節にあれは厳しいだろうねぇ〜」 そんな様子を横目で見ながら、へらりとした面持ちで弓術師の不破颯(ib0495)が軽快に走り抜けて行くのだった。 ●天守閣で全ては始まる 「さて、あたしはあっちね」 状況は三の丸――つまり天守閣を前にして動きを見せ始める。 まず、初めに進路から外れたのは袁艶翠(ib5646)だった。内には入らず城の前で立ち止まり、問題の瓦がある天辺を仰ぎ見る。 「へぇ、こっちの城って随分立派なものなのねぇ。今は虫食いのようだけど」 主催者のお遊びで露になった壁――チラリと見える内部は時が経っているとはいえ、まだその時の形を留めている。 「泰ではここまで立派な城はないのよね。取り壊しか‥‥残念だわ」 ふうとそう一息ついて、彼女は辺りに視線を向けた。主に外周‥‥塀となる部分に。 「おおっと、ここで分かれ出した選手達! 城外を進むのは龍影選手と彼女に抱き抱えられた雲母選手。そして、あれは何だ? やけに荷物が多いぞ、湊選手!!」 実況が見つけたその先には、荒縄と酒瓶を担いで登る獣人弓術師の藤吉湊(ib4741)の姿がある。 「ああ〜気にせんといてやっ。注目厳禁やねん!! マジで勘弁してぇなぁ〜」 折角ここまでひっそりと来ていたのに、ここで計画がばれてしまっては水の泡らしい。 「計画? 罠を仕掛けようったってそうは行かんのじゃぞ」 そう言って拳を突き出した龍影だったが、 「あ、ほら‥‥はよせな、もふ瓦持ってかれてまうで!」 その一言に視線を向ければ、いつの間にか服を着替えてはせ参じたルンルンの姿があり、目標を変更せざる負えない。 「ふぅ、危なかったわ‥‥さ〜てと、騒がず静かに迅速にっと」 それにほっとして、彼女は再び自分の作業を開始する。彼女もライ同様、違う所に目的を持っているらしい。荒縄に酒を滲み込ませているようだ。 どごぉぉぉぉん 「なっ、なんや!」 そんな作業中に轟音が響いて、はっと手を止める彼女だった。 「ちょっ、何っ!?」 「さぁ、何でしょうか?」 先頭を走る絵梨乃とペケにも同様の衝撃。思わずその音に耳を澄ます。どうやら、後方で何かあったらしい。早駆していたペケであるが、ハイヒールとあって少し走りにくいようで、いつの間には二位に降格している。そんな彼女、実はスカートの中に焙烙玉が隠し持っていたりする。それを靡く裾から見取った絵梨乃は思う。『な、なんて恐ろしい子‥‥』と――。 ともあれ目指すは最上階――ぼろぼろの城内であるが、足場を気にするのが惜しい彼女達は、全速力で走り抜け階段を探す。そして、ほぼ同時だった。目視できる距離に階段があり、駆け上がろうと足を踏み出して‥‥二人ははたと気付く。 そう、ある筈の足場がない事に――。丁度、踏み出した先のその場所だけ意地悪く板を剥がし紙で木目を描いて貼り付けていたようだ。ある意味、匠の技に近く、全く踏み込んでみるまで気付かない巧妙さである。 みし みしみし バキィーーー 踏み込んだ勢いで周りの板もいとも容易く崩壊した。 「いやぁ〜〜、マジですかぁ〜〜」 「くっ、危ない危ない」 落ち行く者と辛うじて留まる者――落ちる寸前に瞬脚を発動し、素早く階段を登り詰めた絵梨乃である。数秒後、さっきと同様の振動が城を揺らす。 「誰かがこれと同じ罠に掛かったかな」 それを実体験で知る彼女だった。 「あのあの、大丈夫でございまするか?」 いきなり床にばたんきゅう状態のペケを見つけ、寿々丸が声をかける。肩には、彼が作り出したらしい人魂の鼠が控えているようだ。 「あっ、はい。ありがとなのです」 むくりと身体を起こしてそれに答えるペケ。埃が漂うその場所は地下と見え、じめじめ湿っぽい。 「うう、これでだいぶ後になってしまったのですね」 落ちなかった絵梨乃に外を回った者もいる。もうもふ瓦が誰かの手に渡っているかもしれない。 「あの‥‥ペケ殿。諦めるのはまだ早いで御座ります。寿々はいいものを見つけてしまったので‥‥よかったらご一緒しませぬか?」 「はい?」 その提案に訳がわからず、首を傾げる彼女。 「これでござりまする」 寿々丸はそう言って、先にある木の箱ようなものを指差すのだった。 ●忍び足と近道 「いやいや、こっそり作戦大成功だねぇ」 ひそひそと身を潜めつつ、先頭グループの後を追っていた颯。最上階に来ても、その姿勢は変わらない。一つ下の屋根では龍影とルンルンの戦闘が続いているようだが、彼はこっそり別から上に上がり、気付かれてはいないようだ。それに彼女達は今それど頃ではない。妨害専門に動いている艶翠が三人の行く手を阻んでいる。 「ゴールに近いと思っても、油断しないことね」 銃を片手に下から狙いを定め、上へ上がろうとするメンバーを妨害する。それに気付いて、雲母も得物を構えて彼女に矢の雨を降らせる。しかし、それをルンルンが妨害。龍影とのサシでやるよりはいいと見たようだ。手裏剣が飛び、それを阻止すべく龍影が動くという‥‥雁字搦め状態だ。 「これでは埒があかんぞ、るーえい!」 「そうだなっ、どうしたもんじゃろうか」 そういい合う二人の横、 「おっ先に〜〜」 駆け出したのは絵梨乃だった。身軽に屋根へと登っていく。そして、二人の瞳が重なった。どうやって先に着いたのかは謎であるが、ともあれ抱えているもふ瓦の目がきらりと光る。どうやら、それが問題の宝珠入りらしい。 「それは、まさか」 「ははは〜さあね。とと、逃げるが勝ちだ」 苦笑いを浮かべて言葉も少なく、彼は一目散に逃走を開始した。素早く風呂敷でそれを包み、最上階の部屋に向かう。しかし、 「お待ちなさい!!」 そこにはばばっんとポーズをつけてペケと寿々丸が待ち構えていた。 「くっ、あんたらこそどうやって!」 落下したペケと遅れてきた寿々丸――追いつくにはかなりの時間がかかる筈だ。それなのに、もうここに来ているとは不思議である。 「ふふふ、それはコレでございまする!!」 困惑する颯に向かって指差した先、そこには滑車としっかりした縄がついた木の箱――どうやらそれを使ってここに来たらしい。 「主催者殿の罠設置時に使っていたものと思われまする。名付けて、人力えれべーたー」 「ほう」 つまりは井戸汲みの原理に近いもので、相当な力をようするが紐を引っ張りつつ上に上がって来れるらしい。寿々丸一人では無理だったようだが、ペケの助っ人があってここまでこれたのだと言う。 「しかし、ここが一番天辺でございまするなっ! 綺麗でござりまする、絶景でござりまする〜♪」 そんな努力の甲斐あって辿り着いた天守閣――楽しみにしていた彼にとって、そこからの景色に思わずはしゃいでしまう。 「今の内にっと」 そこで、再びこっそり作戦を実行し始める颯だが、そうは問屋が下ろさなかった。 「まぁ、ゆっくりして行くがよかろう」 気付けば、戦っていた筈の雲母や龍影、ルンルンまでもがその部屋に集まっている。 「あはははは〜って渡すもんかねっ!」 再び苦笑して、彼は包んだそれを背負い走り出す。普段は後衛に回る筈の彼であるが、思いの他足が速い。 「待て、こらぁ〜〜」 背後からの叫びに冷や汗をかきつつも、時折振り返り乱射を試みる。 ぐんぐん下りて気付けば、後一階――そこで振り向いた時、事件は起こる。 「食らうがいい!」 走るのは嫌という事で、再び龍影に抱きかかえられてその体勢から弓ひく雲母。その一本には月涙がかかっている。これを回避するのは至難の業。それでも、必死で身を屈めた颯だったが、肩にかかっていた風呂敷が破られもふ瓦が床へと落ちる。そこへスライディングに入るのは絵梨乃、ルンルン、ペケの三名。しかし、それより早く瓦に到達したのは寿々丸の式だった。彼の式がクッションとなり、床への直撃は回避――だが、小さな鼠の式にそれが支えられる筈もなくバウンドする形で瓦が宙を舞う。 「ほへ?」 そして、その先に居たのはなんとライだった。今更の今更である。スタートで門にぶつかって、意識を取り戻すまでに数分――到着してからも彼女には笑いの神が降りていた。半分は自分から積極的に行った感もあるのだが、尽く罠にはまる道を選んでいる。埃まみれ傷まみれの彼女であるが、表情は至って明るい。 「ねーちゃん! それが問題のもふ瓦だ! 奪っちまえ!!」 「はいっ!!」 観客の言葉に後押しされて、彼女はそれをキャッチし走り出す。 「ああっ、俺の!!」 手を伸ばすが届かない。続いて残りのメンバーも追跡を開始する。 「こうなったら、最後の手段です。くらえ、焙烙玉!!」 そう言って構えたペケであるが、肝心の焙烙玉には火がつかない。 「あれ? あれれ??」 「あぁ、多分それしけってしまったと思われまする。地下が濡れていたので」 困惑する彼女に寿々丸の一言。がくりと彼女が肩を落とす。 そして、戦いも終盤。外に出たと同時に艶翠の銃が彼女を襲うが、それが吉と出た。 「うわわわぁ」 足元を打ち抜かれて驚き躓くと同時に、瓦をかばった彼女は丸まったままスタート地点へと転がり落ちたのだ。開始からちらちら降っていた雪はそれなりに積もり、転がる彼女を大玉へと変化させる。 「参ったねぇ、こりゃ」 それを見つめて苦笑する一同。あのスピードには追いつけないだろう。 「勝者、ライ・ネック!!」 程なくして彼女の名が会場に響き渡るのだった。 ●良悪サプライズ 「よっしゃ! やっとうちの出番やなっ! いくで〜! 観客の皆さん、よう見たってや〜〜!!」 ずっと姿を隠していた湊が手にしていた荒縄に火をつける。するとどうだろう。荒縄を辿って行けば、その先にはぼんやりと一つの絵が浮かび上がる。それは―― 「あっ、もふらさまだ!」 会場にいた観客の言葉‥‥そう、確かにその先には炎で描かれたもふらの姿がある。 「ふ〜思ったより上手く描けたかな?」 それを見て仕掛けた彼女が言う。 「成程、幻想的じゃの」 「負けてしまったが、これはこれでいいもんだな」 そう言ったのは戻って来た龍影と雲母だ。お互い寄り添い二人の世界を構築し始めている。 「残念なのです」 そう悔しがるのは、密命を受けていたルンルンだった。しかし、元城主はと言えば、そう悔しがってはいなかったりする。なぜなら、彼の思惑は半ば成功しているのだが、彼女は知らない。 「合わせる顔をがないです〜」 そう言って、逃走用に用意していた大凧に身を任せ飛び去ってゆく。 「ほな、いくで!!」 どっかぁ〜〜〜〜ん その後盛大に城は爆破され、この年末の催しは大成功のうちに幕を閉じた。 ――のだが、後日思わぬ知らせが利縁の元に届けられる事となる。 それは、『もふ瓦の重要文化財指定の通知』 書面によれば、もふ瓦は貴重な品であるから破壊・転売を禁止するとあり、できれば無償でその手の補完展示場所に提出してほしいというものだ。 「マジかいなぁ〜」 落胆する彼をこっそりと見守る元城主――文化財指定の提案を彼が出した事を知る者はかなり少ないらしかった。 |