サンタに願書を
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/16 13:25



■オープニング本文

 ジルベリアから伝わったサンタクロースのお話――。
 最近はその話も浸透して、彼は子供達にほしいものを配ってくれる素敵な精霊という事になっている。けれど、その存在を知ってよからぬ事を考える輩もいる訳で……。


「先輩、これは大事件です!」
 血相を変えて飛び込んできた越前が言う。
 ここはこの都の警備隊屯所。今飛び込んできたのはここの隊員であり、少しばかり思い込みの激しい推理を展開する犬岡越前である。
「今度はどんな事件だ? 犬が猫にでも噛まれたか?」
 そんな彼に素っ気無く返事を返したのは、ひょんな事から彼の世話役になってしまった喜助だった。越前が事件だという時…彼にとってはとてつもなく面倒な事が舞い込むのだ。近頃は少しおとなしくなっていたのにと思いつつ、顔を起す。
「聞いて下さいよ。大人も子供も欲しい物が貰える日があるらしいんです!」
「はぁ?」
「確か冬なのに栗とか鱒とか言ってたかな」
「あぁ、そりゃあクリスマスだな。大人もってのは初耳だが」
 越前よりも年がいっていてもそういう情報には詳しいらしい。
 ご近所周りをしていればおのずとご婦人の話も耳に入るのだろう。喜助の方がこの件については詳しそうだ。
「でね、今その使いって人がこの近くの村に来ているそうなんですよ。だから願書、出しにいきましょう!」
「願書だぁ? それは手紙の間違いじゃないのかい」
 どこか違った内容に喜助が首を傾げる。
「いえ、願書って言ってましたよ。もう、人だかりも人だかりで村外まで行列が出来ちゃってて」
「はぁ?」
 少なからず不審を抱きながらも越前に連れられてその場所へと向かう。
 だが、彼らが到着した時にはその列はもう存在しなくて……。
「あれ〜おかしいなぁ。ここでやっていた筈なんですがぁ」
 広場のようになった場所で越前が言う。
 どうやら、その使いの者はもう帰ってしまったらしい。
 それでも探す越前の背を見つめながら喜助は溜息をつく。
「あれー、おじさんいっちゃったー。折角ぶたさんとってきたのにー」
 そこへ一人の少女が現れた。
 何かを書いた紙とぶたの形の貯金箱を大事そうに抱えている。
「おや、嬢ちゃん。そのぶたさんは?」
 そこでなんとなしに喜助が彼女に声をかけた。すると彼女は奇妙な事を話し始める。
「えとねー、てすーりょうだよぉ〜。おじさん、ここにいたおじさん知らない?」
「手数料?」
 喜助の問いに答えて、また辺りを探し始める少女。
 紙には彼女の欲しい物なのか『くまさん』と拙い字で書かれている。
「なぁ、嬢ちゃん。少し聞いていいかい」
 そこで背後できょろきょろしている越前は放置して、彼が問う。
「なあに?」
「そのサンタの使いのおじさんはお金がいるって言ったのかな?」
「うんっ、そうだよぉ。お願いするだけだとじぶんの欲しいものになるかわからないでしょ。でもね、てすーりょう払ったら、欲しいものくれるようになるって」
「へぇ…で、いくら必要って言ってたんだい?」
「百文! だからぶたさんもってきたのー」
 無邪気に笑って答える彼女であるが、話を聞いた喜助の方は眉間の皺を深くする。
 百文と言えばうな丼一杯の値段に等しい。
 ちなみに団子が三文、汁粉が一杯五文だから、子供にとっては大金だ。
「おい、越前! こらぁほんとに事件かも知れねぇぜ」
 喜助はそう言って少女を家まで送ると、早々に調査と聞き込みを開始する。
 そして、見えてきたのはその使いとやらの正体だ。
「これは確実に詐欺だな」
 そもそもサンタは精霊だ。金を必要とする時点でおかしな話である。しかも、大人も書けば貰えると吹聴し、彼らからは五百文ずつ徴収していたと言うから頂けない。
「外見は、中肉中背の五十代。金髪で肩に大きな鳥を連れていたとか」
「うわっ、それむっちゃ目立ちますよね!」
 聞いた外見から越前が言う。
 そして、案の定あっさりと見つかったのだが、
「くぅぅ、なんだこりゃあ!!」
 男を発見したまではよかったが彼の一声で鳥がわんさか集まってきたから堪らない。
「…これはきっとあれですよ。あの男、餌を身体に仕込んで」
「んな訳あるかいっ! 鳥使いだ、きっと鳥使いだぜぇ!!」
 越前と喜助の視界を塞ぐ様に立ちはだかり、妨害する鳥達に二人はおろか、他の警備隊も手も足も出せず、男にまんまと逃走を許してしまう。
「先輩、どうしましょう?」
 青痣を作って傷だらけになりながらも越前が問う。
「そりゃあ頼むしかねぇだろう…子供達の、夢も奪われちまってるんだからな」
 このままでは楽しい筈のクリスマスが最悪の日になってしまう。
 それだけは避けたいと、喜助は近隣の地図を広げ推理する。
「さて、次は何処に出るんだぁ…」
 発見は案外容易だろうが、あの鳥達を如何にかしなくては…。
 喜助はそう思いながら次の一手を考えるのだった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟
御影 紫苑(ib7984
21歳・男・志
山中うずら(ic0385
15歳・女・志
武 飛奉(ic1337
14歳・男・泰


■リプレイ本文

●騙される
「ふふふっ、これで今年はウハウハです♪」
 今にも小躍りしそうな雰囲気で奇跡のどじっこことペケ(ia5365)が歩く。それもその筈、彼女は昨日ある男に出会い、ある約束を取り付けていた。その約束というのは願書を書いて僅かばかりの手数料を払えば、彼女の望む物をくれるというもの。但し、貰える日は決まっているとかでそれまで待たなければならないという。
「よく知らないですが、サンタという奴は気前がいい男ですねー」
 何を頼んだかは秘密であるが、確約された贈り物に彼女は有頂天だ。
 その日までまたせっせと働きますかとやってきたギルドで、しかし彼女に衝撃が走る。
「ん、サンタ? そんなものはしらんが、聞くからにそやつはろくでもない小物であろう」
 歳はまだ若い。生意気な口調で話す武飛奉(ic1337)は、今し方引き受けたばかりの依頼書を読みつつ、同依頼参加の御影紫苑(ib7984)と話をしている。
「なんでもくりすますというイベントで登場する精霊だそうですよ。ただ、この依頼のサンタの使いと名乗る人物はただの詐欺師の様ですが」
(「使い…詐欺師?」)
 聞き捨てならない言葉に耳を澄ます。
「ああ、それは間違いない。俺は去年サンタとやらに会っているからな。これが証拠だ」
 そこへもう一人、怪しげな産物を持参して羅喉丸(ia0347)が皆にサンタの解説を始める。
「サンタとは限られた時間に、多数のプレゼントを配って回るという過酷な労働に挑む彼らの事だ」
 三角に連なったやけにマッチョなトナカイっぽいものとムキムキのおっさん。これが彼の知るサンタであり、この人形は本人から貰った物だという。
(「俺が聞いてるのとはえらく違うなぁ」)
 喜助はそう思ったが、さすがに声には出さなかった。すると羅喉丸は更に続けて、
「まあ、そんな肉体労働をするのだからこの外見も納得がいくというものだろう」
 成程、確かに。理屈は通るが、もしこのサンタを見たらきっと…いや絶対子供達はげんなりする。
「へえ、こんなおっさんが鳥くれるのか! マジスゲー!」
 がそれをすっかり信じた者もいた。
 ぴこぴこ白い耳の揺らして、猫獣人の山中うずら(ic0385)だ。ちなみに鳥は彼女の好物である。
「何にせよ、捕えるべき鳥男は童の心を利用し、詐欺を企てているのだろう? そんな行為は言語道断! 即刻、粛清が必要だろう」
「え…」
 鎧姿の北条氏祗(ia0573)の言葉にペケの目が点になる。
「しっかし、鳥を操るだぁ? そんな特技があるなら大道芸人にでもなりゃ幾らでも稼げるだろうによ〜。願書で金稼ぎとは、急いで大金が必要になったとか?」
 そこへ止めの一撃――ペケが出会った男は確か肩に大きな鳥を乗せていた。そこで恐る恐る彼らの持つ依頼書の中身を確認し硬直する。
(「ま、まさか……あのサンタの使いが詐欺師だったとは……」)
 ペケの脳裏のお花畑が地獄に変わった。
 放心しかけの彼女にナキ=シャラーラ(ib7034)が気が付いて、どうかしたのかと問えば彼女は力なく、
「イ、イエ…ワターシ、ゼンゼン、ダマサーレテ、ナイ、デス、ヨー」
 そういうのが精一杯だった。ぎこちなく浮かべた笑顔に彼らは静かに悟る。
「アハハ…私モ、ソノ依頼、受ケル、デス、ヨー…」
 そう言って彼女は参加処理を済ませて、湧き上がるのは憎悪の念。
(「ぐむー、だうしてくれやうか……」)
 彼女の脳裏は今、男への仕返しで一杯になっていた。


 そんな事とは露知らず、鳥使いの男はご機嫌だった。
「がははっ、これはサンタクロース様様だぞ」
 用意した箱に入り切らない小銭を抱えて、男は鳥を肩に乗せ笑う。
 金儲けの方法などいくらでもあるが、楽して稼げるとなればやめられない。口八丁手八丁…時期が限られてしまうのが難点であるが、それでもこれだけ稼げればいい儲けだ。
「こうなりゃ他の行事でもそれとなくやってみるのもいいかもな」
 集めた願書の紙はここを出てから処分しよう。そう思いながら、受け取った願書に興味本位で目を通す。
「ほうほう、握り飯をたらふくに、人形か…こっちは仔猫。可愛いなぁ……と、ああ? なんだい、これは……名刀『ムラタダ』とは図々しい」
 多分、大人の書いたものだろう。字が達筆過ぎる。厚かましいと思いつつ受け付けてみたら思いのほか集まり、彼自身も驚くばかり。
(「ま、俺にとっちゃあいい鴨だがな」)
 男は大声を出して笑いたいのを堪えて――そんな折、肩の鳥が声を上げた。
「ん、どうした? 例の奴らかい?」
 相棒の迅鷹・薩摩は勘がいい。こないだ街の警備隊が彼を捕まえにやってきたのだが、その時も逸早く察知して教えてくれたのだ。男の問いに薩摩はくこりと頷いて、道の先をじっと凝視する。
 そこで周囲に目を向けて、男は舌打ち…いつの間にか一本道に入っていたらしい。通りの広さは十分あるが、挟まれでもしたら逃げるのは容易ではない。
「いたぞ! あそこだ!!」
 だが、そこで先に追手が動いた。考える暇もなく後方から現れた二人にはっとする。
 男はけれど、そこで焦らない。首に下げた笛を吹く。その笛によって集まるは鳥の群れ――鳩や雀、烏までいる。
「うわ〜、怖いよ〜」
「きゃあ、何っ突然!」
 道行く人はその異常事態に声を上げる。
「群れは頼む」
「任せなッ」
 氏祗の言葉にナキが笑顔を返した。
 ならば自分の役目は男と前方にいる通行人らの安全の確保だ。
「いざ!」
 氏祗は迷いなく刀を構えて、男の下へと走るのだった。

●集まる
 金髪の中肉中背の肩に鳥を乗せた男――そんなもの否応無しでも目立ちまくる。
 ついでに言えば警備隊の情報網を使い位置を知らせて貰って、開拓者らは策を講じるのにやりやすい場所を選び、それを実行に移す。まず飛び出したのは羅喉丸と氏祗だった。彼らは真正面から駆け抜けて初手に大ダメージを狙う。
 しかし、そこには阻むように前に出た肩の鳥。鷹というには一回り大きく、鷲を思わせる姿である。強靭な足の爪を突き出しつつ羽ばたき、彼らの接近を阻害する。
「いいぞ。その調子で頼むぞ、薩摩ぁ!」
 男はその様子を見取ってから慌てて自分は逃走に入った。
「あ、待てコラ! おっさん、逃げんな!」
 飛び出した二人の更に後ろでうずらが叫ぶ。だが、その声は笛と集合する羽音に掻き消され届かない。けれど、彼女自身も現れ始めた鳥を見つめて、
「おやおや、本当に沢山こられましたねぇ」
 とこれは紫苑。涼しい顔で鳥の大群を仰ぎ見る。
「おおーっ、マジで鳥がいっぱいいるぜえ! あれうまそ〜♪」
 男に罵声を浴びせたうずらだったが、突如やってきた鳥に気が移ったようだ。鳩も雀も食べれる。彼女の中では男よりも御馳走の方が重要だ。弓を持ち狙いを定めるが、目標が小さく本職ではない為なかなか捉え切れない。
「ぐぬぬ…何かしらの小賢しい術かと思えばなんの、笛とは。拍子抜けもよいとこだ」
 その後ろで状況把握に努めていた飛奉が腹立たしげに言う。
 しかし、裏を返せば多種類の鳥を呼び寄せる男の技術は本物である。
「全く…腕の使い方を間違えなきゃなぁ…」
 呆れ顔でナキが呟く。
「あ、ナキさん。さっさと始めないと危ないですよ」
 そんな彼女に一羽の烏が飛来するのを見て紫苑が忠告した。
「おっと、そうだったな。じゃあ、皆頼むぜ!」
 ナキはそう言って背負っていた籠をひっくり返しすぽりと被る。
 その周囲には三人が立って、飛び来る鳥の対応をすれば彼女に鳥達の攻撃は通らない。そこで始めたのは『夜の子守唄』だった。優しい旋律に通行していた者達も自然と聞き惚れ、眠りの淵へと誘う。それは鳥達にも有効だった。ばさり、ばさりと彼らに攻撃を仕掛けていた鳥達が空中から地面へと落下を始める。
「やべぇ、奴らも開拓者かよ!」
 それに振り返った男は焦りを見せる。後方からは鳥を押しのけてくる泰拳士風の男が一人。もう一人は薩摩が相手をしているからいいが、このままでは追いつかれそうだ。
「観念しろ! 逃げ場はないぞ!」
 ざっと一陣の風の如く瞬脚で距離を詰めて来る羅喉丸に死に物狂いで逃げる男。けれど、羅喉丸の方が早くて…放たれた空気撃の直撃は免れたものの足が縺れる。
 そんな折、近くの家の戸が開いた。そこから顔を出したのはいつぞみた気がする女…むっちりボディが印象に残っている。そして、彼女は彼の状況を把握したのか扉の隅から手招きする。
(「ふっ、俺の運もまだ尽きちゃいねぇぜ!」)
 男はそう思い、どうにか踏ん張り彼女の家へと飛び込んだ。
 幸い、近付いていた筈の追手は入ってこない。彼はそれを不審に思いはしなかった。
 なぜなら、すでに男は彼女の術中にはまっていたのだから――。

●匿う
「危なかったですねー。貴方はサンタの使いとして大事な使命を持つ人です。あちらが何か勘違いしているだけですよー」
 ぱたんと閉まった扉、息も絶え絶えに男は彼女の胸に抱きつく形で飛び込んで、ひとまずほっと肩を下し、記憶を辿る。
(「そうか。この女は鴨の一人…通りで見た事がある訳だ」)
 それを思い出して、彼はにやりと笑う。口振りからして自分の正体はまだばれていない――つまり彼女は味方だ。鴨だけでなく、葱もしょってくれているらしい。これは天の助けだと彼は思う。が一方で彼女の心中はまた違って、
(「かかったですね〜、ちょろいのです。それに騙すヤローは因果応報。いっぺん、騙されるべきでしょう。そう、覚悟するが良いのです!!」)
 子供達の、そして何より自分の純真を弄んだ罪は重い。
 彼女は夜春を使って…ここまでは完璧だ。彼自身は術にかかっている事さえ気付いてはいないだろう。ペケは男の顔にそっと手を添えて視線を合わせる。そして、それとなく床に仰向けに寝かせて…男の朦朧とした瞳には何処か不気味な表情の彼女の顔が映っている。
「怪我してますねー、指圧で治してあげるのですよー」
 彼女はそう言って拳を握る。そして、
「オラオラオラオラオラオラオラーーーーー!!!」
 目にも留まらぬ速さだった。指圧とは名ばかりの拳乱舞――びくびくはねる男の身体にしかし、彼女はそれをまだ止めるつもりはない。勿論手加減はしているし、この程度でくたばるようには出来ていないと彼女の経験が知っている。
「ぬっ、はっ…くわっ!」
 暫くして、悲鳴なのか自然と出る男からの声にそろそろいいだろうと彼女は一旦手を止める。
 すると男はかばりと上体を起して彼女の手を取り、
「フフ、フフフフフ……いいぞ! もっと、もっとだぁ!!」
 男の高潮した笑みに悪寒が走るペケ。
(「この男変態だ」)
 彼女は悟る。いや、もしかして夜春の効果が……そう一瞬考えたが、そんな作用があるとは聞いていない。徐々に近付いてくる顔に危険を感じて、
「寄るなですーーっ!!」
 彼女は夜を発動した。そして、腕を剥がすと同時に外へと飛び出す。
「どうした?」
 外では収拾をつけて待機していた仲間がいて、彼女に尋ねる。
 が彼女は答えない。そこにワンテンポ遅れて出てくる男…妙なテンションに一同眉を顰める。
「もっと、もっと激し…ぐわっ!?」
 そんな男に氏祗が引導を渡すべく弐連撃を打ち込むとそこで一時の沈黙…その後には、
「くっ、いい夢を見ていた筈が…って、いつの間にこんな事に!!」
 はっと我に返り困惑する男。いい夢、と言う事はやはり変態だったのか。それはともかく、置かれた状況を悟った男であるが、次の氏祗の攻撃を避けられない。
「成ば…ッ!!」
 だが、ここでまたしても邪魔に入った。
 一時的に空に逃げていた薩摩が主の危機と、高速移動で男の元に戻るとすぐさま同化を試みたのだ。突如眩しい光に包まれた男に氏祗は目標を捉え切る事が出来ない。
「同化とは…やはり迅鷹だったか」
 大きな鳥と称されていたから予測はつけていたがなと飛奉が言う。
「男は兎も角、あの鳥やるじゃねーの」
 とこれはナキだ。主が逃げ込む時も身を挺して、彼を守ろうと動いていたのを彼女は知っている。同化と同時に翼が出現し、男は空へと逃げを試みようとしたが、
「逃がさないぜ! おっさん! 刀の錆になってもらうニャア!」
 うずらが跳んだ。男はまだ一mも浮上しておらず、彼女の跳躍でも十分届く。彼女が刀を終い跳びかかる。そしてもがく男に、
「いい加減お縄に付きなさい!」
 そう言って静かに紫苑が繰り出したのは葛流だった。
 逃げる暇もなく飛び来た矢が足に刺さる。それでも男は尚悪足掻く。
 笛に手をかけ…だがそれには、
「どこまでも小賢しい奴だ。覚悟せい!」

 どすっ

 鈍い音がした。飛奉の一撃で男は手にしていた笛を取り落とす。そして、

 ぱきっ

 笛を踏みつけられジ・エンド。援軍はもう呼べやしない。
 そうなってやっと男も観念したようだった。同化を解除し、薩摩を肩に乗せ縛に付く。
「さぁ〜て、おっさん。事情はゆっくり屯所で聞かせてもらうからな」
 ナキが悪い顔で言う。その後ろでは、
「なあなあ、あの鳩一匹くらい貰っていいか? 勿論夕食に」
 うずらが真剣にそう尋ねていた。


●探す
 さてその後の男であるが、今サンタ探しに励んでいる。
 なぜなら、彼に寄せられた願書の実行を喜助らから仰せつかったからだ。勿論、受け取ったお金は事情を話して子供にはそれとなく、大人にははっきりと返された。幸い、願書には名があったから地域密着型の警備隊が本気を出せば、それ程時間はかからない。
「全く聞いて呆れるな。鳥の餌代は兎も角…魔がさしたなど」
 男の口から今回の犯行に至った理由を聞いた一同が息を吐く。
「そう考えるとやはり本家のサンタは尊敬に値する。子供の夢を守るため、一年かけて己の肉体を鍛え上げているのだから」
 とこれは羅喉丸。少し本家のイメージとはずれたままだが、外見以外は概ね確かに…見習う所もあるかもしれない。
「たかが五百文の端金で何でもくれるなら、苦労はしませんよ。私だったらそれで十万文を要求します」
 本気かどうか判らないが、きっぱり言う紫苑に仲間が苦笑する。
 何はともあれ、依頼は解決した。街は以前同様賑わい、その日を待つ子供達は多い。
「あいつ、マジでサンタを見つけられるかね?」
 ナキが呟く。
「もし駄目だったら、あの方自身に責任を取って貰い希望品を配って頂けばよろしいのでは?」
 再び紫苑がさらりと言う。
「それは…酷だな」
 彼の所持金からして、配り終えるまでに一体どれ位かかるだろう。想像しただけでも恐ろしい。
「まっ、これに懲りてもうしないだろうぜ!」
「べぇ〜〜〜〜くしゅんっ」
 そんな会話がされる中、何処かの山奥では鳥使いの男が盛大なくしゃみと共に鼻を啜る。
「いっときますけど、私は初めからこんな事だと思ってましたからね!」
 越前がふんぞり返ってそう言ったが、それを信用する者はいる筈もなく…また平和は屯所の日常が展開されてゆくのだった。