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■オープニング本文 「あの方も所詮人という事ですか…」 報告を受けて銀髪の青年・僅籠が顎に手をかけ思案する。 (「あの方が死んだとて組織としては機能できる…とはいえ、私は馬鹿ではないですしね」) 百狩狂乱の頭目になって追われる身になるのを悪くないと思う程酔狂ではない。 ただ、組織自体に魅力がない訳ではなかった。寄せ集めの部分は省いたとしてもこれまで育ててきた者達なら、いい駒になるかもしれない。けれど、その管理者が今はギルドの手に落ちているし、彼らはまだ肝心要の所を聞かされている者は少ない。戦闘要員となるに至っている者は極一部。となれば新たに組織として体制を立て直すには手間が掛り過ぎる。 「そう簡単に口を割るとは思いませんが、狩狂様が死んだとなると…彼はどんな選択をするでしょうね」 多分最優先に考えるのは子供達のことだろう。 資金源が百狩にあったからこそ彼はこの組織と手を結び、狩狂の元についた筈だ。その頼みの綱がなくなって、しかも咎める者がいないとなれば従い続ける必要もなくなる。新たな受け皿をと敵であった芹内に泣きつく事も考えられるし、既に百狩との繋がりがばれている以上その辺の調査は進んでいるだろう。 「わざわざ殺すのも面倒ですし、ならば交渉してみるのも一つかもしれませんね」 ここにいる部下達がどうなろうと関係ない。僅籠はそういう男だ。 ただし、狩狂との関係はといえばそれだけではないのだが――所詮は済んだ事。 (「好き勝手やって後始末を私に押し付ける……本当に貴方という人は」) 彼はそう心中で呟くと、以前狩狂が使っていたであろう椅子に腰掛ける。 (「ふふっ、けれど楽しませて頂いた分はお返ししましょうか…私流のやり方で」) くすりと笑い彼は筆を取る。それは北面王・芹内宛の手紙に他ならなかった。 『北面王、ますますの発展お喜び申し上げる。 我々の頭目さえも討ち倒した功績……素晴らしい。そこで私は投降する事を決めました。 今となってはあの方の次に実権を持っているのは私だけ…けれど困った事がありましてね。 只、もうお気付きだとは思いますが、百狩というのはそう簡単な組織ではない。すでにギルドに捕まっている者達が喋っているかもしれませんが、こちらは傀儡会と称す育成機関を持ち、今も百名余りの子供を抱えている。けれど、このままでは彼らはどうなるか? 察しのいい貴方であればお解りでしょう? 百狩の掟は皆殺しだ……もし彼らを救う気があるのなら、明後日地図の場所でお待ちしています。私をよく思っていない者もいますから私自身も命がけ……うまく落ち合う事が出来たならば、私の処遇も多少は配慮して頂きたいですね。それではお会いできる事を願っていますよ』 この手紙が届いたのはついさっきの事だった。 見かけは何の変哲のない封書であったから、芹内は悪戯かと思った程だ。 しかし、内容が内容だけに見過ごす事など出来る筈もなく、以前報告が上がっていた百狩に関わりのある者の元を訪れ、彼自身が真偽を確かめる。 「……はい、この字は、僅籠様に、間違いないと…思います」 その問いに男・菩提は力なくそう答える。 狩狂の死と共に知らされた仲間の動き――あからさまな裏切りに、ただただ言葉が出ない。 「本当に子供がこんなにもいるのか?」 罠である可能性も否定できない。ただの詐欺組織の資金力がそこまであるとは信じられない。しかし、七草事件の後の一件で姿を見せたのは紛れもなく子供達であったし、菩提を捕まえた時の報告書にも何名かの子供らがいた事は既に確認されている。 「はっはい……しかし、あの方が…まさか」 菩提が牢の柵越しに表情を歪める。 「成程…」 そんな彼を見取って芹内はそれに偽り無しと判断した。 となればしなければならない事は自ずと決まってくる。 (「この手紙に一人でこいとは書かれていなかった。しかし、大人数では警戒される可能性もある…ならばもう一度、彼らの世話になるか」) 百狩の進撃を二の丸で食い止めた者達――城の修理で城内の志士らは手一杯であり、頼めるのは開拓者のみだ。 「芹内王…我はどうなってもいいのです。けれど子供達はまだ何も知らない…だから」 「わかった。最善を尽くす…その代わり、事が終わったら話してくれるな?」 芹内のその言葉に菩提は再び静かに頷いた。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔
刃香冶 竜胆(ib8245)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●追跡 (「ふふっ、私をつけているようですが…まぁいいでしょう」) 深めに帽子を被り僅籠は子供達を連れ街を歩く。子供の数は十数名…しかしこの数いれば相手は手を出してはこないだろう。いや元々まだ手を出す気はないのだ。彼が何をしようとしているのか見定める為、あるいは一人になるのを待つ為。こちらの出方を窺っているようだ。 (「あの方の信頼は厚かったですからね…私の言葉では信用できないと見える」) 百狩の名を聞いて構成員に加わったならず者やら、面白半分で手を貸したアヤカシを数見てきた。しかし、狩狂が死んだ事を知るとその場を去った者は多い。そうして残ったのは……今つけて来ている彼らのみだ。 (「無常な現実で申し訳ありませんが、恨まないで下さいよ」) 僅籠はそう心中で呟きつつ牧場へと向かう。 「僅籠様、次のお家はどの辺です?」 「ふふ、もうすぐですよ」 彼はそれにそう答えて子供達を誘うのだった。 僅籠…その名はギルドの資料にまだ残っている。 アル=カマルで起こったある事件の重要参考人――一説では首謀者だったのではないかと囁かれている。それは彼の主が捕まった時、彼はすでに主の金を持ち出し、姿まで消していたからに他ならない。 「神音のセンセーが一度この人と一戦交えているんだよ。だから戦い方は聞いて知ってるよ」 芹内自ら事に当たると知って、蓮神音(ib2662)は出来うる限りの情報を提供する。 「自分は先にこの牧場に行ってみたいと思います」 とこれは和奏(ia8807)。僅籠からの手紙が口語文で書かれている事に驚きつつも、思考はあくまで冷静に。今出来る限りの最善の策を行動に移す。 「ふむ…あの時も世話になっているし、出来るのであればおまえに任せよう」 芹内はそう言って彼の意思を尊重した。それに和奏は一礼するとすぐさま現地へと向かう。 「しっかし、こいついったい何を考えているんだろうな…」 本当に投降するつもりがあるのか、ルオウ(ia2445)が髪を掻きつつ眉を寄せる。 「詳しい事はご本人でなければ判りませんが、子供達の未来の為…どちらにせよ、穏便に事が済む事を願うばかりです」 と今度はバロネーシュ・ロンコア(ib6645)。 理由はどうあれまだ先がある子供達を助けたい。もし何か言い包められているならば、誤解を解いて保護する所存である。 「ほんに育成機関まで作り上げるその心魂たるやあっぱれでありんすが…子供は多種族と言えど嫌いではありんせんので、先ずは無事を目指しんしょうか」 刃香冶竜胆(ib8245)もそれに同意見。王とて異存はない。 「…罠かもしれんが、子供達の命を最優先に。いざとなれば宜しく頼むぞ」 「はい」 狩狂に加担する理由を聞いて子供達の前には姿を現さないと決めていたユウキ=アルセイフ(ib6332)。それが叶わなくなった今、出来るのは…子供達と王を守る事。百狩が壊滅していないなら幹部を狙うつもりであった彼は、二つの意味で目的を失ったに等しくどこか影を落としている。 「とりあえず交渉は王さんに任せるぜ。その代わり」 「あなたは余り動かないで下さい」 王である以上軽い命ではない。前線に出て怪我でもされたらと念を押す。 「判った。不本意ではあるが仕方あるまい」 芹内はその立場を煩わしく思いつつも頷いて、さてと立ち上がりかけて新たな声。 「ねえ、もしまだ時間があるなら菩提さんに会わせて貰えないかな?」 神音だった。万一何かあった時、子供達は誰の言葉を信じるだろう。狩狂、僅籠…いや違う。今までの経緯から察するに子供達の面倒を見ていたのは今牢に繋がれている菩提だ。ならば彼に一筆書いて貰う事で何か変わるかもしれない。 「……ふむ、案内しよう」 芹内もそれを察して、神音らを彼の元へ。 その頃和奏は牧場について建物に入ってゆく僅籠を確認した所だった。 ●対面 指定された時間、指定された場所に到着したのは昼過ぎの事。 寂れた牧場にある一つの扉前で僅籠は木箱を椅子に彼らの到着を待っていた。その姿を見つけ、一行は僅かに表情を堅くする。壊れた柵に、伸びた雑草…戦闘にはどちらかと言えば向く立地であるから油断は出来ない。 「おまえが僅籠か?」 開拓者らに囲まれる形で歩いていた芹内がその中央から一歩前に進み、目の前の銀髪に問う。 「ええ、如何にも…お初にお目にかかりますか。ご足労頂き感謝しますよ」 その問いに僅籠はあっさりと答え、木箱から下りる。 「ならば話は早い。子供達はその中か? 確認させて貰おう」 王が言う。 (「あれってもしかして…芹内王!?」) そんなやりとりを見つめるもう一つの影は――明らかに動揺していた。 がさりと音を立ててしまい、慌てて行動を開始する。その音に素早く反応し、まずは様子見に竜胆が走る。隼襲で距離をつめて、手にした霊剣で一閃する。 ピュルルルーーー その直後、牧場に響いたのは甲高い笛の音。それと同時にその場が一変した。 笛の音と共に現れる複数の龍――山側に隠れていたのか、そちらから奇襲をかけるように騎乗していた者達が飛び降り、彼らに刃を向ける。 「やっぱり罠だったの!? アル=カマルで色々やってたみたいだけど、また変な事企んでたら許さないよ!」 突然の襲撃に神音が叫ぶ。 「おや、貴方はご存知でしたか…しかし、これは違いますよ」 だが、僅籠は飄々とした様子でそう言ってからさらりと襲撃者の刃をすり抜ける。そして振り返り様にその者の腕を簡単にへし折ると距離を取る。 「んなっ! って事はこいつらはッ!」 「そう私にとっても敵ですよ。子供達を連れ出した時からコソコソしていましたから」 「じゃあなんでその時に片付けておかねぇんだよ!」 王を守るような立ち回りを見せながらルオウが怒鳴る。 「あの子達はまだ何も知らないのですよ?……なのに、突然こんなやりとりに遭遇したらどうなるか…わかるでしょう?」 「くっ、けど…」 判っていて見過ごしていたのであれば、それはそれで問題ではないか。彼らが来るのを知っていて、わざとという事も十分考えられる。 「まぁ、始まってしまったもんは仕方ありんす! まずはこの場を何とかしんしょう」 竜胆は敵の打ち込みを刀で受け止めつつ、冷静に言う。 「ええ、そうするのが一番だと思いますよ…ただ、彼らは多分元傀儡会所属ですがね」 『えっ…』 その一言に一行から声が漏れた。 確かに言われて見れば、中にはまだ十代も混じっているし全体的に若い面子が多い。 「くっ」 その事を知って竜胆は打ち込みかけた刀の起動を変え、急所を外した峰撃ちへと変更を試みる。だが、その躊躇が相手の好機。 「馬鹿にするな!」 僅かな隙を狙って、眼前の敵は彼女の脇腹に拳を打ち込んだ。それには彼女も追いつかず、 「大丈夫ですか!」 弾かれた彼女を和奏が受け止め、横凪の一閃で接近を防ぐ。 「問題ありんせん…」 彼女は撃たれた所を押さえつつも、すぐまた刀を構え直す。 「王さん、どうするよぉ…こいつらはやってもいいのか?」 突然の思わぬ事態にルオウが指示を仰ぐ。 「致し方ない。出来るだけ…と言いたい所だが、狩狂を慕っての仇討ちならばもう言葉は届かないかもしれぬ」 「判りました。では出来るだけやってみましょう」 その指示にバロネーシュが魔導書を開き、スキル発動のタイミングを見計らう。 「では、僕が時間を稼ぎます」 ユウキはそう言うと、アゾットを掲げてまずは氷の刃で接近阻止。それに続いて王に近付く者にはアイヴィーバインド。突如地面から現れる蔦が敵の足を絡め取る。 (「あの人とやると思ってたのに…でも今は考えてる場合じゃない」) 「前衛の者は出過ぎる必要はない。むしろ私から離れるな」 そこで再び芹内から指示が飛んだ。だだ動くなとはどういう事か。気になる所だが、訳あっての事であろう。 「私も…お側にいてよろしいんですよね?」 そこへふいに僅籠が近付く。だが、 「ダメなんだよっ!」 さすがにそれはと神音が警戒を見せた。 芹内の間に割って入って…これ事態が茶番であるとも考えられたからだ。 「全く可愛らしいナイトですよ」 僅籠はそれにくすりと笑って元の位置へ。 「敵はこの付近、あれで全部です」 そこへ和奏の報告――戦闘開始と同時に心眼で新手がないかもチェックしていたらしい。 「ならば…ルオウよ、あれを」 「え、何?!」 唐突に名前を呼ばれて思わず焦る。 「サムライといえばあれでありんす」 その言葉に彼は理解した。そして、周囲に散らばっている敵に向けて大声を出す。経験不足もあっただろう。慣れている者や耐性の強い者ならばそれなりに回避は出来たであろうが、残念ながら敵の一部はこれに囚われ行動が鈍る。 そこへバロネーシュがアムルリープを発動……急激な睡魔に襲われた者達は戦力外へ。これにより数は思いの外激減する。 「一人ずつなら問題ないんだよ!」 「少し眠っていて下さい」 神音は拳で和奏は刀で、殺しはせずに気絶へと持ち込む。時間も労力も思う程かからなかった。襲撃鎮圧に成功し、いよいよ子供達とのご対面。扉を塞ぐ様に置かれた木箱に王が近付く。 「待って」 その行動に和奏が注意を促した。 ●条件 「僅籠さん、貴方が開けて下さい」 和奏が鋭い目付きで言う。 と言うのも到着時、和奏は僅籠が扉前で何かしていたのを目撃していたからだ。 「もしかして、あそこにも罠でも?」 ユウキが問う。 「ええ、あの方は魔術師のスキルがあると聞いていますので、もしかしたらと」 そう言う彼に僅籠は笑みを返して…何も言わなかったが、やはり細工をしていたらしい。開ける前に地面に手を触れてから木箱を退け扉を開く。幸い、子供達に僅籠から指示は下されておらず、始めて見る開拓者らに目を丸くする。 「新しい人…?」 近くにいた少年が尋ねる。 「あ、神音達はね。菩提さんから頼まれてきたんだよ」 そう言って手紙を見せると、子供達の目がぱっと輝く。 「そっか。じゃあおねーちゃんあそぼー」 『あそぼー』 その誘いに女性陣は彼らの元へ。バロネーシュ等はお菓子を持参した為大人気だ。 だが、人数が明らかに少なくて――男性陣が僅籠を連れ出し問い質す。 「いえねぇ…彼らは私の生命線でもありますので。一つだけ、私の願いを聞いて頂きたいのですよ」 「願い? まさか罪の減免をしろとでも?」 和奏が冷たく言う。 元々あの手紙を見た時から気に食わなかった。結局のところ、子供達の件にしても厄介払いに過ぎないと彼は思う。飼えなくなった犬猫を捨てて『生き残る可能性をあげた』と思う無責任な飼い主と何が違うのか。それに増して自分の罪の減免など……図々しいにも程がある。 「つまりこの一件、あなたの保身の為ですか」 なんとなく見えてきた結論にユウキが問う。 「ええ、否定はしませんよ。それにアル=カマルの一件については命令で仕方なくやらされた事ですし…可哀相だとは思いませんか? 脅されたやったのなら罪は軽くなるべきだ」 大袈裟に演技して見せて、だが彼は多分微塵もそんな事は思っていないだろう。 「もし罪を帳消しに、手配を取り下げてくれるならば支部の位置までお教えしますよ。支部がわかれば後は簡単。百狩は壊滅、手柄と信頼を王は得る。悪くない話でしょう?」 少し前まで自分が所属していた組織をあっさりと明け渡す。その行動に普通の人間ならば呆れるか嫌悪を抱くだろうが、彼は全くそれを気にはしない。 「クッ、このうらぎ…グッがァ!?」 そんな中、目覚まし事の一部始終を聞いた男が最後に彼の本性を暴き見せる。 「雑魚は静かにしていなさい…何でしたら今ここで殺して差し上げてもいいのですよ」 男の言葉が終わらぬうちに隠し持っていたナイフで喉を貫き、涼しい顔で彼は言う。 『こいつを野放してはいけない』 そこにいた開拓者と王はそう直感した。けれど、今彼らに選択の余地はない。 「さあ、どうするのですか?」 それを判っていて僅籠が問う。 「あなたが嘘をつかない保障は?」 とこれは和奏。とても大事な部分だ。 「くく…もし私が嘘を教えると心配ならば、どうぞ好きに拘束すればいい。但し支部で子供達が確認できた後は釈放頂きますが」 僅籠のその言葉に王は暫く考え、のち彼は首を縦に振る。 「では決まり…ですね。私をどういう扱いで無罪にして頂けるかは判りませんが、とりあえず貴方方と共に参りますよ」 僅籠は最後までそんな素振りで彼らの気持ちを逆撫でした。 けれど約束は守られて――全ての拠点を知った芹内が直ちに志士らを派遣すると、確かにそこには子供と管理する僅かな大人がおり、残っていた残党もほぼ無傷のままで討伐する事が出来たと報告が上がっている。 そして僅籠の釈放の日――王は今一度彼と対峙して、 「協力は感謝する。だが、おまえに一つ聞いておきたい。なぜ百狩を裏切った? 本当に保身の為だったのか?」 幹部であったという事はそれなりに狩狂からの信頼もあっただろう。何より後から聞いた話だが、彼は百狩の金庫番であり実力は狩狂と並ぶ程であったとさえ言われている。 「聞いてどうするおつもりで?」 その問いに王は答えない。 「まあ、いいでしょう。私は意味のなくなったものなどに興味はない。ただそれだけです」 その言葉に芹内はまだ探るような目を向ける。 「全く…どんな答えを期待していたのかは知りませんが、私は無駄は嫌いです。ですからあの方の努力を無駄にしないで頂きたい」 くくっと笑い僅籠はそういい残しその場を後にする。 ちなみに世間的には彼と、そして菩提は死んだという事になっていた。そして保護された子供達は新たな住まいが提供され、暫くは菩提が監視付きではあるが彼らの世話を行う事となる。 (「あいつの努力か…」) 菩提から聞いた話も照らして芹内は考える。 狩狂…いや八手は力での制圧の後、公平な国を目指していたのではないだろうかと。彼自身が貧乏長屋の出身であり、そこに住む者の気持ちは一番理解していた筈だ。だからこそ上を目指して、知った現実に彼は真っ向から戦う事にしたのかもしれない。 「確かに悪事を働くのは悪い事ですが…授かった命を無駄にしてはいけない。あの子供達は判っていてなお手を染めざる負えない事情があった子達なのです」 菩提はそう言っていた。なんともやるせない事だ。 「基準は必要であるが善悪はそう簡単には分けられない…と言う事だろうか」 芹内は仕事の手を止めてふと思う。ただ唯一気掛りは釈放した奴の事だ。 「言っておくが次はないぞ」 彼にそう言っておいたが、果たして――。一方その頃、その彼はと言えば…。 「これでよかったのでしょう? しかるべきものはしかるべき場所へ……私にはもう関係ありませんが、借りはちゃんと返しておきましたからね」 そう楽しげに呟いて…彼は街道の人混みの中へと消えてゆくのだった。 |