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■オープニング本文 ●信頼? 「おい、お前の出番だぞ」 ご主人の声にご主人の懐でうとうとしていたおいらは顔を上げる。それはご主人との買物帰りの事だった。 なぜ、おいらがこんな所にいるのかといえば…これはおいら達の作戦の為だ。 その名は『ポチきゅん☆すまいる』――これを使うとおまけの類いが高確率で貰えたりする。 現に今回もお米と昆布の収穫有という事で、ご主人も愚痴を零しつつ協力してくれている訳だ。 「えと…この人は?」 顔を出した先に見知らぬ男を見つけて、おいらが問う。 「依頼人だ。この竹筒を明後日までに隣町まで届けて欲しいらしい」 気付かぬうちにそうなやり取りがあったようだ。 「お願いします! 本当は自分で行くべきなのですが、足を挫いてしまって……」 旅人風の男が言う。 話を聞けば中には大事な手紙が入っているそうだ。ちなみに竹筒に入れているのは水濡れ防止という事らしい。 「ご主人は一緒じゃないのにゃ?」 折角なら一緒に行きたい。ただの手紙配達だけれど、一応聞いてみる。 「お前ならやれる。俺はそう信じている」 「にゃっ!」 その言葉においらは思わず嬉しくなった。真剣な表情であったから間違いない。 (「おいらを信頼してくれてるのにゃ♪」) 必殺技のおかげで絆が深まったのかもしれない。 「わかったにゃ。おいら頑張るにゃ!」 ぴょんと懐から飛び出して、旅人さんに言う。 「あぁ、有難う御座います!!」 彼はそれに拝む様に頭を下げて――ご主人の満足げな表情もあり、おいらはやる気百倍だ。 だけど、この時おいらは知らにゃかった。ご主人が上機嫌で優しい理由…それが別にあった事に。 そう、ご主人の横には見慣れぬ手桶が下げられていた事に――おいらは全く気付かなかった。 ●緊急事態 夕暮れ時、超高速で駆ければやはり喉は乾くものである。 目的地手前でお茶屋さん見つけて、おいらはたまらず休憩する。 「あら、可愛らしいお客さんね。何か御用かい?」 茶屋の奥さんがおいらに微笑みかける。 「あの、お水を少し欲しいのにゃ」 「あぁ、そうかい。だったらちょっとま…」 「こっちにも頼みます」 気さくな奥さんに更なる声。振り返るとまだ二十歳位の若者がおいら同様声をかける。 「おや、猫又だ。なんだか縁起がいいな」 青年はそう言い、椅子に腰を下ろす。おいらも水を待つ為、隣に座る。 「お急ぎの旅かにゃ?」 「いや、帰りなんだ。早い休みを貰って…今から店に帰る所さ。君は?」 「おいらはおつかい中にゃ」 首にかけた竹筒を下ろして、ぐーと一旦身体を伸ばしながら言葉を返す。 「へえ、えらいね。と、聞いてくれよ…この竹筒の水筒、買ったばかりなのに穴が開いていてさ。もうさっぱりだよ」 そこで彼は苦笑い。おいらのそれを見て思い出したのだろう。取り出して見せる。 そう、それはそっくりの竹筒――元が竹であるから当たり前と言えば当たり前だ。 「はい、おまたせ」 そこに待ちに待ったお水が到着して、ごくごくと飲み喉を潤し……他愛のない話を少しした後別れる事となる。 「私はあっちだから」 とてもいい青年だった。おいらが来た方へと向かって歩いてゆく。 「さて、おいらも後ちょっとにゃ」 竹筒を背負い直して、おいらは目的地に走り出す。 そうして問題の場所に着いた時、おいらは重大な失態に気付く。 「これ…違うのにゃ…」 背負ってきた竹筒には間違わない様にと小さな印が彫られていた。 しかし、今下ろした竹筒にはその印が彫られていない。 「ま、まさか…あの時……」 茶屋でのやり取りを思い出す。ここまでくる中であの竹筒を下ろしたのはあの時だけだ。 「困ったにゃ。きっとあの人のやつと取り違えて……確か別れる時あの人は」 腰に竹筒を――下げていた。従って、まだ彼が持っている筈だ。 「取り返さにゃいと…刻限は明後日。まだ間に合うにゃ!」 一人で一頻りじたばたしたのち、おいらは元来た道に体を向けて、 「あ、けど名前…聞いて無かったにゃ」 再びの絶望。折角ご主人がおいらを信頼して任せてくれたのに、この事を知ったら……? きっと直接は何も言わないだろうが、心中では失望するだろう。 (「思い出すのにゃ…あの人の身長、特徴…後、あと…」) おいらは脳内をフル回転させて記憶を辿る。 「身長はご主人より少し小さくて…草の香りがしてたにゃ。 そして、全体的に鍛えられてたっぽいけども…開拓者って感じじゃなかった。 後は…そう言えば店に帰るって言ってたって事はあっちの町にいる筈にゃ!」 加えて人柄は気さくで温厚。髪型はよくある短めに揃えられた髪で…鍋の人位だった筈だ。 その他の特徴といえば、 「怪我にゃ!」 竹筒を見せた後の事。長椅子に置いて手を離した時に、おいらの目線が丁度掌を捕えていて…手の内側の中央に何かに刺された様な赤い点が出来ていたのを覚えている。 「こうなったら、にゃんとしてもあのおにーしゃんを見つけ出すのにゃ!」 自分を奮い立たせる様に声を大にして言う。 そんなポチを貴方の相棒は発見。さて、どうしますか? |
■参加者一覧
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●集合 動物というのは耳がいい。であるからポチが自分の失態にわたわたしているのに気付いたものは多い。 「こら夜空! 道端の草を食べるんじゃない!」 主人の注意はさておいて、草薙早矢(ic0072)の翔馬・夜空は声の方向に視線を向ける。 (『あれは…猫又? 他の朋友達も集まり始めている?』) 遥か先の事だ。さっきの声の主に半ば引き寄せられる様にして小さめの朋友達が集まり始めている。 (『何か役に立てるかもしれない…』) 夜空はそう思い、草の事も忘れて徐々に歩を進め始める。 「夜空? ちょっと…」 後方で早矢の声がする。しかし、彼の意識はもうそこになくて…気付けば地をしっかりと蹴り、 「うちの馬が逃げた!?」 困惑する早矢を残して、彼は仲間達の元へと向かう。 一方、ポチ付近では早速見知った顔が彼のピンチに手を差し伸べている。 「なんでぇ…相変わらずポチ贔屓だな」 ポチの事情を聴いて可哀想だと発言し、慰めのもふりを繰り返すアーニャ・ベルマン(ia5465)に神仙猫のミハイルは些か不機嫌である。しかし、彼とてポチとは長い付き合いだった。見ず知らずの猫又ならともかく、聞いてしまった以上放っておく事はしない。 「手伝ってくれるのにゃ?」 揉みくちゃにされながらポチが問う。 「しょうがねぇ…しかし、アーニャ。あとでたっぷりとまたたび酒奢れよ」 トレードマークのグラサンをくいっと押し上げてミハイルが言う。それに快くアーニャは返事を返し、準備に入る。 「しかし、預かった大事な届け物を途中で肌身から離すとは……そのような事では、立派な猫又と名乗れるようになるまで、まだまだ先は長そうじゃな」 そんなポチに辛辣な言葉を投げたのは水月(ia2566)の仙猫・ねこさんだった。 実際にはちゃんとした名があるらしいのだが、主人にさえそれを教える気はないらしい。 「それは…本当に面目ないのにゃ…」 竹筒が重かったとか、調子に乗って全力疾走したから喉が渇いたとか言い訳はできる。けれど、それを言った所で結果が変わる訳ではない。先輩猫又からの言葉ならば受け止める他ない。 「ごめんね…この子、言葉はきついですけれど…ほんとは優しいの。だから…」 「大丈夫なのにゃ。おいらのミスに変わりはないにゃし」 フォローする水月にポチが笑顔を返す。 『さすが先輩です! 怒られてもへこたれないのですねっ!』 その横ではご主人の秋霜夜(ia0979)とおでかけ中だった忍犬の雫がやり取りを興味深げに観察し尊敬の眼差し。 まだまだ自分は未熟だけど、お友達の為とあらば一肌脱ぐ覚悟の様だ。 『おや? 何か御困りですか?』 とそこへ新たな助っ人――雫が振り返った先の同族の姿に雫の尻尾が大きく揺れる。 『あ、こんにちわー』 『ん…君は?』 到着したのは闘鬼犬の桃だった。振り向き様に見えた雫の顔に何処か親近感を覚え、彼女が首を傾げる。実はこの二匹、少しだけ繋がりがある。と言うのも雫は桃の弟分の忍犬の兄弟犬であるのだ。 『僕、雫って言います。今、ここのポチさんが困ってて…手伝って貰えませんかー?』 犬同士であるから話は早い。手早く事情を説明しお願いする。 『判りました。私は御陰桜(ib0271)様に御仕えしている桃といいます……で、問題の竹筒はどちらに?』 そう挨拶すると彼女は早速竹筒から匂いを辿れないかと、鼻を擦りつける。 しかし、真新しいそれからの追跡は難しそうだ。 『だったらボクが!』 そう言って参戦したのは叢雲・暁(ia5363)の闘鬼犬・ハスキー君。考えるより動けな感じで自慢の鼻で追跡を試みるが、やはり結果は同じだ。買ったばかりという事であるし、匂いが染み付く程には至っていなかったらしい。 「あの、もしやそこにいるのはポチ殿かな?」 するとそこへ更にもう一人、ポチを見つけて加わる影。それは一体のからくりだ。ジルベリアの騎士を思わせるその姿に、パッと見ではからくりであると判断するのは難しいだろう。 「あの…どちら様かにゃ?」 「ああ、これは失礼。穂高桐と言う。主人は戸隠董(ib9794)だ、噂は聞いているよ…で、何があったんだね?」 これだけ朋友が集まれば自ずと目立つ。彼女はそれを見つけて、彼を訪ねてくれたらしい。 「ああ、そうだ。あちらにいる龍もポチ殿を心配している様なのだが…」 桐がギルドの隅にいる龍を指差し言う。確かに彼はこちらを気にしている様だ。通りに出てしまっては道を塞ぐと遠慮しているらしい。 (『本来ならこういう状況の時は、主の命令が無い限り、動く事はないのだがな…。主がこの場に立っていたら…?』) きっと放ってはおかないだろう。そう思い、遠巻きに彼もこちらを気にかけている。そんな彼はカルマと言った。ユウキ=アルセイフ(ib6332)の空龍である。 『僕も混ぜて―!』 そこへ夜空も到着して、総勢九匹の竹筒捜査隊がここに結成されるのだった。 ●目星 「俺らが推理してる間に、アーニャは人相書きを完成させろよ」 ミハイルの主人は絵が得意らしい。筆と紙を準備して、ポチから特徴を聞き取り絵におこす。 そして、その間に他の相棒達はポチから聞いた情報を元に人物の絞り込みに入る。 『名前も知らないとなると、やはりここは聞き込みから始めるのね!』 ハスキー君は刑事タイプか。捜査は足だとばかりに言い切り、今にも跳び出しそうだ。しかしながら、闇雲に探しても埒が明かないし、時間という問題がある。明後日までにとなれば、もう少し特定する何かは欲しい。 「草の匂いがして掌に赤い点が仕事の際についたものだとすると、畳職人さんかもしれませんね」 そこで思考を巡らせて、一つの答えを導き出したのは桃だ。彼女はハッキリ言って賢い。なぜなら、真面目で努力家な性格から人語までも喋る凄腕わんこ。今も皆に判る様人の言葉を使っている。が普段はいきなり使うと驚かれる為か、隠している事もしばしばだ。 『そうかー、僕そんなの全然気づきませんでしたー』 雫がその意見に尊敬の眼差しを向ける。 「確かにその線は濃厚かも知らんね。仕立てだったら、そこまで力を掛ける事もないだろうし」 桐が言う。第一、草の匂いがするというのは大きい。一見農作業とも取れそうだが傷の痕からそれは考えにくいし、お茶であればポチもお茶の匂いと言う筈だ。 「人相書き、出来ましたよ」 アーニャが描き上げた絵を見せ言う。 「うん、そっくりにゃ。アーニャしゃん、本当にお上手なのにゃね」 それにポチが関心する。 『ならば、そろそろ我々の出番か?』 彼らの動きを見て、大型のカルマとこの中では中型の夜空が皆を覗き込む。 日はとうに暮れていた。が期限までは明日と明後日、つまり二日ある。彼らの力を借りれば隣りの町まで戻るのはたやすそうだ。 「もう夜も更けて来た…明日の朝出る事にしたらどうじゃな? 善は急げと言うが、急いては事を仕損じる……睡眠は大事じゃぞ」 ねこさんの言葉――確かに、明日ふらふらの状態ではきっとまともな捜索など出来っこない。 『では明日。港集合で…』 己の主人に何も言ってきていない者もいる。突発な仕事を入れない様にと、まだの者は告げておかなければ。 (「本来なら手助けなどせんし、してもあやつの為にならんと思うたが…私も気まぐれなものよ」) ねこさんがくすりと笑う。見た目が子猫と変わらないだけに、何だかそのギャップが面白く見えた。 『わー、お馬さんは大きくてかっこいいですー♪』 雫が夜空を見上げ、目をキラキラさせている。その様子に夜空もまんざらではなく、白い歯を見せアピールする。 『そうだろうとも。伊達に人参や道草を食べてばかりいる訳じゃないのだよ、フフッ』 言葉は理解できないが、多分そんな感じだ。表情から読み取れる。 「あのあの、お背中お借りしてもいいのかにゃ?」 ポチの問いに、彼は頷く。元々その為に来たのだとばかりに乗る様促す。 「だったら俺も乗せて貰うぜ」 『僕も宜しくお願いします!』 「お邪魔するよ…」 そこで飛び乗ったのに計四匹。ポチにミハイル、雫にねこさんだ。 『あんたらは乗らなくていいのか?』 残っている桃とハスキー君を見つめ問う。 『僕は走るの得意なのね、それに…』 『それに?』 何か言いかけた様に思えたが、それは深く追求しないでおく。 『私は訓練にもなりますから』 桃はそう言ってさい先よく駆け出した。その速さは何と時速七十二キロ…恐るべしだ。 夜空はそれを聞き、颯爽と宙を蹴る。どうやらオーラの翼で空中を行くつもりらしい。 「では、私はカルマ殿。お願いできますか?」 そこで定員オーバーと察し、残った桐はカルマの背中へ。 重量的には人と変わらない訳であるから、騎乗するに問題はない。 『ああ、乗るがいい』 カルマはそう頷いて、彼女共に上空へ飛び立ってゆく。 今日も天気は快晴だ。昼を過ぎれば暑い位になるだろう。けれど、今は心地いい。 からくりである桐にその感覚があるのかと言えば正直な所判らない筈なのだが、風を切り靡く髪がなぜかそんな気分にさせる。主を持って、そして同様に過ごす事でそんな感覚も芽生えてきているのかもしれない。そんな表情をちらりと見取り、カルマは速度を調整する。朝が早いせいか人はそう多くない。眼下には飛脚や卸しの仕事を受け持つ者達が早々と街道を走り、都を目指している。そんな人に交じって、ハスキー君はある場所を目指していた。 ●収集 『こんにちわなのねー』 こんな人探していますの人相描きを首から下げて、ハスキー君は取り違えがあったと思われる茶屋に立ち寄る。 「あら、今日は忍犬かい。人探し…あぁ、この人は昨日の」 そんな彼を見て店のおばちゃんが言葉する。どうやら昨日の今日であるから顔を覚えていたらしい。 「多分、あっちだよ」 頭を一撫でした後、彼女が探し人の向った方を指差してみせる。 『やっぱりあっちなのね……って、この匂い』 ふとつられる様に鼻をひくひくさせて、見上げた先には作り立ての草餅が。 ご飯は食べて来た彼であるが、おやつは別腹かもしれない。自然と口元から涎が流れる。 「ふふっ、食べてくかい?」 おばちゃんが察してくれた。それにこくりと首を縦に振る彼。 (『そう言えば今週のお小遣いまだ手つかずなのね。だから一つ…いや、三つ位奮発しちゃうのね♪』) 律儀にお金を首巻の隙間から出して、彼は豪快にぱくぱく。程よい甘さの粒あんがたまらない。 「お水、ここに置いておくからね」 その表情におばちゃんも満足げなのであった。 夜空の背中に乗って楽ちんでやって来たのは犬猫組。まずは街の者達に聞き込みをかける。 『こんな人、見かけませんでしたか?』 雫はとてとてと小さな足で駆け出しては飼い犬達を巡って、その移動の合間には人々を見上げてその都度確認。屈託のない純粋な瞳に思わず足を止める人々。雫的にはちょっと首が痛くなるけれど、それは我慢で…愛らしい姿を振りまき、聞き込みは上々だ。しかも、彼だけでなく猫又が三匹もいるから動物好きにはたまらない。 「何あれ、人探し中みたい…」 「やだ可愛い♪」 老若男女須らく彼らに遭遇すると高確率で顔を綻ばれる。 「この分だと案外簡単そうだな」 ミハイルはその状況に余裕だった。路地裏の野良猫達にも情報を呼びかけているから、次の集合の折には収穫はあるだろう。ねこさんも飼い猫の類いに遭遇すると、要点をさらっと言葉にして情報提供を呼び掛けている。そして夜空は馬小屋で旅人の馬に話を聞く。旅人であればすれ違う事もあるだろうし、畳の搬入等にも活躍している可能性もある。 先に出た桃もそうだ。驚かれない様にと『喋れるようになったわんこだから驚かないでね』のご主人に書いて貰ったメモを首に下げて、町の畳屋さんを探しつつ付近の人に青年の所在を知らないか尋ねる。 そうして、彼らはそれぞれに全力を尽くした。 そこで見えてきたのは、やはり青年は畳職人であるという有力情報。 「この絵の人だろう。確か、去年こっちに来た気さくでいい青年だよ」 「あ〜…何処に務めてるかは知らねえが、確かにこの都にいると思うね。ちょくちょく見かけるから」 町の住民から聞いた話だ。職人になる為にこっちに出てきて、今はまだ二年目だという事だ。 「街の地図を貰って来たが、そう詳しくは載っていないし、さてどうしたものか」 カルマと桐は都に到着後、ギルドに向かい地図を調達。そのままそこで聞き込んだ後、仲間との話の擦り合わせに入る。都にある畳屋の数は計五軒。その中に問題の青年の務める店がある筈だ。 「人探しってんで、店の場所は大まかにしか聞いて無かったぜ…」 ミハイルが言う。それに五軒もあるとは思ってもいなかった。 桃が一軒は尋ねたようだが、そこは外れだったらしい。 が、ここで意外な二匹がファインプレーを見せる。 『この辺とこの辺にあると聞いた』 広げた地図に夜空が蹄で位置を教える。 『こっちの方にも荷台で運ばれていく畳を見たな』 とこれはカルマだ。棒を銜えて、器用にその場所を指し示す。 「もしかして、畳屋の場所を知っているのか?」 その行動に残りの一同が驚いて、試しに近場に足を向ければ確かにどんぴしゃだ。 小回りが利く方が有利に見えたが、強ちそうとも言い切れない。カルマは飛行の最中にも空から眼下を見下ろし観察。夜空は馬ならではの情報網で場所を確認していたのだ。 『ここは違うみたいだけど、次行ってみるのね。たった五軒、あと三軒なのね』 ハスキー君の言葉に皆が頷く。 そう残りは三軒……手分けしなくともこの分だと一軒一軒回っても期日には間に合いそうだ。 「では、参りましょう」 桃が言う。ここに来てカルマと夜空の御手柄だった。 「あれ、君は昨日の…?」 朋友が纏めて自分を訪ねて来たというのを聞いて、半ば吃驚しながらあの時の青年が奥から顔を出す。 「あの、竹筒がすり替わっちゃったみたいで…交換して欲しいのにゃ」 畳屋巡り最後の店で見つけた顔にポチは些か緊張気味だ。 もし、捨ててしまっていたらと嫌な予感が過る。けれど、彼はまだ持っていた。 ポチの言葉に一瞬目を丸くしたのち、何の事か気付いてすぐに部屋へと戻って行く。 「あぁ、ちょっと待っててね…そういえば配達って言ってたっけ…」 彼はすり替わった事に今まで気付いていなかったようだ。 もし気付いていたら、勿論届けに動いただろう。 「なんか御免ね、気付かなくて。大変だったろう?」 大勢の仲間をつれて来たポチを見て彼が言う。 「いいのにゃ。おいらも注意足りなかったのにゃ」 そう言ってポチは早速竹筒の印を確認に入る。 「どうじゃな?」 ねこさんの問いにポチの表情は明るい。どうやら間違いないらしい。その笑顔に一同もほっとした。中身がどんな手紙かは知らないが、頼まれものだ。大切なものである事に変わりはない。 「お騒がせした。それではこれで失礼する」 桐が皆を代表し、丁寧に頭を下げる。青年はそれに会釈を返して、また仕事に戻って行く。 「なあ、しかし一応中も確認した方がよかねぇか?」 入れ物は同じでも万が一という事がある。あの青年を信じない訳ではないが、確認は重要だとミハイルは思う。 「しかし、中は手紙であろう? 読むのはまずかろう」 それにねこさんが待ったをかける。どうするの?と雫も両者の間で首を振って、それぞれに視線を送る。 『では、あるかどうかだけ確認するのは如何でしょうか?』 そこで折中案を出したのは桃だった。流石に今までの経験は伊達じゃない。的確な判断と言えよう。早速、飲み口の栓を外し、中を覗く。するとそこには確かに紙切れが入っていて、 『しかし、これって何なのかなー? こんな筒に入れて大事に届ける手紙って…』 ハスキー君が興味津々の様子で首を傾げる。 さて、その中身とは…実はとても意外なものだったりするのだが、彼らが知る必要はなくて…今は配達を完了させるのが最優先だ。 すり替わった竹筒を無事回収し、一行は元来た道を今度は寄り道なしに引き返す。 そうして、指定の場所に届けると、彼らは改めてほっと息を吐く。 「本当にお手間かけたにゃ」 ポチの言葉――二度と同じ過ちを繰り返すでないぞとねこさんに言われ、苦笑するのだった。 ●中身 その後、その日のうちにご主人に報告したいと言うポチに皆が付き合う事となる。 「お礼も兼ねて何かご馳走するにゃ!」 ご機嫌の様子でポチが言う。 おんぼろ屋敷であるが、それでも一応庭はあるし大きいカルマも羽を休ませる事は出来そうだ。そうして、家が近付くにつれて、何処からともなく漂ってくるのはいい香り。これはタレの匂いだろうか。香ばしく焼かれたそれはとても高級なものだ。 『これ、きっと鰻なのねー』 逸早くそれに気付いてハスキー君の口元から再び涎が流れる。 「これは天然ものかのう」 とこれはねこさんだ。何気にそこまで匂いで嗅ぎ付けるとは只者ではないが、それよりも意外なのはその香りの出所だ。 「なあ、この香りお前の家からじゃねぇか?」 ミハイルの言葉にポチが目を見開く。 「まさか、おいらの為に……」 一人で出来たおつかいのお祝いに鰻なんて豪勢過ぎる。けどけどもしかしたらと期待は否応なしにも高まる。 「ごっ主人――ただいまなのにゃ〜♪」 ポチが感激しつつ、戸を開ける。その後に続いて、ぞろぞろと小さな朋友達が中へと踏み込む。 「あ…」 がポチの気持ちとは裏腹に一抹はあまり歓迎ムードではない。 「なんだ、大勢で帰って来やがって…まさか何かあって手伝って貰ったんじゃねぇだろうな?」 図星をさされたポチであるが、今は鰻が優先だ。七輪で鰻をあぶる一抹に目を輝かせる。 「そ、それは……もしかして、おいらの為に!!」 「ああ、そうだよ。相棒…」 そう言って欲しかった。しかし続いた言葉は、 「阿呆っ! これは報酬のおまけだ、おまけ」 「おまけ?」 ポチ他一同、呆気にとられる。 「こんな上物なかなかお目にかかれねえ。だから引き受けたんだよ…で、ちゃんとお役目は果たしたか?」 相変わらずの仏頂面で彼に問う。 つまりは、一抹がポチに頼んだこの依頼。実際のところ、彼はポチを信頼して任せたというのではなく、この『鰻』が目的であったらしい。 「もしかして、ご主人が一緒に行ってくれなかったのって…」 「鮮度が命の生ものだ。ほっといたら罰が当たるってもんだろうが…それにあんな簡単な仕事はだな…」 「ご主人の馬鹿っ―――――!!」 一抹の言葉が終わるより先にポチの猫キックが飛ぶ。そして転倒する一抹を余所に、 「皆、残りの鰻はおいら達で頂くのにゃ〜」 ポチの言葉に異議なしな仲間達であった。 そして数日後、隣町で大きな話題となったのは富籤当選者の涙ぐましいいい話――。 「何でも、親孝行の為に息子さんが両親に当たり籤を贈ったんですって」 いつもの昼下がり、長屋の一角で主婦達が井戸端会議を始めている。 「あら、凄いわぁ。しかも期限ぎりぎりだったとか…一日遅れたらただの紙切れでしょう?」 「なんでも気付いたのが遅かったらしいわ。けど、本当に良かったわね…換金までの道のりも、悪い人に知られたりしたら危なかったでしょうに」 大金に代わる紙切れだ。もし近所に知られたら狙う奴も多いだろう。けれど、 「それは息子さんも危惧したらしいわ。それで機転を利かせて竹筒に入れて運んだんですって」 「まぁ」 ちょっとした工夫…その運搬での騒動について依頼人は知らない。 そして、一抹達も逆に同様で、 「あっという間になくなっちまったじゃねぇか…」 桶にいた鰻は既に腹の中――またせこくいくしかないのかと一抹はポチを懐に収める。 「だったらもっと働くのにゃ!」 ポチの助言。けれども一抹は相変わらずで……次の贅沢はいつの事やら。 |