【鍋蓋】新海本気になる
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/01 04:33



■オープニング本文

「このままじゃ駄目さねっ」
 ある日の午後、何を思ったかふと立ち上がり部屋を漁り始めるこの男――最近出番なしだった自称・鍋の蓋の開拓者新海明朝である。そう広くない長屋の一室で、押入れをごそごそと引っ掻き回せば、壁の棚の鍋蓋コレクションが振動で揺れている。それに構う事無く、中から出て来たのは古びて錆びた槍だった。いつ使われたものかは定かではないが、朽ち果てた柄はもう使い物になりそうにない。というか、持ち手は半分で折れてしまっている。しかし、新海はまだ諦めていないようだった。他にも、壊れた武器を取っておいたようで押入れからはそんなものがいくつも発掘さ黷トゆく。中には拾ってきたものもあるようだが、ともあれ全てがどこか痛んでいるようだ。粗方発掘を終えて、新海はそれをそのまま風呂敷に包むと、あの男の下へと向う。
「おや、新海さん。どうしたね?」
 そこはいつもの鍛冶屋だった。
 馴染みの男に挨拶すると、新海は風呂敷を開いて見せる。
「これを鍛え直してほしいさねっ」
 真面目な顔でそういう新海とは対照的に、鍛冶屋の表情には曇りが見える。
「かぁ〜こらまた凄いねぇ‥‥新しいのを買った方が利口ですぜ」
「勿体ないさね。だから、これを直してほしいさぁ」
「マジですかい?」
「マジさね」
「はぁ〜」
 骨が折れると鍛冶屋は覚悟する。中には数回叩けば壊れてしまいそうな物まであるが、たっての親友・新海の要望と有らばやるしかない。
「わかりやした。暫く時間を下さいな。一週間でどうです?」
「引き受けてくれるさねっ! ありがとうさぁ〜」
 喜びのあまりに抱きつく彼に、鍛冶屋は苦笑する。
(「この人は言い出したら聞きゃあしないんだよなぁ〜」)――と。


 そして、一週間が過ぎて――
 鍛冶屋の男が叩き直した武器を回収し、新海は長屋に篭り始める。
 その後数日に渡って木を削る音やら金槌で何かを叩く音やらを近所に響かせて、何やら作っている事を察した鍛冶屋が様子見に訪れた時、それはついに完成した。

「できたさねっ!!」

 ぴかぴかの鍋蓋を二枚貼り合わせて、中央には穴が開いている。
 そして、縁の部分には十字の対角線上に鍛冶屋が叩き直した槍頭が取り付けられているようだ。
「そ‥‥それは?」
 尋ねた鍛冶屋に気がついて新海は得意げに告げる。

「これは鍋蓋手裏剣さねっ!」
「は、はぁ?」

 突拍子もない答えに暫し目が点になる。手裏剣といえるコンパクトなサイズではないし、見た目は子供の工作程度の本当に板に槍頭を取り付けただけの簡素なものだ。
 鍋蓋の面影がもろに残っていて、恰好のいいものではない。
 しかし、彼はそんな事はどうでもいい様で出来上がったそれを見つめ、目を輝かせている。
「まさか、それで戦うつもりじゃあ‥‥」
 嫌な予感を覚えて鍛冶屋が恐る恐る問う。
「勿論さねっ! 鍋蓋苦無は殺傷能力がいまいちさぁ〜。それに変わる主兵器が必要さね」
「いや、でも、それはどうかと‥‥」
「なんでさねっ? やってみないとわからないさぁ〜案外、いい感じかも知れないさね‥‥って事で、依頼で使ってみるさぁ」
「ええっ!! まだ出来たばかりだろ!? それにそんな大きいのどうやって持ち運ぶんだい」
 鍋蓋の直径は三十センチを越えている。それに槍頭がついている訳で、それを含むと普通の刀や剣程の大きさがある。
「それは問題ないさぁ〜。このベルトのフックに引っ掛けるさね」
 ニコニコしながらそう答え、手にしたベルトを腰に撒きつけた。
 そして、そのベルトのフックに鍋蓋の中央に開いている穴をかければ確かに携帯は出来る様だ。
(「しかし、あれ。危ないよなぁ〜」)
 掛けるだけのそれは、歩く度に不安定に動き槍頭の部分が体に当りそうで危険極まりない。だが、本人はやはり気にしていない。先はうまく両サイドにいくよう穴の形を工夫しているとかで大丈夫なのだそうだ。
「とりあえず十個、作ったさぁ。今度の依頼の仲間にも試してもらうさねっ」
 子供のように無邪気に笑って、新海はそそくさと部屋を片付け始める。
(「そんなもんでどこまでやれるんだか‥‥」)
 そう思った鍛冶屋だったが、彼のやる気を殺ぐ訳にもいかず不安を抱えつつ彼を見送る事にするのだった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
ロウザ(ia1065
16歳・女・サ
和奏(ia8807
17歳・男・志
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
緋姫(ib4327
25歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰


■リプレイ本文

●浪漫
「うほっ、こいつはたまらねぇ〜なぁ〜、テンション爆上げだぜ! なぁ、新海ぃぃ!!」
 瞳を輝かせて、新海に声をかけたのは村雨紫狼(ia9073)。今回集まった開拓者を見回して、喜色満面――それもそのはず、六名もの女性陣は皆個性派揃いなのだから無理もない。
「むひゃひゃ〜、何か毛皮ビキニの子に美脚カンフー娘! クールなくのいち、つるぺた魔法使い‥‥それにそれに俺の好みどストライクのロリっ娘たんがふーたーりーもーー!!」
 それぞれロウザ(ia1065)、水鏡絵梨乃(ia0191)、緋姫(ib4327)、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)の事を指しているらしい。視線がそれを物語っている。そして残った二人・リィムナ・ピサレット(ib5201)と石動神音(ib2662)は彼の好みらしい。
「それはよかったさねぇ〜」
 だが、新海はと言えば彼女らには見向きもせずひたすらに新型武器の調整に入っている。
 皆が提案してくれた形に近付け様と出発前だと言うのに、ギリギリまで試作品の加工に努める。
「これ、注文通りにしておいたさね」
 そう言って神音に手渡す新海に少し羨ましそうに見つめる紫狼。
「しかし、おしいなぁ〜。おまえ実は女でした〜とかいうオチはないのか?」
 徐に視線を移動させて、今度は鍋蓋手裏剣の感触を確めていた男性参加者の和奏(ia8807)に話しかける。
「残念ながら、自分はれっきとした『男』ですから。ご期待に添えません」
「そうか‥‥まぁ、いいか。二人もロリっ娘がいるし」
「そんなにお好きなのですか?」
 そううっかり聞けば、つらつらと語り出す彼。その熱弁は出発まで続く事となる。
「一体何を話しているのかしら?」
「ほおっておきましょう。それが一番だと思うわ」
 それに気付いて振り返ったリーゼロッテであるが、結局のところ緋姫の助言に従う。
「しかし、でかいわね、これ‥‥」
 それが彼女の率直な感想だった。

「めーちょ! これ、あなぼこ! どして? こわれちゃった?」
 そんな中、どこまでも自由を貫くのはロウザだ。試作品を持ち上げ新海の下へ駆け寄ってくる。
「それは壊れてるんじゃ」
「めーちょ、みてみて。くまくま〜」
 しかし、答えを聞く前に興味は別にそれて‥‥周りについた刃の部分を耳に見立てて子供のように遊び始めている。
「じゃあ頭に乗せればかっぱさねっ」
 そんな彼女に嫌な顔をしないのは彼の良い所。
「ロウザ、きにいった〜」
 はしゃぐ彼女に笑顔を返す彼であった。


 小鬼が出るという草原に向かって――各々鍋蓋手裏剣を携えて遠足のような道中は続く。
「あの、新海さん。一つお聞きしてもよろしいですか?」
 ふと思った疑問を和奏が尋ねる。
「何さね?」
「今までは、本気ではなかったんですか?」
 コレまでの経緯と今回の発端から抱いた事だ。
「ん? 俺はいつも本気さぁ〜」
「ですよね‥‥精一杯生きてらっしゃる」
「そうさぁ‥‥けど、こないだ大事な人の役立てなかったさね。だから」
「いや〜!!」
 ――と会話の途中に響いた悲鳴。先頭を歩いていた新海が振り返れば、そこには真っ赤な顔の神音がへたり込んでいる。
「どっどうしたっ!!」
 好みの神音の一大事と駆け寄る紫狼だったが、
「だめぇーーー!!」
 何を起こったか彼女の右ストレートをまともに喰らい遥か先へと飛ばされてゆく。
「あ、やだ、ごめんなさい‥‥でも、ほらねぇ〜」
 しどろもどろの彼女の話に寄れば、どうやら荒縄に縛って肩にかける形で運んでいた手裏剣の刃が彼女の服に擦れて破いてしまったらしい。刃にかけていた布はいつの間にかなくなっている。
「言ってくれれば運ぶ用のベルトかしたさぁ」
 自前のベルトを指差して新海が言う。
「いや、これも危ないと思いますよ。刃、剥き出しですし」
「ぶらぶらしてるもんねぇ〜」
 その言葉に突っ込む二人。
「あの、それどうしたんですか?」
 横に並んだリィムナの顔を覆う南瓜の仮面に僅かに驚いて、和奏が尋ねる。
「え、これ? 似合うでしょ。南瓜と言えば煮物、煮物と言えば鍋‥‥って事で、つまりあたしが鍋蓋を武器にするのは必定なのよ!!」
 ぐっと拳を握って、多分仮面の下では瞳を輝かせている事は間違いないだろう。
「いいんじゃない? それはそれで」
 そんな彼女を温かく見守る絵梨乃。
「あの〜神音はどうしたら」
 話が逸れていた事にはっとして再び皆の視線が神音に戻る。
「と、兎に角男共はあっち向いてる。神音の服どうにかしないと‥‥何かある?」
「包帯なら」
「じゃあ、それで」
 そう言って、緋姫は手際よく彼女服に応急措置を施す。
「鞘‥‥は無理か。実用化するんだったらケースとか用意することを薦めるわ」
 リーゼロットから助言を貰う新海。その頃、飛ばされた紫狼はと言えば――。


●相手にとって不足なし?

   ぎろり

 見つめ合う瞳に動けぬ身体――いや、実際は大した傷ではないのだが、相手が相手だけに即座に動くのはまずいだろうとお互い動けずにいる。まさかの遭遇‥‥手にあるのは新海の作った手裏剣のみ。少し改造を加えて二枚の鍋蓋の間には丈夫な縄が取り付けられている。
(「やれるか?」)
 相手にとって不足なし。けれど、数が多かった。ごくりと息を飲んで、ゆるゆると後退する。ここでやるのは嫌だ。どうせやるなら仲間の‥‥いや、女の子の前で活躍したい。
「ここは戦略的撤退だ!」
 そう叫んで手にした手裏剣を投げ放ち退路を切り開くと、一目散に仲間の下へ駆け出す。
「キィーキィー」
 そんな彼を追うのは勿論小鬼達――少し離れた場所には数倍大きい鬼が控えていたのだが、彼は気付く事ができなかった。


「ん! あれは紫狼?」
 ざわめく草原に聴こえた奇声――。
 こちらに駆けて来る人影のその向こうには、土埃を上げて数十匹の小鬼が壊れかけの武器を携えて向かってきている。
「やるさね、紫狼! 探す手間が省けたさぁ〜」
 そんな呑気な事を言っているのは勿論新海だけである。
「待ってましたぁ! いくよぉ、南瓜仮面推参だぁ!!」
 そう言ってリィムナ他各々構えて迎え撃つ。初めにぶつかったのは緋姫だった。
 手にした手裏剣を投げるのではなく、一種の苦無として扱い、舞うように子鬼に攻撃を加えてゆく。物凄い勢いで走っていた小鬼達は急には止まれず、避ける事も間々ならないようだ。残された対応は防ぐのみ。手にした武器で刃を受け止めようとするのだが、身体を反転させて増大した力は受け止めきれず、弾き飛ばされていく。
「ざこきた。ろうざもとげとげ、つかう!」
 ――とその横でも、同様に手裏剣を振り回す者が一人。ただ、スタイルがかなり異なり、槍頭がついたのをチョイスしてただ我武者羅に振り回し始める。もはやそれは力技――自分自身を軸に回転しながら突撃すれば、人間独楽の完成である。
「うわっ、いいね〜それ。あたしもそれ、やっちゃうよー!」
 天高く飛んで投げつけたそれを一旦回収し、リィムナもくるくると回転を始める。

   ぎゅんぎゅんぎゅん

 そして回転数をどんどん上げれば草が舞い上がり、彼女は一陣の風になる。それはもはや小さな竜巻にも近かった。けれど――。
「うにゃ〜〜回り過ぎたかもぉ〜〜」
 調子に乗っての回転に止め時を失った彼女。
「あれれ? みんな、いっぱい〜」
 とそこへもう一人の人間独楽が現れて――

   ばちばちんっ

 二人は接触し手にした武器を手放す有様。

   きゅぴーーん

 そして、それは遥かお空に飛んでゆく。行く先に何があるとも知らずに‥‥。


 一方、独楽は独楽でも手裏剣自体を独楽にしたのは神音だった。持ち手として開けられた穴に芯を刺して、縄を巻いて力強く引っ張れば巨大独楽の完成である。しかも、刃の部分には松明を設置している。
「いっけー! 炎の独楽!!」
 もはや武器というよりも危険な玩具――草原の草を伐採しつつ、火の粉が舞う。そして、それは思わぬ事態を引き起こす。
「やばいさねっ!! 草に引火したさぁ〜」
 しかし激しく回るそれを簡単に止められる筈もなく、慌てる一同。
「お、ここは俺の出番だなっ」
 そこへ紫狼が手裏剣を構えた。彼のそれも事前に加工している為、少し形状が異なっている。
「止まりやが‥‥」

   どがっ

 しかし、彼が投げるより早くそれを止めたのはリーゼロッテだった。
「へぇ、見てくれはこんなだけどちゃんと飛ぶんだ」
 手裏剣がというよりも手裏剣に取り付けていた鎖分銅が神音の独楽に落下して、見事に独楽を破壊する。手裏剣部を当てる気だったのは内緒である。
「くそぉ〜〜俺の出番が‥‥けど、これはこれで悪くない」
 前衛に立って良い所を見せようと張り切っていた彼であるが、各々戦闘に必死の為、誰一人として彼を見てはいない。しかし、それも彼としては願う所でもあったり。ちらりとみえる女性陣の太腿やら胸やらに終始ご満悦である。
「危ないです!!」
 だが、その失念が命取り――。

   ごつんっ

 小鬼が手にしていたらしい棍棒が飛んできて頭に直撃する。
「あぁ、だから言いましたのに」
 それを見て呟く和奏――彼の手裏剣にも縄が取り付けられていた。
 けれど、それは切り札としての事、まずはあくまで接近戦。円月輪の要領で、まるで舞を踊るかのように手にしたそれで小鬼達を裁いていく。
「なかなか使えるものですね」
 そういう彼に緋姫も頷く。
「鍋蓋と手裏剣‥‥合わせるとどうなるか。未知数だったけど割りと‥‥ね」
 使えば使うほど馴染んでくるような感触に、彼女の動きも冴え渡る。付かず離れず‥‥適度な距離をおいての的確に小鬼を捕らえてゆく。
「新海さん、それ借りていい?」
 さっきのあれで武器を失った神音が、新海に近付き彼の手裏剣に視線を向ける。
「ん? そうさねっ、俺はデータ取らせて貰うから使っていいさぁ」
「ありがとう。次は大事に使うね」
 そう言うと今度はしっかりと手に握り込む。
「おっ、強度もなかなかみたいだ」
 その横でずっと小鬼の攻撃を避けていた絵梨乃は感心していた。
 彼女は手裏剣を太腿から脚の側面に固定し、防具にならないかと考えたのだ。とりあえず様子見とばかりに、のらりくらりと小鬼の攻撃を交わしていたのだが、今当った一発でも鍋蓋部分はビクともしていない。刃物を埋め込むように取り付けているのと、二枚の鍋蓋が若干ではあるが強度を増しているのだろう。だが、

   がきんっ

 所詮は木製――小鬼が手にしていて小刀には弱かった。刀傷でひびが入れば後は脆い。
「あちゃ〜割れちゃったなぁ」
 空しく固定具だけが脚に残って、無残にもぱっくりと割れる鍋蓋手裏剣。
「もう少し改良が必要さね‥‥」
 新海はそれを悲しげに見つめていたが、もう一つ、余っていたモノを取り出し彼女に投げ渡す。そんなこんなで、数十匹はいた筈の小鬼も段々と数を減らしてゆくのだった。


●思わぬ所でご対面
 初見であろうその武器に危険を感じ始めた小鬼達――ここは撤退とばかりに、開拓者に背を向ける形で逃走を開始する。広い草原‥‥障害物など何もない。隠れながらの逃走は不可能であり、なりふり構わず散ばり始める。
「やっと、本領発揮ね」
 だが、彼らはそれを許さなかった。仮にも名前は手裏剣である。手裏剣とは普通投げる物‥‥失くした二人を覗いて各々感じるままに投げる。
「いきます!」
「うぉりゃあーー!!」
 和奏と紫狼の物には縄が付いているから、ある程度までしか飛ばせないが、それでも回収には便利である。
「くらえ、ヨーヨー手裏剣!」
 何度目かの投擲でやっと要領を掴んだらしい紫狼は今までの失態を取り戻そうと前に出る。和奏の方はそんな仕様にしていない為ずりずり引き寄せるしかない。
(「この絵、端から見たらシュールだろうなぁ。ならいっそ‥‥」)
 そう思い、引き戻すのをやめ縄を振り回し始める。
「おわぁぁ、危ないさね!」
「この方が楽なんです」
 ぶんぶん振り回せば、それはもう手裏剣というよりは刃物つきの投げ縄状態である。
 そして、勢い余って縄がするりと腕をすり抜ける。
「あっ」
 また一つ、鍋蓋手裏剣がお空へと飛んでゆく。
「どこいったぁ〜」
 そして、先に飛ばしてしまった二人は地道にそれを捜索していたりする。
 そんな中で、少し違った投げ方を見せたのは絵梨乃だった。新しく借り受けた鍋蓋手裏剣の穴の部分に脚をかけ、狙いを定める。そして、
「とりゃあっ!」
 靴飛ばしの要領で地面すれすれにそれを飛ばせば、逃げ行く小鬼の脚にぐさりと突き刺さる。しかし、
「数があればいいんだけど…」
 投げたら投げっばなし。主要武器にするには難有りなのかもしれない。それを補うように地道に追いかけるのは緋姫だった。早駆で投げたと同時に追跡を開始する。そして、その先に待ち受けていたものに唖然とする彼女だった。


「ど、どういうことなの?」
「どした?」
 拾いにいった緋姫と捜索班が目にしたものそれは背丈二m程ある鬼の姿であった。
 しかも、その鬼の頭にはなぜだか鍋蓋手裏剣が突き刺さっている。それに気付いて喜ぶ二人。
「めーちょ、あれ! ろうざのだ!!」
「もう一つはあたしのぉ〜!!」
 駆けつけた新海達に自慢げにロウザとリィムナが言う。
「自分は‥‥ありませんか」
 そう言い残念がるのは和奏だ。
「えっと‥‥つまりこういうことかな? 二人が手放したあれが偶然この鬼に刺さったと?」
「信じられないけどね」
「まじか?」
 何がどうなるか判らないもので、さっきの小鬼達の親玉らしい鬼はここで二人の手裏剣の不意打ちに合い、当たり所が悪かったか機能を停止しているらしい。
「鬼をも倒す‥‥なかなか出来た武器さね」
 それに機嫌よくするのは製作者の新海だ。ぺしぺし鬼の膝を叩いてみせる。
「ぐっがごご」
 だが、実体がある=生きている訳で‥‥。
「ちょっ、これやばくない?」
「やばいな、多分」
「とりあえず逃げますか?」
「そうね、行きましょう」
 ゆっくり動き始めた鬼を前に皆が同意する。そして、
「ぐおぉぉぉぉぉ」
 意識を完全に取り戻して吠える鬼。
「ぬわっ! 死んでなかったさねぇ〜〜〜」
 それにやっと気付いて、丸腰の新海も走り出す。
「いい加減覚えてください! 相手はアヤカシ!! 完全に殺してれば実体は残りませんから!!」
「わ、わかってたさね! ただ、ちょっと油断しただけさぁ」
「油断? どうかしらねぇ」
 そんな会話をしつつ、一行は鬼から距離を取る。
 そして、まだ手にしている者は手裏剣を投擲。失っている者は自前の武器で応戦‥‥最後は普通の武器に切り替えて、数十分かけたのち、鬼を瘴気に戻す事に成功する彼らなのであった。


 そして、後日――
 依頼を終了し、壊れた試作品を持ち帰った彼は早速修理に入る。
「鬼をも倒す武器にして見せるさねっ! 刃先は収納、投擲しても戻せる工夫が必要さぁ」
 そんな事を言いながら、彼は本気で実用化を目指すようだった。