【遺跡】試される者たち
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/03 01:13



■オープニング本文

 突如として見つかった遺跡の存在――。
 未だ驚きを隠せない調査隊や学者達。その規模は予想以上で、いくつもの入り口が存在するようだった。発見されてからというもの、毎日のように誰かしらのグループが依頼を受けて、内部の探索に向う。皆の狙いはもちろん開門の宝珠である。見つけ出せれば一躍時の人――有名人も夢ではない。名を上げたいと思う開拓者らは、遺跡調査の依頼を探し足を踏み入れる。
 そして、ここにも時の人を目指すグループがあった。
 けれど、彼らを待ち受けていたのは――。

「なんだっ、一体どうなっトいやがるっ!!」
「やだっ、うそでしょ?! そんなぁ〜〜」
「ヤバイっ、逃げるぞ!!」

 遺跡に入ってまだ数時間――。
 何度か分岐があったのだが、そこをずっと右に進んで行き着いた先‥‥そこにあったのはギルドのロビーを思わせる広い部屋だった。壁にはありとあらゆる武器を模した彫刻が施されており、さながら武器博物館のような雰囲気を漂わせている。一行は持参した松明を片手にその部屋を見て回る。天井より少し下、正面の壁にはここを訪れた者への挑戦的なメッセージ。

『この先の道を進むには、三つの扉のその先の魔の者倒して証を示せ』と――。

 そして、その下には何かをはめる窪みが三つ。
 どうやら、そこに証とやらをはめ込むらしい。
「やってやろ〜じゃねぇ〜か」
 典型的な突っ走りタイプの青年が拳を握り、気合を入れる。
「それでは、こちらから入ってみるか」
 そう言って、まず手をかけたのは右の部屋。各扉にも意味深な言葉が記されている。

『流れる水は掴めない。けれど殺(や)らねばならぬ時、人は一体どうするか』

 中に入った一行の前には半透明な弾力のある塊‥‥いわゆるスライムがいた。
 発見と同時に剣を振り下ろすが、その身体に剣の威力は吸収されてしまい、ほとんどダメージを与えられた様子はない。それどころか身体の中に何かあるらしく、それが光っては徐々に体積を増やしていく。最初は樽位だったそれが、あっという間に二倍、四倍へと肥大してゆく。
 「どうなっている?」
 訳が判らず、一旦ロビーに戻る一行。
 再び扉を開くと、中のそれは始めのサイズに戻っている。
「よくわからねぇ〜」
 一行は倒せぬ敵の出現にその部屋を保留に、別の部屋に向う。

   ギィィ

 重い音をたてて入れば、中には龍サイズの中型鎧が鎮座していた。

『巨大な敵に一人で向うは無謀なり。
 相手と時を見極めて、仲間と共に打ち抜けばいとも容易く崩れ去る』

 扉の言葉を『協力せよ』と読み取って、一行は鎧相手に総力戦を仕掛ける。
 相手は重い鎧‥‥動きは彼らの方が断然上である。
 しかし、何度打ち据えても一向に倒れる気配がない。
 それどころか、何度分断しても、一定時間するとふわふわ浮き上がり元の場所に戻っていく始末だ。
「ん?」
 そんな相手に見つけた不審な光――
 目を凝らせば身体のいくつかの部分に光る石が見受けられる。
「そこかぁ!?」
 それを狙って誰かが拳を揮ったが、結果は同じだった。
「ここも駄目か‥‥」
 再び戻らなければならない事態に舌打ちし、青年らはロビーに戻る。
 残るは左の扉のみ‥‥せめてここだけでもクリアしたいところである。

『光に紛れて潜むもの‥‥見えてはいるのに気付かせぬ。
 気配を感じ取れるなら、勝機はすぐそこ。物理も有効』

 言葉の意味もそこそこに重い扉を開くと、そこには一体の鬼が彼らを待ち受けていた。
「潜むもの? 堂々といるじゃねぇ〜か」
 鬼の攻撃をひらりと交わして青年が言う。
 部屋に隠れられそうな場所はない。鬼以外に何かがいる気配もない。
 謎を残したまま、仲間達は鬼相手に攻撃を仕掛ける。
 けれど、ここも同じだった。
 瘴気に戻るものの、またしばらくすれば新たな鬼が現れ行く手を阻み、証が出てくる気配はない。
「なんてこった‥‥」
「これじゃあ、キリがないよぉ〜〜」
 三つの扉、全てに阻まれて‥‥彼らはやむなく攻略を断念。
 成果を挙げられぬまま、地上に戻ることになる。そして――、

 試練の間――。

 彼らの報告を受けて、調査班がつけた名前。
 どの道が開門の宝珠に続いているか判らない為、このままこの道を放置する訳にもいかず、ギルドにはこの部屋に挑む開拓者を求める依頼が出されるのだった。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
光琳寺 虎武太(ib1130
16歳・男・サ
花三札・野鹿(ib2292
23歳・女・志
猛神 沙良(ib3204
15歳・女・サ
剱崎 廻(ib3213
24歳・男・泰


■リプレイ本文

●序
「これが試練の間ですか」
 ギルドから貰ったメモを元に辿り着いたロビー部で三枚の扉を前に、朝比奈空(ia0086)が呟く。ここへ来る前に予め相談は済ませてある。三つの扉への対策もなしにここへ挑む程、彼らは無謀ではない。
「緊張します」
 心の声が声になったか今回の依頼が初依頼となる獣人の猛神沙良(ib3204)がはっとし、口元に手を当てる。
「大丈夫、皆で当れば怖くないですよ」
 そんな彼女に声をかけたのは郁磨(ia9365)だった。へらりとした面持ちで、今回の依頼を楽しむかのように笑っている。
(「さすがは先輩です‥‥それに比べて私は‥‥」)
「まっ、なんとかなるよ。とりあえず落ち着きなって」
 すると今度は花三札・野鹿(ib2292)が彼女の肩に手を乗せ言う。
「なぁ、それ触ってみていいか?」
 ――と近くに視線を向ければ、そこには光林寺虎武太(ib1130)と釼崎廻(ib3213)の二人が何やら賑やかにしている。
「もうこれで何回目よん。虎武太ちゃん」
「だって気になるんだよぉ〜〜‥‥って、虎武太って呼ぶなぁ〜〜!!」
 自分の名前にコンプレックスがある虎武太に向って、白い耳をぴくぴく動かしわざと名前を強調する。女の姿をしている廻であるが、実は男。人は見かけによらぬもの――身長だけは誤魔化せなかったらしいが、その他は完璧だった。
 そんな彼に興味を示す虎武太だが、彼の興味はそこではない。獣人の耳や羽――それが珍しいようで、隙あらば触ろうと試みているのだ。
「まぁまぁ仲良くいこうよ。犬さんも猿さんも本当は仲良しさんでしょう?」
 リュート片手に二人の間に入り、琉宇(ib1119)がたしなめる。
「犬? 猿??」
「犬猿の仲ってこと? 意味は微妙だけどよく知ってたわね、琉宇」
 そんな彼に近付いて頭を撫でれば思わず顔を赤らめる。
 そんな中一人ロビーで沈黙する者がいた。それは鴇ノ宮風葉(ia0799)だ。仲間を余所に瘴索結界を展開、身体を俄かに輝かせアヤカシがいないか反応をみる。

(「ここにはなし‥‥やっぱり扉の向こうだけか」)

 ふっと意識を戻して、狙いの扉に目を付ける。まずは左――自分のみで挑む。相談がきっかけだった‥‥けれど、彼女は別に構わないと思う。いや、むしろ願ったり叶ったりだ。
(「腹は据わった。それじゃ、いっちょアタシの力見せてやりますか」)
 彼女はそう心中で一人ごち、左の扉に手をかけた。
 すると、それに気付いて集まる手――。
「決めた事とは言え、あまり頑張り過ぎないで下さいね?」
 郁磨の言葉と見つめる仲間達に彼女は苦笑をするばかりだった。


●鬼の本体
 入ったと同時に、風葉の対応は早かった。
 鬼の姿を見るや否や、仲間が入り切る前にダッシュをかけ精霊砲を発射――鬼を吹き飛ばす。不意打ちに遭った鬼は何も出来ず、いとも容易く弾き飛ばされ、奥の壁に身を打ち付ける。本人レベル25、スキルレベル6の精霊砲は伊達ではない。風葉の三倍はあろうかという鬼が一瞬にして瘴気に返る。

「ここからが本番」

 光に潜むもの――彼女の判断は照明器具。鬼が復活する前にと、手早く破壊してゆく。
 そんな中、仲間も黙って見ていた訳ではなかった。郁磨は心眼を、空は瘴索結界を使い部屋内部を調査する。残りのメンバーも何かあったら飛び出せるようにと、臨戦態勢を崩さない。先発の報告によれば、再び鬼が出現するはずである。
 何処からともなく集まり出す瘴気‥‥空の結界によれば、瘴気は床から湧き出すように部屋へと流れ込んできているのだと言う。

「ん〜いまいち?」

 心眼で辺りを見回すが、他の何かがいる様子は無い様に思える。

(「ん、あれは‥‥」)

 風葉が部屋を縦横無尽に走る中、影に注意を払っていた沙良の目に止まったのは瘴気の集まるその場所だった。漏れ出た瘴気はさっき風葉が鬼を倒した場所に集まっているようだ。そして、その下には不審な影――瘴気の下に出来ている影は先程の鬼の形を残している。
「あれ、何かおかしくない?」
 それに気付いたらしい廻や琉宇もそこへと視線を落とす。
「風葉さん、照明および部屋自体は問題ないようです。やはり答えは‥‥」
「わかったわよっ!!」
 最後の照明を割り終える前に空の助言を聞き、風葉が踵を返す。
 だが、僅かに気付くのが遅かった。瘴気は形を成し、再び鬼が実体を構成――彼女に向って金棒を振り上げる。

「危ない!!」

 叫び補助に向う虎武太、けれどそれも間に合わない。風葉は覚悟する‥‥次くる筈の衝撃に。けれど、それは訪れなかった。その代わりに、響いたのは鬼揺るがす程の衝撃音。

「今だ、影を叩けっ!」

 それは、廻の声だった。さっきまでの口調とは違いたくましい男の声――。そう、彼の空気撃が鬼の金棒に当り、ひるませだのだ。
「どいつもこいつもお節介ねっ、全く!!」
 風葉はそう言いながらも仲間に感謝し、渾身の精霊砲を鬼の影に振り下ろす。
 影はないはずの口から甲高い悲鳴を上げ‥‥そして、消滅した。すると同時に、出来上がったばかりの鬼までも再び瘴気になって消える。残されたのはそれを見守る仲間と、部屋の最奥の壁が崩れて出て来た鏡。
「‥‥これでクリアってことかな?」
 その鏡を手に取り、虎武太が呟いた。


●スライムの末路
「おおお、すげ〜〜マジででかくなってくぞ」
 次に入った右の部屋――肥大するスライムを前に興味津々の虎武太である。手にした長槍で小突いている。
「あ、なんか面白そう‥‥」
 それに参戦したのは郁磨だった。彼も興味があるらしい。半透明なそれに近寄ると、中にある宝珠の欠片のようなものを確認する。

(「あれが核なのかなぁ〜」)

 徐々に肥大するスライム。時折、それが触手のように一時的に形を変えて攻撃してくるが、予測が安易な為回避するのはそう難しくない。危険なのは、身体の一部を分離させ、飛ばしてくる水玉だった。顔を狙って飛ばされてくるそれに、顔を覆われれば水中同様に呼吸を奪われてしまう。早く引き剥がさなければ、溺死も考えられた。
「さて、遊んでる場合じゃないですね。さっ、スライムを料理しますか〜」
 ぶにぶにした本体を確認して、彼らの作戦は至って簡単なものだった。
 凍らせる、あるいは炎で蒸発させる、それでもだめなら部屋から溢れさせてみるというものである。
「琉宇、松明〜〜」
 後方で松明を持っていた彼から火を受け取り、とりあえずそれを本体に投げつけてみる。すると、どうだろう。スライムの体はそれを必死で避けようと形を変え、回避行動を取る。
「やっぱり熱いのは嫌いみたいだ‥‥」
 その行動を見取って、にやりと含み笑いを浮かべる郁磨。それを聞き前に出たのは野鹿だった。けれど――、

「やってもうた‥‥」

 額に汗しつつ、口調さえ変わって野鹿の一言。
「どうかしたのですか?」
 疑問に思って尋ねる空に、野鹿がぼそりと呟いた。
「いや、ちょっとしたミスで‥‥炎魂縛武が使えない‥‥」
「ありゃりゃ」
 これは誰の言葉だったか。
「なら、私が参りましょう」
 既に部屋の三分の一まで肥大したスライムを前に空が言う。
「あ、けど一度振り出しに戻そうよ。その方が楽そうだし」
 琉宇のその言葉に、皆異論はなく一度部屋を出、そしてリスタート――。
 暫く待った後、中に入ればどういう仕組みか、スライムは樽サイズに体積を戻し、そこにある。後は、もう簡単だった。

「いきます、浄炎!!」

 空の炎がスライムを包むと、悲鳴を上げるように身体をぴょんぴょん跳ねさせ次第に体積を萎ませる。中で輝く宝珠だったが、炎の勢いに再生速度が間に合わないらしい。輝く光が徐々に弱まっているようだ。それを見取り蜜柑程のサイズになった時、止めとばかりにそれを踏みつけたのは郁磨だった。

   ぱきりっ

 すると、中にあった欠片は砕かれ、そこにはもう何も残らない。それと同時に、再び部屋最奥にある壁が崩れて、今度は小さな剣が現れる。
「これで二つ目‥‥ですね」
 琉宇がそれを取り出し、にこりと笑った。


●鎧戦

   ゴゴゴゴゴォ

 重い扉を押し開いて、中央の扉に入れば待ち構えているのは黒光りする重厚な造りの鎧武者――報告により、普通に攻撃しても意味がない事はわかっている。最後の砦とばかりに、その鎧がゆっくりと立ち上がり、皆を出迎える。手には幅0.5mはあると思しき巨大な剣。もう片方には重厚な盾が彼の守りを強化している。皆が入るのを待って、鎧はぐっと体勢を落とし、彼らの出方を見る。

「あれですね」

 そんな鎧を見て、琉宇が呟く。彼のいうあれとは、さっきのスライム同様鎧にあるという光るもの。依頼書によれば、身体のいくつかにそれが存在するらしい。琉宇は鎧頭部にあるそれを見取って言葉する。

「じゃあ、いくかっ」

 すると、さっきの汚名挽回とばかりに野鹿他残りのメンバーが動き出す。
 狙いはその光る石――まずは、いくつあるのか、何処にあるのかを確認する必要がある。
 その間、琉宇はその光る石の明滅に目を凝らす。
(「絶対何かあるはずなんだ‥‥規則的な何かが。それを見つけないと‥‥」)
 吟遊詩人の琉宇だからこそ、リズムやテンポの解読には自信がある。リュートで音を奏でながら、思考する。
「うぉりゃあ〜〜〜〜〜!!」
 そんな冷静な彼と違い、前衛班は全力で鎧とぶつかっていた。
 大きく槍を振り翳し、鎧の足に一撃を入れる虎武太。さすがに重量のある鎧はビクともしないが、別にそれを気にする彼ではない。目的は石の位置の把握――鎧の足元を見れば、そこには輝く石。もう片方にもそれは存在するようだ。

「やりぃ! 二つみっけ!!」

 実に嬉しそうに笑って、それを確認すると一旦その場から離脱する。それと入れ替わりに、前に出るは沙良だった。前の二戦ですでに緊張は解けている。実践の空気に触れて、心なしか度胸がついたのか。はたまた自分に眠っていた開拓者の本能がそうさせるのか、鎧の動きを注意深く見取り的確に捌いていく。動きが鈍いので、ある程度の攻撃なら彼女でも交わすことは可能だ。

「首にも一つ‥‥」

見上げた先に光を見つけ、彼女が言う。

「これで、四つ!」
「剣にもあるわっ」
「盾の裏側にも確認出来たわよんっ」

 風葉と廻の言葉に野鹿が纏めに入る。

「‥‥という事は、全部で六‥‥いや、肘にもあるみたいねっ。ってことは八つ!!」

 集まった開拓者らの数と一致する。

「仲間と共に打ち抜けば‥‥ねぇ。なるほど、うまく出来てる」

 七人の開拓者を相手にして、鎧はそれでも奮戦していた。崩されては戻り、戻されては崩れ‥‥それでも立ち上がる鎧。さすがに、ボディに傷は残ってしまっているが、痛みを感じない鎧だからこそそれが出来てしまうのだ。

「‥‥タイミングは計れましたか?」

 琉宇の元に戻って来た郁磨が問う。
「ん〜〜それがね。どうも特に時間は関係ないみたいなんだ」
「どういうことでしょうか?」
 その言葉に空も割って入る。

「点滅速度はずっと一定。鎧から一部が引き剥がされて戻るまでに約十秒。けどね、その間の点滅も変化なし‥‥って事は、点滅自体には規則性はないのだと思うよ」

「んじゃ、とにかく同時に叩けばいいじゃん! 駄目だったらまた考えればいいんだし」

 それにつられて残りのメンバーも琉宇の元に集まり出す。

「となると、誰が何処を狙うか‥‥ですね。どうしますか?」

 見つけた箇所は、頭・首・両肘に両足、そして剣と盾。鎧の身長は約3m。
 頭の部分の石を跳躍して狙い、なおかつタイミングを合わせるのは至難の業だ。
「とりあえず、一旦出よう」
 スライムの時と同様に、ここでは落ち着いて話が出来ない事を悟って、一行はロビーへと戻るのだった。


●再戦
 行ったり着たりの作業と連戦という事もあってか適度な疲労が彼らを蝕む。けれど、ここで弱音を吐く彼らではない。やることが決まった今、手早くそれを終わらせるのみである。

「いきますよっ、スプラッタノイズ!」

 入って早々琉宇のリュートから雑音を響かせれば、鎧に脳があったのかどうかはわからないが、それでも混乱したのか動きがさらに緩慢になる。そこへ空かさず、廻の骨法起承拳。

「倒れて頂くわよん」

 直接叩くなら空気撃よりこちらとばかりに脛を狙ってそれを打ち込む。

   ぐらりっ

 その作戦は半ば成功――片足を打ち抜かれ、鎧は轟音を立てて床に倒れる。

「わひゃあ、やっぱすげぇなっ」

 倒れくる鎧に思わず声を上げて、舞い上がる埃を避けながら虎武太が言う。

「準備はいいですか? みなさん」

 視界が埃に覆われる中、誰ともなく問えば――、

「OKですよ〜」
「こっちも大丈夫です」

 口々に返される言葉。しかし、困っている者が約二名。左手担当の風葉と盾担当の琉宇だ。盾を構えたまま倒れられ、手の甲は盾に隠される形になっていたし、盾は盾で表側が上になってしまっている為、裏側にある石をこのままでは打ち抜く事が出来ない。

「どうしよう〜〜」
「何言ってんのっ! ひっくり返すだけよっ」

 困惑する琉宇に檄を飛ばして、風葉が鎧の盾に手をかける。
 けれど、それは思いの他重かった。彼女らだけで返せる重さではないようだ。

「仕方がない、緊急事態よ。手伝って!!」

 周りにいる仲間に呼びかけて風葉が言う。その言葉を聞きつけて、飛び着たのは近くにいた虎武太と野鹿だった。

「うっし、せーのっ」

 声をかけて、鎧が起き上がる前に盾を腕から引き剥がす。その間、起き上がろうとする鎧に攻撃をしかけて、床に留める残りのメンバー達。四人掛かりでやっとそれを動かしたて、ひっくり返した時には皆汗だくだった。
 そして、合図を出して光る石をそれぞれの得物で同時に打ち抜く。
 ある者は己の拳で‥‥、またあるのもは使い慣れた槍で‥‥、慣れない武器を手に取ってその石を砕いた者もいた。一発で砕き切れはしなかったが、何度か試みて‥‥光を失った石はさらさらと砂のように砕けて消えてゆく。それと同時に鎧がぼろぼろと崩れ始める。さっきまであんなに硬かったのが嘘のようだ。

「終わった‥‥のね」

 皆、その場に座り込んで動かない。
 けれど、二部屋同様に攻略した者に贈られるそれが奥にあるのを見つけ、彼らは成功したのだと確信する。

「‥‥やりましたね、私達」

 試練の間と呼ばれた部屋の攻略。鎧の部屋で手に入れた勾玉をロビーに戻って、窪みにはめ込れば、ロビー中央の床が一部スライドし新たな道が出現する。

「この先何があるのでしょうか」

 ぽつりと呟く沙良に、

「それは次の人達に任せしましょう。とりあえず依頼完了ですしね」

 疲れたといわんばかりに、他の皆を代表して郁磨が言う。

「マジ! だらしないなぁ。アタシはまだまだいけるわよ」

 そういう風葉に苦笑する一行。
 かくて、試練の間が攻略された事はギルドに広まり、一部の間では彼らの事を一目置く開拓者が増えた‥‥かどうかは定かではない。