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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ※このシナリオは、シナリオリクエストにより承っております。 「なにぃ? あやつらに恩返しがしたいというのか?」 魔法のランプに封印されているのは十月にお馴染みの南瓜大王。 散々悪事を働いたせいで因果応報…子南瓜の反乱に合い、現在魔法のランプの中で反省中。そんな彼の元を訪れて声をかけたのは、意外にもその反乱を起こした子南瓜達である。 「もうだいぶ経ったし…天儀も色々事情が変わったから。それに」 「あの人はずっと大王に付き合ってくれたじゃないですか!」 「文句は言ってたけど…あの人がいなかったら大王遊べなかったんですよ!」 詰掛けている子南瓜達が言う。あの人とは罠師・キサイの事であり、あやつらとは開拓者の事を指す。 ちなみにキサイを狙った当初は彼の能力が目当てだった。 しかし、時が経つにつれ、何となく彼の反応が楽しくて毎度ちょっかいをかけていた南瓜大王である。 「ふむ〜、まぁ告白までされた仲であるが…で、お前達は具体的にはどうしたいのだ?」 相変わらずランプの中からではあるが、彼が子南瓜達に問う。 「それはね…」 そこで子南瓜達はプランを彼に話した。本来ならば十月でないと彼の能力は使えない筈だ。 しかし、特別な日となれば彼らの力は増大する…そう、それは新たな年の始まりの…初夢という夢枕――。 『ようこそ、スパパレス南瓜へ♪ 今宵は御目出度い日、とっておきのアトラクションをご用意しました! ぜひ、楽しんで行って下さいね〜♪』 招待された開拓者達は目を瞬かせる。 気付いた時には南国の風景が目の前に広がり、室内であるのに燦々とした太陽が彼らを見下ろしている。 そして、あちこちに見受けられるのは数々の温泉と浮かぶ南瓜。はっきりとした効能は定かではないが、傷を癒す効果はあるらしい。流れるプールも完備され、ここは彼らの巨大な温泉施設となっている。 「また、ここかよ…今度は何企んでやがる」 その中に問題のキサイもいた。見覚えのある空間…となれば大王の所在が気にかかる。だが、 「警戒しなくてもいいですよ。今宵は本当に皆様に楽しんで貰う為にご招待したんですから」 「確かに大王様の力は借りましたけど、キサイさんにお礼がしたいってそう言ってたので」 「お礼、だと?」 益々怪しい気がする。 けれど、この空間からは殺気も感じられないし、子南瓜達の言う様にそれ程危険はないのかもしれない。 「温泉にゆっくり浸かるもよし、僕らの考えた七福宝ゲットに挑むもよし。ゆっくりして行って下さいよ」 子南瓜の一人がご機嫌に説明する。 「七福宝ってのは?」 「ふふふっ、気になりますかー? このスパパレス内に七つの宝を隠しているんですが、それぞれに守り神がいましてね…そのミッションをクリアすればOKです。これはそれぞれのミッション内容ですよー」 ぺらりと紙を開いて、子南瓜が言う。どうやら、宝船に乗る神様達のそれをベースにしている様だ。 「チームとして換算するんで、開拓者さんの誰かが手に入れればOKって事になります。一つだけでもそれなりに凄い事が起きますが、全部集めると……ふふふ、ヒントは『希望の夢』です」 「へぇ、勿体振るじゃねえかよ…」 ほぼ答えの様にも思えるが、それでもそんな言い方をされてはキサイの好奇心が擽られる。 「ま、退屈凌ぎに遊んでやってもいいぜ」 がそれを彼は顔に出さなかった。そして、他の招待客に視線を移す。 (やりたい奴がいればそっちに任せればいいし……それよか、温泉。久し振りだぜ) なんやかんやで羽を伸ばす機会を失っていた。正月くらいはそれも許されるとキサイは思う。 「さて…じゃあ、どうしようか?」 時間は無限ではないけれど一時、この温かい夢に浸ろうか? ―― 【七福宝のミッション内容】 恵比寿さん→釣堀エリアで大物釣り対決 大黒さん→福袋に南瓜集め対決 毘沙門さん→純粋に銭湯で戦闘(力比べ) 弁財さん→楽器演奏対決 福禄さん→銭湯でお湯につかって我慢比べ 寿老さん→ほかほかサウナで我慢比べ 布袋さん→温泉饅頭&温泉卵大食い対決 それぞれの神に扮した子南瓜はその辺を浮遊しています 探して下さいね |
■参加者一覧 / 北條 黯羽(ia0072) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 蓮 神音(ib2662) / シーラ・シャトールノー(ib5285) / 蓮 蒼馬(ib5707) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) |
■リプレイ本文 ●決闘 「何だ、ここは?」 南瓜ひしめく温泉施設。初めてくる者は誰だってそんな感想を漏らすだろう。 「何ってここは南瓜大王のスパパレスだよ。今日は神音達の為に開放してくれるんだって」 が初見ではない蓮神音(ib2662)は知った顔。子南瓜に挨拶しつつ、師である蓮蒼馬(ib5707)に説明する。 「南瓜大王…精霊か?」 聞き慣れぬ名だ。けれど、提灯南瓜と関係がありそうだからその類いなのだろう。 「しかし一体何故俺ま…ッ!?」 招待される理由を探していた彼であったが、ふと目に留まった人影に唖然とする。 それは死んだ筈の男――彼が長きに渡って追っていた人物。 (何故ここに…生きていたのか?) そんな筈がない。彼は不本意ながらある男を守って彼の目の前で死んだのだ。だが、 「おや、また会いましたねぇ…全く、腐れ縁というやつでしょうか」 男の名は僅籠…百狩狂乱の幹部の一人。そんな彼の肩には一匹の子南瓜。可愛らしい鎧を身に纏い、宝棒と宝塔を携えている。 「挑戦者かぼ?」 僅籠の肩で子南瓜が問う。 「挑戦とは」 「七福宝のミッションの事だよ。出される課題を成功させれば『希望の夢』が見られるって」 追いかけてきた神音が言う。 「課題か…それにはお前も関わっているのか?」 「ええ。私がこの子の代わりに挑戦者とやり合う事になりましたので」 蒼馬の問いに僅籠が答える。つまり今ならば彼と闘えるらしい。 「ほう…では一戦。手合わせ頂こうか?」 蒼馬の表情が引き締まる。自分の手でやれずにいた無念。ここでケリをつけたい。 「そうと決まれば広い場所にご案内〜」 子南瓜が宝塔を振る。すると二人は別の場所へと転移していた。 「またそんな戦い方をするのか?」 蒼馬がいつかの事を思い出し言う。 僅籠は蒼馬相手に拳で応戦していた。本職であればまだしも、彼は後衛。しかも魔術師だ。この戦い方は決して有利とはいえない。現に蒼馬の力に押されている。 「本気を出せ。でないと意味がない」 蒼馬がそう言い踏み込む速度を上げる。 「本気…ですか。私は至って真面目ですが」 それに合わせて僅籠も手を速め、彼の攻撃を受け流す。互いの実力は拮抗していた。であるから一手一手が深く入らず、どちらも致命傷に至らない。 (飄々とした所は以前と変わらないが…本気という事は何かあるのか?) 蒼馬が分析する。不利である筈の戦法を敢えてする訳。一体何だろうか。 「おや、如何かしましたか?」 僅籠が笑う。腰に下げられた鞭と銃は未だそのままだ。 「そうそう。いつぞやは餞別の言葉、有難う御座いました」 「え…」 思わず蒼馬の口から声が漏れる。そこを僅籠は見逃さない。長いリーチを生かした中段回し蹴りを蒼馬に繰り出す。が、彼も身を引き八極天陣で交わすと、今度はこちらから打って出る。 「喰ら…何ッ!」 奇襲の絶破昇竜脚が宙を切る。なぜなら僅籠は思う場所より半歩ずれた位置にいたからだ。そして代わりに迫ってきたのは敵のかかと落とし。咄嗟に身体が反応し、辛うじて肩口に落とされかけたそれを両腕で受け凌ぐ。 「フフッ、素晴らしい勘です」 僅籠の言葉。さっきの回し蹴り後、どうやら速度を極端に落としたらしい。高速に慣れた目はそれに追いつけなくなるのだ。しかし、これで終わらない。僅籠は受けられた足にかかる力を利用し、そのままバク転。身を翻す。 「…もし貴方にもっと早く出会えていたら、貴方とは良い酒が飲めたもしれない」 それが僅籠の本音だ。そしてついに僅籠の銃が唸りを上げる。 飛び来る弾丸――仰け反りかわす事を考えた蒼馬であったが、 (こいつを倒すには意表を突くしかないッ!) そう思い、彼は弾丸に向かって自ら進み寸での所で跳躍回避。僅籠との距離を一気に詰める。 「今度こそ喰らって貰う!」 蒼馬の蹴りが僅籠を捕えた。宙高く打ち上がった彼は最高点で実体を失い弾け飛ぶ。 「勝負ありなのです〜」 子南瓜の声がした。 ●相愛 「リュー、本当にそれでうまくいくのか?」 寿老子南瓜を見つけた北條黯羽(ia0072)は夫の作戦に些か疑いの目を向ける。 「別に俺の作戦を実行するのが嫌なら構わんさ。クロハの意志に任せる」 さらりと言うのは、夫のリューリャ・ドラッケン(ia8037)。二人で挑戦するらしい。 「でもなぁ…相手はこの南瓜だぜ?」 ちらりと寿老子南瓜を見て言う。 「あ、いや…僕じゃないですよ。ここの対決は大王の希望で一時復活した大王様が相手です」 「ほう…でスキルの使用はOKかね?」 リューリャが念には念をと更なる質問を付け加える。が、流石にここではNGらしい。 「いやー、吾輩久々の地上。おや、美人女子がおるではないか!」 黯羽を見つけ大王は上機嫌。やっぱり女子は好きと見える。 「さて、どうするね?」 リューリャが問う。 「別に、いいぜ…そういうの、嫌いじゃねぇし」 大王の言動を聞き、彼女は決心した。一応誤解のない様に言っておくが、彼の作戦は至って健全なものである。しかし子供には使いにくいので渋っていたが、これなら問題なさそうだ。 「それじゃあ開始〜」 子南瓜の言葉と共に時計が動き出す。外部では僅かな時間であってもサウナ内だと異常に長く感じる事だろう。それを煽る為につけられた時計がなんともいやらしい。 「さあでは俺らは俺らなりに過ごそうか、クロハ」 彼が黯羽の手を取る。そしてエスコートする様にサウナ内の椅子に移動して、彼は照れる事無く彼女を自分の膝の上に座らせる。 「むむむ…なんと、羨ま…」 「大王様…」 作戦上々…これが第一の秘策。 「……」 一方勝負を始めて約二十分。布袋子南瓜は横に座る少女に眉をしかめる。 というのも、自分には勝てる自信があった。提灯南瓜には魔法の菓子袋というスキルがある。だから多少食べてお腹が膨れたら、一旦それを利用して密かに休憩をすればいいと考えていた。しかし、蓋を開けてみれば彼女のペースは一向に落ちず、未だに出された温泉饅頭を美味しそうに頬張っている。 「ここの御饅頭絶品なんだよー♪」 笑顔を絶やさない彼女に子南瓜が思った事。それは『この人絶対胃袋がブラックホールやぁ』だ。多分満場一致だろう。そんな事を考えているとついつい手も止まってしまう。それに正直言えばもう饅頭は見たくない。 「どうしたの? お水飲む?」 そんな様子を見て神音が彼にコップを差し出す。 (くっ、敵に塩を送るつもりかよ) その親切を湾曲して取る子南瓜。しかし隣は全く気付いていない。 「ふふー、神音の胃袋は底無しだからね!」 そう宣言してもきゅもきゅ頬張り、彼女は実に幸せそうだ。そこで子南瓜は溜まらず味変に出る。 甘い饅頭から淡白な卵へ。さっきよりはシンプルな味付けであるから食べられるかもしれない。殻を剥きつつこの数にかける。 「神音はもう少し後にしておくんだよ」 が、その誘いに彼女は乗らない。まだまだ饅頭でいく様だ。 「負けたくない、負けたないけどぉ…ゴホ、ゴホッ」 いくつ目かで詰まる卵――流石に無理はよくない。白旗が上がる。 「え、神音。まだ温泉卵食べてないんだけど…まっ、いっか。勝負してくれてありがとねー」 圧倒的神音の勝利。身体の小さい提灯南瓜には無謀な戦いであった。 檜造りの部屋には温かい霧が充満し、壁からはいい香りが発生していた。 まだ十数分ではあるが、見つめ合う二人に大王はふつふつと苛立ちを募らせ始めている。 「やはり、少しは違うか?」 そんな事もどこ吹く風でリューリャはご満悦だった。膝に感じる彼女の体温…蒸気で火照り始めているとはいえ、人の体温はサウナの温度よりは低く多少違うらしい。 「そうか? …俺は、そんな…差がある様には、思えねぇけど…」 黯羽も密着した部分からリューリャの体温を感じつつ言葉少なに感想を漏らす。 「ならばもっとくっつけばいい。触れる面積が多ければ、伝わり易いだろうさ」 リューリャはそう言い、更に彼女を抱き寄せる。その行為に黯羽が委縮した。受け入れたとはいえ、人前で大胆な行動に出られては流石の彼女も照れを隠せない。 「ちょっ、息が近い…だろ」 包む様に背中と膝を抱え竦められて彼女の声が小さくなる。 「気にする事ないさ…この位、まだまだだろう?」 彼女を口説く様に紡がれる言葉。取り残された大王はいつも以上におかんむりだ。 (これは只の我慢比べだった筈……なのに、何、この屈辱感…) この方幾年月――彼女がいた事等無い大王。無理矢理キサイを引っ張って胸キュン展開を狙ってみたが、あの時も気付けばこんな状態に陥っていた気がする。 「おのれ〜、一度ならず二度までも!」 その時は相手が違ったのだが、この際それはどうでもいい。大王の怒りが沸点へと急上昇する。 「あ、ちょっ…駄目だ。そこには触れな…」 「くそーーーー、こうなったら吾輩もいちゃついてやる〜! いでよ、キサイ子!」 お得意の召喚魔法の筈だった。 「きゃ、何?」 しかし、召喚されたのは身重姿のシーラ・シャトールノー(ib5285)。しかも何故かお腹が輝いている。 それ続いてサウナ室に飛び込んで来たのはキサイだ。 「大丈夫かよ! って大王、おまえッ」 「いや、だから…吾輩は…」 「キサイさん、これって…」 目まぐるしく変わる状況――二人の世界に浸るリューリャ達はさておいて、輝いた光が形を作り赤子から成長し二人の前に姿を成す。名を千紗と言った。五歳位だろうか、キサイとシーラによく似ている。そして彼女はキサイの道具ポーチを見るなり掴むと、 「とーちゃんの道具使うのー♪」 そう言って元気にサウナ室を出てゆく。 「なあ、今あいつ俺の事『とーちゃん』って言った気がするんだけども空耳か?」 状況が呑み込めずキサイが確認する。 「あたしも聞いたわ。そして恐らくあの子はあたし達の」 子供――シーラのお腹が妊娠前に戻っているのがいい証拠だ。双子だった筈だが、その辺は大王の力不足かもしれない。 「とにかく追いかけるぜ。大王、またな」 そう言ってキサイとシーラは立ち去ってゆく。 「何故だ…何故子供が現れる?」 魔法の失敗――ランプの中にいたせいか腕が落ちたのかもしれない。 「おい、審判。さっきスキルはなしだと言っていたよな?」 リューリャが困惑する大王を余所に問う。 「え、あ…はい」 「つまり今の行為は反則だよな?」 「あ…」 大王が力を失くし床に転がる。勝負あった。黯羽とリューリャの作戦勝ちである。 「やったな、リュー」 彼を見上げ黯羽が言う。 「ああ、意外と楽勝だったな。これもお前のお蔭だ」 息をゆっくり吐きつつ、彼が微笑む。 「その南瓜、大丈夫なのかい?」 そこでふと思ったのは大王の事だ。転がったままピクリとも動かない。が、 「おいおい、勝ったというのに他の男の事を考えるのか?」 リューリャが小さく溜息を漏らす。 「まあ、子南瓜達の親玉らしいし…」 「優しいな。そんな黯羽にご褒美だ」 彼はそう言うと彼女を抱きかかえ家族風呂に向かった。ここなら誰にも邪魔される事はない。 「いずれ来る平和な世界では子供達が笑っていられるのが日常、になるのだろうな」 二人の浴室から声がする。 「俺達の子供か…いいな。子供は最低でも三人は欲しいさね」 とこれは黯羽だ。声には艶が帯びている。 (子供が三人…ふむ、このまま夢に突入させちゃいましょうかね) 希望の夢、二人の未来は…。 ●心の時計 琵琶の音だ。その音に誘われて――ユウキ=アルセイフ(ib6332)が露天風呂に足を踏み入れると、そこには弁財子南瓜の姿があった。 「今晩和、いらっしゃいですよ」 ふわりと優雅に彼の傍に舞い降りる姿は天女の様だ。雰囲気からその子南瓜は女の子らしい。 「えと、僕は笛を吹くんだよね。だから演奏勝負してくれるかな?」 少し改まった様子で彼がお願いする。 「こちらこそお願いするですよ。さぁ、パレス全体を盛り上げましょう」 彼女はそう言って何処からともなく持ってきた音を拡散させる器械を琵琶に取り付けた。ユウキが自分の笛を取り出すと、それにも彼女はつけてくれる。そして準備が整うと全体の照明をムードあるものに変えた。 「始めましょう。音の饗宴です」 先行したのは弁財子南瓜。彼女は先程と同じく琵琶で音を奏でる。 繊細に弦を弾いて紡がれる調べは、泰国の物の様だ。異国情緒あふれる弦の演奏がパレス全体に流れ、徐々にテンポが上がると天儀の三味線の様な味わいも加わってくる。 (凄い弦裁きだ…) 弾かれる弦は水の流れの様に自然に音を変える。 何処かで聞いた事がある。琵琶は本来人であれば親指でメロディーを奏でるものだ。それと同時に別の指でも違う音を紡ぎ音に深みを与えてゆくのだとか。だから一度にいくつもの指を動かさなけれず難しいのだという。 (これは強敵かもしれない) ここで怖気付き、気をされている場合ではない。 自分も吟遊詩人ではないが、心得はあるし少々腕には自信がある。 彼は一呼吸してから手にしていた横笛にそっと口をつけた。そして鼻から息を吸い、肺に溜めた後にゆっくりと吐き出す。口から吐き出された息は笛を通って音色へと変わった。彼が紡いだのは書き溜めていたオリジナルの曲。暇を見つけて思いつくままに書いた歌詞にメロディーをつけてみた。ここでは音だけであるが、歌詞を書いた時の心境を音に乗せ、それが笛の音に味わいを加えてゆく。 「これ、きっとあいつの曲だ…」 娘を追いかけていたキサイが立ち止まる。テンポは思いの外速かった。何処か急かす様な、それでいて追われているのかとも取れる様なリズムは鼓動か、はたまた秒針か。焦燥、迷い、躍動、共振――何か内面に秘めたものを外に出したくて、それをストレートに出すには難しいから音楽という媒体に変えて表現している様に思える。 いつもは穏やかなユウキであるが、そういえば戦闘になったらド級の破壊力を持つ技を使う事があった。けれど、普段はサポートに回る事が多くて…繊細で集中力のいる蔦を使った魔術や氷のそれで支援してくれた事を思い出す。 「なんか、胸に来るぜ…」 何が理由だとはっきりは言えない。けれど訴えかけるようでいて、でも何処かで引いたそのメロディーにキサイが呟く。 弁財の曲は染み渡る様な綺麗さがあった。それに比べてユウキのはぶつける様な荒削りな部分が多い。 けれど、ハートに響くという面では不思議な事に後者が上回っていた様で――スパパレスの全南瓜が沸いた。 「なんかよく判んないけどぐっとくるかぼ」 「まだまだやれるって気になるのだよ」 「大王の力が無くても俺達やってける筈だよね!」 口々に子南瓜達が言う。 「負けましたわ…貴方のソウルフルな演奏、素敵でした」 弁財子南瓜が言う。 「貴方の希望は未来が見る事なのですね? でしたら少しだけ見せてあげましょう」 未来を願った者は多い。リューリャと黯羽、シーラもそうだ。彼らの未来へとユウキは鳥となり飛び立つ。 そんな狭間で死者との遭遇を果たす者もいる。 「え…センセー。あれって」 ここが何処だかは判らない。だが、子南瓜との勝負に勝った神音の隣にはいつの間にか蒼馬がいた。それに加えて目の前には何処か懐かしい背中が見受けられる。 「嘘、だろ…」 振り向いた一人は泰服を身に纏い、神音と同じ金色の瞳の持ち主だ。 それに続いて体躯のいい泰拳士も二人は知っている。 「とーさま、かーさまっ、会いたかったっ!」 堪らず神音が駆け寄り抱き付いた。齢七歳の時に失った両親の温もり…それを取り戻す様に、彼女は涙で顔を濡らしながらもその温かさを確かめる。 「神音、ずっと頑張って来たんだよ…今も、センセーと一緒にッ」 「そうね、いい子ね。私達が支えてあげられなかったから…でもあなたならきっと大丈夫だって信じてたわ」 嗚咽の切れ間に必死で話す娘を宥めつつ、彼女の母は優しく言葉を紡ぐ。 それを遠目に蒼馬は覚悟を決めて、彼は師兄の方に歩み寄りまずは一礼。言葉を選び、顔を上げるのに時間がかかった。痛烈な言葉が返ってきても受け止める準備は出来ている。 「師兄、俺は…」 「みなまで言うな。よくここまで育ててくれたな、有難う」 アヤカシによって奪われた二人の命。それを知った時、彼は記憶を失くしながらも神音を育てる事を決意した。自分にとっては暗殺者で復讐の獣と化した自分を救ってくれた恩人の娘であるから。しかし正直いえばうまく出来ていたのか不安で…まさかの言葉に胸に何かがこみ上げてくる。 「センセー…涙…」 「え?」 感情等必要ないと教えられた時から捨て去った筈の涙。が、どうやら捨て切れてはいなかったらしい。 「私達は幸せよ…貴方がいてくれたもの。神音がちゃんと成長できたのも貴方のおかげ」 蒼馬にとっては義姉である神音の母が彼の頬の涙を拭う。 「そうだな。我々は幸せだ。だから今度はお前に幸せになって欲しい」 その言葉に息が詰まった。勿体ない言葉だ。だが、この夢の時間はそう長くはもたないらしい。 「もう時間みたいね。だけど二人に会えて良かった」 義姉が言う。 「かーさま、神音元気だからね。心配しないでね」 神音は母をもう一度ぎゅっと抱きしめてから笑顔を見せる。別れるなら涙より笑顔の方がいいに決まっている。 「二人共本当に有難う。離れていても俺達は二人を見守っているからな」 二人の姿が光に変わる。 「こちらこそ、有難う、御座いました…」 蒼馬は二人にはっきりとそう言い一礼した。 ●家族 「あうぅ、釣れないのー」 駆け出した娘は恵比寿との対決に挑んでいた。 釣り糸にキサイの道具を巻き付けては海面に投げ込んで…だが餌なしでは魚達を脅かすばかりで意味がない。 「子供とて容赦はしないかぼ」 にたりと笑って恵比寿が言う。釣りとは忍耐だ。まだ五歳の子供には難しい話である。 「とーちゃん、負けたくないの。だから教えてー」 ぎゅっとキサイの袖を握って娘が言う。だが彼とて釣り経験が豊富ではなく…しかし、父としても罠師としても頑張り所だ。 「少し待ってろ。シーラ、基本は頼む」 遅れて追いついて来た妻にそう言って彼は周囲に視線を走らせる。まず餌が必要だが、持ち合わせている筈もなく…そこで目を付けたのは相手の餌。どうやら裂きイカを使っているらしい。 「対決ってんなら同じ餌を使って平等にいかなきゃな、恵比寿子南瓜さんよぉ」 少し威圧する様に見下ろし彼が言う。 「え、ええ…それは…」 「いいよな? 相手は子供だしこの位でお前は負ける気しないだろう?」 威圧の後は少しだけ持ち上げて…子南瓜はそれを了承した。 (後から後悔しても知らないぜ) 彼は内心ほくそ笑みつつ、身の多いイカを選りすぐってゆく。 「ほら、これでイーブンだぜ。後は腕だな」 「腕?」 「ああ、まっここらはさっき音を立ててしまってるから移動するぞ。急がないと先を越される」 数での勝負ではないが、上から見た限り大物はそう多くない。ピンポイントに狙って吊り上げねばならないのだから急いだ方がよさそうだ。 「それでうまくいくの?」 針につけた餌の奇妙な形にシーラが問う。 「まぁ見てろよ。千沙、いいか…とりあえずじっと待てよ。あいつに勝ちたいんだろ?」 「うん」 キサイの膝の上で千沙が返事する。そして数分後、 「よし、きたぜッ」 微妙な糸の揺れを感じて釣竿を素早く上げる。手応えはあった。針もうまくかかってくれたらしい。水面を激しく動く糸の動きに千沙がはしゃぎ出す。 一点集中…分けて貰った餌を全部使い魚の形にしたのが功をそうした。キサイの助けもあって数十分の格闘の後、釣り上がったのは文句なしの巨大カジキマグロであった。 「今度はあたしの番ね」 お腹の膨らみが無くなって…折角ここに来たのだからとシーラも課題の参加を決意する。そうして選択したのは大黒相手の南瓜集め対決である。娘と夫が見守る中、彼女はその声援に応えるの様手を上げる。場所は流れるプールであり、今も多くの南瓜が流れている。 「制限時間内にこの袋に多く詰めた方が勝ちですよー」 手渡されたのはシーツ程ある大きな袋。時間は五分らしいから十分過ぎる大きさだ。 「では、始め」 ばさりと審判の子南瓜が旗を振る。すると大黒子南瓜は袋を大きく開いて、 「それーー」 流れるプールに袋の口を宛がって流れに任せ、自動的に袋に入ってくるのを待っているようだ。 一方シーラの方はプールに入り流れに乗りながら近くの南瓜を詰めていく構えだ。 「水流頼りのあの方法に負けたらシャレにならないわ」 彼女はそう言い近くの南瓜を放り込んでゆく。泳ぎはそこそこであるが、それはそれ。 「かーちゃん、がんばー」 敵の袋を確認しつつ、娘の声援が飛ぶ。まだ産んでいないのに不思議な感じだ。けれどそれでも良かった。一足早く娘に出会えて…キサイもしっかりお父さんをやってくれているし、正直勝敗はどちらでも構わない気がする。 せっせと拾い入れる彼女と袋だけを器用に動かして入れていく子南瓜。結果は僅差となった。 「51…52…5…あれ」 シーラの袋からは53番目の南瓜が出てきたものの、大黒子南瓜の中はもうない様だ。それに気付いて大黒さん、苦肉の策。 ころーん 自ら袋に転がって見せるもやはりアウト。 シーラの勝利が確定すると辺りが白く包まれた。 ●夢の夜明け 春を迎えた大地には花が咲いている。 彼らはそんな草原にある一軒家で幸せな暮らしを送っていた。 「ふぅ、やっと二人共眠ったさね」 双子の赤子を抱き抱えていた黯羽だったが、寝付いたのを期にベットに下ろしほほ笑む。 「まるで毎日で戦争の様だからな…しかし、こういう戦いは悪くない」 と、これはリューリャだ。鎧を着込む事無く、以前の様に武器を携える事はなくなった。その代わりに育児という名の戦いが始まり、日夜哺乳瓶やらおむつやらを手に愛する子供達を見守リ育てる日々が続いている。 「リューにとっては些か刺激が足りないんじゃないのかい?」 黯羽が悪戯っぽく言う。 「いや、そういう事はないさ。こんな日常は望んでいたのだから…」 彼はそう言って、愛しむ様に静かに黯羽の頬にキスを落とす。 「またぁ…今は駄目だぜ。この子がいるから」 そんな彼にくすりと笑って、黯羽は膨らんできているお腹をさすった。そこには新たな命が宿る。 希望していた三人目……この分だと、まだまだ家族は増えるかもしれない。 「次はどんな子が生まれて来るんだろうな」 「まだこの子達だって成長途中だって言うのによく言うさね」 リューリャの言葉に黯羽が返す。自我が目覚め、個性が生まれるのはまだ先だ。 しかし、どんな子であっても二人の子である事には間違いない。血脈は未来へと紡がれる。 「平和ってこういう事を言うのかもなあ」 そこは鈴鹿の里の彼の実家だ。庭には雪が残り、窓を開ければ昼間だというのに寒さが家へと入り込んでくる。 「あいつら寝たのかよ?」 さっきまで聞こえていた筈の元気な声がぱたりとしなくなったのに気付き、キサイが問う。 「ええ、やっと…しらべもかなでも元気過ぎる位で困っちゃうわ。アンがいなかったら私…」 ふうと息を吐いて、千沙が疲れた様に炬燵に身を預ける。アンとはからくりの事だ。 (ここはリューリャさん達よりも更に未来かな?) 小窓からその様子を覗くユウキ。二人に孫がいる事を知り、微笑ましく思う。 「あなたの小さい時だって似た様なものだったのよ? ね、キサイ」 シーラが千沙に話す。 「その辺走り回った挙句、すっ転んで大泣き…ってな」 「やだ、嘘よ…そんな恥ずかしい事してないって」 そんな他愛のない会話が出来る世界。争いが全くないとは言えないけれど、アヤカシ全盛期に比べれば国同士のそれも穏やかな様だ。 「しかし、シーラの時は兎も角千沙まで双子を産むとは…血筋ってやつかよ」 「かもしれないわね」 くくっと笑うキサイにシーラも同意する。 「けど、無駄にならなくてよかったぜ」 何の話かとよく聞けば孫の名らしかった。本当は実の子に考えたものだが、シーラに先を越されお蔵入りになりかけていたらしい。 (調べに奏でかぁ…なんか余りらしくないかも) 孫の名を確認し、ユウキは思う。 (けど、もしかしたらあの時の曲がヒントになっていたら嬉しいな) 夢が覚めたら直接聞いてみるのもいいかもしれない。 (まぁ、いつ思いついたかが問題だけどね…) ここは未来――でも可能性は否定できない。 「皆さん、湯船で寝ちゃ駄目ですよー!」 がそこで皆目が覚めた。何故だか彼らは揃って同じ露天風呂に浸かり居眠りしていたらしい。 福禄衣装の子南瓜が起こしてくれた様だが…どこまでが夢だったのか。 ただ、彼らの傍には大王と書かれた南瓜が一つ転がっていた。 |