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■オープニング本文 「惜しい事をした…先にあの者を喰っておけば良かったのぅ」 森深く、開拓者の気配が消えた事を察して、魔女は家へと戻る。 ここは街道沿いにある森だ。魔の森にも近く、使い古された家があった為、彼女はそこを拠点に狩りを始める。 街道と言えば旅人は多い。急ぐ者などは危険と知りながらも近くを通るのだから、食糧には困らない。それでも魔女は万全の体制を崩さなかった。己が持つ知識を最大限に生かして、腹と嗜好を満たす為に何人もの人を襲い喰らう。 志体のない者等は、彼女にかかれば赤子の手を捻るのと同じだった。 しかし、ある時彼女の存在が噂され、ギルドから多少名のある開拓者のチームが討伐に派遣される事となる。 が、彼女はここでも焦りはしなかった。むしろ、初めての志体の肉がどんなものかと心が躍ったものだ。そうして、彼女は彼らをも喰らい、開拓者の味を知る。けれど、そのチームの一人を仕留め損ねたのが彼女の誤算――その後逃げた彼は息を引き取ったものの次の者達にヒントを残した。そして、新たな刺客が彼女に仕向けられる。 「ふふ、何度来ても同じことよ…むしろ餌から来てくれるのだから有難い」 初めは彼女はそう思っていた。 けれど、次に来た者達は策にハメはしたものの、彼女の思う様には運ばず取り逃がす結果となる。 「口惜しいのう…やはり力ある者を食らう方が腹の持続が違う……あれらを逃したのは大きい」 深くフードを被った老婆姿で彼女は爪を噛む。 アヤカシであるが、喰らってきた人間の癖が彼女に伝染したのかも知れない。 (しかし…このままで引き下がる連中だとは思えん。奴らは魔の森を焼き、我らを殲滅せんとしているのだから…) 魔女が思案する。きっと、彼らはまた自分を倒しに来るだろう。本能が彼女にそれを知られる。 「向こうから来てくれるのは大歓迎であるが…今のままではちと危ないのぅ」 彼女が知恵を絞る。あの時の状況を思い出して……手に取ったのは一つの本だ。 「くっくっくっ、わしは他の者とは違う。美味い肉の為ならこの程度の苦労、何の事はない」 一方ギルドでは、再度この魔女の討伐を決行する為にギルド員が慌ただしく動いていた。 「前回得られた情報を纏めて次にいかさないと…」 討伐に向かい残念ながら仕留められなかった開拓者らの証言――彼はそれを丁寧に拾ってゆく。 「まずは家があったと言っていたな。煉瓦造りの家…その近くに罠があって」 それにより開拓者らは散り散りになってしまったらしい。地面からという事は地雷の様なものがあったと考えられる。 「それに加えて、声も奪われて……けど、どうやったかは不明か」 爆発から目覚めた後の事だ。開拓者らは口がきけなくなっていたらしい。スキルでも解除できなかったという。 「後は仲間に化け惑わしてくる…か。睡眠系の術と攻撃魔法も忘れてはいけないな」 逃亡の際、彼女はメテオストライク並みの火炎弾を使ってきたらしい。 相手は一人しか確認されていない様だが、なかなか力のあるアヤカシであると考えられる。 「あの、先輩。どうせならあの街道を暫く封鎖出来ないのでしょうか?」 警告はしているが、未だあの道は利用されている。それが心配なのだろう、彼の後輩が言葉する。 「それが出来たら苦労しないさ。けれど、そうすると流通にも影響が出てしまうしねぇ」 郵便や食品の輸送など…空路を使えばと思うが一ギルドの資金はたかが知れている。 封鎖したとして、空路に切り替えた分の費用を誰が出すというのか。それぞれの業者が涙を見るだけだ。 「やはり開拓者に頼るしかないんだよ」 身体を張って街道の安全を守ってもらう。その為には原因となる魔女を討伐しなくてはならない。 「地図…といってもあの森ではほぼ景色が同じで役に立ちそうにないしなぁ」 前回開拓者が見つけた家の存在――しかしながら、爆発時に紛失しまた一からとなっている。 「さて、どうしたものか…」 ギルド員が呟く。それでも彼はこの依頼作成を止める訳にはいかなかった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
フィーナ・ウェンカー(ib0389)
20歳・女・魔
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●秘めたるは 前回同様、街道付近の森の側面に差し掛かれば、感じる印象は余りいいものではない。 魔の森に近い……ただ、それだけで開拓者らの肌が自然とシグナルを発している。 「おのれ…邪悪なアヤカシめ!」 森の中にいる魔女の顔を思い浮かべて毒づくラグナ・グラウシード(ib8459)に、いつもの様な明るさはない。 というのも、前回の戦いで戦友と言うべき兎のぬいぐるみ・うさ太郎君が行方不明となった。そして、その要因を与えたのは他でもない。この森の魔女の仕掛けた罠によるものだ。敵の動向が判らなかったとはいえ、まんまとしてやられた自分が情けない。その後も翻弄されるばかりで一矢も報いぬ間に逃亡を許した。殉職した友の分まで今度こそという想いが彼を突き動かす。 一方でもう一人、内に秘めたものを抱えるのは笹倉靖(ib6125)だ。 (俺の恰好で親友を……許さねぇ) 魔女の能力――それが変装によるものなのか、はたまた変形や変身によるものなのかは判らない。 しかし、魔女は彼の親友・ケイウス=アルカーム(ib7387)を己の姿で刺したのだ。関係を知っていたとは思えないが、チーム『隆星』の時といい、彼女の策は卑劣極まりない。このままにしておけばエスカレートする可能性もある。 「俺達が負ければ他の誰かが危険に晒される。だから負けるわけにはいかないんだ」 ケイウスもそう言って再び立ち上がる。傷が癒えてもきっとまだ心の傷は癒えてはいない。 しかし、彼はそんな素振りを見せず、静かに魔女に変身された時用の対抗策を靖に施して貰う。ちなみに彼らがとった策は変身された場合、独自の印や動作を見せるというものだ。印は出会うまで隠していれば、魔女とて再現は難しいと考え包帯で隠す事にしている。 「もうこれであんな事は無い筈だから」 慰めにもならないと思いつつも靖が言った言葉。それにケイウスは一言、 「気にしなくても大丈夫だよ」 そう答えてくれた。だからこそ、もう逃がさない。逃がしたくないと彼は思う。 それは羅喉丸(ia0347)とて同じだ。地雷を奇跡的に回避したのに、その後の術にかかった。もしあの時、魔女が彼をそのまま喰らっていたらと思うとゾッとする。 (魔女の嗜好に助けられるとはな……とはいえ、次はない……か) 信じてきた己の拳を見つめて、最終奥義で彼女を仕留める事をここに誓う。 そんな彼らに加わったのは志士の奈々月纏(ia0456)と魔術師のフィーナ・ウェンカー(ib0389)だった。 以前の報告書に軽く目を通し概要を把握。探知スキルのある纏は早速、心眼『集』を発動する。 「ほんまに魔の森が近いんやね……生物っぽいものは全然おらんわぁ」 高度なその技術で探ってみるが、それでも入り口付近ではそれらしい反応は見受けれない。 「相手は魔女なのでしょう? しかも知恵が利く様子……こちらを警戒している事は間違いないでしょう」 私だったら当然そうする筈ですから。そう心の中で付け加えてフィーナが言う。それにそのままの姿でいるとも限らない。狡賢い奴であれば無機物に、という可能性もある。念の為、ここで一度ムスタシュィルを展開してみるが、彼女の網にもそれらしいものはかからない。 「仕方ない。もう一度家を探してみよう」 まだ大地は焦げたままだろうか。そう言えばあの時、魔法弾を受けたが家は余り傷ついていなかった気がする。 「手がかりはそれしかないのだ。行くしかあるまい」 「そうですね。魔女と呼ばれるアヤカシなど迷惑です。殺しましょう」 血走った眼のラグナに続いて、フィーナがさらりと付け加える。 (私とキャラ被りなど……言語道断です) 苛立ちをベールの下に隠して、彼女は微笑する。 しかしこの時、既に彼らは魔女の第一の策にかかっていた事を知る由もなかった。 澱んだ空気の中、彼らはケイウスの超越聴覚によって順当に魔女の家を突き止める。 魔女の家は未だ健在だ。もくもく煙突から煙を吐き出して……しかし前回と違い中に人の気配がない。ぐつぐつという鍋の煮える音はするものの、それ以外は空き家の様に静かだ。 「向こうもきっとこっちが対策を立ててくる事を見越している筈だけど」 周囲を警戒しつつケイウスが言う。 「ならば、もう地雷はないのだろうか?」 これは羅喉丸だ。 「さあ? けれど、そんなの関係ありません」 フィーナは、その答えを必要としなかった。 この後の流れは皆と相談の上、出発時に決めている。それをここで実行するだけだ。 「空気中に瘴気は混じってるみたいやけど、ここも大きい反応はないわ」 纏が心眼での結果を報告する。それに続いてフィーナは再びムスタシュィルを張り、次の工程へ。 「相手が何であれ、拠点を潰されたら出てくるしかありません。という訳で潰させて頂きます」 彼女はそう言うとすぐさまアゾットを掲げて、スキル発動の詠唱に。 すると灰色の空には徐々に小さな熱源が出来始め、それが質量を増大させてゆく。 その直後、周辺に明らかな動き――。 タタタタタッ 地を蹴る素早い足音に皆が身構え、ケイウスの聴覚で方角を特定。纏が更なる絞り込みをかける。 「こっちから何か来るで!」 家を挟んで向こうらしい。敵は木にでも化けていたか。 それは兎も角猛スピードで接近している様だ。 「ふふっ、家を壊されるのがそんなに嫌だったのかしら……でももう遅いわね」 フィーナの方が早かった。構築したメテオストライクを開放し破壊する。すると膨大な熱量が家全体を呑み込み塵へと変えてゆく。その爆風から庇う様に彼らは腕を前に出し耐える。砂埃と共に奪われる視界、徐々に回復してゆく中で彼らを狙う魔女の姿。 「危なッ!」 ケイウスが咄嗟に叫んだ。というのも微かに彼の耳が別の音を拾っていたからだ。彼の声を聞き、それぞれがその場にしゃがみ込む。それと同時に家の先、彼らから死角だった方角から別の火炎弾が彼ら目掛けて直進し、付近の木々を焼く払ってゆく。それは紛れなく魔女が放ったものだ。 「仕方がない! ならばこれで!」 ドーーンッ その後聞こえたのは一発の銃声――しかし彼らの誰にも当たってはいない。だが、 「どわ……なッ、こレ……」 突如彼らの頭上から降り注いだのは無臭の液体――それに靖が声を上げる。 「なっ、うさみッ! いカん、この…は殺、傷力゛あッ…ー!」 それにラグナが気付いて皆に注意を促そうとする。しかし、どういう訳かまた声が枯れ始めている。 「クっ、ヤッて……くれ……な」 羅喉丸が呟く。落ちてきた革袋から察するに量は少ないものの皮膚が焼かれた様に熱く、表面を侵食する。 どうやら魔女の秘策は変身だけに留まらない様だった。 ●長期戦 見知った顔が四名……新顔が二名。魔女はそれを確認して、まず考えたのは誰を標的にするかという事だった。 前回参加の者ならばある程度の情報は把握している。対峙した時に相手の力量をある程度把握する能力を彼女は持ち合わせていたからだ。 (とすると……やはり新顔のあの二人か。一人はわしと同じ術師、片方の得物は刀か) こちらの手の内がばれてしまっている今、地雷と変身はあてにならない。そこで戦力を削ぐ事を第一に考え、作戦を組み立てる。とはいえ彼女は一人。大胆な事は出来ず、時間をかけるしか方法はない。 (そろそろかのう……あの効き目が出始めるのは……) さっきのあれはうまくいっただろうか。家の破壊に動いた彼らには正直驚いたが、何とかそれを利用した。ここからはまた自分のペースに戻せばいい。鍋のあれは駄目になったが、それでも効果時間はまだ残っている。 (後は奴らを眠らせて……) 一人ずつ喰えばいい。恐怖と絶望のスパイスは施せないが、拘っている場合ではないだろう。 なぜならあの薬を作る為に撃退後、食事をしていない。だからそろそろ何か入れたい所だ。彼女はそう思い、スキルを展開する。 簡単な筈だった。射程内に入った相手を眠らせるだけ……しかし、それが叶わない。 (ここでじれたら負けだよな……) 靖は思う。けれど、気持ちは些か逸っていた。というのもさっき受けた傷が痛むのだ。 傷口自体は彼の閃癒で塞がった。しかし、痺れは収まらない。解術の法を試してみたが、そもそもスキルによるものではないから効果はない。塞がった筈の傷の奥深くでじわりじわりと痺れが広がり、その箇所が麻痺してゆく。 (くそっ、巫女がこれじゃあ意味ねぇし……) 靖の心の叫びが無意識に顔にも現れる。そんな彼に気付いてケイウスが彼に近付く。 (気落ちしてても始まらないって。さあ、行こう) ケイウスが視線でそう励ます。そう、彼らは歩いていた。 ケイウスは曲を演奏しながら……夜を迎えては更に不利になるという事で、彼らは動きつつ魔女の捜索に当たっている。 ちなみにケイウスが演奏しているのは、とてもスローテンポの楽曲。竪琴にふさわしい伸びやかな音色が澱んだ森に響く。彼のそれは『天使の影絵踏み』と言った。こうする事で彼の抵抗を仲間に分け与える事が出来るのだという。 (睡眠魔法は確認済みだからね……それにどうしても彼女は俺達をばらけさせてくると思うんだ) それ防止の為――練力の消費は大きくとも背に腹は代えられない。彼は演奏を続け、仲間達は彼を守りつつ周囲を警戒する。 (あの吟遊詩人め……) その頃、魔女は自分のスキルが利かないのを苦々しく思っていた。 あれから何時間経っただろうか。もうじき開拓者に声が戻ってしまう。そうなれば更に彼らを仕留めるのが難しくなるのだ。それだけは避けたい。新たな地雷を調達するのは難しいし、集団行動しているあの中に化けて入ったとて、袋叩きにされるのが落ちだ。格なる上は……どうにかして個にしなければ。こんな事なら森の動物を狩り尽すのではなかったと思う。飢え死にはしないだろうが、空腹が苛立ちを募らせる。爪を噛むにも、もう噛める程の爪が残ってはいない。 (仕方がない。強引に進めるかのぅ) 魔女が立ち上がる。が、結果的にこれが彼女の敗因となる。 ●書物 「ッ!」 あの後も定期的に心眼で周囲をチェックしていたのが報われる。森を彷徨い出して数時間、はっと顔を上げたのは纏だ。それを皆に伝えて……敵の位置を見据え、近付いてくるアヤカシをはっきりと捉える。 (行くぞッ) 前衛の羅喉丸とラグナが顔を見合わせた。 そして、音の方に駆け出し……ラグナは握った魔剣を輝かせ、羅喉丸は瞬脚で先陣を切る。視界に捉えたのは彼らの中の誰でもない子供の姿だった。もしかしたら隆星のメンバーに化けているのかもしれない。小さな体で彼らを見つけても攻撃に転じてようとはしない。まるで彼らを誘う様に、彼らの前を走り抜ける。 (逃がしはしませんから) そこで後方のフィーナが速攻魔法を展開し、少年を足を狙う。 それは自動命中のアイシスケイラルだ。逃げ切ろうとしても追尾する様に執拗に少年を追う。加えて、 (こういうのはどうよ? 逃げるなんて今度こそ許さないぜ) 少し前髪で表情を隠しつつ、靖は白霊弾を放って……これも彼をきっちりと追い被弾を成功させる。 「ぐっ、かはッ!?」 姿は確かに少年であったが、声は違っていた。しわがれた男とも女ともつかない声……敵は息を詰まらせる。 そこへ距離を詰めた羅喉丸が対峙し拳を振りかぶった。 が、ここで少年がにやりと笑った気がして――咄嗟に拳を押し留める。 「おやおや、気付かれたか……」 聞こえたのはそんな言葉。少年は倒れ込む振りをして、腰に隠していたらしい銃を構えている。そして、それが唸りを上げた。銃口からは硝煙らしきものが立ち上り、放たれた弾丸が後ろの者達を狙う。連続セットが可能らしく、離れた弾は全部で八つだ。 (くっ、全部は避け切れへんわ!) 刀抜いていた纏が身構える。が、そこへラグナが後衛を守る様に立ちはだかって無音の声――。 もし声になっていたならば「うさ太郎くんにその首を捧げろ、この下郎ッ!!」と言っていた様に思える。阿修羅の様な形相で彼は一薙ぎ……魔剣『ラ・フレーメ』が飛び来る弾丸を一掃する。彼の怒りはそれ程までに頂点を達してる様だった。そして、弾の排除を済ませるとびしっと羅喉丸の方を見て、滅殺を促す。 (そうだな。よそ見している場合ではないな) それを悟って、その場で半歩下がって転身し再び練力を己の拳に込める。 これまでの修練の集大成――それは自ら編み出した究極奥義だ。彼自身しか扱えない独自のものである。縫い止められた足を捨てて、魔女は別のモノに変化を始めている。姿を変えて、再びその場から逃走を計ろうという事らしい。しかし、それを彼は許すつもりはない。 一瞬彼の拳から神獣が見えた気がした。護りの玄武は剛の象徴でもある。それに加えて柔軟な蛇の動きが入混じり、隙のない動きを生み出す。瞬きなどしようものならその早技を見る事は出来なかっただろう。形を変え始めた魔女、いやアヤカシの身体の中央に三度連撃が撃ち込まれると同時に、力の渦が内部へと吸い込まれやがて内から破壊する。砕けた身体は四方に飛び散る。が、そこへ距離を詰めた纏の刀がその空間を滑る。そして凪いだ後の軌跡にはほのかに香る梅の香り……白梅香だ。 『やったのか?』 突如起こった静寂と、悲鳴無く消えていったアヤカシのあった場所を見つめ開拓者らは互いに視線で確認する。 「……ン?」 そこでふとラグナの目が動く不審物を捉える。砕け散った筈の肉片と言うべきか。彼女を構成していた欠片がまだ残っていて……それがびくりと慟哭し小石程度ではあるが人型を取り、その場から離れようと動き始めているではないか。 「お…、待テ。何処…行、つも、ダ…」 ひょいっとそれを掴み上げ、彼が問う。魔女はじたばたしていたが、このサイズではどうしようもない。 (消えてしまえ。跡形もなくだッ!) 彼が摘んでいたそれから手を離し、そのまま剣を振り下ろす。今度こそ魔女の最期だった。 後には、彼女が所持していたらしい丸薬を入れた袋とその傍に何かの切れ端……うっすら水色を帯びている。 「あれ……もしか、して」 「うさ、たろう、くん!」 靖の声より先にラグナはその切れ端を拾い握りしめ涙する。間違いなかった。焼け焦げてはいるが彼には判る。全てが残ってはいなかったが、それでも遺品が手に入ったのは奇跡だ。 「終わり、ましたね……」 森の中、フィーナがぼんやりと呟く。 魔女が死んでも森はやはり暗いままであったが、依頼は達成された。 帰り道に隆星の遺品を集めつつギルドに戻る。 後から判った事であるが、魔女の所持していた丸薬は昔の書物に記されている危険薬物の一つであり、その書物には他にも喉を一時的に麻痺させる物等も記されていた事からそれらを作成し魔女が用いていたと推測されたのだった。 |