【初夢】閻魔vs新百狩
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/18 15:02



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 あの世とこの世を繋ぐ道、その狭間に位置しているのは閻魔という名の裁判官の屋敷。
 彼の仕事は言わずと知れた現世での行いを客観的に見て裁く事――。
 悪人は地獄へ、善人は天国へ。情状酌量がありそうならば、それなりの待遇を考えて適切な場所へと送検する。それが彼の仕事だ。だが、ここへ彼がやってきた時…彼の全てが一変した。
「私が地獄に。まあ、当然かもしれませんねぇ」
 名は狩狂…本名は八手。現世では賞金首だった所謂悪人。
 現北面王を殺す為に、貴族を根絶やしにする為に、詐欺組織『百狩狂乱』を立ち上げた若き頭目。その理由は貧しかった幼少時代に遡る。力のみでのし上がれると信じた北面で見た貴族の横暴と身分の壁。それに加えて右手小指の負傷が彼の全てを奪い去る。握力の要は小指という。利き腕だった右手の致命的な怪我に…しかし、彼はそこでもめげなかった。生まれ持った戦闘センスを生かして、そのハンデをものともしない力をつけて彼は帰ってきたのだ。けれど、開拓者と旧友だった芹内によりその野望は潰え、今この場所にいる。
「案外あっさりと受入れてくれたな」
 判決を下した後の正直な閻魔の感想。けれど、この後その考えが甘かった事に気付く。


「なっ…今、何と言った」
 頬から汗が流れる。
「あの狩狂という男が地獄の亡者を連れて、ここに攻めて参りましたー!!」
 側近である見かけは人と変わらない鬼が、慌てた様子で報告する。
「で、その数は?」
「そんなの知りませんよぉ! けど、凄い数です!! きっとあれは亡者らが全員加担しているかと」
「な、なんだと!!」
 今まで地獄に送った者全員がやってきているのだとしたら、こんな屋敷など一瞬で潰されてしまう。どういう理由でこうなったのかは判らないが、はっきり言って絶体絶命である。
「閻魔とか言いましたねぇ。少し気が変わりました。私は貴方がどんな人物か知りません。なのに、私が貴方の一声で地獄落とされるというのはおかしいとは思いませんか?」
 何処から連れて来たのか、巨大な三つ頭の犬のような獣に乗ってふてぶてしくも狩狂はそう言ってのける。
「ちっ、なんて理屈だ。ここの番人が私だと言ってもあれは納得しないんだろうな」
 閻魔はそうぼやきつつ、彼の見える窓に姿を現す。
「ならば私の経歴でも話せばいいのか? 何が目的だ!」
「そんなもの必要ありませんよ。知った所で意味等なさない。それよりももっと判りやすい方法があるでしょう? 私と貴方、どちらが優れているか決めればいい」
 口元を吊り上げて、彼は笑う。
「その方法は?」
「カルタです」
「カルタ…だと」
 その言葉に一瞬呆気に取られる。
「ええ。無差別級のサバイバルカルタ。いかがですか?」
 てっきり武力行使してくるものだとばかり思っていたのだが――この申し出は確かにありがたい。これならば、こちらにも勝ち目があるというものである。
「よし、わかった。その勝負受けよう」
 閻魔が言う。しかし、それは勿論ただのカルタではなかった事を…彼はこの時知る由もない。
「くくくっ、いい暇潰しになりそうです」
 一方狩狂は背後に亡者共を引き連れて、この舞台を楽しもうと画策する。
「狩狂様、私も参加しても?」
 かつて彼の側近だった女幹部・氷刹が彼に尋ねる。
「ええ、勿論」
「でしたら僕も出させて頂きます」
 とこれはもう一人の幹部・黙幽だ。ここに来ても彼らはつるんでいるらしい。
「さあ、やるからには本気でいきましょうか」
 始まるは一時の戯れ――この世とあの世の狭間で繰り広げられる前代未聞の大一番。


●【無差別級サバイバルカルタ】について
ルールは通常のものと同じです
読み札の始めの文字と同じ文字の取り札を取っていく勝負にて
全ての札を読み終えた時点で、取り札が多い方が勝ちとなります

但し、これは『無差別級サバイバル』です
よって、札を取るまでであれば何をしても構いません
武力を行使する、妨害スキルを展開する他
参加者以外のものを利用して札自体を移動させる事も可能です
ですが、取られた札を横取りする為の暴力行為は認められません
取られた札をどうしても取り返したい場合は『ちゃれんじ異議あり』が認められます
『ちゃれんじ異議あり』とは取られた際の状況を説明し、その時の不当性を訴える事です
これに成功すれば、とられた札を自分の物にする事が出来ます
自分の話術に自信がある方はお勧めです

札は燃やしても凍らせても切っても破損しない仕様で出来ています
死なない程度に激しいカルタを楽しみましょう(笑)


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 秋桜(ia2482) / 蓮 神音(ib2662) / 蓮 蒼馬(ib5707) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / 刃香冶 竜胆(ib8245


■リプレイ本文

●あー・ゆぅ・れでぃ?
 揃ってみれば何処か因縁の顔触れ。これを運命と言わずして何という。
 関わり方はどうあれ、ここに来たからにはやるしかない。
(「これは、何という悪夢…いや、悪夢なのか?」)
 眼前に広がる殺風景な大地に、馬鹿でかい三つ首の生き物に乗った狩狂を見つけて、秋桜(ia2482)は息を呑む。彼女はなぜか見知っていた。現世では手配書だけであった筈なのに、何処かで彼女は彼に会い誘われた気がしてならない。
(「よく判らないですが、もしこの記憶が本当ならば狩狂殿に味方をして早く変な夢から目覚めるのが近道ですなぁ」)
 居心地の悪さの抜けないこの場所で長居は無用。さっさとカルタとやらを終わらせるに限る。
「貴方は我々に付くと言うのですね?」
 獣の背に乗った狩狂が問う。
「はい、仕方がありませんので。楽な方に付かせて頂きます」
 彼女はそう言ってぺこりと頭を下げる。
「あら、別に私がいるから構わないのに…」
 やたらに露出した衣装の氷刹がそう言うが、気にしない。
「もしよければ、わたくしの立てた作戦に乗って頂けませんか?」
 そこで彼女は直接狩狂の元に跳び耳打ちする。
「…くくっ、成程。相手は裁判官ですしいいですねぇ」
 狩狂はそれを受入れた。早速皆にある事を書き付けた布を配り付けさせる。
「俺もこっちで戦いたいんだが、いいだろうか?」
 とそこへもう一人、狩狂の元を訪れた者がいた。蓮蒼馬(ib5707)だ。
「ほう、貴方は何か策がおありで?」
「いや、そう言うのはないが腕には自信がある」
 泰拳士であるから腕は確かだ。現に露になった筋肉は適度に鍛えられている。
「蓮と言えば泰国に物騒なのがいましたねぇ…まさかその一族の方で?」
「…あぁ、そうだが」
 彼が言うのは『蓮家』という暗殺者一族の事だ。だが、その一族は弟の裏切りにより、別の氏族に滅ぼされた。けれど、その末裔がまだ生きているという噂も一時期流れて、それを覚えていたらしい。
「ほう、貴方も閻魔につけない訳があるという事ですね。いいでしょう、好きにしなさい」
 そう言い了承する狩狂であるが、側近の黙幽は面白くなさそうだ。
「あぁ、そうさせて貰う」
 が、蒼馬の本来の目的はそんなものではなかった。
(「あいつはあっちに付くと言っていたからな。これはまたとないチャンスだ…神音、見事この師を越えて見せろ!」)
 娘であり、弟子である少女の名は蓮神音(ib2662)――彼女は蒼馬にとって恩人である男の娘だ。だがその恩人は死去し、残された彼女を養女として今の今まで育て上げたのは彼である。
「随分、強くなったぞ…おまえの娘は」
 すくんだ色の空を見上げて彼は対決の時を待つ。


 ゴォォォォン

 狭間の土地で大掛かりな銅鑼の音が鳴り響き、いよいよ両者合間見える。
「あの時は世話になったな。芹内王の代わりに相手になってやろう」
 ごきごき指を鳴らして、堂々向かい合う形で羅喉丸(ia0347)が言う。
「おや、貴方は芹内に付いていた開拓者ですか。こちらこそ…今日はあの時のようなハンデはありませんよ」
 それに狩狂はそう答えて――あの右小指は動く様だ。
「そんなこと言うて、また返り討ちにおうたら恥ずかしいおすえ?」
 とこれは刃香冶竜胆(ib8245)…彼女もまた狩狂討伐人の一人である。
「そうなんだよ。狩狂なんかに好き勝手させな……ってあーーーーー!!!」
 その後ろから割って入った神音だったが、蒼馬が百狩側にいるのを見てあからさまに動揺する。
「え、ええ……まさか、センセー」
 蒼馬の隣に視線をずらして、そこに立っているのは三人の人間。黙幽は問題ないだろうが、残りの二人が怪しい。どちらも女性だし、胸がカナリ大きいのだ。
「お、おい…神音、どうした?」
 じーーと見つめる娘の姿にたまらなくなって蒼馬が問う。
「センセー、あれにつられたんだね」
「え?」
「隠さなくったっていいんだよっ! 神音だっていつかめろん、いや西瓜になってみせるんだからー!!」
 そう言って涙ながらに走り去る彼女に戸惑う父。
「メロン? 西瓜? 何の事だ?」
 そこでちらりと隣を振り向いて、零れ落ちんばかりの胸元に思わず赤面する。
「あ〜、あれ大丈夫でしょうかねぇ。蒼馬さん、逆上せちゃってるし」
 そんな彼を遠くから見ていたのはユウキ=アルセイフ(ib6332)だった。ちなみに彼は閻魔側の応援席に陣取っている。
「…しかし、やはり閻魔様に勝負を挑むのは本当だったんですね…」
 全体が見える様、簡易的に作られた観客席から会場が見渡し言う。場所は何の変哲もない開けた土地であり障害物は何も無く、札を並べるには適していると言えよう。そこを囲む様に作られた観客席では、亡者や鬼がこの一戦を見下ろしている。
「ん〜、ここで見ていても巻き込まれそうで怖いなぁ。魔法の鏡とかないかなぁ」
 距離はそこそこあるのだが、何せあの狩狂と閻魔の戦いだ。例えカルタといえど、何が起こるか。ルールブックに目を通すと、札を取るまでなら何をしてもいいと書いてあり、それはつまり相手を行動不能にしても構わないという事である。
「そんなもの存在する筈がないでしょう」
 そこへ突如声がした。それにはっとして振り返れば、隣に何故か黙幽が座っている。
「え、ちょっと困ります…」
 大きなプレッシャーは感じないが、彼は狩狂の片腕だ。油断は出来ない。
「さっきのアナウンスを聞いていなかったのですか? 観客の中から抽選で読み手を決めると。貴方の座席番号が選ばれました。早く来て下さい」
「ええーーーー!!!」
 そんなの聞いてない。ここでさえ危険を感じるのに、あの場に下りたら確実に何らかの災難に巻き込まれてしまうではないか。
「あの、僕…お腹が」
「駄目です。これは天が決めた事…逃げる様ならばここで殺します」
「え、そんなっ無茶」

 カチャ

 言いかけたユウキの首元に鋭利な苦無が宛がわれる。
「…わ、わかりました。だから、それを、下ろして…下さい」
「宜しい」
 全く持って理不尽にて強引。ユウキは仕方なく、会場のど真ん中へと引き摺り下ろされ…決戦の火蓋は切って落とされ様としていた。


●ぷれい・すたーと
「おやおや、随分と頭数を増やしましたね」
 閻魔側の人数を確認し、狩狂が言う。
「ルールには人数を合せろと言う注意書きはなかったからな。本気で行かせて貰う」
 とこれは閻魔様。大人気ないが、負ける訳にはいかないのだろう。羅喉丸、竜胆、神音の他にも部下を十数名参加させている。
「ええ、構いませんよ。その位でどうこう出来るとは思いませんので」
 だが、狩狂はそれをあっさりと受入れた。現世でも数名で城攻めをやってのけた男だ。それ位自信があるのだろう。
「だったら、こっちも全力を尽くそうじゃないか。あの何だったか…『ちゃれんじ異議』とやらはなしでもいい」
 それを聞いて、これは羅喉丸。元々彼自身はそれを使う気は無い。残りの開拓者二人もそれに同意する。けれど、この人は違った。閻魔だ。
「いや、何が起こるか判らん。それはやめておこう」
 そう言って、狩狂を見据える。
「おやおや、ここの長ともあろう者が逃げ腰とは。呆れてものも言えませんねぇ」
 百狩の面子が笑う中、それでも彼は冷静だ。
「好きに言えばいい。だが、異議は必要あらば使わせてもらう」
 閻魔の言葉に「お好きにどうぞ」と軽くあしらう狩狂。どこまでも腹の底を見せない男だ。
「そ、それでは…始めたいと、思います。両者位置について」
 そこでユウキが皆を促し、まずは一枚目。
「誤字ろ…」

 しゅぱーーーーん

 その言葉が始まったと同時に一陣の風。目にも留まらぬ速さで札を取りさったのは黙幽だ。手には『ご』の札が握られている。
「一体何が起こったんだ…」
 読み始めてたったの三文字。しかし、よく考えれば彼はシノビ。聴覚も足も並外れていて当然だ。
「審判、確認を」
 念の為、読み札と取り札を確認する。
「誤字六字、変換文字化け涙です…はい、合ってます」
 誰が作ったカルタなんだと言うのはさておいて、一歩も動けなかった。閻魔側に動揺が走る。そして、その後も瞬く間に問題の札へと辿り着く百狩の面々に、戦闘に持ち込もうとする閻魔側であるが、それが叶わない。
「どういう事だ? 札の位置を全て覚えてでもいるのか?」
 迷いなく走り出す彼らに羅喉丸が言う。
「これは何か変でありんす。覚えているにしてもこの広さ…不可能とは言い切れまへんが、それにしては早過ぎでありんす」
 格なる上は読み札を気にせず選手を潰すか。そうは言っても相手は強敵だ。しかし、やるしかないと次の読み札までの間に各自敵の傍に付く。そして、
「た」
「行くぞ!」
 始めの文字が読まれたと同時に攻撃を開始。相手を落としにかかる。
「修練を怠っていた訳ではない事を教えてやろう」

 ドッ ガッ バッ

 羅喉丸が狩狂の動きを阻む様に前に出て、拳を突き出す。だが、狩狂もそれを難なくいなして、手首を返すと彼の腕を掴みにかかる。だが、羅喉丸もそれを掴まれまいと更に腕を返して、カンフー映画さながらの激しい打ち合い。どちらが先に掴むか、退くかの駆け引きが続く。
「フフッ、こういうのは久し振りです。あんな業物を扱うのは本来私の趣味ではありませんでしたので」
 志士であったのだから武器が苦手ではないだろうが、彼はそう言い本家の泰拳士と互角以上の動きを見せる。
「ならば、もっと楽しむか?」
 そこで羅喉丸は瞬脚を発動。間合いを詰める振りをして一旦退くと次の折には背後に回っている。
「ほう、素晴らしい」
 狩狂はそれを賞賛する。この速さであっても彼には羅喉丸の動きが見えていた様だ。
「取ったーー!」
 だが、そこで声が上がった。札を手にしているのは一人の鬼だ。まずは一枚…助っ人開拓者らが百狩メンバーの動きを封じていたおかげで取れたらしい。
「さぁ、皆の者。ここから挽回するぞ!」
『おーーー!!』
 閻魔側が叫ぶ。そして、この後速さの秘密が明らかとなる。
「次、行きますね。えーと、お茶し…」
「頂くわ」
 すぱーーんといい音がして今度は百狩側・氷刹の勝利――かに見えたのだが、状況は違っている。氷刹の手が届く少し前に竜胆が彼女の近くで剣気を放ったのだ。それにたじろいだ氷刹の隙を突いて竜胆が更に隼襲を使い、彼女を倒し札を取る。それと同時に氷刹が地面に身体を打ち付けて――はらりと腕に巻いた布が解ける。
「むむ、何だこれは?」
 それが速さの正体だった。閻魔が拾い上げ確認すると、それには何やら文字が書き付けられている。
「えと、次いっても?」
「いや、待ってくれ。これはまさか…」
 ぱっと見れば意味不明な言葉の羅列。だが、少し考えれば鋭い者なら勘付く。
「ご・む・く・も・さ・ざ……お。ユウキとやら、今までの読み札の頭文字は?」
「ご・む・く・も・さ・ざ……お。あ!?」
「フッ、ばれましたか」
 つまりだ。彼らは取り札を暗記していたのではなく、逆に読み札の順番を知っていたらしい。
「しかし、どうやって?」
 初めから今まで札に怪しい部分はなかった。しかも読み札はユウキの手によって開封されている。よってすり替える隙はなかった様に見える。それにあの布は開始時点で既に百狩側の面子はしていたのだ。
「くくっ……豆鉄砲でも喰らいましたか?」
 狩狂が閻魔側の驚き顔を見て言う。
「だって、神音達はずっとここで対決していた筈だし…」
「神音様。わたくしを誰だとお思いで?」
 狩狂の裏から顔を出したのは秋桜。彼女の職業もまた黙幽と同じで。
「と…いう事は僕が知らない間に?」
「ええ、お察しの通りです。私はシノビ…時間をも止めるのは容易いのです。ゴメン下さいましね…この勝負を早く終わらせて帰りたかったもので」
 表情一つ変えずに笑顔のまま秋桜が言う。
「そんなのずるいよー! 正々堂々と…」
「誰が何時、そんな事を言いましたか? 人の世もこの世も勝った者が全て。弱肉強食の世界にスポーツマンシップ等必要ありません」
「センセーまでそんなずるしてたの?」
 悲しさと怒りを入り混ぜた表情で神音が蒼馬を見る。
「それは…」
「もういいんだよ。だったら神音にも考えがある」
 ぼっと神音の目に炎が灯る。今までは師と思い何処かで加減していたが、もうそれは必要なさそうだ。
「えと、とりあえず公平を期す為に読み札をシャッフルさせて頂きますね」
 その空気に耐えられず、ユウキが慌てて札をきる。
(「何度きってもわたくしがまた夜を使えば把握は出来ますが…」)
 次の札を仲間に伝えるのは難しい。彼女自身もさっきとは事なり、本気で取りに行かなければならなくなるが…勝敗は果たしてどちらに傾くか。現在、さっきの策略により百狩優勢。


●ばでぃ・あんど・ぼでぃ
 仕切り直しを挟んで後半戦、見所と言えばやはり本気モードの入った蓮親子の激闘であろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 レベルの上では神音が上。加えて蒼馬が暗殺者で『神童』と呼ばれていたのは随分昔の事である。読み上げられた『き』の札目掛けて、二人は猛烈なスピードで走る。
(「力を落としている今のセンセーなら勝てるっ!」)
 そう思い手を伸ばすが、
「甘い!」
 蒼馬が速度を上げて更なるリード。加えて空波掌で札を上空に飛ばし…どちらも地を蹴り跳び上がる。だが、ここでまたも超えられない壁。少しの身長差が勝敗を分ける。
「くぅ〜〜〜、悔しいんだよ!」
 苦虫を奥歯でぎりぎり噛む仕草を見せて悔しがる神音。一方、蒼馬は冷静を装うが、内心は――。
(「次はきっと格闘で来るだろうが、夢の中とはいえここまで怒らせて大丈夫だろうか?」)
 家で家事をしているのは神音だ。彼女の成長の為とはいえ、その事を告げていないから今後の生活が危うい。
「鍋ぶ」
(「いかん、次がきたか」)
 ユウキの声が聞こえて、彼は思考を中断する。がその時には既に神音が大接近。身体を反らせ後方へ。するとその途中に見つけたのは問題の『な』の札。
「うりゃあああ!!」
 しかし、神音はそれに気付いておらず、一心不乱に蒼馬を狙う。
(「くっ、ここはこの攻撃を受け流してあれを」)
 そう、先の手を構築したその時だった。
「あ、氷刹がぽろりしてる!」
「何ッ!?」
 思わず振り向いてしまったのは男の性…受け流す態勢で腕を出していたものの、その気の緩みが仇となり、神音の二手目が彼のボディにヒットする。
「センセーのばかー!」
「ぐはっ!?!?」
 一瞬息が詰まった。それと同時に眼前が白くなって、薄ら妖艶な天使の姿が見えた気がしたが、すぐに視界が朱に染まり、それが己の鼻血だと悟って、
「ふ、成長したな…」
 そう言うのが精一杯だった。けれど、今の姿ではなんとも威厳などなく格好悪い。勝ち取った神音も内心は複雑のようだ。
「くっ、私の身体を餌にするなんてやるわね、あの子」
 その近くでは氷刹が言う。
「別に、小生でもよろしかったと思いますけどなぁ」
 だが、その竜胆の一言で新たな火種。
「はぁ? 貴方如きが私に勝るとでも?」
 ばばーんと胸を強調する形で氷刹が彼女を牽制する。
「そうですやろか? 小生とてそれなりに自分の身体には自信を持ってるんおすえ」
 とこれは竜胆。負ける気はないらしい。こうなればカルタそっちのけでどうやら何か始まりそうだ。
「そこのメイド、テントを用意して。こうなればお色気水着勝負よ!!」
「ええっ?!」
 いきなりの指示に声を出す秋桜。えらい事になってきた。
「あの、いいんですか? 狩狂殿」
 そう問う彼女に狩狂は「あれは聞かない」と言い了承する。
「さすが狩狂様ですわ。そうね、審査員はそこの読み手の坊やと閻魔、そしてあんたもよ」
「む、俺か」
 突如巻き込まれてユウキと羅喉丸が困惑する中、何故だか水着勝負が始まる。

「エントリーナンバー一番、私に触れると凍傷するわよ…氷の女。氷刹〜〜!!」

 誰アナウスなのかそんな紹介を終えて、登場する氷刹の水着はとてもシンプルだ。あの衣装であったから、更に際どく来るのかと思えば、なんの…豹柄のツーピースビキニとおとなしめだ。しかし柄の影響なのか、存在感はバッチリでまさに雌豹と言った言葉がぴったりである。
「おぉ、ああいうの好みかもしれん」
 そんな彼女に観客からは歓声が飛ぶ。

「続いてエントリーナンバー二番、郭言葉のクールビューティ…実は刀鍛冶の娘、刃香冶竜胆〜〜!!」

 その後の竜胆は紫のワンピースだった。腰の部分が二重生地になっているスカート仕様。長めに取られた生地をサイドで結べばパレオの様にも見せられ大人な雰囲気の中に可愛さを残している。
「うひゃ〜〜、眼福だぁ〜〜!」
 これまた観客からの歓声に手を振り微笑む。
『さて、決めて貰い…ってあ』
 一通りのアピールを済ませた二人が審査席を振り向いて、同時に言葉を失くした。
 閻魔は駄目だった。久し振りの強烈な刺激に鼻血が止まらず、出血多量で昇天気味。その隣のユウキは顔を真っ赤にしたままにこやかな笑顔で固まっている。そして羅喉丸は……逃げていた。
(「俺に女性二人の甲乙を付けるなどと出来る筈がない。許せッ」)
 そんな心中で狙うは狩狂。優雅に客席に座る彼の胸倉を掴んで、
「狩狂、今すぐだ。今すぐケリをつけてやる!」
 そう言い、強引にカルタに戻ろうとする。
「おやおや、意外とうぶなのですねぇ。たかが女ではありませんか?」
 その反応を楽しむ様に笑って、狩狂は腕を組んだまま動かない。
「くっ、ならば力付くで」
 そこで羅喉丸は襟を掴んだまま、カルタ会場へ。
「これじゃあ勝敗がつかしまへんなぁ」
 それを見やり、興が削がれたが二人が肩を落とす。
「そう言えばそちらにもう一人、いてはった青年はんは?」
「ああ、黙幽ね。あれば駄目よ…だって」
「あんさん、小生と氷刹殿。どちらがええ思いますやろか?」
 忠告しかけた氷刹を余所に竜胆が問う。が、
「私は狩狂様一筋です。失礼ですが貴方方では話にならない」
 そうすっぱり言われて呆気に取られる竜胆。そっちの方でしたか…と誤解を呼ぶ。
(「僕の一番はあの方だけだ。強さから言えばあの二人はまだまだですよ」)
 下克上の百狩で過ごした日々がそうさせているのか。彼の目に女はうつれど、見る対象は美貌ではなく強さのみ。傍は寂しい奴だと言うが、我関せず。


●うぃ・あー・うぃなー
 閻魔と蒼馬は戦線離脱。そこの穴を埋めるべく閻魔側は一人入ったが、百狩側はそのまま続行。
 ユウキの意識を呼び戻して、カルタが再開される。
「いつの間」

 ダッ

 読み札の頭文字は『い』だ。同時に向かった羅喉丸と狩狂が激突する。
「いい加減、私を狙うのは止めて頂きたいですねぇ」
 狩狂が羅喉丸に言う。
「そうは言っても俺はお前を止めにきたからな。眼前に立ち塞がると言うなら、全てを砕いて進むのみ」
「そうですか。では私も本気を出すべきですかねぇ」
 そこで狩狂は髪を揺らして…その瞬間姿が消えた。これには羅喉丸が目を疑う。
(「何処だ、何処に」)
「ここですよっ」
 ぞくりと感じた背後への気配に、咄嗟に彼も八極天陣で回避に出る。
 くるりと反転した身体に狩狂はこれといって驚きはしない。ならばもう一度消えるまでと再び姿が消える。しかし、今度は彼も見逃さなかった。狩狂は消えたのではなく、高く跳躍し彼の視界から外れたに過ぎない。
「そうはさせんっ!」
 一瞬の隙をついて、狩狂の髪を引張りそれを阻む。だが、確かにあった手応えが急に重みを失って…。
「なっ! かつら!?」
 すぽりと抜けた髪にあっと仰天。そのまま尻餅をつく。
 だが、本体を見てみればちゃんと髪はあって何がなんだか判らない。
「くくっ、いい顔ですね。何が起こったか判らないですか…」
 札を持つ二つの影に羅喉丸は瞬きする。
「これはカルタでありますが、チーム戦でもある。貴方が私を抑え込んでいても他が取ってしまえばこちらの勝ち。それに二対一とて構わないのですよ」
 つまりは一回目の跳躍の時、入れ替わったのだろう。現に前に立つ黙幽の服は狩狂のものと同じになっている。
「くっ、こっちが正々堂々と立ち向かっているのに」
「先程も言いましたよね? 勝てばそれでいいと…それに我々は偽士でもありましたから」
 くくっと言葉尻に笑って、彼らの手は変幻自在。まともにやるのかと思えばそうではなく、のらりくらりと相手を翻弄する。
(「こっちに来て性格が悪くなったか? あるいは本来はああなのか?」)
 芹内王の友だったと言うが、なんというか一筋どころか三筋あっても足りるかどうか。
 一方その頃、ピンチヒッターの部下Aと秋桜はといえば牽制(?)の試合模様。さっきの札が『い』であったのだが、部下Aが取ったのは『こ』の札。所謂お手つきである。
「見ましたよ…あなた、今間違った札を持ってますよねぇ?」
 黒い笑みを浮かべたまま、彼女が言う。
「え、いや…これはちょっと手が当たっただけで…」
「じゃあなんで持ってるんですか。拾い上げたと言うならそれはもうお手つきですよ」
 凄みを利かせてにじり寄ってくる秋桜に部下はたじろぐ。
「地獄の狭間のこの場所で、間違いを犯す等言語道断です。いいですか、次お手つきをしたら貴方の失敗を閻魔様にご報告して、断罪して頂きますよ」
 その言葉に部下Aの滝涙。あんな閻魔様であるが、やはり怖いらしい。
「それだけは勘弁を〜〜〜」
 必死でそう縋る彼に悪魔の囁き。
「だったら、黙って傍観…できますよね?」
「はっはい〜〜〜ぃ! ってけど、それで僕らが負けて」
「なんか、言いましたかぁ?」
「い、いえ、なんでもありましぇ〜〜〜ん!!」
 秋桜強し。脅迫作戦成功である。
 ちなみに神音は何をしているのかといえば蒼馬の看病に励み、氷刹と竜胆はあの後、決着をつけるべく三途の川での水泳対決へと発展を見せて、そんな二人の姿を見たくて観客の半分以上がそちらに流れている。
「あ〜、これって一体どうなっちゃうんだろう…」
 そんな中でユウキがぽつりと呟いた。残り札は後一枚。この分だと序盤の優勢も相まって勝ちは百狩になりそうだ。すると、この狭間の地を狩狂が牛耳るとしたら? まだ…いや、絶対に死にたくないと彼は思う。
「さぁ、最後の一枚ですね」
 皆が残された一枚に集まって、その札を凝視する。そして、
「ま…」

『とりゃああああああ!!!!!!!!!!!』

 ユウキの声に被って、皆が手を伸ばす。一箇所に集まった闘志の渦が辺りを巻き込る。凄まじい力の接触に周囲が耐え切れず、一部崩壊を始める。それに皆が巻き込まれ……カルタ大会は強制終了するのだった。


 そして翌日、机を真っ赤に染めた閻魔が顔を上げた時、そこに狩狂の姿はなかった。その代わりに書置きが一枚残されている。
「『目的は達成されましたので私はこれで。お仕事に精々励む事です』何だこれは?」
 てっきりこの屋敷と自分の地位が奪われると考えていた閻魔は拍子抜けだ。
「おい、どうなっている?」
 側近の一人に彼が問う。
「さぁ? 僕もよく判らなくて…話によれば昨日の一件で地獄の亡者の数が減ったとか」
「減っただと? まさかどさくさに紛れて現世に送り込んだのか」
「いえ、それがどうも違うんです。天界に召されたとか」
「何ぃ?」
 地獄にいた亡者が天界へ。考えられるとすれば彼らは現世での怨念や執着を捨てたと言う事だが、あれでそんな事が出来たのだろうか。
「もしや亡者に娯楽を提供し執着を捨てさせた……いや、まさかな」
 水泳見物に行った者は別として、あれで奴らが捨てる筈はない。あの最後の爆発に巻き込まれ、消炭になったに決まっている。
「まぁいい。危機は去った。仕事に戻るぞ!」
「あ、はい」
 閻魔の言葉に部下が慌てて頷く。


 一方地獄では、
「ふぅ、これでゆっくり浸かれますねぇ」
 紅蓮に滾る血の池地獄に平然と浸かりながら狩狂が言う。
「全くですわ。邪魔者もだいぶ減りましたし、いい気分」
 とこれは氷刹。混浴の様だ。
「貴方は本来水風呂がお好みなのでしょう?」
 そんな彼女に皮肉を投げて、黙幽はご機嫌斜めだ。
「あの〜なんでわたくしだけまだここにいるのでしょうか?」
 そこに困り顔の秋桜まで。他の者の姿はなく、どうにも取り残された感が否めない。
「さあ、私は知りませんよ。折角ですから浸かって行きますか?」
 狩狂が薦める。だが勿論入る筈もなく、
「いえ結構です。にしても何が目的だったかは存じませんが、こういう事はこれっきりにして下さいませね、狩狂様」
 そう言い、彼女は帰り道を探す。
「くくっ、これきり? 冗談でしょう」
 湯に浮かべた桶には上等な酒。それはこっそり閻魔の屋敷からくすねてきたものだ。銘は『大往生』――なかなか皮肉が利いて悪くない。
「あれが来るまで。退屈はしなさそうです」
 くくっと笑って、彼は空を見上げた。