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■オープニング本文 【注意】 こちらのシナリオにはてかてか黒いあの害虫と灰色の綿帽子的菌が登場します。 生理的に受け付けないという方は即座に『戻る』事をお勧めします。 ●雨のもたらすもの 恵みの雨――雨はそう称される事がある。 降り過ぎれば害を及ぼす場合もあるが、一般的に雨は作物にとって良いものだ。 しかし、飲食店を経営する者にとっては些か困った状況をもたらす。 まず一つ目は客足を遠のかせる。傘を差してまで食べに行こうという者は極稀だ。 出先で仕方がない場合を除いてはなかなかに人を呼び寄せるのは至難の業である。 そしてもう一つは…、 「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ、なんでまた発生してんだよぉぉ!!!」 「くぅっ…まだいたか、この悪魔共めッ!!」 ●神出鬼没 ここはある街の飲食店街―― 向かい合わせに建てられた店から同時に悲鳴が上がる。 一方は火力重視のスタミナメニューを得意とする炎(エン)の店。 もう一方は繊細料理でお客を魅了する乾(ケン)の店である。 両店はこの飲食店街では有名な料理屋だった。 事あるごとに二人が競い、味のレベルは低下することなく新メニューが投入される。 であるからして、自動的にお客を飽きさせないのだ。 しかし、今季彼らにピンチが訪れる。 「ちょっ、これ。でかくないですか……明らかに変ですよぉ〜」 乾の店の店員が黒光りするそれを見つめて言う。 「大きいとか小さいとかいう問題ではない! これがいる時点で問題なのだ!!」 とこれは乾。いつもは沈着冷静であるが、今日ばかりはそう言ってはいられない。 額を流れる脂汗、料理人としては避けて通れないこの虫との遭遇。 しかし、彼は数日前もこれと対峙していた。そして、彼特製の殺虫団子を使用し、巣ごと全滅に追いやった筈なのである。 「何という事だ…私の団子が効かなかったとでもいうのかっ!?」 効果と配合は完璧な筈だった。それにわざわざ団子に糸をつけて、巣を辿り二度と現れない様死亡確認ののち、埋立てまでしたのだ。生きている筈がない。なのに、奴らはこちらを見上げている。 そこは貯蔵庫…厨房のすぐ隣に併設されたそこで奴らは大事な食材を貪るつもりらしい。 「くそっ、今度こそ抹消…ってぬわぁぁぁ!」 「て、店長!!」 奴が飛んだ。乾の顔を目掛けて――そして、視界が塞がれ、その後は容易に想像できるであろう。 そして、炎の元には新たな来客。この商店街の組合長である。 「おいおい、炎……これはどうかと思うぞ」 言葉とは裏腹に、何処か楽しげな表情もちらつかせながら彼は言う。 「また、よりにもよってこんな時に…」 ぐぬぬと奥歯を噛むのは炎だ。 裏口から入ってきた組合長の視線が捉えたのは陰に蔓延る埃の様な存在――。 そう、カビだ。厨房の水瓶の裏にびっしりと根を張っている。 「俺は確かに昨日駆除したんだ! ちょっと出来かかってたからなっ! なのに、どうして」 本来ならば火力重視のこの店ならばカビ自体あまり寄せ付けない。 しかし、時期も時期とあって、逆に変に空気が暖められてこうなる事もある。 そこで彼もまたこの時期のカビには重々気を付けていたのだ。 「炎さん、これすごいスピードで広がってませんか…?」 店員の一人が蠢く様に拡大していくそれを見て口を押えたまま言う。 「んなばかなっ、相手はただの……ってごほっ、ごほっ!」 炎が咳き込む。大口で喋る彼に胞子が飛んで気管にでも入ったのかもしれない。 「ふむ…これはもしや、一大事かもしれんな」 ●組合長命令 そして翌日、炎と乾は町医者にかかる事となる。 「害虫と菌にやられたとはいえ、ここまで体力が落ちるのは稀ですねぇ…」 主治医の医者が事情を把握しに付き添った組合長に告げる。 「となるとやはり考えられるのは…瘴気か、はたまたアヤカシか。どちらにしても早く対処せねば」 稼ぎ頭のツートップの店が臨時休業となれば客足はますます遠のいてしまう。 それだけでもまずいが、もし別の店にも飛び火してはそれ所ではない。 「よし、二人共この件については私に任せて貰う。店の鍵をよこせ」 「でえぇ!!」 突然言い出した組合長に炎は掠れた声で叫び、乾は頭を抱える。 「敵は店にありだ! 今ならば袋のネズミ…しかも、普通じゃないときている。意味は分かるな?」 だから自分に任せろと。しかし、彼はただの組合長だ。志体持ちではない。 「さぁ早く! 悪い様にはしないから私を信じろ!」 ぐっと拳を握って僅かに怪しく光る瞳が不気味であるが、彼の言葉は絶対命令。 この人、心の底で楽しんでいるのではと思いつつ、二人は彼に鍵を預ける他ないのであった。 |
■参加者一覧
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●Gへの耐性 ごくりと息を呑む音がやけに静かな店内に木霊する。 G確認の報告を受けてから閉ざされたままの店内へと足を踏み入れるのは定員満了の計六名。 そしてその中で奴らに対する耐性がある者は三名。その名をNINJAを目指す一族の一人、叢雲・暁(ia5363)。 彼女の口からは出発前にこんな発言が飛び出している。 「へぇ、大量発生か〜〜。『神の怒り』と呼ばれる奴じゃないだけマシだろうね〜〜」 あの害虫をものともしない発言だ。その異名を持つものがこの世界にいるのかは謎であるが、彼女から見ればたかが虫である。そう思っているのは彼女だけではない。リンスガルト・ギーベリ(ib5184)…通称・リンスもまたこの手の虫に強気な態度を示す。 「ゴキブリなぞ妾が皆潰してくれようぞ」 ジルベリアにはGがいないと言う。 だからなのか、はたまた彼女の性格が完全に奴らを凌駕しているのか笑みさえ浮かべて彼女は余裕だ。 「本当、ごきちゃんかー。なぜ伏字にしなければいけないほど苦手な人がいるのか不思議なんだけど、ねぇ」 そうしてもう一人、さらっとそう言い切ったのは戸隠董(ib9794)だ。 別に害虫という認識はしているがそれ以上でもそれ以下でもなく、さして怖いとは思わない。 「な、なんでそんなに冷静なのだっ!」 が、勿論ここには嫌いな者も存在した。目の敵とばかりにぐるると唸りを上げて威嚇体勢なのは草薙早矢(ic0072)だ。 やっとの思いで伴侶を見つけ、苗字を改名。妻となった以上、台所を預かる身としてはあの存在は捨て置きならない。 「絶対に滅すべし。あれに慈悲はいらない」 そう言い切って、行く前から凄い形相だ。 「そうだよね。みつけたら一匹残らずこの世から抹消しないといけないんだよ!」 その隣では打倒地獄の使者を掲げて燃える蓮神音(ib2662)の姿がある。 彼女もまた台所を預かる立場であり、G=最大の宿敵といっても過言ではない。 「あ〜、嫌だねぇ…本当に。なんでこの依頼、受けたんだろう…」 そんな中、唯一の男性・不破颯(ib0495)が静かに呟く。 自分的には生理的に苦手だった筈だ。なのに気づけばここにいる。 面倒事には関わらないつもりであったのだが、ひとまず二種類のハリセンを用意している彼である。 「まずは作戦をたてないと。敵は小型で複数…しかもとぶ。お店の事もあるし、取り逃がしは避けたいね」 董が組合長から受け取った大まかな店内地図を開き言う。 「ならば目張りをするのがよいのじゃ。そうすれば袋のネズミ…一匹たりとも逃がしはせん」 とこれはリンス。 「とは言っても、目張り=私達の逃げ場もなくなるんじゃあ…」 あのおぞましい生き物と一緒の空間にいるなんて…早矢としては考えたくもない。 「だが、そんな事を言っていては殲滅等無理じゃ! 己が自ら火に飛び込む覚悟がなければ勝利等ありえんっ!!」 「は、はいぃぃ!」 凄みをきかせたリンスのその言葉に彼女は思わず立ち上がり敬礼する。 「そうは言っても只の肉弾戦じゃあキリがないよね〜。だから、石鹸水を用意してみたよ」 暁はそう言って石鹸水入りの水鉄砲を取り出した。どうやらこれで牽制して進むらしい。 「あたしはとりもち…これがあれば足止めと牽制の両方が出来るしね」 とこれは董だ。リンスも同様に強力なとりもちを用意しているようだ。 「とりあえずこれを板に着けて盾にしながら店内に侵入。敵を動向を見て戦闘開始じゃ。おっとその前にこれも有効かものぅ」 リンスはそう言って玉葱を取り出す。 「え、それって…」 「餌じゃな。こういう匂いに奴らはつられると聞く。ふふふ、見ておれよぉ、ゴキブリ共」 八重歯をきらりと光らせて、彼女が言う。 「ははは〜、何だか凄いねぇ…」 その様子に颯は圧倒されていた。女というのは時として男の上の上を行くものだ。 「のう、汝。男じゃし、一つ頼まれてくれぬか?」 がそこに声がかかって、出来れば傍観したかった彼であるがそうは問屋が卸さない。 「えと、何をすればいいのかねぇ?」 「それは勿論、切り込み隊長じゃ!」 ●Gの秘密 裏口からの突入となった。扉を開くが、中は静かなものだ。 しかし、逆に言えばこの静かさがおっかない。奴は少しの隙間に身を隠し、こちらの隙を狙っている筈だ。 玉葱付とりもち板を構えながら、颯はゆっくりと進む。 (「ひえぇ〜〜、どうかドッキリ出現はありません様に…」) 半ば祈る様に、後方についてくる仲間達の足音が何処か心強い。 ぱたん 戸が閉められた。もうここは密室と言っていい。 あの害虫と一緒の密室……とてもじゃないが、正気の沙汰ではない。 ゴゴゴゴゴーーー 問題の貯蔵庫の扉から感じる言い知れぬ威圧感――やはりここに奴はいる様だった。 まずは侵入の際に使ったとりもち板を構えたまま待機。店内に罠を施す。逃走予防の目張りに複数のとりもち板の設置を終える頃には、いい具合に玉葱臭が充満し、時を待つ。 暁が水鉄砲を構えていた。神音はいつでも荒鷹陣の構えが出来る様、準備中だ。董の手には小さいとりもち板、リンスは棒を持参している。そうして、自分はハリセン。しかし、向こうも気配を察知しているのかなかなか姿を現さない。 (「普通と違うらしいし、アヤカシ化してるのかな…だったら、普通の仕掛けは意味がないかも…?」) 神音が心中で思う。そこで彼女は率先して動く事にした。 貯蔵庫の扉に歩み寄り、なんと扉を開こうというのだ。 「き、気を付けろ…」 何故か弓を構えたままの早矢が小声で彼女に忠告する。 それにこくりと頷いて、彼女は手をかける。キィと軋む音がした。そして次の瞬間、 バサバサバサッ 耳に届いたのは複数の羽音、開いた隙間からGが飛び出してくる。数は思った程ではない。 しかし、かなりデカい。子供の草鞋程はあるだろうか。 「出たな、害虫! 覚悟す」 べちょっ 神音の口上等知る由もなく、Gの先制。嫌な音がして、時が止まった様に静かになる。 そして、自然と視線を音の方に向けて、視界に入ったのは荒鷹陣を構えようとした神音の額に張り付いたGの姿――。 神音の顔色がみるみる変わり、見える筈のない魂が抜けていくビジョンが仲間の脳裏に浮かぶ。その間に飛び出してきた別のGは右へ左へ。とりもちにかかる奴もいるが、隙間を目指して走り抜けまた陰へと身を隠す。 「汝、動くでないぞ」 固まったままの神音を見かねて、リンスが言う。そろりそろりと奴に気付かれ無い様に慎重に近付く。 触角が忙しなく動いていた。それはまるでこちらを窺っている様でもある。 「え、ちょっともしかして…」 「ふっふっふっ、待っておれよ…」 嬉々とした無邪気な笑顔でリンスが神音のGへと手を伸ばした。 そしてぐわしっと引っ掴むと、そのまま握力を込めて…。 グチョリ 「うわぁ〜〜〜…」 生々しい音――それと同時にうっすらと黒い霧が立ち上り、手に残ったのは無残な死骸。 「ふむ、成程のう」 それを冷静に見やり、彼女はここのGを理解する。 「何てことだ。たった数日の間にあんなに大きくなった原因はそう言う事か!?」 リンスの手に残ったものの質量はさっきの比ではない。 つまりは死龍同様、奴らは瘴気の影響を受け偽りの生を受け姿を大きくし、活動しているという事になる。 「そうと判れば話は早い。どうも物理も効く様だし」 遠慮はいらないと颯は思う。 「……そ、そんなの、どっちでもいいん、だよ…」 三途の川が近い。ふらりと身体を揺らし、おぼつか無い足取りで神音が言う。 とそこへ新手が足元を走って――彼女の意識は急速に舞い戻り、 「こ、こんな所でG如きに負けてたら女がすたるんだよ―――!!」 彼女が切れた。阿修羅の如く憤怒し、さっきやり損ねた荒鷹陣を展開する。 その効果は絶大で地を這うGがびくりと一瞬後退った程だ。 「今じゃ、皆心してかかれー!」 『ラジャ―!』 敵の数は圧倒的に多い。けれど、個体が通常より大きくなっているのが奴らの過ちだ。 「気持ち悪いし、さっさと殲滅してしまおう」 武器と玩具、両方のハリセンを振り回し颯が言う。 [はっ、ちょ、速い! 狙いが、定まらないっ!」 そう言ってオロオロするのは早矢だ。武器が弓であるから当然と言えば当然だ。 「トリモチについたのを狙って!」 董の言葉に彼女ははっとした。 付いたものであれば百発百中も夢ではない。カウンターに上がり板の奴に止めを刺していく。 一方暁は、 「ほらほらー、油には油ってね。そして、これで止めを刺してやんよっ」 水鉄砲で牽制した後、手頃なフライ返しを使い叩き付ける。 しかし、Gとてただやられているだけではない。ここは狭い店内…開拓者らは否応なしでも動きを制限されるのを知っているのかクロスする様に駆けてみたりと、本能的な立ち周りを見せているのだった。 ●Gより最強 ゴキブリとはなかなかに素早い。どうしてそれが可能かと言えば、お尻の部分に尾肢という毛があるからだ。 この尾肢が空気の流れや振動を察知して、人が動くより先に行動を取るのだという。 アヤカシと化した奴らもその特性は変わっていない様で寸での所で逃げる奴も多い。 「くっ、この程度の恐怖に屈するものか!」 フライ返しを手にひゅんひゅんするも風が先に攻撃を知らせ、暁の前のGが高速回避を繰り返す。 「おっと、うわっ! 飛ぶな、こら!!」 とその横では颯の横を一匹のGがすり抜けて、目で追う颯の背後には暁の姿。 場所はカウンターと調理場の狭間で二人がすり抜けるのがやっとのスペースだが、急には無理だ。 「ぬおぉぉ!」 思わず足がもつれて、転倒した先には仕掛けたとりもち。 「大丈夫?」 慌てて駆け付けた董であるが、颯の髪が完璧にトリモチにとられて…これはもう災難としか言い様がない。 「あはははは…こうなったらこの板のまま」 やるしかない。とりもちにつくGが増えれば増えるほど気分は急降下するだろうが、殲滅できないよりはましだ。 一方、神音も彼と同様に気分を害しながらも、その怒りを倍返しにしながら個体撃破に努めていた。 「お前はもう死んでいるんだよ!」 使っているのは暗頸掌と極神点穴…しかし、この技。敵と密着しなければいけない訳で否応なしでも奴らに触れなければらない。従って、彼女は自らGに触れるという苦行をこなしている訳だ。 「よくぞ、それを選んだのじゃ! それでこそ真の泰拳士!! 妾も負けてはおれんのじゃ」 そんな中、一人リンスは楽しげだ。己が戦布にとりもちをつけて、自らが虫取りテープの役目を果たし捕獲する。 そんな彼女にGも一匹では敵わないと理解したらしい。奴らも連携を見せる。 彼女を取り囲む様に隙間から時を窺って、一斉に跳びかかる。 「危ないっ!」 弓から草履に持ち替えて、数の暴力に必死に耐えながら駆除していた早矢が叫ぶ。けれど、実に及ばず。 「甘いのじゃ!!」 リンスは八極天陣でそれを察知し身を翻すと、 『おおっーー!!』 思わず仲間から声が上がった。 彼女はその場でくるくると回転して、四方八方から来るGを見事に戦布に巻き付け一網打尽にして見せたのだ。 「何のこれしき…実に大漁じゃの♪」 リンスは優雅に笑って、引っ付いたG共を布ごと踏み潰す。 それにはまだ捕獲されていないGもたじろいで――そして、理解したらしかった。 『これは勝てない…』と――。 そこで次にとったのは逃走の構え。隙間と言う隙間に逃げ込もうと蜘蛛の子を散らすが如く、一斉に動き回る。 「わっ、ちょっ、ちょっとっ!」 かさかさと足元を這うG達。転倒すれば奴を殺る事は出来るが服も汚れる。できればそれを回避したい開拓者である。 「面倒なんだよっ!」 そこで再び神音が荒鷹陣を発動し、動きの抑制にかかる。が、彼らも必死。 けれど、先手必勝で室内の目張りがここで効果を発揮する。 「ふぅ、隠れても無駄なんだから」 董がとりもち板を前に貯蔵庫の裏に忍び寄る。 「これが効くかもしれん」 そう言って早矢が手渡したのは石灰だった。周りにさらさらと落とす。すると、その匂いなのか成分なのかは判らないが、Gは嫌がり顔を出す。そこを董が無縁塚で仕留めて……攻防はたったの一時間弱であったが、体感的には倍以上に感じられるものだった。その後貯蔵庫の隙間もくまなくチェックして、後に残っているのは死骸の山。 「も、燃やそう…こんなもの、見ていたくない…」 ギンギンに充血した瞳で山と積まれたそれに早矢がマッチを擦る。 「ちょっ、ここは駄目だよ…万一、燃え広がったらまずいから外に出さないと…」 油ギッシュであるから香ばしい匂いがすると言うが、とてもいい香りと言えるものでもない。 それに火葬には訳がある。Gの死骸を残すとまた別のGが己の糧としてしまう可能性がある為だ。 亡骸が形を留めなくなったのを確認し、彼らは再び店の中へ入る。 「さぁ、これからが大変ね。飲食店だもの、徹底的にお掃除しないと」 董の言葉。幸い、今日は雨が降りそうにない。そこで椅子や調理器具、冷蔵庫等一式を外へと運んで奴の卵はないか、そして食い散らかされた食材の処理と片付けを担当する。 「もう、あれは当分見たくないねぇ〜」 颯の言葉に皆が苦笑交じりに頷くが、ただ一人リンスだけは、 「別に構わんぞ! またでればまた殲滅する…それだけのことじゃ!」 G殲滅隊の活躍により乾の店は落ち着きを取り戻した。 医院から帰った乾は以前以上に綺麗になった店内に目を丸くする。 ここであれとの死闘が行われたとは思えなかったからだ。 「有難う。私の駆除剤ももう少し改良した方が言い様だな…柑橘をもっと足してみようと思う」 調理場に立ち、駆除に参加した開拓者に料理を振舞いながら乾が言う。 「あれって柑橘嫌いなの?」 出来立ての親子丼を頬張りながら、これは神音だ。 実は彼の料理が食べたいが為に頑張ったと言っても過言ではない。 「ああ、きつい匂いが苦手らしい。香草の類いも効果があると聞いている」 「へ〜。と、この親子丼も柚子皮がきいて美味しいです」 董が言う。爽やかさとアレンジの為に入れたそれが絶妙で…確かに繊細の乾の名は偽りではないらしい。 「ふむ、そうだな。今年の夏は香りものでいってみるとしよう。そうすればもう奴らも寄り付かないだろう」 但し、何処かに残党がいれば他の店に移るかもしれないが……開拓者の目が確かならばそれはないだろう。 「うん、そうするといいんだよ。それとおかわりっ♪」 神音が言う。乾の店は救われた。だが、まだ炎の店が残っている。 GK殲滅の戦いはここからK編へと引き継がれるのだった。 |