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■オープニング本文 未来が進んでも、進まなくとも、朝になれば日は昇るし、夜になれば月は出る。 何も変わらない日常――ただ少しだけ違うのは、アヤカシの脅威がそれ程でもなくなった事…。 それでもギルドはまだ健在で開拓者への仕事も未だに途絶えない。 が、何かが物足りない。 大アヤカシを前にして、高まった鼓動。己の力を究極に研ぎ澄まし向かって行ったあの日々…。 もう一度戦いたい。全力でやり合える相手が欲しい。力の持ち腐れになるならば自分は――。 そんな時、ふとあなたの脳裏にあの人物の影がかすめる。 いるではないか。 全力で戦える相手、今まで手を取り闘ってきた同朋。 あるいは一時休戦にしたままの好敵手……今ならば何も気にする事無く戦える。 幸いにも新たな儀の発見が続いている為、場所も確保できるかもしれない。 やり合いたい。 自分がどこまで成長して、あいつを超えられているのか。 あるいはどちらが強いか、はっきりさせなければ終わるに終われない。 そう考え出すといてもたってもいられなくなって……手頃な場所を探す。 いや、正直言えばどこでもいい。他に迷惑のかからない広い場所であればさして問題はない。 後は…あいつの合意が必要だ。 やるからには本気で…但し、流石に命のやり取りは大袈裟か。 そんな事を考えながら歩いて……気付けば、その時はもうすぐそこまで来ていた。 ーー ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 ※注意(追記) このシナリオは一般的な【未来】シナリオと違ってIFシナリオです。 シナリオは未来の世界設定と極端に矛盾しないよう設定されていますが、実際の出来事、歴史としては扱われません。 ※後継者の登場(一部可) このシナリオではPCの子孫やその他縁者を一人だけ登場させることができます。 後継者を登場させた場合、PC本人は登場できません。 |
■参加者一覧
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 〜神縁の章〜 ●一 時は今から八年後――一人の少女は今や大人となっている。 彼女の名は蓮神音(ib2662)… 小柄であったその身体はすっかり女性のものとなっていたが、彼女の心には未だ抜けない棘がある。 「…早紀の料理は美味しかったな」 それは大好きな人から出た些細な言葉。彼自身はそれ程、その言葉に重みがあるとは感じていなかった事だろう。 しかし、彼女にとっては……その言葉はとても重要な意味を持つ。 (ずっと私がセンセーの御飯を作って来たのに…何でそんな事言うの?) 本人に問いたくても勇気が出なかった。 それにそんな事を気にしているなんて知れたら、器が小さいと思われるかもしれない。だから言えずにここまで来た。 だけど、このままは嫌だ。はっきり決着をつけておきたい。 (センセー…私、絶対負けないから) 一人の部屋で――彼女は筆をとる。 相手の名は神座早紀(ib6735)…彼女にとっては無二の親友だ。きっと理由を知れば驚くだろうが、構わない。 その様子にいつもと違う雰囲気を感じ、彼女の相棒・くれおぱとらは尻尾を静かに揺らす。 (決着の時のようじゃの。どれ、付き合ってみるのも悪くないのじゃ) さらさらと書き進められる文を彼女は面白そうに見つめる。 「そうだ、でも審査員は誰にしたらいいかしら?」 対決するにあたって内容が味勝負とすると、誰か審査する者が必要だ。 しかし、直接本人を呼び出すのは恥ずかしい。 「うーん、暇そうな人、暇そうな人…」 「ポチの主人はどうじゃ?」 「そうだ、それだわ!」 くれおぱとらの助言で彼女の悩みはすぐに解決した。ちなみにポチというのは、知り合いの猫又の事である。 「仕事で知り合ってる後の二人も呼びましょう。職種も違うし多い方が判断して貰いやすいもの」 神音はそう言って更に筆を走らせた。 そして数日後。 「ん? あいつから手紙? ってか何だよこれ…来ないと呪われます?」 一人の罠師が文の内容を知り、不審げに見つめる。 「なっ、これは何かの一大事かもしれないさね! 鍋蓋の神さんがついているとはいえ呪いは勘弁さぁ」 そう言うのは鍋蓋をこよなく愛す志士。鍋蓋を磨く手を止め慌てて支度を始める。そしてもう一人は? 「呪いだぁ? 全く面倒臭ぇ…ポチお前だけ行って…」 「ダメにゃよ。これ、ご主人宛にゃから行かないとご主人が呪われるにゃ」 「……」 相棒の言い分に無言の抗議をやって、別に呪いなど信じてはいないがほおっておくのも落ち着かない。 かくして多少強引なやり方ではあったが役者は揃った。 待ちわびたその日、 「神音さん、これは一体どういう事なのですか?」 どうしても来て欲しいと書かれた文を手に、訳が判らないまま現地入りした早紀が問う。 「そうだ、どういう事は説明しろよな」 と、これはキサイだ。 呪いがどうとか書いてあったが、指定の場所に来てみれば、そこは南国気候の無人島。何が何だかさっぱり判らない。 「皆来てくれて有難う。騙してごめんね。実は斯く斯く云々……って事で三人には審査員をして欲しいのよ!」 そこで神音は悪びれる事無く正直に今回の意図を打ち明ける。が、当然ながら納得がいかない様で、 「何で俺が…」 「くだらん。俺は帰るぞ」 キサイは愚痴り、一抹は踵を返す。けれど、もう一度言おう。ここは無人島だ。 「次の飛空船がここに来るのは夕方よ。だから三人には付き合って貰うわ」 どーんと胸を張って彼女は言い切る。 「えとー…張り切っているみたいですけど、そのなぜなのでしょうか? できれば理由をお聞きしたく…」 やる気満々の神音とは対照的に早紀の方はそれ程でもなく、気にかかるのはやはり理由の様だが…。 「それは……そうね、私に勝ったら教えてあげるわ」 言おうか迷った神音だったが、審査員の三人もいる手前巧みに誤魔化す。 「うーん、私は神音さんが上という事でいいんですが」 「それはもっと駄目だって! お願い、勝負してッ」 困惑は隠せない早紀であったが、真剣な目で親友にそう言われては仕方がない。 早紀も彼女とは長い付き合いであるから、こうなると梃子でも動かない事は誰よりも把握している。 「仕方ありませんね…判りました。でもやるからには全力でいかせて頂きますからね」 巫女服の袖をたくし上げながら早紀が言う。 「それじゃあ、早速始めるさね。よーーい」 そこで新海が音頭をとってはみたが、 「ちょっと待て。ルールはどうなっている?」 と一抹に指摘され、その辺がまだおざなりだったことに気付く。だが、 「それは決めてるわ。三時間一本勝負。ここにある食材を使って作るサバイバル料理対決! 獲得票の多い方が勝ちよ」 と神音の補足が入り、一段落。 「調味料は…なんか揃ってるみたいだから、これを使えって事でいいんだよな?」 それに加えてキサイが早紀の代わりに尋ねると神音はこくりと頷いて―― そうして、ようやっと二人の対決が始まるのだった。 ●二 パッと見、食材は豊富な様だ。島内を移動すれば暖かい地方のもの以外もとれるかもしれない。 「よし、じゃあ行くよ。くれおぱとらっ!」 「仕方ないの。力を貸そう」 神音が元気よく走り出す。 「こちらも参りましょうか。月詠、船の準備を」 「了解。なに、俺にまかせときゃ勝ちは堅いって」 早紀はからくりの月詠に早速指示を出し、廃材を掻き集めて手早く船を作らせる。 「あいつら、海に出る気か。三時間でそう簡単に釣れるもんかねえ」 一抹の呟きであったが、彼の心配は杞憂に終わる事となる。 というのも彼女達は二手に分かれて食糧調達を開始したのだ。月詠は簡易に作り上げた船で海に出て魚釣り。 姉御肌なのか豪快な喋り口調と相まって、意外と様になっている。 「よっしゃー、早紀の為にも俺がどうにかしないとな。でっかい大物釣ってやるかね」 ぶぅんと釣竿を撓らせて、彼女は浮きを遠くへと飛ばす。狙うはぎょろり目玉と色が印象的な金目鯛。 金目と言えば深海二百m以上に生息する魚で通年獲れる割に味もいいと重宝する魚だ。そこに目を付ける辺り、確かに早紀はそれなりの知識を有しているのかもしれない。脂ののった金目鯛…海での漁経験のある一抹としては嬉しい食材でもある。 一方早紀自身は魚を彼女に任せ森へ。お目当ては勿論春食材――キノコ類と筍のゲットに挑む。そのついでに青竹の物色も忘れない。よく考えれば調理器具さえ用意されていないこの状況。そこで彼女は青竹を利用しようと考えた様だ。 「あら、あそこには神音さん。やはりワイルドな事をされてますねぇ」 遠目に見えた人影は今まさに狩りの最中だ。 「くれおぱとら、よろしくね」 そう言って神音が見つめる先には一頭の猪。袋小路に彼女は待機して、相棒にそこまで追い込んで貰うらしい。 「ゆくぞ、猪よ」 くれおぱとらはがさりと大きく音を立てて猪の前に飛び出すと、ぐるると牙を見せ威嚇してみせた。 それに慌てて進路を変える猪。相手が神仙猫とあっては勝ち目がない。一目散に右へ左へ…短い脚ながら器用に木々を避け駆け抜けてゆく。が、その行く手には待機中の神音がいて、 (聞こえる。地を蹴る足音……近い。そろそろね) 意識を研ぎ澄まし気配を探る。その間に拳に意識を蓄え…… ドドドドドッ 足音にカッと目を開くと、目の前には彼女より大きい巨大猪の姿。しかし物怖じしたりはしない。 「えいやー!」 それは的確な一撃だった。すぐそばまで迫る猪の米神に渾身の正拳突き。ぶわっと一瞬風が起こると、当たったか当たらないかの距離で猪は白目を剥き、次の瞬間その場にばたりと倒れる。 「ふふ、やったわー。修行の成果は裏切らないわね」 今までにも山籠もりの時にお世話になってきた狩りの方法。そういえば昔、高級豚のボスを相手にした事がある。 その時も力づくではなかったか。それはともかくこの猪を使って勝ちを目指す彼女である。 「次は野菜ね。臭いで辿れそう?」 戻って来たくれおぱとらに彼女が問う。 「何の臭いじゃ?」 「にんにくとかクレソンとかかな?」 「やってみるのじゃ」 彼女の希望に従って、相棒が鼻を利かせる。その間に彼女も調理器具の事を思い出して…。 (やっぱり青竹しかないかも…) 竹のある方向には早紀の姿が見える。どうも考える事は同じ様だ。 (でも、絶対に負けないんだからね) 彼女の闘志はどこまでも燃えている様だった。 対決は後半戦。 食材が揃った所で両チーム調理へと移る。 「やっぱり肉が一番だよなぁ」 その様子を眺めながら審査員では一番若いキサイが呟く。 彼の視線の先にはさっき仕留めた猪があった。それを下処理して、次は野菜の灰汁抜きだ。 青竹を割ったものを鍋代わりにして、そこでさっと茹でてここからが本番。 「成程、神音さんは石板焼きですか」 平たい石を選んでいるのを見取ってすぐさま料理を当ててしまう早紀。が、目を取られている場合ではない。こちらも手早く筍の皮を剥き、キノコを適度な大きさに切る。 「お待たせっ。大漁だったよ」 「ふふ、有難う御座います」 そこへ海から戻った月詠より金目を受け取り作業開始。手慣れた手付きで魚を捌くと、下味をつけてゆく。 そして青竹の入れ物に全ての食材を一緒に入れて後は待つのみ。 「あれ、水はいれないさね?」 思わず新海が呟く。 「問題ありません。竹自体から水が出るので…香りもついて一石二鳥なのですよ」 そう言って丁寧に解説。 そういえばここには男ばかりだが、今の所近距離で接する事も触れられる事も無い為問題はなさそうだ。 そうこうするうちに神音も仕上げに入った。焼き石に味噌の土手を作って温めるとまずは野菜から。こちらも水分はなるだけ足さずに食材からのを使うらしい。味噌が溶けてきたらスライスした猪肉を並べ焼く。 香ばしい匂いが審査員の胃袋を鷲掴む。元来味噌とはそういう特性を持っている気がする。 「さぁ、審査員達、沢山食べて頂戴ね」 「こちらも出来ました。どうぞお召し上がり下さい」 二人の料理が出揃った。いよいよその時である。 ●三 「俺はまずこっちを頂くぞ」 審査員達がどちらからいこうか迷う中、そう言い青竹を持ち上げたのは一抹だった。やはり魚が気になるらしい。 まずは汁から。青竹に口を付ければまず薫るのはやはり瑞々しくも爽やかな青竹の香り。そして、次に訪れたのは山と海の二つの出汁だ。金目から沁み出た旨みをキノコの旨みが更に引き立てる。一口で山海をどちらも感じるというのはなかなか出来る事ではない。そして、箸で掬い上げ口に運べば筍の優しい甘さが広がる。掘り立てであるからえぐみはない。筍であるのに柔らかな触感があり、何とも不思議だ。 「うまいな。天儀酒が欲しくなる」 ふわっと解ける魚の身も口休めになるキノコも文句の付け様がなく、一つの節に入ったそれだけでは物足りない位だ。汁まできれいに飲み干して、一抹はふぅと満足の息を吐く。 「じゃあ、俺はこっちだな」 その隣ではキサイが石板焼きに箸を伸ばす。こちらの強みは何と言っても味噌の香りだろう。彼もそれにやられたらしい。野菜と一緒に猪肉を挟んで口へと運ぶ。すると噛む度に猪肉からじゅわりと肉汁がにじみ出し食べている満足感を与えてくれる。だが、いくら食べても脂っぽいという感じはしない。なぜなら、 「この山菜の苦味が癖になりそうさね」 肉と一緒に頬張る事によって口内中和を試みるのは灰汁抜きした山菜達。ニンニクと言えば肉と合わない筈がない。新海もどうやら気に入ったらしい。箸が一向に止まらない。 (高評価ね) その様子に神音が心中でガッツポーズを取る。けれど、彼は早紀の鍋にもとてもいい感想を残す。 「こっちは自然の旨みがぎっしりって感じさね。ほっとする美味しささぁ」 温泉に入った後かと思える様な表情を浮かべて、彼はさっきそうも言っていたのだ。 どちらの料理も食べ終えて、さて問題の結果発表。 「さぁ、ずばっといっていいわ。どっちが純粋に美味しかったの?」 身を乗り出す様にして問う神音をよそに、早紀の方は冷静だ。未だそこまでムキになる理由が判らない。 (どちらが勝ちでもいいのですが…でも、勝ちたいとも思う訳で) 「えーと…そうさね。勝者は」 「勝者は?」 ごくりと固唾を飲む中、審査員三人は一度顔を見合わせる。そして、 「……早紀さね」 「うえぇぇぇ!」 ぼそりと告げられた言葉に、神音ががくりと膝をつく。 「ホント、凄く迷ったさね。けど考えた末、三人の答えはこうなってしまったさね」 申し訳なさそうに新海が言う。 「そうなのね…だったら、仕方ないよね」 自分が選んだ審査員だ。文句をつける訳にはいかない。だが、負けず嫌いの彼女にとっては痛い敗北である。 ちなみに決定的な理由は、魚だったという所に尽きる。山奥出身のキサイに、漁で慣れた一抹、そしてやっぱり最後は健康を考えると魚だったという新海の考え方によるものだ。 「あの、神音さん。そんなに気を落とさないで…」 早紀がそっと肩に手を当てる。 「でも、でも…」 「あの、本当に一体どうしてそう拘るのですか?」 そこで神音に再び尋ねて…負けた手前、彼女は潔く早紀に理由を耳打ちする。すると早紀は、 「フフッ、成程そういう訳でしたか。なんか神音さんらしいですね。そんな事すっかり忘れていました」 早紀はそう言ってくすりと笑うと、ぺろりと可愛く舌を出す。 「ちょっとひどいよー。早紀ちゃん何笑ってるの、もう!」 が、神音としてはそれが恥ずかしくてたまらない。子供の様にぷぅと頬を膨らせ抗議の眼差しを送る。 「まあ、いいじゃねえか。またやれば…生きてりゃ何度だってチャレンジできるさ」 一抹が珍しく助言する。 「そうさね。次、頑張ればいいさね」 「今度は同じ食材にしとけよ。その方が判定しやすい」 それに続いて新海とキサイからもアドバイス。審査員達はこれで、ご馳走になったそれのお礼のつもりかもしれない。 「そうね。次は私が勝つわ」 神音はそう言って拳を握る。そんな一途な友に早紀も負けじと応えたいと思うのだった。 〜血脈の章〜 ●一 ここはパティスリー・エムロウドという名のお菓子店。惣菜も扱うが、メインは洋菓子である。 その店内で一人の少女・千紗は母のからくりのアンフェルネと共に調理台の前である菓子と対峙していた。 「とーちゃん、明日こっちに来るって言ってた」 お菓子から目を離さずに彼女は真剣に言う。 「だからね、あたし…これに勝ちたいの」 そう言って彼女は目の前のクッキーを口にほうり込む。 それはこの店の販売品…彼女の母、シーラ・シャトールノー(ib5285)の作ったものだ。 歯に当たると同時にさくりと割れて、中からは甘いバニラの香り。甘さが加減されているから卵の風味もしっかり残っている。それに加えて、美味しさを引き立たせるのは絶妙の焼き加減。この焼き加減なくして、この香ばしくも甘過ぎない味は出す事は出来ない。 「ねえ、アンフェルネ。これより美味しいの出来るかな?」 唐突な千紗の質問に彼女は暫し考える。彼女自身もシーラからお菓子作りは教わり、腕前はプロ並みであるから少女の頼みを実行できるかどうかを正確に判断する事は可能だ。 「あたしね、かーちゃんのお菓子より美味しいお菓子作って、とーちゃんを驚かせたいんだ。だから」 そう言う千紗に彼女は、 「具体的に作りたいものはあるの?」 と、コバルトブルーの瞳で優しく尋ねる。 「あのね、あたしふわふわのシフォンケーキを作りたいの」 「……シフォン、ですか」 目をキラキラさせて言う彼女にしかし、アンフェルネの判断はからくり故か、正確でありそれは非情のものとなる。 「それはちょっと…」 シフォンケーキと言えば根気と体力のいるお菓子だ。あのふわふわの生地を作る為には卵白を泡立てるという作業を要する。この泡立てる作業が初心者には難しい。ただ泡立てるのではなく、空気を含ませる様にしなければならないし、しっかりと角が立つまで硬く泡立てなければふんわりとした生地に仕上げる事は出来ない。つまりはコツを知らずにするとなかなか思う様に泡立たず、時間と体力ばかりを要する結果となるのだ。 「いや。作れるもん、絶対作れるもん!」 そう言って聞かない千紗を彼女は説得しようと試みる。 が、二人の攻防は数十分に渡り、折れたのはアンフェルネの方。 「わかったわ。材料を準備するから少し待ってね」 そう言って彼女が手早く材料を計る。その間に千紗は嬉しそうに道具を集めてまわる。母のそれを見ているから多少なりとも使う道具は判る様だ。ピカピカに磨かれたボールに自分の顔が映るから、何だかそれも楽しい。 「美味しーの作るんだー♪」 母と同じ黒髪を三角巾で纏めて、五歳の彼女は調理台の前においた踏み台に上がる。 「では、これをかき混ぜて下さいね」 「うんっ♪」 元気な返事だった。しかし、時間が経つにつれて彼女の元気は泡となり消えてゆく。 ガチャガチャガチャ 「まーだー?」 「まだです」 ガチャガチャ 「できたよー」 「まだ出来てません」 始めてからかれこれ一時間。けれど、子供の手ではいくらかき混ぜた所で粗めの泡止まりだ。しかも、乱暴に混ぜるものだから調理台の上には卵白が飛び散っているし、用意していた粉類に当たり、若干辺りが白くなっている。 「むー……ふわふわ、ふわふわ…」 泡立て器を持ち上げても流れてくるのはただの卵液であり、流石の千紗も泣きそうになっている。そこで、 「千紗、トゥルグルと言うお菓子があるの。口当たりが良くて、美味しいの。それにしてみない?」 とアンフェルネがここぞとばかりに新たな提案。飽きていた千沙はそれに食いつく。 「それ、さっきのクッキーよりも美味しいの?」 「そうね。美味しいかもね」 「だったらやるー!」 彼女はそう言うと泡立て器から手を放し、アンフェルネに作り方を教えて欲しいとせがみ始める。 (こっちの余りは……責任をもって私が仕上げるしかないわね) アンフェルネはそう思いながら、千紗に作り方を教え始めるのだった。 ●二 「少し早く終わったぜ」 ギルドからの帰り道、今日はシーラの店の定休日であるが店は開いているだろうか。明日帰ると言っているが、一日早くても問題はないだろう。キサイはそう思い、店の方へと足を向ける。が、彼女自身は材料の仕入れやらでお得意様への挨拶やらで店にはいないようだ。 (久し振りにちょっと悪戯でも仕掛けて…ってあれ?) 扉に鍵がかかっていない事に気付いてこっそり中に入った彼であるが、更にその奥から聞こえた声に彼は眉を潜める。 「おコメを研いでっ♪ お砂糖とシナモン、牛乳に入れて♪ お米も入れて良〜く混ぜてっ〜♪」 と、そこには鼻歌交じりに何かを作る娘の姿――ちらりと横にいたアンフェルネと視線が合う。 そこで慌てて彼は口元で指を立てた。要するに「黙っていてくれ」のサインである。 彼女もそれを了解した様で、千紗の隣に立ち、何食わぬ顔でその作業を見守る。 「ね、ね、ここまではうまくできてるよね?」 鍋に材料を投入して後はぐつぐつ。 簡単に言えばミルク粥であるが、釜の余熱を使って作る為時間を有し、彼女は鍋を行ったり来たりしている。 「ええ、大丈夫です。後少し…頑張りましょう」 そういう彼女に千紗も笑顔。混ぜた時に飛んだのか顔にご飯粒がついていたりするが気にしない。 「あとすっこしっ。とーちゃん、帰ってくる―♪」 そう言ってまた歌い出す娘にキサイから笑みが零れた。やはり待ってくれている者がいるというのはいいものだ。 (このままってのもあれだし、何か土産でも買って出直すか) キサイはそう思いそっと店を後にする。店からはその後も明るい歌声が響いていた。 ●三 「とーちゃん、お帰り―♪」 留守のシーラに代わって御機嫌でお出迎えする千紗とアンフェルネ。 「ああ、ただいまだぜ。いい子にしてたかよ?」 キサイは何食わぬ顔で今帰った様に装い娘の頭を撫でる。 「えへへー、とーちゃんに今日は見せたいものがあるんだ」 「見せたいもの?」 かくりと首を傾げて彼が問う。 「そう、これで〜す。ねぇ、とーちゃん。千沙が作ったんだよ、食べてみて〜」 零さない様に慎重に運んできた皿には真っ白のお粥のようなもの。 すでに取り分けているらしいが、完璧にとはいかず所々皿の淵に米粒とこげがついている。 「へえ、よく頑張ったな。どれ、一口…」 キサイは焦げに目をつぶりつつ、添えられたスプーンで少し掬って口へと運ぶ。 ごくりと千沙から息を飲む音がした。そして、咀嚼するキサイを真剣な目でじっと見つめている。だけど、いてもたってもいられなくなって、 「ねえ、とーちゃん。美味しい?」 いつになく緊張した面持ちで言葉を待つ彼女。アンフェルネも内心はらはらした様子で見守っている。 第一印象は甘いお粥? そんなものだった。けれど、キサイはこの手のものへの偏見は持たない様にしている。罠師という職業柄、騙される事には警戒を払わなくてはならない。だから見た目で決めつけてしまうのはタブーだと教えられてきたのだ。それによく考えれば、甘い米製品は他にもある。おはぎや桜餅などがいい例だろう。だから、彼は素直な感想を紡ぎ出す。 「…うん、甘くて美味しいぞ。さすが俺の娘、なんでも器用だぜ」 その言葉に千沙の緊張の糸がぷつりと切れた様だった。 「でしょでしょー。かーちゃんのより美味しいでしょ〜♪ あたし、とーちゃんの子だもん、だから天才なんだ〜」 ぱぁっと笑顔の花を咲かせたかと思うと、キサイの膝の上に飛び乗り自慢げに話す。 「大きく出たな、シーラよりって…あいつが聞いたらどういうか。くくっ」 その言葉ににやにやしながら、残りのトゥルグルも二人で分け合いつつ、平げてゆく。 「かーちゃんにも食べて貰うんだ。そして、参りましたって言わせるの〜」 千沙はすっかり天狗でそんな事を言い出して、若干キサイは苦笑い。きっと褒めはしても降伏宣言はないと思う彼である。と、そこで彼は土産のことを思い出し、小さな包みを娘に手渡す。 「これは〜?」 「いい子にしてた千沙への土産だぜ。開けてみろよ?」 がさがさと開いた包みの中には明るい色のエプロンが。動物の刺繍が入った特注品だ。 「これ、あたしに?」 「だぜ。次も美味しいの作って貰わないとだろ」 「うん! 任せて〜♪」 千沙が膝からぴょんと飛び降りて早速身に着けくるくる回る。天儀の片隅、ここは至って平和であった。 〜風奏の章〜 ●一 それは何気ない会話の中に紛れ込んでいた。 「明日、ちょっと付き合ってくれねぇ?」 普段通りの飄々とした様子で、笹倉靖(ib6125)がケイウス=アルカーム(ib7387)に言う。 一仕事終えての労いの一杯。そんな事も仕事を共にすれば多くなり、今や常連の店まで出来ている程だ。 出会いは遥か前――二人がまだ十代の頃の事。二人は後衛職という事もあり舞や歌の練習を共にした仲だったが、一度は道が分かれる。が、暫くしてその離れていた縁は再び交わる事となる。開拓者登録……それが二人を呼び戻したのだ。そして、その後はある依頼をきっかけに彼らはまたコンビの様な関係を築き始める。 時に親友、時に相棒……それだけに留まらず、今や恋敵であり、ライバルという事にまで発展している。 そんな仲であるから何かしらの違和感を感じて、ケイウスの返事が遅れる。 「え……いいけど、どうしたの?」 そう返すと靖は少し困った様に笑って、 「いや、本当大した事じゃないんだけどな。色々気になる事もあるし…まぁ来るんならいいんだよ」 「?」 誤魔化す様にそう言って煙管を吹かす彼に、ケイウスは首を傾げる。 (色々気になる事か…。俺にもない訳じゃないけど…) それは今でなくてもいいと彼は思う。楽しくやっていけるなら急ぐ事でもないのだ。 「じゃあ、明日何処に行けばいいのかな」 何となく愛用の竪琴に手を添えて、ポロロンッの弾き彼に問う。 「ここで。場所はそのメモに書いてあるから」 靖はそう言うと「今日はこれで」と席を立った。いつもの彼ならばもう少しいる筈なのに…やはり少し様子がおかしい。 (気のせい…じゃないよね。これは) 去っていく背を見つめケイウスが思う。 「なあ、にーちゃん。折角だから一曲弾いてくれよ」 その声に快く応じて、ケイウスは演奏を始める。が、今日の彼の演奏には少しの迷いが見え隠れしていた。 『やめろっ、俺の姿であいつを傷付けるんじゃねぇッ!?』 それは霧立ち込める森の中…少し前の依頼での光景。自分では見ていない筈なのに、疑似体験させるのはあの魔女の呪いか、はたまた自分の弱さか。人は心の奥に押し留めても深層にある強烈な記憶や体験は夢となって現れる事があるのだという。 まさに今、靖はそれを実感していた。 「ッー!」 目の前に映るのは自分と瓜二つの人間が親友の元へと駆け寄る光景。 ケイウスは少し彼を警戒している。そして至近距離までやって来た時、ケイウスの拳が自分を吹き飛ばす。吟遊詩人とは思えない威力だ。勿論自分はそれをまともに喰らってよろけて…反撃がないのを見てケイウスが近付く。 ドッ その直後の事だった。 瞬間、親友のわき腹にはナイフが深々と突き刺さる。そしてそれを突き刺しているのは紛れもなく自分で。 傍観していた筈なのに、気付けば見ていた筈の自分がナイフを握っている。 「ッアアーッ!?」 そこで靖は堪らず目を開けた。見開いた先、そこは彼の寝室――外はまだ暗く、天井だけが彼を見下ろしている。 「やな夢、みちまったな…」 明日はケイウスとの決着をつけると決めたのに…これでは決意が揺らいでしまうではないか。 「ひとまず着替えて来るか…」 まだ早い呼吸を無理くり整えて、彼は寝台を後にした。 ●二 ただっ広いその場所は何処か荒野を思わせる。砂煙の少し上がるその場所で二人は向かい合う。 互いの傍には互いの朋友――轟龍の赤紅と迅鷹上級のガルダもいつもと違う雰囲気を感じて黙っている。 「何もない所だね。一体何をするつもりだい?」 ケイウスが尋ねる。すると靖は真顔で、 「天儀武道会…引き分けだったよな。あれの決着をつけようや」 「え…」 そう言うから思わずケイウスから驚くような声が漏れる。 「立会人は互いの相棒だ。さぁ、いくぜ!」 「えっ、ちょっ…そんな急に…!」 宣言するや否や、靖は既に動き出している。扇『精霊』を天に掲げると、既に呪文の詠唱に入っている。 収束していく精霊力――今まで何度も見てきたから、ケイウスにもそれが何であるか判る。 (ヤバイッ!?) そう思った時にはもう遅かった。白霊弾が彼目掛けと飛来する。そして、着弾と共に大地を抉ってゆく。 「本気!?」 ケイウスは抉れた大地を見て、友へと向き直る。 「俺は始めからそのつもりだ…それに今のも当てようと思えば当てられた。次はねぇぜ」 服の裾をはためかせながら次の白霊弾を準備に入る。 「…わかった」 ケイウスもこの一言で覚悟を決めた。竪琴を所定の位置に構えて、靖の次の攻撃に備える。 二人の周りには目に見えない膨大な精霊力が収束し、それぞれに力を与えている様だ。 後衛職の二人の対決とは言え、結局の所互いが倒れるまで続けるという所に変わりはない。 靖の切り札は、勿論白霊弾だ。距離があってもこの技ならば、多少の融通が利く。であるから、彼は率先して白霊弾での追い込みにかかる。しかし、ケイウスもそれに負けてはいない。彼は吟遊詩人らしく受けの体制で反撃の機を待つ。暈影反響奏を巧みに扱い、放たれた白霊弾をはじき返したのだ。 戻ってくるそれに靖は慌てて月歩を発動。間一髪の所で避けて、今度は距離を詰める。 見知った仲だ。きっと相手の技はとっくに見通している。問題は何を今活性化しているかという事だ。 (月歩に、白霊弾……残りの手札は一つか) 靖らしくない活発な動きを目で追いつつ、ケイウスも演奏を止めない。 いつ次の攻撃が来てもいい様に弦からは指を離さずに、一定の距離を取ったまま、あちらの出方を見る。 「おいおい、攻撃してこねぇと…勝てないし、そんなんじゃもう口聞いてやらねぇからな!」 靖の言葉に少しムッとするケイウスであるが、彼とて別に受け身ばかりを繰り返しているつもりはない。 「だったら、受けてみるかい!」 そこで彼は曲を切り替えて――その曲に靖は一気に自分の身体が重くなるのを感じた。 竪琴には珍しい重音…いや、これはケイウスの声か? はっと視線を上げれば目の前の友は声なき声を発している。 それは対滅の共鳴――竪琴の奏でる旋律と奏者自身の声が共鳴し、靖の周囲に特殊な磁場が発生する頃には周囲は無音と化している。 「ぐっ!」 抵抗があるとはいえ、まともに喰らっては動く事さえままならない。 無駄と判っていても足掻かずにはいられない。靖は携帯していたナイフへと手を伸ばす。 ケイウスの視界にはこの武器の存在は見えていない筈だ。このまま耐え凌いで前進すればあるいは…勝機はあるかもしれない。 「けっ、こんなんじゃ俺はやれねぇぞ…」 音無き力の磁場に耐えながら一歩また一歩とおぼつか無い足取りながら靖が前進する。 「く、さすが靖だね。けど、やせ我慢は止めた方がいいよ…足、がくがくじゃないか?」 その様子に敵ながらあっぱれと思いつつも、ケイウスも演奏を続ける。 なぜなら決して自分の攻撃は効いていない訳ではない。時間はかかっても肉弾戦は不利だと判っているから、持久戦に持ち込むのが彼の選択した必勝法である。演奏に集中する為に彼は次第と目を閉じる。 (今だッ!) その機を靖は待っていた。最後の力を振り絞るように、震える脚に鞭打って踏み出し足で力強く大地を蹴ると一気に距離を詰め、ケイウスに飛びかかる。思わぬ音に眼を開いたケイウスだったが、その時には既に自分の首元に靖のナイフが迫り、とっさにバランスが崩れる。 二人はそのままその場に転倒した。土埃が盛大に上がり二人を包む。 (貰ったぜッ!!) 靖は徐々に見える友の顔を見つめ、ナイフを振り被る。が、その時あの夢が脳裏を過って…。 「やらないの? お互い手加減なし、だったよね」 ケイウスの言葉に、はっとする靖。しかし、その隙を許した事によって立場は一気に逆転する。 ごろりと転がるとポジションは入れ替わり、ケイウスが靖のナイフを奪い彼に突き付ける。 「やれよ」 靖が言う。 「そうだね…やってもいいけど、始めのアレ、ワザと外したでしょ。だからこれでイーブンだよ」 ケイウスはそう言い、手にしていたナイフを後方に投げ捨てた。そして、靖の上に乗ったまま言う。 「ねぇ、靖。あの事、まだ気にしてるのかな? あれは俺の判断で勝手にやった事だよ…だから」 「わかってる。判ってるけど」 「ふふ、意外と靖は子供だったんだね」 「チッ……ぬかせよっ!」 くすりと笑うケイウスに靖が起き上がり、彼を突き飛ばす。 勿論ケイウスの笑いが彼を蔑んだものでない事は判っている。だけど、見抜かれては何とも恥ずかしいではないか。 (まさか俺が何年も引き摺っていたなんて……人のこと、いえねぇな) 靖が再び扇子を構え直して、詠唱に入る。それに負けじとケイウスは対抗する楽曲を奏で始める。 二人は戦っているというのに、どこか楽しそうだった。それは互いの気心が知れているから? 否、それだけではない。 本能が彼等を呼び合い、更なる高みへと導こうとしているのかもしれない。気付けば初めの場所からはかなり離れて、今やちらほら草が伸びる湿地帯へ。どれ程移動したのか、どれだけ時間がかかっているのかも判らない。 判る事はまだ決着がついていなくて…。だけど、二人の練力は後僅かだという事だけだった。 ●三 ((次の一撃で決める!)) 二人の脳裏に浮かぶ思い。先に動いたのは靖の方。月歩を使用し、うまく草を掻き分けケイウスとの距離を詰める。 それを阻もうとケイウスが放ったのは原曲全編演奏すれば十分もかかるという『魂よ原初に還れ』だ。 奇しくもさっきと似た様な立ち位置になった二人。精神攻撃で体力を削りにかかるケイウスに忍耐で前に出る靖。こっそり巫女の舞で体力を強化して来たのが良かったと思う靖でもある。そして距離を詰めた後、残された練力で白霊弾の構え。 「させないッ!」 ケイウスもそれに気付いて咄嗟に暈影反響奏に切り替える。 拮抗する力と音、踏んばる二人であったが…。 『うわぁぁぁぁぁ!!!』 二人はそれぞれ弾かれて――気付いた時には二人揃って川辺に流れ着いていたりで。 どうやら弾かれた先が川だったらしい。ケイウスがカナヅチである事を思い出して慌てた靖であったが、対岸に友の姿を見つけて仕方なく泳いで行ったのがさっきのこと。結局この勝負、 「また引き分けかぁ…」 ケイウスが濡れた服を焚き火で乾かしながら苦笑交じりに言う。 「みたいだな。けど、次は負けねえぞ」 とこれは靖。装飾が多い彼の服は干すのも一苦労だ。そこで友を手伝う為、ケイウスも立ち上がる。 「こっちこそ……けど、ありがとう、靖」 「へ? なんだよ、急に」 突然の感謝の言葉に視線を逸らしつつも問う靖。 「いや、別に何でもないよ。それ貸して」 しかし、ケイウスはそれにはっきり答える気はない。てきぱきと掛けた縄に衣服や装飾を干して、にこにこ笑う。 「なんだよ、気持ち悪いだろうが…」 そう言う靖を余所に、 (ふふっ、本当は気にしてくれていたんだよね…俺が少し前対人戦が苦手だって言ってた事。本当に君って奴は不器用で優しい親友だよ) ケイウスはそう心の中で呟きつつ、心底有難いと思う。 それを察したのか靖もその後は何も言わずにまたいつもの空を仰ぎ――、 互いの朋友達に見守られながらこの掛け替えのない友との時間を楽しむのだった。 |