【四月】鍋蓋の猛襲
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/14 04:11



■オープニング本文

 物には魂が宿ると申します。
 日常何気なく使っている日用品が‥‥
 ある日、突然牙を剥いたら‥‥あなたはどうしますか?



「どこやったかなぁ〜これじゃあうまくダシが染みこまねぇぞ‥‥」
 一人暮らしの男が何を思ったか手の込んだ鯖の煮付けを作りかけて、鍋の蓋がない事に気付き、広くない水場を右往左往する。しかし、いくら探してみても目当ての鍋蓋は見つからない。
「肝心な時にねぇ〜のなっ」

   ばしんっ

 そうぼやいた男に軽い衝撃――。
 気付いて振り返れば、そこには彼の所持していたと思われる鍋蓋が、ぷかぷか宙に浮いていた。
(「これは夢か?」)
 まぶたを何度か擦ってみるがそれは確かにそこにある。
 そして、それを掴み取ろうと手を伸ばすと、鍋の蓋は意志を持っているかのように、ふわりふわりと彼の手を擦り抜け‥‥。

   ばしんっ

 すっと彼の手をかわして、反撃行動を開始した。
 平らな面で叩かれて、彼は再び目を瞬かせる。
「どうなってんだ‥‥」
 散々それを繰り返して、男の脳裏に浮かんだのはある男だった。
(「まさか、旦那が?」)
 鍋蓋といえば新海明朝‥‥
 誰がそう言いだしたかはしらないが、ともあれ鍋蓋の事に関しては彼の右に出るものはいない。(左にならいるかもしれないが)
 男は鍋蓋の捕獲を諦めて、ひとまず新海の元へ急ぐのだった。



 その頃――新海宅でもそれは起こっていた。
 彼の鍋蓋コレクションは五十を下らない。
 それらの蓋に取り囲まれてにっちもさっちもいかない状態にある。
「なな何が起こってるさねぇ〜」
 中で新海が叫んでいる。
「新海さんっまたあんたが‥‥ってのわぁぁ!?」
 そこへさっきの男――
 けれど、鍋蓋に囲まれた彼を見付け仰天する。
「だっ旦那の仕業じゃなかったんすね‥‥」
 その場に腰を抜かして男が言う。
「そんなこと言ってる場合じゃないさねっ! この状況‥‥どうにかしてほしいさぁ〜」

『成ラヌ』

 助けを求めて叫んだ新海だったが、ふいに聞こえた見知らぬ声に、耳をすませる。

『行カセヌ‥‥オマエハ我ラニ選バレタ‥‥是カラ我ラト共ニ働イテモラウ‥‥』

   ゴゴゴゴゴォ―

 その声と共に、新海を取り囲んでいた鍋蓋が高速で回転を始め、新海を持ち上げてゆく。
 竜巻並の風に男は為す術もなく‥‥新海はその竜巻に飲まれて消えた。
 後に残されたのは、荒らされた彼の部屋と、相棒のたまふた(鬼火)だけだった。


 そして翌日――
 天儀中の鍋の蓋が消え去り、替わりに小さな都市を飲み込む位の巨大鍋蓋型の浮遊船が出現する。その船から発射された光線によって、天儀の国々は一瞬にして灰と化していた。
「きゃーーーーー、何あの巨人はぁ!!」
「鍋蓋様のお怒りじゃあ〜〜!!」
 巨大鍋蓋は時にその姿を人型に変え、町や村を破壊した。

『フフフ‥‥イイ気味ダ。我ラヲ屑扱イシタ報イダ‥‥サア、新海ヨ。今度ハ、アノ都ヲ破壊セヨ』

「はい、鍋蓋様」
 鍋蓋巨人の操縦席に座る新海の目は虚ろだ。
 鍋蓋で出来ていると思われる鍋蓋巨人――
 しかし、それは見た目とはうらはらに圧倒的な強さを持ち、各国は対処する暇さえ与えられず、壊されるのをただただ脅え待つしかない。

『誰でもいい。あの鍋蓋を何とかしてくれ‥‥』

 人々の悲痛な叫び――。


 巨大な影現れし時、囚われた者を支えし存在‥‥
 伝説の力を秘めた品を携えし戦士を探し出し
 その戦士が世界を平和に導くであろう‥‥


 どこかの地に残されし予言の一説。
(『世界を‥‥あの人を、助けて下さい』)
 あなたフ元に現れたたまふたがつぶらな瞳で語りかける。
 すると同時に、あなたの愛用品が輝いて――
 それは、あなたが選ばれし戦士であることを告げていた。


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。
 実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
朱璃阿(ia0464
24歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
懺龍(ia2621
13歳・女・巫
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
ミリランシェル(ib0055
18歳・女・吟
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓


■リプレイ本文

■七人の戦士
「ついに来たか」
 たまふたに導かれて鍋の蓋との戦いを繰り広げてきた戦士達に、朗報がもたらされたのは、ほんの数分前――。彼らの作戦指令室となっている長屋の地下に、鍋蓋浮遊船型基地への潜入を終えて戻って来たたまふたの話によれば、鍋蓋側の手駒は残り新海のみだという。どういう仕組みかは知らないが、新海自身の意識はどこへやら‥‥全てが鍋蓋の支配下にあるらしく、昔とは別人のようだったという。
「ご苦労だった」
 戻ってきたたまふたにそう告げたのは、リーダーであるロック・J・グリフィス(ib0293)だ。胸に自慢の高貴な薔薇を挿し、赤を背負う者として威厳を醸し出している。
「と、いう事は明日で全てが終わるのか。長かったねぇ」
 そんな中、ヘラリとした様子で言ったのは白の不破颯(ib0495)だ。タロット占いでもするかのように、手にした花札を一枚ずつテーブルに並べてみせる。
「鍋蓋男爵やら、鍋蓋四天王やら、鍋蓋怪人やら‥‥何というかすごかったからねぇ〜」
「雑魚兵士鍋ソルジャーとはどれだけ戦ったか」
 苦笑しながら付け足したのは、紫であり参謀を務める巴渓(ia1334)だ。
「あの渓殿、聞いてみたいと思っていた事があるのです〜」
 渓の手元にある醤油注しを見取って、緑のアルネイス(ia6104)が尋ねる。
「ん、何だ?」
「その、あの、渓殿の変身道具のやまじ湯浅醤油なのですが、もしその中のものがなくなったらどうなるのですか?」
「え?」
 思わぬツッコミに渓は固まった。
 そう彼女の変身アイテム、それはなぜだか醤油なのである。
「あぁ‥‥‥足りるように出来てんじゃねぇかな。とりあえず」
 視線を俄かに宙を彷徨わせつつ答える渓。
「なんかテキトー」
 そんな答えにぼそりと青の懺龍(ia2621)が呟く。
「キャ〜〜やっぱりあんた可愛過ぎっ! ときめくわ!」
 ――と、三味線片手に飛びついたのは銀のミリランシェル(ib0055)だ。
 彼女、実は大のお子様スキーなのだ。
「今日も出たな‥‥ミリーの口癖が」
 皆を見守るように後方で二振りの愛刀『阿見』の手入れをしていた金の西中島導仁(ia9595)だったが、丁度それが終わったようで輪の中に入ってくる。
「伝説によれば戦士は八名。たまふた‥‥もう一名は?」
 最終決戦を前に、ロックが問う。
(『黒き翼を持つ者‥‥カイタクブラック朱璃阿(ia0464)‥‥彼女は‥‥』)
 けれど、たまふたはそこで言葉を詰らせた。
「ロック、まぁ話しにくそうだしねぇ〜今日までなんとかなったんだ。明日も何とかなるさぁ。七人でも十分でしょ、勝って綺麗な空見上げて、美味しい飯でも食おうじゃないかぁ」
「いや、しかしだな」
「隊長、俺も颯に賛成だ。無理矢理聞き出さんでも、今のままでいいじゃねぇか!」
 渓も入って、周りを見れば皆同意するような眼差しを向けている。
「そうか‥‥皆が良いならそれでいい」
 それを見取って、彼がふっと表情を緩める。
(『ゴメンなさい。僕が説得できてれば‥‥』)
 たまふたが申し訳なさそうに呟いたが、
「何言っている‥‥おまえによくやっているさ。明日は最終決戦だ! 傷付き倒れていった多くの人々の為にも、必ず親玉を討ち取って囚われた新海を救い出そう!」
 羽織っていたマントを翻し、ロックが拳を突き出す。
 それに答えるように、皆も力の限り拳を突き出すのだった。

■その時、彼らは
「フフフ、イヨイヨダ」
 鍋蓋円盤の内部で、声だけが響く。
 そこは何も無い広い空間――その中央に椅子があり、そこに新海が座らされている。
「今ノ今マデ散々テコズラサレテキタガ、コレデ最後ダ。全テハ最後二勝チ残ッタ者ガ勝者トナル‥‥新海ヨ、奴ラヲ殺セ。ソシテ、我ラノ復讐ハ完成スル‥‥引イチャア捨テ引イチャア捨テシテキタ奴ラニ我ラノ力ヲ見セツケルノダ」
「はい、鍋蓋様」
 未だうつろな瞳で新海が答える。
「サァ蘇ルガイイ、鍋蓋オールスターズヨ!!」
 その言葉と共に、円盤自体が振動を始めて‥‥僅か数秒の後にその空間には復活を遂げた怪人達で埋め尽くされているのだった。


   ピキッ
「どうかしたのか?」
 愛する主人を前にご飯を装っていた朱璃阿だったが、手にした茶碗に入ったひびを見て動揺を隠せない。
「いえ、何でもないの」
 そう言って、その場を取り繕ったのだが、その胸騒ぎは一向に収まらない。
(「私は身を退いたのよ‥‥今はもう」)
 押入れにしまったはずの業物――それがいつの間にか居間に出されていたのだが、まだ彼女はそれを知らなかった。


■決戦開始
「緊急事態発生、緊急事態発生!! 直ちに、出動せよ!!」
 まだ日が昇り始めたばかりだというのに、司令室に響いた警報にカイタクシャーらは出撃の準備に入る。
「場所は何処だ!」
 真っ先に出てきた導仁だったが、パネルに映し出された映像に驚愕する。
「どういうことだ‥‥」
 そこには、見覚えのある敵の姿が映し出されていた。
「導仁殿、如何され‥‥」
 アルネイスもそう言いかけて、言葉を失う。
「固まってる場合じゃねぇ! とにかく手分けして出動だ!!」
 ロックの一喝に、それぞれ現地に飛ぶ戦士達。


   ナベーナベー
 奇声を発しながら、鍋ソルジャーズが都を襲撃。混乱し逃げ惑う住民を前に、満足げなのは鍋蓋男爵その人である。手にした鍋印を住民に押し当てて、人を仲間に取り入れてゆく。
「くふふ、愉快愉快」
「ちょっと待て〜〜〜い!!」
 そこへ現れるは言わずと知れた戦士達。
「食卓に光る味のパートナー、紫の刺激! ショーユバイオレッっておい!」
 お決まりの口上を仕掛けた渓だったが、男爵が全くこちらを見ていない事に気付き、怒鳴る。
「ふん、いつもいつも聞かされてきた我々も我慢の限界ですよ‥‥いけっ!鍋ソル共」
   ナベーナベー
 男爵はそう言って、渓と共に来た颯には口上さえ言わせず襲い掛かる。
「そうか確かに一理はあるけどねぇ〜」
 颯は苦笑しつつ花札を構えて、
「仕方ない。五光スラッシャー!!」
 手にした花札を華麗に投げつける。


 一方、アルネイス・導仁組はといえば――
「愛と平和と蛙の為に! 自然を愛する華麗な乙女☆ カイタクシャーグリーン只今参上!!」
 背後に緑の爆発を受けながら、ポーズをつけ登場する。
「むむむ、また出たか! 戦士共め、おまえはまだ会った事なかったなっ、名は?」
 鍋蓋公爵は導仁とは初対面のようで、律儀に問う。けれど、
「貴様に名乗る名前は無い!!」
 問答無用に飛び出して、導仁の不意打ちに呆気なく倒れる公爵。
「は、反則だろうが‥‥それ」
 公爵の言葉に耳を貸す者はいなかった。


 そして、ここは‥‥
「キャ〜〜やっぱり素敵よ、懺龍ちゃん」
 とらのぬいぐるみを片手にそれを時に投げ付け、時に操って攻撃を繰り返し鍋ソルを黙々と片付けてゆく懺龍。それを三味線をかき鳴らし攻撃するサウンドウェーブ・フロースティックで援護しているのは、ミリーだ。
「‥‥‥邪魔」
 とことんクールなのだが、武器が武器だけに端から見れば可愛らしくさえある。
「くそぉう、あんなファンシーなものにやられるとは」
 口惜しそうに鍋蓋四天王の一人・ナベラーが愚痴る。

 ――と、突然鍋蓋基地が動いた。
 蓋の側面、厚みに当たる部分から砲台が全方向に出現する。そして、

   ジジジジジジジィ――――――――――

 その砲台から灼熱の光線が放たれ、都を焼き尽くしていく。
「しまった、こっちは囮!!」
 怪人の出現に対応に散った戦士達。しかし、それは時間稼ぎに過ぎなかった。
「フフフ、もう遅いわ」
 それと共に、復活した怪人達が微笑を浮かべ、巨大化を開始する。
「私達も応戦を!」
 ミリーの言葉に、懺龍がこくりと頷いた。


「なんてことだっ!!」
 その頃、たまふたと共に新海救出に向かっていたロックだったが、目の前に立つ新海の姿を見取って驚きを隠せなかった。それもそのはず、新海は全身を隠す程の鍋蓋鎧を身に纏い(辛うじて目元は露になっていたので判断できたが)、あろうことか彼に向かって斬りかかって来たのである。木製とは思えない切れ味と耐久力のその刀は、新海の鎧の一部と結合し、弾き飛ばすことは出来ない。
「くそっ、どうすれば」
 折角ここまできたのに‥‥ここで退いてはと、気持ちだけが焦る。
「フフフ、如何シタ人間ヨ。ソレ程二コノ男ガ大事カ?」
 防戦一方のロックに向けて、声が問う。
「こいつの主人なんでなっ! そりゃ大事だ‥‥しかし、おまえはずるいな。子分に全て任せて、姿を現さず指図だけ。いい気なもんだ」
「何ィ? 我ヲ侮辱スル気カ?」
「さぁな、けど事実だろう。新海に戦わせて‥‥もしや、本体を持たない‥‥なんてオチ」
「黙レッ!!」
 明らかに怒りを見せて、声の主。
「いいだろう、我の力見せてくれる」
「あ、文字がカタカナからひながなに」
「突っ込むなぁぁぁぁぁ!!」
 声はそう叫ぶと、閃光と共にロックを部屋から弾き出す。上空を降下するロックの前で、彼が見たもの‥‥それは鍋蓋基地が変形していく光景。徐々に形を変えて、出来上がったのは子供が粘土で作ったようななんともちゃちな鍋蓋巨人だった。


■超変形
 各地に現れた怪人があちこちで暴れて中型のメカで応戦するものの、それにも限度がある。なかでも、鍋蓋巨人は最終兵器らしく、全くどんな攻撃も受け付けない。
「参ったぜっ」
 こめかみに手を置いて、シューユウイングに乗りながら、愚痴っているのは渓だ。
 口上は中断、雑魚怪人はなんとか仕留めたものの皆の機体は既に損傷が激しい。残弾数も後、僅かである。
「ガマ口砲です〜」
 地上では、蛙型機体に乗り込んだアルネイスが最後の復活怪人を吹き飛ばした所だった。
「皆、後は鍋蓋巨人のみだ。合体するぞ!」
 無線連絡が飛んで、皆は合体スイッチに手をかける。

『合体、カイタクオー!!』

 声が揃って、皆の機体が輝いた。
 虎と狼、懺龍とミリーの機体が足に変形、渓とホバー戦車型の颯の機体が腕に変わり、アルネイスの胴の部分に結合される。そして、最後に、ロックの宇宙海賊風の人型機体が頭部に変形‥‥その形は胸にあった模様がベースになっている。
「いつ見ても悪役っぽい」
 変形を終えて、中央の操縦室へと集まった時ぼそりと呟く声。
 理由は一目瞭然――頭が髑髏なのである。
「よし、さっさと終わらせるぞ!」
 しかし、そのな事を気にする彼らではない。ロックの一声に動き出す。が――、

「鍋蓋クラッシュ!」

 突進しかけたカイタクオーを両手に持った鍋蓋で挟み込む巨人。
 大きな衝撃が機体を襲う。接近を試みたが、地面に鍋蓋を出現させ鍋蓋返しで妨害され、思うように近づけない。カイタクオーの武器である導仁の変形武器ビームキャノンは既に鍋蓋で跳ね返されている。ここまで戦っていたダメージもあるのだろう。じわじわ、後退を余儀なくされる。

「恐れ入ったか、カイタクオーよ。我、アツベバンの力にひれ伏すがいい!!」

 巨人が、にやりと笑った。
 そして、頭に乗せていた鍋蓋を掴むと、それを勢いよく投げ放つ。

「来るッ!!」

 そう思った、その時だった。

   ぎゅいいいいいん

 投げられたはずの鍋蓋が寸での所で止められていた。
 そこには、見たことのない機体――女性の形をした胸がやたらとリアルな機体が、鍋蓋を必死で受け止めていたからだ。

「あなたは?!」

 それを見取って、ミリーが尋ねたが、

「そんなこと、どうでもいいわっ。主人が私を待っているの‥‥さっさとケリをつけるわよっ!!」

 言葉が終らぬうちに、その機体は姿を剣へと変えてゆく。
(『皆さん、聞いて下さい。彼女が朱璃阿さんです! これで八人揃った、超変形が可能です!!』)

『超変形!!』

 たまふたの連絡に皆が顔を見合わせる。

「そういう事よ、いいわねっ。超変形・グレートカイタクオー!!」

 朱璃阿の無線に応えて、皆のアイテムが一層輝きを増す。そして、カイタクオーは再び、変形を開始した。傷ついた部分は見る見る回復し、さっきよりスマートで機能的なフォルムに変形してゆく。それは、まさにはブリキの玩具がアクションフィギュアに変化を遂げるが如く、その違いは雲泥の差だ。

「なっなんという事だ!!」

 さすがのアツベバンもそれに同様を隠せない。

「いける、いけるぜ! これは!!」

 完成されたグレートカイタクオー――導仁と朱璃阿の個別の武器も一体化を遂げ、腕の部分に装着されている。
「パワー充填まで三十秒。それだけもたせてくれれば最終技が使えるぞ」
『了解』
 導仁の言葉に、皆の指揮が高まる。後はあっという間であった。
 先ほどまでアレだけ苦戦していたアツベバンの攻撃であったが、人と同様の動きを取れるようになったカイタクオーにとっては、もはや驚異ではない。鍋蓋クラッシュをひらりと跳躍で回避し、鍋蓋返しをくらっても冷静にバク宙で着地。投擲鍋蓋など受け止め投げ返す余裕ぶり。

「おのれおのれおのれぇ〜〜〜!!」

 一方、アツベバンはといえば状況の逆転に怒りは最高潮のようだ。

「我は我は復讐するのだ。鍋蓋をぞんざいに扱った人共にぃ〜〜!!」

 半ば半狂乱になったような口調で、鍋蓋巨人は地団駄を踏み始める。

「充填完了よ」

「よし、朱璃阿、導仁、御前達の力使わせてもらうぞ!! 天儀開拓剣、鍋割重力落とし!!」

 右手のキャノンからビームが発射、鍋蓋巨人を拘束して、追い討ちをかけるようにカイタクオーが接近、蛇腹剣を振り下ろす。

「今目を覚まさせてやる新海、消えろ鍋蓋の妄執よっ!!」

   ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 アツベバンの断末魔のその先に、何があったのか彼らは知らない。
 両断された鍋蓋巨人は無数の鍋蓋に姿を戻し、天儀中に降り注ぐ。それと同時に、囚われていたらしい新海も解放され、宙を舞っている。
「おっ鍋蓋ガイだ!!」
 渓はそれを発見すると、即座に合体を解除し彼の元へ飛んで――。
「大丈夫か、新海?」
 皆が囲む中、新海は目を覚ます。
「んあ?? 俺は何をやってたさね??」
 どうやら、あの鍋蓋巨人自体が黒幕の実態だったらしい。
 新海への洗脳は解けているようだ。不思議そうに皆を見つめている。
「確か鍋蓋が宙を舞ってて‥‥あれ?」
「もう、終りましたわ、全て‥‥」
 そんな様子の彼に声をかけて、ミリーが笑う。
「これで、一件落着」
 懺龍はそう言って、とらのぬいぐるみを抱き直す。
「みんなお疲れだねぇ〜。と、ブラックさんはもういないのかぁ」
 突如現れた朱璃阿だったが、もう去って行ってしまったようだ。
 カイタクシャーの面々が和む中、新海は蚊帳の外だ。

 そんな彼らはまだ知らない。
 遅れて降ってきている鍋蓋の存在を‥‥そして、

   ごちんっ ごちんっ ごちんっ

 カイタクシャー全員の頭に見事命中。
 目覚める頃には日常と変わらない天儀の世界が広がっているばかりだった。