【四月】魔法の急須
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/26 03:26



■オープニング本文

 おいらは猫又である。名前はポチ。
 ある日目覚めると、とんでもない事になっていた。


「ご主人、ご主人、ご主人〜〜〜!!」
 まごつきながらもおいらはしっかりした足取りで、ご主人の寝室へ向かう。
 けれど、そこにご主人はいなかった。
 いつもならまだ布団の中にいるはずの時間なのに‥‥布団は思いのほか冷たい。
 その代わりに、自画像と思しき絵が一枚が残されているだけだ。
 どこに行ったのかと、おいらは外へと駆け出す。
 すると、外では似たような状況に陥った仲間の姿があった。
 おいらと同じように御主人を探す朋友達――。
「おいっ! おまえもかわんっ!!」
 近くに住む忍犬の柴虎が、おいらを見つけ話かける。
「にゃにゃにゃ〜〜おまえもかにゃ!?」
 本来、人語を話せるのは、猫又ともふらと人妖のみ。
 しかし、今は異常事態だった。
 どこが異常事態かといえば――柴虎は人の形をしているのだ。
 おいらもなぜだか二足歩行をして、人間の姿をしている。(耳と尻尾はそのままのようだが)
 一体、何が起こったのか? 全く訳がわからにゃい。
「そっちのご主人もいにゃいのかにゃ?」
 慣れない身体に戸惑いながらも、この事態を何とかすべく聞いてみる。
「そうだわんっ。これがあるだけだったわんっ」
 柴虎が取り出したその絵を見て、おいらははっとした。
 さっきご主人の布団の上にあった一枚の絵とよく似ているのだ。

「ふははははは〜、よく聞け。我が同志達よ」

 すると、突然何処からともなくえらそうな声が響き渡る。
 その声につられて空を見上げれば、そこには一人の筋肉質の男がいた。
 背中には強靭な龍のものと思しき翼が生えている。

「我が名は破王。全ての開拓者は今、紙となった‥‥我らを虐げし者はもういない。朋友達よ、喜び歌うがいい。そして、我を崇めよ‥‥我は朋友の神なり!」

 破王はそう言うと、ごそごそと何かを取り出す。
 それは‥‥なぜだか古びた急須だった。

「にゃんで急須‥‥」

 それを見ておいらが呟く。
 けれど、それは破王には聞えない。破王は徐にそれ掲げて、なにやら呟いている。
 すると、その急須が輝きを増して――。
 破王の元に、風が集まって家々から主人の描かれた紙が彼の元に集まってゆく。

「にゃっにゃにが、どうなってるのかにゃ??」

 いまいち理解できずに、おいらは首を傾げる。
 しかし、おいらは見逃さなかった。
 おいらの前をすり抜けて飛んでいったご主人の自画像が――瞬きをし、口を動かせて何かを訴えていた事に‥‥。

『助けてくれ‥‥』

 あのご主人がおいらに残した言葉。
(「あの紙に描かれているご主人はまさか本物??」)
 なぜ絵になってしまったのか、どうすれば元に戻せるか‥‥それははわからない。
 けれど、ご主人が助けを求めている。
「ご主人―――――!!」
 全ての自画像が集まって、破王は空へと舞い上がる。
 そして、瞬く間に西の空に消えていた。
「柴虎??」
 そう呼んでみたが、柴虎は自分の変化についてゆけず戸惑ったままだ。
(「手掛かりはある。さっきの奴だ」)
「よくわからにゃいけど、御主人を助けるにゃ!!」
 おいらはそう決意し、仕度を始めるのだった。


「ふふふ、これで終わりだぁ!!」
 破王は輝く急須を大事そうに机において、満足げに笑う。
 回収された絵の近くには蝋燭が灯されていた。
 そして、その紙を火の上でチラつかせ、表情を歪める開拓者の主人達を嬉々として眺めている破王なのだった。

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。
 実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
ダイフク・チャン(ia0634
16歳・女・サ
橘 琉架(ia2058
25歳・女・志
若獅(ia5248
17歳・女・泰
露羽(ia5413
23歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
アリア・ベル(ia8888
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●雪崩のように現れて

   ゴゴゴゴゴォ

 重い扉を押し開いて、ポチ他集まった朋友は全部八名。
 どういう効力かは知らないが、それぞれの特徴が反映された人間の姿に変貌している。
「な、何事だ」
 その音を聞きつけて、声を出したのはここの主――朋友達を人間の姿に変えた張本人・破王その人である。灯りは蝋燭の炎のみというなんとも暗い部屋で、満足げにヴォトカを飲んでいた時の事だった。
「お邪魔するニャ」
 ツインテールが可愛いフリフリ着物のお姉さんは綾香様。
「御機嫌よう」
 優雅な所作でバスケットを片手に入ってきた少女は自称吟遊詩人のリデルである。
「我が主は何処だ」
 黄金の瞳で辺りを逐一警戒しているシノビ装束の青年は黒霧丸。
「一体、おまえらは…」
「あぁ、あんたが破王かい。暗いところに住んでんなぁ〜」
 質問しかけた破王だったが、続いて入ってきた長髪赤毛の姉さん――スピネルによって遮られ、言葉を飲む。
「ここ、少し空気が悪そうだよ」
 続いて入ってきたのはこれまたロングの薄紫おさげの中性的な容姿をもつ刻無である。
「ほんと暗いです、窓を開けましょう」
 のほほんとした雰囲気を纏った金髪の少年のような姿をしているのは琴音だ。
 もともと二人は人妖であるから、サイズが大きくなっただけでたいして変化はない。
「御主人をかえしてほしいにゃ」
 ポチはそう言葉にし、破王の下へとずんずん進む。
「まぁ、急ぐ事もないだろう。破王とやら‥‥話を聞こうか」
 そんな様子のポチを押し留めて、言葉したのはブルーのアオザイを身に纏い落ち着いた面持ちの三つ編み姉さんの華耶だ。少し考えるような仕草をして、相手を刺激しないように歩み寄る。
「一体、全体何用だ‥‥きさまら」
 いっぺんに押しかけられた破王としては、どうも状況が把握できていない様子である。
「だから、早く主人を‥‥橘琉架(ia2058)を返せってんだよ!」
 そんな中、言うが早いか破王に詰め寄ったのは、紫の瞳が印象的は黒髪短髪細身の青年・紫雲だった。いてもたってもいられないらしく、主人の刀『ソメイヨシノ』を携え気付けば破王の胸倉を掴んでいる。その隙に、黒霧丸は部屋の隅にあった開拓者の書かれた紙を確認。皆に合図を送る。
「まぁまぁ落ちて‥‥あら? もう三時のお茶の時間‥‥皆様、お茶にしましょう」
 それを見取ってリデルは手にしていたバスケットからティーポットを取り出し、いそいそと準備を始める。
「なら、私も手伝います」
 主人のからす(ia6525)が茶席を好むので、その手のことには自信があるらしい。琴音がリデルの元へと駆け寄っていく。
「さぁ、こんな暗い部屋ではお茶も美味しくなりませんわ。窓を開けて、陽の光を取り入れましょう。きっと素敵ですわ」
 優雅な動きでそう言って、取り出したのは事前に焼いてきたアップルパイ。
 こんがりと狐色に焼きあがったそれは、甘い香りを漂わせ皆の食欲を誘う。掴みかかっていた紫雲でさえ、いつの間にか力が緩んでしまっている。
「にゃはははははは、綾香様も食べるのニャ」
 自由気ままな綾香様が早速パイを一齧り。
「さぁ、遠慮なさらずに‥‥」
 そんな空気に促されて、破王はと言えば呆気にとられたまま立ち尽くしている。
「さっ、あんたらも突っ立ってないで‥‥なっ」
 スピネルはそう言って、紫雲と破王を座らせて――ここに奇妙なお茶会が開始されるのだった。


●説得の経験は?
 話は、少し遡って昨日の朝――
 ポチが破王に会った日の事である。
 とにかく一抹を助けねばと思ったポチは、他朋友達に声をかけた。そして、聞き出したのは破王の居場所‥‥もとより人間より敏感な朋友達である。日頃からあちこちに気を配っていたりするもので、聞き込みを簡単に済ませれば意外とあっさり居場所を突き止める事ができたのだった。そんなポチを察知して、同じ志の元やってきたのが今の八名。
 それぞれ種族は違えど、主人に対する思いは同じだったという訳だ。
「けど、どうしますか? 相手はいたく開拓者を嫌っているご様子‥‥『はい、戻せ』と言っても聞き入れるとは思いませんが‥‥」
 主人がいない今、自分達だけでどうにかしなければならないのだが説得といってもどうすれはいいか、いまいち検討がつかないようで首をかしげる。
「だよね。それにどうやってこんな姿にしたのかも気になるし」
 到底在り得ない、この状況。人妖はまだしも、龍・猫・犬といった類の動物に類するはずの彼らが、人型をとっているのだから異常としかいいようがない。
「案外、この姿もいいもんニャけど、だいふくがいないと意味ないニャ」
 彼女の主人‥‥いや、パートナーはダイフク・チャン(ia0634)と言って、彼女と同様なかなかの個性派である。
「あやしいのはあの急須だと思うにゃ」
 簡素な服に少年の姿をしたポチが、いつになく真面目にそう呟く。
「急須ってあれか? あの茶を注ぐ‥‥」
「そうにゃ、おいら見たのにゃ‥‥破王が急須に何か呟いていたのを」
「私もそれは見たな」
 スピネルがそう言って、同意する。
「とりあえず、ここにいても仕方ないだろう。一応相手も俺らと同じ立場のようだから話せばわかるだろう。今は急ぐべきだ」
「けど、そうだわ。私にいい考えがございます」
 急ぐ黒霧丸の言葉に、リデルが待ったをかけるのだった。


●破王の実態と湯気魔人
 そして、そのいい方法というのがこのお茶会だったりする。
 人は面と向かってはいい辛い事も、食事を共にする事によって打ち解けていくと聞く。
 リデルの主人・神咲六花(ia8361)は自称探偵を語っており、彼と共に行動している彼女もその手の事は自然と心得ているようだ。
 けれど、実際のところはただ紅茶が好きでティータイムは欠かさないだけという裏事情もあったりするのだが、この際それはどうでもいい。呆気に取られたまま巻き込まれてくれた破王に感謝しつつ、一同はやんわりと彼の説得を開始する。
「ん〜〜と、どうしてこんな事を思いつかれたんですか?」
 琴音が話の中に質問を紛れ込ませて問う。
「こんな事とはどういうことだ? 我は皆の望む形を取ったまでだぞ」
「望むって‥‥誰かがそう言ったのか?」
 そこへ空かさず、サポートに入ったのは黒霧丸だ。
「いや、けれど見ていればわかる。我がずっとそうだったように‥‥御前達も苦しめられてきたのだろう? それに感謝して今日はこのような席を設けたか。なかなか気が利くではないかっ」
 かなりの強引な解釈ではあるが、ここは一つ聞き流しておく。紫雲など、口出ししたいようだがそれをぐっと堪えている。密かに紅茶に酒を混ぜているのだが、破王は全く気付いていない。
「して、御前達は一体何をされてきたのだ?」
 豪快に笑いながら、破王。
「そ、それは‥‥」
「にゃはははは、そんな事どうでもいいニャ。それよりどうやって人型にしたニャ?」
 口ごもりかけていた刻無に、被せる形で入ってきたのはまたまた綾香様である。
「ふふふ、聞きたいか。なら、教えてやろう。実はこれを使ったのだ!!」
 ばばーんという効果音があったかどうかは定かではないが、徐に取り出したのはポチが言っていた急須だった。使い込まれているらしくかなり汚れている。
「その急須がどうしたってんだよっ」
「ふっふっふ‥‥素人はこれだからいかんなっ。この急須はただの急須ではないのだ! この急須に湯を注げば湯気の魔人が現れて何でも願いを叶えてくれる優れもの!!」
 すくっと立ち上がって、その急須を頭上に掲げた破王は自慢げだ。
「本当なのか?」
「そんな馬鹿なことが」
 半信半疑の黒霧丸とスピネルを余所に、皆の目が急須に集まる。
「信じないのなら、見せてやろう! そこのお嬢さん、湯を頂けるか?」
 リデルにそう声をかけて、何処から取り出したのか湯を注げば、数秒もしないうちに注ぎ口から現れたのは小さな魔人だった。
「おぉ、こりゃすげぇ」
「面白いね」
 それを見取って、スピネルと琴音が呟き覗き込む。
「おっ、はおか‥‥おやおや今日は仲間と一緒かいな? で、用はなんや? 俺もこれで意外と忙しい身なんやでっ」
 湯気魔人が気安くそう言って、皆を見回す。
「はお? 誰の事?」
 湯気魔人の言葉に疑問を抱いた刻無だったが、
「あわわわわわわわっ、破王だって破王!! こいつはちょっと訛っているのでな」
 必至になって割って入った破王にかき消され、他の者は気付かない。
「ん? どないしたんや〜はお。俺は聞いてないで」
 そこへ追い討ちをかけるように、再びその名を口にする。
「まさかあなたは偽名使っているのか?」
 それを察して華耶が問う。
「なんやっ? みなさん知らんのかいな? はお、嘘はよくないで‥‥こいつは俺の魔法で理想の姿にな‥‥」

   がばっ

 言葉を続けようとする湯気魔人を止めようと、破王は急須をひっくり返した。
 すると、中の湯が床へと零れ、魔人が消えてゆく。
「どういうことだ? おまえ破王ではないのか?」
 紫雲他皆の疑問――湯気魔人の呼んだ名前は、はおだった。
「わっ、我は破王だ‥‥朋友の神だ!! そうだ、御前達も主人に不満があってきたのだろう。好きなだけ復讐を‥‥」

「いいかんげんにしなっ!」

 おどおどした振る舞いで隠す破王に嫌気が差したのか、はたまた勝手な解釈に腹が立ったのか、そこで一喝したのはスピネルだった。

「さっきから黙って聞いてりゃ、なんだいその態度は! アンタに何があったか知らないけどさ、私らの主人まで巻き込まないで貰えない? はっきり言うよ、私達は別にあんたを崇めに来た訳でも、褒め称えに来た訳でもないんだ。ただ、私のアリア・ベル(ia8888)を返して貰う為に来たのさ」

「なに?」
 その言葉を聞き、破王の表情が一変した。
 とても信じられないといった面持ちで、皆を見回している。
「まさか、そんな‥‥おまえらは憎くないのか! あんな人間に扱き使われて‥‥」
「それは、あんたの事だろう。皆がそうだと言う訳じゃない」
 回収した開拓者の自画像の束を片手に、静かな声でいう黒霧丸。
「ええっと、とりあえずボク達はたぶん、あなたの様な事望んでないとおもう。だって、なんか他の皆を見ると皆、自分のパートナーに満足してるみたいだし‥‥ボクだってまだマスターに出会って間も無いけど‥‥色々教えてくれる大切な人だもの」
「まさか‥‥我だけだというのかっ!!!!」
 半ばやけくそ気味に目の前の急須に手を掛けようとした破王だったが、寸での所でそれを琴音に奪われ空を掴む。
「ねぇ、破王‥‥怒らないで聞いてほしい。全ての朋友が解放を望んでいる訳では無い。それはエゴでしかない。野良生活も雇用生活も私達の選んだ自由だ」
「違う」
「え?」
「違う違う違うっ!! 我は望んじゃいなかった! あの男は無理矢理、我を引き込んだ!! ただ、それだけだ!!」
 錯乱しかかっている破王を見かねて、今度は華耶が歩み寄る。
「同じ朋友同士、荒事にはしたくありません。あなたに何があったかは知りません‥‥けれど、何やら訳ありのご様子。私達でよければお聞きします‥‥だから、落ち着いて下さい」
 そっと肩に手を差し伸べてみれば、彼の肌には無数の傷跡が残されている。
「この傷は‥‥まさかあなたの主が?」
 華耶の問いに、破王は静かに頷いた。


●暴力主人に鉄槌を
 一旦、皆落ち着いて、再び話し始めたのはもう日が暮れる頃だった。
 落胆した様子の破王を囲んで、
「一体、何があった?」
 皆が抱いていた疑問をストレートにぶつけたのは華耶だ。
「それは御前の見たの通りだ‥‥あの男は我を玩具同然に扱った。我が子供の時から、あの男に拾われた時からずっとずっとだ。普通より小さいと罵られ、怒りのやり場にされる事もしばしば、おかげで毎日傷だらけだ。盗賊まがいの仕事にも借り出され、途中で失敗すれば置き去りに‥‥そんな奴に許せる訳がないだろう?」
 苦悶の表情を浮かべて訴えかける破王。その言葉を聞き、皆どう答えたものやらと思案する。傷から見ても、同然なったものとは思いがたく、明らかに故意的につけられてモノと判断できる。
「なら、さっさとそんな奴見限ってしまえばよかったんだ」
 紫雲がぶっきらぼうな口調で言う。
「そうしたかった‥‥けど、あの男は‥‥」
「そうニャ。それか、いっそのことこっちもやり返してやればいいニャ。あたいなんか、だいふくに対してむしろ命令してるくらいニャし」
「えっ」
 その言葉が意外だったのか、破王が目を丸くしている。
「主に恵まれぬ不遇。貴殿の辛さは、我々とて主が違えば同じ身の上だったやもしれず‥‥辛かったでしょう。けれど、一期一会という言葉がございます。我々がこうしていることも、奇跡のひとつ。もしその主が嫌なのならば、次の機会がございましょう。もし貴殿が次の出会いこそはと願うなら、その時は私もお手伝いしたいのですが、いかがか?」
 優しくそう問いかけられて、じわりと破王の瞳に涙が浮かんだ。
「ありがとう‥‥我にはそんな言葉かけてくれる者などいなかった‥‥ただ、ただ耐えるしか‥‥」
 ぐっとこらえて目を閉じた破王に、刻無がハンカチを差し出す。
「もう大丈夫。ボクらがいるから」
 その言葉を聞いて、破王の体が輝き出し筋骨隆々の姿から幼さの残る――人で言えば十五歳くらいの少年の姿に変わっていく。
「なんだ?」
 それを見て、呟くと――いつの間にか湯気魔人が注ぎ口から姿を現して、補足を始めた。
「あれがあいつの本当の理想の姿なんや。粋がってたけど、寂しくて辛くて怖くて‥‥だから、ちょっとでも相手に威圧感を与えられるようにあんな姿になってたんやが、本来は純粋で優しい奴なんやで‥‥主人に何も言えないくらいの‥‥」
 全てを知っているのだろう。湯気魔人の瞳がそれを語っている。
「ごめんなさい、みんな‥‥‥元に戻すよ」
 破王改めはおはそう言って、取り上げられた急須の元に近付いていく。
「いいんか、はお?」
 湯気魔人の言葉に頷いて同意すると、魔人は手を一振りした。
 すると、黒霧丸の持っていた束が宙へ舞い上がり、一瞬にして紙から人へ、元の姿へと戻っていく。
「露羽(ia5413)様‥‥おかえりなさいませ」
 一番近くにいた黒霧丸が、輝く主人を前に挨拶する。
「アリアー! よかったよぉ!!」
 そう言って、飛びついたのは意外や意外、姉さんのスピネルだ。見た目で見れば、スピネルの方が大人なのだが、気持ちはどうやら逆のようだ。ぎゅうぎゅうと抱きしめている。
「ちょっと、紫雲? 苦しいわよ。そして、かなり恥ずかしいんんだけど」
 とこちらでも、厚い抱擁――紫雲と琉架だ。
「前からやりたかったんだよ、これ‥‥子供の頃から、ずっと見てきたんだ。他人に渡す? ありえねぇから」
 その言葉に、琉架の顔は真っ赤になる。
「マスター!」
 真亡・雫(ia0432)の姿を発見して、そっと彼の元に歩み寄る刻無。
 そんな中、気まずい雰囲気の二人がいた。それは、もちろんはおとその主人である。
「あの、その‥‥ご主人さ‥‥」
「一体、何やったかわかってんだろうなっ、ああっ!!」
 声をかけかけたはおだったが、突然きつく怒鳴られて萎縮する。
「本当、おまえは屑だなっ! ご主人様に歯向かうのか!! この後どうなるかわかって‥‥」
「ちょっと待つにゃ!!」
 人に戻ったと同時にはおに掴みかかった主人を見て、ポチ他朋友らがはおの元に集まりバリケードを作る。
「あんたがはおのご主人かにゃ?!」
 怯えるはおを後ろに下がらせて、ポチが問う。
「ああ、そうだが‥‥ガキはすっこんでろ。俺はあいつに用があるんだっ!!」
 戻って早々、拳を振り上げそうな勢いで怒鳴る主人。
「どけないねぇ〜どけないよ。あんたがはおを傷つけたんだろう! 同じ龍としてほっては置けないねぇ〜」
 ぱきぽきと指を鳴らして、はおの主人に近付くスピネル。
「ああ、そうだな。こんな事になったのも元はと言えばあんたが原因だからなっ」
 黒霧丸も臨戦態勢である。
「はっ、御前達も朋友なのか‥‥いっちょ前な口叩くじゃねぇ〜か。けどな、あいつは俺のモンなんだよ、どう扱おうと俺の勝手だろうが!!」
「モノだと、胸糞わりぃ!!」
 パートナーを――大事な相棒をモノ扱いするこの男に、行動派の紫雲が飛び掛る。
「はお殿の痛み、とくと知りなさい」
「虐めちゃ駄目にゃ」
「虐めは駄目っ」
「覚悟して下さいだよ」
「成敗なのニャ!!」
 朋友達の一斉攻撃に、大口を叩いていた主人だったが僅か数分も立たないうちに、意識を失う結果に陥る。後には、塔一体を包み込むように、リデルが安らぎの曲を奏でている。
「いい曲だ」
 それを聞いて、六花が彼女の傍に座って耳を傾ける。
「皆に幸あれ」
 穏やかに笑って、曲を続けるリデル。
「うむ、お見事だったよ」
 自分の相棒を見つけて、手を叩き賞賛したのははからすだった。それに釣られるように、他の主人達も手を叩き始め、塔には頑張った彼らへの拍手が広がってゆく。
 そして、倒れたはおの主人はといえば――朋友虐待の罪でお縄となる。


●終着点とそれぞれのこれから
「みなさん、ご迷惑をおかけしてごめんなさい。ありがとうございました」
 塔の下に集まった朋友とその主人達を前に、ぺこりと頭を下げる。
 手には大事そうに魔法の急須を抱えられている。
「全然大したことなかったニャ。むしろこちらこそありがとニャ」
「えっ?」
 綾香様の言葉に、驚きを隠せないはおである。
「そうだな、ありがとうと言わせてくれ。これでいつでも琉架を抱きしめられる」
 恥ずかしげもなく、さらっと言ってのけたのは紫雲だった。主人にぞっこんらしく、人に戻ったばかりの男性開拓者を牽制するように見つめ、虫がつかないようガードに余念が無い。
「このままか、それもいい‥‥」
「いや、困る」
 そういいかけた黒霧丸の言葉を遮ったのは、ポチの主人・一抹だった。
 相変わらずのよれよれな着物で頭をかきながら登場し続ける。
「だって、あれだろ‥‥」
「あれってにゃんですかにゃ?」
 若干嫌な予感が駆け抜けたが、気にせずにポチが問う。
「ほら、龍の奴らはどうかわからんが‥‥うちは猫の時より食費がかかる」
『えぇ〜〜〜〜!!!!!!!!』
 たったそれだけの理由で‥‥と誰もが突っ込みたかったが、そこはぐっと我慢する一同。
「大丈夫やで。これは一種の夢やから」
『へ?』
 湯気魔人の言葉に戸惑う一同。
「わいは存在してないんや。だから、今この時に起こった事は現実であって現実でない‥‥だから、明日目が覚めたらみんな普通の姿に戻ってるはずや」
 湯気魔人がそう言って、ぱちんと一発ウィンクを飛ばす。
「あら、じゃあ後少しはこのままってこと? 素敵。まだ、ちゃんとした形で紅茶が頂けるのね」
 実に嬉々とした様子でリデルが言う。
「猫又の皆さんはいつもしゃべれるが、私達は違うものな」
 元が龍である華耶はそう言って、若獅(ia5248)を見つめている。
「ん? 華耶、なんかついてるかい」
 そんな様子の二人である。
「だいふく、これからも一緒に頑張ろうニャ!」
 ぽんっと主人の頭に手を乗せて綾香様。
「帰りに本屋に寄って。罰として三冊は買ってほしいな」
 笑顔でそういったのは、琴音である。

『とにかくありがとう』

 色々ありはしたが、こうやって対等に話せるこの状況に感謝する一同である。

 改めてパートナーの存在を実感出来たから――。

 その後、はおと湯気魔人を見かけたモノはいなかったが、きっとどこかでまた会えるだろうと思う一同であった。