泣き虫克服肝試し
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/22 10:42



■オープニング本文

「泣き虫みっちゃん、おまぬけ実ぃ〜」
 巽が大鷲にさらわれた事件のその後に、長屋界隈に広まった噂――。
 子供の情報網というのは侮れないもので、井戸端会議に華を咲かせる奥様経由で何気なしに伝わっていくものである。そして、その早さと言ったら思うより早い。
 巽がさらわれた次の日にはすでに筒抜け――そして、その原因がみっちゃんがもふらのぬいぐるみを忘れたせいだったという事だけが広まってしまったから困りものである。
 同じ長屋の子供達に罵声を浴び、みっちゃんの瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。
 しかし、それを必死に堪えて、彼らを睨み返している。
 けれど、それも時間の問題で‥‥泣き出すかと思われたその瞬間、彼女の前に救世主が現われた。
 それは仲良し三人組の一人――修繕された羽織を羽織った巽である。
「別にみっちゃんは悪くない! 俺の不注意だったんだ!」
 彼女の前に庇うように立ち巽が言う。
「そーだよ、みっちゃん悪くない。イジメよくないっ」
 それに続いて、一緒にいた太郎も助太刀に入る。
「ちっ、またおまえらかよっ‥‥よかったな、みのり。けど、二人がいないと何もできないのなぁ〜〜」
 立ち去り様にそう言い捨てて、悪ガキ達が去っていく。
「大丈夫か? みっちゃん??」
 心配そうに振り返った巽が声をかけたが、みっちゃんは俯いたままだ。
「みっちゃん、気にすることない。みっちゃん女の子だから」
「‥‥やだ」
「え?」
 太郎の励ましに小さく答えるみっちゃん。
「あの子たちの言うとおり‥‥みっちゃん何もできない。そんなのやだ」
 抱いていたもふらさまのぬいぐるみを更にきつく抱き締め、決意したように顔を上げる。
『みっちゃん??』
 その様子を見て二人は首を傾げるしかなかった。


そして次の日――みっちゃんはどんでもない事を提案する。

「おまえマジ出来んのかよぉ〜〜」

 昨日の悪ガキを前にみっちゃんが言ってのけた事――それは肝試しへの挑戦だった。
 もうすぐ開催される夏祭り。その催しの一つに肝試しがある。
 大人でもあまり行きたがらない山道にあるのお堂。
 そこへ行き、お堂に置かれているお札を取って戻ってくるというもので、途中には例の如く墓地があり、柳の木も植えられ夜ともなれば、辺りを包む雰囲気は尋常ではない。
 加えて、そこでは昔許されない二人が心中をはかった場所であるとかで、瘴気のたまり場になっているらしく、大アヤカシが住みつき、常に得物を狙っているだのと噂され、恐怖を駆り立てている。実際のところそれは噂‥‥勿論催しの際は毎年安全を確認して万全を期しているのだが、それは一部の者しか知らない。

「みっちゃん、泣き虫ちがうもんっ! だからだいじょうぶだもん!」

 言い出したら聞かないみっちゃんの事、自分の提案がいかに大変な事か揄??オておらず、太郎と巽が説得を試みても、全く聞く耳を持たない。

「ほんとかよ〜じゃあ、泣かずに行って帰ってこれたら認めてやるよ」

 『ま、無理だろうけどな』そう言葉が続きそうないかにもな表情を見せて、悪ガキの一人が言う。

「みっちゃんできるかんねっ!!」
 
 それに対抗するように、ぷぅと頬を膨らましている。

「なら、俺らもやるぜっ」

 ――と、そこへ例の如くで巽と太郎が参戦した。
 みっちゃん一人で行かせる訳にはいかない‥‥彼女の性格を知る二人だからこそ、恐怖より友情。男の子の二人が意地を見せる。

「僕ら三人でひとつだから。文句ないよね?」

 太郎が何時になく真剣に言う。その眼に押されて、悪ガキは渋々了承した。

(『よかったぁ〜』)

 巽と太郎がその返事を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。けれど――、
「一つだけ条件がある」
 悪ガキが提示した条件。それは‥‥

「俺らも一緒に行く。ぴったりくっついて厳しく見張ってやるぜ」

 自分も肝試しに参加する事になってしまうというのに‥‥。
 悪ガキはみっちゃんの泣き顔を見逃さないとばかりに、悪戯な笑みを浮かべる。
「まさか、僕らも‥‥」
 悪ガキ側の他のメンバーが恐る恐る尋ねる。
「当たり前だろっ!!」
 それに提案した子が怒鳴るように答えるのだった。


■参加者一覧
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
水鏡 雪彼(ia1207
17歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●対策
 みっちゃんの突飛な思い付きから肝試しに参加する事になったお子様達――。
 本人は出来ると言っている手前、言い出したら聞かない彼女に開拓者らが助太刀に入る。
「泣き虫克服かぁ〜。よく決意したねぇ、えらいっ」
 そう言って彼女の頭を撫でたのは知り合いである和紗・彼方(ia9767)――彼女の横には、直にぃこと弖志峰 直羽(ia1884)と水鏡雪彼(ia1207)の姿がある。この三人は友達らしい。もう一人、劉天藍(ia0293)もその一人なのだが、今は別の場所でアルネイス(ia6104)と共に策を講じているようだ。
「えへへ〜、みっちゃんえらいの〜」
 褒められた事に機嫌を良くし顔を赤らめる。その視線の先には、直羽の姿があった。どうやら、小さいながらに意識しているようだ。
「こんにちは、みっちゃん達が少しでも怖いのを大丈夫にするように来たの。よろしくね」
 ――と彼女に声をかけたのは雪彼。
「おねぇちゃん、お人形さんみたいっ」
 そんな彼女のフリルの衣装に目が輝かせる。

 一方その奥では、太郎と巽は熱心に巴渓(ia1334)の話を聞いていた。
「男は度胸だ! ガールフレンドの手前、ビビッたら負けだ。いいな?」
 そう言い聞かせる彼女に、二人は力強く頷いてみせる。
(「あぁ、みんな成長したなぁ〜」)
 そんな子供達を見守る直羽は心中親同然だった。
『怖がりを直す‥‥大変な事だけど、そう決意した心は尊重してあげたい』
 それは集まった仲間達の想い――。そう決意して彼らの特訓は幕を開ける。


「何やってんだ、あいつら」
 冷やかしに来たガキ大将達だったが、三人の姿が見えない事につまらなそうだ。
 実はこの頃彼女達は肝試しコースに慣れる為、山に入っているのだが彼ら知る由もない。
「お前ら、ここの子か?」
 それを見つけて声をかけたのは天藍だった。
「そう警戒するな。祭りがあると聞いてきたんだが、内容を知りたくてなっ。教えた欲しいんだよ」
 不審の眼差しを送る子供達に、普段の表情を押し留めて、手には団子の包み。愛想のよい笑顔を心掛ける。
「私もお聞きしたいです」
 そこへアルネイスも茶を淹れ近寄れば、
「仕方ねぇ〜なっ、ちょっとだけだぜ」
 大将の少年がそういうと、周りの子供達が口々に話し出す。そして、その内容は様々だった。特に肝試しでの噂は、やれ鬼が出るだの、やれお堂が人を吸い込むだの‥‥話題は尽きない。
「そういうのも怖いがケモノも馬鹿に出来ないぜ。普通の奴より大きいし、数倍力がある。しかもやつらは本能のまま動くからな。いつ襲ってくるかわからない」
「そういや、こないだ巽がやられた」
 その話を聞き、一人の少年が言う。
「そうか、でももしかしたらおまえだったかもしれないからな。気をつけろよ。何かあったらすぐギルドに走れ」
 そうやって注意しながら、みっちゃんの対応が間違っていなかった事をさらりと諭す。
「あの‥‥私もここにくる途中あの山の話を聞いたんですが、皆のとは違うようで‥‥」
『何々、どんなの??』
 怖いもの見たさの好奇心か? それに食いついたのは数名の少年。
「私が聞いたのは、あの山自体がアヤカシだというものです」
 そこで一旦区切って、顔に陰を落とし話し出せば唾を飲み下す子供達。
「歩けど歩けど先は見えず、どれだけ歩いてもお堂には着かない。それは、山自体が大きなアヤカシで人をひたすら歩かせて、動けなくなった所をこうぱくりと」
『うわぁ〜〜〜〜!!』
 鬼気迫る表情で話す彼女の姿に、何名かの子供が悲鳴を上げた。
「馬鹿、そんな訳、ねぇ〜だろう‥‥?」
 否定する大将だが、表情は硬い。
「真実かどうかは判りませんが、もしそうなら大変だな‥‥と思って」
 にこやかにそう言い茶を啜る彼女。周りの子供達の反応は上々である。
(「さて、これで当日は何人になっているかしら」)
 心中でそう思いつつ、表情には欠片もそれは出さない彼女だった。


●本番当日
「おや、子供達だけかい?」
 肝試しの会場となる山の入口で係りの男が問う。
「そだぜ。子供さんに‥‥いや、六人だ」
 巽、太郎、みっちゃんと悪ガキ達。アルネイスの作戦が成功したらしい。
 沢山いた子供達だったが、どさくさに紛れて大将の下を離れ、参加を拒否したようだ。
「あいつらの根性なしめっ」
 そう言った大将だったが、明らかに声は震えていた。無理もない、大人でも踏み込み辛いだろう雰囲気を漂わせたスタート地点。特訓の際に訪れたメンバーでさえ、それは感じた程だ。

「みっ、みっちゃん怖くないもん」

 淡い色の浴衣に身を包み、みっちゃんが言う。けれど、何度練習しようともこの異質な空気は消す事ができない。もふらを握り締める手に力が篭る。

「大丈夫、俺たちがついてる」
「あれだけ特訓した。怖くない」

 そんな彼女に気付いて二人のナイトが助言する。それに頷けば視線の先――彼女の帯には少し大きい扇子があった。それは直羽愛用のものだ。

『これを俺だと思って‥‥お守り代り。みっちゃん達ならきっとできるよ』

 それを思い出して、みっちゃんの表情が引き締まる。
「さぁ、それじゃあくれぐれもお気をつけて」
 係りの男に促され、六人の長い長い道のり始まりであった。


 足元を照らす僅かな炎――大人は燭台を、子供は提灯の灯りを頼りに山道を歩く。
 距離は往復五百m。行く道は狭く、所々でざわめく木の葉に恐怖する。
 みっちゃんを真ん中に太郎と巽が彼女を挟む形で寄り添うように進み、その後ろを数歩遅れで悪ガキ三人組も横一列に並んで歩く。

「そろそろ第一の脅かしポイントだね」

 小鳥の人魂を飛ばして、子供達の様子を上空から監視ながら雪彼が言う。彼女自身はコースの中盤――お堂付近で天藍と共に待機。勿論この事は主催者側も承知していた。訳を話して‥‥渓等は脅かし役として参加しているくらいだ。

「練習ではここで泣いていたな」

 茂みから飛び出すのは一つ目の小坊主姿の仕掛け人。ガラスで出来た瞳は時折怪しく光り、行く手を阻む。

   グワサッ

 茂みが音を立てて‥‥それが飛び出して、

「ななななな、ひっ一つ目だぁ〜〜〜」

 それを見取り、後ろの一人が尻餅をつく。
 しかし、前の三人は動じない。肩を強張らせたものの、ぐっとそれを睨みつけている。

「うへへへへ〜」

 仕掛け人は面白がり、怯える少年に向ってゆく。近付くそれに悪ガキ達はたじたじだ。

「へんっ、あんなの怖くねぇ〜ぜ」

 そんな彼らを尻目に巽が言う。みっちゃんは一つ目にあかんべをしているようだ。

「は、ははは‥‥少しはやるようになったな‥‥」

 大将はぎこちなく笑って倒れた一人を叩き起こすと、再び体勢を整える。
 特訓の成果は明らかだった。練習では涙を枯らした三人であるが、今となっては飛び出してくる仕掛け人がどんな種類の者なのかは周知の事。前日の予行練習では衣装までかりてやったのだ。次々と現れる仕掛け人にびくつきはするのだが、三人は後ろの悪ガキ達と違い驚きながらも前へ進んでいく。順調に思われたその時だった。予想外の伏兵が彼女らを襲う。


●想定外

「キャアァ―――――――――――――――!!」

 それは先行して歩いていた参加者の悲鳴。本番でしか味わえない効果音。
 その声が山中に反響し、みっちゃんの様子も急変した。人の恐怖は伝染するらしい‥‥地形のせいなのか、思いの他大きく聴こえた声に六人は立ち尽くす。そして、その悲鳴の後にはすすり泣く声が止め処なく続く。
「いやっ‥‥こないで‥‥たから、嫌だったのに‥‥」
 前の参加者の呟きが子供達に届いた。

「何か‥‥いるのぉ〜‥‥」

 その声に触発されて、ますます表情が曇り出す。

「あれはまずいなぁ」

 彼女達を見失わないように抜足と暗視を駆使し尾行していた彼方は焦る。
 そして思いついたのは先への誘導。声の主に会えば安心するかもしれない。彼らの横を気付かれないよう通過して、提灯を振る。
 何かあれば合図を送る――これも練習の際に教えた事だ。しかし、

「ひっ鬼火だぁ〜〜〜〜!!!!!!!!」

 それを先に見つけたのは悪ガキだった。何も知らない彼らは、極限の状態の中で見つけた光を提灯と認識できず怖い物へと変換してしまったようだ。

「えっええ!」
「ほら、あそこっ! ゆらゆらゆれて僕らを誘ってるんだぁ〜〜〜」

 指差したその先を見取って、みっちゃん達も困惑する。

「どうしよ〜、本物だ‥‥きっと、本物だおぅ〜〜」

 肩を戦慄かせて――みっちゃんはその場にしゃがみ込んだ。そして、さらに瞼までもを硬く閉ざして耳を塞ぐ彼女――位置はスタートより四割地点。もうすぐ問題のお堂なのだが、暫く進めそうにない。

「みっちゃん、しっかりぃ〜」
「兄ちゃ達言ってた! 泣いたら負け」

 しかし、すすり泣く声は未だやまず恐怖を煽る。そこへ、

「もふっ」

 彼女を元気つけるように姿を現したのは、淡い光を放ち翼を持った異色のもふらだった。

「みっちゃん、もふらだ」
「羽付きだよぉ」

 二人の声と灯りに気付いてゆっくりと目を開ければ、確かにそこにもふら様の姿がある。それを捕らえて彼女の表情に光が差した。
 すくっと立ち上がれば、今度は上空から舞い降りてくる金色の小鳥。

(「雪彼おねえちゃの小鳥さんだぁ〜」)

 肩に止まったそれを見て彼女が心中で呟く。
 自分は一人じゃない。彼女が周りに視線を向ければ、自分も怖いだろうにそれを必死で押し留めて、彼女を励まし続ける二人がいる。

『泣いたら負けた事になっちゃうよ? それでもいいの?』

 特訓を手伝ってくれた開拓者らに何度も言われた言葉――目を真っ赤にしながら、一週間頑張った彼女達である。後ろの三人はそれをしていない為、自分で精一杯。みっちゃんの事など、既に眼中にないようにも思える。

「みっちゃん?」

 そんな彼らを見て、彼女が動いた。人形のもふらさまを抱いたまま、徐に片手を差し出す。凛とした表情で、大将達はその行動に目を丸くする。

「みんなで行けば怖いない。だからがんばるのっ」
「お、おう‥‥」

 大将はその言葉に素っ気無く答えて立ち上がる。さすがにまだ手を取るのは恥ずかしいらしい。

「あら、私の出番はないかもしれませんね」

 悪ガキ達が彼女に悪戯を働くかもしれないと思っていたアルネイス――妨害・脅かし用に治癒符の発動を考えていたのだが、この分だと必要なさそうだ。人魂の輝くもふらもふを通して、天藍も微笑む。

「もふもふっ」

 そして一声掛けて道を促す。

「もふらさまが道教えてくれてる‥‥だから、いこっ」

 とびきりの笑顔を見せて、みっちゃんが二人の手を取る。
 まだすすり泣く声が聞こえていたが、もう彼女達の恐怖を誘う事はなかった。


●鬼
 無事お堂に辿り着き、お札をゲットし帰りの道を急ぐ。未だに後方にいる悪ガキ達であるが、距離は僅かに縮まっている。

「まだかなぁ〜あいつら」

 下山ルート最大の難所‥‥一人墓地に潜み渓は子供達の到着を待つ。
 彼女はここで強いみっちゃんを演出し、彼女の度胸をみせつけてやろうと考えたのだ。胸にさらしを巻き、虎柄のパンツを穿いた彼女は飛び交う蚊をものともせずじっと待つ。
「うわぁ〜墓地とかマジ駄目だしぃ」
 一人の少年が今日何度目かの怯えた声を上げる。更に、ここは柳地帯――葉が風に靡いて、ざわざわと音を立てている。

「ただの葉っぱだ。気にすん」

「俺、参上!」

 そう言いかけた大将の前に飛び出せば、

「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 今日一番の悲鳴を上げて、大きく後退する悪ガキ達。突然の出現に恐怖はMAX。背の高い彼女が凄んで近付けば、取り巻き二人の目には既に涙が浮かんでいる。それを見て再びみっちゃんが動く。

「だめだよぅ! 友達おそっちゃや〜〜なのっ!」

 とてとてと渓に駆け寄り、ぽかぽか腕を振り回し鬼を攻撃。すると、

「うわぁ〜〜参ったぜぇ〜〜」

 大袈裟にそう言い、渓はそそくさとその場を離脱する。
(「ちょっと業とらしかったか?」)
 そう反省する彼女だったが、どうやらそれが芝居だったとは気付かれていないようだ。ぽかーんとした様子だった悪ガキ三人が、各々顔を見合わせる。そして、

『すっげぇ〜〜! みっちゃんすげぇ〜〜』

 続いたのは驚きの声だった。大将もさっきの光景に、呆然としている。

「俺だって‥‥あのくらい‥‥」
「悲鳴、上げてた」

 強がりを言いかけた大将に空かさず太郎のツッコミ。

「後、少し‥‥みんながんばるのっ!」
『おう』

 彼女の言葉に残りの五人が拳を上げる。

「もう大丈夫だね」

 それを見て見守っていた開拓者らは監視を終えて、先に下山を開始するのだった。


●正直が一番

「おかえりぃ〜〜心配したんだよぉ〜〜」

 彼らの帰りを落ち着きなく待っていた直羽は三人を見つけると同時に、三人纏めて抱きしめる。存在を確めるように優しく硬く‥‥そんなハグに三人は驚き気味だ。

「係りの人も褒めてたよっ」

 にこりと笑って雪彼もみんなの頭を撫でる。
 あの後、彼らは遠足の帰りのように大音量で陽気な歌を歌いつつ戻って来たのだ。
 皆驚かない訳がない。

「さぁ、みんなご褒美の氷だよぉ。直にぃの自家製氷っ! シロップも色々あるから好きなのかけてねっ」

 彼方がそう言って、みんなを机に呼び寄せる。勿論悪ガキ達も一緒だ。

「お疲れさん、大変だったろう?」

 そんな彼らに声をかけたのはやはり天藍だった。見知った顔にあっとする悪ガキ達。
「あんた、なんで‥‥」
「あぁ、わりぃ。みっちゃんの特訓を手伝っていたんだ、俺達」
 辺りの仲間を見回して、彼が言う。
「ふ〜〜ん、そうかっ」
 それを聞き、少し氷に視線を落としていた大将だったが、何か思い出したようでみっちゃんの下に走っていく。そうやってやって来た大将が徐に頭を下げた。その行動にみっちゃんが目を丸くする。

「悪かった、認めてやるよ‥‥お前の事」

 小さなで‥‥しかしはっきりと彼が言う。

「いいよ、もう。みっちゃんもね、実はごめんすることあるから」
「え、なんだ?」

 それを不思議に思い問い返せば、彼女がチラリと視線を向けた先に見知った顔。

「ああっ、あの時の!!」
「お、気付かれちまったか」

 顔を下げカキ氷を食べていた渓が苦笑する。

「ゴメンなの‥‥みっちゃんの為にお芝居してくれた人なんだ。みっちゃんホントは、鬼たおせないのぉ」

 しゅんとした彼女に、大将は少し困惑する。けれど彼は怒らなかった。

「そんなの関係ねぇーよ。泣かなかったのは『じじつ』だからな」

 ニカッと笑ってそういう大将に、みっちゃん他皆がほっとする。
 『皆仲良く』――手伝う事を決めた時から開拓者達が願っていた事だ。
「あっ、雪ちゃんの蜜おいしー。ほら直にぃもどう?」
 そう言って彼方が匙を彼に向ける。
「えっ、あぁうん」
 それをあーんの体勢で待つ彼に、突き刺さるは小さな瞳。
「もてるな、直羽」
 それににやりと笑みを浮かべる天藍だった。