【猫又】にゃんと流星弾
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/05 01:52



■オープニング本文

「ポチ、おまえ最近すっかり『猫』だな」
 軒下でぽかぽか太陽を浴びてお昼寝するおいらにご主人が投げた言葉――。
 その時はおいらもそれ程気にはしていなかった。
 けれども、よくよく考えるとその言葉の意味が大きな意味を持っている事に気付いて、おいらは焦る。
「もしかして、おいらただの猫っぽいって事にゃ?」
 つまりはペット――愛玩動物。それは嫌だ。
 ご主人は強いけど、万能じゃない。だからおいらが必要だと思う。
 そしておいらもスーパーな猫又として、ご主人の右腕でいたい。
 たけど、最近のご主人の様子がおかしい。今までならお昼までぐうたらしていたのに、近頃は頻繁に出かけている。
 それが気になってこっそりつけたら行先が港で……そこで見た光景においらに衝撃が走る。

(「ご、ご主人が…ご主人が、霊騎と楽しそうにゃ」)

 いつもの仏頂面は変わらないけれど、何だか霊騎を見つめるその目が真剣だ。
 酒屋で新しいお酒が入って、その時に吟味する時のようなあんな顔をしている。
「まさか、おいら売られちゃうのかにゃ…」
 そんなの嫌だ。けれど、あの馬しゃんを買うお金なんて家にはない。
 とすると、そのお金は何処から捻出されるのか? 思いつくのは自分と言う存在――。
「確か猫又ってお馬しゃんより高かったにゃよね…」
 脳裏に浮かんだ最悪の可能性に、おいらはゾッとするも即座に首を振って、
「大丈夫にゃ! そんな事ない筈にゃ!」
 そう言い聞かせて、けれどこのままではいられない。

(「何か、考えるのにゃ! 万が一にならない為に…。
  確かにおいら、ここのところ猫してたけども…使える相棒だという事が判ればきっと…」)

 まだ望みはある。

 そうだ、これまでとて一緒にやってきた仲だ。そう簡単に捨てられるものではない。
「あの技だって、おいらがいるから出来る事にゃ」
 その名は『にゃんと流星弾』――ご主人とおいらの絆の必殺技。互いを信頼しているからこそ出来る技。
 ご主人がおいらを掴んで目標に投げつける。そしたらおいらが敵の前で攻撃を繰り出して……あれ?
 これって必殺技になるのだろうか。一応、ご主人はこの技に『行ってこい、ポチ』と命名していたが。

「にゃああああああ〜〜、これってにゃんか一方通行にゃ!!」

 それにだ。よく考えるとおいらとご主人のコンビネーション技はこれしかない。
「これは非常にマズイにゃ。お馬しゃんとだったらきっと…」
 色々できる。昔から戦場の相棒と言えば馬が主流。移動速度が確保でき、しかもそれなりに賢いとくればそっちがいいと思う開拓者も多いだろう。ご主人だって、そう考え出してもおかしくない。

「こうなったら、おいらも負けてられないにゃ!
 新しい技を発案、提唱してご主人においらの良さに気付いてもらうのにゃ!!」

 くるりと踵を返して、おいらはギルドに走る。
 物音に気付いてご主人が振り返ってたり、かちゃりと何かが落ちたりしたみたいだったけども、おいらは気付かない。

「待ってるにゃよ、ご主人!
 きっとギルドの仲良しコンビしゃん達にお知恵を借りてとっておきを考えてみせるのにゃ!」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●仲間
「うにゅ、お仕事終わってお腹減ったね〜」
「もうっ、後少しなんだから我慢なさい」
 狐獣人のプレシア・ベルティー二(ib3541)が隣のそっくり人妖・フレイアに言葉する。
 ここは開拓者ギルド――一仕事終えて帰ってきた者や、新たな依頼を求めてやってきた者等様々だ。
 そんな中、ポチは一人そわそわしていた。なけなしのお小遣いを使って依頼を出したはいいが、集まらなかったら? 勿論依頼自体は一抹との共同開発でという事にしてある。
(「嘘ついちゃったし、お財布空っぽにゃけども背に腹は代えられないのにゃ」)
 明日から当分おやつはないだろう。けれど、ここでケチったら一生後悔する。そう腹を括っているポチである。
『わぁ…猫又さんだー。こ、怖くないかな?』
 そんな彼を見つけて、尻尾を振りつつ徐々に近付いたのは忍犬の雫だった。
 ポチの不安には気付かずに先輩猫又に興味津々。元々どんな種族であろうと先輩は大好きであり、気になってしまうのだ。そんな彼の様子に主人も勿論気付く訳で、
「どうしたんですか、しず…ってポチさん?」
 雫の主人・秋霜夜(ia0979)がポチに声をかける。
「あ、霜夜しゃん…おいらおいら…」
 その姿を見取り、ポチの目から思わず涙が溢れた。そうして経緯を話していく内に徐々に参加者も集まり始めて、
「成程、霊騎を買うために自分が売られるんじゃないかとびくびくしている訳か」
 輝鷹の花月を連れて、水鏡絵梨乃(ia0191)が状況把握に努める。
「そんな心配無用ですよ! なぜなら相棒と私達の絆ってそんなに簡単に切れる物じゃないもの!」
 ふんっと胸を張って断言するのはルンルン・パムポップン(ib0234)と迅鷹上級の忍鳥『蓬莱鷹』だ。彼女と蓬莱鷹の出会いはとてもシンプル。縁日で的屋のおじさんに伝説の魔物の一つだと吹き込まれたのが始まりであり今も信じている彼女であるが、それは兎も角仲は良好だ。
「ほら、ポチ。ルンルンの言う通りだよ。きっと何か事情がある筈だし…まずは元気出して。何なら僕お手製の芋羊羹を」
 絵梨乃はそう言い好物の芋羊羹を取り出す。だが、

 びゅーーん

 それは一陣の風が如き速さだった。ポチと絵梨乃の間を一匹の鳥が飛ぶ。
「あーー、また取ったな! 花月にはもうあげただろう!!」
 どうやら彼女の相棒の仕業らしい。叱る絵梨乃であるが、どこか二人は楽しそうで、
「いいにゃあ…」
 気付いた時には声になっていた。じわりとまた涙が溜まる。
「あぁ〜〜、ほら花月! ポチが泣いちゃっただろ!」
『……』
 その様子にはさすがの花月も反省。ポチに千切った芋羊羹を差し出す。
「ありがとなのにゃ。でもこれはそんなじゃなくて…」
「判ります。判りますとも…ポチ殿は一抹殿の事を思い出したのですね!!」
 とそこへ神々しい光を放って神父のエルディン・バウアー(ib0066)が登場した。
 ギルドの照明とは明らかに違う眩しい光で――しかしこれにはタネがある。
『し、仕方がないから手伝ってあげるわよ! だって私のエルディンが輝いてないなんてありえないんだもの!』
 もし言葉が喋れたらそんな事を言っていた筈だ。彼の背では相棒である迅鷹上級のケルブがスキルを発動中。扉側に立ち、光を浴びての四枚羽が彼を天使の様に演出する。そこにエルディンの聖職者スマイルが加わって、
「す、すいませんでしたーーー!!」
 なぜだか一人の男が彼の前に土下座した。何でも彼、妻に無断で彼女のへそくりを使ったとか…驚くべき効果である。
「何か変な事になりましたが、これが絆のなせる業です」
 エルディン組がさも当然の様に言う。
「す、凄いにゃ……でも、おいら合体できにゃいし」
「じゃあ何が出来るんだい?」
 エルディンの言葉に困り顔のポチを覗き込んで岩宿太郎(ib0852)が尋ねる。
 後ろで割り込んだ太郎にケルブが抗議の声を上げているが気にしない。
「おいらの今の合体技は…にゃんと流星弾だけにゃ」
「流星弾? どんなか見せてくれるかな? 俺のほかみも外にいるし」
 人懐っこい笑顔で太郎が一行を外に促す。
「あ、ルンルンちゃんだ〜やほ〜い♪」
 そんな集団を見つけてプレシアも合流。彼女も手伝うらしい。更には、
「はいよーー! 夜空! 何か知らんが、あの一団にこの依頼の猫又がいるらしい。行くぞ!」
『ぶひひーーん』
 原っぱに向かう彼らを見つけて篠崎早矢(ic0072)も翔馬の夜空と共に駆け付ける様だった。


●再現
 実演するにも一抹役がいない。
 そこで太郎が代役を申し出たが見たいと言ったのは彼であり、急遽別の代役をたてる事となる。その候補に挙がったのは相棒が駆鎧『人狼』改のサーシャ(ia9980)だった。
「あらあら、私で務まりますかしら〜?」
 ポチを抱きかかえた状態で彼女が言う。
「大丈夫にゃ。簡単に言えば目標に向かっておいらを投げつけるだけにゃ」
「うふふ〜、それは簡単ですね〜〜。そそりますね〜〜」
 終始笑顔を絶やさずに彼女は必殺技に浪漫を感じているらしい。
「では、行きますね〜〜〜、とりゃっ!!」

 バビューーーン

 早速事を実行して…猫まっしぐらと言うのはこの事だろう。一抹の投げよりも更なる速度でポチは飛んでいく。
「おや、今何か…って猫?」
 そんな彼をこちらに接近しつつあった早矢が馬上で捉え振り返る。
『せんぱーーい、待って――!!』
 更には雫がそれを追う。
「あぁ、なんだ。俺とほかみがやっているのとそんなに変わらないじゃないか。いいよね、相棒との合体攻撃」
 太郎は技を把握し、くるりと後ろで待たせている鋼龍のほかみに同意を求める。だが彼女は、
(「え、あれ合体技だったんだ…ただの奇行かと…」)
 絆はあれど、価値観の違いと言うのは何処にでもあるものである。
「あの、ポチさん飛んで行っちゃいましたけど拾いに行かなくていいんです?」
 霜夜が皆に問う。そこへ早矢が到着して、
「何、あれがポチか。だったら私が連れ戻ろう」
 と言ってまたダッシュ。そしてなぜだかポチ回収後の馬上では、
「そうだ! 今丁度いい機会だから私達の技を見せて上げよう、それっ、ほい、とぅ!」
 早矢と夜空が張り切って曲乗りを開始。わざと障害物のある方へと回って華麗に飛び越えて見せたり、横倒しにしがみ付いたまま駆けてみたり。馬の凄さを身をもって知るポチがいる。
「うにゃあ〜、酔う…馬酔いしちゃうにゃ〜〜」
 そしてついにはダウン。早矢の肩で伸びてしまう訳であるが、
「え〜と、あの子達何やってるのかな?」
 傍観する者にそれは伝わっていない様だった。


「さて、気を取り直して私から。まずポチ殿、開拓者は戦うだけではなく調査や交渉する技も必要ですよ」
 ギルドで言えなかった事をエルディンが改めて告げる。
「お喋りは得意にゃけども、それが必殺技になるのかにゃ?」
「なりますとも! 個性が一番。霊騎にお買い物が出来ますか? そこで私が考え出したのは『ポチきゅん☆すまいる♪』です」
「ポチきゅん…なにそれー♪」
 そのネーミングにプレシアと雫の瞳が輝き出す。
「ちょっと、あんたまで…」
 そんな主人にフレイアが頭を抱える。
「やり方は簡単です。ポチ殿が風安殿の襟元からひょっこりと顔を出して、後は猫かぶり発動です」
「それだけにゃ?」
「それだけです」
 ポチには意味が判らない。しかしこれを試してみれば、
「うにゅ〜〜かわいいの〜〜。あっ!! それにこれつければ完璧〜」
「えっ!? な、何!!」
 プレシアはご満悦となり、更なる提案。フレイアをむんずと掴まえて、
「手乗りフレイア〜♪ どう? どう? ポチちゃんの場合は手乗りポチ〜♪」
 満面の笑顔で彼女が言う。
「…これ、芸であって技じゃないわよね?」
 そこへフレイアの突っ込みが入ると、負けじとプレシア奮起する。ぽむっと自分の頭に彼女を乗せ変えて、
「フレイアがった〜い!! こうやれば、ご主人様を…」
 そう言いかけた時だった。ルンルンがプレシアの背後に回って彼女を抱え上げる。
「え、え?」
「プレシアちゃん。ポチちゃんの為に少しだけ手伝ってね。って事でふんぬっ!」
「にっ! ふにぃぃ〜〜!?」
 答えを聞くより先に、彼女は同朋を投げていた。ポチのそれが流星弾ならこれは同朋弾といった所だろうか。何にしても思わぬ展開に一同目を丸くする。だが、当人は至って冷静で、
「これはもちろん深い絆で結ばれた空賊仲間だから出来る事なのです…だから、ポチちゃんも落ち込まないで。あの天に輝くにゃんとの星を心に刻んで、新技開発です!」
 びしっと昼間の空を指差し宣言する。
「にゃんと…という事はこういうのはどうだろう。覇王昇降猫と言う名前にして…」
「いや、それ他人様のだよね?」
 額に汗を流しつつ、早矢の提案にやんわり突っ込みを入れる太郎。やはりパクリはいけない。
「とりあえず皆の必殺技を披露してみようよ。まだなのは俺以外にもいるだろう?」
 かくて、大きく遠回りしたが技の見せ合いが始まる。


●破壊力
「よろしくお願いしますにゃ」
 ぺこりと頭を下げたポチの前には太郎とほかみの姿がある。
「俺達のは正直ポチさんの応用みたいなもんだ。まぁ、見てて」
 彼は騎乗するとすぐに高度を上げた。ほかみも普通なら多少の不満を見せるが、今日は違う。なんたってギャラリーに応援してくれるものがいる。実はケルブと雫は彼女と親しい仲なのだ。
『がんばってー、ほかみさーん!!』
 雫の鳴き声に確かな応援を感じて、彼女のテンションは大きく跳ね上がる。
『よーし、私頑張る! ご主人を大地に埋め尽す程に投擲しちゃう!』
 そうして位置についたら、太郎を掴んでフルスイング。地上目掛けて投げ落とす。
 これぞ『タロウドライバー』――重力とパワーのコンボで加速МAX状態で太郎が敵と接触。攻撃を仕掛ければ効果は絶大だ。が以前やった時はどういう訳か蜂の巣になっただけとか…だが気にしない。今回こそはと意気込んで、
(「よし、射程入った…ここで白梅香を…あ」

 どおーーーーーんっ

 彼は地面に刺さっていた。魔槍砲を介して、見事なまでの垂直にだ。
「えっと…何事でしょうか?」
 そんな彼の元に愛機・アリストクラートに登乗したサーシャが近付き、魔槍砲ごと引き抜く。
「あ、はは…白梅香活性化してなかった…」
 そう言い残してぱたりと倒れる太郎。ほかみが溜息をつく。だが威力は感じ取れた。
「え〜とですね。私からは心構え的なものを示したいと思います」
 宝珠がふんだんに使われた駆鎧に身を包み、サーシャは説明する。
「まず基本は何が出来て何が出来ないかを把握する事。そして次に大事なのはどういう状況で使いたいかですね〜〜」
 切り札なのか、奇襲なのか。それにもよって大きく方向性が変わってくる。
「必殺技はあくまで目的の達成の手段ですので目的にしてはいけません。では、やってみましょう〜〜」
 そう前置きして、彼女は機内で得意の流し切りをイメージする。そして、集中がピークに達した瞬間、

 ザンッ

 流れる様な無駄のない動きで繰り出したのはヴォルフストラーク。駆鎧の骨格と稼働で彼女の得意な流し切りを再現たものである。慣れているものを極限に高め、それを愛機でも繰り出す。これがスムーズにいくまでは相当な時間がかかったであろう。
「きれいだったにゃ…」
 降りてきたサーシャにポチが言う。
「あらあら、お上手ですね〜」
 そう言って彼を撫でる。
 そんな折、遥か遠くから舞い戻る二つの影。プレシアとフレイアだ。プレシアはどこで手に入れたのか好物の稲荷を頬張っている。
「ねぇ、さっき二組離れていくのが見えたけど、あれって…」
 そう言えばエルディンと早矢がいない。
 けれど、それにはちゃんとした理由があるのだがそれはさて置き、次は絵梨乃の番。
 芋羊羹の件では恥ずかしい所を見せたが、ここでは真剣そのものだ。デモンストレーション代わりに花月との飛行を見せた後、次はいよいよ大技の披露となる。
「瞬きすると見逃すから気を付けろよ?」
 彼女はそう言って、花月に合図を送る。すると花月も首を縦に振ってばさりと羽ばたくと一直線に絵梨乃の神布へ。光輝くと同時に腕の武器が竜巻を帯び始め意識を集中。彼女は花月の息吹を感じつつ気をためる。そうして、十分になったと感じた時光は下へとスライドし、足に翼が生えた。花月が風神へと移行したのだ。それを悟って絵梨乃が野を駆ける。後は敵に見立てた目標に到達して、
「とりゃあぁぁぁ!!」
 大きな爆音が響いた。絵梨乃がスピードそのままに岩を打ち砕いたのだ。バラバラになった岩はもう小石でしかない。

 パチパチパチ

 余りの凄さに残っている者達から拍手が起こる。
「少し派手だったかな…」
 そう言い頬をかく彼女にルンルンは、
「無問題ですよー。私も竜巻の刃でやるんで、まぁ見てて下さいよ!」
 はりきり眼で今のでいてもたってもいられなくなったのだろう真打とばかりにルンルンが登場する。そして飛び出し様に、
「かもーん、蓬莱鷹ちゃん! ニンジャ合体です!」
『ヴォォォン』
 言うが早いか、声に反応する様に蓬莱鷹が鳴く。絵梨乃組同様まずは竜巻の刃だ。こちらはルンルンの手にした手裏剣へ同化する。そして華麗に…水面を舞う白鳥が如く動きで身体をしならせたのち標的に投擲。
「ポチちゃんよく見て、これがニンジャ合体です…ご主人さんにこの流れる様な動きで投げて貰って、ポチちゃんが爪で敵を切り裂く! これこそ、必殺のにゃんと水鳥弾です!」
 ざくっと地面に刺さった手裏剣――それと同時に同化を解いて蓬莱鷹が姿を現す。
「すごいにゃ! ただ投げるだけじゃないにゃね! けど、ご主人にそんな柔軟な動き…」
「やるのです! いえ、やらせるのです! にゃんとの星がやれと言ってます!」
 再び空を指差し彼女が言う。
(「うわぁ〜、次は私の番ですよね。ドキドキしてきましたぁ」)
 その横では密かに緊張する霜夜・雫の姿があった。

●御守
 所変わって港の一角。一抹は今日も港にいた。
「あいつの考えは判らん」
 最近のポチの様子はおかしい。こないだは尾行され、気付くと逃げて行った。家でも避けられている様で、落としていった猫又用の御守りを返しそびれている。
「おや、それがどうかしたのですか?」
 そこへどこからともなく現れたエルディンが声をかける。
「いや、何でもねえ」
 そう言って着物の袖にそれをなおす一抹を見て、やはり彼はポチを売るつもりはないのだろう。だが、彼は確かに霊騎と戯れている様にも見える。
「やあ、お兄さん。馬に興味があるとはお目が高い…いい子を見つけてあげようか?」
 そこへ早矢もやってきた。馬の事なら誰にも負けないつもりだ。夜空とて彼女の目利きによるもの。傍から見れば少しばかり不細工かもしれないが足も身体もどっしりしているし、何より彼女が昔乗っていた子にそっくりで彼女にとっては申し分ない子なのだ。
「いや、それには及ばん。もう馬は決まっている」
「へえ、どの子かな?」
 ここで会話を途切れさすまいと尋ねてみる。が、一抹は答えない。
「あ、待って下さい。あの、もしやあなたはポチ殿のご主人の一抹殿では?」
 そこで今度はエルディンがポチの名で引き止める。
「だったら何だ?」
「いえ、霊騎を見てらっしゃるからどうするのかなと…あんな素敵な猫又殿を相棒にされている貴方なら、こっちの見利きもいいかと思いまして」
「なら、そこの女に聞け。俺より詳しそうだ」
 彼はそう言い残し港を出ていく。その後管理人に聞いてみたが、訳有りなのか教えてはくれなかった。


「えと、あたしが提案するのは『間合い二重』と言う技です」
 最後の一組となった二人が前に出て、早速提案技を披露する。前に敵がいる事を想定し、初手は雫から。一手目に奇襲を仕掛けた相棒の隙を見て彼女が気功掌を打てば、知覚技という事から相手の虚をつけるという訳だ。
「近接攻撃主体の二人が最も戦場で有効に動けるのはこれだと思うんです。私は泰拳士なので気功掌でしたが、一抹さんの場合は戦塵烈波辺りでしょうか? 兎も角これだと初見の相手なら不意を突く事も可能ですし、ね?」
『わんっ』
 ちらりと視線を送ると雫が答える。
 そうして、ポチへの提案と披露は終了した。ここからはポチの選択タイムである。
「間合い二重に、にゃんと水鳥弾、ポチきゅん☆すまいる…どれも捨て難いにゃ〜」
 どんな時にどう使うのか。サーシャの言った基本を忘れない様にして彼は考える。そんな彼を見守りながら、仲間達も思い思いに時間を過ごす。結局、その日には決まらなかった。依頼自体の目的は達成されたのだが、彼らとて関わった以上この後の展開は気になる所だ。一抹の家にこっそり押しかけて、ポチと一抹の会話に聞き耳を立てる。
「おい、おまえ昨日俺を付けていただろう?」
 唐突な言葉にポチがびくりとする。
「だってご主人…おいら」
「これ、落としていたぞ」
 おどおどするポチとは対照的に、一抹は素っ気なく完結的だ。
「あ、それ、おいらの……」
「安もんだが失くすなよ。もう買わんぞ」
 一抹はそう言って、晩飯を早々と済ませごろりと寝転ぶ。
「ご、ご主人…あの、聞いて欲しい事があるのにゃ」
 そこで勇気を振り絞り、ポチが切り出した。
「あの、おいら新しい技考えたにゃ。だからおいら今まで以上に頑張れるにゃ、だから…」
 相棒でいさせてと、その言葉がなかなか出てこない。けれど、その切羽詰まった表情に彼も何かを察して、
「何を悩んでるかは知らんが金はないぞ」
「違うにゃーーー!!」
 ポチの思い届かず。思わず猫パンチを繰り出して、一抹の頬に手形が残る。
「おいらは、ずっとご主人の相棒でいたいにゃ!!」
「あぁ?」
 その言葉に一抹は珍しく目を丸くした。そして経緯を理解したらしい。
「馬鹿か。さっきも言ったが俺に金はない。他の相棒なんて食費の無駄だ」
「でもおいらを売れば霊騎買えるし…」
「あれはだな、菊柾に頼まれたんだ。いい馬を見つけたがじゃじゃ馬だから慣らせって…ったく、俺を何でも屋にしやがって」
 菊柾とは彼の友人であり、北面の重役でもある。従ってこんな些細な事でも周囲には口止めがされていたらしい。ともあれ事を知り、ポチはほっとしぺたりと畳に突っ伏す。
「まあいい。でさっき言ってた新技とはなんだ。一応聞いてやる」
 一抹の言葉――ポチの表情が明るくなる。そこで経緯を話して、仲間の登場。一気に大所帯だ。
「全く、無駄な金使いやがって…こいつが世話かけた分、一杯だけ奢ってやる」
 今日はもう遅い。新技の披露は明日になりそうだ。


 そして翌日、彼らは目撃する。その名も『にゃんとスマイル☆間合い二重の水鳥弾』を――。
 まずポチの定位置は一抹の懐だ。某動物の様に袋に入った様な状態で顔だけを覗かせておく。そして、声をかけられたらぽちきゅん☆スマイル。これで日常であれば食糧およびおまけの類いをゲット出来るし、戦場であれば油断を誘う。そして、その隙に一抹がスキルを発動し討ち込む。それと同時にポチは腕を頼りに駆け出して零距離鎌鼬。それでも駄目なら、空き手でむんずと彼を掴んで体をぐるりと回転。勢いに任せてポチを上に投げる。すると再び敵はこちらの突飛な行動に怯むだろう。そこへ二撃目。落下後のポチは三撃目いう訳だ。
「なんかやってる事は簡単だけど、説明だけだと複雑に聞こえるよね…」
 太郎が言う。
「もう、これ曲芸の域だろう。投げた後傘でも開いて走らせたらどうかな?」
 とこれは早矢だ。しかしそれに期待するものもいる様で、
『いいなー、凄いよ、先輩!』
 期待の眼差しで雫が見つめる。
「後は精進あるのみです! にゃんとの星はすぐそこです!」
 ルンルンはそう言い、心は師匠の気分だ。
 そう後は実践あるのみ。実戦向きではない気もするが、ポチが満足なら無問題でめでたし(笑)