【鍋蓋】ゴーイング恋道
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/31 03:49



■オープニング本文

 いつもと変わらぬ日常が戻った‥‥はずだった。
 しかし、それはいつもと同じではなかった‥‥。
 僅かに感じる違和感に鍋蓋を磨く手を止め、新海は広くもない部屋を見回す。
 水場には今朝食べた時の茶碗が洗われずに残っている。
 天井を見上げれば修復された穴があり、居間に戻れば彼の鍋蓋コレクションが並んでいる。その横の箪笥には依頼時に使う武器やら防具が収納されている。

(「俺の気のせい‥‥さね?」)

 こないだまで逃亡生活をしていた彼である。
 必要以上に周囲に敏感になっているのだろうか‥‥。
「ん〜〜、おかしいさねぇ〜〜?」
 そう呟き腰を下ろしかけて、新海ははっとした。
 いつもの自分の視界はこんなに高かっただろうか? 疑問を感じて、ゆっくりしゃがみ畳を調べれば、彼の立っている畳だけ周囲のものより僅かに‥‥いや、かなり上がっている。
「誰さねっ!」
 その隙間にちらりと見えた人影――新海はそれを逃すまいと畳の縁に指をかけ乱暴に引っぺがす。勢い余って、その畳はあろう事か鍋蓋コレクションへと直撃した。棚が外れ、彼の大事な鍋蓋達がばらばらと落下してゆく。
「あわわ〜、なんてことさねぇ〜〜」
 それに気付いて新海は侵入者を確認するより先に鍋蓋へと向う。

「いや〜〜ん、見つかっちゃったかしらぁ〜。もう、さすが私の‥‥ってアラッ!!」

 目の前にいるはずの新海がいない事に気付き、侵入者が声を上げる。

「あぁ〜〜今、忙しいさぁ〜話は後にしてほしいさねっ」
「ちょっとちょっと待ちなさいよ! 侵入者よ、侵入者‥‥泥棒かもしれないのに、それより鍋蓋が大事なの?!」

 唖然と見つめる侵入者をそのままに、散らばった鍋蓋を拾う新海。

「けど‥‥そうね、そうでなくては困るわ。頑なに貫くその精神‥‥その愛情が私だけのものになるなら、それは悪くないもの‥‥」

 うっとりとした表情で侵入者――女が言う。
 そして、彼を誘うように自慢の身体を見せ付けるようなポーズをしてみせる。しかし、そんな彼女に新海の視線が向かうのは‥‥約三時間後の事となる。それは、鍋蓋を拾い終えたその後の新海の行動による。彼は、何事もなかったように庭へと移動し、あろう事か彼女に背を向け、再び鍋蓋磨きを始めたのである。

「よしっ、これで完璧さねっ‥‥と、まだいたさぁ?」

 輝く鍋蓋を掲げて振り返った先には、さっきのポーズのまま必死で堪えている彼女の姿があった。

「何やってるさね‥‥うちには金目のもんはないさねっ。これから夕飯さぁ〜だから」
「ひどいわっ、新海さん!!」
「え?」

 涙を浮かべて言う女に、新海が動揺する。

「あなたの無実を証明する為に、わざと捕まって脱走してきたこの健気な私を‥‥今、言葉で追い出そうとしたわね‥‥労いの言葉もなし‥‥ひどい、ひどいわっ!!」

 何処からともなく今度は手拭いを取り出して、そっと目尻に当てる。

   バンッ

 ――と、そこへ乱暴に戸を開け入ってきたのは警備隊の面々だった。

「やっと見つけたぞ、アツベバン‥‥いや、本名黄桜お九っ!!」

 こないだの誤認逮捕の隊員とは別の者達らしい。多人数で押しかけて、新海の前の女に叫ぶ。

「あんたがアツベバンさね?」

 その名を聞き、新海が尋ねる。

「そうよっ‥‥って、役所に行った際に解いて見せたじゃない!!」
「そうだったさね? あまり記憶にないさぁ〜」

 額に汗して、申し訳なさげに答える新海。

「いいわ、私があなたを振り向かせてあげるから‥‥待っててね、マイダーリン!!」

 アツベバン改めお九は立ち去り様に投げキッスを飛ばして、庭に駆け出し瞬時に姿を晦ます。

「うぬぬ、小癪な奴めっ!! 皆、追うぞ!!」

 それを追いかけて、警備隊員達が盛大な砂埃を立てて去ってゆく。
「何だったさね‥‥」
 一人残された新海は、訳が解らずぼそりとそう呟くのだった。


 そして、その日からお九の猛アタックが始まる。
 ある時は天井裏から、またある時は押入れから‥‥手を変え場所を変え新海宅に出没し、口説いてくるのである。それだけならよいのだが、うっとおしい事に彼女は逃亡中の身。警備隊までもが押しかけてくるからたまったものではない。
「たまふた〜〜これじゃあこないだとあまり変わらないさねぇ〜〜」
 新海の愚痴に困った顔を見せるたまふただった。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
ガルフ・ガルグウォード(ia5417
20歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
壬護 蒼樹(ib0423
29歳・男・志
百々架(ib2570
17歳・女・志


■リプレイ本文

●交差する思惑
「わし、今回はお九に付くんでよろしゅう」
 そう言って集まった早々裏切りを見せたのは斉藤晃(ia3071)だった。
「ちょっちょっと、さいとう‥‥」
「斉藤さんやっ!」
 それを呼び止めようとした壬護蒼樹(ib0423)であったが、なぜだかラリアットを喰らい唖然とする。
「なっなんで?」
「あぁ〜それは呼び捨てにしたからやな」
「呼び捨て? そんなつもりはなかったのだが」
「まぁ気にしなさんなっ、お決まりみたいなもんやから」
 そう答えた天津疾也(ia0019)に納得のいかない蒼樹である。
「じゃあ、俺も別行動させてもらうぜっ」
 続いて飛び出したのはガルフ・ガルグウォード(ia5417)――自称・鍋蓋の弟子を語る彼が新海の下へは行かないというのだから、珍しい事もあるものだ。
「それでは我々だけで行きますか」
 そんな中で一人淡々と話を進めていく和奏(ia8807)である。
「新海のおっちゃん、結婚したんだって〜何かもってかないとなっ」
 そう言ってルオウ(ia2445)はその辺に咲く花を慌てて摘んでいるようだ。
「さぁ、参りましょう‥‥あたしのダーリンの元に」
「あぁ、はいはい。じゃあいくか」
 やる気満々の百々架(ib2570)に呆れ気味の巴渓(ia1334)。一行はそれぞれに動き出す。


   バンッ

 力任せに扉を開いて新海宅に着いた一行、しかし中は取り込み中のようだった。
「いいかげん、お縄に付けというにぃ〜〜」
 机を挟んで手前と奥――警備隊とお九の攻防が繰り広げられている。
 そんな中で新海はといえば縁側に非難していたが、彼らに気付いて顔だけ振り向かせる。
「あれ、本当に困ってんのか?」
 そして、あまりにも呑気な顔で手を振る彼に渓が呟く。
「なら本人に聞くまで‥‥」
「丁度いいわ‥‥ダーリン、ただいまぁ〜」
 ルオウが駆け出すより速く、動いた影――にやりと笑って、百々架は机の前を通過し彼に飛びつく。
「なっななななっ! いきなり何さねっ!!」
 勿論、抱きつかれた新海は当然の如く動揺した。
 ――が、動揺したのは彼だけではない。警備隊は勿論、お九も目を丸くする。新海に抱き抱えられるような形になるよう絶妙な位置に飛び込んで、彼女は早速作戦を実行に移す。
「‥‥新海さん、事情は後で‥‥今は私の言う通りにして下さいねっ」
「へっ‥‥」
「後から高級鍋蓋見せてあげますから」
 お九には聴こえないようにそう言うと、彼女はにっこりと笑顔を浮かべ、呆然としたままの新海の首に手を回し、顔を近付ける。
「わっ、どういうことだっ!!」
 それを見て、ルオウが大袈裟に顔を赤らめた。縁側側から見ればそれは未遂なのだが、室内側から見ているメンバーに取ってはそれはそうとは見えないようで、
「どういうことですのっ、新海さん!!」
 警備隊そっちのけでお九が叫ぶ。
「あっと、これはさね‥‥」
 振り返った新海であるが、まだ首に手を回したままの百々架と共に振り返る形になり、密着度合いがぐっと上がる。
「あらっ、お客さんでしたか‥‥ごめんなさい。えぇ〜とアツベバンさんでしたっけ?」
 そんな中、思わせ振りにゆっくりと手を解いてお九と対面する百々架である。
「ええ、今はお九だけど‥‥あなた何者?」
 明らかに嫌悪する眼差し――痛いくらいの視線を浴びて、しかし彼女の口元は悪戯に微笑んでいる。
「初めましてお九さん。あたしは新海の恋人の百々架です。この人とはもうあーんな事やこーんな事も済ませた仲なんですよぉ♪」
 極上の笑顔でそう告げれば、盛大に驚く外野メンバー。
「うわっ、マジか!! おっちゃん、ロリコン!!」
「なっなななななな‥‥なんてことですの!!」
「うえっ、俺そんなことして‥‥」
 そう言い掛けた新海に、事情を瞬時に悟った渓と和奏――無言で素早く歩み寄り渓は鳩尾に、和奏は顔面に一発叩き込んで、彼の耳元で囁く。
「おまえの為だ、黙って芝居を続けろ」
「ん〜、もしかしたらこれで引いてくれるかもしれません。頑張って」
 二人の問答無用の攻撃に、蹲る彼‥‥目尻には涙が浮かんでいる。
「あんたも大変やなぁ〜まぁ、運命やと思って諦めぇ‥‥」
 そんな彼にそっと助言する疾也。
「あ、ちなみに言っておきますけどこの人の女性の好きなタイプはあたしみたいな、わ・か・い、娘なんです。だからあなたは圏外‥‥」
「なっなんですって!! 本当なの、新海さん?!」
 衝撃を受けるお九に蹲ったまま小さく頷く。実はこれ、疾也への返事であるが彼女は全く気付かない。
「お九さん、どうしてもというなら一つ我々と勝負をしてみては如何ですか?」
「勝負?」
「はい、さすがにいきなりは難しいでしょうから、一週間後に嫁比べで勝負しましょう」
 爽やかにそう提案したのは蒼樹だった。大きな胴体に似合わぬモノを手にしている。
「それは?」
「あぁ、これは鍋蓋ビキニというらしいです。百々架さんと同じ土俵に立つにはこれくらい必要ですから」
 そう言ってそれを手渡す彼。
「あなたにそれを着こなす勇気があるかしら」
 そう言う百々架に闘志を燃やすお九。
「さて、それでは一週間後まで公平になるように新海さんには私と共に力士生活を送って頂きましょう」
「ええ!!」
 そんなこんなで、お九と開拓者の嫁比べが開催される事となるのであった。


 その頃、別れた二人は――
「あんたがお九さんの旦那さんか?」
 面会を許されて入ってきた男にそう問うガルフである。
「あぁ、そうだが‥‥」
 しかし、彼はあまり元気がないようだ。

「おーい、お九!! どこにおんねん!!」
 そして、晃は‥‥お九の居場所を探していたりするのだった。


●対決
「あ〜さて始まります。新海の嫁決定戦ですが、新海さん、如何でしょうか?」
 いつもの関西弁を封印して実況をするのは疾也――目の前には彼らが用意した特設鍋蓋型リングが用意され、その上では判定のガルフと両選手がマントをつけ待機している。
「あの、その‥‥なんかえらいことになってるさね‥‥」
 和奏の提案でみかけが変われば嫌いになるのではないかと、顔面に頂いた青痣をくっきり残し力士生活で若干体重を増やした新海であるが、お九の彼に対する熱は冷めていないようで、新海の姿を見つけると軽く手を振りアピールを続けている。
「まずはルールですが‥‥ってやっぱ言いにくいわ! 地でいかいしもらうでっ。ルールは三番勝負、魅力・掃除洗濯・炊事‥‥二勝した方が新海をモノにできるっていう訳やっ。判定は俺と新海‥‥後、観客にも票をもらうでっ」
 派手に宣伝した甲斐あって長屋住民がわらわら観戦に集まっている。
 そんな観客に目を光らせるのは渓――もし、警備隊の妨害があれば押し留める覚悟である。
「それでは、まずは水着勝負‥‥開始やっ」
 その合図と共に、マントを取り去る二人。
 二人とも例の鍋蓋ビキニだった。木目がデザインされ腰紐の辺りには小さな鍋蓋の形をしたチャームがついており、可愛さをアピールしている。
「なんか木目って微妙だな」
 それを見た誰かの感想。その声が届いたのか、百々架がむっとし、鍋の蓋を投げつける。だが、それは高級鍋蓋で‥‥気付いた新海が回収に走る。そして、

   ずしゃっ

 スライディングでそれを受け取って、彼は満足気だ。
「ダーリン、百々架の事好き??」
「勿論さねっ」
『おいーーーーーーっ!!!!!!!!!』
 その答えに明らかなブーイング。
「しまったわ! 私も何かとっておきの鍋蓋グッズを‥‥」
 焦る彼女に晃の一言。
「あれは結局鍋蓋に愛があるだけでてめぇに振り向いておらんやろ」
「けどぉ〜〜」
 彼女の不満を余所に出た判定は引き分けで、
「まぁ、焦る事ないんちゃうか。後、二番あるわけやし」
 彼女のセコンドについて、晃は笑って見せる。
「美人巨乳とロリ巨乳、ほんま凄まじいな‥‥っと、次いってみよー」
 何処かで聞いた台詞を言うその横で、お子様ルオウが鼻血を流していたのは言うまでもない。


「掃除洗濯は私がお相手しましょう」
 そう言って立ち上がったのは蒼樹。
 お九も服を着替えて、いつものシノビ装束に割烹着が装備されている。
「じゃ、師匠宅を大掃除開始っ!」
 ガルフがゴングを鳴らせば二人は勢いよく中へと入る。線で区切られた新海の部屋をくまなく掃除、予め用意された洗濯物は洗って干すというものだ。
「放浪癖の奥さんを持つ僕に敵う訳ないでしょう。洗濯を舐めてはいけないのですよ‥‥地味な仕事ですが、うまくやれば長屋の奥さん方からお駄賃が貰える位大事な仕事なんです」
 そう言い切って、タライに洗濯板を準備、丁寧且つ力強く衣類をごしごしやっていく。
「あら、なかなか慣れた手つきねぇ」
「私もあんな旦那がほしいわぁ」
 それを見てそちらのプロであろう奥様達が感嘆の声を上げる。
 一方、お九はと言えば‥‥掃除を先に始めたようだ。はたきをかけて雑巾を手に取る。
「あぁあぁ‥‥これだから素人は」
 するとそれを見ていた和奏ががっかりした表情を見せた。
「何よ、何か文句あるの?」
 その表情に苛立ちを覚えながらお九が問う。
「何もわかっていらっしゃらないのですね‥‥普通はたきの後は箒でしょう。落した埃を掃き出して、そして雑巾。出ないと二度手間になってしまいます‥‥それに適当だ。隅にまだ埃がたまってます」
 以前新海宅を掃除した経験を持つ彼には何処に埃が多いか熟知しているらしい。
「へぇ〜そうなのか? 勉強になるなぁ」
「あたしも覚えたおこうっと」
 それを聞き、関心するのはルオウと百々架。その後もお九の間違いは続いていた。
「あ、それはおかしいで!」
 何気に間違いを突っ込む晃にわたわたとするお九。
 洗濯にしても面倒がった結果、色物を一緒に洗い色落ちさせる始末である。
「あれでよく主婦が務まってたなぁ〜」
 それを傍観する渓の尤もな呟きだった。

●最強料理
 そして、あっという間に勝負は三戦目――残るは料理対決のみである。
 既にへとへとなお九の前に現れたのはさっきダメ出しをしていた和奏だった。特に熱くなる訳でなく、落ち着いた面持ちで調理場に立つ。
「あ、あなたが相手なのね‥‥強敵だわ」
 肩で息をしながら、彼の用意した食材に目を向ければ、そこには土鍋に盛られた沢山の緑の草‥‥野菜ではない。それは明らかに雑草だ。それを淡々と調理している。そんな中でこっそりと会場を抜け出すのはガルフ。開始と同時に何やらこそこそと近くの小屋へと消えてゆく。
「あ、あれは、もしや‥‥」
 その材料に何かを察して疾也の表情が曇る。
「ん? あれがどうかしたさね??」
「そうだぜ、疾也。どうかしたのか?」
 二人もあれについては知っているはずなのだが、記憶の彼方にあるらしく覚えていないらしい。
「ほほぅ、面白い食材ですね」
「美味しいの? あれ」
 一方、何も知らぬ蒼樹と百々架、晃も傍観を続けている。
 そして、暫くしてふたりの料理は完成した。さすがにお九も料理はそこそこできるらしい。和奏は鍋を、お九は雑炊を作り上げている。
「さっ、さぁそれでは審査を始めるで‥‥気が進まんけど」
 最後の方は聴こえるか聴こえないかのか細い声で疾也が言う。
「まずはお九からや」
 そう言って差し出された小鉢のそれを一口。魚出汁をベースに旨味が存分に閉じ込められたその雑炊はなかなかの一品である。
「実は小料理屋で働いてた事もあるのよね」
 ぱちんとウインクを見せて彼女が言う。
「そして、次は‥‥和奏の」
 疾也の手は震えていた。覚えがあるその鍋――あの時の記憶が蘇る。それを知らない、あるいは忘れた仲間は平然とそれを口に運んで、訪れるのは軽い衝撃。一瞬ではあるのだが、脳を突き抜けるような苦味と共に、口一杯に広がる独特の青臭さ。
「な、なな‥‥」
 誰かが匙を取り落とす。それに続くようにばらばらと衝撃が駆け抜ける。
「ど、どうしたの?」
 訳が判らず審査員を見回すお九。晃も一口それを食べて――
「しょ、衝撃の味や‥‥」
 そう呟いてぱたりとその場に倒れ込む。
「なっなんてことなの!! 気絶する事美味しいなんて! ふ、不覚だわ」
 ただそれは勘違い――しかし、訂正する者などいなかった。ただ二人を除いては‥‥けれど、訂正したとしても結果は一勝一敗一引き分け。何もかわらない。
 和奏のそれは、雑草鍋と言った。以前新海が記憶を失くした時に作られたもので某シノビの秘伝の薬草も交じっているらしく、体に害はないだが恐ろしくまずい。誰かが止めてくれるだろうと予想していた和奏だったが、結果はこの有様である。
「おっ、どうしたんだこれ??」
 ――と、そこへ何も知らぬガルフが戻ってきて唖然とする。
 静寂に包まれた舞台‥‥崩れたお九を見つけ、ガルフが駆け寄る。そして、
「あんたにはあの人がいるじゃんねぇか」
 ニカッと笑って指差した先――そこには彼女の旦那の姿。
「あっ、あなた?」
「すまない、お九‥‥私が不甲斐ないばっかりに‥‥もう一度やり直そう」
 少し照れた様子でそういう旦那に、彼女の瞳が輝く。
 判定席の新海は青痣下膨れ顔、一方旦那はスマートに紳士的な顔立ちをしている。
「やっぱり男は見た目よねっ♪ 心は二の次っ!」
『えええっ!!!!!!!!!!!』
 その答えに、飛ばした意識を蘇らせ一同が声を上げる。
 その声と同じくして、こちらに聞えるは多くの靴音。
 それに振り向けば、もはやお馴染みとなった警備隊の面々である。二人の捕縛が目的らしい。
「うっしゃ、やっと俺の出番だなっ」
 そう言って、意気揚々と彼らの前に立ちはだかったのは渓だった。通せんぼをするように、前に出て彼らを食い止めに入る。
「あ、でももう勝負は決着したんだから止めなくてもいいのか?」
 疑問に思っているうちに野次馬も参戦。大乱闘に発展していた。そんな中、
「あんたの気持ちは嬉しかったさぁ〜でも、不倫はだめさね。旦那さんとお幸せにっ」
 新海は自分の本音を打ち明けていた。散々集まった仲間に言われた事だ。どっちに転んでもはっきり言えと――。そして二人に一枚の鍋蓋を投げてよこす。
「それは復縁のお祝いさねっ」
「まぁ、新海さんったら」
 それを受け取って、旦那の手を引き駆け出す彼女。今までの彼への想いは? 旦那のあの言葉がほしかっただけかもしれないが今となっては謎である。
「女心と秋の空‥‥ちゅうやつか」
 そんな中、ぼそりと呟く疾也だった。


「なぁ、新海。ひとつ聞いてええか?」
 全てが終わったその後に、疾也が尋ねた一つの質問。
「あんた、あのナイスバディに反応せんかったんは鍋蓋好きらしく、つるぺたがすきやからか?」
 その質問にルオウも興味津々だ。
「別に嫌いじゃないさぁ。ただ、あの人は所帯持ちだったさぁ」
「じゃあ、独身なら付き合ってたかも?」
 意中の君がいるルオウが続ける。
「さぁ、どうさねぇ〜よくわからないさぁ」
 それを適当にはぐらかす新海なのだった。