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■オープニング本文 「我輩の季節、到来だ」 ハロウィン‥‥南瓜のランタンには諸説ある。 悪魔に魂を売った男の成れの果てだの、怨霊を寄せ付けない為の魔除けだの‥‥。 そんな話はさておいて、その渦中の住人南瓜大王は考える。今年はある少年の願いで西瓜大王まで復活し、散々な目に合わされたのだ。あの時は華を持たせる形で勝ちを譲ったが、それだけでは面白くない。自分が目立ってこそのイベントだ。 「そうだ、すべてを私色に染めてやろう」 ギザギザの口を更に歪めて、彼は胴体部の服を翻すと配下の南瓜に命じるのだった。 「あれは、何だべ!」 「橙の動く城だっ!!」 ハロウィン当日――天儀の空に浮かム上がったそれに人々は驚きの声を上げる。 空に出現したそれは大きな南瓜の城だった。 絵本から飛び出したような‥‥ファンシーではあるが、ジルベリアのものなのだろう色は橙でどこか不気味である。 ちゃんと城壁には砲台らしきものもあり、奥には塔が三本‥‥中央にはでんっとバルコニーのある太い塔があり、そこから南瓜大王が辺りを見回している。 「ほほぅ、いい眺めだ‥‥しかし、いかんせ緑が多過ぎる。者共、アレを」 「アイアイサー!!」 大王の一声で、準備に入る配下達。その手には南瓜――それを大砲に詰めて‥‥。 ドゴォーーーン 都目掛けて発射されれば、辺り一帯をその砲弾が艶やかな橙色に染め上げていくではないか。建物を始め、それを被った全ての物や人までもが橙に染まっていく。 「これじゃあ、柿かトマトか区別が付かないよ〜」 「なんだか目がちかちかするわぁ」 染め上げられた人々は口々に不満を溢す。 「ふふふ、愉快愉快」 しかし、大王は我関せず‥‥自己満足に浸っているようだ。 「折角の私の祭りだ! 私の悪戯を楽しんでくれたまえ」 そう言って全土を橙に変えるべく、城を動かし始めるのだった。 「おのれ〜南瓜めっ!」 ――と、そこで黙っていないのは西瓜大王だった。 まだ残っていた西瓜の実まで橙にされ、奮起する。 「あの時の恨みと言う訳か。いいだろう、受けてやる」 「あ、西瓜大王様っ! お久し振りですっ!!」 ――とその出現を確認して喜んだのは、西瓜畑の少年だ。 以前、彼に会いたいと願ったのはこの少年だったりする。 「おい、少年! あの南瓜を止め‥‥とおまえ、その姿」 「はい?」 ふと振り返った先の少年の姿――彼自身もあの砲撃を受けたらしく橙色に染まってしまっているではないか。 「なんということだ‥‥戻してやるから、仲間を集めろ! いいな」 「はいっ、勿論です!!」 その姿に嘆く大王を余所に、少年はまた会えて嬉しそうに笑い指示に従う。 「あの城‥‥叩き潰してもいいが、欠片が落ちたら厄介だ。仲間の力も借りて、あの城いただくとするか」 西瓜はそう言って、瓜科の仲間に連絡を飛ばし‥‥あの城の攻略を提案する。 「なかなか面白そうやなっ、いっちょやったるで〜」 「俺っちなんていつも嫌われ者さねっ。目にものみせてやるさぁ〜」 「夏の食材同士頑張るっす。南瓜だけにでかい顔はさせないっす」 召集に応じたのは以前は南瓜側だった三人組――糸瓜、苦瓜、胡瓜である。 「助かるぞ、皆のもの。なら、南瓜城を美味しく頂こう作戦を実行に移そうではないか!」 『おーー!!』 かくて、少年は再び仲間集めに奔走する事になるのだった。 ※このシナリオはハロウィンドリーム・シナリオです。 実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。 |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / ペケ(ia5365) / 和奏(ia8807) / 琉宇(ib1119) / 志宝(ib1898) / 蓮 神音(ib2662) / 獅咆(ib3156) / 亜弥丸(ib3313) |
■リプレイ本文 ●精鋭? 「なんだ、少ないではないか?」 ひとまず少年の西瓜畑に集まった開拓者らを見取って、少年を呼びこそこそ言葉する。それもそのはず、集まったのはたった九名であり、そのうちの一人は欠席。実質、八名で挑む事となる。 「ごめんなさいっ! 僕の力不足です‥‥今はお祭りが近いみたいで、皆そっちに行っちゃってて‥‥けど、きっと皆さんならやってくれる筈ですっ!!」 屈託のない笑顔を見せる少年に西瓜大王も釣られて笑う。 「疑うより信じろ‥‥という事だな」 腕があったなら多分えらそうに組んでいただろう。 「おや、あそこにいるのはあの時の狂戦士か。たくましくなったではないか」 ふと視線を向けた先に前回参加者のペケ(ia5365)を見つけて大王が言う。 「何処がですか?」 見た目は以前と全く同じ。忍者鎧になっているくらいか? 見た目では判断出来ない。 「おまえにはわからんだろうが、あの者サムライになったようだ‥‥」 それを瞬時に見取った大王、さすがというべきか。けれど、当の本人はそんな彼にに気づく事無く、いつもの様子――。 「わきゃ! なんでちゃんと締まってくれないのですか!!」 身につけている褌が緩むのをどうにかしようとひたすら格闘している。 「遊ぶなり〜今度はお城なりよぉ〜」 「そうだね‥‥けど、お城を食べるって大変だよねぇ〜。ろんろんも一緒でも構わないのかなぁ?」 と、その近くでは同様に前回参加者の平野譲治(ia5226)と琉宇(ib1119)が仲良さげに話をしている。 「むー、南瓜大王さん、懲りずにまたやってきたんだね!」 そんな中で大王に挨拶しようと歩み出てきたのはおさげが可愛い石動神音(ib2662)だった。 「お久しぶりなんだよー。今度も神音が南瓜大王さんをぎったんぎったんにのしてあげるからねー」 にこりと笑いながらさらりと怖い事を言ってのける。 「おお、おまえか! うむ、期待しておるぞ」 その言葉に上機嫌になる西瓜大王。 一方、違う意味で上機嫌なグループも存在した。 それは、志宝(ib1898)、獅咆(ib3156)、亜弥丸(ib3313)の仲良し獣人三人組だ。皆、獣の耳と尻尾が目視出来るが、一人は人間だったりする。なんでも故人を連想させるモノを身につけて弔う習慣があるらしく、それが愛犬であった為、彼はその時の愛犬に似せて作った耳と尾を常時装備しているらしい。それは端から見ても判らない程よく出来ており、獣人トリオと言っても疑う者などいないだろう。 「ついに来た‥‥待ってましたの食べ放題イベントやー! いっちょやったるでー!!」 気合十分にそう叫び、亜弥丸が拳を突き上げる。衣装は巫女だが、実は彼、陰陽師。現在、巫女になる為に貯金中だとかで食費も切り詰めているのか、はたまた食べ放題好きなのか定かではないのだが、兎に角今回の依頼が待ちきれないようでうずうず身を捩っている。ちなみに可愛い容姿だが、彼は男だ。 「おいらも楽しみだぞー! 志宝兄、亜弥姉よろしくなんだな〜」 それを知ってか知らずか、獅咆は彼の事を『姉』と呼んでいるようだ。 「獅咆は今日が初めての依頼なんだって? 頑張ろうな」 そこへ何処で聞いたのか、初依頼を励ます志宝。 「おう! おいら南瓜も初めてだけどいっぱい食べるぞーー!!」 (「ん? 初めて?」) その言葉にふと浮かぶ疑問。 「初見の場合はどんな味を体験されるのでしょうか?」 一人手帳を片手に南瓜料理を思いつくままに書き出していた和奏(ia8807)が首を傾げる。 「何々? それ南瓜料理のリストやん! うちにも見せてぇ〜やぁ〜」 それに気付いて亜弥丸が近付き、思わぬ所でグループ参入を果す彼であった。 ●侵入! 城の底から 「準備はよいなっ。いざ、出撃!!」 大袈裟に言ってはみたが、特に隊列を組む訳でなく‥‥オレンジ色に染まりかけた大地をひたすら進む。決戦は夜――魔法の効果は夜だけなのだ。西瓜大王を始め、糸瓜も胡瓜も苦瓜も‥‥形が違うだけで、さして顔は変わらない。 浮遊する南瓜城――そこまでの道のりを徒歩で進むと、問題の城の大きさが段々明らかとなっていく。 「やっぱり大きいですね〜」 「食べ甲斐があるやないのっ」 人それぞれ、それを見上げて感想を漏らす。 日没まで後数分――そうすれば決戦開始だ。 「皆の者よいな。くれぐれも南瓜兵には気をつけろ。我々は外で南瓜大王他雑魚共を引き付けておく。その間に、下から侵入するのだ」 「え? 下からって??」 いまいち意味が判らず、神音が問う。 「こういうことだよっ」 大王に代わって答えたのは相棒に乗った琉宇だった。相棒に乗る許可が下りたようで、ろんろんに跨り浮き上がる。それと夕日が沈むのとほぼ同時だった。大きな羽を羽ばたかせ、上空へと舞い上がる。そして、 がぶりっ そのまま、浮き上がった城の下面にかぶりつくろんろん。もぐもぐと咀嚼しながら進めば、みるみるうちに城の下部に穴が出来上がってゆく。 「さぁ、ゆくがよいっ」 それは紛れもなく大王達の魔法によるものだった。 一時的に、城を食べれるものにする。 一体、琉宇相棒はどんな味を感じているのだろうか。 「みんな〜、ロープたらすよ〜〜」 そして、先に上がった琉宇が上から仲間を相棒と共に引き上げ潜入はみごと成功するのだった‥‥のだが――。 「ふふふ、来よったな‥‥愚か者共め。私のパーティーを存分に楽しませてやろう」 これは南瓜大王の城――彼らの行動が筒抜けである事を誰も考えてはいなかった。 「さて、どこから食べましょうか♪」 入って早々、各々散らばった開拓者達。 その中で、最後に上がってきたのはペケである。 褌が緩むのを警戒してか、念の為ラストにまわったのだ。 だだっ広い廊下を進みながら、辺りを見回せば目がちかちかしてきそうなオレンジ一色。寒いこの時期に温かい感じはするが、眩しい点では少し‥‥いや、かなり目に負担をかけそうだ。そんな廊下にはずっと扉が続いていた。城自体は円形に出来ているらしく外周となる部分に廊下が、内側に部屋が――まるでピザかケーキを一ピースずつに切り分ける様な形で――区切られているらしい。 「とりあえずお邪魔しまぁ〜す」 その一つに手をかけそっと開く。そこには――南瓜が並んでいた。手足のついた南瓜‥‥そう、南瓜兵である。 「あ‥‥‥まずい雰囲気ですね。私は怪しいものではないですから‥‥それじゃあ失礼しますです」 視線がもろに合っていた。ぎこちなく言葉し、扉を開けた時と同様にゆっくりと締める。 (「気付いてませんように、気付いてませんように‥‥」) 脳裏で何度もそう復唱しながら、さっきは気付かなかったが、扉の横には『南瓜兵休憩室』と書かれている。 「今ノ敵ダッタ?」 「アア、敵ダ」 『追ェェェェェ!!』 一瞬の沈黙の後、物凄い勢いで扉は開かれペケを追いかける南瓜兵達。 彼女になす術はなかった。元シノビとはいえ、一人対数十体では分が悪過ぎる。 「ペケケケー! 城を食べる連中は全員南瓜時空に引きずり込むのデ〜ス!」 暫くの後、彼女は南瓜兵士として変貌を遂げた。顔には南瓜大王と同じような南瓜が被され、なぜだかブラとパンツまだ南瓜仕様になっている。 「まずは一人‥‥」 くくっと大王が微笑した。 ●南瓜フルコース 一方、やはり行動を共にしていたのはあの三人。成り行き上、和奏に加わって計四人が壁を丁寧に削りながら城を味わっている。 「やっぱり南瓜といったら煮物やねぇ〜」 大胆に削りながら、亜弥丸が言う。 「そう? 甘味こそジャスティス!! やっぱりプリンだね」 こちらは手で壁を鷲掴み口へと運んでいる。 「どうかしましたか?」 そんな中で、さっきまでの元気は何処へやら獅咆が黙り込んでいたのに気付き、和奏が声を掛ける。 「なんか…美味しくないぞ…硬い、もそもそする」 『えっ?』 その言葉に一同顔を見合わせる。 「やはり初見‥‥というか、初めてだからでしょうか? もしかしたら、南瓜本来の‥‥生の味が獅咆さんに伝わっているのかもしれませんね」 その感想から導き出して和奏が言う。 「そんなぁ!! 折角楽しみにして来たちゅーのにあんまりやん!」 初依頼――その事もある。いい思い出にしてやりたいと亜弥丸は思う。 「そうだ、獅咆! プリンはわかるかい?」 そこで何かを閃いたらしい志宝が尋ねる。 「うん、それならわかるっ。けど、プリンは南瓜じゃないし‥‥」 「いいから、思い浮かべてみな。そして、濃厚な感じにするんだ‥‥まったりとそして、濃厚な甘さ‥‥サツマイモのうんと糖度の高いやつだと思えばいいかな」 「う〜ん、甘いサツマイモ‥‥おいしそうだ‥‥」 「よし、じゃあも一度食べてみて」 ぱくりっ 志宝の指示に従って連想した獅咆――再び壁の欠片を口に運べば先程とは違って、まったりとして濃厚な味わいが広がり出す。 「すごい! 志宝兄!! 甘い、美味いよ〜〜〜!!」 涙を流さんばかりの勢いでそう叫び感激すると、近くにあった椅子に齧り付き目を輝かせる。 「どういうことでしょう?」 かくりと首を傾げる和奏である。 「ようは味が連想できたって事だよ。南瓜の味を楽しみにしていた獅咆は南瓜本来の味に行き着いた。調理されたものではなくてね。だから、出来上がったものの味を連想させてみたって訳だよ」 彼が解説する間も、獅咆は椅子をひたすら食べ続けている。 「ねぇ、もっと教えて! 色々な味!! 南瓜、もっと知りたい!!」 椅子を食べ終えると、そう言って尻尾をふりふり三人に駆け寄る。 「しっかし、お城って食べれたのか〜。おいら知らなかったぞ!!」 何を今更な事だが、彼は純粋に吃驚しているようだ。 「この城だけですけどね」 和奏はそういいつつ、もそりと一口。 「ほな、うちにまかしときぃ〜。ちょっとそのリスト見せてんかぁ〜」 意気揚々とそう言って彼女が和奏のメモに視線を落とす。 「どれがええかなぁ〜‥‥うちと一緒に食べてこなぁ〜。ええっ〜と、パイも食べたいし、グラタンも美味しい、焼いただけでもいい味するよねぇ〜後天麩羅とかも」 「それなら全部頂きしまょう。その為のリストです。飽きてきたら次へ‥‥でよいのではないでしょうか?」 淡々とした面持ちでそう告げれば、『それ名案!』とばかりに亜弥丸が拳を打つ。 「では、まずは前菜・サラダからいきましょう」 「あ、それええね。フルコース仕立て♪」 和奏の提案に亜弥丸が答える。 「えぇ〜僕は遠慮するよ。タルトにケーキに羊羹‥‥甘味を食べ尽くすぞ」 甘味こそ全てであり正義であると自負する彼はひたすら甘いもので攻めていくようだ。 「何でもいいから、食べるのだー!」 そう、叫んだのは獅咆だけではなかった。 城に入ってすぐ行った所の部屋に飛び込んで、もしゃもしゃ地味に食べ出した譲冶もその一人だ。勿論友の琉宇も一緒である。琉宇の相棒の方は開けた穴付近でやはり食べ続けて頂いているらしい。 「南瓜スープっ♪ 固形なのにかわりないなりねっ」 不思議な感覚――食べられるスープだ。咀嚼するのに液体スープの味がする。なんとも可笑しな話である。 「ホントだ‥‥確かに南瓜スープの味だね」 目を丸くしながら、琉宇も少しずつ食べ進む。 「けどやっぱりプリンだよね〜」 とここでも南瓜プリンは人気らしく琉宇が早速品変えに入る。 「おいらは南瓜パイなりよっ♪ ん〜〜たまらないなりぃ〜〜」 一口含んで、幸せを噛み締めるように‥‥顔には穏やかな表情が浮かび上がっている。 ――けれど、それも一時間が限界だった。 ●満腹との戦い たとえ味が変わるといえど、どれだけ胃袋に自信があっても底なしと言う訳ではない。それなりにお腹に溜まると、人は眠くなったり食べる事を辞めたくなるのはごく自然の流れである。体格が小さい譲治と琉宇にとって、それがくるのは周りより早い。それに彼は決めていた。腹八分――そこに達した時、決意していた事がある。 手にしたフォークに壁の欠片を刺したまま、ぼーとしている琉宇がいる。 「城って言うんだから、馬車とかあるよね? ガラスのアレもあるのかなぁ?」 眠たそうな目をしながら、詩人らしい解釈。ある物語を連想しているらしい。 「るー、おいら行ってくるのだ」 「え? どこへ??」 「また後でなのだっ」 そう言って譲治は素早くその部屋を後にする。 「ちょっちょっと、何処行くのぉ?」 中には疑問符を浮かべる琉宇の姿があるだけだった。 そして譲治はと言えば―― 「ペケケケケ! 捕まえるのですよ〜」 変貌したペケの後ろを付いて回っていた。いつ用意したのか、南瓜マスクを被り兵士を装っている。食べたら運動ではないが、今度は鬼側に回って『遊んで』みようと考えたのだ。 「ななななっ! 砲台っ! 砲台ってどうなってるなりかっ!!」 「あわわ、駄目デスっ! 勝手にさわっちゃあ‥‥」 強引に割り込んで砲台の向きを変えてみたりとやんちゃな彼に、うまく手を出せない南瓜兵に代わって――南瓜兵は三頭身なのだ――ペケが止めに入る。南瓜を被った譲治が正気である事は気付かれていないらしい。 「なんでなのだ? 打って打って打ちまくるのだ!」 くるりと振り返えれば、その拍子に砲台が身体に当り、崩れるペケの南瓜パンツ。 「わきゃ!!」 たまらずしゃがみ込む彼女にていっと一発。譲治がペケの頭の南瓜を割ってみせる。 「あれれ、私‥‥何してましたぁ??」 それで正気に戻ったのか、崩れ落ちた南瓜を見つめてきょろきょろする彼女。念の為、フォローしておくと、南瓜パンツの下には元の褌が締められている。 「もう、大丈夫なりよ。ペケも美味しく食べるなり」 表情は見えないが、多分彼は爽やかで無邪気な笑顔を返しているだろう。 「隙ありなのです!!」 ――とそこへ登場したのは神音だった。 ペケと譲治の周りにいた南瓜兵達を手刀で割り砕いてゆく。 「大丈夫だった? 重々気をつけないと‥‥っとやばい! 追っ手だ!!」 そう言って振り返ると、後方からはうじゃうじゃと南瓜兵が押し寄せている。 「もう、大王は一体何処なのよ!!」 彼女はどうやら宿敵である南瓜大王を見つけることに専念していたらしい。城には目もくれず、走り回っていたようで額には汗が滲んでいる。 「私、判るかもです。さっきまで手下でしたから」 ペケはそう言って、彼女を誘導に入る。 「それは助かるよ。へっへ〜ん、捕まえられるものなら捕まえてみるんだよ!!」 後方の兵に舌を出して挑発する彼女。 「なんか面白そうなり。おいらも行くなりっ」 譲治は南瓜を被ったまま、二人に続くのだった。 一方、フルコース班はと言えば‥‥ 「あぁ〜もう満足だ! 食べ尽くした〜」 「うちの胃袋でもコレが限界やぁ〜」 「いくら種類があっても南瓜ですからね。限度があります」 「甘味サイコ〜」 お腹を限界まで膨らませた四人が、床に重い身体を横たえる。食欲が満たされた時、次にやってくるのは睡魔らしい。 「ふふ、頃合だな」 大王が彼らの様子を確認し、一部の兵士をその部屋へと向わせる。 ばんっ 突如開かれた扉に驚けば、そこには数十体の南瓜兵士。 手には兵士に変えてしまうという南瓜爆弾なるものが握られている。 「しまった! 逃げ場ない!!」 手持ちの武器を振り回すもかわし切れない。 「鬼ごっこタイムだな。受けて立つぞ!」 意気込んでぴょんぴょん飛んで避ける獅咆。けれど、 「うち、足遅いんよぉ〜〜」 ぱたぱた必死に交わしていた亜弥丸がこけそうになるのを見取って、駆け出して‥‥結局彼らは一網打尽に捕獲されてしまう。 「後、三人‥‥いや、一人戻ってしまったから四人か」 それを意識で察知して、大王はまた微笑するのだった。 ●決着! 勝敗の行方は 「神音もペケも食べるなりよ〜〜」 折角の機会を無駄にするのは勿体ないとばかりに、南瓜大王のいると思しき部屋に向かう最中に譲治が促す。 「もちろん途中途中で食べてたよー! やっぱりプリンが一番だよね〜」 走りつつ壁に手を当て掬い取ると、口へとその欠片を放り込む神音。 「私はまだ全然でした。どうしましょう? クッキー、アイス、ゼリー‥‥ん、ゼリーって有りなんでしょうか?」 同じく歩を進めたまま、ペケが思案する。 「とにかく頂きます!」 そう言って徐に口に放り込めば、考えていた三つの味がそれぞれ混じって口に広がってゆく。 「何かよくわからない感じですぅ〜」 まとめて連想したものだから、味覚が混乱しているようだ。 「一個ずつがいいと思うよ」 「るーーーー!! どうしてここに?」 ――とそこへ姿を現したのは、別れた筈の琉宇だった。 「譲治君が飛び出してったから心配でね、探したよ〜かなり」 「ごめんなのだ〜」 未だに南瓜を被っている辺り、どうやら気に入ったようだ。 「他の四人は捕まっちゃったみたいだよ、気をつけて」 『了解です』 それを聞き顔を合わて頷く二人。 そして数分後、南瓜兵の見張りを掻い潜って彼らは大王の元に辿り着く。 ギギギギィ 食べ物になっていても木の軋むような音はするらしい。行儀惜しい扉を開けば、その奥には玉座に座る南瓜大王の姿がある。 「ふっふっふ、観念するんだよー!」 神音の方が悪役ではないかと思えるほどの黒い笑みを浮かべて低い声で言う。 「ねぇねぇ、少し聞いてみたかったんだけど南瓜ってお酒にもなるのかな? そんな名前の戯画本あったよね?」 「うむ? なつか‥‥いや知らん。我輩は知らんぞ、そんなもの」 何か思い当たったようだが、慌てて口を噤む大王。別次元の話はご法度のようだ。 「南瓜の洋酒?? 本当に美味しいの?」 誰も調べた事がない為、回答のしようがない。 「その話は兎も角‥‥なかなかに食べ尽くしてくれたようだなぁ、開拓者達よ。今までの行動はずっと監視させてもらっていたぞ」 瞳の奥に怪しい光を宿して‥‥以前の大王とは明らかに違う凄みがある。 それに思わず息を飲む開拓者達。 「今宵は我輩の存在が尤も強くなる日だぞ。どれだけ西瓜や胡瓜が頑張った所で小さき事よ。こないだのようには行かぬぞ、娘‥‥」 きっと神音を見据えて言葉を続ける。 「出でよ、我が四天王達よ!!」 そして玉座の後ろから姿を現したのは捕まったらしい四人だった。 魂を抜かれたような虚ろな瞳が南瓜マスクの下から覗いている。 「なんかズルイなり‥‥」 それを見取って譲治がぼつりと呟く。 「う〜ん、確かにそうだよね。僕らの仲間を操って四天王とかずるいよね。あ、もしかして強い奴いないんじゃないかなぁ?」 琉宇もさり気無く大王の痛い所を言葉の針で突き刺しに入る。 まぁ、彼ら自身に自覚はないようだが‥‥。 「ななな‥‥そ、そんな事は、ないぞ‥‥我輩は、合理的な作戦をだなっ、考えて実行しているまでだ‥‥‥いいか、本当に決して仲間がいないとかそういう訳じゃないんだからなっ」 「あれ、かなりあやしいです」 必死の弁明に、挙動不審な行動――滝のような汗を流して、彼の玉座の下にはだんだん水溜りが出来てゆく。 「図星‥‥だと思うなっ、神音は」 直球ストレート、ぐさりと刺さった彼女の言葉。 ジャック・オー・ランタン‥‥ある国の話では、神をも騙して天国にも地獄にも行けなくなった男が、悪魔によってあの姿に変えられたのだという逸話がある。ともすれば、仲間がいないのは自業自得なのかもしれない。けれど、そんな経緯を知るはずもなく‥‥。 「仲間がいるんだったらわざわざこっちの仲間を操る必要ないもん! 正々堂々戦えばいい事だし」 ぶーぶーヤジをとばしてやれば、大王の顔はオレンジから赤へと変わってゆく。 「あぁあぁ、わかったわかった。やってやる! こんな雑魚、我輩には必要ない!!」 頭から怒気を湯気となって噴出させながら、口惜しそうに四人の下に向かう大王。 しかし、まだ迷いがあるようでなかなか術を解放しない。 「じれったいなりー」 「いくよー」 「好きありっです!」 「ていっ」 「はっ!! ちょっちょおま!!」 まごまごしている大王の横をすり抜けて、四人はそれぞれ仲間の南瓜マスクを割り砕いてゆく。 「あれ、うちは?」 「戻ったぞー!!」 「助かりました」 「さんきゅう、皆」 口々に解放されて、形勢逆転。ピンチに陥り焦る大王。 「どうするんですか? もうあなたを守るものなどいませんよ」 「南瓜兵士、弱いもんねぇ〜」 油断さえしなければそう怖い相手ではない。 数で圧倒されれば別だが、今は大王一人である。 「うぬぬ‥‥小賢しい者達だ‥‥しかし、最後に勝つのは我輩だ!!」 くるりと身を翻して、即座に身を隠す。 「逃げたみたいだ」 周りに気配がないのを悟って、獅咆が言う。 『皆の者聞えるか?』 ――とそこへ今度は西瓜大王の声が響き渡った。 「どうかしたのか?」 それに代表して尋ねる志宝。 「あいつ、何を思ったか、城を上昇させ始めたようだ。もう私らの手には負えん! このまま上に行って大爆発などしようものなら、世界は永久に南瓜色に染まるだろう‥‥止める手段はただ一つ。城を食べ切る事だ‥‥健闘を祈る」 『えぇ!!!!!!』 いきなりの衝撃発言――かなり食べたつもりだったが、まだ部屋があると言う事は食べ尽くせていない事を意味する。 「ちっくしょー! もう限界なんだけどなぁ〜」 そんな声が聞えはしたが、それでも諦める訳にはいかない。ラストスパートとばかりに、それぞれなりふり構わず食らいついてゆく。 「こういう食べ方は自分に合ってないと思うのですが‥‥」 はぁと溜息を付きつつも咀嚼を忘れない和奏である。 「太りそうだけど、ここで負けられない。意地なのだよ!」 そう言いつつ涙を拭うのは神音だ。女の子はやはり体重が気になるお年頃らしい。 食べた‥‥本当にひたすらに。 顎か疲れても、お腹がぽっこりしてこようとも食べまくった。 飲料がない為、喉に痞えそうになるのを必死に堪えて‥‥‥。 夜明けまで後数分‥‥そして――。 壁がなくなり外の景色が明るさを帯びてくるのを感じて、彼らは負けを悟っていた。 「タイムアップ‥‥ふふふ、我輩の勝ちだな。城はまだ三割近く残っている」 朝日を背にシルエットだけを見せて南瓜大王が笑う。 「む、無念‥‥」 西瓜はがくりとない肩を落として見せる。 「まぁ、どっちにしても我輩の城は一夜の幻‥‥あってはならない産物だ。いやしかし、なかなか楽しかったぞ、開拓者達よ。最後に我輩からちょっとした悪戯だ」 『うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』 ふぅ息を吐き出して、大王と共に全てが消えてゆく。城が消え、床が消え、かなりの高さまで上昇していたらしく空中に投げ出され身体は支えを失い、真っ逆様に落ちてゆく。 「この度は失敗に終わったが、よく頑張ってくれた。礼を言う‥‥そして、また頼むぞ」 そんな中、西瓜大王が彼らに投げかけた言葉――そして。 「全く趣味が悪い悪戯だ、消えろ!!」 西瓜大王の一言を合図に、はっと彼らは飛び起きる。 「あれ、南瓜のお城に侵入して、それからそれから‥‥どうなったんだっけ?」 布団と額には汗が滲んでいたが、肝心の結末が一向に思い出せない。 「ん、けど存分に南瓜食べられて幸せだったかも」 そして、残されたのはそれだけのようで‥‥全てが夢の筈だった。 しかし、一つだけ変化が生じていた所がある‥‥それは―― 「どゆことーーー!!」 少年の西瓜畑の葉が見事に全てオレンジ色に染まっていたのだ。 枯れてはいない様だが、突然変異なのか奇妙な事もあるものである。 「まっいっか。来年どんな西瓜が出来るか興味もあるし」 けれど、そんな状態になった西瓜であったが生産者である少年は対して気にしていないのだった。 |