御伽話で御手前拝見
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/20 00:10



■オープニング本文

 六月、それは梅雨の季節である。
 雨が降る事が多くなる地域ではやはり人足と言うのは遠ざかっていく。
 そして新たに始まる合戦の動きに皆が緊張と不安を抱く。そんな折だからこそ、菊柾は思う。
(「北面の事件が終わってからこっち、貴族と民の仲は多少緩和したが…まだまだだなあ」)
 身分の差と言うのはそう簡単に拭えない。表面上は過剰にえらそぶる貴族はいなくなったが、隔たりはまだある。
(「こういう時はやはり何か開くのが一番だが…それ程大がかりなものはできんしどうしたものか?」)
 出来ればあまり金はかけたくないし、民から参加費を取るのはもっての外だ。
 限られた菊柾の資金で何が出来るか? そこでふと思い出したのはある書物に乗っていた大茶会の光景だ。
 お茶であれば価格に差がある。高級なものになれば別であるが、比較的安いものも多いし手軽に楽しめる筈だ。
「お菓子も出せば子供も来てくれるかもしれんが、少しインパクトに欠けるな」
 茶を出し、お菓子を出すだけならばただの茶屋と変わらない。ただとはいえ、もう一押ししたい所だ。
 思案する彼の机には多くの書類が積まれていた。
 その半数は北面内部に関係するものだが、一部には巷で人気の瓦版の類いも混じっていたりする。
「そういえば町の絵師達が何か始めていたな」
 そんな瓦版に目をつけて――そこには一大ニュースの他に、求人広告やら商品広告等がたまに載っている。
「何なに…『御伽話、昔話の主人公になってみませんか?』か…、成程考えたな」
 普通に描いて貰うだけに飽きた人の為にこんなサービスを始めたとは。彼らの発想に感心する菊柾である。
「ふむ、御伽話か…これはなかなかに使えるかもしれん」
 提供するお茶にテーマ性を持たせて、それを提供する。
 例えば桃太郎――あれであれば、緑茶にきびだんごといった所だろう。作り手もそれ風の恰好をして貰うのも悪くない。
 それに何も緑茶に限る事はない。異国では紅茶を昼下がりに嗜むというし、珍しさは客を誘う。
「ふむ、これはなかなかに面白くなりそうだな」
 菊柾はそう思い、早速ギルドへと足を向ける。
 度々顔を出すものだから彼もそろそろ職員に顔を覚えられ始めているようだ。
「おや、菊柾殿。どうされましたか?」
 彼を見つけて、手空きの職員が声をかける。
「おぉ、丁度よかった。今、人を探していてな。茶を点てられるものはいるだろうか?」
「は?」
 唐突に聞かれて、ギルド職員が呆気にとられる。
「近々茶会を開く予定なのだ。それで腕に自信のある者を募って欲しい…できれば、茶菓子も自前出来る者を頼む」
 合戦直前のこの時期になんとも平和な依頼だ。拍子抜けしつつも早速書類を作成し始める。
「後、都にも開催の告知をしておいてくれ。やったはいいが、誰も来なかったら困るしな」
「はい、判りました」
 かなり丸投げな感じであるが、それでもやる事に意義がある。
「さあて、じゃあ俺は場所を確保に行くかな…」
 ぐ〜〜と腕を伸ばして菊柾が呟く。
 忙しい筈の身でありながらも、彼はとてもアクティブだった。


■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●un
「妾は貴族出身ゆえ、こういう事は慣れておる。万事妾に任せるがよい」
 金髪の髪を優雅に靡かせてリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が言う。
 ここは菊柾がおさえた茶会会場――庭に紫陽花が咲く、畳敷きの大広間を持つ大きな屋敷だ。
「ふふふ、そうだね。ボクの可愛い子猫ちゃん達が集まっているのだから、きっととびきりいいものになるよ」
 そう言い柔らかく微笑むのはフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。リンスガルドの叔母に当たる人物である。
「あのさぁ、その子猫ちゃんってのやめてくれねーか? こそばゆい気分になるんだけど」
 とこれはナキ=シャラーラ(ib7034)。彼女は二人を知っているらしい。
「あの…お久し振りです。いつぞやは有難う御座いました…」
 そこへもう一人、遅れ気味に入ってきたのはサライ(ic1447)だった。こちらもどうやら面識があるようだ。
「おお、汝も来たか。まあ、座るがよい」
「はい、ではお言葉に甘えて…」
 リンスの言葉にサライが従う。話を聞けば彼の危ない所をリンスが助けたという事だ。
「へえ、きみ…男の子なんだ。こんなに美しいのに」
 少し残念気に呟くフランにナキとリンスの痛い視線が突き刺さる。
「あの…すみません…」
 それにつられて、サライの謝罪。
「いや、気にすることはないのじゃ。このフランヴェルは少々…いや、稀代の変態だからの」
「えと、そうなのですか?」
 ちらりと彼女を見て問う。
「もう、リンスったら…そこまではっきり言う事は…」
「いや、そうだぜ。だから気を付けた方がいい…新しい分野を開拓してしまうかもしんねー」
 きっぱり二人からそう言われて苦笑するフラン。彼女自身も自覚はあるのだが、やめるつもりはもうとうない。
「いや、何はともあれ個性派が揃ったな。皆知人であるならやり易かろう。此度はよろしく頼むぞ」
 菊柾が言う。そうして四人が持ち寄ったアイデアを聞いて、
「という事は二部に分けるのがよかろうな。子供達の活動時間を考えると午前にこの二つを頼む」
 折角考えられたアイデアだ。無駄にならぬ様策を講じる。
「判りました。では、僕とナキさん。リンスさんとフランヴェ…」
「『フラン』でいいよ、子猫ちゃん」
「ではフランさんで。あの、よろしくお願います」
 サライが改めてぺこりと頭を下げる。
「なら前々日からお菓子の準備を始めて、当日はこの寸劇と給仕に専念しようか? 誰か異論は?」
「ねーぜ。楽しいお茶会にしようや…あ、その前に味見はさせて貰えんのかい?」
 折角作るならば自分らも食べたいとナキが問う。
「もちろんさっ。数をたくさん作れば問題ないし、ボクらも楽しまないと意味がない。そうだろう?」
「ですね」
「では、楽しいお茶会にするのじゃ♪」
『おー!』
 四人の心が重なる。その様子に菊柾は既にこの茶会の成功を確信していた。


●deux
 当日の天気は生憎の曇り空――
 とはいえ会場には菊柾が呼びかけたのか、貴族も含めて多くの者がつめかけている。
 そこで急遽空きの志士らが手伝いに駆り出されて、
「よいか? この様に餡を挟んで円盤型にして出すのじゃ」
 少しでも調理の心得がある者はお菓子作りに追われてんやわんや。作り置きがあっという間に消えてゆくのだから仕方がない。白のビキニボトムに腹掛『金時』をつけて、金太郎に扮したリンスに指導を受ける。
「あー、甘い匂いがする―」
 そんな匂いを嗅ぎ付けて、子供らは厨房を覗いていたり。
「おいおい、ここは立入禁止だぜ? もうすぐいいもんが見れるから広間に戻りな」
 子供達と同じ様な衣装を着たナキが言う。その後には、
「そうなのじゃ。妾のとっておきの芝居をとくと見るがよいのじゃ♪」
 とリンスが続いて、後はアイコンタクト。これから第一部の幕開けである。

「ぐおおぉ! 熊さんだぞ――!!」

 広間の奥に設営された舞台。そこに突如現れた着ぐるみ熊のフランが叫ぶ。
 これが彼女らの持ち込み企画だ。人の気を惹くには寸劇に限ると、まず始めたのはこちらではお馴染みの少年の物語。
「やいやいやいっ、そこの熊よ。妾が相手になってやるぞ! さぁ、こいなのじゃ!!」
 そこへリンス金太郎が登場。会場を駆けて舞台に上がる。
「何おぅ、小童が。熊のボクに勝てるものかぁ」
 そうして始まる二人のやり取り。ぐおおっと両手を上げてフランがリンスを威嚇すれば、
「子供だ思って甘く見るでないのじゃ。妾の名は金太郎! 弱いと思うならばかかってくるのじゃ」
 と彼女も負けてはいない。胸の金時の文字を突き出しお互い一歩も譲らない。
 そして二人は組み合うと、

「のこったー、のこった―!」

 右へ左へ――舞台を広く使っての両者の攻防。甘い香りにつられていた子供達の瞳は、今や舞台の二人へと注がれているし、大人達もそんな子供達を見守る様に、そのパフォーマンスを微笑ましく見つめている。

「がんばれー!」
「負けるなー」

 そんな声援が飛ぶと、演じる二人も次第と楽しくなる。
(「こんな舞台ならずってやってもいい…うふふ、うふふふふ」)
 フランの脳裏を埋める正直な思い。だが次の瞬間、

 どぉおおおん

「アバーーッ!」

 リンスの拳が熊の胸を貫き、演技とは思えない威力でフランが吹っ飛んだ。
「どうじゃ、妾の力思い知ったかー!」
 リンスの勝利宣言。実はさっきのそれはスキルの力を借りていたりするのだが、観客はそれに盛大な拍手を送る。
 そして、その間に一旦舞台袖にはけた二人は次の行動へ。
「大丈夫かの?」
「あはは…問題ないよ。えと、次はリンスを背負うんだったね」
 手加減はされていたのだろうが若干苦しそうに言いつつ、フランが四つん這いになる。そしてリンスが跨ると四足歩行で歩いてあのシーンの再現に入る。
「まーさかりかーついだきーんたろう♪ くーまに跨りおーうまのけいこ、ってん?」
「ハァハァ」
 見せ場とばかりに声を張り上げ歌っていたリンスであるが、ふと気づけば下が騒がしい。
(「むむ、何やら…息遣いが…ん、少しやり過ぎたかの?」)
 やけに息が荒い様であるが、今は気にしている場合ではない。
「さて諸君っ! 食べれば力溢れる金太郎印の金鰐焼きじゃ、一つ緑茶とご賞味あれ!」
 熊の上に立ち言う。子供達は元気よく返事を返し、金鰐焼きの方に殺到する。
「フランよ、見えておるか? 掴みはサイコ―…」

   ガクッ

 何はともあれ、万事問題なし?


 一方では既に次の仕込みが開始されている。
 裸にマント姿のサライが頭には冠をつけて、恥ずかしげもなく会場をうろついているのだ。
「ねぇねぇ、あの人裸だよぉ」
 不思議に思ったのだろうあちこちで囁かれる疑問の声。それを耳にしながらも彼は御付の者を従えて、スコーンと紅茶を運ぶ。彼、特製のスコーンには乾燥させた果物やチョコを練り込んでいた。であるから子供達の興味をそそっているのだが、近寄り難かった。当然だ、彼は裸なのだから――。

「どうだ、皆の者。余の服装に声も出ぬか…」

 役に成り切りサライが言う。
「余の新しい服はこれほどまでに豪華であるから仕方なかろう」
 そう言い満足げな王。しかしどうみてもやはり裸だ。
「くくく、馬鹿な王様。我らの嘘とも知らないで…」
 そんな折、舞台では詐欺師に扮した臨時志士が言葉する。
 そう、これは裸の王様――新し物好きの王が騙されてしまう滑稽なお話だ。

「やあやあ、諸君。余は王様であるぞー!! 余の服を褒めた者には菓子を使わすぞ、思う存分褒めるがよい!」

 サライがそう言い、胸を張る。

(「褒めるって言っても何もないし」)

 皆の心の声――会場がざわつき、幾分か静かになる。そこへ、

「よく言うぜ。どう見ても裸じゃねーか!」

 と正直少年役のナキが登場。ズバリ指摘し、ぐむむと王が口籠る。
「なにおぅ、悪ガキが。余を罵倒するのかぁ、であらばこれはやらぬぞ!」
 色とりどりのスコーンを前に彼が言う。
「そんな事言ったってウソは泥棒の始まりだぜ! さては王様も偽もんだな!」
 びしぃぃと指差されてサライ困惑。
「あの人たちに騙されてるんだよー」
 そこで会場の誰かが言った。素直な子だったのだろう。舞台の詐欺師に焦点が集まる。

「な、なんと! やはりそうだったか…騙されておったとは恥ずかしいいい! …有難う、坊や」

 それに合わせてサライが子供を撫で、詐欺師役をひっ捕らえさせ終幕へ。
「素直な子よ、本当に有難う。余はどうかしていた…まずはお茶で一息」
 そう言って運んで来ていた紅茶にぽとりと透明な液体を落とす。するとみるみる紅茶が色を変えて、
「おお、お茶も余と一緒に紅くなりおった! うむ、これは美味い! 皆も飲むがよいぞ!!」
 と振舞い始めて、こちらも大盛況。さっき垂らしたのはレモン果汁であるが、そんな事よりも気になっていたお菓子を手に出来た子供達は嬉しげだ。
「王様のおごりだ! じゃんじゃん食えよー!」
 ナキがその横で盛大に煽って、前半戦は上々の様だった。


●trois
 時は夕方――会場を一旦閉めて夜仕様へと変更する。
 畳の上に板を敷いて、その上にはテーブルを。さっきまでの座敷といった面影はほとんどなく、雰囲気は立食パーティーといった感じで四人の服装もがらりチェンジ。
「あうぅ、視線が痛いのですが…」
 バラージドレスに着替えて、シルクのベールを被ったサライがじっと自分を見つめるフランの視線に動揺する。
「あぁもう、シッシッ。あたしのパートナーを怯えさすなよ」
 とこれはナキだ。彼をかばう様にアル=カマル風の男装で彼女を追い払う。
「あの、ナキさん。お似合いですよ。その衣装…」
 それは魔法のランプが出てくる話の青年の衣装を模したものだ。元々彼女は男勝りであるし、出身があちらとあって確かによく似合っている。
「へへ、そうかい。まあ、こういうのは楽しんだもん勝ちだしな」
 そう言って彼女は長い髪を後ろで縛り、ターバンの中に隠す。そうして、いよいよ第二部の始まりだ。
 お客を中へと通して、照明を一段落とす。そうして始まるは二つの姫の物語。
「あぁ、もっと広い世界を見てみたい…」
 サライが願う様に舞台に出て、儚げに呟く。姫である事から城からは出られず、出たとしても護衛が傍を離れない。となれば、自由等あって無い様なものだ。これほど広い砂の地に住まう者であるのに、彼女の目にする世界は狭い。

 カッ

 とそこで照明は舞台とは反対側の入り口付近へと切り替わり、そちらには絨毯に乗った一人の青年――。
 彼は自由であるが、金はない。けれど、彼は手に入れた。
「このランプがあれば何もかも思いのままさ。さぁ、ランプの魔人よ、この絨毯を空飛ぶ絨毯にしておくれ」
 ナキのセリフと同時にもくもくとランプからは煙が上がり、目の前の絨毯を伝う。そして、ナキが飛び乗った瞬間、ふわりとその絨毯は床から浮き上がる。

『おおっ!』

 その演出に会場から驚きの声が上がった。
 種を明かせば、実はこれ…絨毯の下にナキの滑空艇が仕込んであるだけなのだが、照明を落としている関係で多少判りにくくなっている。
「さぁ、行こう。目指すはあの城だぜ!」
 にひひっと笑ってナキが飛ぶ。会場の天井の高さに注意しながら観客の上をぴゅーと飛んで姫を探して、舞台に行きつくとその場でホバリングし、

「姫、ここにいたんだね!」

 大げさに演技し、ナキがサライを抱きとめる。

「まぁ、あなたは?」
「僕はお金はないけれど、貴方を楽しませる事はできる…だから、これを貴方に」

 ぱちんと指をはじいて、またもランプの力を借りればガラスの急須に入ったティーセットとロクムと呼ばれるデンプンと砂糖を使ったお菓子が出現する。こちらも種はちょっとした舞台装置にあるのだが、観客からは本物の魔法の様に見えただろう。姫もそれに瞳を輝かせる。

「さあ、行こう。自由の世界へ」

 ナキの言葉にこくりと頷く姫。重量的に高くは飛べなかったが、それでも演出的には十分だ。
 一頻り飛ぶと舞台に降りて、サライが笑顔を見せる。そうして、お返しのキスが贈られて…、

「いやっほーー!」

 軽業宜しく、ナキはその場で飛び上がった。そうして、絨毯に乗ったままその場を後にする。
「あぁ、なんていい香り…心が落ち着くようですわ」
 サライの言葉――彼女の飲んでいるのはさっき出されたミントティーだ。
 そうしてうとうと微睡む彼女からライトはフェードアウトして、次に照らされた時には別の姫の姿がある。
「ここはとある街、この街の全ての時間が止まっておりました。そう、それは姫が眠りについてしまったからです」
 ナレーションと共に中央のスポットライトの下にはリンス扮する眠り姫。
 糸巻き機が傍にあり、魔女の呪いで永遠の眠りについた事を暗示させる。
「あぁ、ここが噂の城か。本当に何もかも止まっている……」
 そこへ王子に扮する真っ白なマントとスーツを纏ったフランが登場し姫を探す。
 舞台を右往左往した後、彼はやっと姫を見つけて、

「おおっ、なんと美しい…姫、ボクが今、目覚めさせてあげますよ…」

 そう言い取り出したのは一つのカップ。芳醇ないい豆の香りがする珈琲…なのだが、
(「うむむ、なんかすごく甘ったるい香りがするのじゃ」)
 目を瞑ったまま役を続けるリンスの心の声。フランはリンスの甘党を知ってこれでもかというくらい砂糖を投入したのだ。
「さぁ、姫…これを飲んで」
 顔が近い。いつもならここで邪険にされる所であるが、ここはもう役得としか言い様がない。
 リンスの喉を通過する珈琲、やはり超絶甘かった。というかもう砂糖の味しかしない。けれどもそれで、目覚めるリンス。
「あぁ、なんておいしい珈琲! 目が覚めてしまいましたわ!」
 そっと上体を起こして彼女が言う。
「このケーキもあなたの為にお持ちしました。さぁ、どうぞ♪」
 フランはそう言ってとっておきのショートケーキを差し出す。
「まぁ、なんて甘いのかしら! ますます目が覚めましたわ!」
 そこで熱い抱擁と細やかなキスを交わして……
 会場に光が戻ると、何処からともなく流れ始めたのはリュートの調べ。

「さぁ、皆さん。今宵は二つの姫の祝賀会。ミントティも珈琲もそしてお菓子も沢山ご用意しています。ですので、ごゆるりとお楽しみ下さい」

 舞台ではリンスとフランが宮廷舞踊を披露した。
 その後二人で給仕に回り、サライと共に会場の目を潤している。
 そうして耳では、ナキのリュートが静かで気品のある曲を奏でている。
 そこはまさに御伽話の中の様で――とてもここが北面にある屋敷とに思えない。
 皆この一時、身分も時間も忘れ夢に浸る。

「ふむ、さすがは開拓者だな。これだから彼らとの繋がりはやめられん」

 菊柾が笑う。その後ろではお忍びの王の姿があった様だが、それは内緒だ。
 いつになく穏やかに、彼は会場を眺めながら……菓子と茶を静かに頂いているのであった。