囮は信楽焼き?
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/16 22:45



■オープニング本文

 とある山中のとある山村――。
 水が豊かなこの土地では棚田が作られ、米作りが盛んである。それというのも、近隣の山から湧き出した水は何処よりも透明で、何処よりも味がいいと評判なのだ。
 そんな山村に水が来なくなったのは、つい数週間前の事。
 ここ数日、雨は降っていなかったのだがそれでも水不足というほどではなく、今年も順調に米は育っており、皆喜んでいた矢先の事だ。

「あんれまぁ〜、水が干上がっとる」

 自分の田んぼを訪れた一人の農民がそれを見て声を上げれば、他の田も同様らしい。次々と困惑の声が上がる。昨日まであったはずの水――それがたった一日で干上がるとは異常事態だ。田畑を巡れば、全体の水を管理する調整板は外され、水が流れ出してしまったようだ。
「誰がこんな事を‥‥」
 しかしだ。板が外されたとはいえ、山からは常に水が流れてくるはず。干上がるという事は上でも何かあったと見て間違いない。原因は何なのか。それを調査すべく、村人達は数名で山に入った。そして、水源である湧き水のある場所を目指し進む。途中、滝になった場所があり、川を遡るように進んでいた彼らはそこへ着くや否や驚愕した。

「なんじゃ、あれは??」

 そんなに大きな滝ではない。その上部を塞き止めるように積まれたもの――それは狸だった。しかも一つではない。ごろごろと山積みに数個積み重ねられ、滝を塞き止めている。どこかのお土産で売られているサイズではなく、看板として目につくように設置されたあのサイズの狸。誰が何のために運んできたのか、全くもって検討がつかないが、ただただ迷惑な事だけは明らかだ。
「訳がわかんねぇ〜だ」
 それを見て同行者の誰かが呟く。
 しかしその直後、彼らの後ろに忍び寄っていた影が彼らを襲う。
 それは知能あるアヤカシだった。村を襲うのではリスクが高いと考えたのか、わざわざ水源を塞き止め、人を誘き出す作戦に出たらしい。
 どこで拾ってきたのか趣味はよくないが、狸に気を取られている隙に殺(や)る。それが敵の考えた作戦らしかった。
「獲物‥‥大漁」
 アヤカシはそう呟いて仕留めたばかりの村人達を引き摺っていく。一人逃げ出したようだが、それを追いかけることはしないようだった。それがそのアヤカシの命運を分ける事になるなど、考えもしない。いや、そこまで気が回らなかったか? 目先の収穫に僅かに口元を吊り上げる。


 命からがら逃げ出して、生還した村人は言う。
「あれは‥‥人間じゃねぇ〜べさぁ。あれはあれは‥‥」
「何があっただ?」
 そんな彼を囲んで、真相を知らぬモノ達が問い質すが、錯乱しているらしく彼はまともに答えられない。
「狸じゃ。とにかく狸に近寄っちゃイケねぇ〜‥‥」
恐怖に顔を歪める男に、皆はそれ以上聞く事は出来なかった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
美空(ia0225
13歳・女・砂
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
禾室(ib3232
13歳・女・シ


■リプレイ本文

●打ち合わせ
「大丈夫だべか?」
 村を訪れた開拓者を見て村人が思わず口にしたのは、そんな言葉だった。
 それもそのはず、先の合戦で傷ついてしまった者が二名――巴渓(ia1334)とメグレズ・ファウンテン(ia9696)である。
「わりぃな、ちょっとドシっちまって‥‥こんな身体だ。どの位出来るかわからねぇ〜し報酬はいらねぇ」
「本当に申し訳ありません‥‥今回は負傷の身ですが、できることでアヤカシ退治を支援いたします」
 二人はそう言って、不安を見せる村人達に言葉する。
「大丈夫なのじゃ。わしがそんな外道成敗してくれるっ」
 鼻息荒く闘志を燃やすのは狸獣人の禾室(ib3232)だった。
 ここは村とあって、自慢の尻尾と耳は布で覆い隠している。
「とりあえず場所を確認したい。地図はねぇ〜のか?」
 渓がそう言うと、村人の一人が色褪せた地図を取り出した。
「あそこは本当に奥まった所になるだ。地図があってもなかなか目的通りには進めねぇ。川を溯るのが一番だべ」
「全く厄介な事だな」
 その言葉に頭をもたげたのは魔術師のオーラス・カノーヴァ(ib0141)だ。彼は魔術師というのに、気付けば前線に立っているというつわものでもある。今回も二人が負傷中と聞いて、進んで囮役に名乗りを挙げたのだ。
「今回もよろしくです、オーラスさん」
「あぁ、よろし‥‥ってなんだその恰好はっ!」
 さり気に答えたオーラスだったが、振り向いた先のペケ(ia5365)の姿に仰天する。
「そんなに驚く事ないじゃないですか〜〜メイド服、お嫌いですか?」
 フリルのついた裾を手繰って見せれば、そこに僅かに見える白い布。
「みっ見せんでいい! というか、どうしてそうなる?」
 彼女と共に何度か依頼をこなしてきた彼であるが、彼女の職業は元シノビであり、普段は今でも忍装束を身につけている事が多い。
「やだなぁ〜、オーラスさん。私も囮をさせて頂きますから‥‥変装ですよ、へ・ん・そ・う」
 にこやかに言うペケに苦笑いの彼‥‥村人の変装にしては大きく無理があるのだが、乗り気の彼女にそれは言えない。そして、それは他のメンバーも同じようだった。
「まぁ、囮だから目立つ方がいいとは思うが」
 渋い顔で龍獣人の九条・颯(ib3144)が言う。
「ご本人が、気に入っているのなら‥‥良いのではと、思います‥‥」
 ――とこれは控えめ巫女の柊沢霞澄(ia0067)だ。
「どんな恰好なのですかぁ?」
 そう言ってとてとてペケに近寄ったのは、兜を被った鎧巫女の美空(ia0225)だった。
 彼女は少し視力が弱く、形を認識するのに手で触れる癖があるらしい。
「あぁ〜ん、くすぐったいのです」
「おお、ひらひらですねっ。素敵ですぅ」
 それを拒絶するでなく好きにさせ、身をよじるペケ。
「ん、これは何ですか?」
 するとスカートの下――太腿辺りに隠された球状のモノを発見し首を傾げる。
「ふふふ、それは今回の秘密兵器なのです」
 それに答えて、ペケの瞳が怪しく輝くのだった。


●道中
「殿は私が務めよう」
 自分に出来る事――それを最後尾の護衛としたメグレズ。
 そんな彼女に加護結界を施すのは霞澄である。
「加護に頼れるのは一度きりです‥‥ご無理なさらず‥‥」
 彼女が触れてかかった結界――それは、防御と抵抗の力を上げる効果がある。
「美空も応援しますです」
 ――とそれに習って他の仲間に加護結界をかける美空。
 とりあえずは危険が及ぶと危ないメグレズと渓、そして囮の二人に結界を張る。
 事前に渓は相棒を使い偵察に行かせていたらしい。渓の猫又によると、確かに滝上部には置物が積まれ、水の流れを塞き止めていたらしかった。そして、道中に何度か敵の気配を感じたらしいのだが、それは相手も同じだったようで交戦には至らなかったと言う。
「猫又相手に同等の知覚を示すとは侮れんな」
 拳を掌に打ちつけて、颯が言う。
「そうですね‥‥何事もなく‥‥とはいかないでしょう‥‥」
 霞澄はそう言うと、心配そうに目を伏せた。
「相手が何であろうと叩き潰すまでじゃ! 狸をダシにするなど全く持って許せぬ!」
 自分が狸であるから、人事ではない禾室である。
 そうして気持ちを固めて、出発した彼ら。目的地までも徹底警戒。先頭に囮であるペケとオーラスが、その後ろを残りの面子が各自周囲に身を隠しながら進む。
 木が生えている割に足元はごつごつと硬く、転んだら痛そうだ。
「‥‥新たな獲物‥‥」
 そんな彼らを遠くの木より目視するアヤカシの存在に、彼らはまだ気付かない。
 しかしそれも無理はない。相手は遥か先ににいたのだから‥‥。


 そうして川を溯る事数時間――彼らは無事滝上部に到着した。
 自然に囲まれた良い場所である。ただ単にハイキングにきているのなら、どれだけ良い事だろう。彼らの技量を本能で悟っているのか、敵の方も簡単には姿を現さないようだ。駆け引きの続く道中を経て、やっとここまで辿り着いた一行である。
「それでは始めるとするか」
 目の前には山積みの狸――それを見取ってオーラスが縄をかける。
 彼らはこの狸を回収したいらしい。『信楽焼きの狸』と言えばわりといい値がつく為、売り捌きたいと考えている者も少なくない。ただ、これがなかなかの重さである。しかも、川の水流も相まってそう簡単に動かせるものではない。
「まぁ、まずはこれに食いついてくれればいいがなっ」
 川幅は思ったよりも狭く五m程でその両サイドに後方支援部隊が身を潜め、敵の出現を待つ。知能を有するのなら、囮とする置物を撤去しようとすれば妨害に現れると彼らは考えたのだ。
 作業開始から数十分‥‥しかし、まだ相手は現れない。
 作業する二人を残して時間は流れる。
「ん、何かくるのじゃ」
 そんな中で、超越聴覚を発動させていた禾室の耳が何かを捕らえた。
 がさがさと葉を掻き分けて跳び来る音、その速さは尋常ではない。みるみる近付いてくる。そして、

   バッ

 彼女のいる茂みの真上をすり抜け、それは囮の前に躍り出たかと思うと、素早い動きで狸にかかった縄を切断する。
 それはほんの数秒の出来事――残像しか残さず、それはすぐさま囮の二人に襲い掛かる。川岸を蹴り、まずは一撃。獣のもつような鋭い爪をペケの前へと繰り出す。
「あわぁぁ」
 それを避けれたのは、彼女の奔刃術があったればこそ。ぎりぎりのところでそれを受け止め、なんとか弾き返す。それに怯まず、敵は再び膝を曲げ前へ。間合いを詰めようと飛び掛る。そこへ、メグレズの咆哮が轟いた。
「あなたの相手はこっちだ!!」 
 茂みから身を乗り出し、辺り一帯に轟く声に敵も反応せずにはいられない。
 目の前のペケから視線を逸らし、彼女の方を振り返る。そこで残像が重なって、敵の正体が明らかとなった。
「人‥‥なのか?」
 彼らの前に現れたアヤカシ――その姿は人に近かった。しかし、異常に爪が進化し、体毛も多く体を覆っている。そして、大きく違うのは背骨の曲線‥‥体格は人と変わらないようだが、つの字に曲がった背が彼らより一回り小さく見せている。けれど、その事で弱く見える訳ではなかった。仕留めた村人から奪った服――血に汚れたそれを身に付け、腰には短刀まで下げている。
「おまえら、俺の食料‥‥」
 片言のようにそう言って、そのアヤカシは再び行動を再開した。メグレズ目掛けて驚異の跳躍を見せる。人では到底ありえない高さと距離――その跳び方はどこか猿にも似ている。
「危ないっ!!」
 その跳躍に気を取られていたメグレズ。反応が遅れた事を見取って、対岸にいた颯の注意の叫び。はっとするが、もうそこには残像しか残っていない。度肝を抜く早さにさすがの彼らも驚かざる終えない。
「皆頑張るですっ!!」
 そんな中で、必死に神楽舞『防』を舞っているのは美空だった。少しでも痛みの軽減をと、小さな体で必死に踊る。
「やらせねぇ!!!!」
 そこへ、カバーに動いたのは渓だった。
 猿人アヤカシの横腹目掛けて、渾身の瞬脚を叩き込む。だかそれは空をきるだけ――。敵は空中で体勢を捻ると、勢いに任せてバク宙し、その攻撃を回避している。
「なんて奴だっ、けど甘いっ!」
 猿人が避けた側にいた颯が、待ってましたとばかりに暗頸掌を繰り出す。
「ぐがっ!」
 それを背に喰らって、初めて敵が苦痛の声を上げた。だが、それだけでは終わらない。痛みは感じていたのは確か――けれど、相手は受けた勢いさえも動力とし、背をそのまま仰け反らせ、颯自身を視界に捕らえると、そのまま手を伸ばし肩を掴みにかかる。
「させはせんっ! アークブラストッ!!」
 そこへオーラスの魔術が割って入り――間一髪の所で颯は後退する。
 サンダーの上位版――強力な雷撃を受けて、さすがの敵もその場に倒れ込む。
 突然の奇襲に、予想を遥かに超えた動き‥‥たった数分の戦闘だったはずだが、開拓者らの額には大量の汗が噴出している。
 少し煙を上げて、突っ伏した猿人アヤカシ――初見のそれに警戒せざる終えない。
「やったかのぅ」
 燻り煙を上げる敵に禾室が近付く。
「気をつけろよ、他にも何をしてくるかわからん」
 動かなくなった敵‥‥けれど、まだ瘴気には還っていない。まさかケモノないし、人ではないかとさえ思えてくる。冷静であれば気付けただろう。その遺体から血が流れ出していない事に。けれど、今の彼らはそれを悟る余裕がなかった。


●逃走
 禾室が手にした木刀を片手に、ゆっくりと近付く。
 後ろでは残りの開拓者らがそれを見守っていた。いざという時の為に、オーラスなどはスキル・アクセラレートを発動させる準備に入っているようだ。
「お〜い、おぬし‥‥死んだかのぅ‥‥」
 そう言ってちょいちょいと木刀でつつく。
(「まだだ‥‥まだ期ではない‥‥」)
 敵はそう考えていた。息を殺して期を待つ。
「うむ、よくわからんが止めを刺させてもらうのじゃ」
 一通り突いて確認した彼女は、木刀を握り直しその猿人に向って刀を振り下ろす。

   ヒュン

 だが、その剣先はそれを捕らえる事はなかった。振り被ったと同時に、敵はごろりと横に転がると素早く飛び起き、茂みの方へと逃走を開始する。
「ちっ、まだだったか!」
 それを見取って、予め逃走ルートとなりそうな場所で待機していた渓。敵の前へと駆け込んだ。だが、奴は事もあろうに真正面に進路を取りぐんぐん彼女の前へと突っ込んでくる。
「体当たりでもするつもりかっ! いいねぇ、その姿勢。俺は好きだぜっ!」
 にやりと笑って彼女が一歩踏み出したその時だった。
「なにぃ!」
 敵と対峙しようとしたのだが、鼻先すれすれで相手は姿勢を下にし、スライディングの要領で彼女の股下をくぐって見せたのだ。
「ちっくしょ、やるじゃねぇか!」
 意表を衝かれて、苦虫を噛む渓。
「わしらも追うぞ」
 それに続くように、皆全力で追撃を開始した。
 しかし、何度も言うが相手の速度と言ったら尋常ではなく、スキルを使っていない者は見逃さないようにするだけで精一杯だった。木々の幹に巧みに手をかけ、次から次へと飛び移って行く敵に対して、こちらは障害物の多い地面を駆けて行かなければならない。徐々に距離が開いてゆく。
「逃がさないのじゃ!!」
「負けませんっ!!」
 その中で何とか喰らいつくのはシノビ組――ペケはメイド服をはためかせ、必死で追いかけてゆく。
「手負いで逃がしたりしたら後が怖いのでの」
 そういうものの額の汗は一向に引かない。
「じっとしておれっ!!」
 禾室が後方から射程に捕らえて、敵の腕を目掛けて雷火手裏剣を放つ。すると、それが腕の筋を捕らえたようで、敵は幹を掴み損ね、地表へと落下を始める。それをペケは見逃さなかった。再び奔刃術を発動――敵に接近、そして、彼女は徐にスカートの裾を手繰り上げる。
「これが私の秘密兵器です」
 露になった大腿にはいくつもの焙烙玉。それには火が着火されている。
「くらいなさいっ!」
 たなびく褌を恥ずかしがりもせず、彼女は焙烙玉を投下した。それと共に緩む褌に彼女は気付かない。
「またか、やむ終えん!!」
 けれど、オーラスがそれを察知。彼女を庇うように飛び出し抱えると、焙烙玉の爆風から離脱する。
 山の林の一角に轟く爆音――。
「やったか?」
 遅れて到着した仲間が煙立ち込めるその場所を見つめる。
 けれど、煙が晴れたその場所にあの猿人アヤカシの姿はない。
「逃げられた? それとも瘴気に還ったか??」
 悲鳴も何もなかったのが気がかりであるが、こうなっては探しようがない。
 それにあれだけの爆発である。多少なりとも傷は負わせられただろう。
「少なくともここらにはおらぬみたいじゃ」
 再び超越感覚を使い禾室が確認する。
「それでは、戻りますか?」
 とこれは霞澄。
「ペケ‥‥また緩んでおったぞ」
 抱き抱えたままだったペケを下ろして、オーラスが言う。
「あ、ありがとうございます‥‥」
 いつもながら肝心な時に緩む不思議な褌だ。
「しかし、ここは何処だ?」
 無我夢中で駆けて来た彼ら――地図を開くが一向に場所が掴めない。
(「ヤバイ、遭難したかも‥‥」)
 開拓者の誰もがそう思いつつ、顔を見合わせるのだった。


●生還
 骨折り損のくたびれ儲け――。
 そんな言葉があるが、狸回収を行った一行の正直な感想は文字通りそんなものだった。
 あの後、三日三晩彷徨い続けた一行は、それでも狸を回収。その後は猿人も現れず、無事村へと生還する。そして、その晩は水の戻った村でもてなしを受けて、翌日ギルドに報告する彼らを待っていたのは、意外な一言だった。

『残念ながらその狸はこちらで回収させて頂きます』

「ええっ!! なんでだ!」
 必死で回収してきた狸達。いずれも汚れてはいるが、磨けば何とかなりそうな代物ばかりだ。
「しかし何故‥‥この狸の持ち主でもおるのか?」
 名残惜しそうに置物を撫でながら、禾室が問う。
「はい。以前から捜索願が出ていたらしくて‥‥この事件を聞きつけて持ち主の方が来られているんですよ」
「おおっ! お前達無事だったか!!」
 ――と、突然彼らの後ろで狸に抱きつく男が一人。
 窓口の青年曰く、その男は職人で、試作品の狸がそれらだと言う。
「証拠‥‥証拠はあるのか?」
 そこで颯が食い下がるが、
「必勝狸。彼の作品だそうで‥‥必勝達磨よろしく目に墨が入っていないそうな」
 そう言って青年が見つめる先、彼らが回収した狸に目をやれば確かに墨が入っていないようだ。
「‥‥‥はぁ」
 それに落胆する換金狙いの数名だったが、聞けばサイズこそギルドのそれと同じであるが値打ちは百分の一らしい。結局のところ思うだけの報酬にはならない事が判明する。ガッカリ顔の彼らを尻目に、青年は依頼完了の判を押す。そして、

「あぁ〜と念の為、その猿人アヤカシについての調査も必要そうだなぁ」

 面倒くさげに次の依頼書の作成に取り掛かるのだった。