苦いやつ、きらいっ
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/31 14:48



■オープニング本文

●記憶
「ねえねえ、このきゅうりさんぼこぼこだおぅ」
 それは夏の始まり、まだみっちゃんが小さかった頃の事である。
 庭の畑では夏野菜が育てられ、そこには沢山の野菜が出来ていた。その中でも一際良く成長したのは胡瓜と苦瓜。並んで育てられたその二つを彼女はまだ判断が出来なかった。しかし、彼女はとても喉が乾いていて…そこでふと思い出す。
「きゅうりさんはおみずたくさん♪」
 近くに垂れ下がっていたその実が胡瓜ではなく、苦瓜とも知らずに――満面の笑みがみるみるうちに涙に変わる。

「にが〜〜〜いのぉ!?!」

 生え揃い始めたばかりの乳歯で懸命に齧り付いたものだから、口には硬くそして苦い味が広がる。
 慌てて彼女の母が駆け寄って、事態把握までそれ程時間はかからない。
「あらあら…みっちゃん、判らなかったのね…よしよし、大丈夫よ」
 水筒の水を彼女に差し出しながら、母は彼女を慰める。
 しかし、その頃の衝撃はそう簡単には忘れない。いや、忘れられる筈がない。


●井戸端
「これ、めーなやつ」
 母が取り分けた皿に苦瓜の欠片を見つけて、彼女はそれを除外する。
「こらっ、みっちゃんはもう六歳でしょ。ちゃんと食べなきゃダメじゃない」
 そういう母であるが、彼女も知恵をつけてしまいなかなかもって、いう事を聞いてはくれない。
「大丈夫だもん。これは苦いからお薬なの〜。みっちゃんは元気だからお薬必要ないの〜」
 そう言って、苦瓜以外を綺麗に食べてご馳走様をしてしまう。
「まぁ、一体どうしたらいいかしら…」
 畑では今年も沢山の苦瓜が出来ている。しかし、この分だとみっちゃんはきっと全く食べてはくれないだろう。
 かくなる上は――みっちゃん母は早速仲のいい太郎と巽の母の元へと相談に走る。が、そこで更なる難問。
「うちも苦瓜は苦手みたいで食べてくれないのよねぇ」
「やっぱり子供って苦いのは苦手みたい」
 大人になれば味覚も徐々に変わると言うが、収穫数は多くとてもじゃないが親だけでは食べ切れない。
 それにだ。苦瓜は風邪の予防にもいい食材であり、疲労回復にも一役買うニクいやつでもある。
「何とかし食べてくれる様にならないかしら」
 彼女達が首を傾げる。それに加えて、話すうちに他の共通点も見え始める。
「そういえばうちの巽はお茄子の漬物もダメなのよね。あっさりしていて食べやすいと思うのだけれど」
 こちらもいわば夏野菜。育てやすい野菜であるから奥様としてはありがたい食材であるが、親の心子知らず。
 あまり人気はないらしい。
「あら、巽ちゃんも? 太郎も触感が嫌みたいで余り食べないわねぇ〜」
「味がないもの食べても意味ないとか言うし…」
「もしかして、仲良し同士好き嫌いも似てしまっているのかしら?」
 それは夏の昼下がり、午前の家事仕事を終えた奥様達の井戸端会議での会話だ。
「ねえ、苦瓜も茄子も沢山ある事ですし、ここは一つあの方々に頼んでみません?」
 みっちゃん母がはっと思いついた様に二人に提案する。
「そうね…前からお世話になってるし、あの方々なら子供達も好きだから言う事聞いて食べてくれるかも」
「ええ、お願いしてみる価値はあるわね。そうと決まれば早速…」
 彼女達はそう思い、同じ悩みの母親を集めて依頼を出す。

『うちの子の好き嫌い克服にお力をお貸し下さい』

 翌日、ギルドには何ともアットホームな内容の依頼が新たに追加されたのだった。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
フラウ・ノート(ib0009
18歳・女・魔
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

●話
「もふら様だぁ〜」
 長屋にやって来た紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の相棒・もふ龍の姿を見取って、みっちゃんが駆け寄る。
 今も彼女はもふらが好きらしい。年季の入ったもふらのぬいぐるみをお供に本物に挨拶する。
「こんにちわもふっ」
 そんな彼女にもふ龍も応えて、すると何処からともなく太郎と巽も集まり出す。
「なんだなんだぁ? 今日って何かあるのか?」
 長屋を訪れた開拓者に目を丸くする巽――
 彼らは自分らの苦手を克服させる為に親達が手配した助っ人である事を知らない様だ。
「ども♪ 今回はよろしくね」
 そんな彼にフラウ・ノート(ib0009)は笑顔で声をかけて…内心はどうなるか、今から緊張気味である。
「フッフッフー、この私が来たのだからもう問題はないのであーる!」
 そんな中、自信に満ち溢れて踏ん反り返るのはラグナ・グラウシード(ib8459)だった。
 背中の兎のぬいぐるみ・うさみたんに加えて、今日は子供相手という事でキュートな雪兎の帽子まで装備している。
「ラグナ、頭、暑くないか?」
 その姿に太郎は興味を魅かれじっと見つめている。
「今日は御母さん達が呼んだのよ。だから、皆はお昼まで遊んで…」
「いや」
「え?」
「御母さん達、ずるいのぉ。開拓者さん達独り占め、ダメなのぉ」
 ぷぅとほっぺを膨らませて、もふ龍に抱き付いたままみっちゃんが抗議する。
「まぁまぁ、でもそうなると…」
 作っている姿を晒しては何を料理するか一目瞭然だ。となればやはり毛嫌いされてしまうのではないかと母は思う。
 しかし、フラウの意見は違った。折角ならば味を見て貰ってはどうだろうかと考えていたからだ。
「大丈夫、なんとかなるでしょう。じゃあ今から台所に行きましょ」
「わーい♪」
「じゃあ俺らは虫取りにでも行こうぜー」
「うん、わかった」
 太郎と巽はそう言って、畑の方へと駆けてゆく。
「お料理大スキーv 美味しいもの作るから待っててねー」
 みっちゃんはそう言って二人を見送っていた。


 が、勿論台所に入った途端彼女の様子は急変する。
「それ、めーなやつだよ? 美味しくならないのぉ」
 笊にあげられた朝獲れの苦瓜と茄子の山を見つけて彼女はその中の一つを引っ掴む。
「何を言う! こんなにみずみずしく育っているではないか、子供のうちから好き嫌いはいかんな!」
 ラグナはそう言ってまずは己が見本を見せるべく苦瓜を手に取り、

 ガリッ

『あっ!?』
 ギャラリーの誰もがそんな声を出した。そう、彼は生の苦瓜にあろう事か齧り付いたのだ。
「ぬ……むむむ、こっ…これは…」
 ただの野菜だと思い侮っていた。茄子は食べた事のあるラグナであるが、実は苦瓜は初体験。胡瓜の様なフォルムに騙されてつい齧り付いてみたのだが、思いの外硬く…そしてかなり苦い。
(「ぐっ、いかーーん! 吐き出したい、しかしここで吐いてはみっちゃんが…」)
 彼を心配そうに見つめる彼女を前に辛うじてそれを踏み止まる。
「いや〜…ははは、これは、なんとも…デンジャラスな、味わいで…」
「生で食べるものじゃないもふ」
「なぬっ!?」
 衝撃の事実に一瞬意識を手放しそうになる。
(「ど、どうしよう、うさみたん……私は、私はなんて見本を……」)
 ふらりと上体を揺らして、堪らず膝をつく彼。みっちゃんは慌てて水を差し出す。
「あれは絶対食べた事なかったんだね…」
 ぽつりと蓮神音(ib2662)がフラウの隣りで呟く。
「みたいね……全く、大口叩く前にまずは事前調査しておくべきなのよ」
 かぶかぶ水を飲む彼を見つめて、女性陣は小さく息を吐く。
(「そういえば苦瓜公爵…っていたんだっけ? 南瓜大王と仲良くしてるのかな?」)
 夢の話であるが、なんとなくあの焦りっぷりが南瓜大王に似ていてそんな事を神音は思い出す。
「苦いのはお薬なの。だから元気なラグナが食べる事ないの」
 みっちゃんによしよしされながら思わず頷きたくなる彼であるが、それでは今回の目的は果たせない。
「いや、みっちゃんそれは…」
 引くに引けぬ彼に、ここでフラウが助け舟。
「ん? ん♪ そうね…確かに苦いんだけど少し工夫するとね、甘くて冷たいお菓子になるのよ」
 みっちゃんの表情が僅かに変わる。お菓子という響きは魅力的であるが、彼女にはとても信じられない。一方彼の方は、
「お菓子だとっ!? まさかこれを甘く煮るのか?」
 みっちゃん以上の眼差しをフラウに向けて問う。
「え、ええ…まあ、そんな所だけど」
「よっし、わかった! みっちゃん始めるのだ!」
 ラグナが立ち上がる。その勢いに任せて、みっちゃんも彼の横で可愛く拳を上げていた。


●作
 皆が割烹着に着替えて…さながら料理教室の雰囲気を有しつつ、彼らは調理に入る。
「さぁ、みっちゃん。まずはこれを煮詰めよう」
 ラグナがそう言い取り出した鍋に砂糖を投入する。
 少しの水と水飴も加えて、どうやら彼はさっき知った情報を実践に移すつもりらしい。終始焦げない様、木べらで混ぜてゆけば自然と砂糖は溶け粘度のある液状へと変化してゆく。
「この色はベッコウさん?」
 隣のみっちゃんが鍋を覗き尋ねる。
「そうだとも、そこへ取り出したるはこれこれ。さてどうするか、わかるかな?」
 うさ耳をキュートに揺らしながら彼は徐に苦瓜を取り出す。
「それ、めーなやつだお?」
 みっちゃんは訳が分からず首を傾げる。
「あ、まさか何だけど…」
 が彼の意図を察する者が存在した。そう、フラウだ。さっきの自分の発言で起爆した様に始まったこの茶番。あの勢いとノリからして、彼女の脳裏に嫌な予感が走る。
「ん〜、判らんかぁ。じゃあ教えてあげよう。これをつ…」
「みっちゃん、あれっ!」

 スパコーーン

 ラグナの取ろうとした行動に気付いて、フラウは咄嗟にみっちゃんの視線を逸らさせる。
 そして思わず近くにあった鍋の蓋を投げつけると、クリティカルを貰った彼は体を大きく仰け反り堪え切れず、
「な、何故に…ぐはっ!?」
 彼はそう言い残しその場に転倒した。うさみたんがクッションになった様で大事には至っていないのだが、暫くは気を失っているだろう。
「あれ、ラグナ…お昼寝?」
 視線を戻した先でラグナが倒れているのを知って、みっちゃんが首を傾げる。
「ごめんねぇ、みっちゃん。今のはただのベッコウ飴の作り方よ。この苦瓜はちゃんとした手順でお菓子にしていこうね〜」
 まだ疑問符が頭上にあるだろう彼女をフラウが誘導する。
「今のは余興もふ。これから御主人様がちゃんとした料理法を教えるもふ!」
 もふ龍のその言葉にみっちゃんは頷く。
「ラグナおにーさん、暫くこっちで眠っててね…」
 神音がそう言って、居間に彼を運んでゆく。
「さぁ、ではまずは下処理から始めましょう」
 紗耶香はそう言い、早速料理を開始した。勿論彼女は料理人であるから苦瓜の処理の知識は有している。
 一般的にも既に知られているが…苦瓜の下処理のと言えば、まず中ワタをとる事から始まる。その後可能な限り薄く切って塩揉みし、更に彼女は湯通しする。普通ならばここまでであるが、彼女はもう一工夫。
「揚げるもふか? 念入りもふね〜」
 そう、湯通し後のそれの水気をよくきって油の中へ。
 こうする事でチップスの様な触感にもなり苦味は最小限に抑えられると考えたのである。
「後は卵とお豆腐と一緒に炒めて出来上がりですよ〜」
 手早く作られていくそれにみっちゃんの目は釘づけだ。
「魔法使いみたいなのぉ」
 目をキラキラさせて――奥様方からも手際の良さに感嘆の声が上がる。
「流石にお店を切り盛りしている方は違うわねぇ」
 メモする手を止め、普段では味わえないプロの技に一時目を奪われる。
「茄子は甘口の麻婆豆腐にしますね。お肉一杯にして男の子達も喜ぶものにします」
 茄子は触感で毛嫌いされていると判断した彼女はまず先に茄子を炒めて柔らか目に。漬物だとどうしても身が締まってしまい、皮のきゅっとした感じが残ってしまう。しかし、熱を入れる事で茄子は柔らかく皮のハリもそれ程気にならなくなる。それに味の濃いソースと合わせて炒め、尚且つお肉の旨みを吸わせる事で味がないと言う印象を払拭する事が出来る。
「いい匂いもふね〜」
 いつも彼女の料理を食しているもふ龍が言う。彼女は大人向けの料理も作る様だ。
 辛口麻婆を始め、シンプルに焼き茄子と苦瓜の肉詰めの下拵えにも入っている。
「こっちも負けていられないんだよ!」
 神音は見入っていた自分に喝を入れて、自分の勧める料理の制作に入る事にした。
「神音おねーちゃは何作るの?」
 その動きにみっちゃんが気付いて、彼女に問う。
「すぐ食べられるのはお茄子の寒天寄せだね。こっちのは時間かかるから」
 瓶に入った苦瓜を彼女に見せて、神音がにこりと笑う。
「これはー?」
「ピクルスっていうんだよ。少し変わったお漬物って感じかな?」
 酢の海の中に浸っている苦瓜…下処理はこちらもちゃんと施している。
「あれ、茄子さんもお水につけるの?」
 その間に皮を剥いた茄子を水に浸したのを見つけ、彼女が疑問を口にする。
「うん、これは灰汁抜きっていってね。これをすると美味しくなるんだよ」
「へー、でもこれ味ないよ?」
 灰汁も何もあったものではないと思ったのか。彼女はここでも疑問の眼差しを向けてくる。
「ふふっ、神音も小さい頃はお茄子あまり好きじゃなかったし、苦瓜も苦手だったなー。でもね、ちょっと工夫すると美味しくなるんだよ」
 みっちゃんに自分の過去を重ねて、くすりと笑みを零しながら彼女が言う。
「例えば?」
「うーん、そうだね。お茄子は焼いたりすると甘みが出てきたりするんだよ」
 説明しながら彼女は鍋に水と砂糖、レモン汁を加え軽く火を入れる。そこへさっき水にさらしていた茄子の水気を切って入れてゆっくり灰汁を取りつつ煮込んでゆけば、徐々に実は崩れ原型を失くしてゆく。
「さて、ここで寒天を入れるんだよ」
 彼女は予め戻しておいた寒天を千切って鍋に投入し、溶けたら型へ。どうやら茄子の寒天寄せらしい。
「なんか可愛いかもー」
 羊羹の様な外見にみっちゃんが感想を漏らす。
「神音さん。もしよかったらそこに余っているその寒天、少し分けてくれないかしら?」
 そこで完熟の苦瓜の下拵えを終えて、細かく刻んだ苦瓜を水で煮込んでいたフラウが声をかけた。
 彼女は苦瓜で神音と似たものを作るつもりらしい。苦瓜を使っているからか、みっちゃんが少し匂いにたじろぐ。
「うん、いいよ。好きなだけ使ってー」
 神音が残りの寒天を彼女に譲る。
「ありがとね。そして、みっちゃんだっけ? ちょっと手伝ってくれるかな?」
 ちょいちょいと手招きしての彼女の頼みに少しの間の後、みっちゃんは応える。
「何すればいいのー?」
 踏み台を用意して、彼女は鍋を覗き込む。その頃には既にすり潰され形を失くした苦瓜のピューレが仕上がっている。
「あわわ、ちょっと危ないから少し待ってね」
 呼んだものの鍋の近くでまだ温度もある。火傷しない様に注意しながら、フラウはそのピューレを小皿にとって、
「味見、してくれるかな?」
 ドキドキしながらも笑顔で彼女が差し出す。みっちゃんは恐る恐るそれをぺろりと舐めて、
「どう…かしら? 苦くない?」
 自分もさっき散々味見をした。子供相手であるから、自分の好みより幾分甘い目に設定している。
「……苦くない、けど…ちょっと青臭いかも」
 素直な感想――確かに味にこだわるあまり匂いまで考えていなかった。
 この後レモン汁を入れる予定であるが、うまく消せるだろうか。
「ん、そっか。協力ありがとーね」
 彼女は脳内で臭み消しの対策を考えつつも表面上はそれを見せずに彼女の頭を撫でる。
 そうして、奥様方にも試食して貰い、意見を伺ってみる事にする。
「そうねぇ…バナナがいいかもしれないけど、それが無理ならリンゴ、もしくは桃がいいかも」
「それだわっ!」
 桃ならば香りは強い。どうせならどちらも入れてみるのも悪くないだろう。
 彼女は試行錯誤しながら、皆と一緒に苦瓜ゼリーを完成に導いてゆく。
「わ、わたしは…一体…」
 そんな中居間のラグナはやっと意識を取り戻し何やら鍋と油を持ち出し、そして――。
「煮込んで駄目なら揚げるのみ! いざ、一気にどー…ギャアァーーー!!」
 料理は初心者の彼であった。


●食
 調理を終えて、気付けば夕方。
 意外と時間のかかった講習会――ここからは運命の実食である。
(「うわー、めっちゃくちゃ緊張するわ。子供達の喜ぶの作るのって大変ね」)
 遊び疲れて帰って来た太郎と巽、その他長屋の子供達も交えて食事を開始。
 各々苦瓜と茄子とは気付かずにそれぞれの料理に手を伸ばす。
「今日はデザートいっぱいだな!」
 巽が茄子の寒天寄せと苦瓜のゼリーを皿一杯にとって口に運ぶ。
「お肉、ひろう回復…」
 とこれは太郎だ。茄子も混じっているが問題なし。何処で知ったか相変わらず物知りだ。
「これねー、めーなやつでできてるんだぉ。凄いでしょー」
 みっちゃんは手伝っているから知っている。それでも気に入ったのか手伝った事を話しながら、揚げ苦瓜のチャンプルーを頬張る。そんなこんなで概ねは依頼は成功の様だ。ただ一つ気になるのは、
「えー、嘘だぁ。これがあの苦いのなんて信じられないよぉ」
 そう、形を残しているものは少なく、徹底的に甘くしている為か彼らはそれらが苦手食材であると信じないのだ。
「まあ、ひとまず食べてくれるだけでもよしよね」
 依頼の目的は『苦手を克服させる事』だ。間違ってはいない。
「まぁ、こういう料理は大人になったら美味しく感じる様になるものですからねー、あまり急がなくても」
 紗耶香が料理をつまみながら言う。
「そうねぇ〜、沢山出来る余り急かし過ぎていたのかしら……でも、今日は有難う御座いました」
「おかげで新しい調理法にも気付けましたし、よかったわぁ」
 口々に感想を述べながら、大人は大人で紗耶香の作った料理で苦瓜の苦味を楽しんでいる。その隣では料理はまるで駄目だったラグナがうさみたんにアテレコしつつ、苦瓜の良さを説明していたりもする。
「そういえば神音、みっちゃんより小さい子を養子に貰うつもりなんだよね。だから、子育てのアドバイスとか貰えないかな?」
 今日の事で子供を育てる大変さを実感した神音が奥様方に尋ねる。けれど、彼女らもまだその途中という者も多い。
「そうねぇ…教えているつもりでも、逆に教わる事も多いのよね。だからアドバイスとは言えないけれど…その一つ一つを楽しむ事、かしら?」
「楽しむ事かぁ〜。成程なんだよ♪」
 判らない事があって当然だ。だからこそそれにどうあたるかが重要になる。
「そっか、ありがとー」
「いえいえ、こちらこそよ」
 言葉を噛み締めつつ、互いに感謝の言葉。
 今日の長屋は一段と賑やかで…灯りはまだ消えそうになかった。