【罠師】南瓜ナイトin集落
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/30 17:01



■オープニング本文

 南瓜の季節――十月半ばである。
 またこの季節がきてしまった。去年も同じことを思った気がする。
 だが、今年俺を待っていたのはあの薄気味悪い大王ではなくて……。

「こんにちわー♪ キサイさん、遊びに来ちゃいましたー♪」
「わーい、罠師の実家だー!! 悪戯道具、いっぱいあるかもー」

 そう、わらわらとやって来たのはいつかの子南瓜達。みんな思い思いの形の提灯を下げている。
「勝手にくんなよ! それにもう、俺は奴とは縁が切れた筈だぜ」
「愛の言葉を囁いたくせに?」
 むきになって怒鳴る俺に一匹の子南瓜がにやにやした顔で言う。
「あれは、封印の言葉だったんだろうがよ! 騙しやがってッ、つくづく南瓜族ってのは性質が悪いぜ」
 南瓜族――そんなものがいつできたのかはさておいて、兎も角余り関わり合いになりたくない。
「あー、これ爆薬だー。面白そう」
「ちょ、こら止めろ!」
「こっちのは……煙が出るぅ。もくもくサービスゥ―♪」
「おい、遊ぶなって!」
 俺の気持ちを余所に、奴らは次から次へと勝手に触るものだから、全く手に負えない。
「おい、うるさいぞ。キサイ…おまえは相変わらず落ち着きが……ん? 客人か?」
 そこへもう一人の曲者がやってきた。師匠だ。師匠は俺の部屋にいる子南瓜を見つけ、真顔で問う。
「客じゃねぇ……押しかけたきた邪魔者で……」
「ふむ、しかし妖精なのだろう。可愛いではないか、茶の一つでも出してやったらどうだ?」
 師匠はコレの厄介さを知らない。近くに寄って来た一匹を撫でながら言う。
「茶なんて飲むかよ……それにこれは南瓜で」
「無礼だぞ、キサイ。妖精も精霊と似た様なものだ。感謝せねば……で、何用でこちらに?」
 俺の言葉を半分に師匠は子南瓜達に問う。
「もうすぐハロウィンだから遊びに来たんです。何かいいアイデアはないですか?」
 それに子南瓜も普通に返している様だ。変わり者同士、ある意味で通ずるものがあるのかもしれない。
「そうかそうか……ハロウィンとは、あの仮装の楽しい祭りの事だったな。そういえば、都の郊外に小さな集落があったのだが、先日ついに最後の一人が移住してしまってな。今、空き家となっている。そこで私が新たな訓練場として改築していたのだが……まだ途中であるし、そこで祭りを開いてはどうだろうか?」
「はぁ? 祭り?」
 何を言い出すのかと思えば、シノビなのに祭り開催とは――俺達は『忍ぶ事が仕事』ではなかったのだろうか。
「今、そんなのでいいのか……そう思ったのだろう? がまだまだ甘いな、キサイよ。その固定概念がこちらの思うツボなのだから」
 つまりはそんなシノビいないと思わせておけば、良いという事だろう。何とも都合のいい理屈である。
「やるー! お祭りすきー! 寂れてるならもってこい〜♪」
 子南瓜達は乗り気だった。たちまちやる気になり、その集落へと向かい出す。
「キサイ、ちゃんと面倒見てやれよ。確かあそこにはハロウィン用の南瓜もあるから」
「はぁあ? さては師匠……初めからそのつもりで?」
「さあ、知らんなぁ」
 くるりと背を向けて師匠は去って行く。
「あぁ、面倒くせぇ……」
 そう思ったが、ここはやるしかないだろう。子南瓜達に部屋を荒らされても困る。
「おい、やるからには出し物としてちゃんとしたものにするぞ――!!」
 俺が言う。
「了解です、キサイさーん♪」
「ドッキリ、楽しいホラーハロウィンにしましょー♪」
 やりたい事は決まっている様だ。俺はその意見を纏めて形にする。
 時間はかかりそうだったが、たまにはこんなのも悪くない……そう思う俺であった。

ーー

●当日の集落とお祭りについて
 キサイの師匠の協力で子南瓜達が主催するハロウィン祭りが開催される事になりました。
 概要は集落を回って、指定されたお化けに沢山会って課題をクリアすればお菓子が沢山貰えるというもの。

 集落を囲む様に赤提灯がぶら下げられ、道の所々にはランタン南瓜が並んでいます。
 中にはランタン南瓜に扮した提灯南瓜がいたりするかもしれません。
 道にはキサイが仕掛けたちょっとして落とし穴やこんにゃくドッキリなどが仕掛けられています。

 集落内の建物は全部で五つ。
 鏡を壁にした幻惑迷路の家、真っ暗で入るのに勇気がいる常闇の家、お化け屋敷風の演出を施したお化けの家、
 罠師訓練用に作られていたからくりの家、開拓者側に演出を任された謎の家の五つです。
 集落自体の広さはそう広くありませんから、全部回っても普通であれば二時間も掛からないでしょう。


■参加者一覧
/ リエット・ネーヴ(ia8814) / 蓮 神音(ib2662) / 久木 満(ib3486) / シーラ・シャトールノー(ib5285) / 笹倉 靖(ib6125) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / 神座早紀(ib6735) / ケイウス=アルカーム(ib7387


■リプレイ本文

●子南瓜との縁
「そこちがうかぼ〜、もっと右に飾ってほしいかぼ」
「その南瓜、食べちゃ駄目かぼ! まだ後で使うかぼ」
 南瓜ナイトに向けて、子南瓜達も張り切りムード。それにキサイ他手伝いを申し出てくれた面子が加わり、会場は大忙しだ。
 元々あった南瓜をくり抜いたり、真っ黒の布を持ってきてそれらしく見せてみたり。道の所々に南瓜行灯も設置して、子供達が来ても程よく場所が判る様に工夫されている。
「キサイさん、鏡の家はこっちでいいんだよね?」
 集落のアトラクションの一つを利用して課題を考えたユウキ=アルセイフ(ib6332)が問う。
「おう、ここから向かって右の建物だぜ。あそこは迷路にしたっきり手付かずだから宜しく頼む」
 それに答えたキサイはと言えば、今柵の装飾の設置に追われており、案内は難しそうだ。
「わかった。頑張ってみるよ」
 ユウキはそう言って一人で鏡の家を探す。
 そんな折彼の前を一匹の子南瓜が横切って、
『あ……』
 なんとなく両者から漏れた声。どちらにも見覚えがある。
「ねぇ、君もしかして僕の夢に出てきてくれた?」
 ユウキが仮装用の衣装を片手に子南瓜に尋ねる。
「覚えてるの?」
「あ、うん……何となくだけど」
 それは南瓜大王の悪巧みの夢――温泉施設での攻防の事だ。
「すごいすごーい! みんな忘れてると思ってたー」
 その言葉に子南瓜に嬉しそうだ。ふわふわ揺れ喜びを表現する。
「そうか、やっぱり……じゃあ今回も改めてよろしくね。子南瓜君」
 ユウキが柔らかに微笑む。お面無しの素の表情が最近増えた彼である。

「さて、俺が次にすべき事は……」
 一方キサイは辺りに視線を向けて思案する。集落の飾りつけとドッキリトラップは仕掛け終わった。衣装もいつの間にか師匠が用意したのがあり、それを使えば問題ないだろう。となると、後は……
(菓子か……)
 ハロウィンではお菓子を配る風習があると聞く。しかし、具体的に何がいいとかは正直判らない。
(ん、あそこにいるのは……)
 そこで彼はこの手の事に詳しそうな人物に声をかける事にした。
 黒髪を揺らして、シーラ・シャトールノー(ib5285)は搬入されてきた甲冑を相棒のからくりを連れて中へと運ぼうとしている。
「え、ちょっ……マジかよ!」
 それを前にキサイは慌てて彼女の元に駆け寄る。
「そんなもん、おまえが運ばなくてもいいんだよ。重いだろう…って、ん?」
 そこで取り上げる様に甲冑を奪い取った彼であったが、持ち上げたそれは思いの外軽い。
「ふふっ、有難う旦那様。けど、これそれほど重くないのよね」
 くすりと笑って彼女が言う。確かに本当に重いのなら相棒に持たせればいい。それをしなかったのはその甲冑は仮装用であり、軽く柔らかな素材で出来ているようだ。
「ったく……慌てて損したぜ。まぁ、いいんだよ。あんま無理すんな……その、大事な時期なんだろ?」
 ちらりと大きくなり始めたお腹を見てキサイが問う。
「そうだけど、この位大丈夫よ? それで何か御用かしら?」
 忙しく動いていたキサイの事――自分を労う為だけにこちらに来たのではないと踏んで、先に彼女が尋ねる。 
「そうそう、ハロウィンの菓子って一般的に何を用意したらいいんだよ?」
 今から買い出しに行っても遅いのではないかと思うが、それはそれとして彼女は少しだけ間をおいて、
「別に決まったものはないけど、キャンディとかクッキーが一般的かしら」
「へぇ……そうか。で、ちなみにシーラは何を用意したんだよ?」
 彼女がパティスリーを営んでいる事を彼は勿論知っている。
 以前貰った菓子の味を思い出して、少しの期待も込めて尋ねる。
「あたしのはジンジャークッキーよ。季節柄、風邪をひかない様にと願いを込めて」
 これから産まれてくる子供の事を思うと、自然と母性本能がそうさせたのかもしれない。
 猫やらお化けやらの形にくり抜いて作られており、ジンジャーといっても子供に食べ易い様蜂蜜の甘い香りもする。
「一つ食べてみる?」
 彼女がそう言うので、キサイは一枚口に入れて、
「うん、さすが美味い……俺もなんかいいの見つけてこないとだぜ」
 手作りには敵わないだろうが、子南瓜のやる気と折角の舞台を盛り上げなくては…以前クリスマスとやらで花火を上げて見せたが、あの時から実はこういう騒ぎもいいなと感じ始めている彼である。
「キサイさーん、のろけはその辺でいいからこっち手伝うかぼ〜」
 そこで突然名を呼ばれて、彼はふと我に返り小さく苦笑する。
「じゃ、また後で」
 照れを隠しつつ、彼は戻る。シーラはその後ろ姿を見送り、また作業に戻るのだった。

●不審者、絶好調
 夜が更けて――
 南瓜のランタンに火が灯される頃周辺の子供達と催しを知った大人達はこのイベントを楽しみにこの集落を訪れる。
 そんな彼らを出迎えるキサイの衣装は、なんともふらの着ぐるみだ。
「笑いたきゃ笑えよな……くそっ」
「何言ってるのー、結構キサイお兄さん似合ってるのに」
 彼とは度々依頼を共にしている蓮神音(ib2662)が笑顔で言う。その後ろで彼女の親友・神座早紀(ib6735)がキサイの様子を密かに窺っている。
(男の方ですわ……何処かで見た気もしますが……)
 面白いイベントがあると聞いてついて来た彼女。
 しかし彼女は極度の男性嫌悪症であり、近くに男が寄ってこない様、常に周囲を警戒している。
「あ、紹介するね。こちら神座早紀ちゃんなんだよ」
 白のミニドレスを身に纏い背中には純白の羽が、頭上には金色の輪っかの浮かぶ彼女を神音が紹介する。
「どうも、です」
 早紀はそう言い、小さく頭を下げた。ちなみに神音は彼女と対照的に黒のミニのドレスに背中には蝙蝠の羽。頭の装飾の代わりに先のとがった尻尾を有している。
「天使と悪魔……ってやつか。まぁ、存分に楽しんで行けよなっ」
「勿論だよ!」
 神音が元気に言う。しかし、彼女……実はお化けが苦手だったりする。

 久木満(ib3486)はハッキリ言って変わった人である。
 自分を天儀より高い所から来た人だと称し、何事にも全力を持って突っ込み玉砕するのを半ばモットーとしている。
「くけけけけけけっ、とあれは何だ?」
 彼は今、山の中にいた。そしてここはシノビの里の近くであると認識している。途中で彼の奇抜な姿から明らかにアヤカシと間違えられ危うく射抜かれる所だったが、それを必死で回避しここまでやって来たから間違いない。そんな彼はとても腹が減っていた。携帯しているのは干飯と石清水のみ……そろそろ別のものが恋しくなる。
「いい匂いもする……これは行くしかあるまい」
 急な斜面、彼は何を思ったかその斜面に真っ向勝負を挑む。
「俺のスピリチュアルソウルが言っている! ここは駆け降りるが最短!」
 彼が大きく一歩を踏み出した。が、勿論彼の予測とは裏腹に地面の位置は低くて、
「う、うぉッ! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!!?」
 人の体重の何割が頭に集中しているか、彼は知っていただろうか。前のめりになったが最期、彼はそのまま勢いを増して……思惑は彼の予測と違った方向で反応し、成果を上げる。

 ドーーーンッ

「い、今のなんだよ……あれも、演出か?」
 常闇の家を歩いていた笹倉靖(ib6125)がケイウス=アルカーム(ib7387)に思わずしがみ付く。
 彼らは人狼と吸血鬼の仮装をしている。二人は時にライバルであるが、今は親友の色が濃い。
「あれ、怖いの靖。いつからそんな怖がりになったんだよ?」
 ケイウスが問う。正直言えば自分もかなり動揺しているのだが、先に動かれてはこちらも動きようがない。
「こ、怖かねぇよ……ただ、少し驚いただけだっつーの」
 靖はそう言い、少し身体を離す。参加者にはそれぞれに小さな南瓜提灯が配布されていた。
 それは集落内を回る唯一の灯りとなり、同時に中の蝋燭の長さで時間経過も判る優れものである。

 ぴちゃん ぴちゃーん

 とそんな二人の耳に新たな音。これは水の音だろうか……やけに音が響いている。
「うわ、マジやばくね……」
 そしてその音がじわじわと大きくなるのに気付き、靖が振り返るのを躊躇する。
「おい、そこの人……待ってくれ。目が、目が見えんのだ……」
 まだ見ぬ相手の声、ぺちゃぺちゃという不気味な水音もする。それが徐々に二人に近付いていると感じて、
「……ほっとこうぜ。なぁ、ケイウス……」
「え、でも困ってるみたいだし……」
 靖と違い、彼はむしろこのままにしておく方が怖い。そこでそっと身体を捻り提灯を向けて、
「なあ、ちょっと」
 振り返った先には声の主。それは彼が知る人間ともアヤカシとも違う。

「うわぁぁぁーーー、謎の灰色ォォーーーン!!?」

 ケイウスが思わず口走る。何でその言葉が重い浮かんだのか判らないが、兎に角そこにはぬらぬら輝く丸い頭部とか細い身体の未知の生物がいた。ケイウスの叫びに、再び靖もびくりと体を揺らし、全速力で逃亡する。幸い、この家は一本道。課題そっちのけとなるが、駆け抜けて外に出れば問題ない。
「おい、ちょ……ケイウスぅ、速過ぎるから……俺、マジ吐きそう……」
 一人は嫌だし突如走らされる事となった靖がふらふらと外に出た瞬間、その場に崩れる。
「あ、ごめん……その、つい……」
 ケイウスはそれに苦笑いを返し、自分も呼吸を整える。
(いったい、今のは何だったんだろう……)
 暗いだけでも怖いのに、あんな演出を用意しているとは……さすがシノビの考えた家とも思うが、これでは子供はトラウマものになってしまう。しかし、実はこれ。そうではなくて、
「もし、そこのお人……っていなくなってしまったのか?」
 気配で察して、通路にボッチなってしまった満が呟く。そう彼はあの後勢い余ってこの家に突っ込んでしまったらしい。途中に池もあったの様で所々に藻が絡んでいる。そして、その拍子に頭のヘルメットが前後逆になったしまっていたりもする。
「くそぅ、一体ここは何処なのだ? 視界を奪う罠にでもかかったのか?」
 頭の回転にも気付かずに彼はその辺をうろうろする。そこへ巡回の子南瓜がやって来て、
「ちょっと駄目かぼ! そんな濡れた体で動かれたら他の人も濡れちゃうカボ」
 彼の周囲をふよふよ回って彼が言う。
「あ、いや、俺はだな……」
「言い訳は聞きたくないかぼ。早くこっち来るかぼ……スタッフとしての自覚をもっと持ってほしいかぼ」
「はぁ、スタッフとはなんだ? 俺はただ……」
「いいからくるカボ!! というかその仮装、異世界人かぼ?」
 彼の姿……それは世界に存在するか判らない者であり、子南瓜でさえ首を傾げる。
「俺は、そのただの変人で……」
「もう判ったかぼ。芝居魂は認めるかぼ」
 イマイチ取り合って貰えない満であった。

●野生児、ここに出没
 リエット・ネーヴ(ia8814)は寒かった。寒かったから身体を温めようと考えて、選んだ服は狼だった。
 正確にはワーウルフと言う人狼テイストの衣装である。そして、何故か山にいた。
 見た事もない姿の人間を見つけて興味を持ったのがきっかけだったが、見失ってしまったようである。
「あれとお友達になったら面白そうだったのに、勿体ないことしたじぇ……」
 ぬくぬくの毛皮の衣装に包まれたまま、彼女は周囲に視線を走らせる。
 時間は既に夕方を過ぎ、辺りは暗くなり始めている。そんな中で新たなワクワクを彼女は発見する。
「お? あの灯りが僕を呼んでるじょ〜♪」
 それは勿論南瓜ナイトの集落であるが、彼女は全くそんな事を知らない。ただ、勘が彼女をそこへと導く。
 だんだんと近付くにつれて色々な表情の南瓜提灯が揺れ、中には生きた所謂、妖精の提灯南瓜も混じっている。
「ふおぉ! これは凄く楽しそうだじょvv」
 その様子に一目で心を奪われる彼女。既に会場はゲームが始まっている様で、子供達が楽し気に家を目指したり課題をクリアする為の行動を始めている。
「あ、あそこに狼さん発見!」
 そんな彼女の元に数名の女の子達が殺到した。
 どうやら、彼女達に出された課題が狼姿の仮装者を見つける事だったらしい。
「むぅ、ちょっと簡単すぎたですか?」
 課題を出したらしい子南瓜があっさりと発見する子供に悔しそうに言う。
「たまたまだよー」
「そうそう、見つけたからお菓子ちょうだい」
 そう言って彼女達は子南瓜からキャンディを貰ってゆく。
「およっ……なんとなくシステムはわかったじぇい☆ 僕も遊んでみるじょ」
 そこで彼女は素早くその場に順応して、近くにあったからくりの家へと飛び込んで――中には初心者向けと思しき罠が張り巡らされている様だが、シノビのリエットには朝飯前だ。適度に隠れやすい場所を探し、参加者を待つ。
「お、ここが扉になってて……」
「がおーーーーだじぇ♪」
 その先に待っていたリエットさん。扉に気を取られていた先頭の子が尻餅を付く。
「へへへー、ひっかかったじょ♪」
 ご機嫌の様子で彼女が言う。が、彼女のそれに後ろの子が泣き出してしまって、ハッとする。
「う〜、ごめんだじぇい。そうだ! 泣き止む魔法をくれてやろう! 飴玉だぁ!! さあ、何色がいい?」」
 彼女はそう言い、来る途中で見つけた配布用菓子の箱から一つプレゼントする。
「あぅぅ、ありがとー」
 それでその子は泣き止んでくれた。案外、子供は単純なのかもしれない。
「だが、次会ったら貴様を藁人形にして蒸して、練り辛子つけて食ってやるじえぇ♪」
 ユーモアを加えて彼女が忠告する。すると子供達は楽し気にわーーと駆けてゆく。
「僕も次、いってみよー」
 彼女もノリノリの様だった。

 お化け屋敷の家――そこにはシーラが隠れている。
 この家のコースはなかなかにハードだ。というのもここが一番広く、入った順にジルベリア風、神楽風、泰風と趣向も多彩に作られているからである。具体的には洋館に武家屋敷に、故宮別宅を模して造られた部屋を進んでいかねばならない。怖いのが苦手な者は途中離脱も可能。奥に行けばいく程、怖さレベルが上がる仕組みだ。
「うぅ、ママ……絶対どっかいかないでね……」
 怖いながらも入ってみたかったらしい。親子連れがシーラの潜む甲冑の近くへとやってくる。
(ふふっ、出番ね)
 そこで彼女はゆっくりと立ち上がり、手にしていた盾で道を塞いで、
「ここを通りたくば課題を受けよ〜。課題はそこの人形に聞け〜い」
 少し動く度に僅かな金属音を隣にいた相棒のアンフェルネが発生させる。
 そしてその後彼女は徐に南瓜の顔の付いた風船を取り出して、
「五つ取れたら合格だ。いざ、勝負」
 ふわりと風船を宙に投げる。慌てて子供がそれを追う。
「くみちゃん、頑張って」
 母親が彼女を励ます。
「たいちも負けるな」
 とこれは弟だろうか。父親がもう一人の子供に声援を送る。
(素敵な家族よね……こういうの憧れちゃうわ)
 甲冑の中からその光景を眺めながらシーラは思う。果たして、生まれてくるのは男の子だろうか、女の子だろうか。
 そんな楽しみを持ちながら、今は目の前の幸せを分けて貰う事にする。
「やったー五つ取れたよー」
 お姉ちゃんと弟との連携で、彼女達は無事課題をクリアした様だ。
「では、これを……そして次に進むがいい」
 彼女は最後まで甲冑になり切って、子供達にお手製のクッキーを配る。
「えへへ、ありがとー」
 その笑顔が何より嬉しい。彼女は心からそう思うのだった。

 一方、天使と悪魔のペアはある部屋で絶叫を上げていた。
「あっ、あ、あ……今、何か冷たいものに撫でられんだよぉ〜」
 開拓者に任された謎の部屋であったが、これと言って案が出なかった為ミステリーボックス会場となっている。
 箱の中に手を突っ込んで、中身を当てると言うオーソドックスなものであるが、未知のモノへの不安と恐怖は計り知れない。
「大丈夫ですよ、神音さん。肉食の危ない動物は入って無い筈ですから」
 逆側から同じ箱に手を入れた早紀も若干不安そうだ。が、それ以上なのは神音だ。
 ぐすんと半ば涙目になりながら、もう一度箱の中身を探る。
 中身は動いている様だった。そして、時々彼女らの手をかすめてゆく。その時の感触がぬめっと冷たく気持ちが悪い。
「判らないー? 上級問題だもんね〜、降参しちゃえば〜?」
 子南瓜が二人を煽る。初級、中級を軽く当てられたものだから彼も少し意地悪な問題を出しているようだ。
「降参はしないんだよ! 絶対、絶対当ててみせるんだよっ!」
「頑張りましょう、神音さん。これをクリアしたら栗饅頭だそうですよ」
 乙女は甘きものが好き。その為にはこの試練を何としても越えなくてはならない。
 しかし、ノーヒントではこの難問は解けそうにない。そこへ救いの狼参上である。
「あれあれ、お困り? だったら僕がとっておきのヒントを出してあげるじぇい♪」
 うんうん唸る神音を見つけて、通りかかりのリエットが笑顔でサービス。
「んとね、んとね……何か背負ってゆっくり歩いてるじょ」
「背負って、歩いている?」
 出されたヒントに早紀が首を傾げる。箱に入る位の大きさの生き物で何かを背負う事が出来るもの。
 はて、それは一体何だろうか。
「そういえばさっきから少し生臭い匂いが……ってわかったんだよ♪」
 手についた感触を思い出して神音は言う。早紀も同時にひらめきがあったらしい。二人が顔を見合わせる。そして、
『すばり、海藻を背負った亀』
「大当たり〜」
 子南瓜が大きくベルを鳴らす。見事栗饅頭ゲットである。

 難関と言えばもう一つ、それは存在する。
 鏡の迷路の家――ユウキのいる場所である。
「えー、何処? 全部同じに見えるよぉ」
「こっちがあっちで、あっちがこっち?」
 鏡の迷路を抜けた先に用意されているのは鏡絵の間違い探し。
 鏡に映った筈なのに、左右で違った部分があるというものだ。
 勿論実際にはそうはならない訳で、出題に限っては壁に絵として描かれた物が問題となっている。
「どうだね。見つけられそうかな?」
 ヴァンパイアの仮装をして、優雅にワインを傾ける芝居をしながら悩む参加者らをユウキは見つめる。
 そして解答が判った者は彼の元へ行き、正解を申告。もし間違っていたならば、降り出しへ。
「私はヴァンパイア。なので貴方の血を頂くよ、フフフ♪」
「うわーーー!」
 きらりと付け八重歯を見せ黒笑みを見せられた不正解者は入口へ戻されるシステムなのだ。どんでん壁に押し出され、気付けば入口に…という訳だ。
(ふふ、なんか楽しくなって来ちゃったなぁ)
 意外と乗り気なのか、持参したお菓子類を正解者には手渡しながら彼は思う。
「次の解答者が来たよー」
「うん、わかった。通して」
 そして、いつの間にか子南瓜との仲も深まっている彼であった。

●最後はやっぱり賑やかに
 さて、あの連行された不審人物、もとい満は今どこにいるのかと言えば彼はお化け屋敷にいた。
「俺の姿が役に立つと言うならばやるしかあるまい」
 スタッフではないと主張する彼だったが、給料が出ると聞いてからは二つ返事にお手伝いを買って出る。
 実際は金欠なのだが、間違ってもそんな事をばらすつもりはない。
 一体どこ国の化け物なのか判断が難しいので、多国籍系の最奥・泰のエリアで彼に潜んでいる。
「いや〜、ああいう系の問題ならスラスラ解けんだけどよー」
 そこへまたも彼らが現れた。そう、赤髪の吸血鬼と涼しい顔の人狼である。
「いやぁ、さっきのは流石だね。俺はああいう暗算苦手だから」
 手には神楽エリアで貰った甘い煎餅と金平糖の袋を抱えて、靖は何処か自慢げだ。
 そんな友にケイウスも嬉しそう。彼と一緒ならこのイベント、存分に楽しむ事が出来ると考えたのは間違いではなかったらしい。始めのあれで躓いたもののその後は順調に菓子の数を増やしている。
「さて、次は一体何が待ってるのかな?」
 残す所このエリアのみ――。
 ケイウスはニコニコしながら泰エリアへと足を踏み入れて、目に留まったのはさっきの異世界人。
「あ、あああああ……」
 あの時一瞬だけ見えたアレに間違いない。それが彼らを見つけるや否や、再びこちらへと駆けて来るではないか。
「ど、どうしよう……なんかくるけど」
 顔の位置は正常であるが、なんか気迫が尋常ではない。
 一方、満がどうしてそこまで気迫に満ちているのかと言えば、
(やっとこのエリアに客が来た! それ即ち俺の出番という訳だな)
「ふはははは〜〜〜」
 何が一体面白いのか判らないが、不気味なオーラを纏わせて彼は二人の元を目指す。
「なんか、ヤバそうだけど……あれ、きっと主催者側の人間だよな?」
 靖は意を決して前に出る。今度はケイウスが背中に隠れる番だった。
「あんた、課題出す人?だよな。ここの課題、聞かせて欲しいんだけど」
 見た目のドッキリでは動じない彼が満に問う。
「ふむ、よくぞ俺の正体を見抜いたな。しかし、俺からの試練には応えられるのか?」
 ずぎゃんと意味の分からないポーズをしつつ、彼は何やらダンスを始める。
 それは世にも奇妙な動きだった。超高速で回転しているかと思うと、突然ぴたりと止まり今度はフラダンスともベリーダンスともつかない腰振りを始める。
(え、これをやるのか……)
 それを見て二人は思う。なんか動きが嫌だと――しかし、ここをクリアするにはこれを真似るしかない様だ。
「Hey、you達のソウルを俺に見てせくれぇい」
 棒立ちになったままの二人を煽る様に次はラップ調の動きを始める。そこへ、
「あぅぅ……もう本当トラウマなんだよぉ」
「よしよしよし、神音さんがこんなにお化けが苦手とは知りませんでした」
 散々お化け仮装の人々に脅かされ続けてきた神音を慰めながら早紀がやってくる。そうして、目の前の生き物(満)に目が点になる。
(あれは、果たして男……なのでしょうか?)
 流石の早紀も異世界人コスのそれの出来が良過ぎて判断がつかない。
 しかし、神音はそれとは別にして――ダンスが新たな課題と知ると嬉々とした表情を浮かべる。
「ふっふっふー、身体を使うのは得意なんだよ♪」
 彼女はそう言い、満のダンスを真似し始める。
「え、神音さん?」
「何やってるの、早紀ちゃんも踊るんだよ♪」
 さっきの恐怖は何処吹く風の神音に吃驚する彼女。まぁ、それも神音の良い所でもある。
(あれだけ怖がるならお義父さんと来られたらよかったのに……やはり恥ずかしいのでしょうか?)
 そんな事を考えたものの、口に出すのは止めておく。
 そこへ後続のチャレンジャーも現れて、泰エリアがダンス会場と化し始める。
「さぁ、君達もやりたまえ。俺のダンスに付いてこられたら者は大量のバタークッキーをやるぞ」
 朽ちた故宮のセットの中で――なんとも面白い組み合わせだ。
「持久戦にならなきゃいいけど……」
 靖はそうぼそりと呟きつつも、最後の課題に挑む。
 それが一人、二人と増えて……そこはさながらフラッシュモブの様な光景となった。
 次々と参加者は増え、妙な一体感を醸し出す。
「よし、こうなったら外まで行くぞ」
 彼はそう言いお化け屋敷を飛び出し……
 それは軍隊の行進の様にもなり、周りを歩いていた参加者達も巻き込んでゆく。
「ダンスだ♪」
「俺達も加わるカボ」
「皆でやるカボよ」
 一夜限りの不思議な空間。その光景を前に気を利かせて、誰かが演奏を始める。
 その演奏は集落一体に拡散されて、中にいた仕掛け人達もぞろぞろ顔を出す。
「なんだなんだ? あんな奴、いたっけか?」
 キサイが屋根から先頭を行く満を見つけ言う。
「あら、面白そうじゃない。あたしは激しいのは出来ないけど…」
 とこれはシーラだ。子供も大人も一緒になって踊っている姿は見ていて壮観である。
「僕も加わるじぇ♪」
 それを見つけて、迷子を誘導していたリエットもその子を届けて列に加わる。
「へぇ、僕らも行こうか?」
 ユウキは子南瓜の返事を待って、その後後ろに混じる。
 こうなれば楽しんだもの勝ちだった。何処かの言葉にもある。踊る阿呆の見る阿呆、同じ阿呆なら……そう言う事だ。
 色とりどりの、衣装が淡い灯りに照らされる。皆が笑顔で、沢山クリアできた者も泣いてしまった者もいつの間にかその輪の中で一つになって、気付けばここにいる。

「よっしゃ、フィナーレといくか!」

 曲のタイミングを見計らい、キサイが仕掛けておいた花火を作動させる。

 ドーン ドーン

 それと同時に新たな曲が始まった。
 オドロオドロシイ曲調……それはハロウィンにふさわしい。
 しかし、徐々にテンポが上がって、コミカルな明るい曲へと変化していく。

『南瓜ナイト 大成功ーーー♪』

 南瓜マークの花火が空に華開き、その後には子南瓜達も蛍光落書きやらお化け火で夜空を賑やかに彩る。

『ハッピーハロウィン♪』

 皆が叫ぶ。そして夜が明けるまで、彼らの楽しい馬鹿騒ぎは終わらない様だった。