【鍋蓋】野盗の逆襲
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/25 14:54



■オープニング本文

●リベンジ
「ちくしょう、ふざけやがって!!」
 雪にまみれながら、アジトに向かう男達の足は重い。
 それもそのはず、思うように事が進まなかったからに他ならない。
 この山には鍋蓋作りの匠『斬払木貫』の工房があった。その工房から今年、都に何点か展示する事になったらしく、いつ数時間前その品を運ぶ開拓者らを待ち伏せて襲撃して、時価百万文の鍋蓋が手に入る予定だったのだが、結果は失敗。相手との実力の差も大きく、自棄を起こした部下によって雪崩に巻き込まれて‥‥男は部下の半分を失っていた。
「このまま引き下がる訳にはいかねぇ」
 雪を掻き分け進む男。後ろには疲労を隠せず、肩を落としながらついて来る部下達の姿がある。
「今度こそやってやる‥‥」
 男は固く決意する。


 その頃ギルドでは――開拓者らが依頼完了の報告を済ませ、散開していた。
 この都にあるギルドはわりと大きく、待合室のような場所も広い。そこで、寛いで会話を楽しむ者も多いようだ。そんな中、仕事が終わったばかりというのに、休憩所には目もくれず受付に走った男がいた。

「ねぇちゃんっ、すぐに手続きお願いするさねっ!!」

 先程受け取った報酬をまだ手に握り締めたまま、男――新海が言う。
「えっと、あっと‥‥どの依頼でしょう??」
 飛びつくように窓口に現れた男に、困惑する受付嬢。
 転びそうになったのを辛うじて堪えて対応している。
「鍋蓋! 木貫先生の鍋蓋依頼さねっ!! 展示会場の警備のやつさぁ!! あの鍋蓋は俺が絶対守り抜いてみせるさねっ!!」
ぐっと拳を作り、瞳には熱意の炎が燃えている。
「わっ、わかりましたから、そのあの‥‥落ち着いて下さい〜〜」
 涙目になりながら、受付嬢は新海を宥める。
(「本当にこんな人で大丈夫なのかしら‥‥」)
 女は心の中でそう呟きつつも、表面には出さず手続きを進めるのだった。


●助っ人、現る
「――と、言う訳で今度こそしっかりやれよっ、野郎どもっ!!」
 男は士気を上げようと、大声で叫ぶ。
「でも、親分‥‥相手がまた強かったらどうするんで? 言っちゃあなんですが、俺らは所詮ただの人。志体持ち相手に敵う訳ねぇ〜って」
 こないだの戦いで、痛い目を見ているだけに部下は慎重である。
「おいっ、こらっ! 何、怖気づいてんだ!! それでも野盗のはしくれかっ!!‥‥‥けどまぁ、そう言うと思ってだ。こっちも助っ人を用意したんだよ‥‥先生、どうぞっ!!」
 男が頭を下げて促すと、その後ろからゆっくりと姿を現す人影がある。
「どうも」
 男は短く挨拶し、微笑する。中性的な顔立ちの優男だった。ジルベリアの生まれなのか、髪は銀髪、金色の瞳。紳士的な立ち振る舞いがこの場に似つかわしくない事この上ない。 けれど男は、部下達の視線に動じることなく堂々としていた。
「こちらのお方は変装の達人だ。今回の鍋蓋強奪作戦を手伝って頂く事になった。皆、失礼のないようにっ」
 男がそう一喝する。
「変装ってどうするんで??」
 いまいち状況が把握できていないのだろう、部下が尋ねる。
「馬鹿かっ、おまえは!! 今回は強奪が目的だ‥‥しかも、展示会場ときてる。ただ単に襲えばいいってもんじゃねぇんだよ! 警備を掻い潜って盗み出す‥‥それには先生のお力が必要だろうがっ!!」
 男はそう言って、先生に合図を送る。
 すると、先生と呼ばれた男は羽織っていたマントを優雅に広げ、次の瞬間――。

『おぉ!! 親分が二人になったぁ!!』

 どよめく部下達の声に、手ごたえを感じる親分であった。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
貉(ia0585
15歳・男・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
濃愛(ia8505
24歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
此花 咲(ia9853
16歳・女・志


■リプレイ本文

●準備
「ん〜〜やっぱりいつ見てもこの鍋蓋はいいもんさねぇ〜」
 ガラスケースに張り付いて離れない新海を尻目に、他の開拓者達が相談を始めている。
 今回の依頼は夜間警備――木貫の鍋蓋を筆頭に、展示されている貴重な品々を守るというのが彼らの仕事となる。集まった開拓者らはそれぞれ案を出し、行き着いた結論はとても古典的なものだった。
「‥‥けど、やはりこの方法が一番だと思う」
 紬柳斎(ia1231)が言葉する。
「じゃあ、決まりだな」
 恵皇(ia0150)他、皆異論は無い様で頷いている。
「ほなっ、木片と布が必要やなっ」
 纏まった作戦を実行に移すべく、今度は斉藤晃(ia3071)が材料を求め動き出す。
 今の時間は昼過ぎ――
 一般公開中の時間であり、この時間は主催者側が用意した警備隊のメンバーが始終目を光らせているようだ。
「ちょっと、いいかげんそこから離れて貰えませんかねぇ」
 ふと、鍋蓋の方を見やればあまりにも頑として動かない新海が不審者とみなされ、強制的に外に運び出されそうになっている。
「はぁ〜あの人は‥‥」
 それを見兼ねて、今までに何度か彼と一緒に仕事をこなしていた和奏(ia8807)が彼を引き取りに向かったようだ。
「全く、あなたという人は何処まで子供なんですか。いい加減大人になって下さい」
 声を荒げる事はなかったが、心底呆れた様子で言う。
「だって、和奏‥‥今は仕事中じゃないさね。だから、今のうちにじっくりねっとりこの鍋蓋を目に焼き付けててもバチは当たらないさぁ〜」
「‥‥確かにこいつはいいもんだが‥‥なぁ、果たして価値の分かる奴が何人いんのか、つー話だ」
 ――と、そこに入ってきたのは仮面をつけた貉(ia0585)だった。
 表情は読み取れないが、多分、面の下では微笑を浮かべていたに違いない。
「あんたもわかるさねっ!」
 その言葉を聞き、新海の目が輝く。
「百万の鍋のふた‥‥そいつはぜひとも、俺もほし‥‥いや、なんでもない」
「うんうん、わかるさねっ! こんな素晴らしい鍋蓋なかなかないさぁ〜誰だってほしくなるさねっ!!」
 同士を見つけて嬉しいらしい、喜色満面。貉の腕をしっかり掴んで見つめている。
(「新海さんのそれとは、かなり違うと思うけどなぁ〜」)
 和奏は貉の言葉の意を理解していたが、それは心の中に留めておく。
 そんな彼らを見つめていた影があったのだが、皆知る由もなかった。


●警備開始
 準備を終えて、各自持ち場に着く一行である。
 表門には泰拳士組の恵皇と水鏡絵梨乃(ia0191)が、裏門にはサムライの柳斎と陰陽師の貉が、塀内には志士組の新海と和奏が、そして会場内はサムライの晃と志士の此花咲(ia9853)が警備を担当している。広い敷地であるが、門は二箇所であるし、会場からの出口は六つと多くはあるが、内と外に開拓者が配置されているので、何処かしらで侵入者がいれば発見できるだろうと考えたのである。念の為、壁沿いには松明や篝火を設置――塀から入ろうとすれば一発で目に付くようにしてある。
「何事もなく済めばそれにこした事ないけどな」
 正面門で夜風に当たりながら、恵皇が呟く。
「そうだね。けど、全く何もないってのもつまらないかも」
「え?」
「いや、何でもない」
 冗談まじりにそう言って、絵梨乃が息を吐く。

   びゅうーーーーー

 どうも会場付近は吹き曝しになっているようだ‥‥風がやけに強い。
 吹き抜けていくその風に、思わず髪を押さえて、視線を上げたその先に――

「恵皇、あれ!!」

 そこには巨大凧があった。
 強い風に高く高く上がったその凧に人影らしきものが確認できる。
「しまった! まさか上からとは!!」
 恵皇が舌打ちし、駆け出す。
「絵梨乃はそこで待機しててくれ。囮かもしれん」
「わかった」
 絵梨乃はそう言って彼を見送るのだった。


 凧を発見したのは、彼らだけではない。
 裏門の二人も、塀内の二人もそれを目撃している。片割れを残して、凧の進路を追うのは柳斎と和奏。そして、残れというのに着いてきた新海である。
「まだあの凧にいるようですね‥‥」
 和奏が目を凝らして人影を確認――追いかける。
「ここは俺にまかせるさぁ〜」
 新海はそう言って取り出したのは、彼お手製のおなじみアイテム――鍋蓋製の苦無である。
 狙うは凧の本体部。そこ目掛けて、ありったけの鍋蓋苦無を投げ放つ。
 けれど、距離が有り過ぎて‥‥、凧は会場の屋根に着陸するのだった。


●侵入者
「合言葉は、鍋」
「焼き」
「万」
「歳」
 会場内に入る為、日中に用意した木札と合言葉を使って、中に入る駆けつけた四名。
「う〜、お腹がすいたですよぉ‥‥」
 その合言葉を聞き、お腹を鳴らしたのは万年空腹を自負する咲である。
「次は、おに・ぎり・美・味とかどうや?」
 それを聞いて、更に追い込む晃。
「ひどいですよ〜、私がおにぎり好きなの知ってて〜」
「そら、すまんなっ。まっ冗談やし、気にしなやっ‥‥と、何かあったんか?」
 駆けつけた仲間を見て、晃が尋ねる。それに事情を手早く話す外班のメンバーである。
「そうかいな‥‥敵は凧で。けど、まだここには来てへんみたいやなっ」
 ぐるりと視線を走らせて、確認する。
「晃さん、ちょっとアレが怪しいのです‥‥」
 ――が、咲は見逃さなかった。展示会場に飾られている品物の一つ。
人の大きさ程ある焼き物の狸を指差し、咲が言う。
「あの置物がどないしたっていうんや?」
 晃の疑問に答えず、ゆっくり近付いていく咲――代わりに恵皇が回答した。
「晃、俺の調べではあんなでかい狸‥‥この会場には展示されていなかったぞ」
「んなっ」
「とうっなのですよ〜!!」
 答えを聞いたと同時くらいに、咲が狸にダイブしていた。けれど、

   ぼわんっ

 そこで狸は姿を変えて、一瞬の煙を放つと共に次の瞬間咲へと姿を変えていた。


「さて、どうしたもんかな」
 柳斎が二人の咲を見つめ、呟く。けれど、大して動じた様子はない。
 それもそのはず、実はこういう時の為に木札の他にも細工をしておいたのである。
「晃さん、それを外して頂けますかな」
 腕に巻かれた布を見やり、柳斎が言葉する。
 開拓者らの腕に巻かれた布――それには訳があった。
『古典的な方法やけどなっ』
 そう言って、晃が皆に促した策だ。
 右の咲の布を巻き取ると、そこにはバツマークが描かれている。
「ってことは、こっちが本物やなっ」
 それを見取って、晃ががしっともう一人の咲の腕を捕まえる。
「ふふふふふふふ‥‥」
 すると、掴まれた咲が不意に笑い出した。顔を下げて、不気味に笑う。
「成程な。そんな初歩的仕掛けをしているとはね‥‥私は少し君達を甘く見ていたようだ」
 偽咲がそう言うと、床に煙玉を投げ付けた。濛々と立ち昇る煙は一瞬にして視界を奪ってゆく。気付けば、掴んでいたはずの腕が木の枝にすり変わっている。
「鍋の蓋、確かに頂いてゆくぞっ」
 煙の中で、侵入者はそういうとガラスケースを割って、外へと駆け出していた。
「くっそっ! 盗賊風情が俺達から逃げ切れると思うなよっ!」
 視界を遮られながらも、恵皇他残りのメンバーが後に続く。
「待つさねっ!!‥‥っと、おわぁ〜〜」
 それを追いかけようとした新海だったが――何かあったらしい、言葉が続かない。

   ぴぃ〜〜〜

 そんな中、外に出た偽咲が呼笛を鳴らしていた。
「おっ、先生からの合図だ! いくぜっ!!」
 外で待機していたらしい、野盗達の声が上がる。
 そして、裏門と正面に多数の野盗達が押し寄せるのだった。


●野盗は所詮、野盗
「なになに、いきなり‥‥パーティーの始まりぃ?」
 突如現れた野盗の集団に、絵梨乃が言う。
「怪我したくなかったらそこをどきな。別嬪な顔が傷つくぜ」
 いかにもといった井出達の男達――彼女の見た目で自分との力量の差を判断したらしい。余裕の表情を見せている。そんな彼らを冷静に見やって、絵梨乃はこっそりスキルを発動させた。
「んふふ〜ボクの心配してくれるんだぁ〜優しいね、君達。けど、心配御無用〜ボクつよいからぁ〜〜」
 にこりと笑って野盗に視線を送った時にはすでにそれは始まっていた。
 倒れそうで倒れない、のらりくらりとした動きで取り囲む野盗達を見据える。
「なんだ、あのガキ? 突然変な動きし出したぞ!」
「気にすんな、やっちまえぇ〜」
 不審な動きを始めた絵梨乃に構わず、野盗は突入を試みる。が――、
「んにゃ〜?? どうしたの? 私の相手、してってよ?」
 絵梨乃の酔拳によって尽く邪魔をされて、門へ辿り着く事ままならない。
「またせたなっ!」
 ――と、そこへ正面の異変に気付き、戻って来た恵皇。
 もう、結果は明らかだった。


 一方裏門はというと、こちらも思いの他早く決着は着いていた。
「んだぁ? もう終いか、つかほんとパンピーしかいねーのな。まぁしかたねー話だけど」
 倒れている野盗達を見て言い捨てる。
「確かに大した事なかったようだな」
 後から駆けつけた柳斎だったが、ほとんど剣を抜くことはなかった。それは一重に貉の毒蟲と呪縛符の影響によるものである。数が少なかった事もあり行動を止めてからの攻撃で、貉自身もノーダメージのようだ。
「こいつら、縛るの手伝ってくれないか」
 面倒臭げに縄を取り出す貉。
「あ〜〜と、実は拙者、闇が怖くて‥‥誰かこのか弱い乙女を守っておくれよ〜〜」
「あぁん??」
「‥‥‥いや、冗談だ。ちょっと言ってみたかっただけだ‥‥聞き流してくれ‥‥」
「あぁ、わかった」
 全くもって冷静(?)な二人であった。


●追い込まれた侵入者
「あの方々は何をやっている?」
 どさくさに紛れて逃走を予定していた偽者は、仲間の野盗らが現れない事にイラつきを隠せない。折角盗み出したというのに、これでは全くの意味がない。
(「しかし、こんな鍋蓋が百万とは‥‥よく分からん‥‥」)
 屋根に登って辺りを見回すが、予定する集団は現れず、凧もこれでは使いようがない。
「観念せぇ〜や!」
 すると、会場にいた開拓者の一人、晃が未だ咲の変装のままの偽者に向かって叫んだ。その声に偽者は足を止めざる終えない。咆哮――サムライが使う挑発のスキルの効果である。
「そうです、もう逃がさないのですよ〜! だから、早くそんな変装は解いておとなしく捕まればいいのです!」
 これは咲だ――白鞘を両手に叫んでいる。
   ビュン
 ――と、無言で苦無を投げたのは和奏だった。
 表情を崩さぬまま新海がさっき使っていた鍋蓋苦無を拾い上げ、投げ付ける。

「おまえの仲間はもう来ないぜ」

 追い討ちをかける様に現れたのは、外組の四人だ。

「すいやせ〜ん、先生! 捕まっちまいました〜」
「先生だけでも、それ持って逃げて下さい〜」
「親分が待ってやす〜〜」

 縄に縛られたままの下っ端達がそう叫んでいる。

(「なんという事だ。弱すぎるな‥‥雇い主を見誤ったか‥‥」)

 そう思い、逃走開始を決意したその時――

「ちょっと待つさぁ〜〜〜!!」

 屋根の際から登ってきた男がいた。
 何があったのか、服はぼろぼろ――身体にはねばねばした物体と共に撒菱が纏わりついている。

「なななっ、何なのだっ、おまえは!!」
「鍋蓋返すさぁ〜〜!」

   どーーーーーーんっ

 偽者の言葉を聞くことなく、新海が突撃――それをもろに食らい、偽咲が鍋蓋を包んでいる風呂敷を取り落とす。風呂敷が宙を舞い――そして、曲線を描いた後、落下し始める。

「ちっ、仕方がない‥‥さらばだっ、って離れろ、男っ!!」

 逃げようとした偽咲だったが、新海の身体のねばねばによって逃走を阻まれている。

「みんな蓋は頼むさねぇ〜〜」

 新海の叫びに答えるように、皆駆け出していた。


●それぞれの感想
「無事終わって何よりなのです‥‥」
 一網打尽に捕まえた野盗達を役所に引き渡して、皆が卓を囲んでいる。
 あの後も、鍋蓋展示の開催期間中は警備を行っていた彼らであるが、昨日やっとそれが終了――。
 労を労う様に、誰からともなく集まった夜間警備組の面子で一杯やっている最中なのだ。
「しかし、なんていうか危なかったな、あの時は」
 鍋蓋を拾う為、必死で走った事を思い出し柳斎が言う。
「そうだな、あれで受け止められなかったら弁償だったかもしれないからな」
 貉も今日は面を外し、それだけはゴメンだという表情をして語っている。
「けど、よくあれで傷とかつかなかったよな」
 ――と、これは恵皇。
「日頃の行いがよかったんですよ、私達‥‥ねぇ〜、咲ぅ〜」
 おにぎりを遮二無二頬張っていた咲をぎゅっと抱きしめて、ほろ酔いで言ったのは絵梨乃だ。
「大丈夫ですよ。一応相手もプロ。もし取り落としていたとしても簡単に傷つかないようにしていたはずです〜〜」
 もう何個目かわからない御握りを食べ切って、咲が付け加える。
「あっ、そう言えば聞きそびれてしまったけど‥‥今回の依頼といい、前の依頼といい‥‥野盗界では今、鍋蓋って売れ筋なんでしょうか?」
 真面目な顔で疑問を口にしたのは和奏だ。
「さぁな、俺は知らん。けどまぁ、うまくいったんやし、ええがなええがなっ! なぁ、新海よぉ!」
 豪快に笑って、新海の肩に手を置く晃。
「けど、晃〜〜あの罠はいただけないさぁ」
 ――と、新海は溜息をつきながら注意した。
「んあ? あの罠って‥‥撒菱ととりもちの事か??」
「そうさね」
 あの時の事を思い出し新海がぼやいている。
 偽咲が外に逃走する際、新海に起こったアクシデント。それは鍋蓋周りに仕掛けられていた晃の罠が原因だった。彼は、念には念をとケースの周りにとりもちと撒菱をセッティングしていたのだ。それを知らずに鍋蓋を死守しようと近付いた新海はものの見事にそれの餌食になっていたという訳である。
「あぁ、だからあの時あんなにべたべただったのか〜」
 ふと、思い出して絵梨乃が笑う。
「あれ落とすのに無茶苦茶時間かかったさね‥‥服も武器も一式駄目になったさぁ〜」
「あぁそれは悪かったな。今日は俺のおごったるから許せや。な、なっ」
 強引に酒を口に運ばれて、新海は苦笑する。
 けれど、この手の騒がしさは嫌ではないようだ。
「しかし、残念だったな‥‥。変装するなら新海さんだったなら面白かったのに」
 ある作戦を思いついていたらしい柳斎が嘆息する。
「それやったら、俺もそうや! 必殺技を用意してたんやで!」
「ほう、それはどういう?」
「これやっ! クォーラルボンバーーーーーー!!」
 晃はそう言って、全力で新海にラリアットをお見舞いする。
「ぐはっ!!‥‥‥いっ、いきなり何するさねぇ〜」
 喉元に決まったそれに、思わず咳き込む新海である。

「あいつら、戻ってこねぇ〜な〜」
 その頃――野盗のアジトではぼんやりと呟く親分の姿があるだけだった。