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■オープニング本文 「今、都ではハロウィンって行事の為に南瓜がバカ売れらしいよ」 「何っ、それはホンマか!?」 行商人の言葉を聞いて、鉢介は思わず立ち上がる。 鉢介の育てている作物は南瓜だった。研究に研究を重ねて、何処よりも甘くほくほくした味の南瓜を作る為、寝食さえ惜しんでようやく『初恋のかぼ姫』を完成させた。 但し、彼自身が突如として始めたものだから名が知れている訳ではない。それにここは小さな村だ。ここで売り捌いたとて、大きな利益にはならない。 「ふっふっふ、今が好機や。その波に乗っかって都でわいの南瓜の名が売れれば、この先もっともっとええもんが作れる!」 ハロウィン――鉢介には聞き慣れない言葉だ。しかし、それでも南瓜が売れるならそれでいい。 「よっしゃ、待っててやー。わいはこの南瓜と共に一山当てたる――!」 鉢介がそう言い駆け出す。 「あや? あの人、異国の南瓜を育ててるんで?」 残された行商人が近くにいた村人に問う。 「いんやぁ、新しい品種らしいけど普通の南瓜だぁ」 「……」 まずい事になったと行商人は思う。しかし、鉢介は時既に村を旅立っていた。 そして案の定、都にて―― 「おいおい、言っておくけどこれは引きとれないよ?」 「え……」 意気揚々とやって来た鉢介に突き付けられた現実。それはとても厳しいものだ。 「ちょちょちょ、待っちぃなぁ〜。南瓜なんやで! もうすぐハロ何とかっちゅう行事があるんやろっ」 必死に交渉に出る鉢介であるが、やはりランタン用の南瓜でない為買い取って貰えないらしい。 「なんでや、何があかんのや〜」 がらりと閉められた戸を見つめ、彼が途方に暮れる。 そんな折、ふわ〜と横切ったのはどこぞの妖精――そう、この時期になると現れる提灯南瓜だ。 「か、か…かぼちゃがとんどる―――!?」 田舎での研究暮らしが長かったせいか、彼はその存在を知らなかった。開いた口が塞がらない。 「おやおや、沢山の南瓜を引いて何してるカボ?」 ついーと彼に近付き、流れの提灯南瓜が問う。 「しゃ、喋りおったぁ!!」 鉢介はそれに再び驚き、後づさる。 「そりゃおいらは妖精、しゃべるカボ。で何してるカボ?」 その様子に興味を示して提灯南瓜はもう一度尋ねる。 「あ、いや……それが、わいの南瓜を売りに来たんやけど、何故か買い取ってもらえんで…」 「ふーん、だったら力を貸してもいいカボ」 「え…」 突然の妖精の言葉についていけない鉢介。しかし、相手は南瓜だ。 これはもしかすると、南瓜研究に勤しんだ自分への天からの使者かもしれない。 「あの、だったら教えてえな。なんで、わいの南瓜は売れんのや?」 まだ食べられてさえいない。バカ売れだと言う噂は嘘だったのだろうか。 「それはねぇ旦那。きっと顔がないからカボ」 「顔?」 「おいらみたいにハンサムな顔を作るカボ。ハロウィンてのはその南瓜を飾って、最後に悪霊払いで食べるお祭りカボ」 にこりと笑って提灯南瓜が言う。そう言えば町に入ると同時にそんなオブジェを沢山見た気がする。中身をくり抜いている事から随分勿体ない事をするなと思っていたのだ。 「わいの南瓜もそうしたら売れるんか?」 鉢介が半信半疑に問う。 「勿論カボ。おいらは南瓜の精霊、嘘なんかつくもんかカボっ」 提灯南瓜が言う。しかし、彼は知らない。提灯南瓜の性格を――。 そして、彼の根っからの純粋正直な性格が更なる悲劇を生む事となる。 「そうか、おおきになっ。よっしゃ、ならばわいの南瓜にも顔を作ったるっ!!」 彼はその言葉を真に受けた。 が結果は、 「顔つけたって駄目だって…根本、南瓜の種類が違うんだから。それにこれじゃはひょっとこじゃないか?」 超特急で仕上げた顔はどれもばらばら。 それにランタン用の南瓜と違い、彼の南瓜は皮が硬い。生の状態で細工をするのはとても重労働だっただろう。 「せやかて、これが限界で…」 「それにあんた知らない様だが、ハロウィンの南瓜はランタンにするんだよ?」 「え」 暫しの沈黙の中、鉢介の脳裏を過っていくのはあの提灯南瓜の姿だ。 (やられた…都は恐ろしい所や……もしかして、あれはアヤカシだったんやないやろか…) 絶望を抱えながら、そんな事まで考え始める。そんな彼を気の毒に思ったのだろう店主が一つ提案する。 「あんた、ギルドに行ってみたらどうだ? 何かいい知恵貸してくれるかもしれないよ」 「ギルド…」 アヤカシ退治専門の機関だとばかり彼は思っていたが、この手の知恵も借りれるらしい。 店主の話では以前、牛肉の間違った大量発注で駆けこんだ店員が助けられた聞く。 「あんさん、おーきになっ。わいの南瓜を廃棄なんてさせへん。相談や! わいの南瓜を救う相談やーー!!」 彼は早速大八車を引き駆け出す。荷台の南瓜に混じって、あの時の提灯南瓜が寝息を立てていた。 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●前夜祭 初恋のカボ姫即売会。 その名前だけを見た者はきっと何の事だか判らなかったであろう。何か新たな物語が出版されたのか? あるいはハロウィンの南瓜お化けに名前をつけての玩具屋の戦略か…しかし、それはどちらでもない。 そう、これは南瓜の即売会…けれど、それはただの即売会ではない。会場には立食形式をとったテーブルがいくつか用意されていた。そして、その中央には舞台があり、何やら怪しげなひょっとこ顔の南瓜が並んでいる。更に両側には鮮やかなオレンジ色のお菓子がずらり――いい香りを漂わせて、秋の夕日と相まって情緒と食欲をそそる景色を演出している。 「さぁ、今宵はどなた様もいらっしゃいませ! 存分にハロウィン前夜祭をお楽しみ下さいね」 白狼のお面をした青年、ユウキ・アルセイフ(ib6332)がパーティーの開幕を告げ、設置していた会場の提灯に火を灯す。 『うわ〜、綺麗ね…』 来場者から感嘆の声が上がった。 南瓜を腐らせない為、急ピッチで仕上げた会場装飾…都には既に南瓜のモニュメントもいくつかあったのはラッキーだった。 「はいはーい、こちらで入場料をお願いします! 一律無制限で南瓜バイキング、食べ放題だよー♪」 「僕らが作ったお菓子も沢山あります。どうぞ、ごゆっくり楽しんで行って下さいね」 リィムナ・ピサレット(ib5201)がお客を中へ誘導し、サライ(ic1447)がゲート前で呼びかける。 「上々でござるな」 舞台近くでは霧雁(ib6739)が鉢介と共にその様子を見守っている。 「なんや、わいの時とは全然違う…雲泥の差や」 路上販売を試みた事もある鉢介であるが、何故こうも違うのか。彼には判らない。 「なに、拙者らはこういうのも慣れているでござるからな。ちょこーとスキルは使わせて貰いはしてござるが…」 今日の午前中の事だ。彼お手製の木版刷りチラシを携えて、彼とサライは大通りに繰り出している。その時、霧雁はスーツを華麗に着こなし、サライはメイド服を着用した。 しかし、それだけでは多少目は惹くものの素通りしてしまう者も多い。特に年齢が高いと、近寄りたくともなかなか気が引けてしまうものである。まだ十代前後であれば好奇心と若さで突撃してくれるが、それ以外はなかなかに手強い。 「サライ君、あれを出すでござる」 「はい、先生」 そこで彼らはまず準備してきていた試食品を取り出して肩掛けの木箱に並べ始める。そして、いざ声かけ開始。 「もしよろしければ御試食下さい〜。本日開催のパーティーでのお料理サンプルですよー」 サライが極上の笑顔で振り返る。それと同時にふわりとスカートの裾が翻り、可愛さが急上昇…思わず通行人が立ち止まる。 「あらあら、タダなの? だったら一つ、頂こうかしら」 ぽっと頬を赤らめて、ご婦人が試食品に手をのばす。 「僕が作ったんです。お口に合うといいのですが…」 そこに透かさず彼は夫人をうるうる眼で見上げれば、 (あら、やだ…この子、可愛いじゃない) きゅんと心が音を立てた気がした。それ程までに彼の演技は自然にこなれたものになっている。 (メイド服、もう慣れちゃったんですよね〜…恥ずかしいとか言ってられないですし) 何より鉢介の南瓜を無駄にしたくない。調理する前に一口、味を確かめる為食した彼は感動した。ただの南瓜である筈なのに、甘みは深くほくほくした触感は薩摩芋にも匹敵し、お菓子にするにあたっても砂糖をほぼ必要としない位であったからだ。 「拙者、食べる方で出たかったでござる…」 大の南瓜好きの彼の師匠・霧雁はそう嘆いた程だ。であるから、何としてもこのイベントを成功させたいと思う。 「さぁ、そこのご婦人も是非。お気に召しましたら、会場へもいらして下さい」 負けじと霧雁も恭しくも丁寧に説明し、チラシを配り宣伝する。 (流石に男性には難しそうでござるが…カップルであればまた話が別でござる) 彼はそこで目に留まった一組にも声をかけに走る。 (あ、先生…アレ使ってる…) サライはその様子を見取り心中で呟く。 そう、霧雁は厳しめと判断した相手には第一印象をよくする為、夜春を使用したのだ。 (まあ、効果時間はせいぜい一時間ですが…男性の方にだけに使ってる、みたい?) 来るかどうかは彼等次第だ。ともあれ、この努力が今の会場の賑わいに繋がっている。 「えっと、これはここで…あぁ、もうあっちの皿が無くなりかけてるよ!」 始まって早々に大入りの会場ではリィムナが奔走していた。 と言うのも追加スタッフは存在しない。つまりは開拓者四名と鉢介を加えた計五名でこの会場を切り盛りしているのだ。 「あ〜もう、猫の手も借りたい位だね!」 終始ばたばたと動き回る彼女であったが、ふとある所で目が止まる。 舞台端、ひょっとこ顔の南瓜に混じって誰の提灯南瓜かは知らないがふよふよと低空飛行を続けているのである。 「よし、あれに手伝って貰おう」 彼女は言うが早いか、一直線に彼の元へと向かう。 「ちょっとそこの南瓜。手伝ってくれないかな?」 「かぼ?」 くるりと振り返った提灯南瓜――やはり彼の顔に見覚えはない。が、心当たりは一つだけある事はある。 「あんた、鉢介に悪戯した奴だよね? 責任、取らないと駄目だよねぇ?」 ずいっと顔を近づけて彼女が凄む。 「かっかぼ! 大王様がえらい事にっ!!」 が、彼は別の所に驚いた。と言うのも実はリィムナ、料理を運ぶ途中であり、手にしたトレーには顔を活かした丸ごと南瓜の蒸し煮が乗せられていたのである。 「大王様をこんな顔にするなんて…強者かぼ! おいら、降参かぼ。手伝うかぼ〜」 提灯南瓜はそう言い、慌てて入口の方へと飛び去っていく。 「あはは〜、結果オーライだからまぁいいか」 その結果に彼女がてへっと舌を出し笑うのだった。 ●サプライズ 会場への人の入りが一段落した時、彼らはもう一つの趣向の準備に入る。 そう、なぜこの会場に舞台があるのか。それに気付いた者はずっと疑問に思っていた事だろう。 「ごめんね、後は任せる」 「はい、頑張って下さい」 その為に裏へとはけていくリィムナをユウキは穏やかに送り出した。 日は粗方落ち、星が顔を出している。ここは野外だ。事前にあまよみで彼女が天候を確認していた為、この後も雨になる事はないだろう。 提灯南瓜に指示を出し、少しだけ照明を暗くする。それと共にリィムナは歌い出す。それは静かに繰り返す旋律の…歌詞がある訳ではなく、メロディーを口ずさみ始めると同時に彼女の髪飾りが光り、更には彼女の周囲にも薄緑の燐光が輝き出す。会場がそのメロディに包まれ、そして始まるのは恋の物語――。 「はーはっはっは、私の名は怪盗パンプキン! この世界に私の盗めぬ物はない」 ばさりと白のタキシードの裾を翻して、霧雁扮する怪盗は同色のシルクハットを深く被り舞台の袖から登場する。 そしてその後ろからは書き割で出来た兵士達が彼を追う。 突如始まったその芝居に観客は自然と手を止めた。こんな演出があるとは思っていなかっただろう。チラシにはサプライズ有と記していたが、何があるかまでは明記しなかった彼等である。 「今日の獲物はこの城の姫のティアラ…今回も簡単そうですねっ」 彼はそう言い、舞台から飛び降りる。そして、観客のいるテーブルを颯爽とすり抜ける。 「えっ、うそ!」 「手品か何かか!?」 その姿に観客は目を丸くした。 人も机も、彼の前ではないも同然なのかと――怪盗は文字通り、障害物をすり抜けて行ったからだ。 「ふふ、驚ている驚いてる」 「普通驚きますよね」 見守るサライにユウキも言葉を返す。 ちなみに彼らはこの上演時間を利用し、リィムナを除いて追加の料理の作成と片付けに徹している。 「後、三分程度で新たな南瓜ケーキが焼き上がるでござる」 そして霧雁も実はここにいた。では一体あれはどういう訳かと言えば――、 「ここら辺の精霊が協力的で良かったよね」 事前に作っていた南瓜のポタージュを温め直しながら、小声でユウキが言う。 「ですね…折角演じたのに発動できなかったら意味有ませんし」 裏で頑張っているリィムナにちらりと視線を送り、これはサライだ。丸ごと南瓜にカレーを追加する。 「しかしたった五分でござるから、皆急ぐでござる」 『はい』 そう五分――それが限界。 このトリックを明かすとこれは一種の幻であり、正確に言えば時の蜃気楼を使った演出に過ぎない。 事前に演じたそれを精霊の力を借りて、その場に再現する。戦場では過去のそれを確認する事に使用できるが、こういう使い方も面白い。 「きゃっ」 その間も劇の話は進んでゆく。 純白のドレスを身に纏い南瓜のティアラをしたかぼ姫・サライが登場。今怪盗とぶつかった所だ。 「貴方は誰?」 城への侵入者――そうとも知らずに純粋な瞳で姫は怪盗を見つめる。 「これはこれは御美しい。しかし、姫。動かないで…手荒な事はしたくありません」 「え…きゃっ」 怪盗の言葉が終わると同時に彼は姫を近付き、ティアラを攫ってゆく。 「あの、それをどうす…」 「私は怪盗ですよ? しかし、いい子にしていたご褒美に私から貴方へいいものを差し上げましょう」 くいっと顎を押し上げて、彼は彼女の頬にキスを落とす。それは一瞬の出来事だった。 しかし、姫の心は高鳴り頬を赤くする。が、二人の時間はそれまでだった。追手が姫の部屋へと迫ってきたのだ。 「では、また何処かで」 怪盗はそう言い、再び舞台から降り去っていく。 「ま、待って…お名前を」 「パンプキン」 「パンプキン様…」 それが一幕の終わり……ゆっくりと照明が戻る。 「え、この先どうなるの?」 手を置き見入っていた観客達からそんな感想が漏れて…期待は否応なしでも高まってゆく。 ●ひょっとこ南瓜 暫くの休憩を挟む中、観客と化した来場者に一人も途中退場はいなかった。 家族連れできた者達も、カップルも、そして個人で来た者もやはりこの後が気になるらしい。 「もう一頑張りって所だね」 リィムナが水で喉を潤しつつ、小さく深呼吸する。クライマックスはもう間近…彼女は再びメロディを口遊む。 「私はなぜあんな事を言ってしまったのか…」 会場の中央で怪盗はぼんやり空を眺める。もう会う事はないだろうに『また』等と…あれから姫の顔を脳裏から離れない。すると今度は舞台側、城のバルコニーにも姫が現れて…同様に空を眺めている。 「あぁ、パンプキン様…私は一体どうしてしまったの?」 彼女もまた、彼の顔が思い描く。しかし彼女は名前しか知らないのだ。会いたくともどうしていいのか判らない。 舞台を右往左往する。そんな彼女らを見かねて今回のキーパーソンとも言える人物がここで姿を現す。 「もっと素直になりなよ。それは初恋…姫の初恋なのだからさっ」 被り物の南瓜頭をつけてリィムナ扮する南瓜妖精が囁く。 「初恋! でも無理よ、私とあの方は違うかもしれませんし」 「いいや、違わない。二人は好き合ってる…あたしには判る。だから力を貸してあげるよ、それっ☆」 妖精はそう言って舞台を囲んでいた南瓜の一つに魔法をかける。 「姫様、これを食べて……貴方の初恋はきっと叶うよ!」 彼女はそう言い、瞬く間に姿を消した。残っているのは姫と南瓜だけである。 「そうね…妖精さんが応援してくれるなら、私出来るかもしれない」 姫が南瓜を一齧りする。するとどうだろう。彼女の身体は光だし、それと同時にスポットライトが怪盗の位置を照らす。 「パンプキン様!」 そこからは二人の追っかけっこが始まった。舞台を飛び下り、姫と怪盗が縦横無尽に跳び回る。三角跳や早駆を駆使しているから、さながらアクロバットなサーカスの様にも見える。そしてついに、姫は怪盗の手を取る事に成功する。 「私、決めたわ。貴方が好きなの…だから」 「ダメです、姫。私は義賊とはいえ盗人ですよ? 判っているのですか?」 「ええ…それでもあなたが好きなの。貴方じゃなきゃダメなの」 だっと背中から抱き付いて姫は告白する。 「私を見つけてくれたのは貴方だけよ。だからお願い…」 「姫…」 怪盗は迷っていた。姫が妖精の力を借りていたとはいえ、彼女をまこうと思えばまけた彼である。だがどうしてもそれが出来なかったのはつまり、自分も彼女に魅かれているからに他ならない。 「いいのですね、姫」 「えぇ」 見上げる姫をゆっくりと抱きしめる。それに拍手が起こった。そうして、舞台は一旦幕を閉じる。 「よし、ほな。最後の仕上げやなっ!」 そこでやっと鉢介が動いた。拍手鳴り止まぬ中、舞台中央へと移動する。 「本日は御来場おおきにな。今日調理されている南瓜はわいが作った南瓜です。その名も初恋のカボ姫! ここに並んどるのもそうです。もしお気に召したのなら、一つ買ってやって下さい。味は食べた通り保証しますさかい!」 出演者のカーテンコールだとばかり思っていた観客は突然の鉢介の登場に唖然とする。 「あ、わい、お呼びでな…」 そう言いかけたが、 「おいらのお墨付きでもあるかぼー! よろしくかぼ―!」 そこに提灯南瓜のフォローが入って…舞台に現れたのは蛍光落書で描かれたハートマーク――彼の粋な計らいだ。そこを逃さずにサライも加勢。 「カボ姫食べれば貴方の恋も成就です♪」 それがきっかけとなった。味が申し分ないのは食べて確認済みだ。劇の効果もあっただろうが、客が帰らなかったのは料理が美味しかったからと言っていい。 「ちょっと形はへんてこだけど、じゃあ一つ頂こうかしら」 「見た目じゃなくて中身よね♪」 そんな声が上がって、徐々に舞台の周りに並べていたカボ姫が売れ始める。 「しかし、本当に変な顔がついてるのね…吃驚だわ」 「あ、いやこれはわいが彫ったもんで」 「あらそうなの? てっきりこんなものかと思っちゃったわ」 ひょっとこ顔のジャック・オ・ランタン。開拓者らは気にしていなかったが、インパクトは意外と強かったらしい。 まぁ些か誤解が生じている様ではあるが、これが終われば普通のモノばかり出回るだろうし問題はないだろう。 「やりましたね、鉢介さん」 ユウキが言う。 「ほんまおおきになぁ。あのアヤカシ?もなんか加勢してくれて…」 「え、あぁ…あれ、何処から来たんだろう。あれは提灯南瓜って言ってイタズラする習性があって、困り者だけどね。悪い奴じゃないんだ。僕の所にも住んでるし」 「へぇ、ほんまかいな。しかし、何や嬉しいなぁ…あいつとは運命感じるわ」 「え…そうなんですか?」 なんやかんやで世話になったと鉢介は提灯南瓜を捕獲し抱きしめる。 「あうあう、なにするかぼー」 そういう提灯南瓜であったが、彼もまんざらでもない様で―― 評判が広まるには時間が要りそうであるが、ひとまずカボ姫が完売するのであった。 |