小鬼撃退大作戦
マスター名：奈華 綾里
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| ■オープニング本文 ここは草原のとある牧場―― 春の日差しが草を照らし、そこでは多くの動物が日々を過ごしている。 そんなのどかなこの場所に、少し前からアヤカシが出没し始めたから困ったものである。 始めは人を警戒してか月に一度程度だったのだが、一度の成功に味をしめ、今では週に一度、いや三日に一度のペースで出没が確認されている。 その相手とは‥‥小鬼だった。 小さいと言っても鬼は鬼。 一般人が相手にするには少々危険である。しかも、数が多かった。 知能は低いはずなのだが、まるでゲームを楽しむかのように、あの手この手で家畜小屋への侵入を試みてくる。しかも、一つの集団だけではないのだ。数グループに分かれ、時間差で場所を変えて襲ってくるとあってはたまったものではない。 「キリがないだよぉ〜〜」 外に放せば小鬼の餌食となる。外へも出られずに、狭い小屋暮らしを余儀なくされる牛や馬、鶏に羊―― その全ての生き物が‥‥元気を失くしていた。 「どうすればいいだよぉ」 このままでは家族同然の動物達が弱っていくばかりである。 商品として以前に、そんな彼らを見るのは牧場主としても気分のいいものではない。 それとは反対に、小鬼らは調子にのるばかり‥‥。 しかも、相手は学習しているらしかった。 昨日しかけた罠に、次の日はもう引っ掛からないのだ。 「たまったもんじゃねぇ〜だよぉ」 ギルドの窓口で、さっき牛を二頭売って作ったばかりのお金を抱えた牧場主が切実な眼差しで言う。 その表情には今までの苦労と、これ以上は奴らの好きにはさせないという決意が入り混じっている。 「わかりました。お引き受けしましょう」 窓口の女性はそれを見取って、快くその依頼を受理するのだった。 |
■参加者一覧
茉莉 瑠華（ia5329）18歳・女・シ 
秋月 紅夜（ia8314）16歳・女・陰 
オラース・カノーヴァ（ib0141）29歳・男・魔 
ワイズ・ナルター（ib0991）30歳・女・魔 
伏見 笙善（ib1365）22歳・男・志 
月川 悠妃（ib2074）19歳・女・サ 
有射 給（ib2150）29歳・男・弓 
卜部 美羽那（ib2231）10歳・女・陰
草薙 茜（ib2268）19歳・男・巫 
花三札・胡蝶（ib2293）18歳・女・巫 |
| ■リプレイ本文 ●十の色 今日は今日とて牧場は良い天気―― けれど、子鬼の出没で青々と茂った草原の上には普段居る筈の動物の姿はない。 そんな牧場を見つめる多くの瞳‥‥家畜小屋を狙って、様子を伺っている子鬼達。 だが、今日は思うようにはいかなかった。 ギルドから派遣されてきた開拓者はまさに十人十色――様々な個性の人物が揃っている。 「うふふふ‥‥罠はわたくしの得意分野ですわ」 不敵な笑みを浮かべたまま牧場を見回し、用意してきた撒菱をどこに仕掛けようかと模索するのは、巫女の花三札・胡蝶（ib2293）である。サイドポニーを揺らしながら、実に楽しそうだ。 そんな彼女と共に打ち合わせするのは陰陽師の秋月紅夜（ia8314）――彼女同様、紅夜も罠を持参・地形を確認、鳴子と足罠の設置場所を知り合いなのだろう弓術師の有射給（ib2150）を交えて相談している。 「小鬼退治か‥‥緊張するな。うまく守れればいいが」 「大丈夫よ。所詮は小鬼‥‥雑魚の気配だわ」 初依頼で不安を見せた給だったが、歳の離れた紅夜に諭され思わず苦笑する。 「あぁ、ちょっとこれを」 設置手伝いに現れたシノビの茉莉瑠華（ia5329）を呼び止めて、紅夜が中型の水瓶を手渡す。 「え？ 何これっ？」 「それを魔術師に渡しておいてくれ」 「魔術師さん？」 水瓶など何に使うのかと首を傾げる瑠華に、 「呼んだか？」 ――と答えて現れたのは、頭にムーンティアラをのせた一風変わった魔術師オラース・カノーヴィ（ib0141）だ。愛想のいい笑顔を見せて、皆のもとに現れる。 「この水瓶、オラースさんにって‥‥」 「水瓶？ あぁ、それはおそらくセイド用だ‥‥俺じゃなくあの人に渡すべきだと思う。俺はそれを使えない」 ぱたぱたと手を振ってそう言うと、彼はもう一人の魔術師ワイズ・ナルター（ib0991）を呼び寄せる。 「わたくしに何か用かしら？」 手には何やら動物の腸らしきものを持ったまま、彼女が問う。 「紅夜からの贈り物だ。水瓶‥‥おまえ、セイド使えるんだろう？」 「ええ、一応」 その問いに答えるナルター。 「セイドとは一体どういった技で？」 すると今度は、飄々とした面持ちの元兵士――今は志士の伏見笙善（ib1365）が煙管片手に興味津々に尋ねた。 セイド――魔術師の持つスキルの一つで、液体を痺れ薬に変える事のできる力である。 「ほうほう、それは面白いですね〜」 「けど、これには問題があるわ」 ナルターが真剣な表情のまま続ける。 「このスキルは相手がその液体を飲んでこそ意味があるのよ。水なんてはってても、小鬼が飲みに来るとは思えない」 「ん〜〜そうですねぇ、人なら兎も角‥‥アヤカシ相手では」 「なら、血はどうじゃ？ アヤカシは血を啜ると聞いた事があるぞよ」 黙り込んでしまった皆に代わって、言葉したのは内容とはうらはらに可愛らしい少女だった。 「おい、おまえ何歳だ？」 その手に煙管がある事を見取って、オラースが問う。 「なんじゃ、おぬし‥‥わしはこう見えても華の乙女・五十八じゃぞ」 『えぇーーーーーーーーー！！！！！！！！』 少女・ト部美羽那（ib2231）の言葉に一同驚愕の声を上げる。 身長九十九ｃｍ、愛らしい瞳につやつやの肌は誰がどうみても少女のそれと変わらない。 「まっまさか‥‥ありえない‥‥」 オラースが絞るように言葉する。 「あひゃひゃひゃひゃ、わしに見惚れたか、おぬし。無理もない‥‥わしが美し過ぎるのが罪なのじゃ」 上機嫌でそういうと、煙管の煙を燻らし小屋の方へと去っていく。 『世の中、不思議な事もあるものだ‥‥』 誰もがそう思わずにはいられなかった。 「ん？ さっきの声、何だったのかしら？」 そんな一行とは別の所で、何も知らずに作業を続けているのはサムライの月川悠妃（ib2074）と泰拳士の草薙茜（ib2268）だった。二人は小屋の遥か先、柵付近の土をひたすら掘り返している。 「罠といえばやっぱりこれよね」 小鬼がかかる姿を思い浮かべれば、この重労働も苦ではない。 「楽しそうだな。俺はさっき小屋を見て思ったよ‥‥皆、衰弱していた。無力な動物達を殺める等許せないと‥‥」 「真面目ね、あなた」 辛辣な表情を見せた茜に、素っ気無く返す悠妃。 （「私は楽しければいいのよねぇ〜」） 人それぞれ――思いは違えど、目的を同じくして明日、小鬼撃退の幕が切って落とされる。 ●罠・罠・罠 「来たか」 小屋の上から辺りを見回すは、給と紅夜のペアである。 牧場をぐるっと見渡す事の出来るここから目視で捕らえた小鬼の数はたった五匹。まだいるだろうが、今わかるのはそれだけである。 彼らが仕掛けた罠は数知れず――。柵と小屋周辺には落とし穴‥‥それもただの落とし穴ではない。牧場主も一度やっていたと聞いて、更に発展させている。 柵の下を潜って越えた先、そこに第一のトラップ。 ギャーー ギャーー 「やりましたわ！」 足元に撒かれた撒菱に気付かずに、踏み込んだ小鬼が悲鳴を上げるのを物陰から見ていたのは、この罠の設置者の胡蝶である。思わずガッツポーズを決めている。そして、撒菱地帯を抜けようと急ぐ小鬼に第二のトラップ。地面を確認する余裕など在る筈もなく、その先に待つ落とし穴へと面白いように落ちてゆく。 第一陣の五匹の小鬼は早くもここで戦線離脱―― 第二陣の出現を待つ形となる。 「なになに、つまんな〜い」 あっという間にいなくなった小鬼達に瑠華が後方でぼやく。 「まぁまぁ、そう言わないの。どうせ話からしてまだいるはずよ」 地上での撃退班は全部で六名。 ナルター、悠妃、美羽那に茜が草原を。 小屋付近をオラースと瑠華が固めている。 万が一に備えて、巡回・回復に胡蝶が、小屋内には笙善が待機中だ。 「第二陣‥‥左右から来たぞ！」 ――と、息ついていたメンバーに給の言葉が飛ぶ。さっきのそれを見ていたのだろう‥‥二つの群れが牧場を挟む形で現れ、柵を飛び越える。小さいながらも驚異の跳躍を見せて、柵付近の罠を警戒回避、奥に着地する。 「もう学習したのか」 それを見取った茜は美羽那と、ナルターは悠妃と共に侵入を開始した二つの群れの迎撃に入る。 「私達も応戦するわよ！」 「了解だ」 屋根の二人も両方に分れて、遠距離からサポートに入るのだった。 ●連携戦 第二陣の小鬼の数は各十匹程度―― 強敵ではないが、小回りの利く相手は実に厄介である。 一箇所に集められればいいのだが、それもなかなかうまくいかない。 「さぁさぁ、行っくよー！ 塵になりたい子からかかってきなさい！！」 小屋を目指して走り抜けようとする小鬼に向って、悠妃が咆哮する。 すると、それに反応してちらほら動きを止める小鬼達。取り溢した小鬼にはナルターが対応する。遠くにいる小鬼目掛けて、彼女はあるものを投げ放つ。 「おいたはダメよ、下がりなさい！！」 ばしゃん それは彼女発案の水玉だった。 準備の日に手にしていた動物の腸――それは、これを作る為だったのだ。 だが、それを当てた所で小鬼が怯む筈がない。こちらに興味を惹かす為‥‥そのつもりだったのだが、思わぬ効果を発揮する。それは―― 「サンダー！！」 小屋付近からは動かずにそれを見ていたオラース。 機転を利かせたか、はたまた偶然か‥‥雷を落せば、あっという間に丸焦げ小鬼の完成である。咆哮で動きを止めた小鬼を巻き込んで、数匹の小鬼が瘴気に返る。 それをも掻い潜って小屋に辿り着きかけたものは、給の狙射が撃ち落とす。加えて、窓付近には跳びつけないようぬるねばの液体を塗ってある。まさに完璧な連携プレイ――数は徐々に減っていく。 一方逆サイドに目をむければ、そちらも奮戦しているようだった。 「後少し‥‥もう少し‥‥きた、食らいつけ！」 小屋の上から地縛霊を張って待ち構えていたのは紅夜だ。 接近した小鬼に絶妙なタイミングでスキルを発動させれば、大鮫の口が小鬼を捕らえ爆発。周辺の小鬼を巻き込み吹き飛ばしてゆく。その飛ばされた小鬼目掛けて、すかさず茜が疾風脚――勢いも相まってその威力は凄まじく、飛ばされた先に他の子鬼がいたなら、巻き込んで同時に消滅させられただろう。 「うむむ、おぬし達はわしの好みではないのじゃ」 そう言って、斬撃符と猫人形で攻撃するのは美羽那だ。茜と紅夜の捉え切れなかった小鬼に狙いを定め、確実に仕留めてゆく。そこで仕留め損なっても最後の砦――。 「逃がすかっ、そこだっ♪」 柔軟に対応するのはシノビならではといったところか、瑠華が打剣を決めてゆく。 「所詮、小鬼。頭が回らないか」 思った程の驚異ではない。 とらばさみもランダム配置すれば、それにかかった奴もいる。 （「案外楽に終われそうだな‥‥」） そう思った給だったが、小鬼の波はまだ止まらなかった。 ●小屋の中 「ん〜〜暇ですねぇ」 外の気配を察して怯える動物達を一所に集めて宥めながら、小屋の中にいる笙善は暇を持て余していた。侵入を防ぐ為、窓は一時的に封鎖――外の様子が見えない。出入り口となる扉も鍵をかけてある。中にいるのは牛や馬と自分だけ――。外は騒がしい様だから、きっと小鬼は襲ってきているのだろう。けれど、外班が頑張っているらしく、ここまで来る兵（つわもの）はいないようだ。 「こんな事でしたら、ミーも外に行けば良かったですねぇ〜」 馬を優しく撫でながら、彼が呟く。 「笙善さん、聞えますか？」 すると、突然外から胡蝶の声がし、はっと顔を上げる。 「胡蝶殿、どうかしましたか？」 外の緊迫とは裏腹に、笙善は至って冷静である。 「今、また新手が現れまして‥‥今度はバラバラなんです。四方八方から一匹ずつ、念の為、用心して下さい」 そう告げて駆け出す胡蝶。傷を負っている仲間の下に走る。 大きな傷は無いものの、長引く戦闘は体力を奪う。 「怪我は残しませんわ。もうひとふん張り‥‥全力で戦って下さいませ！」 そう言って、彼女は癒しの風・神風恩寵を流す。 ドンッ そんな折、小屋にもちょっとした異変が起きていた。 小屋周辺の落とし穴をうまく通過して、小屋の壁まで辿り着いた小鬼が、窓から入れない事を悟って、体当たりを仕掛けてきたのだ。 「なかなか頑張る子も居るもんだねぇ〜」 その音を聞きつけて、笙善はいつでも得物を抜けるよう構えて待つ。 音のするのは二箇所‥‥一人でも十分対処出来そうだ。 ひひぃ〜〜ん 「ん？」 けれど、予想に反して馬の戦慄きは違うところから起こった。 不審に思いそこへ駆け寄れば、地面より顔を出す一匹の小鬼―― 身体はまだ土の中である。どうやらモグラのように土を掘って来たようだ。 「おやおや考えたねぇ〜けど、残念。見つけちゃいました〜〜」 頭だけの小鬼に刀を振り下ろし一刀両断。穴にはまったままの小鬼はあっさりと消滅し、後に残るは小さな穴。 「ん〜、困りましたねぇ‥‥またここを使って入って来ないとも限らない‥‥あぁ、そうだ。あれを使いましょう」 ぽんっと手のひらを打って、何か閃いたらしい笙善は辺りを見回す。 そして、持参したのはあの水瓶だった。 結局、セイド作戦は断念‥‥使われなくなった水瓶が残されている。 「うん、これでいい」 穴を塞ぐようにその水瓶を下してみれば、丁度良い大きさでありすっぽりはまる。 「うん、これで後続が来るのも防げるし、この瓶も無駄にならない。ナイスアイデアですねぇ」 急場凌ぎではあるが、穴を放置しているよりはマシである。 襲撃が終了するまで‥‥水を流し込んでおけば、栓の役目は十分勤まる。 相変わらず壁を打つ音が続く為、再び警戒に入った笙善だったが‥‥そう簡単に穴が開けられるはずもなく、その後中へ辿り着く小鬼の姿はなかった。 ●課題、そして 「お疲れ様でしただ」 第三陣の襲撃後、小鬼が現れる事はなかった。 時間にしてたった数十分――時間差があったので、もう少しかかったかもしれないが、数にして三十はいただろうか。そんな数の小鬼相手に開拓者らは見事討ち取り、殲滅を成功させたのである。 「何が原因かはわからなかったが、とりあえず暫くは大丈夫だろう」 取り溢しはないかと夕方一人辺りを調査した茜だったが、特に収穫も無く結果を伝える。 「いないと思ったら、そんな事してたんですかっ」 それを聞き、驚きと尊敬の視線を送ったのは瑠華だ。 「ま、これ以上は調査の専門家を呼ぶことね」 実は彼女も密かに調査していたらしいが、こちらも結果は同じようだ。 「唯一気になったとすれば‥‥」 『洞窟‥‥』 茜と紅夜の声がハモった。 牧場は少し高い位置にあるのだが、そこに向う山道にいくつかの洞窟が存在するのだ。 「わかりましただ。一応、役所に報告しておきますだぁ」 牧場主はそう言って、皆に微笑む。 明日は罠の撤去と後始末が待っている。 そんな彼らにせめてもと、牧場主は今晩ささやかな宴を催したのだ。 彼の育てた鶏かどうかは不明だが、丸々一匹を焼いて作った鶏の丸焼きは絶品である。そんな料理に舌鼓を打ちながら、会話が弾む。 「あの牧場主殿、折り入ってお願いがあるのですが‥‥」 少し恥ずかしげに、笙善が言う。 「なんですだ？」 「いや〜、ミーお宅のお馬殿に乗ってみたいのです。毛並みも綺麗で愛らしいお姿。ダメですか？」 懇願するようにそういうと、なんだそうなことかと快諾する主。 作業が終わった後、時間を取ってくれるようだ。何気にその計らいに皆が喜ぶ。 そして翌朝―― 元気を取り戻した動物達を前に各々自分の時間を過ごす。 ある者は煙管片手に一服を決め込み、そしてある者は空を見上げ未来を見る。 （「変化するものを見るのは面白い‥‥これから彼らはどう変化していく？」） 今回の依頼が初陣だったものも多いと聞く。そんな彼らを見つめ微笑する男。 一方では、密かに羊を抱きしめて喜ぶ姿があったりと様々で‥‥。 それぞれの収穫を胸に彼らは牧場を後にする‥‥そう、次の依頼を求めて――。 |
