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■オープニング本文 ●正体は いつもと変わらぬ日常―― ここは山に囲まれた小さな村 これといった特産物はないにしろ、自分達が食べてゆけるだけの作物があればこそ平和に過ごしてゆける‥‥ 自給自足の生活だが皆それなりに不自由なく暮らしている。 今日もそんな日常が送られるはずだった。 『キッーー』 複数の獣の声に、はっと農作業の手を止める村人達。太陽はまだ天高い位置で輝いていると言うのに、一体何が起こったか。 声のする方に目を向けると、そこには猿の群れが民家を目指して猛スピードで押し寄せてくる光景。その数ざっとみて二十を越えていた。尋常ではない事態に村人の反応も鈍る。唖然と立ちすくんでいるうちに猿達は我がもの顔で家に押し入り的確に獲物を漁ってゆく。追い出そうと我を取り戻した村人もいたが、時既に遅し‥‥さほど広くない村はあっという間に漁り尽くされ、残ったのは虚しい悲鳴のみ。 「あぁ〜私の‥‥唯一の振り袖がぁ〜」 玄関にへたりこんで嘆いているのは来年成人を迎える若い娘。すぐ隣では同じように地面に座り込んで泣いている中年の男‥‥どうやら形見の手鏡を持っていかれたようだ。 「村長さまぁ〜うちは先祖代々の伝家の宝刀をやられましただぁ〜」 あちこちで上がる悲鳴の内容に聞き耳を立てれば、奪われたるはすべてが価値ある貴重品。 「解せぬ話だのぅ」 村長はひと通り皆の話を聞き終え首を捻る。山に囲まれたこの地域には野性の動物はもちろん沢山生息している。鹿や猪、熊など、ごく稀に里や村に下りてきて悪さをすることはあったが、大抵の場合それは餌がほしくて作物を荒らす程度のものである。しかも、こんな時間に群れをなして現われたのは初めてであった。 「今は収穫の時期じゃてぇ〜わしらにはどうにもできん。だども皆の大切なもんばかりじゃしどうにかしてほしいけぇ〜」 集まった村人達の切実な眼差しに村長は重い腰を上げざるをえなかった。 ●依頼 「よろしゅおたの申しますだ」 開拓者ギルドの受け付け窓口で一通りの状況を話終えた男は切なる眼差しを向ける深々と頭を下げる。村長の代理としてきた男は緊張しているようだ。落ち着かない様子で、受付係を見つめている。 「これで三件目か‥‥」 「はっ? 今なんと?」 意外な言葉に思わず、問い返す。 「あぁ〜聞こえましたか。こちらにも同様の事件の報告が上がってましてね‥‥調査しなければと思っていた所なんです。ですからこの依頼お受けしますよ‥‥」 不安を浮かべていた男に、優しく対応した受付だったが、この事件どうしものか。 「おぉ〜ありがとうごぜぇ〜ますだ。あまり報酬は出せないだども米ならあるでぇ、依頼受けて下さる方々には精一杯のもてなしはさせてもらいますだ」 受け付けの前で手を合わせ祈り出した男を慌てて止めて、ひとまず男を村へと返す。 持ち込まれた三件の依頼は、場所が近いことから推測するに同一の群れの仕業と見て間違いないだろう。ここは一つの事件として扱うべきか‥‥ 報酬の件も考慮して、受付係は素早く依頼書を作成するのだった。 |
■参加者一覧
鍋島 瑞葉(ia0969)
17歳・女・志
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
隠神(ia5645)
19歳・男・シ
陛上 魔夜(ia6514)
24歳・女・サ
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
支岐(ia7112)
19歳・女・シ
炎陵(ia7201)
19歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●失念 ギルドからの依頼を受けて、早速開拓者達は動き出す。あらかじめ打ち合わせをしていた通り二班に分かれての行動――シノビ班の面々は先に山に入り、何か手がかりはないかと探索に、それ以外のメンバーは地図で場所を確認し、村へと向かう。志士の鍋島瑞葉(ia0969)と御凪祥(ia5285)、そして弓術士の只木岑(ia6834)はある作戦を実行に移す為、次に襲われそうな村に向かい、サムライの階上 魔夜(ia6514)と弓術士の炎陵(ia7201)は念の為、被害にあった村での情報収集を担当、昼には村で落ち合う予定だ。 「すみません、猿が襲ってきたとき何か変わったことに気づきませんでしたか?」 農作業をする村人に声をかけたのは、白い服に身を包んだ少年弓術士の炎陵である。彼はとにかく悪が許せないタイプで、今回の事件も背後に悪の存在を感じ、やる気満々のようだ。積極的に話しかけ聞き込みを続けている。 「そうねぇ〜あの時はいきなりだったしねぇ」 手を止めて考え出した農婆に笑顔で対応するのは、魔夜だ。稲刈りを手伝いながら彼女なりの聞き込みを展開している。 「どんなことでも構いません。気付いたことを教えて頂ければ助かります」 農作業を手伝って貰いながらだからだろうか。自然との他の者達も会話に加わっていく。 「そういえば、あの時先頭を走っていた猿はなんか小さかった気がするわぁ」 「小さい‥‥ですか?」 「そうだべ。真っ先にちっけぁ〜のが来てそれを追うように次々と猿らぁが現れたんだぁよぉ〜」 「それに、まっぴるまからいきなり出てこられちゃあびっくりしないでいるのがむずかしいけぇ〜ねぇ〜、何も出来なかったわぁ」 手拭で汗を拭こうとしていた村人の発言にはっとする。 「あの‥‥今、なんて」 「だから真昼だったんだけぇ〜」 (「しまった!!」) 空を見上げてみれば、太陽はもうすぐ真上にさしかかろうとしている。 「お話ありがとうございました。急がなければならない用が出来ました故、申し訳ありませんがここで失礼させて頂きます」 魔夜は素早く炎陵を呼び寄せ、先に行った三人のもとへと走る。 (「間に合って」) 彼女の切なる思いだった。 ●第四の村 「さて、思ったより早く準備に入れそうですね」 村人より借り受けた品々を手に提供された家に入る瑞葉が言う。続いて入ってきた岑、祥の手にも仲間からの提供の品があるようだ。勾玉やら扇子やらが抱えられている。彼らは猿達にわざと品物を盗ませそれを追跡、アジトとなる場所を突き止めようということで先にここに来ているのだ。村人達も猿事件の事は噂に聞いていたらしい。事情を話すなり二つ返事で許可がおり、もう使われていない民家を提供してもらったのである。 「ボクは何をすればいいかな〜?」 手にした品を土間に下ろして岑が問う。その時だった。わずかながら空気が震える。 「‥‥鍋島さん」 外を警戒していた祥が何かを察知したように視線を送る。その視線の先には窓――五感を研ぎ澄ませば、わずかに聞こえる獣の声と微かな揺れ。 「これってまさか‥‥」 「そのようです」 瑞葉の言葉を聞くまでもなく、祥が外に飛び出した。 「ちょっとちょっと〜なんか来んのはやくない〜?」 岑も話し方こそゆっくりではあるが、自慢の秦弓を手に祥の後を追う。外には紛れもなくそれはいた。まだ距離はあるが何かが近付いてきているのは間違いない。 「まじもんの猿みたいだね」 人の可能性も視野に入れていた岑。弓を射るだけあって遠くのものを見抜く視力は伊達じゃない。 「鍋島さん! 予定とは違いますが已むを得ません、いきます」 片袖を下ろすと物見槍を一振り、構えに入る。 「わかりました。今からできる限りの細工をします。時間を稼いで下さい!」 「了解した」 「りょうかい〜」 瑞葉は二人の返事を軽く聞き流し、家の戸を締め懐から色の鮮やかな布取り出し準備に入る。 (「大丈夫、間に合うはず‥‥いえ、間に合わせます」) 戸が閉められたのを音で確認し、外の二人は迫り来る猿を前に立ちはだかる。猿達はわかっているのか他の家には目もくれず、彼らのいるところへ一直線に駆けてきており、槍と弓では到底裁ききれる数ではない。 「時間を稼ぐにしてもこの数は」 突然の事態に、少し緊張が走る。 「まぁ倒す必要はないんだしさぁ〜なんとかなるよ」 岑はそう言って攪乱を開始、猿の固まっているところを狙って次々と矢を放っていく。 「そうだな‥‥少し焦っていたようだ」 岑の言葉に落ち着きを取り戻し、祥は窓に近付く猿に槍で応戦。適当に叩き落としていく。しかし、やはり数の差は大きかった。持ち堪えたのはわずか数分――何匹かは気を失って地面に転がっているが、大半は侵入に成功、獲物を持ち去ったようだ。猿達の帰っていくのを見送って、中から顔を出した瑞葉が笑顔だったのを見てほっと一息つくの二人であった。 ●失敗転じて 囮に使った家の中、本日の結果報告が展開されている。使われていなかったとはいえ囲炉裏があり火を入れれば十分使える家なのだ。暖を取りつつ、今日の襲撃を話し終えて一同言葉を詰まらせる。 「よく考えたら依頼書にも書いてあったのに‥‥先入観で夜と判断していた。すまない」 作戦の穴にどうして気付けなかったのかと、このチームで一番の年長者である魔夜が悔やんでいる。 「落ち込まないで下さい、気づかなかったのは私も同じですし‥‥なにはともあれ細工はちゃんと出来ました。それによい報告もあるんですよね、隠神(ia5645)さん」 にっこりと笑顔で振られて、少し顔を逸らす隠神――彼は山に入って調査していたシノビの一人である。こほんと咳払いをして話し始める。 「我々の調査の結果、拠点と思われる場所を突き止めた。今、監視として珠々(ia5322)が現場にて待機中だ」 『えっ!』 いきなりの爆弾発言に知らなかった者達の声がはもる。 「どういうことだよ?」 「詳しい事については功労者の支岐(ia7112)の口から聞くべきだ」 「はい?」 突然名前を出されて、まったりと茶を啜っていた支岐がことりと首を傾げる。 「えっとなんのお話でしたか? ‥‥えぇ〜と拠点の? 私はただ山を探索していました。そろそろ日が暮れると見て、警備の為に村へ戻ろうとしておりましたら、ちょうどお猿様達が走ってくるのに遭遇し、口や手には何やら品物が‥‥」 つまりは偶然にも、寸でのところで猿たちの追跡に移れた、という事なのだろう。 「作戦で目立つ布をつけると申しておりましたからその目印があったようなので早駆で追跡した次第。すると小屋に辿り着いたというわけです。私は何もしてりゃしませんので‥‥」 控えめにそう言って、再び手にしていた茶を啜る。 「それともう一つ、やはり当初の我々の予想通り裏には人間の存在があるようだ。山にはさまざまな跡が残っていた‥‥しかも、わかる者がみればすぐわかるような痕跡だ。どう考えても今回の首謀者は素人だ。どうやって猿を操っているかはわからないが」 どこかで期待していたのだろう、少し残念そうな表情で隠神が告げる。 「まぁ場所がわかったんなら話は簡単〜本人に聞けばいいだけだし〜」 岑の言葉に、一同納得するのだった。 ●突入 「お疲れさま」 朝早くに村を出た一同は呆気ない程順調に拠点と思われる小屋へと辿り着いた。あらかじめ連絡役の隠神が道を確認していたこともある。珠々は疲れた様子もなく、仲間の到着を待っていた。祥に気遣いの言葉をかけら少し戸惑いを見せた程だ。シノビである彼女にとってこういった事は当然であり、心配され慣れていないらしい。 「ありがとう」 いつもは無表情の彼女の頬がわずかに赤らむ。しかし、隠神に報告を求められはっともとに戻す。 「小屋を囲むようにお猿さん達が十数匹‥‥中もいるかな。後は、やっぱ人が住んでるのは間違いないと思う。窓から煙が上がっていたし明かりも灯ってた」 「さて、どうしましょうか?」 瑞葉が仲間を見回して問う。 「中の人だけを誘き出したいところだが、あのように監視されていると誘き出すのは難しいな。ここは正面から行くしかないだろう、そのうち騒ぎに気付いて中から出てくるかもしれんし、この数ならなんとかなると思うが」 隠神の提案に同意して一行は行動を開始した。 出来るだけ被害は少なくしたい。 盗みをはたらいていた猿達だとはいえ操られていた可能性もある。極力、猿を傷つけないように対処する。魔夜が先陣を切った。小屋の前に出、咆哮一発、猿達の動きを足止めする。そこへ志士の二人が前へ、動きを止めている猿達を気絶に持ち込んでゆく。咆哮にかからなかったものにはシノビ班が対応。手裏剣を飛ばし動きを封じる。襲撃を受けた日とは明らかに違う展開。数で上回ろうとも知能と連携の差は埋めようがない。開けた道を弓術士の二人が前に進む。多少引っ掻き傷を付けられはしたが大した怪我はないようだ。 「隠れてないで出てきやがれっ!」 勢いよく扉を開いたのは炎陵だった。続いて岑と他のメンバーが中を覗き込む。 そこには、少し気弱そうな中年の男と男を守るように一匹の猿がいるだけ。 「キィ――キィ――」 男の横で激しく奇声を上げている猿を制して男はフラリと立ち上がる。服装はあまりにもみすぼらしく、体格もやややせ気味‥‥とても猿達を操っていた人間とは思えない。どちらかといえば捕われたのではと思えるほどだ。意気込んで入ったはいいが、この光景に戸惑いさえ覚える。 「あの‥‥あなたが猿達のリーダーというか、飼い主ですか?」 自分でも変な聞き方をしていると炎陵は思う。しかし、相手からは殺気も悪意も感じないのだ。まさか人違いではないだろうが、どうにも落ち着かない。 「いかにも、私がこの山の猿達のリーダーです。いや‥‥リーダーになってしまった男というべきか。いや、しかし助かった‥‥やっと帰る事が出来る‥‥」 男の安堵に開拓者達は呆然と立ち尽くすしかなかった。 ●猿の恩返し? 男は空き巣犯だったという。ある日、家を物色するために村を訪れた際、親とはぐれてしまったらしい小猿を発見。みれば犬に襲われたのか大怪我を負っており、捨て置けなかった男は思わず助けたのがきっかけだった。 独り身だった男は小猿の傷が癒えるまで面倒をみる事にした。仕事の際は一人にする訳にはいかないと連れていったのがまずかったようだ。それを見ていた小猿はそれを覚え、傷が癒える頃には仕事を手伝うようになっていたという。 けれど、猿一匹とはいえ、空き巣をしないと生きていけない生活状況でこれから先面倒は見切れない。野性に返す事を決意して子猿を山へ――一旦は別れたのだが、日が経つにつれ心配になり山に戻ると、ボス猿と思われる猿と争っている小猿を発見。親心からか助けに入りボス猿を倒してしまった男は、自動的に群れのボスになってしまったという。小猿はそれ以降、男の為にたまに民家から品物を盗んでは持ち帰り男の家までやってくるようになり、それが群れに広がったようだ。 ボスに気に入られるには民家から品物を持ち帰り献上すればいい‥‥と思い出したのかどうかはさておいて、気付けば猿達から色々な品物が運ばれてくるようになり、人の目が気になり出した男は朽ち果てた山奥の小屋に隠れたということだ。ちなみに盗まれた品物は小屋に入り切らず近くの洞窟に隠していた。売りに行こうにも量が多く、いきなり持ち込めば怪しまれる。ほとぼりが冷めるまで保管してからと思ったらしい。洞窟には盗まれた村人達の貴重品が無造作に山積みにされていた。 「ボスなんかやめてさっさと降りればよかったのに」 炎陵の言葉に、男はため息を付く。 「そういうが、どうしたらいいかわからなくて‥‥猿のボスのおり方なんてわかる訳ないじゃないですか?」 「そうかな? 自分が思うにあなたがボスになった時と同じことをすればいいと思うけど」 「同じこと?」 「つまりあなたが倒されるもしくは死ねば、次のリーダーに変わる。そしたら、新しいルールもできるみたいな?」 珠々が繋いだ言葉に、男の表情はぱっと変化する。 「なぜ思いつかなかったんだ‥‥」 男はその日のうちに死んだふり作戦を決行――うまくいくか不安はあったが、うまくだませたのか相棒の小猿以外は男から離れて行き事件は解決する。 「でも、一度味を覚えた猿だど。また来たりせんでしょうか?」 品物を返しに立ち寄った村で、とびきりのご馳走を頂きながら、村人らに真相を話す面々に質問が飛び交う。 「それは多分大丈夫ですよ、彼ら猿達にとって重要なのは食べ物です。作物狙いで来ることはあっても民家に押し入った挙句、物品を持ち去ってももう彼らには意味が無い、そんな事をするほど彼らは馬鹿ではないようですから」 今回の一件で猿の利口さを悟ったのか、炎陵が答えている。 「結局その男はどうなったんで?」 「あの人、自首したみたい。最後に残った小猿と一緒に役所行くっていってた」 手前の料理に手を伸ばして、珠々も村人の質問に答えを返すが、やはり慣れないのか少しぎこちない。 「なにはともあれ、無事戻ってきてよかった」 岑が、ほっとする。相手がもっと悪人だったなら猿と間違えたと言って打ち抜いてやろうかと考えていたのだが、それもせずに済んだのがなによりである。 「まぁ、新米で御座いましょうか? 炊き立てつやつや、素敵ですっ」 約一名、微妙に違うところに意識がいっているものがいるようだが、それもまたそれ。 かくして、猿達による盗難事件は幕を閉じたのであった。 |