【CP】BBQ交流会
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: イベント
無料
難易度: やや易
参加人数: 50人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/13 17:42



■オープニング本文

※このシナリオは、どさイベカラーポーカーの景品無料シナリオとなります。
 より多くのお客様に楽しんでいただくため、
 6月26日〜28日までは、お1人様1PCの参加としていただけますよう、お願いいたします。


「あのぉ〜、すみませんが、少しいいですかぁ?」
 間延びした口調のおっとり系の女性がギルドの窓口を訪れたのは、少し前の事だった。
 そう、季節はまだ春――雨も少なく、シーズンとしては最も過ごしやすい季節と言えよう。
 そんな折に舞い込んだ一つの依頼がきっかけとなり、ギルドのサプライズは始まる。
「すみません、私の発注ミスでぇ凄い量のお肉が加工されて送られてきちゃって……
 私がいけないのですけれどぉ、生肉ですし〜その、捨てるのももったいないのでギルドで買い取ってくれませんかぁ?」
「はぁ?」
 突然のお願いに窓口はぽかんと口を開ける。
「えっと、その……何と言いますか、ギルドは飲食店ではないので、そういう依頼は」
「でもでも、何でも聞いてくれるって聞いてますぅ。うちの店の旦那様達が今ご家族でご旅行中で……その間のお店を任されたのですけれどぉ、こんな大失敗をやらかしたと知ったら私、首ですよぉ〜〜だから、そのお願いしますぅ〜〜」
 がしりと窓口の青年の着物の袖をつかんで、彼女はそれを離さない。
「いや、その……ちなみに量はどれ位で?」
 そこで兎に角彼女の気を落ち着けようと窓口が量を聞く。
「あの、驚きません〜?」
「え、ええ……」
「じゃあ〜、怒らないで下さいね〜。実はぁ〜うち、いつも一頭買いをしていましてぇ〜、それを加工して貰って仕入れているんですぅ。でも、鳥の欄と牛の欄を間違えてしまいまして〜その、十頭分程」
「十頭、ですか……」
 正直、窓口に一頭からとれる肉の量など判らない。けれど、兎に角多いという事は理解できる。
「なんで加工場の人も気付かなかったんでしょうか……」
 いつもは一頭であるのに、いきなり一ケタ増えれば判りそうなものだ。しかし、もう処理されてしまったのだから仕方がない。
「たれと塩と香辛料を使ったものもありますよぉ。でもごろっとした塊肉になっているので串焼きがお勧めなのです〜」
 依頼人の女性はニコリと笑って、彼に言う。もう、すっかり買い取って貰えるものだと思っているらしい。
(どうしたものかなぁ〜)
 窓口は悩む。肉の量は兎に角多い。ギルドで買い取るにしても相当な額になるだろう。
 かと言ってこのままに腐らせてしまうのは惜しいし、別の店に分けて引き取ってもらうにしても交渉には時間がかかるだろう。
「あのぉ〜、買い取って貰えるんですよねぇ?」
 黙り込んでしまった窓口に恐る恐る依頼人が尋ねる。
「え〜〜と、そうですね。少々お待ち頂けますか?」
 そこで窓口は一旦上司に相談へ。すると何とも奇跡的なタイミングで、あるイベントの開催が決まっている事を知る。
「交流会……ですか?」
 上司の話によれば日頃からお世話になっている開拓者諸君の為に、各地のギルドが総力を挙げて彼らを労う為のイベントをサプライズで考えているらしい。そして、また来るであろう合戦を前に開拓者同士の絆を深め手貰おうというのも狙いなのだという。
「これも何かの巡り合わせだ。その肉、今回のみ全て買い取って構わない。それだけあれば、彼らも満足してくれるだろうさ」
 大食漢が集まったとしても牛十頭だ。後から聞いた話によれば、一頭からは約二百キロの肉が取れるらしい。
 つまりは総重量二トンという事になる。
「きっと彼らとて食べ切るのは難しいんじゃないかな」
 上司が笑う。その笑顔にほっとして、窓口は急いで依頼人の元へ。
 買取に応じると同時に、早速そのイベントの告知に入る。


「来たれ、肉食系開拓者! 野菜もいいけど、お肉もね!
 ギルド主催のバーベキュー交流会開催決定! 参加者大募集中! 参加費用は頂きません!!」

 ギルドの壁に大々的に張り出された告知。各地のギルドにも一番目立つ所に張って貰い、参加者を募る。
「先輩はああ言っていたけれど、もしかしたら全部なくなったりして……」
 窓口が期待を乗せて呟く。果たして彼の予想は他当たるのか。それは神と食べる者達だけが知っている筈だ。


■参加者一覧
/ 柊沢 霞澄(ia0067) / 六条 雪巳(ia0179) / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 佐上 久野都(ia0826) / 鳳・陽媛(ia0920) / 玉櫛 狭霧(ia0932) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 叢雲・暁(ia5363) / 新咲 香澄(ia6036) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 尾花 紫乃(ia9951) / ユリア・ソル(ia9996) / フラウ・ノート(ib0009) / アグネス・ユーリ(ib0058) / 雪切・透夜(ib0135) / ヘスティア・V・D(ib0161) / 御陰 桜(ib0271) / 明王院 未楡(ib0349) / ニクス・ソル(ib0444) / 岩宿 太郎(ib0852) / ケロリーナ(ib2037) / 蓮 神音(ib2662) / 浅葱 恋華(ib3116) / 綺咲・桜狐(ib3118) / イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 沖田 嵐(ib5196) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 春吹 桜花(ib5775) / アルセリオン(ib6163) / 玖雀(ib6816) / 八条 高菜(ib7059) / 華魄 熾火(ib7959) / 月雪 霞(ib8255) / 中書令(ib9408) / 金剛寺 亞厳(ib9464) / 星芒(ib9755) / 永久(ib9783) / ジョハル(ib9784) / 音野寄 朔(ib9892) / 宮坂義乃(ib9942) / 鴻池 青霞(ic0073) / 鴻池 紫桜(ic0074) / フィノ・アンティヤード(ic0082) / 徒紫野 獅琅(ic0392


■リプレイ本文

●朝
 BBQ当日、準備班は予定より早く現地入り。
「こちらに網やタモ等釣り用具をご用意しておきました。必要であれば持って行って下さい」
 手配していたらしい中書令(ib9408)が言う。
「だったら、折角だしお借りしようかな」
 そう言って竿を手に取ったのは鴻池青霞(ic0073)だ。
「おにいちゃんが借りるならシオも借りる〜♪」
 と彼の隣りの少女・鴻池紫桜(ic0074)は彼の妹――両親が亡くなっている為か彼にべったりだ。
「あぁ、どうせならこの交流会にアレも連れて来るんだったな」
 そんな二人を見て玉櫛狭霧(ia0932)が呟く。
 彼にも妹がいるのだが家の事を任せており、なかなか一緒に過ごす事はないらしい。
「お一人でしたら一緒に釣りませんか? 題目は交流ですし…」
 そんな彼を見つけて雪切・透夜(ib0135)が声をかける。
「いいですね。では、やりますか」
 二人はそう言い、川上の方へ。
「シオ達もいこ」
 鴻池兄妹も川辺へ移動する。中書令は数を確保する為、川辺の緩やかな場所に網を仕掛ける。まだ川の水は冷たかったが、ここで怯む訳にはいかない。
「さて、張り切りませんとね」
 そんな彼を横目に今到着したのは岩宿太郎(ib0852)。背中に特大の風呂敷包みを背負って、彼は朝からギルドのツテを利用し大量に野菜を仕入れてきている。
「やっぱり肉だけじゃつまらないしな」
 引き立て役なくして肉の旨みは見えてこないと彼は思う。
「そうだ! BBQの具材ならキノコもいいな。山菜の和え物なんかも付け合わせに…」
「山菜なら任せて!」
 そこへ山菜と聞きつけて星芒(ib9755)が現れる。彼女は既に山に踏み入ってきた様で籠には大量の山菜が詰まっている。
「おおっ、それ全部君が?」
「そうだよっ。でもまだまだ足りないと思うからもう一度行くけど…来る?」
 ぱちりとウインクをして彼女が言う。
「ならぜひ。キノコも結構あったかい?」
「うん、見かけたかな。ただ、食べられるものかどうかは判らないけど…」
「ん〜、そうか。本来なら専門家が欲しい所だけど…」
 呼んでいる時間はない。一か八か己で毒見をするか。
「あ、ならこれを使ってよ!」
 そんな二人に蓮神音(ib2662)が差し出したのは野草図鑑だった。これならキノコも載っているかもしれない。
「有難う」
 二人はそう言い山に入る。神音はそれを見送り調理の手伝いへ。
「あら、少し早く来過ぎてしまいましたのー♪」
 そこへ今度はケロリーナ(ib2037)が顔を出した。沢山のお肉のうまうまが目的であるが、些かフライング気味だ。
「でもでも、これはチャンスですの♪」
 調理風景を見れば作り方が判る。彼女は自分用の机をセットし、お気に入りのテーブルクロスをかけカエルさんを乗せるとすぐさま調査に回る。
「何が出来るか楽しみですの〜♪」
 彼女が目を輝く。BBQ開始までまだ数時間前――。


 さて、準備と言っても班単位で各自楽しむ行う者達もいる。チーム『くじゃ苦』だ。
 主催者側から肉と野菜を貰うと明王院未楡(ib0349)は早速下拵え。大所帯に慣れているから彼女はとても手際がいい。肉をワインに浸して、その間に付け合わせの準備に入る。
「うちには万年欠食児童がいますものね。頑張りませんと」
 ちなみに万年欠食児とは狐の獣人のプレシア・ベルティーニ(ib3541)とネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)の事だ。
「玖雀、まだなのですかー?」
「ばーべきゅーきゅーばーべきゅー♪」
 見るからに準備中だというのに、二人は彼らのリーダー?・玖雀(ib6816)に催促する。
「こんな近くで見つめられても困る…少し我慢しろ!」
 そんな二人にイラつきつつも、玖雀はちゃんと手を動かしていた。元来世話焼き体質なのか、未楡が串に刺した肉を鉄板に並べつつ様子を見る。
「ふふ、では私は冷たい飲み物でも用意しましょうか」
 そんなやり取りにくすりと笑って…六条雪巳(ia0179)は氷を作る為、意識を集中。彼は巫女であるからスキルで氷を作るらしい。そこに持参した飲み物を置けば、簡易冷蔵庫の完成だ。その氷にギルドからも要請があって、
「少し行って来ますね」
「ああ、頑張って…」
 仲間のジョハル(ib9784)にそう告げ、彼は暫し持ち場を離れる。


 何も氷を作っていたのは彼だけではない。
 暑くなるのを見越してかき氷用に作った氷であるが肉の傷み防止にも役立たせているのは礼野真夢紀(ia1144)である。からくりのしらさぎを同行させて、彼女を助手に作業を進める。
「これでいいのです?」
 氷を削りながらしらさぎが言う。
「はい、そんな感じで大丈夫です」
 とこれは真夢紀。氷の削り出しをお願いしているらしい。
「あれなんだろう?」
 その途中、しらさぎが柊沢霞澄(ia0067)の料理の工程に目を止めた。霞澄は赤身肉を集めて、真剣に藁の炎でそれを炙っている様だ。
「ああ、あれは多分タタキですね」
「たたき?」
「あの…もし宜しければその氷を少し頂けませんか?」
 そこで霞澄が二人に声をかけて…氷を提供するしらさぎ。
「有難う御座います」
 霞澄もそれを受け取り仕上げに入る。適度な薄さに切って浅葱を散らしポン酢をかけ完成だ。
「ああ、しかし…なんだか私と同じで地味ですね」
 ちらりと隣を見ればシュラスコ作りに勤しんでいるリィムナ・ピサレット(ib5201)や二tの肉の消費を目指してタンシチューやスジこんを大鍋で作る神音の姿がある。
「別に気にする事ないと思うぜ」
 そんな彼女を近くにいた沖田嵐(ib5196)が励ます。
「食べれるだけでも有り難いんだ。地味でも何でも食べてくれるさ。出ないとあたしがゆるさねぇ」
 今回提供された肉とて無駄にしたら罰が当たる。生命を頂いているのだから捨てるなんて持っての外だ。そうこうするうちに調理テントからはいい香りが漂い始めていた。


「これ、いけるかな?」
 一方その頃山に入った太郎は未知のキノコを前に星芒に助言を求めていた。
「さあ、本に載ってないからやめた方が…」
「でも、あんなにいっぱいあるんだよ?」
 太郎が指差す方角には大量のキノコ…もし食べられるのなら大収穫となりそうだ。
「ん〜、やるしかないか」
 昔の偉い人は己で試して歩いたと聞く。そこで彼も少しだけ齧ってみる。すると口には独特の風味が広がって…徐々に舌が痺れ始める。
(くそぉ、これアウトだ―)
 そう思った時の事だった。僅かであるが奇妙な音と振動を感じて、
「まさか…熊?」
 冬眠明けに匂いにつられて来たのだろうか。太郎はキノコを諦め、二人で警戒しつつ確認に向かう。
 がその先にいたのは、
「え?」
 踏み込む度に辺りの草木が振動する。その中心には鍛錬中の泰拳士・羅喉丸(ia0347)の姿がある。
「空腹は最高の調味料と言うからな。すまない、騒がせてしまったか?」
 聞けば彼もBBQの参加者らしい。

 ぐおぉぉぉ

 ――とそこへ新たな客。この声は今度こそ間違いなく熊だ。
「わっ、ちょっ、ストッーープ!」
 星芒が喝を発動し、熊を牽制する。太郎は咄嗟に手にしたままだったキノコを熊の口に投げ込む。そして羅喉丸は起こしてしまった責任を取ろうと熊に一撃。知らぬ所でBBQ会場は守られていたり。そんな事とは露知らず会場は、

「さぁ、野郎&はらぺこ女子共! 片っ端から焼いていくから、どんどん喰ってくれよ!」

 嵐の宣言――いよいよ交流会開始。


●昼一
「お肉始まったのに、シオ全然釣れないー」
 会場から届いた声に、川釣り班ものんびりしていられない。
 がすっかり飽きてしまったのか、竿を投げ出して紫桜はさっきから水遊びを始めている。
「そう言っても釣りとは時間のかかるものだしねぇ」
 そんな妹に兄は苦笑い。
「あ、そうだ!」
 そこで紫桜は何か思いついた様だった。中書令が網を引き上げているのを見て、素手での捕獲を試みる。が、水の中では魚が有利。すいーと手をすり抜けて、遊ばれている様で徐々にイライラが募り出す。そして、行き付いた結果は得意の符。
「これを使えば絶対確実〜♪」
 じーと魚を見定めて呪縛符発動。案の定、魚は拘束されて意図も容易く手に収まるが、
「シオ、それはルール違反だ」
 見ていた兄からの注意勧告。おでこをこつんと突かれて、褒められると思っていた彼女がしょげる。
「だって、釣れないんだもん…」
「まあまあ、そう言うな。俺が手伝うから」
 青霞のその言葉に再び一緒に糸を垂れて――直後、川面に飛沫が弾ける。
「いいですね♪」
 その場面を遠目に見た透夜は釣竿からペンに持ち替えて…彼は絵を描くのが好きなのだ。主に自然や遺跡の風景を。さっきのそれも自然の一コマ…川魚の躍動が彼の心に響いたらしい。
「あの、引いてますが」
 透夜の竿がしなっているのを見て狭霧が声をかける。しかし、彼は描くのに夢中でそれ所ではない。
(仕方ないな…)
 彼はそんな透夜に代わって竿を引き上げる。釣れたのはとても綺麗な岩魚だった。太陽の光に照らされて……ふとなぜだか再び妹の事が気になり始める。
「今何してるかな…」
 彼女とちゃんと向き合うと決めたのに、現状はまだ平行線のままだ。
「あ、すいません。取り上げて頂いて…」
 そこで透夜が気付いて、彼は意識を現実に戻す。
「いえ、大丈夫ですよ。大物が上がりました」
 釣り上がった岩魚を前に二人は笑顔を交わした。


「に、肉でやんす…」
 春吹桜花(ib5775)の鼻空をいい香りが擽る。
 彼女は火が苦手な風来坊だった。だから旅先でも火を扱う事は最低限に留め、路銀の節約の為にお肉は避けてきた。がふらりと立ち寄ったギルドで肉無料の文字を見つけて、多分夢なのだろうと思いつつもここまで来た。
「あら、あなたも食べに来た口なのね。だったら遠慮はいらないのよ、どんどん食べなきゃ」
 物欲しげに見ていたのだろうか。声をかけたのはアグネス・ユーリ(ib0058)。焼き立てのお肉を受け取り齧り付いて、
「んっ、おいしい♪」
 素直な感想。片手のワインも進む。
「あ、あっしにも沢山盛って欲しいでやんす!!」
 それを前に桜花も我慢出来なくなって、調理班から皿一杯の肉を受け取りまず一齧り。
「こ、これは…」
 噛めば噛むほど広がる肉汁。肉々しくも味付けは絶妙で丁度良い硬さ。
「これはべらぼうに美味いでやんすっ! こんな美味しいもの初めて食べたでやんす!」
 この味を知ってしまっては止まらない。次から次へと皿を重ねていゆく。
「あれだけガンガン食べてくれると嬉しいよねー♪」
 神音が汗を流しつつ言う。
「そうだな。食べ物に感謝! 牛も本望ってやつだろうさ」
 とこれは嵐だ。
「ふむ、俺も負けてはおれんな」
「僕だって」
 羅喉丸と天河ふしぎ(ia1037)も肉の山に挑む。二人共好き嫌いはない様だった。しかし、牛の部位とは色々あるもので、特にホルモンと呼ばれる内蔵の部分は種類が多い。
「へえ、それはハチノスって言うのか。確かにそれっぽいな」
 ひだひだの空洞が出来たそれを前にふしぎが興味深げに言う。
「こっちのこれも、名前は知らないが味わい深いぞ」
 羅喉丸はそう言い、互いにうまいものを分かち合う。
「しかし、凄い量だよね…とても食べきれないんじゃ…」
 テントの奥に積まれた肉――流石に全部はとふしぎは思う。
「とは言っても無駄にするのはおしいしな。出来る限り、食べつくすまで」
「そうもふ、食べるもふ」
「え?」
 そこに突如聞きなれぬ声に振り返って…そこには二匹のもふら様――。
「あれ、誰のかな?」
 相棒を連れてきている者もいるだろうが、主の姿が見当たらない。全く気にせずもしゃる二匹を前に、ふしぎは辺りに目を走らせる。
(ふふふ、ばれてはいないようですね)
 そんな彼を見て一匹のもふらは確信のどや顔で焼き上がったお肉を行儀よく食べ始める。そう、このもふら…実は人間だった。ラ・オブリ・アビスで姿をもふらに見せた柚乃(ia0638)なのだ。そしてもう一匹は本物、すごいもふらの八曜丸である。
「うまいもふ、おいしいもふ、たべるもふっ!!」
 柚乃とは対照的にがつがつと豪快な食べっぷり。彼ならば牛一頭分は消費してくれるかもしれない。
「なっ、あれがいるなら急がないとな!」
 その姿に野菜とバランスを取りつつ、食べ進めていた宮坂玄人(ib9942)は焦る。もふらといえば食いしん坊。今のところこの二匹しか確認できていないが複数いたら? この食べ放題企画が終わってしまう。
「師匠と兄の分まで食べねば!」
 鮮度の問題で持ち帰りは出来なそうだ。本当は二人も誘いたかったのだが、都合でこれなかった様で…彼らの分まで楽しもうと決意した彼女である。
「やるねぇ、きみ。しかーし、走り込みで消費した僕の敵ではないのだよ!」
 そこへ更なる大食い登場。細身の身体つきではあるのだが、咀嚼力が半端ない。いや、実の所肉を一口大にし口へ運び、出来上がってくる料理を肉7:炭水化物2:その他1の割合で凄まじい速さで胃袋に収めているのは叢雲・暁(ia5363)である。
「NINJAたるもの、いつ如何なる時食事にありつけるか判らないからね。しかもタダメシ、量をぶっこむ事も大事だよね〜♪」
 だからこその食べやすい大きさでの質量勝負。タレも塩も香辛料も、全てをおいしく頂く為に…食べる姿勢も大事だと思う。姿勢と言えば、なかなかに効率のいい方法を取っているのはフィノ・アンティヤード(ic0082)だ。
 宴会ならば踊り子の本領発揮だとギルド側に掛け合い舞台を用意して、焼き上がるお肉を待つ開拓者の目を楽しませる。そしてその合間に小腹がすいたら、お肉を頂くを繰り返しているからだ。
「やっぱり食べたら消費しなきゃだし、踊ったらまたお腹が減るものですね」
 蝶の様に軽やかに、水か風の様に舞い…彼女は全てに全力を出す。
「わぁ、ショーまで見られて至れり尽くせりですのー♪」
 その光景に料理を待っていたケロリーナが拍手を送る。
「ふふ、ありがとなのですよ。もしよかったら、一緒に食べますか?」
 そこで彼女はショーを終えた後、彼女を食事に誘う。
「本当ですの。でしたらこちらへ…私のカエルさんも一緒ですがよろしくて?」
 設置している机に彼女を招いて――そこに持ってきたのはなかなかの大物だ。
「ふふ、食べて貰う人を探しているみたいだったから貰って来ちゃったのですよ」
「おおーーですの♪」
 どすんと置かれたのは動物の骨に幾重にも巻かれた薄切りの肉。遠目で見れば、さながらそれはマンモス肉。二人はそれを嬉々とした様子で食べ始める。
「ちなみにこれはどの方が?」
「あそこの巫女さんなのですよ。何でもインパクトのあるモノを作りたかったとか」
 霞澄、まだ地味なのを気にしていたのか。迫力としては満点の一品であった。


●昼二
 さて、BBQではあるが何も肉ばかりではない。
 真夢紀のかき氷を始め、開拓者によってデザートの類いも少しながら提供されていたりする。
「大勢に振舞うのは久し振りだ」
 そう言いつつ妻の月雪霞(ib8255)と共に会場入りしたアルセリオン(ib6163)もその一人だ。
「焼き料理だけでは口寂しくもなるだろう」
 そこで作り始めたのはクルフィというアル=カマルのさっぱりとした氷菓だ。霞は事前に寒天を作ってきているから彼のお手伝い。ちなみにトッピングにはクッキーにキャンディ、ジャムも用意して、一工夫した涼を感じるお菓子からも霞の女性らしさが感じられる。
「アル、私は何をすればいいかしら?」
 てきぱきと作業を始める夫を見つめて彼女が問う。
「ああ、では味を見てくれないか?」
 そう言い、作りかけのそれを掬い差し出す。
「ん……もう少し、お砂糖が必要かしら」
 その意見に彼も一口。確かに今のままでは味気ない。
「ふむ、確かにな。さすが霞だ」
 アルセリオンが微笑む。以前ならこうは笑えなかったのだが、今は彼女がいる。騒がしい場所を避けていた彼であるが、いつの間にか好ましく思う様になってさえいる。
「あらあら、お熱い事ですねぇ」
 そんなやり取りを遠目で見て、周囲を散策していた八条高菜(ib7059)はくすりと笑う。本人達が気付いたら照れるだろうかと思い視線を移すと、今度は川辺の二人組が目に留って…彼女も少しばかり夫の事が恋しくなったり。
「久しいのう…釣れておるか?」
 涼を求めて川縁に来ていたのだろう華魄熾火(ib7959)は素足だ。
 その声に気付いて、糸をたれうつうつしていた永久(ib9783)が顔を起す。
「…あぁ、華魄か…久し振りだね。何だか…最近は昼間に会う事が多いね」
 そう答える彼であるが、何処か眠そうだ。
「ふふ、わたしとて休息に出る事もある。むしろそればかりじゃ」
 そんな彼に言葉を返して彼女は彼の横へ。今日は木漏れ日の綺麗ないい日だ。木陰に入れば暑過ぎず、心地よい風が頬を撫でる。
「日がなこういう日もいいんだ…ん?」
 釣りの合間に話しかけた永久だったが、隣の熾火からは返事がない。
「…まったく、男の前で無防備に寝るものでもないよ…」
 そんな彼女にくすりと笑って、しかし本当にここは心地いい。静かで温かくて…そう思ううちに彼の瞼もだんだん沈み始める。
「ん…」
 熾火が目を覚ます。鮮明になる視界…ふと見上げれば彼の寝顔。
 しかし、彼の夢見はあまりよくないらしかった。頬に一筋の涙が流れている。
「おつかれ様、かのう…」
 彼女はそれにポツリとそう呟いて、徐に彼の前髪を撫でる。
「…――…」
 それは声にならない声だった。ぼんやりと目を開いていた様に見えたのは気のせいか。
 更に新たな筋を作って、彼はまた眠りにつく。
「皆が、幸せに暮らせる世は何処にあろうな…」
 切なる想い――それを求めて、開拓者はその先に何を見る?


 所変わってこちらは賑やか。気の合う仲間とわいわいがやがや。
 小さめの器具を借りて、BBQを楽しむのは浅葱恋華(ib3116)、綺咲・桜狐(ib3118)、イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)の三名である。
「イゥラ、魚貰ってきたわよ〜」
 火の番をしていたイゥラに恋華が零距離から言う。
「ちょっ、近いって! 貰ってきたならさっさと焼きなさい! 私は魚が好きなんだから!」
 と突然の接近に慌てて距離を取る彼女。本当は感謝なのだがまともに言うのは恥ずかしい。
「はいはい、じゃどんどん焼くからね♪」
 そんな彼女の態度を気にするでなく、恋華は貰ってきた魚を焼き始める。
「油揚げ、油揚げも焼くのですよ!」
 そんな二人の間で尻尾ふりふり、待機中なのは桜狐だ。持参してきた油揚げをじっと見つめながら、今か今かと時を待つ。
「ふふ、可愛いんだからぁ〜」
 その様子に思わず恋華が彼女を撫でなで。焼き上がったお肉でポッ○ーゲームならぬお肉ゲームをしてみたりとはしゃぎっぱなしだ。
「ちょっと、お魚。まだなの…?」
 丸々を焼いているから時間がかかる。待ち切れない様子でイゥラが言う。
「大丈夫。焦っちゃ駄目よんv」
 そう言って、その代わりにお握りを彼女の口元へ。それにつられてお握りを頂く一コマも。
「お肉も美味しいです。野菜も油揚げも…二人と食べると尚格別ですね」
 照れた様子も見せず桜狐が言う。
『あ、お弁当ついてる』
 桜狐のそれに気付いて二人が接近ぺろりと頂いて、本当に仲がいい様だ。
「あ、お魚がいい頃合ね。イゥラ、お待たせ」
 食べ易い様に身をほぐし、彼女が箸で挟む。
「え、まさかこれって…」
「そう、あーーんして♪」
 とても自然にそう言うものだから彼女もそれに乗ってぱくり。口に入ったのは山女魚の身。ほどよい焼き加減で塩の入りも完璧だ。
「お、美味しい…」
 そんな素直な感想に微笑む恋華。彼女にとって二人の笑顔が何よりのご馳走だ。
「おっ揚げ、おっ揚げ〜」
 お肉に挟んだり、野菜に挟んだり。兎に角桜狐は焼揚げがいたくお気に入り。
「ちょっと、恋華。あなた全然食べてないじゃない。そうね…折角だし、今日は私が食べさせてあげる」
 そこでイゥラが皿から一枚挟んで彼女に差し出す。
「ふふ、本当にいいの?」
 そう返されて、イゥラは傍と気付く。これではまるで、まるで…考えただけでも顔から火が出そうだ。
「もう、ならいいわよ。 ほら、もっと作りなさい!」
(あらあら、素直に従ってればよかったかしら…)
拗ねる態度も可愛いと思い、恋華からくすりと笑みが零れた。


 仲間内でといえばもう一組。一風変わった趣向でBBQを楽しむ者達がいる。チーム『幼馴染』だ。
「ふふっ、よく集まったわね。一人欠席が残念だけれど素敵なBBQに致しましょう」
 不思議の国のお茶会に見立てて、ユリア・ヴァル(ia9996)がチェスの白の女王の衣装で言う。
 そして持参している薬味を並べて、ついでに持って来た香草をチェシャ猫の竜哉(ia8037)に押し付ける。
「ん…これは何の真似だ?」
「あら、女王たる者自分で焼かずに、作らせるものよね。って事でよろしく♪」
 実に爽やかにそう言うと、彼女は準備してきた椅子に座る。
「あの、でしたら私がやりましょうか?」
 そこで名乗り出たのは主人公役の泉宮紫乃(ia9951)だった。着慣れぬワンピースの裾を気にしながら、元々香草についての知識はある。料理となると少し話は別であるが、出来ない訳ではないから適役といえよう。
「ああ、じゃあお願いしようかな?」
 猫耳と猫尻尾の竜哉が言う。
「はい、お任せ下さいまし」
 彼女は嬉しそうだった。しかし、彼女――味はいいのだが、作業が丁寧過ぎて時間がかかり過ぎる傾向があったり。しかしながらその事を知っている仲間は少ない。お握りやマシュマロを持ち込んでバランスよく焼いていくのだが、そのペースは超スロー。
「女王様、待つ間にお酒などいかがですか?」
 そこで時間繋ぎにお酒を出したのはヘスティア・ヴォルフ(ib0161)だ。
 セクシーバニーちゃんの格好で同性であっても目のやり場に困りそう。
「ヘスティアん。流石ね…」
 そんな彼女に帽子屋仮装のフラウ・ノート(ib0009)の正直な感想。だが、
「おや、フラウだって脱げば凄いって聞くぜ?」
 少し茶化す様にヘスティアが言う。
「そうよね、フーちゃんって実はスタイルいいのよね。食べる子は育つ?」
 とこれはユリアだ。二人からからかわれて思わず顔を真っ赤にする。
「なあ、その格好きつくないのか? 主に胸」
「ブッ!?!」
 そのストレートな物言いに流石の彼女も吹き出す。
「あの、焼けてきましたのでどうぞ」
 そこでやっと料理完成。本来なら焼き切ってからであるが量も量であるからながら作業。竜哉からは柑橘類の差し入れがあり、全体のバランスはいい。
「たつにーどうだ? この衣装、猫どのの眼鏡にはかなうかね? あぁ、味見は後な?」
 着席前にくるりと回ってヘスティアが問う。
「ふむ…猫は兎を狩るものではあるけど…ま、肉は十分にある。後で追いかけっこくらいならやるかい? 運動としてね」
 それをさらりとかわして彼も卓へ。そんなやりとりをこほんと一つの咳でフラウが切り替えて、まずはやはりお肉から。
「んむ♪ このタレ、隠し味に林檎が入っているみたいね。胡麻もいいアクセントだわ」
 いちいち料理の分析をしながら彼女が言う。一方紫乃は火の様子を見ながらこっそりお野菜ばかりをお皿にとって、
「ちょっと紫ちゃん。野菜ばかりじゃなくお肉も食べなさい。花嫁さんは体力勝負よ!」
「は、はい!」
 ユリアにばれて、已む無くお肉へ。しかし、一枚がなかなかになくならない。


 そんな彼女とは対照的に飛ぶ様に肉がなくなっていく所もあるもので、
「ほい、一丁あが……って肉がねぇ!?」
 焼き上がったばかりの串を皿に移す僅かな時間に消えた肉に玖雀が焦る。
 が犯人は判っていた。彼の目の前にいるネプだ。
「おい、もうこれで何回目だ! 勝手に食うなってあれほど…ってもうねぇし!」
 言ってる傍から今度はプレシアが焼き上がりをぱくりとやって、二刀流ならぬ二串流で焼いた所で一向に他の仲間に肉が流れない。
「別に急ぐ事無いんだしいいじゃないか。ってあ、そっちの南瓜焦げそうだよ」
 そんなやり取りを面白く眺めつつ、ジョハルは助言する。
「次はまだかなー♪ ネプくんと一緒で楽しいの〜♪」
「玖雀さん、串をあげてないでいいですから、次を焼いて欲しいのですー!」
 玖雀の苦労等お構い無しに各々好き勝手な事を言う。
「あ、ほらもう肉が足りなそうだよ? 取ってきた方がいいんじゃ…」

「やかましいわーーーー!!」

 そこで玖雀が切れた。
「…雪巳、玖雀が怖いよ…暑いからかな」
 怒鳴られて避難したジョハルが雪巳に言う。
「でもまぁあれが彼ですから」
 雪巳はそう言い、ちゃっかりお肉を頬張っている。
「あぁもう焼かない者がぐだぐだ言うな。こうなったら奥の手だ…てめぇら、覚悟しろよ」
 瞳の奥を光らせて、玖雀が取った行動。それはこの極限状態で出来た究極の給仕技に他ならない。
「喰らえ、思う存分なッ!!!」
 玖雀の言葉と共に一度に焼かれるは六本の串。手早い動作でそれぞれの肉をレアに仕上げていく。そして焼き上がりを見極め、手に取った串を振り抜く。するとすぽりと串から抜けた肉はネプとプレシアの口へと収まって、

「秘儀、肉落とし!」
『おーー!!』

 その後の彼はさっきにも増して無我夢中だった。二人の胃を満たす為、ひたすら焼き続ける。
 そうしてようやく、
「ふにゅ、お肉はお腹いっぱいなの〜…」
「はぅー、いっぱい食べたのですー」
 二人の白旗宣言に満身創痍の玖雀がほっとする。
「調理お疲れ様です、後でゆっくり召し上がって下さい」
 そんな彼に一筋の光り――雪巳だ。彼の分もこっそり取り置いてくれていたらしい。
「あぁ有難う」
 息も絶え絶えに、やっと食事にありつけると玖雀がその場に腰を下す。
 だがその数分後、万年欠食児らは再び目覚めて、
「デザートが欲しいのです!」
「デザートは別腹なの〜」
 彼の地獄は終わらない。しかしそれも彼らの恒例行事で、
「ふふふっ、まるで幼児の面倒を見るお母さんみたいですね」
 こうして馬鹿言えるのも平和だからこそだと、彼らは思う。
「あ、ジョハルさん。ちゃんと召し上がってますか? 夏になると体力が要りますから…食べて下さいね」
 そして仲間を気遣いながら…楽しい一時はまだ終わらない。


●夕
 宙を舞う肉というならば、こちらも負けていない。
 それは食事が始まって数時間が経過した後の事だ。ある程度お肉を頂いて、給仕に回っていた御陰桜(ib0271)の愚痴からそれは始まる。
「あぁ、もうだんだん運ぶのが面倒になってきたわ…」
 運べど運べど声がかかるし、調理テントまでは意外と距離がある為何度往復したか判らない。給仕がこんなにも大変だとは思わなかった。肉の重量もなかなかのものであり、開拓者といえど骨が折れる。そこで彼女は串を構えて、
「この、持ち心地…もしかしたらやれるかも」
 彼女はそこで閃いた。まずは手近な場所の者に向かって声をかける。
「すみませーん、今から飛ばすんで受け取ってねん♪」
「へ?」

 ひゅ〜〜〜 どーん

 言葉の意味を理解するより先に皿に串が乗っていた。超高速…とは言い難いが、それでも結構な速さで飛んできた肉が皿に収まっている。
「え、ええ?」
「ふふ、イケるじゃない。だったら次もいくわよ〜」
 肉と桜を交互に見る相手をさておいて、桜は次々と的確に声のかかった場所に肉を投げていく。
 が、百発百中かと言えばそうではなくて、
(うわぁ〜、やっぱりお肉の焼けるいい香りって堪らないよね〜♪ 青ちゃんのタレが美味しくてとまんないや〜)
 ご機嫌で友の焼く肉をこっそり頂いていた弖志峰直羽(ia1884)を襲撃。
「はぁ、これなんかも美味しそ…ってうえぇ!?」
 それは派手な音と共に直羽が狙っていた肉を下敷きにした。桜から謝罪の言葉が飛んだが、今の彼はそれ所ではない。というのも今の衝撃で直羽がこっそりキープしていた肉が露になったからだ。
(あ、まずい…ばれちゃったかな)
 それに慌てて皿を隠す彼であるが、幸い友の御樹青嵐(ia1669)はこちらを見てはいない。
「ほら、遊んでないでどんどん焼かないと」
 そう言って次々と残りの肉や野菜を捌いていく。
「あれ、気付いてない?」
「それはつまみ食いの事ですか? もしそうでしたら、もうとっくの昔に気付いていますが」
「ええ――!?」
 思わずその言葉に大げさに後退する彼、が、青嵐から言えば気付かない方がおかしい。
「まあ、一応五割方は焼いていたので。しかし、これからは一切つまみ食いはなしという事で」
「えーーー!! そんなぁ〜」
 青嵐の言葉にあからさまな不満の声を上げる直羽。
「でも、そうすると俺達少しも食べれないじゃん。こういう時は俺達も作りながら食べないと。はい、青ちゃんもあーん♪」
 取り置いていたお肉を挟み青嵐の口の前に持ってゆく。
「あ、あーん……ん、確かにおいし、あ」
「やったーー! これで共犯だよ! それに本当これ美味しいでしょ♪」
 もぐもぐしたのを見取って直羽は野菜をパクリ。青嵐持参のタレは二種類あり、どちらも美味しい。にんにくの方はパンチがあって食欲をそそるし、もう一つは柑橘ベースで脂にまみれた舌をすっと洗い流してくれるからだ。
「ね、ね、だから俺達ももっと食べながらやろうよ?」
 直羽が笑顔で青嵐に言う。
「それとこれは別です。私は兎も角、あなたはもう結構食べているでしょう? 当分お預けです」
 そんな彼に少しの悪戯心を出して、青嵐はきっぱり言い切る。
「えっ、そんなーー! 怒らないでよー肉だけじゃなくて野菜もちゃんと食べてるよ―」
 直羽の主張。青嵐とて本気で言った訳ではないがもう少しだけ…面白いから続けようと思う彼であった。


「流石にもう肉は…げっぷ」
 さて、初回からずぅーーと肉を食していた者達には当然飽きが訪れる。そこで活きてくるのは魚や山菜だ。
「塩焼きに煮つけもご用意して頂きましたので、味変をしたい方はどうぞ」
 仕掛けた網は大漁だったらしい。寄生虫にも注意を払い処理して貰った魚の塩焼きを中書令が配って回る。
「うん、やっぱり魚も食べたいな」
 ここにきての魚。ふしぎの胃袋は既に満腹状態ではあるが、もしかしたら御魚は別腹になるかもしれない。ベルトを更に緩めまだ入る事を信じ齧り付く。
「山菜の天麩羅も絶品ですよー」
 とこれは星芒だ。ちなみに食用キノコはソテーとなっている。
「あ、こっちにお願い〜! なんたってお酒のあてになりそうだしねっ」
 そこで手を上げたのは新咲香澄(ia6036)だった。彼女と共に過ごしている面子は計四名。
 一人は途中から彼らの姿を見つけて加わった自称腹ペコシノビの金剛寺亞厳(ib9464)。普段はお財布の関係で光合成が出来るのではと言う位の山菜食者であるが、実際はお肉大好き。お金さえあれば毎日でも肉を食べたいと思っている彼である。
「シュラスコ〜、シュラスコはいかがですか〜?」
 リィムナが自慢の料理を自身で給仕する。ちなみにシュラスコとは岩塩を使って直火でじっくり焼いた串焼き肉の事だ。それを珍しく思い亞厳が注文する。すると彼女は軽く沈んでぴょんと跳躍。さっと彼の元へ。
「おー、身軽でござるな」
「へへ、ありがとな。でどの位御所望で?」
 ナイフ片手に彼女が問う。
「拙者、全部でも構わんでござる!」
 そう言う彼にリィムナはにやり。本来なら削切り一〜二枚と言うのが普通であるが、やはり相手は開拓者だ。
「一本丸々とはありがたいねっ。折角だからそのお礼にいいもの見せたげるよ」
 彼女はそう言って串を渡すと、再び跳躍。今度は捻りを入れて高速回転からの着地をしてみせる。
「最高位シノビの技だぜ? 楽しんで貰えたかな?」
『おおーー!!』
 得意げな彼女に今度は周囲からも歓声。
「あ、デザートの焼きパイナップルもこの後用意するから欲しい人はお声をよろしく〜」
 これがなかなかいい宣伝になった。彼女の元にこの後、人が殺到する。


 さて、話は戻して亞厳の動き――シュラスコを頂いた後、見知った顔を見つけ彼はそこへ向かう。
「えー、ちょっマジでまずいって。酒は強い方だと思うけど…この面子で勝負だなんてとんでもない!」
 困り顔で勧められる酒を前に徒紫野獅琅(ic0392)が焦っている。
「えー、何で? BBQと言ったらお酒だよ! それにボクのおごりだ! ドンドン飲んでよ!」
 香澄が持参したお酒を掲げて言う。
「あら、気が利くわね。だったらやっぱり酒盛りよ。私は地元から持ってきた地酒があるし、勝負は別としても飲みましょう」
 とこれは音野寄朔(ib9892)。彼女の相棒忍犬・和は早々とお肉を頂いている。
「だったら、これもどうぞ♪」
 そこへアグネス登場。折角の交流会、色んな縁を繋ぎたい。膨れたお腹の消化を促しついでに、お酒のサービスをして回っていたり。今は蒸留酒のターン。
「ふふ、なら遠慮なく」
「乾杯♪」
 朔とアグネスがコップを交わして、アグネスはそのまま次の場所へ。
「さあ、じゃあ決まりだ。獅琅も観念して飲みなよー」
 どう言う決まりなのか。しかしながらなぜか断れず皆の言うままに、注がれたカップを空けてゆく。
 がこの酒…実はとても度数が高かった。見た目はラベルの張替えで低くなっているが、実際のところは今の倍位あったりする。
「あら、本当に美味しいお酒ね。食が進むわ」
 料理を摘みながら朔が言う。
「やぁやぁ、ここは盛り上がっているでござるなぁ。拙者もご一緒して良いでござろうか?」
 そこに亞厳が登場。この頃には皆かなり出来上がり始めている。
「もう、無理。本当勘弁してください…! 俺、酔ってる時どうなってるか、本当に自分でわからないんですから…」
 最悪の事態は避けたいと必死の抵抗。顔を真っ赤にしつつ、しかし彼の願いは叶わない。
「あ、亞厳さん。いい所に来たねぇ〜今日は色々なこと忘れて騒ごうってことになってるんだぁ。だから、駆け付け一杯だよ。ほら、獅琅も早く!!」
 とくとくと注がれる新たな酒――その様子に朔もくすりと笑う。
「あ、観羅は飲んじゃダメ……ってああ」
 そこではっと連れて来ていた管狐の事を思い出した香澄であったが、時すでに遅し。
 酒の匂いをさせてのぺーとその場にへたった相棒発見。そんな観羅をぎゅっと掴んで、突如獅琅が豹変した。
「あれぇ〜、香澄さん小さくなりましたねぇ〜。可愛いなぁ〜v あ、朔さん、お行儀いい♪ 毛並みがいいんですね〜〜」
 観羅と和を相手ににへにへした様で話し出す。
「あや、少し呑ませ過ぎたかな?」
 これには香澄も少し反省。けれど、やってしまったものはもう遅い。
「あれ、こっちにも香澄さんだぁ。お肉、俺、お肉がもっと食べたいんですよぉ〜〜もっと取って来てくれません?」
 彼女の足にしがみ付く形で…これでは取りに行こうにも行かせて貰えない。
「ええ〜と、ちょっとぉ〜」
「いいわ、私が行ってくるから」
 逃げられない香澄の代わりに朔が動く。だが、
「逃げるのは卑怯というもの…拙者…まだまだいけるでごじゃるよ…ヒック。だから、つきあわなきゃめーでごしゃるぅ」
 亞厳、いつの間に飲んだのか。気付けば酒瓶を三本程空にして朔に絡む。
「わー、これは覚悟しないとね」
「そのようですね」
 仕掛けたとはいえ、女子二名。この後が大変そうである。
 

 時は過ぎて――
 静かな場所まで足を延ばし二人水入らずといった雰囲気でゆっくり食事を楽しむのは佐上久野都(ia0826)と鳳・陽媛(ia0920)だ。苗字は違うが、二人は義兄妹で…今日は兄、久野都の誕生日祝いも兼ねてここにやってきた次第だ。
 事前に器具の運搬や果物を川で冷やして差し入れをしていたから、彼らの出番は今はない。
 ただこの時間を楽しむまでだ。地面は茣蓙を引いて、蚊取り豚を用意したのは兄の方。なかなかここまで気が付く者はいない。そんな彼に陽媛は恋をしているが、互いにその事は言葉にせず今の平穏を大事にしている。
「おいしいですね」
 兄とのお出かけ。留守番中の妹には悪いなと思いつつ、はしゃがずにはいられない。
「そうだね。山菜の種類も多いし、獲れたての様だから絶品だ」
 そう言い、久野都が笑顔を返す。
「あの、お兄さん」
 そこで彼女が言葉を区切った。それに彼は軽く首を傾ける。
「あの…お誕生日おめでとうございます」
 そんな彼に彼女は精一杯の笑顔で言葉を贈る。物は用意していないけれど、この時間が彼女からのプレゼントだ。
「陽媛、ありがとう。陽媛も月夜に健やかに…佳き縁がある様に」
 それに応えて彼の言葉。佳き縁と……やはり、彼女の想いは届かないのか。
 僅かに瞼が揺れた様だったが、暗くなり始めた辺りにその動きはかき消される。
 が、そこに淡い光……少し早い蛍の姿。それに合わせて彼は夜光虫をそっと忍ばせる。
 それに妹は目を捕らわれていた。その隙に彼は野の花を一つ摘み取り、そっと髪に差し込む。
「兄さん?」
「可愛いよ」
 蛍が二人を照らしていた。互いの気持ちは多分判り合っている。
 それでも…もう一度話をしないといけないのかもしれないと久野都はそう思う。

 時は無限ではなくて、楽しい時間はあっという間だ。今日と言う日ももう後少し…けれど、思い出は残る。
 肉はようやく姿を消したけれど、開拓者の糧となって…きっと新たな力を生み出す事だろう。