|
■オープニング本文 「おや、迷子かい?」 森の奥の奥のその又奥で、一人の男が尋ねる。 目の前には一匹の小さな子猫――しかし、その尻尾は普通の猫とは違う。そう、その猫の尻尾は三又だった‥‥それは紛れもなく猫又の証。ギルドの中でもなかなかの値が付く相棒である。しかし、男に売るつもりはなかった。みゃーと一鳴きして、足に擦り寄る子猫又に自分を重ね、独り身の彼は共に生きてゆこうと決意する。しかし、彼らを引き裂く魔の手が未来に待っている事を彼らはまだ知る由もなかった。 「ご主人〜〜ここ一ヶ月ろくなお魚食べてにゃいのにゃ! いいかげん、お魚食べたいにゃ!!」 ちゃぶ台をひっくり返さんばかりの勢いで手を上げたおいらだったが、ご主人の腕によって阻まれ、両手に痛みを感じるだけに終わる。 「仕方ないだろう‥‥魚屋に売ってねぇんだから」 それを気にすることなくぼりぼりと頭を掻きながら、あさっての方向を見つつ言うご主人。 「嘘にゃ! 絶対嘘だにゃ!! 魚屋に魚がにゃかったら、それは魚屋じゃないのにゃ!!」 カルシウム不足で苛立つおいらに、今度はご主人の深い溜息。 「だったら‥‥おまえが自分の目で確めて来い。俺は嘘はついてねぇ」 その言葉を聞いて、おいらは早速魚屋に向うのだった。 そして―― 「本当‥‥だったにゃぁ‥‥」 魚屋の前に並ぶ商品においらの開いた口が塞がらなかった。 普段なら新鮮な魚介類が並んでいるはずの場所には、魚と呼べるモノは何一つない。 アサリにサザエにワカメ、なまこにくらげなどといった貝類と軟体生物ばかりである。 「ど、どうしてにゃ〜」 半ば涙目になりながらおいらが呟く。 「おや、一抹さんとこの猫さんだね。わるいねぇ〜うちも魚を出したいんだがなぁ〜ここんとこ手にはいらねぇんだよ」 苦笑でそう言うご主人さん――どうやら訳有らしい。 「どういう事かにゃ?」 それを見取っておいらが尋ねて‥‥おいらが決意に至るまでそう時間はかからなかった。 「その不届き猫は、おいらがどうにかするのにゃ!!」 思わず二本足で立ち上がって、おいらが言う。 「いよっ、恰好いいぞ。猫っ!! 仲間の悪行を見逃せねぇ〜よなぁ。よぉし、俺も男だ! うまくいったら一週間毎日おまけしてやらぁ!」 いかにも魚屋らしい気前のいい言い分に、おいらのテンションも鰻登り。 「まかせるにゃ! オマケの為なら頑張るにゃ!!」 満面の笑みを残して、おいらは店を後にする。 「――という事でご主人ギルドに向うのにゃ!!」 一通り事情を話し終えて言うおいら。 魚屋のご主人の話によれば仕入先の港に毎朝猫又が現れ、時にカマイタチを‥時に影分裂などを使って漁師等を競場からおい出し、あがったばかりの新鮮な魚を奪い去ってゆくらしい。警備を強化したものの、猫又の力に志体持ちでない漁師達は歯が立たず、尽く失敗に終わっているのだという。 「そりゃ、裏に何かいるな‥‥」 その話を聞いてご主人がぼそりと呟く。 「そんな事どうでもいいのにゃ! とにかくおいらのおまけとカルシウムがかかってるのにゃ!!」 前足でぺシぺシご主人の膝を叩くと、ご主人が珍しく重い腰を上げた。 「まぁ、俺もアテがないのは味気ねぇからな。久々にいくか」 「ホントかにゃ!! ご主人、サイコーにゃ!!」 いつになくあっさりと動いたご主人に感激しつつ、おいらの脳裏はおまけの魚達で埋め尽くされているのだった。 |
■参加者一覧
白拍子青楼(ia0730)
19歳・女・巫
若獅(ia5248)
17歳・女・泰
すぐり(ia5374)
17歳・女・シ
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎
田宮 倫太郎(ib3907)
24歳・男・サ
緋姫(ib4327)
25歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●下調べ 広がる海に浮かぶ漁船。 ゆらゆらと揺れる船を前に、港は今日の競を終え明日まで静寂が辺りを包んでいる。 「ここが問題の競場だとよ」 猫又騒動が展開されている港は、たいして大きくも小さくもない広さだったが、それだけに死角も多い。魚を詰め込む木箱やら、漁に使う網やら道具やらが雑然と並べられ一所に収納されている。しかし、これが彼らにとっては一番使いやすいらしい。 「裏口はどこかの?」 一通り視線を彷徨わせて、朱鳳院龍影(ib3148)が問う。 「あぁ〜と、確かあっちとあっちだ。ほら、この通り」 ――とそんな彼女に漁協から貰ったらしい港内地図を投げて渡したのは一抹だった。 「俺も見る〜〜」 その地図の存在を知って、羽喰琥珀(ib3263)が駆け寄る。けれど、彼と龍影の身長差は実に80cm――その差もさることながら、龍影のバストサイズは212cmとあって、胸の上で広げられては全く見ること叶わない。 「おぉ、すまぬな。おぬしも見たいか」 それに気づいて彼女はゆっくりしゃがみ、彼の前に地図を広げて見せる。 「さて、俺の役目はおわ‥‥」 そう言って踵を返しかけた一抹に、 「何処、行くつもりだい?」 と肩に手をかけたのは若獅(ia5248)だった。ポチとの付き合いが長い彼女‥‥自然と一抹の行動も読めてくるというものだ。役目を終えたとばかりに去ろうとした彼に待ったをかける。 「あの‥‥一抹のふあん様、この度はよろしくお願いいたしますわ」 すると、彼の前に手をついて丁寧にお辞儀をする白拍子青楼(ia0730)――男のサムライを目指しているとかで、装束は男物‥‥けれど、うまく着こなせていない。 「あ〜〜まぁ、適当にな。それと俺は‥‥」 名前の間違いを訂正しようとした彼であるが、彼女の視線はもう彼にはない。彼の足元、辺りを警戒しているポチへと注がれている。 「‥‥全く、なんだかなぁ」 それを見て視線を外しぽつりと呟く。 (「綺麗にしはったら、ええんに‥‥」) そんな彼を見取って、心の中で呟いたのはすぐり(ia5374)だった。今回初見の彼女にとって、一言かけるのは気が引けたらしい。自分の中で言葉を押し留める。 「ん? 何か用か?」 しかし、彼女の視線に気付いた一抹がふいに問いかける。 「あ、何にもないんよ‥‥とと、ホントに青楼は猫が好きなんやねぇ〜」 その視線に動揺して、わたわたとポチを見つめる青楼の横に駆け寄る彼女。一抹は首を傾げただけに終わる。 「そういえば、ポチは他の猫又と交友はあるん?」 近付いて尋ねたすぐりに、ポチが顔を向ける。 「うにゃ? ん〜〜特ににゃいのにゃ。近所に居るのは別にゃけど‥‥」 「うわぁ〜〜おしゃべりするのですね〜、可愛いですのぉ〜」 ――とそれに驚き目を輝かせる青楼である。 (「相変わらず無邪気だな、青楼は‥‥」) 彼女から離れた位置でそれを見ていたのは鉄龍(ib3794)――彼も彼女を知っているらしい。逃走ルートとなりそうな場所を確認していた彼であるが、声を聞き視線を向ける。 「さっ、青楼。お仕事もせんとっ、とりあえず聞き込みにいきましょ」 ポチを抱き抱えて、好き勝手する彼女に苦笑しながらすぐりが言う。 「わかりましたの。猫又さんの為、頑張りませんとね」 青楼はそう言ってポチを抱えたまま去ってゆく。 「ご、ご主人〜〜助け」 そう声をかけたポチだったが、 「じゃあな、ポチ。元気で」 その答えに思わずポチの呼吸が停止する。 「おいおい、それはないだろう‥‥」 そんな二人を見つめ若獅がつっ込んだが、一抹は気にすることなく宿へと戻ってゆくのだった。 一方、別の場所では田宮倫太郎(ib3907)と緋姫(ib4327)が漁師を前にある指導を受けていた。 「まぁ、慣れりゃあどうってことないな」 投げ網を前に倫太郎が言う。どうやら、捕獲に使おうという事らしい。 「そうですね。ただ、割と網目が粗いのが気になりますが」 何度か指導を受けて、二人とも飲み込みがよくコツを掴んだようだ。思ったところに網が広がるようになってきている。『あんちゃんたちは筋がいい』そう漁師が褒めたほどだ。 「明日はまぁ、よろしく頼むよ」 人当たりのいい笑顔を見せて倫太郎。 「それはこちらこそだ。あの猫にはほとほと手を焼いてるんでな‥‥頑張ってくんなぁ」 普通に話しているが、そうとうな被害が出ているらしい。けれど、決してそれを表には出さないのは立派である。 「そうそう、明日は囮を使う事になってるのでお魚の方よろしくお願いしますね」 緋姫が思い出したように、漁師に告げる。 「あぁ、きいとるよ。俺らの服とかの準備も出来てら‥‥しかし、うまくいくんかねぇ。相手は猫‥‥ケモノの勘とか働いたりしねぇ〜のかい?」 まだ半信半疑らしい漁師が問う。 「まぁ、どうにかなるだろうさ。そうでなきゃ私らが集まった意味がないからな。それに今年はまだサンマ食べてないんだよなぁ」 そんな彼の不安を取り除くように私情を混ぜながら話す倫太郎だった。 ●惑わされた猫 聞き込みを元に得られた情報を纏め、彼らは配置に付く。 問題の猫又が三毛猫である事、まだ小さい事、そして一匹で訪れる事が判り、彼らに不審が募る。一匹の猫に果たして、多くの魚を瞬時に移動される事が可能だろうか。答えは否。事件の概要を聞いた時点から、ほぼ全員が何らかの他の存在が関与しているのではと推理していた。 「後、一つ気になる情報があったんよね」 漁港の奥さんの服を借り、変装したすぐりが網の手入れをしつつ、様子をみていた鉄龍に言う。 「それはなんだ?」 「なんかね、山奥に暮らしてる年蔵さんっていう四十代のおじさんが最近町に来なくなったらしいんよ」 「ほう、それがどうかしたのか?」 事件は港で起きている。山に暮らす男の事など関係があるとは思えない。しかし、 「その年蔵さん‥‥なんでも少し前に猫又を飼い出したとか、町の人に話してたらしいんよ」 「なるほど」 猫又を飼い出した男‥‥確かに何か関係があるかもしれない。 「年蔵という男の事は?」 いつもと変わらぬようにと頼んであるので、漁港は今日も関係者がうろついている。 そんな中の数名に尋ねてみれば、年蔵の事を知る者も少なくない。話によれば彼は漁で怪我をしたらしく漁師を引退、山へと場所を移したらしい。それでも魚は恋しいようで、毎日のようにこの場を訪れ挨拶していたと言う。 「そういや、あいつ‥‥最近こねぇ〜なぁ」 ふと思い出したようにそう言った漁師。益々あやしい事この上ない。 ガタンッ しかし、そこで話を中断せざる終えなくなった。そう、例の猫又の登場である。 「出たぞぉ〜! 今日こそつかま‥‥っておわぁ!!」 腕に自信のある漁師達が猫又を取り囲もうと躍起になる。しかし、それより早く猫又は力を解放し、彼らにカマイタチを発動――近寄る事さえ許さない。 「くそぉ〜〜、覚えてやがれぇ!!」 どこかの悪党のような台詞を吐いて、漁師達が非難する。けれど、実はこれはお芝居。 猫又を捕まえる為、漁から戻る船の魚の量は普段より少なめにし船に残しており、今漁港に上がっているのは傷物やら値打ちの低いものばかり。加えて、囮となるメインの鰹には予め猫の好物であろうマタタビが仕込まれている。そうとも知らずに、猫又は辺りを警戒しつつも徐々に魚の方へと近付いていた。 「あやつがそうか‥‥なかなか利口そうじゃの」 そんな猫又を物陰から見つめるのは進路妨害班の龍影。 「悪い事するようには見えないんだけどなぁ〜」 とこれは琥珀。それぞれ裏口付近で様子を伺っている。 「‥‥何かおかしいきに」 ばたばたと逃げていく人々を前に、例の猫又が呟く。 「お魚が少ないき‥‥それに匂いも何か違うきに‥‥」 くんくんと鼻を上げて辺りの匂いを嗅ぐ。 「まさか気付かれてるんじゃねぇ〜だろうな?」 小さな声で横に居るポチに問いかけようとした若獅だったが、ふとポチの姿を見て唖然とした。 「ど、どうした! ポチ!!」 大声は出せないので、ゆさゆさゆする彼女。ポチの視線は定まっておらず、だらしなく地に伏している。 「ああ、それな。マタタビの効果だ」 「はぁ?」 作戦でマタタビを使った事による影響か。これではポチは使いものにならない。 「あのにゃーにゃーさん、まだ子供っぽいですの」 ――と、青楼は熱心に見つめているようだ。 「あぁ‥‥となるとマタタビはあまり効果はないかもな」 どこで仕入れた知識なのか一抹が告げる。一般的にマタタビの効果が出やすいのは、成猫の雄だとされ、子供はあまり興味を示さないことが多いのだ。問題の猫又は、魚の周りをうろうろするだけで一向にそれに齧りつこうとはしない。 「仕方ない、作戦変更ね」 その様子を見取って、先に動いたのは緋姫だった。得意の早駆で猫又に接近し、練習した投げ網で魚ごと捕獲に入る。 「うにゃ?!」 その突然の網の出現に猫又の動きが鈍る。咄嗟の時に動けなくなるのは、普通の猫と変わらないらしい。 「そらっ、もういっちょ!!」 網の荒さを見越して、倫太郎も前に出更に上から網をかける。だが、 「邪魔するのは駄目なのにーー!!」 猫又もはっと我を取り戻し反撃に入った。自慢の爪を奮い網を引き裂き、極めつけは針千本――二人目掛けて、光の刃を放ち逃亡を計ろうと試みる。しかし、 「にゃーにゃーさん、怖くないからこっちに来るですの」 「どんな理由があるかはしらねぇ〜が盗みは駄目だぜ」 と現れた漁師姿の青楼と若獅に立ち塞がられ、焦り始める。 「邪魔しないでほしいきにっ!!」 ばっと踵を返して、今度は中へ――裏口を抜けようというのだろう。 「残念、通す訳にはいかないのじゃ」 猫又からみれば相当な高さと威圧感――龍影の突破を諦める。 「こっちも通さないからねっ、えいっ!!」 「うにぃ!!」 すると、もう一方の裏口から猫又目掛けて水鉄砲を放つ琥珀がいた。昨日のうちに、竹を使って作っていたらしい。うまく当たりご機嫌だ。 「さぁ、逃げ場はもうない。抜けるものなら抜いてみるといい」 そこへ鉄龍も現れて、全ての出口が開拓者らによって塞がれる。 「俺っちは負けられないきに‥‥」 そうぼそりと呟き、体勢を落す猫又。 それと同時に、彼の体が眩しい光を放ち、開拓者らの視界を奪うと、一目散に駆け出していく。 「このしっぽぉぉぉおおおおっっ!!」 そんな中で、必死に堪えて飛び掛ったのは倫太郎だった。 ここで逃がすまいと、決死のダイブ――着物が汚れる事など構わず、手を伸ばす。そこにはぴんっと伸びた尻尾がある。しかも、この猫又は三つに分かれているようだ。 「残念だったな」 「うにぃ〜〜〜〜〜!!!!」 数が多い分確率が高くなっていたがどうかはさておいて、倫太郎の手は猫又の尻尾を捕らえ、逃げ切れなかった猫又の悲鳴が木霊した。 「ちっ、しくじりやがったか!!」 それを影から見取って舌打ちした男――。 「あら、あなたはあの猫又さんの関係者ですね? ちょっと話聞かせてもらえまへん?」 男の側で肩に手をかけにこりと笑うすぐり。彼女、密かに超越聴覚で辺りを警戒し猫又が現れてからもその場を動かなかったのだ。その甲斐あって彼の存在に気付き今に至る。 「おい、どうだ‥‥調子はっておわぁ!!」 その後から荷台を引いてやってくる男達。すぐりの姿を見つけ、大袈裟に驚く。 「どうやら、あなた方も仲間のようやね‥‥皆さ〜ん、こっちに仲間がいてはりますよ〜」 そう言って、一声かければ目晦ましから開放された仲間がわらわらとやってくる。 「その荷台‥‥やはり転売が目的か」 真っ先にやってきた鉄龍が言う。 「ふん、何が悪い! 盗っちまえばそれはもう俺らのもんだろうがっ!!」 「なんだと?」 その言葉にぎろりと睨みをきかせれば、怯む男達。 「ちくしょう‥‥おい、猫!! お前は猫又だろうが!! この窮地、救って見せろや‥‥でないと、あの男が」 ビクッ その言葉に例の猫又が反応した。 捕まってなお、じたばたともがき男の指示に従おうとしている。 「にゃーにゃーさん、脅されてるのですねっ、可哀想なのです」 「成程、そういう事情か」 それを見取ってじわりと詰め寄る開拓者達。 「下衆だな」 「全くだ」 「猫っち、安心してくれ! 俺らがこいつら成敗するから!!」 各々に事情を察したか、ゴロツキ風情の男達を成敗し、逃走を試みようとするものは若獅の空気撃が逃がさず、事件の真相が明らかとなる。 ●事の始まりは 「本当に有難うございました」 ぺこりと丁寧に頭を下げて、男――年蔵が言う。 先程の男達を締め上げて、アジトに向うとそこには年蔵が監禁されていた。 その彼を救出、港に戻り事情説明が行われることとなる。 「おいちゃん、よかったきに〜〜。皆さんにはご迷惑かけたきにぃ」 そう言って問題の猫又が語った真実。もう、ほぼ察しは付いている開拓者だったが、報告をしないといけない手前、二人を前に漁港の者達と共に事情を聞けば、年蔵が猫又を拾った事から話は始まる。山奥で見つけて、共に暮らし始めた二人。それをゴロツキが発見し、悪巧みを企てたらしい。まだ子猫だった猫又は、ゴロツキの気配を幼いながらに察知しており、年蔵が怪我のせいでまともに張り合えないのを知って、密かに技を特訓して、これまでは彼らを退けていたのだが、ある時目を離した隙に年蔵は彼らに捕ってしまい、彼の命と引き換えに猫又は彼らの言うを聞かざる終えなったという。 「あなたが助け出せばよかったんじゃない?」 あれだけの力があるのだ。緋姫が尋ねる。けれど、彼曰く。 『自分の力はまだまだ未熟で、間違って年蔵に当りはしないか怖かった』とか――。 「しかし、己を過信しないのはいいが悪事に手を貸すのは頂けないの」 そう言って、ぽんと問題の猫又の頭に手を置く龍影。 「面目ないきにぃ」 そんな彼女に謝る猫又。 「わしの為にしたことだ。許してやってくれ」 そんな事情を聞かされては、漁港の仲間達も許さざる負えない。 「ちっ、仕方ねぇ〜な。ま、あれだけ腕っ節強ぇえんだ。一年間、漁港の警備をただ働きってので、許してやらぁ」 海の男らしい気前の良さで漁協の会長が言う。 「よかったね、猫又君」 「寛大な措置じゃな」 それに涙する猫又に開拓者もほっとする。 「ところで、お前なんて名前なんだー?」 そういえばまだ名前を聞いていなかったと、琥珀の問い。それに、 「俺っちは『ぽち』ですきに」 涙を拭って答えた彼に一同目が点になる。 「意外と一般的な名前だったんだな、ポチは」 そんな中、お礼の漁師鍋をご馳走になりながら一抹が一人呟くのだった。 そして、翌日―― 都にも従来通り新鮮な魚が卸されたのだが、 「結局、おいらは何もできにゃかったのにゃ〜」 そう言って魚屋のおまけを辞退するポチがいるのだった。 |