【夢夜】西瓜大王の饗宴
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 13人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/14 02:58



■オープニング本文

 カボチャがあって、なぜスイカにないのだろうか?
 秋にカボチャなら、夏にスイカ――これ必然。
 南瓜と西瓜‥‥似ているんだから、カボチャだけなんておかしい。
 だから、僕は今年短冊に書いてみた。

『スイカ大王に会えますように‥‥』

 その願いが聞き届けられたことを僕はまだ知らない。


 今年も実ったまあるいスイカ――。
 僕の畑にはおよそ見渡せる範囲一面にスイカを育てており、今まさに収穫シーズンを迎えている。暑い夏を乗り越える為、水分が多く甘みのあるスイカは、皆のオアシスと言っても過言ではない。少し油断すれば、動物やPモノ、人間までもがスイカを狙って夜な夜な姿を現し、毎日一つ二つは被害にあってしまう。それを防ぎたいと思い、僕はスイカでランタンを作ってみた。
 水分の多いスイカのランタン――。
 火を灯すのにも一苦労だったが、効果もイマイチ。

 カボチャのランタンには悪い者を追い払うらしいというのに‥‥。

 ハロウィンのカボチャだけなんだろうか? いや、そんなことはないはずだ。
 僕はそう言い聞かせて、ランタン作りを続ける。
 そして、それを続けたある日の夜、ついにそれは現われた。

「少年よ、時は満ちた。今こそ宴の時だ‥‥」
 耳元で囁く声にはっとして、目を開けるとそこにはスイカ大王の姿があった。
 なぜそれがスイカ大王だとわかったかと言えば、ひとえにカボチャ大王と同様に顔のようにくり抜かれた穴があって、それが目鼻に見えた事と、ぼろ布のような布が体と思しき部分に垂れ下がっていたからに他ならない。
「宴って‥‥?」
「私の‥‥一夜限りの宴だ。いつも私達を大切にしてくれているおまえに、いいものを見せてやるぞ。我らを脅かす存在に目にもの見せてやる‥‥私は力を得た。盛大に奴らを出迎えて一泡拭かせた後、勝利を祝う‥‥どうだ?」
「はっ、はぁ?」
 何が何だかよくわからなかったが、スイカ大王に会えた事が嬉しくてその場で約束を交わす僕。
 その約束とは仲間を集めること。宴の日までに戦う仲間を探す。
「よし、頑張るぞぉ〜〜!!」
 僕はきたるその日を胸に仲間を募るのだった。

*このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。
 実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
/ 葛葉・アキラ(ia0255) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / ペケ(ia5365) / 氷那(ia5383) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / フラウ・ノート(ib0009) / 琉宇(ib1119) / 蓮 神音(ib2662) / オグリーマン(ib3833) / アヤト(ib3846


■リプレイ本文

●我ら西瓜防衛隊
「皆、ありがとねっ」
 畑の前に集まった開拓者を前に依頼人である少年が笑う。
 思った程多くの人数は集められなかったが、コレばかりは仕方がない。子供の戯言――まだ小さな少年の言う事などまともに取り合ってもらえただけでも奇跡である。

「今晩現われるんだねっ、そのスイカ大王さん。早く会って見たいよ〜!」

 そんな中、少年と同じくらいの少女・石動神音(ib2662)が少年の手を取り、心をときめかせている。

「私もすごく気になってるじぇ〜!」

 とその言葉に釣られたのはリエット・ネーヴ(ia8814)。元気一杯に拳を突き出し満面の笑みだ。そんな彼女を横で見守っているのは姉妹関係にあるフラウ・ノート(ib0009)。

「あら、どつく相手が違うのね‥‥」

 西瓜大王と聞いて、てっきり悪さをする大王を懲らしめると思っていた彼女だったが、結局のところやる事に変わりはなく、さして不服があるでなし。今晩一暴れできるのだと、密かに楽しみを募らせる。

「きっと現われるよ‥‥だって約束したもの。すっごいんだよっ、本当にスイカなんだから! おっきいおっきいスイカの頭をつけてて、ほのかに香るみずみずしくも甘い香りがたまらない‥‥僕はわかる。あれは極上のスイカの香りだ!」

 少年はそう言って、あの一夜の思い出に浸る。

「ええっと‥‥とりあえず宴の準備をさせてもらってもいいですか?」

 そんな彼らを余所に、道具片手に声をかけたのは和奏(ia8807)だった。今夜の為にやりたい事を纏めてきているらしい。その一つが、事前の準備が重要になってくるものなのだ。

「私もそうさせてもらうかな」

 穏やかな笑顔を見せて、からす(ia6525)もスコップ片手に西瓜畑に踏み込んでゆく。

「おぉ! スイカなり、スイカ〜〜!! 遊ぶなのだっ!!」

 とそこに何やら目的を見失っている者が一名――平野譲治(ia5226)だ。
 一面に広がる西瓜に瞳を輝かせ、今にも齧りつきそうな勢いだ。日はまだ真上を過ぎたばかりである。西瓜大王の出現にはまだ半日残っている。

「それでは皆さん、僕らに出来る事をやっておきましょーー♪」
『おおっ』

 少年の掛け声と共に、皆準備にとりかかるのだった。


「ほほぅ、皆のものよく集まった」
 時間を忘れて夢中になっていた彼らの前に大王が現われたのは、つい今し方の事だった。
 星が輝く空の下、派手なドラムロールと共に西瓜大王は出現した。
「ねーねー今のどうやったの? 浮いてたよ、さっきの光の玉!! キラキラ綺麗でなんか凄いよーー!!」
 その登場の仕方は予想外。ミラーボールを頭上に掲げ(天井がないので空中に浮いていた)、姿なきオーケストラの音を背に颯爽と登場。まるで、自分がスターであるかのような振る舞いだった。
「おおお〜〜〜、スイカ大王かっくいぃーーーーー!!」
 手にしていた西瓜を取り落としてリエットも彼の元へ駆け寄っていく。
「そうかそうか、カッコいいだろう。何だって我輩は夏の風物詩‥‥花火や蚊取り線香と並んで有名且つ人気のある『西瓜』だからなっ。はっはっはぁ」
 ない背をふんぞり返らせて、大王は上機嫌だ。
「大王、準備は出来ています。いつでもOKです」
 ――と、そこへ少年がきりりとした面持ちで報告する。
「あい、判った。では早速我輩が‥‥」

「待って!!」

 大王の言葉を遮る形でズイッと前に出たのは、シノビのペケ(ia5365)だった。両手には半分に切った小振りの西瓜――中身はくり抜かれている様で、皮の部分しか残っていない。

「中身の無いもん持って、どないすんの?」

 それを見て首を傾げたのは葛葉・アキラ(ia0255)だ。

「西瓜大王様、私に力を分けて下さいませ」

 ‥‥‥‥ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥

 只ならぬ雰囲気に一同の視線が彼女に集中する。そして、

   ていっ

 彼女はそれを胸に宛がった。
 すると、どうだろう‥‥ただの偶然?
 その西瓜の皮は彼女の胸にぴったりとフィットし、彼女を包み込む。

(「この吸着感‥‥そしてこの付け心地‥‥なんか凄いのです‥‥この西瓜は私の為に育ってきたとしか思えないのです‥‥」)

 一人高揚しつつ、ゆっくりと西瓜から手を離す。本来ならここで西瓜はぽろりと落ちるはずなのだが、全くそんな様子は無い。

「どうなってんや??」

訳が判らず呟くアキラである。しかし、彼女は気にしない。

「成程、面白い女だ。よし、望み通り力をやろう」

 ――と、それを見取って大王がにやり笑い身体を左右に揺らせば、裾からキラキラした粉が出現し、ペケを包んでいく。

「むむむ、この感覚‥‥力が湧いてくるみたいですぅ〜〜」

 装着した西瓜も光を放ち、スイカは鎧のように変形し彼女を戦士に変える。

(「なんだか凄い事が出来るような気がして来ましたよっ‥‥ふふ、ふふふふふ」)

「うがぁ〜〜〜〜〜!!」

 そして次の瞬間、彼女は目を血走らせ叫んでいた。
「何をしたのだ、大王殿?」
それを傍観していたからすが尋ねる。

「楽しくなるおまじない‥‥といったところだ」

 無表情である筈の大王が悪戯に笑う。
「そうだ、もう一人我輩に願っているものがいたな」
 すると何かを察して、大王は和奏の元へと近付いていく。

「何でしょう?」

それに気付いて振り返れば、大王は服の下から大型の連射銃を差し出しているではないか。
「コレは?」
「おまえが欲していた種を使った連射銃だ。思う存分使うといい」
「お気遣い感謝します」
 彼がやってみたいと思っていた事――それは西瓜の種を使った空気銃での戦闘。
 しかし、天儀にそんなことの出来る銃が存在するはずもなく、半ば諦めていたのだ。フォルムも今ある天儀のものとは全く違い、重厚感とメタリックな風合いが強い。
「なんか凄いですね、これ‥‥」
 弾となる西瓜の種を必死で穿り集めていた和奏の手が感激に震える。
「そうだろう‥‥なんたって私が数々の銃サンプルを眺め研究し、開発した最新モデルだからな」
「開発、研究って‥‥意外と暇でらっしゃるのですね」
「あぁ、まぁ皆私の存在を知らないからな」
 そう言って、はたと気付くと肩を落とす大王。
「あ〜〜〜、まぁ元気出しなさいよ。お仕置き‥‥するんでしょ?」
 そんな人間味溢れる大王を励ましたのは、姉さん肌の氷那(ia5383)だった。作業の手を止め、大王の肩っぽい所に手を置く。
「そうですよっ! 積年の恨みを晴らすのにそんな姿でどうするんですかっ!! 猪も狸も猿も‥‥皆西瓜を食べるんです。熟れ時の西瓜、いくつ駄目にされた事か‥‥今こそ、復讐の時ですのっ!!」
 実家が農業に関係しているとあってか、並々ならぬ闘争心を見せているのは礼野真夢紀(ia1144)だ。

「できたぁ〜〜〜!!」

 そんな中、黙々と何やら作業をしていたらしい琉宇(ib1119)が叫びを上げていた。


●押し寄せる厄介者
「さぁ、ではやるとするか‥‥見ていろよ、少年」
 大王はそう言って、天空に舞い上がるとくるりと身体を回転させる。そして、人には聴こえぬ音波を発し、直接脳に呼びかけ、招待客となる厄介者達を呼び寄せる。
 静まり返った畑に聴こえるのは虫の声。始めに姿を現したのは動物・ケモノの類だった。本能のままに行動する分、反応が早いのだろう。一匹また一匹と姿を現し、畑に近付いてくる。

「さぁ、開宴だ」

 大王の言葉が引き金となった。ケモノ達は西瓜を見つけると、狂ったようにそれに向かって突っ込んでくる。大王の力が効いているのだろう。我武者羅に‥‥といった雰囲気が強い。
「これは楽勝かもね」
 その様子を見て、氷那が呟いた。
 それと同時に第一波を襲うは蔦のトラップ。丁度いい高さでうまく結び合わせて、侵入してくるであろう場所に、出来うる限り数を配置。真夢紀、氷那、和奏の三人が日が暮れるまで仕掛けた甲斐あって、面白いように足を取られつんのめる。中には勢い余って飛んで行くのもまでいる。それを見越して、穴を掘っていたのはからすだった。罠伏りを使い、効率よく仕掛けられた罠は様々。西瓜畑の水路を利用し、あまり畑を荒らさないよう配慮も忘れない。

「弓術師のトラップワーク、甘くないぞ」

 掘った地面の穴に落ちてゆくケモノを前に、彼女は微笑する。穴の中には腐った西瓜や使い物にならなくなってしまった西瓜のプールがある。そこへ落ちてゆくケモノは災難だった。匂いもさることながら、胃に侵入を許せば体調不良必死である。そんな中、駆け上がろうと抵抗する猛者に、からすは再び微笑を浮かべて‥‥。

「頑張るきみにプレゼントだ」

 彼女はそう言って、手にした大きな西瓜を徐に投げ込んだ。
 子供が悪戯をするかのように‥‥今宵は夢夜。何をしても許される。それをまともに食らった猛者は根性尽き果て、プールに落ちていく。

「あああっ!!」

 そんな最中、別の場所では譲治が悲鳴を上げていた。


「どうしたの、譲治!!」
 それを聞いて、近くにいた友達の琉宇が駆け寄る。
 琉宇の頭には、なぜだか西瓜大王を模したランタンが被さっている。
「るー見るのだ‥‥ってうわぁぁ!」
 それを知らずに振り返った譲治は、琉宇に驚き思わず尻餅をつく。
「そっそれは?」
「あ、これ? 見ての通りスイカランタンだよ。カモフラージュになるかと思って」
 てへへと照れを見せて言う琉宇。
「そっか、すげーなりっ、るーは。それに比べておいらは‥‥」
 そう言って悲しそうに手の残骸を見やる。
「これは、何?」
 尋ねた琉宇に譲治は弱々しく答えた。
「おいらが作ってたマトリョーシカなのだ‥‥」
 涙を浮かべながら、手には作りかけの西瓜のマトリョーシカらしきもの――。
 水分が多い為、じゅくじゅくのびしょびしょであるがそれでも必死に作っていたのだろう事が見てとれる。
「あぁこれは酷いねぇ〜」
 西瓜を被ったまま、琉宇が言う。
「でしょでしょ‥‥ちくしょ〜おいらの傑作が‥‥」
 その拍子にそれをぐっと握れば、

   ぐしゃり

『あっ』

 二人の間に流れる沈黙。そして、譲治の何かが壊れた。

「うわぁぁ〜〜、くそぉ〜〜〜みんなみんな邪魔なりぃ〜〜〜!!」

 さっきの作業の余りの西瓜をバケツごと取り上げぶちまけて、畑にある西瓜を手当たり次第に投げ始める。

「うらうらうらうらうらう〜〜なのだぁ!!!!!!!!」
「あわわ、落ち着いてよぉ〜〜」

手をバタつかせて止めようとする琉宇だが、近付く事さえ出来ない。

「私が行きま‥‥」

   ごんっ

 そこへ止めに入ろうとしたペケだったが譲治のそれをまともに受け派手に倒れる。

「あ、あの‥‥大丈夫?」

 恐る恐る近寄った琉宇に寒気が走った。人の立ち上がり方ではない。ぐわっと立てかけられた板が起こされた如く、復活したペケの目が狂気に光る。

「ペケケッ、ペケケケケケ〜〜ッ」

 奇声を発し、近くにあった西瓜に半ば強引に指を差し込んで、そしてシノビ特有の奔刃術を使い、両手西瓜を譲治に振り翳す。どうやら、彼を敵と認識してしまったらしい。

「おわっ、うえぇ〜〜〜怖いなり〜御免なりぃ〜〜」

 その気迫に押されて、譲治は逆に正気を取り戻したようだ。

「私は西瓜狂戦士ペケなのです。邪魔者はすぺぺのぺです」

 ぎらりと目を光らせて、彼女が笑う。

「おお、ついに来たか!」

 そんな彼女を見て、大王は喜んだ。どうやら、彼の粉によるものらしい。

「何やってんの! 相手が違うでしょ!!」

 そう言って助太刀に入ったのは、氷那だった。
 西瓜の種を連続で手裏剣のように飛ばし、説得に入る。一粒は小さいが、数があればそれなりに痛みはあるはずだ。けれど、ペケは怯まない。

「こんなハプニングも面白いであろう?」

 そんな彼女を見下ろし、大王が呟く。

「だからって味方襲わしてどうすんのよっ! 全く‥‥やむ終えないわ、御免なさいっ!」

 氷那はそう言って、半分に切った西瓜を前へと突き出す。すると、

   ぐしゃりっ

 その西瓜をまともに顔面に食らい、ずるりと崩れ落ちるペケ。

「おまえ‥‥なぜ我輩の術の解除法を知っている?」

 それを見て、思わずもらした感想。

「西瓜を突き出すのが解除法なの?」

 大王の側を離れないでいた神音が尋ねる。

「いや、西瓜果汁をどんな形であれ飲ませればよいのだ」
「なんですか、それ」

 その答えを聞き、今度は和奏が呟く。

「ありゃ、私、何を‥‥?」

 氷那のそれで気がついて、ペケが辺りを見回した。
 どうやら、さっきまでの記憶はないようだ。

「これでひとまず安心ね」

 怯える譲治を宥めて、彼女は次の相手に向かう。
「よかったね、恭治‥‥って、ん?」
 そう言って彼を見た琉宇だったがそこには、崩壊した西瓜のマトリョーシカに必死に治癒符を使う譲治の姿があるだけだった。


●招かれざる客
 一方、別方向では第二波として現われた西瓜泥棒相手に連携プレーを見せる二人がいた。

「目標捕捉‥‥お姉様、アレするじぇ!!」
「ええ、よくってよ!」

 声を掛け合い飛び出して、重いはずの西瓜をリエットが放り投げれば、フラウがそれを追い跳躍し硬さをものともせず、アタックを決める。大王の力で呼び寄せられた彼らに抵抗出来る術などなかった。硬い西瓜をまともに受けて、意識を一瞬手放す。ずり落ちかける西瓜に倒れる身体‥‥そんな彼に再び衝撃。

「はぐわぁ!!」

 それはさっきより遥かに強い当りだった。それもそのはず、追いうちをかけるようにリエットが西瓜越しに蹴りを叩き込んだのである。

「うわっ、えぐいなぁアレ」

 とこれを見ていたアキラの一言。

「あたしも、頑張るですの! ていっていっていっ」

 巫女の真夢紀は竹で出来た昔ながらの水鉄砲を使い、その中に西瓜果汁を詰め目を狙い発射する。ダメージを与えるのは難しいが視界を奪うには十分。そこへアキラが呪縛符付きの西瓜を丸々投げて、応戦しているようだ。

「此処に悪さにしに来たんが運の尽き‥‥成敗っ!」

 時に氷西瓜を指した剣を使い、兎に角手当たり次第殴っていく。
「しかし、一方的でつまらないですね」
 西瓜銃を片手に、飛び来た猿を撃ち落とした和奏の言葉。

「なら、私がお相手しよう」

 聞き慣れぬ声に顔を上げれば、そこには巨大な南瓜があった。

「むっ、おまえは呼んでないはずだが??」

その姿を見て、西瓜大王が言う。そう、それは‥‥皆様おなじみの南瓜大王だった。
 時期ではないというのに、我者顔だ。

「ふふふ、楽しそうだったんでな。来てしまったよ」

 睨まれている事気にすることなく、南瓜大王は続ける。

「そして、特別にこいつらもな」

 南瓜はそう言ってすっと身をずらした。
 すると、その後ろ‥‥八百屋で見かける野菜達。

「ちっす、胡瓜大臣っす」
「わて、糸瓜男爵や」
「俺っち、苦瓜公爵さぁ。あ、ちなみに青瓜と白瓜と‥‥まぁ、他は欠席さね」

「なんか変なんでてきたぁ〜〜」

 その状況に誰かが呟く。

「あはっ、きゅうりにへちまにゴーヤだじぇい!」

 それに喜ぶはリエットだ。
「おまえら、呼んでもないのに‥‥さっさと出て行け。今日は私の宴だぞ」
 拳があったら、わなわなと震わせていただろう西瓜大王が凄んだ声で言う。
「まぁ、そういうな‥‥我々も」
「黙れ。集まりし仲間達よ、こやつらもやってしまえ!!」
 西瓜畑の侵入者を粗方倒した彼らの元に現われた伏兵? 南瓜と胡瓜と苦瓜を相手に、大王が命令を下す。

「この際や、派手にいこかっ!」
「わはっ、お姉様。次のターゲットだじぇ!」
「いきますか」

 その一声に集まった開拓者らは、狙いをその三体に定め再び戦闘を開始する。

   ドドドドドドド

 和奏の銃からは止め処なく、種が発射され苦瓜公爵を狙うが、ぶつぶつにはじかられてなかなかダメージに繋がらない。

「ならば、コレはどうかな?」

そこへからすが組み立てたシーソー式投擲機に西瓜を設置、投げ飛せばゴッと鈍い音を立てて、それは食らう苦瓜。

「僕も活躍するですよっ」

 っと、そう言ってそれに続いたのは琉宇だ。手には火花を散らす西瓜爆弾が抱えられ、それを持ったまま胡瓜大臣に駆け寄っていく。

「おわっ、くんなよっ、んなもん持って! 危ないだろうがっ!!」

 それに動揺して、逃げ出す胡瓜。頭につけている琉宇自作の西瓜ランタンも不気味きわまりない。

「くらえっ、ていっ!!」

そして、琉宇がそれを投げた。ぱちぱちと音を立てる火花はもうすぐ本体に達する。

『くるっ!!』

 誰もがそう思って、身を伏せた。
 しかし、何時までたってもそれは爆発する様子を見せない。その代わりに、胡瓜に当たり砕ける西瓜。
「えへへ〜〜、残念。実はただの西瓜なんだよねぇ〜〜それ‥‥っと、鬼は〜外だよっ」
 ネタばらしをして、今度は種を投げつける。
 そんな中、最強‥‥ならぬ最凶な武器と思しきものを装着し、南瓜大王を追い掛けまわす者がいた。それは、神音である。

「やめろ〜〜、それだけは洒落にならん!!」

 浮遊する彼に、必死で追い縋って来る彼女にたじたじだ。
 彼女の武器‥‥それは即席のモーニングスター的もの――作り方は簡単だった。
 そこらにある西瓜に撒菱を刺し、落ちないように甘刀でコーティング。その西瓜に両腕を突っこみ、グローブよろしくはめ込めば、なんとも凶器に近い西瓜モーニングスターの完成である。
 軸が腕である為、自由自在な攻撃が可能で、しかも盾代わりにも重宝する。仕掛けてきた相手にコレでブロックすれば、自然に撒菱棘の餌食となるのだ。
 それをぶんぶん振り回しながら、彼女は叫ぶ。

「西瓜大王さんの邪魔しちゃだめです〜〜! だからお仕置きですっ!!」

 加えて彼女は泰拳士――瞬脚・背拳も交えて、南瓜を射程に捕らえ‥‥鈍い音がその場に木霊した。

「いっ、普通に痛いし‥‥」

 それを受けた南瓜大王の素直な感想だった。


●勝利の西瓜パーティー
 そんなこんなてんやわんやのうちに饗宴は終焉を迎える。
 畑には伸びたケモノと泥棒が横たわり、後から来た南瓜・胡瓜・苦瓜も気を失っているようだ。
「皆のもの、よくやった」
 そんな彼らを前に西瓜大王が言葉する。
「たった一日‥‥明日からはまた普通の日々だ。だが、こやつらも今日の事があるゆえ安易に畑には来ぬだろう。少年、これからは安心するが良い」
 少年を再び畑に呼び出して、そう言った西瓜大王は満足げだ。
「さぁ、それでは我輩からの褒美だ…好きなだけ食すがよい」
 そして、体をまた回転させ粉を出すと荒れた畑は見る見るうちに修復され、熟れた西瓜が一面に出現する。

「やったぁ〜、やっと食べられるのねっ!」
「スイカ食べ放題だと思ってきたんだからね、僕」

 そう言って、真っ先にスイカに齧りついたのは神音と琉宇だ。

「ん〜〜、戦いの後のスイカ。ほんま美味しいなぁ」

 とこれはアキラ。

「せや、スイカ大王。ウチ一つ気になる事があったんやけど?」

スイカを齧りつつ、彼女が問う。

「なんだ、申してみよ」
「スイカって野菜やのに果物の顔してるけど、あれどないなん?」

どうも以前から納得がいかなかったらしい。

「なんだ、我輩は果物ではないぞ。分類学的には野菜だ。そして、知ってるか? あのメロンや苺でさえ、野菜だという事を」

「ええっ!! ホンマなんっ! それっ!」

 驚きの事実に、開いた口が塞がらない。

「そんなに意外か‥‥果物は木になるものの事を指すのだ。だから、木にならないメロンや苺は野菜なのだよ」

 穏やかな声で大王が告げる。

「やはり、西瓜には塩だな」
「えぇ〜〜塩ぉ??」

 上品に西瓜に塩をかけ、食していたからすの言葉。それを聞き、譲治は首を傾げる。

「この塩味が甘さを引き出すのだよ。ほら、トマトにもかけるだろう?」
「おおっ」

そんな彼に説いて、再び一口。

「う〜〜ん、なかなか手強いですね‥‥このスイカ」

 ――と、その横では必死になって種を取り出す和奏の姿があった。

「あなた、そんな必死にならなくても」

 それを聞き、苦笑する氷那。しかし、手を止める様子はない。

「これは自分の性分なんです。どうしても全部取り出してからじゃないとすっきりしなくて」

 和奏が西瓜を食べるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

「では、これは如何ですか?」

 そう言って、差し出されたのはカキ氷。
 真夢紀が氷霊結を使い作ったらしい。シロップは勿論、西瓜の果汁である。

「あ、ありがとうござます」

 それを受け取り、和奏は種ほじりを中断する。

「あれ、これは何ですか?」

一方でそう尋ねたのは、フラウの横にいたペケだ。未だに西瓜鎧を装着している。

「これはスイカのゼリーよ。食べてみる?」
「はい、頂きます」

 薄っすら赤く染まったそれを手渡され、ぱくりと口に運ぶと同時に笑顔が広がる。

「お姉様、上手だかんねっ。天才だじぇ!」

 リエットもそれを食べたらしい。親指を立ててOKサイン。

「ほほう、なら我輩も頂こうか」

『えっ』

 その言葉に一同の脳裏に浮かぶ疑問。

(『それって、共食いじゃね??』)

 しかし、そればかりは口に出来ない一同である。
 平然と食べて、美味いと感想を述べる西瓜大王に困惑する彼ら。
 そんな楽しい時間も終わりは来る。

「さて、それではもう夜が明ける‥‥我輩はこれで帰るとするか」

 そう言って、ふわりと体を浮かせる大王である。

「ありがとねっ、大王。また来年来てほしいなっ」

 そんな彼に少年が叫ぶ。

「あぁ、またこれればなっ」

 それに答えると、今までとは違い身体全体が光を帯び始めていた。

「大王ぉ〜、また遊ぼうねぇ♪」

 リエットも彼に笑顔で手を振って‥‥日の出と共に、大王は姿を消した。
 畑に来ていたケモノらも彼の力なのか、もうそこにはない。
 太陽の光を受けて、どっと疲れが押し寄せる。夜通し戦い続けたのだ。疲労はピークと言っていい。眠気も今頃押し寄せて‥‥彼らが目覚めると、またいつもと変わらない日常が待ち受けているのだった。