【罠師】橋×橋×橋
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/07 17:24



■オープニング本文

「おいおい、マジかよ…」
「検問みたいな事までしてくれちゃって、いい加減うっとおしいのよね…」
 俺の横にいるのは訳アリの女で名は蘭菊と言う。
 俺がこいつと会ったのは数時間前。里からギルドに向かう最中での事だ。

「誰だ? 俺をつけてるのは…」
 背後に感じた気配に同種のものを感じて、警戒しながら振り向く。するとそこには彼女がいたという訳だ。
「ふふ、合格よ。貴方なかなかの腕を持っているようね…だったら、私を守りなさい」
「はぁ?」
 突然の言い分に俺が眉をしかめる。
 話によれば彼女もシノビらしかった。が元々という訳ではなく、志体持ちという事が判り選んだ職種がそれであって、里のしがらみ等という事は全くないらしい。現に普通ならば不用意に別の里の者を尾行等すれば警戒され、最悪スパイの疑いをかけられ捕縛尋問され兼ねない状況であるのに、彼女にその危機感はまるでない。
「随分エラそうな事言ってくれるけど、お前一体何者だ?」
「私はこう見えても名のある家の一人娘よ。お金ならあるわ。だけど、私の執事が口煩くて困ってるのよ」
「はっ…なんだ、ただのじゃじゃ馬かよ…」
 むっとする彼女を余所に俺は息を吐く。
「あら、言ってくれるわね。けど、まあいいわ。私の要望を聞いてくれるならその暴言もなかった事にしてあげる」
「暴言? よく言うぜ…俺が何でお前の要望を聞かなきゃならないんだよ?」
 確かに今手持ちの仕事はないが、選ぶ権利はある。終始自分優勢で考えるこの女は正直気に食わない。
「私が認めたからよ。貴方は強い…センスがいいわ。だから、私をある人の場所まで連れて行ってほしいの」
 認められた所で厄介事を押し付けられる等真っ平だ。この女には悪いが他を当たって貰おうと、俺はそっと身を低くする。が、
「逃がさないわよ。貴方は私を連れて行く…否応なしでもねっ!」
 彼女の言葉――その言葉と同時に彼女が俺の手を取る。何か嫌な予感がして、それを回避したものの、そこには新たな影。そう、それは蛇だ。
「くっ!?」
 それをも避けようと踏み出していた足で踏ん張る。けれど、
「御免なさい。悪く思わないでね…」
 耳元で囁かれたのは彼女の声――ちくりと首元に痛みが走る。そして、起き上がった時にはそれは明確な痣となり、
「さあ、行きましょう。急がないとその毒。全身に回るわよ」
 清々しい程はっきりと彼女は言う。
「くっそ、何だってこんな事…。だが、俺の手にかかればこの位…」
「毒の種類が判って? さっき刺したのはもう私の手にはない。小さな針でね、もう貴方の中…徐々に体内で溶けていくんだって。成分が判れば別だけど、何もない状態でそれが出来て?」
 彼女が言う。そんな危険なものを人に刺すとは言語道断だ。
「そこまでして…お前、何の目的があるんだよ?」
 ずきずきする傷口を抑えつつ、俺が問う。
「会いたいの、あの人に。父は結婚を認めてくれたのに、私の執事・黒兆が邪魔ばかりして…『お嬢様には相応しくありません』そう言うのよ。そしてついには彼を山小屋に閉じ込めてしまったの。だから、助けに行きたいの!」
 つまりは彼女の執事の嫉妬でこんな事になっているらしい。とはいえ、偉い事に巻き込まれたものである。
「判った。付き合ってやるからこの解毒剤を早くよこせよ」
 こうなっては仕方がない。少し癪ではあるが引き受けざるを得ない。
「確かここに…あれ」
「おい、まさか…」
「えっと……落としちゃったみたい。となると黒兆が持ってるのか、あるいは小屋にあるかも…って事で手伝ってくれるわよね?」
 手伝うも何ももう選択肢などありはしないと思いつつ、俺は頷く。
「で、場所は?」
「あそこの山の中よ。地図もある…ただ」
「ただ、何だよ?」
「私の執事は腕利きのシノビだったの……絶対先手を打ってくるわ」


 そして案の定、これだ。
 恋人が隠されているというまでの道のりはそこそこ。けれど、流石に一筋縄ではいかない。
 まずは眼前の橋だ。アーチ形になった橋は計三つ。その先で黒兆の家来らしい者達が検問を行っている。つまりは普通には通過できないという事だ。一日張ってみて判ったが、二十四時間体勢での見張りに隙はない。が、その橋以外に問題の山に行くルートはないらしい。川を渡りたい所だが、流れが速く船や自力では渡れたものではない。
 そこを通過したとしても難所は続く。次は幅の狭い山渡しの橋だ。山の一部が抉れて、岩肌が剥き出しになった場所がある。そこにかけられた橋はおよそ五百mであるが、地上からは遥か高く、落ちれば一溜りもない岩場地帯らしい。その後にはかずら橋が待ちかまえているとか。こっちは橋の幅はある程度あるものの、自然素材で出来たその橋は足場の間隔はまばらで、恐怖を煽ると言う。
「私、身軽さには自信があるの。だからシノビを選んだ…でも、力ではどうしても黒兆に敵わなくて」
 引き裂かれた恋――しかしここまでするとはその黒兆という奴もよっぽど彼女の事が好きなのかもしれない。
「とりあえず俺一人であの数は無理だ。変装してでもギルドに戻って味方を増やそうぜ」
 俺が提案する。それに彼女は素直に応じる。
「なあ、ちなみにこの毒って…」
「大丈夫、死にはしないって黒兆が言ってたわ。護身用に持たされたものだし…けど、『そんな不届き者がいたら私が行くまでにもそれ相応の苦しみを…』とか言ってたから急いだ方がいいかも…」
 明後日の方向を見て、彼女が言う。
「マジかよ…」
 俺はその答えを聞き、心底聞いた事を後悔するのだった。


■参加者一覧
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武


■リプレイ本文

●お嬢様
「ちょっと待ちなさいよ! 私はそんな…」
 途切れてゆく意識と裏切られた気持ちを抱いたまま、彼女は瞼を閉じる。
 仲間だった筈の開拓者が黒兆を前にして行った行為は彼女に絶望を与えた。

『俺はキサイも君の恋人も助けたい、だから信じて協力して欲しいんだ』

 出発前に聞かされた言葉……あれは嘘だったのか。言った張本人の裏切りに言葉を失くす。
(「やっぱり人は裏切る生き物…」)
 信じたい、けど信じられない。彼女の中で何が渦巻く。
(「もう全部終わりよ…悠、私…御免なさい…」)
 蔦に絡めとられた身体から力が抜ける。そこで彼女は深い眠りについた。


「そういう訳だからよろしく頼むわね」
 ギルドに到着早々依頼を出したはいいのだが、集まった開拓者に向けて放たれた言葉に空気が澱む。
 いつもは軽くいなすであろう笹倉靖(ib6125)でさえ、今回は笑っていない。表面上は何とか取り繕ってはいるが、腹の中では如何にも収まりきらないものがある。最近の彼は以前よりそういう事が多くなっていた。それは彼自身にも想い人がおり、腹を割って話せる仲間も増えたからに他ならない。それでも一応礼儀だけは欠かさない。
(「靖、相当きてるなぁ…」)
 そんな彼を横目に彼の親友であり、戦友でもあるケイウス=アルカーム(ib7387)は彼を分析する。
 以前キサイがピンチに陥った際は焦るケイウスを靖が宥めに入っていたものだが、今回はまるで逆だ。いや、正確に言えば靖が感情的になっているが故にケイウスが冷静でいられるのだろう。持ちつ持たれつ、丁度いいバランスが二人を支えている。
「おまっ……もう少し頼み方があるだろうがよ!」
 そんな空気を感じ取って、キサイが慌てて彼女の頭を押さえる。
「別に…それがあんたの挨拶の仕方ならそれでいいし」
 靖はそう言い、煙管のペースを速めながら視線を外す。
「ホント、非常識で自己中心なお嬢さんだね」
 そうストレートに言い放ったのはキサイの奥さん代理を名乗る戸隠董(ib9794)だった。
 元々話を聞いた時点で腹が立っていた。しかし、キサイが関わっている事から今回の依頼を受けたに過ぎない。
「こっちももう時間がないのよ…何言われたって構わないわ」
 時間がないとはどういう事か。その辺の事情は知らないが、かといって人に毒を盛っていい理由にはならない。
「まあまあ、傍迷惑な話だけど…でも、恋人さんがピンチなのは本当みたいだし、素早く片付けないとね」
 蓮神音(ib2662)が間に入って、両者を宥める。
 但し、彼女の行為を肯定している訳では断じてない。
「とにかく作戦をたてましょう。第一の橋は検問なのですよね?」
 そこでユウキ=アルセイフ(ib6332)が進行を務める事となった。
 問題の橋は三つ、この攻略と黒兆への対応が今回の全ての鍵となる。
「やはりここは商人にでも化けて、荷車に彼女を隠して通るのが一番でしょうか?」
 見せ商品に出来る持ち物は多い。ユウキが提案する。神音もいくつか提供する。
 が、それだけではプロ相手に通用するだろうか。二重底はいわばお決まりであり、キサイが待ったをかける。
「けど、それ以外に方法は…」
「あるぜ。その方法をもう一工夫して成功に導く秘策が」
 にやりと口元を吊り上げ彼が言う。
「おい、あんま危険なことするなよ」
 そんな彼に靖が忠告――今はまだ大丈夫そうだが……解毒が効かないというのもとても厄介である。
「わかってるって、マジでヤバくなったらちゃんと言うから…俺を信じてくれよ」
 キサイもまた靖にとって親友だ。その親友からそう言われては、更なる否定を追加する事は出来そうにない。
「蘭菊、君にも一つ言っていいかな」
 そこでキサイと靖のそれを見取り、ケイウスが彼女に正面から向き合い目をしっかりと見つめて、
「俺はキサイも君の恋人も助けたい。だから信じて協力して欲しいんだ」
 真っ直ぐな目で彼が言う。
「何よ、それ…わかってるわよ。私が二重底に入ればいいんでしょ……背に腹は代えられない。悠の所に行く為だもの、やってやるわよ」
 どこまでも高飛車な物言いで、しかし彼女はその後そっぽを向く。どうやら、見つめられるのは慣れていないらしい。
「やってやるのはこっちの方なんだけど…」
 董がぼそりと呟き、ユウキが苦笑いを浮かべる。
「では、一の橋はそんな感じで荷車を手配しましょう。キサイさん、その他にいる物はありますか?」
 彼を労わりながらユウキが問う。
「鏡だ、姿見位のを用意してくれ」
 一体どう使うのか首を傾げたが、彼らは言われるままに物を手配する。
 そうして、終始重い空気ではあったが作戦の決定は順調であり、彼らは夕刻の出発を迎える事となる。
 その直前董がキサイにぼそりと、
「キサイさん、絶対無茶は駄目だよ。順調にいけば二月なんだから」
 意味深な物言いにキサイが首を傾げる。そう、彼はまだ何も知らないらしかった。


●検問
「そこの荷車、随分と大きいな…何を運んでいる?」
 検問は意外にも都の正式な監査が行っているらしい。
 どうやら黒兆が何かを垂れ込んで実施を促したのだろうが、一般人にはいい迷惑である。
「全くお嬢さんは何処行ったんでしょうね?」
 手下の一人がそれを傍観つつ言う。が黒兆は答えない。
 ただ般若の様な形相で彼らとは一線を引く形で通過してゆく人々を睨みつけている。
「旦那、中を見せろって」
 乱暴に言い放たれた言葉に商隊の若旦那に扮したユウキが御者の靖に声を掛けられ対応する。
「はいはい、わかりましたから…そんなにかっかしないで下さい」
 そう監査を宥めて、荷台の商品を提示する。
「うちは何でも扱うのが心情でしてね…いいでしょ、この浴衣? 一着、如何ですか? 安くしますよ」
 にこりと愛想のいい笑顔で彼が言う。
 だが、彼らも専門家。それには見向きもせず、荷台をコツコツつついて空洞がないか調べ始める。そして、
「あっ、そこはっ!」
「おい、ここに何か隠しているな…開けろ」
 見つかった。音の違いで悟られた様で、彼らは手早く板を引っぺがしてしまう。
 だが、そこにいるのは一人のみすぼらしい服の男だけ。
「ついたのか…俺の……こ、きょ…ゴホゴホッ」
 眩しさに眉をしかめつつ、男・キサイは青白い顔で覗く顔に視線を返す。
「こいつは?」
「えっ、ああ…この方は胸の病でして…空気感染もするからここに閉じ込めているんです。さあ、マスクを……この歳なのにもう末期で…けれど、死ぬ前に故郷の母に会いたいという事なので我々が」
「運んでいると?」
 話す間もキサイは咳を続けて――監査が無意識に後ずさる。時に人と言うのは自己防衛本能の高い生き物だ。
 空気感染すると言われるとやはり敬遠してしまう。だが、黒兆だけは違った。その様子を訝しみ、疑わしげな目でキサイを見つめる。
「あの……何か?」
 ハンカチに血糊を細工し、今にも逝きそうな顔色でキサイが問う。
(「何か勘付いているのか?」)
 靖はちらりと眼球だけを動かして、背後を見やる。が暫くの間があったものの彼は表情を変えず、通過を許可する。
「では、お勤めご苦労様です」
 ユウキはそう言い、彼らに別れを告げキサイを中に促す。
 それが第一の橋通過の瞬間だった。それでも黒兆らの姿が見えなくなるまでは用心して、
「ふふっ、いい気味だわ」
 キサイの奥で蘭菊の呟き。彼らは気付かなかったが、実はキサイのいた場所に蘭菊も隠れていたのだ。
 ではなぜスルー出来たかと言えば、蘭菊とキサイの間を鏡で仕切る様に斜めにはる事で周りが暗い二重底の中、周囲板が写し出され奥が見えない仕組みだ。それに病人のキサイという不審者を見つけた事で見つける側は達成感を抱いてしまい、探す意欲を奪われたのだ。
「人が多かったのもよかったね」
 耳のいいシノビならば人の鼓動で人数把握もしてしまえると聞くが、流石にあの場所では判別は難しい。
 検問を仕掛けた時点で彼らは逆に一つの判断法を無効にしてしまっていたのだ。
「さて、次は断崖かぁ」
 ケイウスが言う。距離にして五百m――それはかなりの長さであり、危険な場所。


●闇駆
 天空の懸け橋と言うのは些か大げさであるが、その橋は確かにそんな雰囲気も持っている。
「本当にこれは厳しいですね…」
 深夜を回って第二の橋に到着したユウキはその橋の様子に息を吐く。
 手摺は付いているモノの隙間から見える崖下は今、闇に包まれ気を抜くと吸い込まれて行きそうだ。
「ねえ、本当に今夜渡るの?」
 その橋に流石の蘭菊も怖気づく。恋人の為とはいえ、温室育ちだった彼女にとっては無理もない。今までは安全な場所で訓練としてのみ、それを行ってきたのだから。
「あれ〜、もしかして怖いの?」
 班を二つに割って、先発班の神音が嫌味交じりに言う。
 ちなみに編成は身軽で素早い女性陣から。ケイウスの夜の子守唄で手前の見張りを眠らせ、事を開始する。
『さぁ、行くよ!』
 神音と董が言う。だがしかし、彼女は動けない。そこで捻り出した言い訳と言えば、
「ねぇ、明日にしない? こんな足場だとこの人が」
 ちらりと終始黙ったままのキサイを見つめて彼女が言う。
「おいおい、そういうすり替えはよせよ。それに誰のせいでこうなってると思ってる」
 が、靖がばさりと彼女の言い分を切り捨てた。
 確かにキサイの視野は朧になりつつあるが、彼はそれを弱音して吐き出してはいない。
「それに今の方が警備は手薄なの。日が昇れば視界も開けるし、困るのは貴方だよ?」
 危険ではあるが今が好機。幸い足場は厚い金属製らしく頑丈だ。ちょっとやそっとで壊れる事はないだろう。
「で、でも…」
「この程度我慢できないなんて、蘭菊さんの愛はその程度なんだね」
 言い澱む彼女に止めの一言。時間が惜しいのだ。煽ってでも動かさねばならない。
「わかった、行くわよ! こんなもの、余裕なんだからっ!」
「その意気だよ」
 内心、神音はほっとしつつ先行する。ケイウスも射程内に入ったら対岸の見張りを狙えないかと最後尾に続く。幸い、まだこちらに黒兆は来ていないらしい。それに加えて手下の力量は正直並み以下だ。何故かは判らないが、さっきのそれに誰も気付かなかったのだから間違いない。
「あれ…家にいた警備の者達とは違うと思うわ」
 蘭菊もそう言っていた事から、黒兆は何らかの理由で正規の面子を駆り出せていない事になる。
(「一体どうして?」)
 けれど、今それを考えていても場合ではなかった。
 流石の三下とはいえ、突然対岸の見張りがいなくなれば怪む。そこでユウキと靖が扮装し、事の隠蔽に努める。
 その間に神音は橋を瞬脚で駆けていた。下を見ないでただ先だけを見つめて…足場が揺れる前に次の足を出す。それに続く様に董に蘭菊、ケイウスが進む。風が吹いていた。空には星が輝いているが、その光は足元を照らすには乏しく月は雲に隠れて、今は天空がどんよりとしている。
「具合、大丈夫か?」
 見張りに扮したまま、茂みでじっとしているキサイに靖が声をかける。荷車を降りてからの彼の足取りは余りよろしくない。口数少なく進むキサイに何度も解毒を試みているが、やはり完全とはいかずもどかしさが募る。
(「まだ倒れんじゃねえぞ、キサイ…」)
 そんな事を思いながらユウキと共に渡る仲間を彼は見守る。

 ドッ ガッ

 その頃前では先頭の神音が見張りを力づくで黙らせていた。そして、渡り切るとまずは周辺を確認。
 きっと今の二人以外にもここを見張る者はいる筈だ。夜通しとなれば交代要員がつきものである。
「あっち、声がするわ」
 そこで遅れてやって来た蘭菊が意外にも助言。彼女も超越聴覚くらいは使えるらしい。その言葉に従って、ケイウスが再び演奏を始めて、
「どう、やった?」
 董の問いに頷く蘭菊。守られるだけではないという所を見せたかったのかもしれない。
 その後は後ろに合図を送って、残りの者達を渡らせる。
 第二の橋でも敵の増援はなく、無事突破……余りにもあっさりし過ぎていたが、それは紛れもない事実だった。


●黒兆
「まさかお前が誘拐したのか! けしからんッ、もう首だ! 出て行け!!」
 まだ脳裏にはあの時の旦那様の声が響いている。蘭菊が恋人を探すと出て行った後の事だ。
 黒兆が何度説得しても蘭菊の父は彼の言い分を聞いてはくれなかった。それはそうだ、娘がよしとした相手なのだから、教育係が口出したとしてもどちらを取るかと言えば娘に決まっている。
 確かに蘭菊の選んだ男は身分こそ普通であったが、裏表のないいい人間だった。夢を追い、真っ直ぐに前を見る彼に黒兆は少し嫌悪を抱く。
 自分は全てを内に秘めて、いつの頃からか蘭菊に特別な感情を抱いていたのに…執事と言う、教育係と言う立場上それは許されないものだと言い聞かされ、それを受け入れざるおえなかった。
 だが、今は違う。解雇された今なら、彼女を好きにしていい筈だと彼は思っている。
(「奪え…それが唯一の手段だ…」)
 あの時から纏まりついてくる影の声。それがなんであるか気付きつつも、その言葉の誘惑に彼は…。


「やはりあの男…お嬢様と一緒だったか…」
 双眼鏡で確認できた面子は荷車の一行。そこで彼は第三の橋で待ち構えて…両者が出会ったのは明朝の事だ。
 橋を挟んで手前に開拓者、奥に黒兆――勿論奥とは山小屋のある方面の事である。
「一体いつの間に追い抜きやがった?」
 あの後、渡り切ったはいいもののあちこちに散らばった手下達の捜索を掻い潜る為、時間をロスしたが近道でもあったのか。
「さあ、観念してお嬢様を返して貰おうか?」
 ずらりと対岸に弓隊を待機させ、彼が言う。
「返すも何も私は私の意志でここにいるの。それよりあの人を開放しなさい! これは命令よ!」
 開拓者の背に隠れながらも言う事だけは一丁前に彼女が言い返す。
「命令…それはもう聞けませんよ。だって私はもう貴方の執事ではない」
「えっ?」
 彼女は彼が解雇された事は知らない。飛び出した後の事であり、その事実に目を見開く。
「ねぇ、黒兆さん。あなたは蘭菊さんが好きなの?」
 そこで単刀直入に神音が切り出した。
「なっ……何を急に…」
 突然の言葉に黒兆が眉をしかめる。
「はぁ? …黒兆が私を好きですって? あり得ないわ…毎日毎日嫌みったらしい小言ばかりで」
「蘭菊さんは黙ってて!」
 完全否定する蘭菊を余所に開拓者は見逃さない。距離があるから表情までは読み取れないが、黒兆の方には僅かな異変が生じ始めている。
「……何も判っちゃいないのか。やはり私は間違った様だ」
 僅かに肩を震わせて、彼が呟く。
「やっぱり好きだったんだね! 神音も好きな人にその事をずっと言えないでいるから気持ちは解るよ。でもこんな事したら逆効果だよ!」
 気持ちよ、届けとばかりに神音が彼に訴えかける。が、
「うるさい。そんな説得で私が動くものか…それにこんな無駄話を続けていていいのか? 本当はこれが必要なのだろう?」
 懐から小さな小瓶を取り出して、黒兆はそれを掲げて見せる。
「あ、解毒剤!」
 その瓶に蘭菊がはっきりとそう言った。その言葉に開拓者達はそれが少なくとも瓶は本物である事を確信する。
「なぜそれが必要だと?」
「判らないとでも思ったのか? 荷車にいたあの病人…本当はお嬢様に渡していた私の毒針にかかったものだろう? 何かあった時、すぐに見分けがつく様に少し細工をしているのですよ。ほら…爪の色…気付かなかったのか?」
 はっとして確認すればキサイの爪は黒く変色を始めている。
「そこまで判っているんだったら話は早い。俺達の目的はこのお嬢様よりもそれにあるんだよね。だから、交渉しないか?」
 そこでケイウスが唐突に切り出す。
 そして、ちらりと目配せするとユウキがアイヴィーバインドを発動し、なんと蘭菊を拘束する。
「えっ、ちょっ…ちょっと待ちなさいよ! 私はそんな…」
「あの、少し黙ってて下さいね」
 ケイウスの言葉――周囲の者も一向に彼を止めようとはしない。ケイウスが笑顔のまま曲を奏で始める。
 それを黒兆も無言で見つめる。
「俺らに戦う意思はない。それと交換してくれるならお嬢様を返すよ」
 各々武器を置いて両手を上げ、開拓者サイドは彼にこちらの意志を示す。
「そんなに簡単に裏切るとは…開拓者とは思ったよりあくどいものだな」
 黒兆が挑発する様な言い回しで、こちらの真意を見抜こうとする。
「俺らは仲間を助けたいだけさね。正直この女がどうなろうと興味はない」
 そんな彼に靖がハッキリと言い切る。
「こんな女か……そこの男とてお嬢様に何かしでかしてそうなっただろうに庇うのか?」
 彼は蘭菊がキサイを利用する為に打ったとは微塵も考えてないらしい。
 憎悪と嫌悪の対象として彼を見つめながら、彼が言う。
「それは違うよ。だってキサイさんにはもう…」
「まあいい。その話乗ってやる…橋の中央で互いに受け渡す、それでどうだ?」
 話を遮って彼は提案する。それに了承し、こちらは一番軽い神音が蘭菊を背負って橋を進む事となる。
「気を付けろよ…」
 仲間の忠告に頷いて、一歩二歩。見守る者達も気が気ではない。互いが距離を詰めて、あと少しで中央だ。そこで黒兆は口元を吊り上げ行動に出た。彼の周りの時間が止まる。そして、素早く蘭菊を奪い取ると同時に隠し持っていたナイフを取り出し、
「えっ!?」
 そこで時間が戻って重みの無くなった背中に動揺する神音。眼前の敵に彼女は咄嗟に瞬脚を発動する。ぐんっと縮まる距離、横抱きに蘭菊を抱え、もう片方にはナイフ…という事は解毒薬はと視線を滑らせると宙に投げ出された小瓶の残像。
「私がお前達のいう事を信じるとでも? 笑止!」
 そして黒兆は不気味に笑い、彼女の頬に口付けする。
「やはりあの者も幽閉などせず、殺しておくべきだった…そうすれば蘭菊も諦めただろうに。今からでも遅くないか」
 勝手な言い分を零して、黒兆は小屋の方に踵を返す。
「もう少…んあっ!?」
 だが、神音の方はそれ所ではない。唯一の解毒剤を落としてなるものかと身を乗り出して、その拍子に橋も大きく傾く。
「危ない!!」
 それに董が走る。黒兆を取り逃がすのは癪であるが、今は仲間優先だ。残った開拓者と手下が橋を挟んで対峙している。
「殺れ」
 黒兆の指示が飛んだ。一斉に弓が撓りを帯びる。
「くっ、無茶苦茶じゃねぇか!?」
 がこちらとて黙ってはいない。
 矢の飛来に先だってユウキがスキルを発動。氷の刃が降り注ぎ対岸の手下が慌てふためく。
「靖、俺のポーチの…白の煙玉を地面に叩き付けろ!」
 その状況を察してか、キサイが彼に指示を出す。
「白だな。よっしゃ、これか!」
 掌に収まる位の煙玉だ。けれどそれを思いっきり叩き付ければ、その大きさで驚く程の煙が発生し、辺りを包み込む。
「よし、今のうちに」
 その状況を見て、ケイウスは後方安全と前方の援護へ。あと少しで董の手が神音に届く。
 であるから神音を董に任せて、琴を拾い上げると敵の射程に飛び込んで、彼は再び演奏。
 敵は前に気を取られ、こちらの動きを追いきれていない。
「暫く眠ってて貰うよ」
 そう言ってここでもやはり夜の子守歌だった。
 橋を中心として、木霊する様に微睡むような旋律が響き渡る。
 とにかくこちらは必死だった。急な動きに橋が大きく軋む。が、橋の崩壊は辛うじて免れた。長年耐えてきたそれは思ったより頑丈であったらしい。敵が眠ったのを確認すると、橋にいる面子はほっと息を吐く。そして、
「解毒剤は?」
「何とかここに…」
 蘭菊と文字通り引き換えに手に入れた薬――それが本物である事を祈りつつ、キサイに飲ませこれからを考える。
「このままほっといてもいい気がするけどね…」
 董が言う。だが、それでは寝覚めが悪い。
 それに奴は最後にまた危ない事を口走っていた。もしかすると、小屋側に行ったのもその為かもしれない。しかし、追跡に一つ問題があった。問題の小屋の位置を記した地図は蘭菊が持っていたのだ。黙り込んでしまった一行に徐々に血色が戻り始めたキサイが何か取り出す。
「…まさかここでやめたりしねえよな?」
 彼が開いたのはあの地図とそっくりな物――どうやらこっそり写していたらしい。抜かりはない。
『勿論』
 その問いに彼らは頷いた。


●崩壊
「さあ、お嬢様。はっきりとご覧下さいませ…もうこれで最後ですから」
 山小屋に連れてこられて、やっとの事で念願の恋人に会えたというのに…黒兆は最も最悪の結末を演出する。
「あなた、本当に私の事が好きなの? だったら、どうして…こんな事できるの?」
 吊るされているのは最愛の恋人――食事は最低限与えられていた様だが、それでも精神的ストレスで些か痩せ細り意識もない。そんな彼を黒兆はここでやるつもりらしい。証拠隠滅も兼ねて、小屋自体に油を撒き始めている。
「さあ、どうしてでしょうね…貴方の全てを私は欲しい。そう思うと無性にね、苦しむ顔も悲しむ顔も見てみたいと思ってしまうのですよ……」
 にたりと笑った笑顔に鳥肌が立った。幼少の頃からずっと時間を共にしてきた筈なのに、初めて見る顔だ。
「あなたって本当に最低ね……」
「ええ、それでも結構ですよ」
 もう言葉は届かないのか。彼は淡々と作業をこなしてゆく。そうして、準備が整った頃、
「さぁ、目に焼き付けなさい。怨む程…」
「そこまでです!!」
 小屋の隙間に蔦を這わせて、ユウキが強引に扉を開く。それと同時に、前衛二人が黒兆の動きを封じに入る。
「さっきはよくも騙してくれたんだよ!」
「言っとくけど手加減はしないから」
 神音と董に挟まれる形で黒兆は身構える。だが、彼もただのシノビではない。瞬時に状況を把握する事には慣れている様で、避けられないと悟ると逆に敵をも巻き込む作戦へと変更する。
「着火!」
 黒兆の言葉に応じる様に腕から炎が出現する。
『えっ!?』
 これには二人以外も驚いた。火遁とは違う炎の発生――それでも神音は八極天陣で直撃を交わすし、董も董で素早く印を作り雨絲煙柳で熱を堪えつつ、そのまま腕を逸らす。が、彼は既に小屋に油を撒いている。
「まずい! 引火する!!」
 一度放たれた炎はすぐには消えない。引火剤があれば尚更だ。
「こっのぉぉ!!」
 ユウキはアゾットを掲げて氷を作ってみるが、さりとて水をかける程の効果は望めない。
「私はいいから、早く悠を!」
 縛られたままの蘭菊が仲間に必死で懇願する。
「ふふ、行かせませんよ? だってこの人はここで死んで貰わなくては」
 そんな叫びに気付いて黒兆は悠と呼ばれた蘭菊の恋人の前に立ちはだかる。
「あんた本当に大馬鹿野郎だなっ!」
 そこに靖が向かって――彼はシノビ相手に真っ向勝負を試みる。
 炎にも怯まずに怒りを露にした様子で悠をキサイに任せ取った行動は、怒りの右ストレート――小細工なしのそんな攻撃で来るとは思わなかったらしい。靖の拳をまともに喰らい、壁を破り小屋の外へとに飛ばされる。
 そこをユウキも逃さなかった。蔦を延ばし、彼の肢体を絡め取る。
「さあ、今のうちに小屋から出よう」
 ケイウスの言葉に皆が協力し脱出する。だが、その間に黒兆は諦めない。
 燃えゆく小屋を眺めながら彼の歪んだ思いが、最後の砦を突き崩す。
「私だけなのだ…お嬢様を、お守り…出来るのは……そう、私だ…ッぐがぁぁ!!!」
 ぶつぶつ呟いていたかと思うと、突如内から絞り出す様な奇声を上げて彼の影が突如彼を包む。
「おい、あれって…まさか!」
 彼の周囲から感じるのは禍々しい瘴気。彼の負の感情に共鳴してか、影にアヤカシが潜んでいたのかもしれない。瘴気に包まれた身体はびくびくと震え、彼は徐々に肥大して人ならざるものへと変化してゆく。そして次の瞬間、

 ブチブチブチッ

 蔦が引きちぎられ、その奥にあったのはさっきと似ても似つかぬ黒兆の姿――。
「おいおい…鬼になった…ってか?」
 その姿にキサイが冷や汗を流す。
「成程ねっ、さっきの発火もそれなら説明がつくか」
 董は思いの外冷静にその様子を見つめ、早速修羅道で能力の底上げを図る。
「ここまで思い詰めてたなんて、蘭菊さんも罪作りどころの話じゃないよ!」
「言ってる場合じゃありません! 早くどうにかしないと!」
 アイシスケイラルで牽制しつつ、ユウキが彼を止めにかかる。
「蘭菊、よく見とけよ! こうなった原因はあんたにもあるんだからな!」
 靖の言葉――だが、蘭菊自身はまだ現実を受け入れられてはいない様で、呆然とその場で硬直している。
 そんな彼女を余所に董は黒兆の懐に飛び汲んで渾身の一撃。続いて、神音も暗頸掌を鳩尾に叩き込む。
 それでも黒兆は蘭菊を諦めきれない様だった。
 鬼化した事で感覚が変化したのか、さっきとは判断力が鈍っている。ただ蘭菊を求める様に接近を試み、開拓者らの攻撃は二の次対応。そんなものだから、後は時間の問題だった。暫くの後、彼は倒れる。そうして瘴気が空へと還り、人の姿に戻った彼の頬には一筋の涙…。
「私は……ただ、おじょう、さまの…そばに…いた、かっ…」
 それが最期の言葉――。
「くそ、説教してやるつもりだったのに逃げやがって…」
 靖が苦虫を噛む。
「瘴気に心を蝕まれる程、ずっと抱えてたんだろうさ」
 とこれはケイウスだ。確かに彼のやった事は人として間違っているが、しかしそれだけ気持ちはあったという事だ。但し、その方向は極端で違った方向に彼を進ませたのは事実である。
「まさか、そんな…どうして……」
 そして、蘭菊は恋人共々助かったというのにのショックは大きい様だった。
 が、ここでまだ言っておかなければならない事があると靖が思う。
「もう、はっきり言うぞ。これは全部あんたのせいだ。あんたがちゃんと向き合って、あいつと話してればもう少しは違った結末があっただろうさ。何かシグナル出してなかったか? それに恋人を助けたいからって、おまえは一体何をした? やった事はあいつと変わらないんだよ」
 悪事への免罪符に恋人を助ける為だったという理由は通用しない。助けたいと願って犯した別の罪は彼女のみならず、事実を知れば彼女の恋人さえも苦しめる事となる。
「私……何てこと…」
 まだ眠ったままの恋人を見つめ、彼女が呟く。
「まあ、相手が俺でまだ良かったかもだぜ。一応、俺はいちりゅ…」
「甘い事いってんじゃねぇ! 一流だったら、こんな女に針刺されてんじゃねえ!」
 真剣な顔で怒鳴られて、キサイも小さく「悪かった」と謝罪する。
「確かに初めからあたしもあなたに好感は持てなかったしね。なんで素直に助けを求めなかったの? 解毒剤貰った後、本気でそのまま帰ってもって思ったし」
 董の本音だ。蘭菊は黒兆と悠、二人を交互に見やり、やがてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「本当に御免なさい……私、何も判った無かったのね…悠を愛する資格も、もうないのかも…」
 皆に頭を下げて、彼女は横たわったままの悠を覗き込む。
「でも、好きなんですよね? あんな事してしまう位に…という事はそう簡単に諦められるものでもないのでしょう?」
 ユウキが問う。
「まず資格がどうとかそう言うの別にして、気持ちが大事だと神音は思うよ。さっ、とりあえず帰ろう」
 黒兆の遺体を山に埋めて、彼らは悠を抱え元来た道を慎重に戻る。

「あ、今更だけど騙すような真似してごめん」
 道の途中、ケイウスが蘭菊にぺこりと頭を下げた。それに蘭菊は慌てて手を振る彼女。
「いいのよ、私自身が信じられていなかったもの。もうきっと来ないって…私自身がそう思ってた」
 聞く所によれば彼女は幼少の折から名家というだけで擦りよってくる大人や友達が多かったらしい。そして彼女がいなくなると、陰口もしばしばで…そんな経験をしていたから尚更信じられない体質になってしまったのだと言う。
「けど、きっとこれはいい訳ね。それに思い出したわ…私、黒兆にも昔告白されてた…」
 彼女が自嘲雑じりに言う。
「え、それってどの位の頃?」
「多分、六歳の頃だったかしら? 彼はたった二つ上で」
『えーーーっ!!』
 二つ上という事は彼は当時の八歳という事になる。その年で執事兼教育係とは一体どれ程優秀だったのだろう。
 それより何よりそんな幼い者を雇い入れ、教育係に任命した親にも責任は発生しそうだ。
「あ〜〜〜、もう一発怒ならきゃならん相手がいたみてぇだ…」
 今回の事でどっと疲れた様子を見せつつ、靖が言う。
「そう言えばなぜ時間がないと?」
 ふとギルドにいた時の呟きを思い出し、ユウキが問う。
「本当はね…明日が結婚式の予定日なのよ。だから彼を早く連れ戻したくて…けど、こんなになったからもう無理ね」
 黒兆もそれを阻止する為に、初めは彼をあそこに幽閉したのかもしれない。

 その後、都に戻った悠とキサイは医者の検査を受けた。が、結果はオールクリアの異常なし。悠は危ない目にあったとはいえ、彼女を本当に好いている様で結婚式が先延ばしになってしまった事を気にするで無く、それよりも彼女と共に謝罪とお礼に開拓者らの元を訪れ、一からもう一度二人で考えて歩むと話していた。
「まあ、あの旦那さんがいれば少しは変わると信じたいな」
 董が言う。
「おまえも教育には気を付けろよ!」
「へ?」
 靖のその言葉にキサイは固まる。
 その後やっと何かに気付いて、慌ててギルドを飛び出してゆくのだった。