【猫又】厄介者、発生中
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/24 18:19



■オープニング本文

「ポチさんっ、どうかこの通りだ! あの化け物クラゲ達をどうにかして下さい!!」
 巷の長い休暇が終わった頃、おいらを訪ねてきたのはいつかの海の仲間達――。
 彼らはおいらに波乗りの楽しさを教えてくれた大事な恩人だった。だから、おいらも勿論力になりたい。
 そこでおいらは早速、やる気のない御主人を立ち上がらせるべく考えを巡らす。
「ご主人、今年はまだ海行ってないにゃね…」
 いい切り出し方が見つからず、周りくどいのを止めて短直に切り出す。
「ん、ああ…そうだな」
「行きたいと思わないのにゃ? 今なら人も少にゃいし…それに」
「それになんだ? おまえがただ飯でも奢ってくれるのか?」
「う…」
 ただ飯……それで来てくれるのなら悪くない。しかし、おいらのお財布は少し前のある一件でとても軽くなっている。
(「御主人とおいらの分の宿泊料……全然足りないのにゃ…」)
 ちゃりっと微かな音を立てるお財布に見えたのはたった数枚の小銭。猫に小判と言うが、これではとても足りない。
「一抹さん、速達で〜す」
 が、ここでポチにとっての朗報が届く。手紙のあて先は一抹が世話になった事のある港からだ。
「お化けくらげ大量発生につき、至急応援を頼む…か。また、唐突な話だな」
 走り書きで書かれた文面に一抹は怪訝な顔を見せる。
 クラゲと言えば少なからず毎年発生するものだ。漁師らもそれは承知しているし、その対処も出来ている筈だ。なのに、この慌て様から察するに従来のモノとは些か異なるのだろう。
「御主人、この港って…」
「ああ、おまえも行った事があったか」
 御主人の言葉においらは頷く。そこは仕事で何度か訪れていた。
 それに何より波乗り仲間達のいる海からそう離れてはいないから好都合だ。
「行くのにゃ?」
 一応おいらが尋ねる。
「ああ、あの親父の呼び出しとなれば仕方がねえ。せいぜい報酬に上乗せして良い物食わせて貰わんとな」
 悪態を付きつつも相手は恩人でもあり、見捨てたりはしないらしい。
「じゃ、準備するのにゃ♪」
 おいらがこれで仲間も助けられるといそいそ準備に入る。
「全く…あいつは。遊びに行く訳じゃねえんだがなあ」
 その様子を見て、御主人が背後でそう呟いていた。


 そして、後日――港についたおいら達は現状を把握する。
「仕掛けた網の魚を狙ってくるみたいでこのざまでさぁ」
 港に上がった魚の量は大きく激減――一部食い散らかされ無残な姿になったものもある。
「これは酷いな…」
 以前漁を手伝った事のあるご主人が僅かに眉をしかめる。そこへ更なる悲報。
「護鋼丸がやられた! しかも船員の一人が足を持ってかれてっ!」
「何?!」
 あのクラゲが人を襲った。
 元々肉食ではあるが、それでも人を襲うとなるとそれ相応の大きさと力が必要となる。
「ポチ、どうやらこの一件……ただのクラゲじゃねえようだな」
 御主人が言う。
「数は判るか?」
「それが複数目撃されている報告はあるが、特定には至っていない。ただ、毒をもつって事は確認されているし、船を揺らす程の重量もありそうだ」
「判った」
 情報を集めて、おいら達は一報をくれた親父しゃんの元を訪れる。
「背に腹は代えられん。わしの船を使って奴らを殲滅してくれ!」
 彼の船は有明○(ありあけまる)――年季の入った彼の魂を預けられては、一抹も気を引き締めざる負えなかった。


■参加者一覧
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
フラウ・ノート(ib0009
18歳・女・魔
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎


■リプレイ本文

●単
「そこのオヤジ。この樽と板、譲って貰えないかい?」
 漁に出られないとしてもただ手を拱いているだけの漁師達ではない。負傷した者は別であるが、五体満足な者はいつでも次の漁に出られる様、準備だけは怠らない。開拓者への救援を出したと皆は知っているから解決された後の事を既に見通し、港を空にはしない。
「んあ? ねーちゃん、見ねぇ顔だな…さては今回のクラゲ騒動で」
「ああ、呼ばれてきたもんだ。で、譲ってくれんのかい?」
 長い赤髪を揺らし男勝りな口調でヘスティア・ヴォルフ(ib0161)が尋ねる。
「そりゃもちろんあれを退治してくれるなら構わんさ」
 漁師の一人はそう言って彼女が所望した物を快く差し出す。
「ああ、任せなって。俺と主がいればあっという間だから」
 それを受けて、彼女の代わりに物を受け取ったのは彼女の相棒のD・Dだった。
 彼女同様に長い髪ではあるが色は栗毛色で笑顔が眩しく、軟派なお兄さんと言った感じのからくりである。
「お、あんたの彼氏かい? 意外と優男が好きなんだなぁ」
 その姿に漁師は彼を人と勘違い。茶化す様に言い、からからと笑う。
「いや、これはからくりだ……とそれはさておき出現場所とかの目星もつくか? つく様なら聞いておきたいんだが…」
 彼女はそう言い情報を収集に努める。
「あぁ、そうだなぁ。一応海図に目撃情報は纏められている筈だ。組合長…靱八の家に行きゃああると思うぜ」
「靱八か」
 それは一抹の知り合い漁師の事でもあり、今回の依頼主の名でもある。
「そうか。じゃあそれはいいとして後は…」
「クラゲに刺された時の対処法、何かあるかな?」
 彼女をフォローする様にD・Dがにこやかに問う。
 二人の事前準備は完璧だった。戦は戦う前から始まっているという様に、抜け目なく必要な情報を集めて回る。
「うふっ、さすがスーちゃんね。もう動いているなんて」
 そんな彼女を見つけ、ユリア・ヴァル(ia9996)は感心していた。
「判っているなら、我が主も手伝えば宜しいでしょうに」
 彼女の隣りで銀髪の男性がわざと彼女に聞こえる様に呟く。
「あら、だったらこういう時は執事である貴方がまず動くべきでしょう?」
 売り言葉に買い言葉、彼女が言う。
「いえ、私はあくまで執事ですので。我が主より目立つ事は慎んでいるんです」
「そう」
 ユリアはその言葉をさして気にも留めない。これがいつもの二人の関係なのだ。
「そう言えばあの方とは幼馴染同盟の仲間でしたか。参加者リストを拝見した所今回は知り合いの方が多い様ですが、まさか楽するおつもりではないですよね?」
 港に執事服の男と言う、そんなアンバランス感を漂わせながら彼――上級からくりのシンが問う。
「確かに皆一緒だけれど…ふふ、どうかしらね?」
 くすりと笑って彼女は答えを回避した。そんな時視界の先には珍しい尻尾の仙猫と見知った顔が飛び込んでくる。
「ちょっ、わかったわよ、リッシー……秋刀魚と鰯を一本ずつね」
 ぜえぜえ息を吐きながら相棒のリッシーハットを追いかけていたフラウ・ノート(ib0009)が言う。
「ちぇっ、二本ずつじゃないのかよぉ〜。フラウのケチって……あ」
 そう言いかけて、彼は自分達への視線にやっと気が付いた。そしてそれを知ると同時に慌ててフラウの影に駆けてゆく。
 彼は余り他者とは関わりたくないらしい。であるから普段主以外がいると猫として振舞うのだが、今回は迂闊だった。だが実際は三又尻尾であるからよっぽどでない限り、ばれてしまう事が多い。黙り込んでしまった彼にフラウはくすりと笑う。
「ユリアんも来てたのね。頼もしいわ、宜しく〜」
 フラウがユリア達に向かって手を振る。
「クッ……後で覚えてろよ」
 リッシーがぽつりと呟いた。


「いや、確かに魚介が取れなくなるのは困るな。相棒の餌が減ってしまう」
 有明○の所有者・靱八宅で一抹らと茶を飲みつつ、語るのは黒髪の少女・からす(ia6525)である。
 海に近い場所であるから相棒のカミヅチ・魂流も水場近しと嬉しそうだ。早く行きたいのか海を眺めている。
「そういや、あんた一本釣りの時も世話になってたな。あんたも海は好きなのかい?」
 靱八がふとそんな事を思い出して彼女に問う。それに彼女は微笑みで答えて、
「靱八殿こそ今や組合長とは…ご出世おめでとう」
 事件は海で起きている。とはいえ今は昼を回った直後。
 今から出発するのは危険だからと和やかな時間を過ごしつつ、明日の動きを纏めに入る。
「しかし、変だとは思わねぇか? 幾ら餌があろうが、人を襲い始めるなんてよ」
 そんな中、竜哉(ia8037)はなんとなく感じている疑問を口にした。彼は以前、海の巨大生物を相手にした経験があるが、今回はそれとは些か違う様な気がするらしい。
「儀が落ちる事……それをケモノ達は感じ取って落ち着かないのかもしれんし、或いは儀の高度が下がって下の世界の瘴気の影響を受け始めたのかも」
 探究熱心な彼が現在の動向を視野に入れて推測する。
「さあな。どっちにしろやる事は変わらんさ」
 が、一抹の答えはあっさりしたものだった。儀が落ち様が、瘴気で荒ぶろうがやる事は一つだと言いたいらしい。
「にゃーー! おいらの尻尾、ミミズとかじゃないのにゃーー!!」
 とそこでポチの悲鳴が木霊した。
 それに釣られて視線を庭の方に移してみるとポチの尻尾を追いかける竜哉の輝鷹の光鷹の姿がある。
「ギャアギャア」
 そう鳴き声を発しながら、小走りにポチを追いかける。
「ああ、すまない。そいつは気まぐれなのでな。本気じゃないと思うが気を付けてくれ」
「そうなのか、にゃーーー!?」
 竜哉の言葉に相槌を打ちかけて、しかし近付いた嘴に本気で逃げるポチ。
「きっとあの尻尾が気になったんだろうな…」
 一抹が言う。そんな二匹を見つめて、魂流は少し首を傾げていた。

●集
 有明○出航の時――明朝、彼らは船に乗り込む。
「私が先行しよう。魂流、行けるね?」
「キュウ」
 ミズチは進化を経て飛行能力を身につけた。そこで彼女は先に問題の場所に向かう手はずだ。
 それと同時に船内からはフラウ・リッシー組が辺りを警戒する事になっている。
(けっ、いっぱい見送りに来やがって…恥ずかしいだろうがッ)
 見送りに来た靱八の家族と漁港の皆を見つけ、リッシーが心中で呟く。
「頑張ってくるにゃー!」
 一方、ポチはご機嫌だ。人には慣れてるし、むしろ応援されると頑張れるタイプである。
 そうこうするうちに船はあっという間に沖へ出て、人影も見えなくなった頃、リッシーは船の屋根へと移動。
 なぜならここからフラウに猫心眼を使う様に言われているからだ。
「それっぽいの居そう?」
 フラウが屋根を覗き込んで問う。が、それに彼はこう答えるしかない。
「あのなぁ、フラウ〜。海にどれだけの魚と生き物がいると思ってるんだよぉ〜」
 よく考えてみれば、海は生き物の宝庫。猫心眼ではありとあらゆる生き物を探知してしまう。
 従って彼の視界には、無数の反応が出てしまい、目がチカチカしてきた。
「その中でも大きいのを教えてくれればいいのよ。それかもしれないから」
 言うのは容易くやるのは難し。簡単に言ってくれるが、やってる方は結構な集中力を消耗する。
「あぁ、もうっそんなもん知るかッてんだ!」
 半ば半ベソ気味にリッシーが言う。
「リッシーしゃんも苦労してるにゃねぇ…」
 ポチの同情の眼差しにどうしていいか判らなくなる彼である。
(けど、確かにこれじゃあキリがないのよねぇ〜)
 そんなリッシー同様、フラウも探知をしあぐねいていた。
 と言うのも彼女が使っているのはムスタシュィルという侵入者発見の術であるが、自分を支点に出入りする影が多過ぎるのだ。それは小魚でも鮫でも全てが対象となる。瘴気の有無で害無しと判断を下しているが、もし今回のお化けクラゲがケモノの類いであったなら、見逃す事にもなりかねない。
「しくじったわぁ〜」
 志士の心眼も然りであるが、限定した何かを見つけると言うのはなかなか難しいものだ。
 ただ今日は波も思う程高くなく、絶好の殲滅日和だった。
「ヘスティア、これは?」
 船上に縄で繋がれ樽と板を見つけて竜哉が問う。
「ああ、一応海での戦闘用の足場にな。こっちにはお酢を用意してある」
「酢?」
「そう、お酢よ。なんでも刺された時に患部を真水で洗うのは良くないそうなの」
 ここも幼馴染であり、ユリアが言葉を引き継ぎ解説する。
 それから暫くしてから、彼らの元に吉報が届けられる。
「クラゲかどうかはさておいて、ここから少し流された場所に瘴気の反応がある様だよ」
 戻って来たからすが手にしていた懐中時計を見せ言う。
「ほう、ド・マリニーか」
 それを見取り竜哉の言葉。その懐中時計は宝珠が組み込まれており、時間の他に精霊と瘴気の流れを感知するのだ。
「行ってみる価値はありそうね。一抹さん、あちらに動かしてくれるかしら?」
 ユリアが振り返り、進路を伝える。
「さぁ、魂流。きみの出番だよ、今度は海から…確認に行ってくれるね?」
「キュウ〜」
 魂流もからすの指示に従って海に潜る。
「今度は俺が上を行こう。コウ、頼む」
 竜哉の言葉に光鷹は応えてまずは大空に力強く羽ばたいた。
 そして、一直線に彼の背中を目がけて降り来ると激しい風を巻き起こして彼の背中に同化する。
「竜哉、くれぐれも気を付けろよ」
「ああ、まあ相手はクラゲだ。触手は水中以外には伸ばせないさ」
 ヘスティアにそう答えて、助走をつけて飛び立つ。

●真
 澄み渡る海、まだ太陽は高くないがそれでも魂流の視界にはクリアな世界が広がっている。
 ちょっとつまみ食いをしたい気持ちを抑えて進むうちに、周囲の魚達の小さな動揺を感じ始めた。
 そしてその先に見たのは異様な光景……クラゲが更に大きなクラゲの触手に捕らわれている。しかも、それが一匹や二匹ではない。何十本もの触手がそれぞれに小さいクラゲを捕まえているのだ。その様子はまるで昔絵巻に登場する人を捉えた蛸入道の様でもある。
「キュウ〜〜!?」
 いつの間にか自分にも忍び寄ってきていた細い触手の存在を悟って、彼は慌てて身を翻す。
 それと同時に彼は触手から切り離されるクラゲを目撃した。この巨大クラゲは、仲間を餌にする以外にも自分の駒として動かす事も出来るらしい。離された一匹がこちらに向かってくる。透明のカサの中にはイカ墨の様なドス黒い部分が見える。
(きっと、アレ…いけないやつだ)
 自身の本能がそれを感じて、彼は一目散に船を目指す。

「おい、これって超デカいぞ!」
「わかってるわよ、そんな事!」
 懐中時計の示した先に近付くにつれて、リッシーとフラウにも明らかな違いでそれの反応を感知する。
「近いようだな。皆警戒しろよ!」
 それを悟ってヘスティアはD・Dに足場の設置の準備をさせつつ眼前を見やる。
「やっと私達の出番ね」
「息を合わせてやってやるんだから」
 ユリアとフラウはそう言い、魔法の準備に入る。
 前衛としては彼女らのからくりとヘスティアが、後衛にはからすが目を光らせている。
「キューキューウ!!」
 そこで先に顔を出したのは魂流だった。船に飛び込み、からすに状況を伝えようとジェスチャーをしてみせる。
 が、それより先に竜哉が水面下に見えた白い物体に目を見開き驚いた。
「な、なんて数だ!!」
 眼前に見えるだけでも数十は超える。これが同時に船を襲撃すれば、相手がクラゲとはいえ転覆の可能性も考えられる。
「ちっ、間に合うかッ」
 竜哉が手にした魔槍砲の起動に入る。
 そして空中でホバリングしつつ照準を船より少し手前で合わせて、後は着弾のタイミングを見計らい、

 ドォゴォォォォン

 彼の魔槍砲が唸りをあげた。その反動に流石の翼も耐え切れず、いくばくか空中で後退する。
 海面では進路を阻む様に撃ち込まれたエネルギーに海水全体が震え、船へ向かっていた何十ものクラゲが消し飛び、一部は宙へと舞い上がる。その大きさは人一人を有に呑み込める程のカサを持っている。
「まずは一掃、行きますよー!」
「ええ、いいわよ」
 フラウとユリアが各々両サイドで手を翳す。すると同時に発生したのは吹雪の猛襲――ブリザーストームだ。
 それは宙に上がったクラゲを巻き込み、一瞬にして氷漬けにしてゆく。そこへ透かさず、
「D・D、行くぜぇ!」
「了解さ」
「シン、彼らの援護なさい。いいわね」
「仕方がありません。不本意ながら手伝って差し上げましょう」
 足場を海に作ると、前衛が船に落ちるクラゲを優先に触手に注意しつつ、切って捨ててゆく。
「ほう、まさかクラゲの雨が降るとは…面白い事もあるものだね」
 からすはそう言い、一抹のいる操縦室を守る。
「全く厄介事ばかり起こりやがる」
 これは一抹の愚痴だ。エンジンは切らぬまま、外の様子を窺う。
「おい、そいつは何と言っている?」
 そこにからすと魂流の姿を見つけて、早々の帰還に何か察し一抹が尋ねる。
「さすが勘がいいね。これは少し面倒かもしれないよ」
 それにからすは動揺等見せぬまま彼にそう告げるが、
「そう言うのは慣れているからさっさと教えろ」
「わかったよ」

●合
 反動で大きく下がった竜哉であったが、その後眼下に見えた新たな影にまたも声を失くす。
「おいおい、目の錯覚じゃないよな」
 同化している輝鷹もきっと同じ気持ちだろう。さっきのクラゲの集団の更に深くに白く見える大きな塊。その影は上空から見ても船の二倍以上はある。それが徐々に船の方へと移動しているから、アレもクラゲに関わる何かである事は間違いない。慌てて船の方に戻ろうとするが、間に合いそうにない。
「もう一発撃ち込んでみるか?」
 移動するそれに彼は思う。しかし敵は海中であり、次見た時にはそれは既に沈み始めて…。

 その頃船上では幸いにして、その影の正体が通達されていた。
「皆、気を付けるのにゃ! 下にもっと大きい親玉がいるらしいのにゃ!」
 一抹伝にポチが伝える。リッシーもその間猫心眼を続けて、近付いてくるそれに警戒を促す。
「やばい、もうすぐそこまで来てるっ!」
「くっ、何処だよ! 姿は見えないぞ!」
 先程の衝撃で跳ね上がったクラゲは既に落ち切っている筈なのに、未だにクラゲが海中から飛び出してくる。
「これは推測するに、その親玉クラゲとやらが意図的にやっているのでしょうね」
 シンがさりげなくD・Dを盾にしつつ、二丁の銃でクラゲを撃ち抜く。
「いや、ちょっと、あんた…確かに防御強化してるけども…それはないんじゃね」
 と、これはD・D。フラウにアクセラレートをかけて貰ったし、無痛の盾で強化はしているが、それでも当たれば少しは損傷する。
「固い事言わないの。男の子でしょ」
 ユリアが笑顔で言う。
「まあ、俺は構わないけど」
「そんなぁ…」
 ヘスティアの寂しい返しにガクリと肩を落とす彼だが、それでも攻撃はやめない。
 見かけに似合わぬ巨大な斧を振り回し、尽くを一刀両断だ。
「それでこそ、俺の相棒だ」
 ヘスティアも斧と槌を両方に持って、勇ましく動く。
 そんな折だった。突然ぐらりと歪んだ視界に皆がハッとする。
 そして海面に目を向けるとそこにはぶよぶよした白い塊があり、それが一気に船を押し上げる。
「くっ、しっかり捕まってろよ!」
 一抹が叫んだ。思い切り舵を切ってそれからの離脱をはかる。
 が既に押し上げられた船体は海面を離れつつある。
『うわぁぁぁぁ!?』
 皆の悲鳴が木霊する。そう、親玉クラゲが船底から一気に彼らを押し上げたのだ。
『にゃ〜〜〜!?』
「魂流、水柱だ!」
 浮き上がった船の転覆を防ぐ為、からすが指示を出す。それに再び魂流は応えて、

 バッシャーーン

 数キロ先、彼らは無事着水した。けれど、ほっとしたのも束の間敵は追い打ちをかけてくる。
「よっぽど我々を食べたいらしいですね」
 シンが言う。が、その歩みを止める様に新たに発動されたのは強烈な雷――。
 いつの間に同化を解いたのか竜哉は浮かべられた樽に立ち、輝鷹だけが先行してそれを打ち出したらしい。電気は水をよく通す。魔槍砲よりそれは効果的の様だった。親玉クラゲの動きが鈍っている。
「今のうちだ。また沈まれては仕留めるチャンスを失いかねん!」
 竜哉が叫ぶ。けれど、相手は水分九割強の強者だ。しかも水中では斧を振り回したとて、地上程の威力は出せないだろう。竜哉は事前に網での引き上げも考えていたのだが、この大きさでは同化したとて重量過多で光輝の力を借りた空中引き上げは無理だろう。
「叩ける面積が増えればよいのだろう? だったら、うちの魂流で多少浮き上がらせてみようか」
 からすが言う。
「そうすればもしかしたら私達のあれでいけるかも」
 初めのそれ同様、多少なりともユリアとフラウの冷気で表面を固め砕く事も出来ればと二人は考える。ならば後は、
「いけるかもしれないな!」
「はい」
 ヘスティアとD・Dが顔を見合わせる。そしてそれは魂流の水柱から始まった。
 親玉クラゲのカサ部分を更に露呈させるとブリザーストームで表面を凍らせ、中央に近い場所に影撃を打ち込む。そこへシンが余っている樽を投げて道を作り、
「喰らいなァ!!」
 二人の渾身の一撃が親玉クラゲの核へと届いて――、
「あぁ、もう…ぶよぶよして気持ち悪いぜ」
 水着を着込んでいたヘスティアが一仕事終えて、海面に顔を出す。
 討ち取った親玉も瘴気にやられていただけの様だ。核だと思われた部分からは瘴気が噴出して、その後は動かなくなった巨体のみが無残に浮かぶ。
「小さい奴もあれに操られていたのか死んでいるようだな」
 念の為と海に入った竜哉が辺りを確認し言う。魂流が見た黒い部分も遺体からは抜けているし、周囲に目を配っても原因と思しきものは見当たらない事から、どうやらあれを自然と瘴気が犯し、狂わしたのだと推測される。
「はぁ、これでもう少しだけ海を楽しめるかしら」
 ユリアも水着に着替え、確認を終え呟く。
 彼女がこの依頼を受けたのはここに理由があったらしい。
「ちょっとーー、助けてにゃーー! おいら達飛ばされたのにゃーー!」
 一件落着と思い上がろうとした彼らの耳にふと届いたのはポチの声。
 達と言うのは誰の事かと思いきや、リッシーに他ならない。
「なんであんなとこにいるのかしら?」
 戦闘に夢中で気付かなかったが、いつの間にか転落していた様で必死で猫掻きをしている。
「仕方ないあれも助けなきゃならんが、その前にこの魚も回収しないか?」
 どうやらあの電撃と爆音にやられたものらしい。海面に浮かぶ魚の山に一抹が提案する。
「だったらこの網を使うのがいいだろう。その方が楽そうだしね」
 からすが竜哉の準備していた網を見つけ言う。
「このクラゲ、食べれるのかしら、ね?」
 フラウの問い――確かに食品になればよいのだが、毒があったとも聞いているしなんせ瘴気のついていたものだ。どんな健康被害がもたらされるか判らない。
「食べられない事はないと思うが、美味しいものでもないよ」
「そっか。だったら普通に美味しい方を選ぶまでね」
 海面に浮かんだ魚をわし掴んで彼女は船内に放り込む。
「それがいいわね」
 ユリアが笑顔で同意する。
「早く助け…」
「判った。コウ、行ってやれ」
「えーーー!」
 竜哉の指示にポチが俄かにたじろぐが、その後に魂流も加わり二匹は無事回収される。
 そして漁港に帰ると盛大な祝杯が挙げられたのは言うまでもなく、
「ふむ、雷か。雷一発でこれだけ獲れるならわしらの職業上がったりだなぁ」
 冗談交じりに漁師達が言う。
「新しい漁法になるかもしれませんわ」
 そう提案するフラウに確かにと真剣に納得する者もいる様で…
 天儀のそれはさておき、いつの時代も人は逞しいなと思わなくもない一同であった。