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■オープニング本文 ●被った料理 「いやっ! うちの料理が一番だ!!」 「何言ってるんだか。うちのに決まってるだろう」 通りを挟んで立ち並ぶ店先にて――二人の男が怒鳴りあっている。 ここは飲食店が立ち並ぶ激戦区―― 武闘大会が開催中とあって、各地から見物客やら選手やらが集まり、通りを賑わせている。 そして、この期を逃すまいと店主達は意気込んでいた。一人でも多くの客を呼び込む為、とっておきの料理を目玉に客を誘う。 けれど、その目玉料理が被ってしまったから一大事である。 二人の手には、それぞれの作ったたこ焼きが皿に乗せられている。 「まぁまぁ、お二人さん‥‥そ?ネ喧嘩しなさんなって‥‥折角だ。 それも一つ、見世物にしてみる気はねぇ〜かい?」 『みせもの?』 そう言って二人の口論に割って入ったのは、ここの飲食店街の組合長――その人である。 「たこ焼きは確かにうまい。しかしだ‥‥どうせやるなら新しい屋台フードを打ち出すってのはどうだ? 判定は両方の店の料理を食ってもらって決めようじゃないか」 けらけらと笑いながら、組合長は続ける。 「それに、勝った方には大会での独占販売を許可する‥‥ 他の店にも作り方を伝授して、ここの飲食店街の名物として売り込んでやる。 どうだい、悪い話じゃねぇ〜だろう?」 今度はにやりと笑い、二人の様子を伺っている。 「なるほど‥‥私はかまわないが、あちらがどういうか‥‥」 「こっちだって、問題ねぇ!! やってやろうじゃねぇかっ!」 二人の店主が同意し、話は一気に展開する。 「お二人さんは蛸を大量に仕入れたんだってな。なら、それを使って勝負といくかっ!」 屋台フード開発バトル・蛸の陣――ここにまた一つ、新たな戦いの幕が切って落とされるだった。 ●きっかけ エンさん編 それは、大会前のある日の事―― 大蛸が揚がったととある港から一報を受けて、俺は急ぐ。 そこで目にしたのは、人の体をゆうに超えた巨大な蛸。 一匹あればあらゆる蛸料理を作っても余ってしまうほどの大きさである。 (「これはいけるぜ」) 俺はそう一人ごち、その蛸を安く仕入れる。 そして、作り出したのは祭りの屋台で定番のアレだった。 「こちらが先だったんだ、そちらが退くべきだろう」 俺の前に立ってクールにしゃべるこの男は、向かいの店の店主にして、俺のライバルのケンさんである。 いつも澄ました顔で、俺を見下したような態度が気に入らない。 料理人なんてものは、体力がものをいう。 多くの人に料理を提供するには、素早さも必要だが、結局のところ食材を洗って切って調理する。これに尽きる。 と、いう事はそれを素早くこなす為には体力がいるってことだ。なのに、あいつは何もわかっちゃいない。 『なんだ、その腕は。まるで大工だな』 あいつが言った言葉――俺の修行の成果を、あいつはそう嘲笑ったのだ。 「くそぉ、負けねぇ〜」 俺は、そう決意し調理場に入る。 「当日は、人も多くなる‥‥俺だけの考えじゃああいつをぎゃふんと言わせる事はできねぇかもしれねぇ。 ここは、開拓者に知恵を借りるとするかっ」 俺はそう考えて、ギルドに依頼を出すことにするのだった。 |
■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
高倉八十八彦(ia0927)
13歳・男・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
レオ・リベルタ(ia3842)
14歳・男・泰
茉莉 瑠華(ia5329)
18歳・女・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
倭文(ib1748)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●エンの厨房 燃え上がる炎に鳴り響く軽快なリズム―― 熱気に満ちたここは、パワー料理人・エンの店の厨房である。 格闘家を思わせるその巨体で、鉄鍋を軽々と操り豪快かつ素早い動きで、ただひたすらに調理している。 「あの人がエンさんか」 厨房を覗き込んで、今回の助っ人の一人――天ヶ瀬焔騎(ia8250)が言う。彼もまた炎を操るのには自信があった。紅蓮紅葉を駆使して、今回は客の目を惹こうと考えている。 「おっ、あんたらがギルドから来た人か! わりぃが、もうちっと待ってくれ!」 作業から手を離さずに、エンが呼びかける。 「大丈夫じゃけぇ‥‥気にせんでええよ」 そこへ声をかけたのは、高倉は八十八彦(ia0927)だった。 彼ぱっと見、女性のような顔立ちをしてはいるが、その実は男だったりする。 「おぉ!! ありがてぇ」 それに気付かずに、エンは嬉しそうだ。 「では、今のうちに二品に絞り込みましょうか」 二つの頭のお団子がポイントの紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が皆を見回し提案する。今回は、蛸を作った創作屋台料理。皆、なにかしらの考えがあって参加しているはずだ。 「何か提案はありますか?」 早速、部屋の隅に集まって相談し始めたのだが、一向に話は進まない。 「いやっ、私は駄目なんだ‥‥私の料理は殺人兵器と言われたからな。私は捌くの専門でお手伝いさせて頂く」 困った様子でそう答えたのは、皇りょう(ia1673)である。 「あっじゃあ、ボクとやろうよっ。ボクも捌くのには自信があるんだっ」 にこりと笑って、レオ・リベルタ(ia3842)――彼は、この手のお祭り事が好きなようで一番張り切っている。 「ねぇねぇ、どんな技が使えるのかな? どうせならボクとカッコよく連携しようよっ。きっとみんな喜ぶよっ」 屈託のない笑顔で、りょうの手を引き彼女を促す。 「えっえぇ?!」 やたらと明るいレオのテンションにりょうはたじたじだ。 「あぁ〜お二人さん。とりあえず何を作るか‥‥それが先決じゃないかな?」 そんな二人の遣り取りに、やんわり割って入って焔騎が苦笑する。 「とりあえず私は店も持ってますし、何でも出来ますが‥‥やっぱり思いつくのは炒飯とか焼きそばでしょうか?」 そこに紗耶香の軌道修正――皆の視線が変化する。 「確かに。それなら誰でも好きそうだし、いいと思うよ」 それに賛同、言葉したのは茉莉瑠華(ia5329)だ。 「ですが、それでは珍しさにかけるのでは…?」 突如現れて、付け加えたのは人嫌いを克服したらしい水津(ia2177)だった。今は、焔に魅せられているらしく、焔を操る焔騎の事を義兄と慕っているらしい。 「なら、こういうのはどうじゃろう? 小麦粉で薄皮を作ってそれに具を乗せて巻くのじゃけん。具はさっき紗耶香が言ったものでもええけん。色々作って適当に巻けば、楽しめそうじゃろう?」 「おおっ、なるほど。それはいいねっ」 「冴えてますな、八十八彦殿」 「賛成だな」 彼女の意見に周囲も乗り気である。 「でしたら、私は薬味の調達を‥‥。いい薬味に心当たりがありますので‥‥味付けも色々あった方がいいですよね‥‥義兄さん、調達お手伝い頂けますか‥‥」 「あぁ、いい‥‥」 「おう、またせたなっ。俺の自信作の蛸炒飯なんだが‥‥折角来たんだ、まずは食ってくれ」 ――と、気付けば店の方が終わったらしいエンが大皿片手に顔を出す。 「今回はなんだ‥‥宜しく頼むぜっ」 エンの爽やかな笑顔に皆こくりと頷いて、運ばれてきた炒飯を取り分け口にすれば確かな旨さが口に広がる。 「うんっ、コレで決まりだねっ!」 その味に確信し、エンチームの方針はまとまっていくのだった。 ●決戦、魅せる技 あっという間に時は過ぎて、気付けば勝負当日である。 「特報―っ、絶対に美味しい! たこ料理が食べられちゃうお祭り、開催するよ―っ♪」 毎日のように、そう言って宣伝していた瑠華――今日で最後の呼び込みになるとばかりに、懸命に声を張り上げ告知する。まだ、勝負は開始されていないというのに、会場には今か今かと待ち侘びる人々でごった返している。 「予想以上の人出、いいねぇ」 組合長はそれを見て満足げだ。 そしてエンチームに視線を向ければ、衣装を揃えてエンの店の黒い調理服の開拓者が計四名。一人はなぜだかほっとした様子だ。 「さて、どうなることやら」 組合長が呟くと同時に、銅鑼の音が木霊する。それが試合開始の合図だった。 そして、それを聞き先手に出たのはエンチーム。 「いきますよっ、レオ殿っ」 「いいよ、りょうちゃん」 掛け声一発。りょうの手には大きな蛸――それを合図と共に天高く放り投げれば、蛸は勢いよく足を広げ舞い上がる。そして、そこにレオが跳躍し、 「秘儀っ! 空中殺法蛸の舞いっ!!」 持参した太刀『鉄扇』を両手に構え瞬く間に八本の足を細切れにしていく。それを残さず華麗に受け止めたのはエンだ。 「ナイスキャッチだよっ」 そんな彼にウインクを飛ばして、次はりょうのターン。 まだ宙を舞う残った部位――蛸の頭に向けて意識を集中。 「いきますっ、格子切り乱舞っ!!」 『おおっ!!』 それを見て会場がどよめいた。一瞬何が起こったのか、わからなかったらしい。右手を掲げたかと思うと、次の瞬間には全てが終わっていた。レオと違って、更に小さく切られた蛸に今度は炎が飛び掛る‥‥はずだった。けれど、出番だというのに、焔騎は動かない。 「‥‥焔騎殿?」 予定ならここで、彼の紅蓮紅葉が蛸をローストするはず‥‥。 「‥‥まさか義兄、活性化し忘れて‥‥」 裏方に回っていた水津の予感は的中していた。立ち尽くす焔騎の額に汗が流れる。 (「まさか、まさかの‥‥ええぃ、ままよっ!」) このままではいけないと、焔騎は勝負に出た。スキルは使えないが、炎は健在である。ならば、 「咲きほこれっ、炎桜花っ!!」 密かに終わった後の宴会用に持参していた酒『桜花』を蛸に降りかけコンロから火を借り、一閃すれば酒のかかった蛸は一瞬ぼっと火を放つ。常人には到底出来ない技だった。 しかし、彼は開拓者――なんとか成功させ、安堵する暇もなく次の作業に入る。 「た‥‥助かった‥‥」 蛸を生地に練り込みながら焔騎がぼそり呟く。 次々に披露される度肝を抜いたパフォーマンスに見入っていたお客達であるが、思い出したようにぽつりぽつりと拍手が重なり、会場を包み込んでゆく。 「終わりよければ全てよし‥‥ですね‥‥」 そっと調理場の材料の補充に現れた水津が彼に言った一言。 一方ケンチームはというと、大きな動きはないが確実に作業をこなしている様で、適材適所に調理に無駄がない。 「ん? あれ何だろう?」 呼び込みの合間に、じっとケンチームを観察していた瑠華があるものを見つけ首を傾げる。それは、蛸の形をした焼き型だった。一体何が作られるのか? 彼女には予想がつかない。それもそのはず、その焼き物はケンチームが発案した新しい料理の道具であったのだから‥‥。 ●嵐の実食会場 連携作業で蛸炒飯とタコクレープを作り上げてゆくエンチーム。 出来立てを提供する為、始終鍋は振り続けである。けれど、そこは皆心得ていた。 紗耶香に至っては全く問題ないようだ。 「押さないで下さいっ! ちゃんと皆様の分はありますからね」 調理の手を止めないで、彼女が叫ぶ。 卵を炒めた鍋に手際よく冷ましたご飯を入れ、一気に炒めればぱらぱらご飯の完成。そこに、メインの蛸を投入――検討した結果、食感を考慮。茹蛸と生蛸の両方をバランスよく投入して炒める形となった。そして、最後に味付けは‥‥大会の為に取り寄せたジルベリアの黒のソース。ご飯に絡ませて熱を通せば香ばしい匂いが食欲を誘う。 「さぁさ、皆寄ってってや。トッピングも色々あるじゃろう。好きなものを乗せて巻くとええ。焼きそばなんかもおすすめじゃ。餡かけ、天かす他にも色々‥‥エンのあにさんは気前がええけえ、ここ流に作り直したるって」 クレープというのだから、甘味食材も用意している。けれど、需要は少ないようだ。 「まだかよ〜、俺あの海老入れたいんだけど」 多くの客が集まって、店先には長蛇の列が出来始めている。 「少々お待ちを‥‥あ、お客さん『すりだね』いかがです‥‥? なかなか刺激的ですよ‥‥」 減ってきている薬味を補充に向いつつ、そう言って水津は郷土の薬味を宣伝して回っているようだ。 「へぇ〜面白そうだな。少し加えてみるか」 興味本位でそれを手にした若者が、少量まぶして口に運べば徐々に顔色が変わってゆく。 「かっ辛れぇ〜〜〜‥‥けど、なんか癖にるかも」 顔を真っ赤にしてはいるが、また一口と食が進んでいるのは確かである。 「ほほぅ、ラー油に胡麻に山椒、鷹の爪が入っているとみた」 ――と、いつの間にやら蛸クレープを片手に現れたのは神出鬼没の組合長。 辛さをものともせず、平然と食している。 「柑橘系の皮も入れてみました‥‥味噌のもあります‥‥」 「なるほど、通りで爽やかな訳だ」 「あの人、何者なのかなぁ〜??」 一人納得して去っていく彼を見送りながら、瑠華がそう呟く。 彼女の手には、ケンチームの蛸飯とじゃがたこがちゃっかり握られている。 「あの、それ‥‥」 「あ、おいしそうでしょう。敵状視察ってやつだよ」 幸せげにそれを頬張る彼女に、そっとすりだねをまぶす水津。 「私の薬味もどうぞ‥‥」 「うん、ありがと‥‥ってからい〜〜〜」 そんな彼女はさておいて――エンチームの前には彼らの料理を口にする為、並ぶ人々はなかなか後を絶たなかった。 ●決着の時 「さて、それでは結果発表です」 大きなドラムロールと共に、会場が一気に静まり変える。先ほどまで賑わいが嘘のようだ。そして音が止んだ時、勝利を告げられたのは―――ケンチームだった。 その結果を見取って、エンが唇を噛み締め拳を震わせる。俯いて表情は見えないが、相当悔しいようだ。 「どちらも甲乙付け難い、絶品な料理だったと俺は思う」 試食を繰り返していた組合長――客になり代わり総評を開始する。 「まずは、エンチーム‥‥蛸炒飯、これは本当にうまかった。噛み切りやすいよう蛸には切込みが入っていたし、塩加減も絶妙‥‥ぱらぱらご飯とふわふわの卵、そして蛸の食感。口の中でそれぞれの味を楽しめる一品に仕上がっていた。次に、クレープとやらは色々工夫が凝らされていた。それぞれが好きなものを選んで巻いて食えるし、何より味が多種多様だ。餡も三種類と豊富‥‥薬味にしたって、めずらしい『すりだね』を持ってくる辺り恐れ入ったよ」 そこで一息置いて、今度は視線をケンの方へ送る。 「そしてケンチーム。こちらは一般的な料理でありながら工夫が素晴らしかった。蛸飯にぎりがそうだ。普通なら蛸飯で終わるものをおにぎりにする事によってまた違った食べ方を開拓。蛸の旨味を生かす為、中の具は控えめな山葵菜や煮トマトを選び、極力蛸の味で勝負に出ていた頑張りは天晴れだ。そしてもう一つのじゃがたこ――これはアイデアが面白い。お好みともコロッケとも違うこの味わい‥‥表面のカリッカリに焼かれた芋の香ばしさもさることながら、中の蛸と芋の味わい‥‥ほろりとした中に弾力のある蛸がアクセントになって実に面白い」 さすがにこの激戦区の組合長を務めているだけはある。味についての感想が一般人のそれとはどこか違う。 「なら、なぜ俺は」 まだ納得いかないようで、エンが組合長に問う。 「それは‥‥手軽さだよ、エン」 「なっ!!」 その言葉に、エンが思わず反応する。 「そう、これは屋台フード勝負――うまければいいというものではない。確かにバリエーションが多いし、一見すればエン‥‥君の所の料理の方がお得感もありいいように思える。しかし、そうした事によって店先はどうなっていたか‥‥君は覚えているか?」 さっきの配布時を思い出し、瑠華がはっとする。 配布担当が少なかった事で窓口となった店先はてんてこ舞い。一気に押し寄せたお客達の対応が遅れていた。それに、トッピングを選ぶ際にも長い列が出来ていたのだ。 「屋台フードとは、食べ歩きは勿論の事‥‥早く買えるというのも重要だ。それに、大会会場で歩き売りする場合、君達のは少し無理がある。その点においてケンチームのモノはどちらも持ち運びが出来て、おなかつ食べやすかった。決まった味を提供する事で一見自由がないようだが、おにぎりは二種の味を用意していたし、じゃがたこに関してはそのものがめずらしいから単品勝負が可能。そして、もう一つ加えるなら幅広い年齢にうける味だという事だ」 おにぎりと炒飯。これに関してはまぁ大差ないだろうが、クレープとじゃがたこはどうだろう。手間がかかるクレープは、年配の人間には頼み辛くはないだろうか。 「成程‥‥俺の負けだ」 エンはようやく納得したようだった。そんな彼を見て、ケンが動く。 「いや、おまえは頑張ったよ。もしこれが屋台対決でなかったら‥‥おまえの勝ちだったかもしれない」 いつもは相手を褒めたりしないケンであるが、今回ばかりは違ったようで正直な感想を述べている。けれど、この後がいけなかった。 「いやぁ〜〜そうかそうか。俺を認めるかっ! やっと俺のすごさがわかってきたって事だなぁ」 さっきまでの落ち込みムードは何処へやら、がらりと表情を変えて豪快に笑いケンに近付くと、あろうことか彼の肩を思い切り叩き始める。その威力はケンのこめかみの青筋が物語っていた。 「‥‥‥調子にのるなよ、エン‥‥別に私はおまえの事を認めたのではない」 「あぁん?? どういうことだよ!?」 「私はおまえのチームの料理を褒めただけだ。おまえの技術などあってないようなもんだろう? さっきだってなんだ、あの鍋の振りかたはっ! 乱暴にも程がある‥‥あれでは、ただの大道芸にすぎんっ!!」 エンの手を強引に払い、きっと睨む形で彼と対峙し言う。 「あぁん‥‥今、何つった? 技術はあってないようなものだと‥‥大道芸? 聞き捨てなんねぇなぁ!!」 それに食って掛かるように、エンも再びケンに敵意を見せ始める。 「まぁまぁ落ち着いて、お二人さん」 開拓者の誰かが止めに入ろうとしたが、二人の間を流れる空気は、割って入る事を許さない。 「よく飽きないね、あの二人」 「まぁ、ええじゃろう」 そんな彼らを見つめて、それぞれの開拓者と集まった誰もが笑う。 『こういう活気は悪くねぇ』 組合長はそう一人ごち、徐に腰を上げて――。 「あぁ〜お集まりの皆さん。今日は巨勢王の誕生日‥‥実はこの催しの事を聞きつけて、巨勢王様から祝いの酒と肉が送られてきているんだが、皆呑むか?」 『わぁーーーー!!!!』 組合長の一言に会場中から歓声が上がる。 こうして、勝負は宴会へと変貌を遂げるのだった。 |