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■オープニング本文 ●もふら獅子 「にゃんにゃにゃ〜ん、にゃにゃにゃにゃ〜♪」 今日のポチはご機嫌だった。なぜ彼をそうさせているのかと言えば答えは簡単。もうすぐ旧正月だよという事で、魚屋のご主人になんと尾頭付きの鯖を丸々一匹頂いたのである。であるからして彼は鼻歌交じりに、背中にその鯖を背負って一抹の待つ家へと戻る。 「ごしゅじーん、帰ったにゃ〜」 そうして帰り着いた家でポチは目を丸くした。 開いた玄関の前には巨大な顔――それは真っ赤な顔のもふらだ。思わずずささと距離を取る。 「ん…帰ったか」 一抹はそう言ってそのもふら顔をどける。 「なんなのにゃ、これ…おいら生首かと」 「んな訳があるか。これはもふら舞いの…所謂獅子頭だ」 「もふら舞いにゃ? けど、どうしてそんなものがここに…」 前に聞いた事がある。天儀においてはもふらは神聖。つまりは獅子舞の代わりに、もふらを使っている所も稀にあるのだ。子供達にも普通の獅子より受けがよく、昔からずっともふらでやっているという地方もある。 「これをやれと頼まれた」 「へ?」 「町内会の決定だそうだ。俺が開拓者だと知って面倒事を押し付けてきやがった」 「はぁ…」 ぼやく一抹にポチはまだちゃんと内容をのみ込めていない。 「で、いつにゃ?」 「明日だ。なんでも旧正月と節分をまとめてやるつもりらしい。だからこれも鬼使用だ」 ぽんぽんっともふら頭を叩いて、よく見れば確かに…もふらの顔は赤いし、耳の上には角がついており鬼っぽくも見える。 「よくそんな事考えるにゃね〜けど、今回はおいら出番なさそうにゃし、ご主人ファイトにゃ!」 それより鯖が食べたいと、話を切り上げ背中の魚を手早く自慢の爪で三枚におろす。 「ったく、人事だと……まぁ、いい。明日は起せよ。八時だ」 「わかったにゃ」 ポチは気安く返事した。だが、一抹の寝起きの悪さはいつもの事で――。 ●遅刻 「もう遅刻間近にゃ! いい加減起きるのにゃーー!!」 どんがっしゃーーん ポチの会心の猫パンチが一抹に炸裂して、やっとのことで行動を開始する一抹であるが、時計は既に八時をさしている。間近というよりももう遅刻確定だ。それから暫くして、会場に向かった一抹であるが、意外な事にそこにはもふらと戯れる子供達の姿が広がっている。 「わーい、もふら様。頭かんでー」 一人の少女がそのもふらに頭を差し出す。これは獅子舞と同じご利益を狙ってのものだ。もふら獅子に噛まれる事で無病息災を願う…これがこちらの風習である。 (「俺が遅刻したから代役でも立てたか?」) そう思う一抹であるが、そのもふらを見る限り継ぎ目も何も存在せず、どう見てもあれは本物のもふらだ。が、もし本物だとしたら、些かおかしな部分も存在して――もふら頭を抱えた一抹は眉を顰める。 「もっふぅ〜ん」 「……」 その視線に気付いてもふらがこちらを向いた。 そして、にたりと笑うと微妙な声を一抹に投げかける。その瞬間ぞわわと寒気が走り抜けて…。 「あれ、一抹さんどうしてここに? あれに入ってるは貴方じゃないんで?」 そんな折、声がかかって振り向いた先には実行委員の男が一人。一抹ともふらを交互に見て驚いている。 「なんだ、あれはおまえが用意したんじゃないのか?」 「はい。私はてっきりあれが一抹さんだと……ってことはあれは一体?」 「さあな。野良もふら…にしては形相が違い過ぎる」 じーと不審なもふらを見つめて一抹は言う。 確かに外見はもふらそっくりだ。しかし、妙に色気のあるあの鳴き声は何だ? 僅かに感じたあの寒気は、どこか瘴気のそれに似てはいないか。それにあれには角がある。仕込みかと思っていたが、違うのならば明らかに新種、あるいは他の何かに他ならない。 「さぁ、ご利益も頂いたしあっちで善哉食べましょうねぇ」 母親に連れられて…さっきの子供は嬉しそうだ。だが、その様子を追って一抹は更に眉を顰める事となる。 「あらあら、どうしたの? もうお眠なの?」 さっきまではしゃいでいた女の子が善哉屋について、一口二口。 すると何故だか目を擦り始めて、終いにはその場で寝息を立て始めている。 「おや、そちら様もで? どうしたんだろうなぁ、今日はやけに子供達が眠気を催して」 「……」 善哉屋の前には子供達が多い。けれど、彼らは善哉を楽しんでいる訳ではなく、用意された椅子でうとうとしてるのだ。いくらなんでもこれはおかしい。 「おい、まさかあの店何か盛ってんじゃないだろうな?」 その多さに一抹が問う。 「そんなとんでもない! 第一、私もあそこのを食べましたがこの通り」 「ふむ…そうか」 子供達だけが眠くなるこの現象――一体どういう訳だろう。 「ごっしゅじーん! ちゃんと働いて…ってあれ?」 そこへポチが現れた。しかし、もふら獅子になっていない一抹を見つめてきょろきょろする。 「どういう事にゃ? まさかサボって」 「知らん。俺が来た時にはもうあれがいたんだ」 そうポチに言いつつ、周囲に目を向ける。すると、更なる事実が明らかとなる。 「あ…悪い。なんか疲れてきた」 カップルであろう二人組の男の方が突然頭に手をやり、もたれる場所を探す。 「え、やだ…だって昨日は休みだったって」 「あぁ、そうなんだけどなんか急に…」 そう言って目を瞑る男。彼女の方は困惑気味だ。 「ん…まさか、あれか?」 一抹はそう言い、その二人組から事情を聞き出す。 「ご主人?」 「やはりそうだな。だが、まだ確証はない……ポチ、俺が寝たら後は頼むぞ」 「えっ…え?」 「行ってくる」 一抹はそう言うと、ずんずん進んであのもふらの元へ。 「おい、おまえ。俺にも一つやってくれるか?」 身長の高い一抹と対等の高さのもふら。二人が暫し見詰め合って…、 「もっふぅ〜ん」 もふらが動いた。かぷりと一抹の頭を甘噛みする。 そして、戻ってきた一抹…いつも似まして瞼が重そうだ。 「ご、ご主人?」 「やは、り…な。あれだ……あれは、もふらでは、な…zzz」 「ごしゅじーーーん!!」 訳が判らなかった。しかし、託された手前ポチはきりっと奴を見つめる。 「えっと、これは一体…」 「そこのお兄しゃん。あれはどうも違うようにゃ。だから、開拓者しゃんを探して欲しいのにゃ!」 もふらを見つめて、ポチが言う。 そんな彼らを振り返って、色気のあるもふらはにんまりと微笑むのだった。 |
■参加者一覧
時津風 美沙樹(ia0158)
22歳・女・巫
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●偽物 ふらりと身体を揺らして辛うじて転倒は回避した一抹であったが、その後は一向に目を覚まさない。けれど会場は今のところ混乱は見られなかった。ただ、不自然に多い居眠り人が存在するだけ――しかし、それに不審に思う者も勿論いる。 「なんだか様子がおかしいようですわね」 たまたま近くを通りかかった時津風美沙樹(ia0158)が言う。彼女は祭りがあると言う事をさっき知ったばかりだ。ロングの波打った赤毛を風に靡かせながら、周囲の様子を窺う。 「アーニャさん、アーニャさん、あっちにポチさんがいますよ! ここは何か奢って貰いましょう!」 そこで彼女の耳に届いたのは見知った声。振り返るとそこには知り合いの秋霜夜(ia0979)とその連れのアーニャ・ベルマン(ia5465)の姿がある。 「あっ、待って…」 はしゃいだ様子で駆けてゆく二人を彼女が追う。二人はポチと呼ぶ猫又の方に向かっているらしい。 「お久し振りです、ポチさ……って何かマズイことになってます?」 そこで初めて霜夜はこの場の異変に気付いた。そう、ポチがとても真剣な顔をしていたからだ。 「あ、霜夜しゃんにアーニャしゃん! それと後ろの人は…」 「え、後ろ?」 ポチがやってきた三人を見取り、挨拶する。 「美沙樹よ。で、何がどうなっているのかしら?」 「ああ、美沙樹さんもいらしていたのですね! こんにちわ」 と呑気に声をかけた霜夜だったが、今はそれどころではない。ポチが軽く事情を話し始めようとする。 がもう一人――新たな開拓者が現れて、 「なあこのおっさん、なんで寝ちまったんだ? 別の場所でも眠っちまってる奴が多いけど、何かあったのか?」 それはナキ=シャラーラ(ib7034)だった。一抹が寝込んだ様子を目撃していたらしい。大の大人で、しかもおっさんが甘噛みの催促に行けば、それはそれで目立つだろう。 「それがおいらもよく判らなくて…でも、あのもふらが原因らしいのにゃ」 変に色気のあるもふらを見つめてポチが言う。 「もふら、ですか…確かにどこか異様な雰囲気を漂わせていますよね?」 もふら好きとしては見極めねば! アーニャが問題のもふらをじぃーーーと見つめる。 動きに不審な点はないようだ。のしのしと短い足で歩き、時折耳元を器用に掻く。見た目は普通のもふらと大差ない…のだが、よーーく目を凝らしてみれば足元の爪が歩く度に見え隠れしている。そして、その爪が僅かに朱に染まっていて…更には、 「あのもふらの歯、やばくねぇか?」 甘噛みの際に見えた歯の隙間に獣の毛の様な物が僅かに引っかかっているのが垣間見て、ナキが言う。それに全身赤毛は珍しいし、何よりあの角…。 「成程ね…つまりあれは肉食で、瘴気の気配もするから多分アヤカシ。差し詰め、獲物をあれで眠らせておいて、後からじっくり頂くタイプと言ったところかしら?」 美沙樹が冷静に分析する。 「ええっ! じゃあここにいる人全員をターゲットにしているって事ですか! 凄い欲張りさんじゃないですか!」 間違いではないのだろうが、幾分目の付け所がずれた霜夜の返事に一同くすりと笑う。 「もし本当にそのつもりなら急がないといけないにゃ! おいら達も食べられちゃうにゃ!」 「ま、あたしらがいる限りそうはさせねえが、さっさと行動した方がいいのは事実だな」 会場は未だお客は多い。昼を迎えれば更に増えるだろう。だが、この場での大事は断じて避けたい。なぜなら、あのもふらの術にかかった者達が多数出ており、あちこちで眠らされているからだ。 「これだけ人がいる以上、退治するには一工夫必要ですねー。祭りの一環だと思わせる何かが」 アーニャが顎に手をあて思案する。その間にももふらもどきはのそのそと会場を徘徊し、順調に獲物の量産を続けている。それを暫く目で追って…ふと目に止まったのはもう一つのもふら。正確にはもふらではない。一抹のやる筈だったもふら獅子頭である。 「あの、ポチさん。あの獅子頭は使ってもかまいませんか?」 霜夜に閃きがあったのか、唐突に問う。 「別にいいと思うけども、どうするにゃ?」 「どうってわからねぇか? あたしは判ったぜ」 とこれはナキだ。残りの二人もどうやら勘付いたらしい。互いに視線を交しているが、ポチ自身は?の様で…首を傾げている。 「いいか…奴を迂闊に刺激したら暴走するかもしれねえし、そうでなくてもこれだけの観衆を巻き込むのは拙い。そこでだ…あれを使って一芝居打つ。そういう事だ」 とびきりの悪戯を思いついた様な笑みを見せて、彼女は楽しそうだ。 「そういうことですねー。さぁ、ポチさん。モドキ退治の一芝居始めますよー」 「だったら、あたしは念の為許可を貰ってくるわね」 ポチの言葉で離れてしまった祭りの担当者を探して、美沙樹が探しに入る。 「ナキさんは子守唄はお得意ですよね?」 「ああ、まかしときなっ」 「だったら話は早いです! 後は楽器ですが…」 かくて、急遽集まった開拓者らによる強行作戦が速やかに実行へと移されるのだった。 ●親子舞 ぴーひょろ ぴーひょろ ぴーひょろろ〜 突然奏でられた笛の音に思わずお客の視線が集まる。 その先には曲に合わせて歩いてくる小さなもふら――勿論これはあの獅子頭を使った本来のもふら獅子だ。ただ、中を担当しているのが霜夜であるから些か身長が足りない。けれど、そこはアナウンスでカバーする。 「本日は来場有難う御座いますー! 大勢のお客様の来訪に感謝して、仔もふら様も頑張りますよー!」 少し距離をおいた場所でアーニャがそう言うと、辺りからは喜びの声が上がる。 「ほほぅ、親子もふら様とはなんだか縁起がいいなぁ」 「滅多に見られるものじゃありませんからねぇ」 そんな声が上がってでだしは上々だ。 「あー、猫又さんもいる〜♪」 そしてその仔もふらを先導するポチを見て、子供達は一層盛り上がる。 (「よしよし、これならいけそうです」) もふら獅子に扮しながら霜夜はポチの傍を歩く。実はこれを被ってしまうと視界が極端に狭くなるのだ。だからポチが先導役となっている。三人が奏でる曲に合わせて、時に口をパカパカ開いてみせる。この獅子頭は作り物といえ、よく出来ていた。耳はふかふかで可動式…毛は本物を使用しているのかもっふもふである。 (「これ、まるごともふら様より軽いかも」) そんな事を思いながら、ポチに誘われつつもどきに接近する。 「あれ、明らかに嫌がってますわね」 もどきの様子を見取り、美沙樹が言う。 「そりゃそうでしょうけど、元はといえばあっちが悪いんですから仕方ありません!」 とこれはアーニャだ。もふら愛好家として、もふらさまの好感度を下げる輩はもふらとそっくりな顔であったも許しては置けない。そう硬く心に誓って、一旦曲を区切る。 静まり返る会場――明らかな邪魔者の登場にもどき自身もこちらを見つめ、二m程近くまでやってきた霜夜とポチを警戒する。 「さあて、皆様。今から親子もふらの物語仕立ての舞をお目にかけますよー」 そう言って、アーニャがポチに合図を送る。それを今度は彼が霜夜に送って――それと同時に彼女が動いた。そこで再会される演奏――擦り寄って来た霜夜にムッとし、蹴り飛ばそうと前足で邪険にするもどき。そこでぴょんっと後退する仔もふら…実際は攻撃されたこの一幕であるが、曲調がそれを見事に偽装し、演技であるかの様に思わせる。 「ふむ、これはもしや獅子が子供を谷に突き落とすって言うあれか…」 そこで祭りの担当者にさくらを買って出て貰って、ダメ押しの演出。この言葉により周りも怪しまない。 「ふむ、成程…深いですなぁ」 「いやはや、面白い」 そんな声が上がって、開拓者達はほっとする。 だが、一人だけそれ所でないのは霜夜だ。 (「あわっ、引っ掻いてきた!」) 図体が大きいくせに思いの他素早い動きで、もどきが足元から攻撃してくる。その攻撃は徐々に苛烈になっているが、彼女も負けてはいない。泰拳士の勘でそれを辛うじて避けながら、必死に舞いを装う。 「念の為、かけておいて正解だったわね」 その様子を見て、美沙樹が呟く。何の事かといえば神楽舞『瞬』の事だ。獅子舞を担当する霜夜には用心する様にと、事前にかけておいたらしい。 「足癖が悪いと嫌われますよー」 獅子頭の中でそう呟きつつ、少しの視界と気配を頼りに霜夜は巧みにそれを交す。 「そろそろ始めないとまずそうだな」 そこでナキもスキルを展開し始める。彼女は吟遊詩人だ。つまり目立つ事無く、スキルを展開出来るから、この場に打ってつけの人物である。イラつき始めたもどきが執拗に霜夜を追う中、彼女が奏で始めたのは夜の子守唄だった。しかし、対象はもどきではない。狙うのはあくまでお客の方――。舞に合わせる様に彼女も歩きながら演奏を続けて…屋台にいる者やら、周囲で見物している者達を眠らせていく。流石に一般人相手には効果覿面だった。だが、それに気付いてもどきがはっとしたのを見取り、アーニャは一か八かの演出に出る。 「それー!」 彼女が放ったのは一本の矢だった。本職であるから狙いは外さない。矢の向かう先にいるのは勿論もどきで、矢は前足を貫く。その間暴れない様、ナキはもどきに精霊の狂想曲でカバー。混乱による動き封じを試みる。 どよめく会場にしかし、アーニャはフォローも忘れない。 「そうか! 矢は魔除けの意味もあるし、あの親もふらは仔もふらを守る為にわざとあんな行動を!」 つまりはいがみ合っている様に、あるいは苛めている様に見えた筈の親もふらの行動は全てこれがあっての事と……そういう事にしてしまったのだ。だが実際の所を言えば、この時既に意識を保っていたのは開拓者とこの事を知る祭り関係者の極限られた人間だけだったから問題ない。 「はいはーい、第一幕終了ですー。そして大きなもふらさんはお色直しで退場です〜」 それでも彼女はそう言って、顔をゆがめるもどきを追い込む準備に入る。 「ぽちさん、問題の場所は?」 霜夜が仔もふらのまま問う。 「係りのお兄しゃんに聞いたら少し先の倉庫がいいって言ってたにゃ」 「判りました。そこまでお願いします」 それを聞いて、そのままもどきを牽制する。それを残りの皆でサポート。 姿がもふらである以上、人の目のある所でボコればもふら虐待の噂が流れないとも限らない。それを見越してもどきもあの姿をしているのかもしれないが、室内に連れ込んでしまえばこっちのものだ。 「眠っちゃった人達を少しの間お願いするのにゃ」 円形の会場内にいた者達を祭りの担当者らに任せて、一旦新たな入場者をストップ。入り口を塞ぎ、本格的にもどきを指定された倉庫へと誘い込む。 幸い、もどきの知能は低かった。さっきの矢で確実に腹を立てたらしい。仔もふらの霜夜を敵と認識した時点でも周囲の状況を把握しておらず、邪魔者排除に入った。そういう思考が最優先事項となっている今、挑発しつつ逃げれば追いかけて来てくれる。余り距離を付けない様注意し、尚且つ人通りの少ない場所を選んで移動すれば十分もしないうちにもどきを倉庫へ。 そこでばたんと扉を閉めれば、後は袋の鼠だ。 「もっ、もふぅ!?」 そうして戸が閉まった時、やっともどきは己の状況を把握するがもう遅い。 「さて、愛らしいもふらの格好をして人間を食い物にしようとしたでしょう!」 びしぃぃと指差し、アーニャが言う。 「そんなお顔には騙されませんからね〜。早く退治してイカ焼き食べるのです!」 とこれは霜夜だ。もふら獅子の装備を解除をした彼女は汗だく。さっきの攻防で神経と体力を使ったらしい。 「祭りに来たのがおまえのミスだぜ!」 ナキがニヤニヤしながら言う。 「えっと、んと…これで天狗の納め時にゃ!」 「いえ、それは年貢の間違いね」 思案の末搾り出した言葉であったが、ばっさりと美沙樹に訂正されてポチは思わず赤面する。 「兎に角いくぜ!!」 そのナキの言葉が引き金となった。もどき危うし――命は風前の灯。 ●祭りの終結 「いや〜、なんていうか変な奴だったな」 たこ焼きを頬張りながらナキが言う。 あの後、もどきは本性を現した。澄ました顔をしていたが、実際の顔の目付きはカナリ悪く営業用と普通とではカナリかけ離れたものだった。隠されていた爪も長さは凡そ十cmはあり、なかなかに凶悪。そうであったから彼女らも容赦する必要もなく……彼女らの連携に一溜りもない。 先制したのはアーニャだったか。倉庫に着いたと同時に神楽舞『瞬』を皆にかけた美沙樹。それによって飛び掛ってくるもどきの先手を取ってアーニャが即射で対抗した。その間にナキがダメ押しに追加の混乱と防御低下の曲を展開し、加えてポチのかまいたちがもどきの体に傷をつける。そこへ霜夜の旋風脚が綺麗に入ると、もどきは呆気なく瘴気へと戻っていったのである。 「多分、睡眠系の術に長けていたのはあのアヤカシの防衛本能なのね…体力が極端に少ないから、攻撃されない様にする能力に特化した。だから、見付かった時点で負けは確定していたのかも…」 美沙樹がお客達を解術の法で元に戻して…今は観光客の一人である。 「うふふふふ〜、ポチさん。久し振りの感触なのですよー♪ だから、いつもより多くもふっちゃいます〜〜vv」 そうして、アーニャはその近くでポチをもふっていた。もはや彼女にとっての恒例行事と言ってもいい。挨拶代わりにもみくちゃにされながらもポチも満更ではなく、肉球までぷにぷにされて…それがマッサージ効果を発揮しているのか気持ちよさそうだ。 「にゃふふふ〜」 そんな声を出して、ゴロゴロ声を出す。 そして一抹はと言えば、本来の仕事に戻されていた。 「ちっ…あれの出現で仕事しなくて済むと思ったんだがな」 そうぼやいてはいたが、引き受けてしまったものは仕方がない。午後からは彼が舞う事となったのだ。霜夜ももう一つの予備の獅子頭を出して貰い、即興親子獅子舞の続きを演じて…今はひたすら豆を受けている。 「まあまぁ、もう少しの辛抱ですから頑張って下さいね! あ、後…今回のお礼にイカ焼き奢られてあげてもいいですよー♪」 そう言いつつ笑顔を絶やさない彼女の若さが眩しいと一抹は思う。 「仕方ない…一本だけだぞ」 それに一抹は意外と素直に応じてくれた。案外、それ辺の事はきちんとしているらしい。 「あ、すいません。できれば二本で…アーニャさんと来てるので」 「……」 少し申し訳なさそうに、しかし物ははっきり言う彼女に無言を返す一抹。 「あ、そうだ。節分もだから鰯も食べないと!」 まだ鰯は魚屋に有るだろうか。ポチと食べたいと彼女は思う。 『鬼もふらめー! 悪霊退さーん!』 そう言い、豆が投げつけられる。 鬼は外、福は内。もふらもどきも、無事退散――これにて一件落着。 |