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■オープニング本文 貴方の運勢、凶――。 行くとこ行くとこで事件に巻き込まれるでしょう。 最後まで気を抜かない事が大切です。か弱き者にもご用心。 そんな御神籤を引いたキサイは今、山道を歩いていた。 「遺跡って言うからどんなもんかと思えば楽勝だったな」 キサイが同行していた仲間に言う。たかが御神籤だ。それ程気にする事でもないだろうが、それでも人の心理としては一発目の仕事とあって必要以上に警戒していた。けれど、結果はあっさり攻略。大した傷もなく、現在都に戻る最中である。 が、ふいにキサイが立ち止まって……それに釣られて仲間も足を止める。 「何か聞こえるのか?」 耳を澄ます彼に仲間が問う。すると彼はある方向を指差して、 「あっちだ。足音複数……街道の方に向かってる」 「え?」 こんな山奥に複数の足音。自分らも多い事は多いのだが、彼の話によれば数十人はいると言う。そこで彼に従い、その足音の方へと歩みを進めて、見えてきたのは獣の皮を着た荒くれ者の集団である。 「兄きぃ〜、本当にくるんですかい?」 一人の男が言う。 「ああ、間違いねぇ。去年もここを通った…ほら、見てみろ。遥か先に馬車が二台、『愛の熱烈真心配達便』…あれに間違いねぇ」 「ふぇぇ、ホントだぁ。あれにそのちょことやらが?」 「おうよ。なんでもばれんたいんとかいう異国の行事を広める為に、ちょこれーとっつぅ甘い物を使った菓子を大量に運んでくるんだぜぇ。これを今狙わずしてどうする?」 にやりと笑う兄貴を尊敬の眼差しで見る子分。どうやらあれを襲撃するらしい。 まだ距離はあるが、いずれにせよこのまま見過ごす事は出来ない。 「皆、仕事が増えそうだけども…やれるよな?」 振り返り問うキサイに仲間が頷く。その間も山賊達の会話は続いている。 「で、兄貴そのちょこれーとってのはうまいんで?」 「ああ、あたぼうよぉ。あれは神の食べもんだ。あれを食べたらイライラは収まるし、集中力も上がる。それに何よりここんところろくなもの食ってねぇだろう? この時期は備蓄もなくなってくっからあれは絶対に外せねぇ」 「そうかぁ、神の食べもんかぁ。想像もつかないなぁ」 言っては悪いが間抜け面の一人が未だ見ぬチョコを想像し紅潮する。 「それによぉ、もうひとつおいしいオマケがある。売り子だ。その売り子は別嬪揃いでなっ。ひらひらした服でお出迎えとくりゃあ、もうたまらんだろう」 「そうなんすかぁ!! うわぁ、いいなぁ、俺頑張るっす!」 張り切る子分に兄貴も満足げに笑う。これが聞かれているなど微塵も考えていないらしい。 「なんかちょろそうだぜ」 その様子にキサイが息をはいた。気温の下がったこの場所では息が白い。 「こんな所長居は無用だ。ちゃちゃっとやっつけてさっさと帰るぜ」 キサイが言う。が、彼はこの時すっかり忘れていた。 あの御神籤のお告げの事を―――。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
昴 雪那(ic1220)
14歳・女・武
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●即決、決行 事は急を要する。馬車は既にこちらへと向かっているし、山賊もその為の行動を開始している。 つまりは時間がないのだ。そこで彼は無難に班を二つに分ける事を考える。 「あの馬車を止めて襲おうとする事は明白。でしたら先に止めて、それを囮にするのはどうでしょう?」 鈴木透子(ia5664)が言う。 「それはいいけども、そうすると馬車を危険に晒す事になるんじゃ…」 「いえ、私は第三者を装います。壁を出現させ、声をかけて囮班が顔を出せば自ずと気は馬車から囮へと向いてくれる筈」 「ん〜、けども相手は数いるんだぜ? 全員が囮に向かうとは」 「だったら僕らが一肌脱ぐよ」 「へ?」 雪山で荷物を探ってサライ(ic1447)とユウキ=アルセイフ(ib6332)が取り出したのは女物の衣装だ。 何故持っていたのかは聞かない事にする。 「しかし、囮にそんな衣装の女がいるって不自然だろ?」 確かに目立ちはするが、山道にドレスの女等とても不自然極まりない。 「馬車には僕が先にコンタクトを取っておきます。そして実行…こっちに気が付いたら中にいたのを装ってうまく誤魔化します」 「そんな事言っても」 相手が山賊といえど、馬鹿ではない。馬車の走る街道は今いる獣道からはよく見える。それは先を行く山賊達も同様で、その視界に捕らえられないであの馬車に近付くというのはなかなかに骨が折れる。 「隠密行動はおまえが得意だろう。奇襲に際してルートはお前に任せるぞ」 即座に役割分担を開始ししつつ、蓮蒼馬(ib5707)がキサイに言う。 「ちっ、簡単に言ってくれるぜ」 その言葉にキサイは舌打ちした。しかしその後は文句も言わず木の上へ。慎重にルートを探しに入る。 「ふふっ、さすがね」 その様子を見てシーラ・シャトールノー(ib5285)はくすりと笑う。 物陰ではユウキとサライが手早く衣装に着替え始めていた。 ガラガラガラガラ 車輪が線を描きながら馬車は何も知らず都を目指す。 その馬車を懸命に追いかけて、抜足で接近するのは浴衣ドレスに身を包んだサライだ。山賊は彼らが見つけた位置から移動していない。その場で馬車の足止めに使うべく、木の切り出し作業を行っている。透子もそれを知って、彼女のもてる全速力で前へ。木の陰に隠れて時を待つ。彼女の呪術の効果範囲に馬車が入らなくては事の起し様がない。 (「もう少しです…後数m…」) 目測で射程を計算しながら、彼女は心中で呟く。そして時は満ちた。 静かに術を発動し、街道に出現したのは白い壁。結界呪符によるものだ。 「なっ、なんだありゃ!?」 その出現を見るや否や山賊達から声が上がり、馬車の馬が戦慄く。 「危ないですよー! 盗賊です!!」 そこで透子が叫んで現れたのは囮班。馬車の行く道の前方に位置どって山肌を駆け下りる。 「ちっ何処の奴等だ! 数が少ない割に俺等を出し抜くとは!」 「兄貴、どうしやすか!?」 突然現れた三人組に動揺が走る。けれど、身形を見れば彼らが開拓者である事は明白だ。 「くそっ、こんな所で諦めてたまるか! こちとらもうすぐウハウハパラダイスなんだ! 野郎共、やっちまえー!」 『おーー!』 手にした武器を片手に山賊側も山肌を駆け下りる。 「全くゲスだわね…」 その言葉に先頭切って盾を構え下りていたシーラが呟く。 「遇に賊とはそんなものですよ。あれだけの戦力で襲うとは…そうとう飢えているようですが同情はしません」 その後ろでは三笠三四郎(ia0163)がそんな言葉を紡ぎつつ、三叉戟をしっかりと握る。雪崩を心配した彼であるが、大丈夫そうだ。動きやすい街道に降り立つと同時に彼は、 「来なさい! お相手しますよ」 そう叫んで、その力強い言葉に山賊が反応する。 「ふふっ、貴方達の様な格好ではチョコも女性も逃げちゃうかもね」 とこれはシーラ。挑発のつもりだろう。 「はっ、馬鹿にしやがって!」 「泣き見るのはお前らだぜ!」 口々に叫ぶ山賊らであるが、既に自分らが術中である事に気付いていない。 「さすが咆哮…シーラさんも術無しにアレだけ効果を出すとは、凄いです」 その手際のよさに昴雪那(ic1220)が感心しつつ奇襲に加わる。 「あの方が兄貴でしょうか? さすがにまだ距離がありますね」 戦の常套手段として頭を潰す事は有効だ。指揮官さえいなくなれば後は有象無象――この手の小物であれば制するのは容易い。天狗駆で駆けたい所だが、囮である以上こっちに来ている雑魚を放って置く訳にはいかない。立ちはだかる敵を前に手足を中心に攻撃無力化を謀る。それは三四郎らも同じだ。不動をする程でもなかったが、念には念を入れて…周囲に群がる敵を時に回転斬りで制しつつ、ちらりと馬車の様子を窺う。 幸い馬車はまだ無事だった。透子の白壁に防がれて、弓を持つ賊からの攻撃を防いでいる。それに今頃はサライが奇襲班に先駆け、馬車の中の者と接触しているだろうし、別働隊もすぐそこまで迫っている。 「んあ? 何を余裕ぶっこいて…ってぬあぁ!?」 そこで一人が気がついた。馬車と彼らの間に立つ影…そう奇襲班だ。 「うむ、いい子だなぁ〜おまえたちは私が守ってやるからな!」 馬を宥めながらラグナ・グラウシード(ib8459)が言う。 「男として気持ちは判るが、見過ごす訳にはいかんのでな」 とこれは蒼馬だ。 少し不憫に思ったりもしたが、盗みを許容する訳にはいかないと心を鬼にする。 「俺らに出くわしたのが運の尽きだぜ!」 「この馬車は決して渡さん!!」 奇襲班の口上が決まって、挟み撃ち状態になった山賊達。 形勢が傾きつつあるのを兄貴こと親分は悟る。が、 『キャーーーーー!!!!!!!!』 ここで思わぬ悲鳴が上がって、一同馬車を振り返り…。 ●予期せぬ展開 「あの、突然すいません。この馬車は狙われています…ですがご安心下さい。僕らが御守りします」 馬車を白壁が止めた直後にサライが屋根付の荷台に飛び込み事情を説明。突然の急停車の訳を聞いて身を寄せていた彼女達だったが、訳を聞くうちに見る見る表情を一変させる。そして、彼女らから紡がれたのは、 「あのあの、って事は私達助けられちゃうんですよね?」 「え、あ…はい」 「勿論その中には男性の方とかもいたりしますよね?」 「あ、うん。僕も…そのお」 『きゃーーーーーーー!!! どうしましょう!?』 それぞれが顔を見合わせて…次に続くのは、 「こうなったら私達の勇者様を見なくてはね! 皆行くわよ!」 「ええっ!!!?」 その反応にサライは驚く。話の内容からしてどうしたらそうなるのか。しかし、彼女らは本気の様でわらわらと馬車から降りてゆく。そして、 『キャーーーーーーーー!! イケメンよーーー!!』 偶然にもこちら側にいるのは男ばかり。山賊そっちのけで群がる売り子達。彼女達の目には自分を助ける白馬の王子様にでも映っているのだろう。 「あのぉ、この背中のうさぎさん可愛いですね♪ 名前あるんですかー?」 可愛い者好きなのかラグナの背負うぬいぐるみを見つけて一人の売り子が彼に声をかける。 「貴方、逞しいわね。彼女とかいるのかしら?」 と蒼馬には少し年上のグラマラスお姉さんが接近し、彼は顔を赤らめる。 「おい、あんたら今の状況をわか」 そういいかけたキサイだったが、ツインテールの少女が現れて、 「うわっ、本物のシノビさんですね〜。かっこいいv」 その言葉に自然と顔が綻ぶ。 「もう、キサイさんったら鼻の下伸ばして…」 それを目にシーラがむっとした。彼女だけではない。 同じ男でありながら相手にされない山賊達の心に怒りが宿る。 「兄貴…なんか俺らそっちのけで盛り上がってますぜ…」 幾分取り残された山賊の一人が、羨ましげな目で言う。 「ぐぬぬ…んなの言われなくともわかってら! 横取りリア充など許すまじ! いくぞ、や」 そう言いかけた時、彼らの隣に現れたのはドレス姿の二人組だ。 一人はブルーでふわりとした布が印象的、もう一人は和洋コラボした黒地に薔薇が鮮やかに描かれた浴衣ドレスを身に纏っている。 「こんにちは♪ チョコレートショップ・紅薔薇の試食デリバリーです♪」 そして薔薇浴衣のサライがぱちりとウインクを添えて、差し出したのは勿論チョコレートだ。 「ム、ムムム…これは」 神の食べ物――そう現した兄貴がそれを見つめて、僅かに唸る。 「寒い山中でお勤めご苦労様です。淹れ立て挽き立てコーヒーもありますから、一杯如何でしょうか?」 とこれはユウキだ。野営用に用意していた珈琲を入れて、立ち昇る香りが寒空には絶好の誘惑素材となる。 「ふわぁ、襲う必要なんてなかったんじゃねえですかい。俺らにも優しいし…」 すっかりほだされた一人がユウキの珈琲に手を伸ばす。 「お、おい! おまえ飲むんじゃねえ。これは罠かもしれんぞ!」 だが、さすがに兄貴がそれを静止した。しかし、視線はどうしても外せない。 「いやだなぁ。何も入ってませんよ、ねぇ?」 そこでユウキは珈琲を飲んで見せて…一分、二分。けれど、特に彼に異常はない。 「ほ、本当だな! 騙したりは」 「してませんて。ほら、こっちのチョコレートも美味しいですよ」 そう言って可愛く笑い山賊の一人に棒状のチョコを押し当てる。 「ぐふ、甘いです〜〜…ん?」 もぐもぐするうちにいき付いたのは硬い感触。ちくりとして、微妙に鉄の味がし始める。 「ん〜〜、こっちも芳し…ぎ…あ、じわ゛い゛」 一方珈琲を飲んだ者にも変化は出始めて、 「フフフッ、痺れるでしょう。特別製ですからね」 ユウキが静かに笑う。セイドだ。試し飲みの後にこっそり仕掛けたのだろう。 「ちっくしょー、騙しやがって!! ほらぁ、立てる者は立て! こいつらをやっちま」 「えい♪」 ドスドスドス そう言う彼の横を何かが飛んだ。その先にはさっきの棒状チョコが刺さっている。 「あにぎぃ〜、あれ、だべですぅ。がみじゃない〜あぐまのだべものだぁ〜」 さっき嬉しげに頬張っていた一人が舌を出し涙目に語る。 どうやらさっきのそれに太陽針が仕込まれていたらしい。 「くぅ〜〜〜なんて奴らだ! 俺らが何したっていうんだぁ〜〜〜!!」 「いや、でも気をつけて食べれば大丈夫かも…」 「馬鹿言え! こうなったら焼き払ってやるーー!!」 こうなると親分ご乱心――最終兵器としてとっておいたらしい火薬玉に火をつける。 「やべっ!」 それを見てキサイが売り子達を庇いに入る。 「おのれ〜、確かにりあじゅうどもの手に渡るのは惜しいが、菓子に罪はなーーーいっ!!」 そこでラグナが動いた。売り子達を振り切り、親分はを取り押さえに走る。そんな彼をそちらに向かわせる為、蒼馬は彼に向かって空気撃。一層の加速を増して、激突する形でラグナと兄貴は転倒。しかし、火薬には既に火がついている。宙を舞う火薬玉に緊張が走る。がそこにサライが駆けて、 「とう!!」 彼は冷静だった。飛び来た火薬玉を蹴り上げる。 すると同時に不意にドレスは捲れ上がり、露になるのは薄生地の紐ショーツ。 『し、白だ…』 複数名の山賊から零れた言葉。 そんな彼らにはシーラの体当たりと、とある言葉が効果てき面。 「あなた達、判っているのかしら? あの子は…」 『男の子ですよ』 『ぐはっ!?!』 シーラの声に透子の声も重なって衝撃を覚え、精神的ダメージに崩壊する山賊達。 それでも辛うじて戦意を残した敵は三四郎が迎え撃つ。 ドーーン そこで宙に上がった火薬が爆発した。 そして下敷きになっている兄貴の元には雪那が近付き、徐にチョコを差し込む。 その行為の訳が判らず、親分が首を傾げると、 「これは神の食べ物と聞きました」 じーーと彼を見つめつつ彼女が言う。 「それを食べるとイライラが収まるとか……収まりましたでしょうか?」 彼に答えを求める様に、彼女は至って真剣だ。からくりであるからよく判らないのかもしれない。その問いに彼は呆然とした後、がくりと顔を雪に埋めるのだった。 ●強制同行 「本当にアジトには誰も残っていないのですね?」 二台あった馬車の荷物を一台にまとめて、開いたスペースに山賊達をふんじばり乗せた馬車で三四郎が山賊らに問う。 「え〜もういいじゃないですかぁ。それより私はあなたの事が知りたいですぅ」 とその横では売り子の一人が彼に話しかけている。 ちなみになんでこんな事になっているのかといえば、また何かあるかも知らないと半ば強引に開拓者らは同行を強制されたからだ。しかし、山賊縛ったとはいえ放置する事もできず、今このような状態に至っている。 「ねぇ、こんなのどうかしら?」 そんな中でもシーラは楽しげだった。自慢の腕を活かして売り子達に新たなチョコ菓子の提案をする。途中休憩時間には実際に作って見せて、皆に配った程だ。そんな中、こっそりキサイに耳打ちしたのはこの後の事。 「街に着いたら本命を用意するから待っててくれるかしら」 不意打ちに近い告白に思わず顔を赤くするキサイ。そんなやり取りを蒼馬は微笑ましく思う。そしてその後浮んだのは娘の事だ。娘も好いた男ができたらと考えて――ふと自分が貰うなら? 義姉から…そう思い至り苦笑する。 (「我ながら、昔の思いを引き摺るとは…」) だって彼女は……そんな横では別の意味で苦い顔のラグナがいる。 「こんな天国なのに…なんで、どうして…このチョコは甘くないのだーーー!!」 甘い物好きで、一時とはいえ女の子に囲まれているという、人生始まって以来のフィーバー空間であるのに、なぜか口に広がっている苦味に彼は悶絶する。 「え〜、これとても高級なんですよぉ。カカオ70%ですし」 「しっらー−ん! 私は高くなくてもいーーー! 甘いのがいいんだ、な、そう思うよな、うさみたん!?」 ぎゅうとぬいぐるみのうさぎを抱きしめて彼が主張する。 一方、サライとユウキはまだ女装中でだった。 というのもあの後着替えようとしたのだが、その方が可愛いと彼女達に服を奪われて、未だ返して貰えていないのだ。 「あうぅ〜、なんでこんなことにぃ〜〜〜」 もじもじしながらサライが言う。黙っているユウキは兎も角、サライのそんな仕草がまた彼女達の母性本能を煽ってしまっているのだが、本人は全く気付いてはいない。 そんな時間もあっという間だった。 ギルドに着くと名残惜しそうに売り子さん達が開拓者らを見つめる。話によれば彼女達は皆一人身らしかった。だからこそ、危機を共有すれば恋が目覚めると信じて…たかとうかは判らないが、彼女らも山賊同様飢えて…いや、出会いを求めてあの場に出たらしい。そんな彼女らから感謝チョコを頂き、それぞれがまたいつもの日常に戻っていく。 「結局、ばれんたいんとは何なのでしょうか?」 最後に零された雪那の呟き――しかし、もうそこにはその意味を説明する者は残っていなかった。 |