|
■オープニング本文 ●タイリョウな鯛 ここは、海に近い漁師町―― 漁師が多くいるこの町では、今日も威勢のよい声が飛び交っている。漁から戻った男達の船には大量の魚が積まれており、中でも一際目を惹くのはピンクの鱗を輝かせた鯛であった。今年に入ってどういう訳か、大漁に大漁が続き‥‥信じられない数の鯛があがっているという。 「一体、今年はどうしちまったのかねぇ?」 漁師の口々にそんな会話が飛び交っていた。 「いらっしゃいませぇ〜新鮮なお魚は如何ですかぁ?」 今日獲れたばかりの魚を並べて、娘が呼び込んでいる。 彼女の名前は桜と言った。この町では有名なべっぴんさんである。まだ若いというのに、顔だけでなく気立てもよく働き者で知られている。そんな彼女であるから、青年らにも人気が高い。けれど、彼女には想い人がいた。隣りの策次郎という文学青年である。 昔から兄弟のように一緒に過ごしてきた二人だ‥‥自然と惹かれていってもおかしくはない。だが、桜には問題があった。 それは父の存在である。母は早くに他界し、男で一つで育てられ今に至る。漁師というだけあって、腕っ節も強くなかなかに頑固なのだ。そんな父であるから、策次郎のなりを見て怪訝な顔をしたのは言うまでもない。 「桜さんは僕に下さい!」 策次郎の告白を黙ったまま一応聞いてくれたのだが、了承の言葉には至らなかった。 (「あぁ、どうすればいいの?」) 売れ残っている鯛を見つめながら、桜が心で呟く。 「おぉ〜さくらぁ、おまえ『ばれんたいん』って知ってるかぁ?」 ――と、突然やってきた父に声をかけられ我に返る。 「それは一応聞いた事はあるけど‥‥それがどうしたの、父さん?」 意外な言葉が父の口から出てきたのに、若干いぶかしみながら問い返す。 すると、父は白い歯をきらりと光らせて無邪気に笑い、桜に話し始めるのだった。 ●便乗作戦 「‥‥と、言う訳なのよ」 父の目を盗んで、桜が相談しているのはもちろん恋人の策次郎にである。 桜の父の思いつき――それは『バレンタイン』に便乗しての、大漁だが高価で売れ行きの悪い鯛をなんとか売り捌こうというものだった。 「ほら、よく言うじゃねぇ〜か。正月の御節にゃよろ昆布だの、豆に生きるだのっていうこじ付け‥‥もとい、縁起を担いで売っちまう作戦がよぉ。だから、ここは一つ‥‥うちもそれにのろぉってことだ! いいか、『想いを伝えタイあなたに、縁起のいい鯛を食ってめでタイ事が起こりますように』とか言って売り込んじまえばいいんじゃねぇ〜かと思う訳よっ」 上機嫌でそう言った父を思い出しながら、桜が苦笑する。 「子供みたいでしょう‥‥父さん。そんなに簡単にいく訳ないって」 「それだ!!」 桜の言葉を遮って、策次郎が駆け出す。 「え? え? どうしたの? 策さんっ!!」 桜の問いに、策次郎が振り返りはにかんでみせる。 「今度こそ、君のお父さんに認めてもらうんだよっ」 策次郎の言葉がいまいち理解できない桜だった。 そして―――。 「なにぃ? 店を手伝わせてほしいだぁ?」 再び桜の父の前に正座して、策次郎が頭を下げる。 「桜さんから聞きました。バレンタインを利用して、売れ行きの芳しくない魚を売る‥‥その発想、とても面白いと思います。僕は文学‥‥文字や言葉を扱う者の一人として微力ながらお手伝いできるかと存じます。だから、お願いしますっ!」 もう一度深々と頭を下げて、策次郎が言う。 「ほほぉ〜――で、そこでいいとこを見せておいて俺から認められようってか?」 探るような目つきで言う桜父。 「あ‥‥‥バレましたか?」 誤魔化しても無駄だと悟って、負けを認め答える。 「‥‥‥ったく、仕方ねぇ〜なぁ。まぁ、いい‥‥けど、条件がある」 「はい? 何でしょう?」 「俺が獲ってきた魚全部が対象だ。鯛は勿論だが、他の魚もちゃんと売ってもらわねぇ〜と話にならん。そうだな‥‥そのばれんたいんとかいう日までの三日間でいい。店の魚を完売させろっ! そうしたら、認めてやるよ」 桜父の言葉に、策次郎の闘志が燃え上がる。 (「桜さんの為だ。絶対やり遂げてみせるっ!!」) 男・策次郎―――一世一代の大仕事になりそうだった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
ユグライン(ia9009)
26歳・男・弓
夏 麗華(ia9430)
27歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●作戦会議 「お〜、こらまたぎょうさん‥‥ほんまに大漁なんやなぁ〜」 策次郎の手伝いをかって出た開拓者らは、桜の店に並ぶ鯛の量を目にし驚きの声を上げる。売り台を占める鯛の割合はなんと五割。半分が鯛ということになる。 「しかし、これだけ獲れていたら、少しは安くなっているんじゃないのか?」 台一面に並べられている鯛を見つめて、紬柳斎(ia1231)が問うと、桜は苦笑しつつ言葉する。 「確かに安くはなってます‥‥けど、やっぱり他のお魚に比べると少し高いんですよね。それにこの量でしょ‥‥売っても売っても減らなくて‥‥」 「You、そんなところで見てないでこっちに来いYo!」 そんな彼女を少し遠くから見つめていた策次郎を見つけ、喪越(ia1670)が呼ぶ。 彼は外見も個性的であるが、言葉使いも更に個性が光っている。 「そーやそうや、あんたがおらんと話にならんやろ〜」 もう一人の個性派・天津疾也(ia0019)も策次郎に呼びかける。 「策さん、大丈夫ですよ〜今、お父さんはいないから」 桜のその言葉にやっとこちらに来る策次郎であった。 「なんや? あんた、親父さんが恐いんか?」 駆け足でこちらに来た策次郎を捕まえて、茶化す疾也。 「そっそんな事ありませんよっ‥‥けど、僕はよくてもあちらが良く思ってないみたいだから‥‥あまり近くにいない方がいいかと思って‥‥」 「You消極的だよ〜もっとぐいぐいいかなきゃあ〜」 「そうだな。男ならもっとしゃきっとしていてほしいものだ」 集まった開拓者らに言われて、戸惑う策次郎。 「すっ、すいません。なんか、色々‥‥とにかく頑張りますので何卒よろしくお願いします」 おどおどした様子で頭を下げて、ぺこりと一礼。 「宜しくはこちらの方です。それに私達はあくまでお手伝い‥‥策次郎様が頑張らないと」 「あぁ〜そうでしたね。すいません」 「もう、策さん! 謝ってばかり‥‥」 夏麗華(ia9430)の言葉に、また謝ってしまった彼を見て桜が笑う。 「さっ、じゃあ早速明日からの呼び込みの作戦会議といきましょう」 そう促して、一同は役割分担に入るのだった。 ●初日 桜が見守る中、店は開店した――。 魚は鮮度が『命』である。 そういう訳で、販売の目安は早朝から十時頃までがピークといっていい。それ以降昼までが限界であり、夕方ともなるともう売る事は難しい。氷が貴重であるから、早く売るに越した事はないという訳である。 陽が登り始めると共に戻って来た漁船からすぐに獲れたての魚介類下ろすと、もう眠いなどと言ってはいられない。旅館や料理屋の料理人が買い付けにやってくる。桜の店にもその手の御贔屓さんも多く、まずはその対応に追われていた。 「おやっ、今日は人手が多いねぇ〜」 馴染みの料理人が中の様子に気付いて、声をかける。 「えぇ〜ちょっと訳ありで」 「そうかい、じゃあ今日も鯛を十尾頂けるかい?」 「はいっ、毎度ありがとうございますっ。策さん、よろしくね」 「あっと、えっと‥‥ザル、ザルは‥‥」 まだ慣れない作業に、もたつく策次郎であるが、それでも必死にお客の対応に精を出す。 「おや? あんたは隣りの‥‥ははぁ〜ん、なんだい、花婿修行か??」 その様子を見てにやりと笑みを浮かべる料理人である。 「えっあっ‥‥花婿っ?! まぁそうでなくもないっておわぁ〜〜」 料理人の言葉に動揺して、思わず魚を取り落とすが――。 「おっと‥‥、危ない危ない。気ぃつけなあかんで。大事な商品なんやから」 それを間一髪の所で拾ったのは、疾也だった。元々商家の出の彼であるから、そういう事には目敏く、厳しい。 「あ、ありがとうございます」 それを受け取って、まだぎこちなくはあるが商品を渡している。 「さて、この常連の波が過ぎたら作戦開始やなっ」 逸る心を抑えつつ、疾也がそう呟いた。 ●まずは掴み 買い付けラッシュが収まって、ここからは一般客の流れに入る。 漁師町という事もあって、どこも自分の店に客を引き込もうと必死だ。ある店は割引を実施し、またある店は色々な種類をセットにして提供する事でお得感を演出するなど様々である。そんな中、桜父の方針に従って桜の店ではバレンタイン便乗呼び込み作戦が開始されようとしていた。 「さて、それではやるか」 木箱を積み重ねて、卓を設けてそこの前に立つは柳斎――手には扇子が握られている。 そんな彼女を置いて、残りのメンバーがまずは先に声をかける。 「さぁ〜よってらっしゃい、見てらっしゃい。本日あがった鯛、烏賊、鰆〜そのお魚達のちょっと得するいい話。聞いていかんと損をすんで〜商人の俺が言うから間違いなしや!」 「そこ行く奥様方もぜひお聞き下さいませ。井戸端会議の話のネタにもぴったりですよ」 突然始まった呼び込みに、前を歩いていた町人の歩みが緩む。そこを逃がさぬように、柳斎は口上を開始した。 「さぁ〜本日お話しするのは鯛に纏わるいい話。 鯛には色々由縁があると言われるが、一番有名なのは古代の神々が釣り上げる魚で大変めでたいことからきているというもの‥‥この天儀にはさまざまな『〜たい』という言葉があるが、これらは全てそのめでたさからあやかりたいということからきておるとか‥‥」 そこで、一度区切って再び続ける。 「つまり鯛というのはそれだけでありがたく、それを贈るというのは幸せであります様にという想いが詰っているからなのだ。もうすぐ多国の風習で想いを伝える日だと聞く。その日の名前の『バレンタイン』!!」 ここぞとばかりに扇子で卓を叩いて、口調を強める。 「このめでたい言葉が天儀以外にも飛び火したと見えるがどうだろうか? また、古くは赤女(あかめ)と呼ばれていた鯛だが、赤とは赤ん坊を指す言葉‥‥つまり夫と共に食せば子宝に恵まれるという事なのだ。そこいく奥方様方、一匹如何かな?」 ずいって詰め寄るように、卓から乗り出して言い切れば、聞き入ってしまっていた町人の表情が変わる。実のところ、半分以上でっち上げだったりするのだが、ここは強く出た方の勝ちである。 「今なら鯛は大漁だから、お安く手に入りますよ〜〜」 ――と、そこへ安さをアピールする柚乃(ia0638)が加わって、購買意欲を掻き立ててゆく。 「そうねぇ〜安いなら、買っちゃおうかしら」 手前の婦人が動くと、後は釣られるように声が上がる。 「はいは〜い、押さないで下さいっ! 鯛はまだまだ沢山ありますからぁ〜〜」 思わぬ反響に慌てて、対応する柚乃。 その後も、定期的に柳斎は口上を続けて、無事一日目は完売を達成するのだった。 ●二日目 本日も鯛は大漁。あがった魚介類もなかなかの量―― 気合を入れてかからねばならないと思う一同である。 「昨日はうまくいきましたが、連日同じでいく訳にも行きませんし‥‥今日はどうしましょうか?」 少し落ち着いた策次郎、皆を見回し問う。 「今日は俺にまかせときなYo! 桜ちゃんを少し借りるが、絶対うまくいくと思うZe!」 「では、喪越さんを筆頭に…今日も頑張りましょう」 「Oh! まかせてくれよな。絶対売り切るYo!」 軽快なリズムをビートを刻みながら、喪越が外に向かう。 「あぁ〜桜ちゃんは鯛を持って適当に作業よろしくな〜」 その言うと、颯爽と外に出た喪越――。 標的を婦人に絞り、昨日使った卓の前に今度はハリセンを持って立ち、話し出す。 「Yo、そこ行くマダム方。今日も大豊漁の鯛買ってってYo! えぇ〜鯛は高いって?? ノンノン、高いのには訳がある。何でも精霊様の御力が宿っていて食べた男を出世させるんだとか。『大位』なんつって、お偉いさん方から持て囃されてるくらいだしなっ。――それにうちの鯛は一味違う! 見てくれ、この奇麗な桜色〜」 ばしばしと卓を二発叩いて、差す先には鯛を持った桜がいた。 「あそこにいるのは言わずと知れた桜ちゃん! そう、今回の豊漁はあの桜ちゃんのおかげじゃねぇかって話だ。いい話も持ち上がってる桜ちゃんだぜ――豊漁の女神の祝福の受けた桜鯛。お一つどうだい!?」 「そうねぇ〜、けど鯛はちょっと‥‥」 「なら鱚! 鱚はどうだい? これまた縁起のいい魚なんだな、知ってるかい? ジルベリアじゃ接吻の事を『キス』って言うんだそうだ。旦那さんと最近ご無沙汰なそこの奥さん! 朝食にそっと出して、その晩は盛り上がってみちゃどうだい? 鱚だけに旦那さんも大『喜』びってね! 一度通じれば、直接言うの‥‥って、がはっ」 続きをしゃべりかけていた喪越だったが、この先の展開に規制がかかったらしい。桜が喪越の口を塞いでいる。 「とにかく鱚、如何でしょうか?」 喪越を取り押さえたまま、にこりと笑って桜が対応する。 「ん〜まぁねぇ〜、最近ご無沙汰だし‥‥って、そんなやだ恥かしい。けど、頂くわ」 照れを隠しながらも婦人が、鱚を注文する。 「桜ちゃん、ひどいYo〜〜」 瞳に涙を浮かべて見せた喪越だったが、桜は笑顔を絶やさずに――。 「ダメですよっ、下品になり過ぎちゃ」 そう切り替えして、中へと入っていくのだった。 難しげに思われた呼び込み作戦であるが、開拓者の頑張りに思いの他順調に進んでいる。 「祝い事にはちょう(鯛)どいい、夫婦円満〜これで安泰やで〜」 「海老は腰が曲がっていることから長寿の喩となっております。二人で一匹ずつならお互いが末永く一緒にいられるようですよ」 「鯛も一人はうまからずってね。みんなで食べれば笑顔が生まれる。家族円満、幸せを呼び寄せるには安い対価でしょ?」 各個人でも、各々声かけが続いて―――けれど、最大のピンチは最終日に待っていた。 ●送り込まれていた伏兵 「おいおいおい、なんでこんな魚があるねん!」 粗方売り切って後少しになった時、台の端にあった魚を見て疾也が叫ぶ。 「ふふふ、やっと気付いたか、売り子どもよ!」 ――と、そこで得意げに言葉したのは今まで傍観体制を貫いていた桜父だ。 策次郎に挑戦するかのような視線を向け、立ちはだかって見せる。 「父さん、ひどいわ!」 そこにあった魚――それは鯉だった。 「別にひどくはないだろう。恋人達のなんとやら〜。語呂も合わせやすいだろうと思ってな‥‥特別に知人から貰ってきたんだよ」 悪戯な笑みを浮かべて、皆の様子を観察する。 鯉は一般的にあまり頻繁に食べられるものではない。勿論食べられなくはないのだが、なかなか食卓で調理することはないだろうし、庭で飼う者がいる位だから尚更である。 「さぁ〜早く売っちまわねぇ〜と昼が過ぎちまうぞ! もう降参かぁ?」 「‥‥‥諦めませんっ!!」 沈黙するかと思われた場に、策次郎の声が響く。 「そうですよ、どんなお魚だって料理法の数だけ楽しみ方があるし美味しくなるもの‥‥栄養もつくし」 「それだっ!!」 閉店目安時間まで後一時間半。残っているのは鯉と鯛のみ。 「一か八か、やるしかない! 麗華さん、鯉の調理出来ますか?」 唐突に声をかけられて、驚く麗華だったがすぐ平静を取り戻し頷く。 「よかった‥‥では、鯉と鯛一匹ずつ僕が買い取りますので、調理お願いします!!」 策次郎の閃きに、ついていけない開拓者だったが‥‥。 「さぁ、皆さんは引き続き呼び込みを! 料理が出来るまでの辛抱です!!」 初日とは違って、はきはきした様子の策次郎に皆が頷く。 「あ〜恋心を気になるあの人に。鯛を食べて体当たり‥‥はずれはないからこれはめでたい!! そんな鯛はどないでっか〜」 駄洒落で呼び込む疾也に皆が続く。 しばらくして、麗華の料理は完成した。 「これでよろしかったでしょうか?」 手にした皿には、鯛と鯉の唐揚げが乗せられ、その上からは中華あんが掛かっている。 「上出来ですっ! では、それを持って一緒に来て下さい」 そう言って、策次郎は店先の卓へ――深く深呼吸して、口を開く。 「さぁ、本日最後の目玉品!! 鯉が恋してめでたい料理に早変わり。めったに手に入らない鯉を使って、腕前見せれば意中の相手もイチコロだ! 今なら作り方もお教えします。まずは一口食べてみて‥‥大事な相手に秘めた想いの恋(鯉)心。鯛も加えて料理にすればめでたい結果が訪れる‥‥明日はバレンタインですっ! きっとうまくいくはずですよ〜!」 出来上がった料理の香りの効果もあったのだろう。試食出来るとあって、再び人が集まり始める。 「そうそう、今こそ料理の腕を披露する時。このお魚で高感度急上昇間違いなしですよ〜」 そこに柚乃のダメ押しが響いて――。 「あら、鯉って意外といけるのね」 「私も貴方の為に、今日は頑張っちゃおうかなぁ〜」 麗華の料理を味見しつつ、言葉するお客達。 「よっしゃ、これでなんとかかりそうやな」 その様子を見取って言った疾也のその奥で、桜父も笑顔を浮かべているのだった。 ●完了 かくて、三日間の売り込み作戦は無事完了となる。 「おめでとさんやねぇ〜」 「頑張ったな、策次郎」 「かっこよかったよ〜〜」 「You、ナイスガイだZe!」 「お力になれてよかったです」 開拓者からの祝いの言葉に、照れを隠せない策次郎である。 「いや、しかしよくやったYo。あの卓での講談作戦がなかったらどうなってたことか‥‥さすがに愛の力はすごいってやつだな。文学目指すより商売目指した方がいいんじゃねぇいかい?」 彼も商売をやってるのか、喪越が感心している。 「いえいえそれ程でも‥‥それに料理にしたって、実は麗華さんから提案があったんです。けど、鮮魚店で調理品を出す訳にはいかないし、それで諦めていたんですけど‥‥あの状況だと仕方ないかなって‥‥あれはありでよかったんでしょうか?」 そっと見上げて、桜父に尋ねる策次郎だったが、既に相当飲んでいるらしい桜父には届かない。 「なんでぇ〜〜茹で蛸みてぇ〜な顔しやがって、こんちくしょうが!!」 ばしばしと策次郎の背を叩きながら、豪快に笑っている。 「父さん、やり過ぎだってば‥‥」 そこへすかさず桜のフォロー。和気藹々――なかなかいい家族になりそうである。 「さてっと、お二人さんの仲もまとまりそうやし、邪魔者はそろそろお暇しますかねぇ」 疾也他開拓者らが時間を見計らって、腰を上げる。 『本当にありがとうございました』 桜と策次郎の声がはもっていた。 そして―― 「ハッピーバレンタイン」 誰かがそっと言葉する。時計は深夜を回っていた‥‥。 (「はれて、痛い?? なんのことだろう?」) 約一名疑問を抱いたままではあったが、なにはともあれ――夜は更けて‥‥。 今日は想い人に気持ちを伝える日――どうか皆に祝福を。 |