【大祭】囚われたもふら
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/28 01:41



■オープニング本文

「もふら祭りに行きたい」
 そう言い出したのは勿論もふら大好き少女のみっちゃんだった。
 正式名称『安須大祭』――おおもふ様の降り立った年が豊作となった事がきっかけに、行われるようになった豊納祭であるが、彼女の興味は出店よりも何よりもそのおおもふ様に会う事に他ならない。
「絶対会うんだからねっ」
 そう言って一歩も譲らず、母は仕方なく一ヶ月のお手伝いを条件にその祭りに連れて行く事を決意したのだ。それに伴い、仲良しである迷子癖のある太郎と元気っ子の巽も同伴する事になったからみっちゃん母の苦労は計り知れない。
 まだ開催までには日があるのだが、間に合わなくてはならないと早めに出発した一行である。o来るだけアヤカシの出ない道を選んで、山道を進む。
「あ、この道覚えてるよぉ」
 そんな折、通りかかった山道を見てみっちゃんが言葉した。
「俺も覚えてるぜっ。太郎がまいごになった道だ」
「迷子、ちがう! おっきいもふらにあった山」
「おんせん、行ったときだよねぇ〜、あのもふらさま、げん‥‥」

   ズキューーン ズキューーーン

 言いかけた言葉を遮るように轟いた銃声。思わず顔を強張らせるみっちゃんである。
「まさか、いまの‥‥」
「駄目よ」
 おろおろしながら音の方を見る子供達に母が釘を刺す。
「きっと猟師が鹿を追いかけて撃った銃声だわ。さ、行きましょう。お祭り行くんでしょ?」
「でもぉ〜」
 先を促す母にみっちゃんは何か言いたげだ。
「あ、あれは!!」
 そんな中で、辺りに目を凝らしていた太郎は発見する。銃声のその後に、駆け抜けていく一匹のもふらを――。それは間違いなくあの時のもふらだった。普通のもふらよりも大きく、象位の大きさはある。そのもふらが全力で駆けていた。右後ろ足を庇いながら‥‥。
「あいつ、怪我してる!」
 それを見取った巽も叫ぶ。後ろからは銃を携えた男が数人がかりで追いかけているようだ。
(『まさか、密猟!!』)
「みんな隠れてっ!」
 母はそれを察知し、慌てて木の影に子供達を隠す。
「あぁん、今声がしなかったか?」
「かまわねぇ、今はあれが先だっ!!」
 不審を持った一人だったが、逃げるもふらの方が重要らしくあまり気にすることなくもふらの追跡を開始する。そして、暫くして轟いた銃声の後、聞こえた悲鳴。
「もふらさまが‥‥もふらさまがぁ‥‥」
 それは明らかにもふらのもので――母に押し留められながらみっちゃんの頬には一筋の涙が流れていた。


 その後、なんとかその山を越えたが、問題の祭りのある安雲まで距離があり、近くの都で宿を取った一同。しかし、あの事件から子供達の様子はかなり沈んでいる。まさかあんな場面に出くわすとは思いもよらず、かと言って顔をはっきり見ている訳ではない為通報する事も出来ない。どうしたものかと思案に暮れるみっちゃん母である。
 そんな昼下がり‥‥事件は起きた。母が少し目を放した時の事――。
「なんでも今年はこの町にもおおもふ様が来てるんだってよ」
 道行く人の会話。
「んあっ、そりゃ本当か? おおもふ様ったら石鏡にいるんだろう? こんな辺鄙な所に来てる訳ねぇ〜だろうがっ」
「いや、なんでも怪我したとかで温泉に療養に来てるらしいぜ」
「怪我? それ本当に本物なのかい?」
「さぁな。けど、かなり大きいらしい」
 何気ないその会話だったが、子供達は顔を見合わせる。
「おじさん、そのもふら様、今何処にいるの!」
 もしかして‥‥怪我をしているという事から彼らの中にある答えが閃く。
「あぁ、なんでも都の郊外のテントにいるらしい」
「ありがと、おじさんっ」
 それを聞いて、その場所へ向った三人。
 案の定、そこには右後ろ足を怪我したもふらが元気なさげに檻に閉じ込められているではないか。
「兄貴‥‥これは稼げそうですぜ。これだけの大きさだ。おおもふ様と言ったってみんな信じる」
「殺さなくて正解だったな」
 にやにやと笑いながら男達が言う。
「なんてやつらだ‥‥」
「開拓者さんに助けてもらおう」
「誰に助けてもらうって?」
 はっと気付いた時にはもう遅い。
 いつ間にか三人の前に銃を手にして男が立ち塞がっていた。

「みんなっ、どこ!!」
 その頃、みっちゃん母は三人の姿がない事に愕然としていた。
 しかし、幸いにももふらの噂を耳にして、彼女は確信する。
(「あの子達、きっと確めに行ったんだわ‥‥」)
 けれど、一日経っても戻らず‥‥ギルドに駆け込む事になるみっちゃん母なのだった。


■参加者一覧
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
水鏡 雪彼(ia1207
17歳・女・陰
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
言ノ葉 薺(ib3225
10歳・男・志


■リプレイ本文

●予想ハズれる
「いないの」
「いないな」
「見当たらなかったよ」
 先陣を切って出発した救出班は辺りを見回し思案する。
 もふらの居るテントに行って行方不明になったと思われたお子様ズだったが、テントを内密に調査しても、何処にも姿は見当たらない。けれど、考えられるのはここしかない。もふらの密猟を目撃した子供達――相手がこちらに気付いていたのなら、彼らを見つけたら‥‥最悪の事態が過る。けれど、それはリスクも大きい。密猟者がそれを実行に移すとは考えにくい。では、何処に? 焦る頭をフル回転させる彼らに過るのは数時間前の約束――。


「えええっっ三人が行方不明!」
「しっ、静かに‥‥お母さんの前だよ」
 思わず大声を出してしまった和紗・彼方(ia9767)を兄の弖志峰直羽(ia1884)が窘める。状況を纏める為に集まった宿には、依頼人であるみっちゃん母が待機していた。見知った顔も多いとあって、少し緊張の糸を緩める母。
「みっちゃんのお母さん久しぶりです。みっちゃん達は必ず助けます。何か美味しい物でも作って待ってて下さい」
 そう言ってそっと肩に手を置く劉天藍(ia0293)。
「雪彼、必ず助けるから。心細いけど、もう少しだけ待ってて」
 続いて彼女に抱きついてそう告げたのは水鏡雪彼(ia1207)だ。彼女もまだ若いというのに目をしっかり見つめ、心配を取り除くかのようにぎゅっと抱きしめてみせる。
「ほんの一瞬だったの‥‥けど、まさかこんな事になるなんて」
 不安を表に出さぬよう努めているみっちゃん母であるが、やはり隠し切れないと見えてあまり顔色がよくない。
「だ、大丈夫だよ、お母さん。ちゃんと無事につれて帰ってくるから‥‥ね?」
「俺ら任せて下さい」
 意気消沈のみっちゃん母に告げた言葉。


「諦めちゃ駄目だ。きっと何処かにいる筈だから」
 それを思い出して直羽がぐっと拳を握る。
「そうだな、もしかしたら別の場所に‥‥と言う事も考えられる。いや、むしろそっちかもしれない。テントで騒がれたら事だろうしな。しかし、都中を探すとなると難しいな」
 天藍もそう言いつつも、再び人魂の小鳥を飛ばす。
「じゃあ、あたしは先手をうっとくね」
 そう言って彼方はテントの方へと消えてゆく。
「無事でいて‥‥」
 雪彼も祈るような想いで人魂を金色の小鳥に変え解き放つ。
 キラリと光ったそれを見つめる瞳――。
「あ、あの鳥‥‥」
「ん? 気のせいかな?」
 誰かがそう言葉したのだが、風の音にかき消され彼女の耳には雑音しか届かなかった。


●もふら交渉
 天藍の小鳥からの連絡を受けて残りの四人も動き出す。
 今回は子供のみならず、もふらの救出も考えている彼らは事前に打ち合わせ、ある作戦を立てていた。それは有名ご隠居ご一行様をモデルにしたものであり、残っている四人はそれぞれ衣装を変え、商人を装っている。
 もふらを安全に確保・救出するにはこの方法が尤も良いと考えたのだ。本来の目的に加えて、交渉の隙を見て子供らの居場所の調査も加わった為、かなり重要な役目を果す事となる。
 アーニャ・ベルマン(ia5465)をお嬢とし滝月玲(ia1409)が番頭を、鹿角結(ib3119)と言ノ葉薺(ib3225)がお供といった風体だ。元々ジルベリアの貴族のアーニャにとってそれらしくなるのは当たり前。気品さえ醸し出している。
「お待たせしやした。どうぞ」
 突然の訪問にかなり待たされたが、やっと許可が下りたらしく中へと通される一行。
「私はここで」
 薺は控え目にそう言うと、中へは入らず外で待ち、気付かれぬよう心眼を発動させる。
(「中には複数の生命反応‥‥数はわからないか」)
 けれど、人の配置は朧にわかる。それを頼りに彼女は今後の為下準備に取り掛かるのだった。

「さて、どういったご用件ですかな?」
 一方中では早速交渉が始まっていた。丸いテントは幕で半分に仕切られ、木箱の椅子に座っての交渉はなんとも貧相なものだ。そして、急場凌ぎで用意したと見える羽織を身につけた男が彼らに尋ねる。
「単刀直入に言いまひょ‥‥ずばり、もふら様を買い取らせて頂きたい」
 もふら様の噂を聞いてやってきた事。ジルベリアでは人気である事を言葉巧みに説明し、玲が交渉を開始する。飛行船の技師兼商人の経験がある為、この手の交渉には長けているのだ。口調まで変えて、真に迫った演技が続く。
「玲‥‥それは少々強引ではなくて」
 そこへ今度はお嬢が割って入る。
「あ、こらすみまへん。お嬢様‥‥ついいつもの癖で」
「いいのよ、玲‥‥失礼しました。けれど、どうしても譲って頂きたいのです」
 優しい物言いであるが、凛とした瞳にはこの商談にかける意気込みが感じられる。
「勿論タダでとは言いません。三万文で如何でしょうか?」
 手で合図すると結が徐に皮袋を男の前に置き開く。
「しかし、もふら様は神聖な生き物ですからなぁ‥‥それに、このもふらに普通のもふらではないですし」
 大祭の大もふ様である事を主張し、男は更に上乗せを要求する。
「では、もう三万文‥‥計六万で如何ですかな?」
 今度は玲がずいっと前に出て袋を差し出す。しかし、男はまだ首を振らなかった。つけ込める所までつけ込んでしまおうという事だろう。黙ってしまった男にアーニャがはぁと息を吐く。そして、
「致し方ありませんわ。条件を変えましょう‥‥御貸し頂く事は可能でしょうか?」
「え」
 額を吊り上げるつもりがいきなりの条件変更に男が思わず声を出す。
「それはどういう‥‥」
「見世物として興行を行う間だけ‥‥という事です。勿論運搬費もろもろはこちらもち。興行収入に関してはまた別でご相談を。大体一日で五万は稼げるかと思いますわ」
「ご、五万!‥‥と、失礼」
 ごほんと咳払いした男の目の色は明らかに変わっていた。
『いける!』
 三人はそう確信する。
 しかし、油断は許されない。まだ肝心のもふらに会っていないのだ。
「それでは契約書をお読み頂く間に、私はもふらを見せて頂いてよろしいですか? やはりこの目で実際に確めたいので」
 逸る気持ちを押えつつそう頼めば、男は下っ端に幕を開けさせる。
 そこには確かに大きなもふらの姿があった。
 首輪に鎖が繋がれており、その先には杭がしっかりと打たれている。檻は一時撤去したらしい。大もふ様と偽っている手前、檻は似つかわしくないと考えたのだろう。
「元気がないようですが」
 そう言って彼女がもふらに近付く。
「あぁ、それはきっと怪我のせいでしょう‥‥その湯治にここに連れて来ているのですから」
 そう言って誤魔化す男――しかし、どうみてもそうは思えなかった。薬か何かで弱らせているのかもしれない。
「あぁ、そうそうこちらにもサインを」
 彼女がもふらにコンタクトを取る間、玲はうまくカバーしようと話し掛ける。結も金を片付ける振りをして死角を作る。
「もふら様、すいません。静かに黙って聞いて下さい。我々はあなたを助けに来ました‥‥けど、その前にやらないといけない事があって‥‥ここに子供達が来ませんでしたか?」
 後ろに聞えないように注意し問えば、もふらはぼんやりとしたまま視線を尻尾に送る。
「あっちですか?」
   こくり
 尻尾の指す方角を確認し彼女が続ける。
「ありがとうございます。必ず助けますから、もう少し我慢を」
 傷のある足を撫でて言う。
「それでは契約完了と言う事で」
 丁度そこで交渉終了。彼女も何事もなかったように振り返る。そして、
「では明日‥‥」
 そういい残して‥‥けれど、再会は意外と早く訪れる事となる。


●子供の居場所
「見つけたよ、あそこだ」
 交渉班の情報が伝達されて、四人はやっとこ子供の発見に至る。
「あれか」
 テントとは別の場所――テントのあった場所の近くの林に、木々で入口を隠された洞窟があった。そこの入口には銃を持った男が二人立ち塞がっている。雪彼の人魂が中をに入り、縄で縛られたみっちゃんと巽の姿を確認したのだ。
「雪彼おねぇちゃの小鳥さんだ〜〜」
 金色の小鳥は肝試しの折に使われている為、二人にもわかる。
 見つけると同時に、二人の沈んでいた表情が持ち直してゆく。
「太郎が、太郎がどこかにいる筈なんだ! 探してやって。うまく逃げた筈だから」
 それを聞いてはっとする雪彼。
(「まさか、あの時の?」)
 テント付近で聞いた雑音――あれは雑音ではなく声だったのかと。
「ああぁん、うるせぇぞ! こらっ」
 と、その声を察知して見張りの一人が中へと入ってくる。雪彼は一旦人魂を解除して、男が来た時には怯えるみっちゃんと男を睨み付ける巽の姿だけが残っている。
「なんだぁ、その目は! いけすかねぇ〜なぁ〜」
 男はそう言って、猟銃の銃口を巽に向けた。しかし、
「うわぁぁ」
 突如聴こえた相棒の悲鳴に振り返り、迫る影に動揺が走る。
「そこまでだよ!!」
 外を天藍に任せて早駆で駆けつけた彼方が銃を叩き落す。
「きさま、何もん」
「王子様だよ」
 銃を拾おうとした男の前に、今度は直羽が現れて伸ばした手に力の歪みを発動すれば、手を捻られた形となり男は苦悶の表情を浮かべる。
「直にぃ、二人をお願い」
「了解」
 そこで入れ替わると直羽は二人を抱き抱え、一目散に走り出す。
「許さないんだからね!!」
 彼方は手にした苦無を振り翳して、一対一では力の差は明らかだった。

 そして、二人の救出後――
「みぃーつけた」
 巽の一言により林の探索。
 二人の様子を気にしていたらしい太郎は洞窟付近の叢に身を潜めていた。
「なんで声かれてくれなかったの」
 近くに居たのならチャンスはあった筈だ。俯く太郎の頭を撫でながら雪彼が尋ねる。
「だって言ったら、あいつら、二人をころす言ってた‥‥だから、こわくて‥‥でも、心配だったから」
「ん、よく頑張ったね。えらいよ、太郎ちゃん」

   ぐぅぅ

 その言葉に安堵したのか、太郎のお腹の虫が悲鳴を上げたようだ。
「さ、じゃあこれ食べながら戻ろうか」
 雪彼は持参したお握りを手渡して、太郎と共に仲間の下へ戻るのだった。


●悪の栄えた試し無し
「んだと! 子供に逃げられた!!」
 見張りの交代に向かった二人がそれに気づいたのは、もう夜の事だった。
「殺しておくべきだったか。で見張りの二人は?」
「それが行方不明で」
 折角のおいしい話が舞い込んでいるというのに、密猟の件がばれたらそれどころではない。だが、このまま話をフイにするのは惜しいらしい。
「こうなりゃ、さっさと片付けるまでだ。物さえなけりゃ訴えようがねぇ‥‥今日来た奴らに今すぐ文を出せ。長居は無用だ」
「了解さぁ、兄貴」
 子供の証言とはいえ侮れない。それにもふらの傷はまだ完治していないのだ。
「向こうから動いてくれたみたいですね」
 文を受け取り結が言う。
 救出班はこのまま待機。子供達と共に成り行きを見守る事にし、四人だけで向かう。
 昼間に下準備は完了しているから問題ないだろう。

「失礼します」
 突然の呼び出しにも関わらず、笑顔で訪ねるアーニャ。
「少し状況が変わりましてな。もふら自体をお譲りしますよ」
「あら‥‥それはどういった風の吹き回しで?」
「それはその」
 口篭る男に彼女がにやりと笑う。
「密猟だから? 足の傷、銃でした。私が傷を見落とすとでも‥‥許さないんだから。もふらと子供達の痛み思いしりなさい!」
 そう言い放つと同時に、残りの三人も戦闘体制に入る。
「くそっばれていたか! 者共、打ちまくれ」
 銃声が響く事も構わず、やけくそ気味に指示を出す男。
 しかし、半数の男の銃からは火を噴く事がない。
「どういうことだ?」
「ん? 火薬が湿気ってやがる!」
「作戦成功ですね」
 下準備とは銃の無力化――彼方は細工を、薺は水をかけて回っていたらしい。
「ごめんな痛かったろう? もうすぐだからなっ」
 桔梗のかまいたちで牽制、素早くもふらに駆け寄り首輪を外しにかかる玲。銃を持っていようが使えなければ意味がない。念の為、彼に向けられる銃はアーニャが苦無を投げて阻止している。
「こちらも援護します」
「お願い」
 前衛メインの薺を守るような形で、スキルを発動し銃の発砲の先手を打つ結。薺は薺で、結を守るような形で薙刀を振るい、敵の手にした銃を取り落とさせる事に集中している。

   ズキューン ズキューン

 しかし、中に処理されていなかったものもあるようで銃声が轟いたのだが――それさえも彼女達には届かない。
「この方を傷つけることは、許しませんよ」
 そう吠えて、薺は防盾術を行使して、なんと弾丸を弾き返す。それを飛び退き避けた男――その先にあるカンテラがひっくり返り、事は大きく発展する。その炎がテントに燃え移ったのだ。これには四人も驚いたが、なんとか無事もふらを避難させ、大きな傷には至らなかったという。


●再出発
 深夜の銃声と大火事で、男らは一網打尽にお縄に付く事となる。
 みっちゃん母の証言に加えて、もふら自身も撃たれた事を意思表示した為密猟の事実は公の元に曝されたのだ。
「もっふもふだわぁ〜」
 助け出したもふらに抱きつきアーニャが言う。
「よかったな‥‥と、君にも名前があった方がいいな。万もふというのはどうだい?」
 事前に用意していたらしい名札を手に話しかけたのは玲だ。
「万もふ‥‥うん、カッコいいな!」
 とそれに賛同するのは巽だ。
「しかし、これからどうする? 山は危険かもしれない‥‥もしよければ、町の大もふ仲間の集まる牧場に案内するが」
 ――とこれは天藍。
「大もふ様もいるのぉ」
「きっと安全〜」
 子供達もそう言って促せば、その気になったのかもふらがすくりと立ち上がる。
「本当によかった‥‥」
 無邪気に笑う子供らを見つめてこれは母の言葉。
「あの、もし迷惑でなければ石鏡まで、御供させて頂いてもいいですか?」
 直羽がそう言ってちらりとみっちゃんの方に視線を向ける。
「にーちゃ、一緒にくるのぉ?」
 それを聞きつけ、みっちゃんが交互に二人を見る。
「ふふっ、勿論‥‥いえぜひお願いします」
 そう答えた母に喜ぶ彼女。二人を呼んで大喜びだ。
「ちょっとちょっと! わかってる〜? もうお母さん心配させちゃ、めっだよ!」
 そんな彼女らに注意する彼方。
「まぁまぁ、見過ごせなかった意気や良し! きっとわかってるさ‥‥な?」
 そう言って一人ずつ頭を撫でて回る玲。
「よかった」
「そうですね」
 それを微笑ましげに見つめているのは結と薺ペアだった。
「祭事に捧ぐは笑顔が一番です。此度は沢山の思い出を作りましょうね」
 この二人もこの後お祭りに行こうかと考えているようで道は同じらしい。
「なんか寂しくなっちゃった‥‥」
 そう呟く雪彼を見つけて、今度はみっちゃん母が彼女をそっと抱きしめる。
「それじゃあ、いざもふら祭りへ!!」
『おー!』
 依頼を終えても、彼らの道はもう暫く続くようだった。