【流星】海男求む!【罠師】
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/28 00:42



■オープニング本文

「え、あ、ちょっ…おいいっ!!」

 里の一大事を聞きつけて戻る最中の事。
 キサイはたまたま通りかかった漁村で思わぬ襲撃(?)にあっていた。
「そのゴーグル、その井出達…貴方で間違いないわ! 早く来て下さい! お待ちしてたんですから」
 漁村に着くや否やそう言われて、村娘であろう若い女性に腕をつかまれ倉庫へと引っぱれる。
 その力といったら凄まじく…。昔から漁を手伝っているのかもしれない。腕っ節が強く、怪我をさせて振り解く訳にも行かず、彼は言われるままに案内されて…そこにあったのは銛と水着。
「あの…これは…」
 いきなりの事に訳が判らず彼が尋ねる。
「あれ、違いました? 貴方、うちの村の募集広告を見てきたバイトさんですよね?」
「はぁ?」
 防砂ゴーグルを海用のそれと間違われたのかもしれない。困ったものである。
「今困ってるんです。お暇ならお願いします! 三食賄い付きで注目も浴びれるチャンスですよ!」
「注目?」
 一体どんなバイトなのか? 若干嫌な予感を感じつつ、首を傾げる。
「これですっ!!」
 そんな彼を気にすることなく、彼女が取り出したのはお手製の広告――。
 そこには『男性の海女さん…海男(あまん)求む』とでかでかと書かれている。
「期間限定で観光客目的でパフォーマンスとして潜って頂ければいいだけです。簡単でしょう?」
 にこやかな笑顔で村娘が言う。
 シノビの自分が見世物に? 泳ぎとて訓練で一通りやってはいるが、今は里が気になる。
「悪いが俺は忙しい…他を…って、あ」
 そう言いかけた彼であったが、
(「しまった…路銀がねぇ」)
 こないだの忍犬の借り出しに師匠からぼったくられて手持ちは残り僅か。
 このままでは次のギルドにつくまで持たないかもしれない。
「他を…なんですか?」
 覗き込むように村娘が言う。それにバツが悪そうに視線をそらして、
「い、いや……いい。仕方ねえから…かなり不本意だけども…その、やってやるぜ」
「きゃー、有難う御座いますー! これで一人目ゲットだー♪」
 キサイの回答に喜ぶ村娘。そして、
「えーと、あなたにはこれかなー? あれかなー?」
 とにかくはしゃいで用意していた派手派手の水着を選び始める。
「え……俺に選ぶ権利は?」
「ありません!! それよりこれなんかどうですかー?」
 赤ベースにでかでかともふらの絵が描かれたボクサーパンツタイプの水着を差し出し問う。
「きゃ、却下だ!! それをするくらいなら俺は降りる…せめてサーフパンツタイプだ。ここは絶対にゆずらねえぞ! いいな」
「は…はい。わかりました…」
 鬼の形相になったキサイにたじろぐ彼女。
「ってそういえば海に凄い数の牛がいたけども…あれって何なんだ?」
 沿岸を通ってきた時の事を思い出し、キサイが問う。
「さぁ? なんか突然きたんですよねー…けど、潜る場所はあっちじゃないので大丈夫ですよ」
「そ、そうかよ…」
 何か何処かで見た猫又がいた気がしたのだが、気のせいだったか?
 キサイはそんな事を思いつつ、渋々海男の仕事を引き受けるのだった。


■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567
46歳・男・志
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
蔵 秀春(ic0690
37歳・男・志


■リプレイ本文

●出会いは突然
「ふむ、コレで完璧だな。では宣伝に行ってくる」
「じゃあ、自分も途中まで付き合うさね」
 ビキニにフリルパンツのツーピース水着を身につけて篠崎早矢(ic0072)は張り切っていた。というのも美しい男性の傍で働けるというこの依頼、一人身の者としてはその先の発展があればと期待してしまうものだ。
 そんな彼女の気持ちを知ってかしらずか、行き先が同じという事で蔵秀春(ic0690)が同行する。ちなみに彼の水着は競泳タイプの花札柄だ。なぜなら彼は潜りの経験が少ない為、少しでも水の抵抗が少なくなるものをと考えられたらしい。
「してその看板…お手製のようだがあんたが?」
 早矢が手にした板を指し彼が問う。
「ああ、凄いだろう? これでお客が来る事間違いなし! 後は私の口上とこの美貌で」
「そうだねぇ。ならコレで完璧だ」
 意気込む彼女に取り出したのは一本の簪。彼は簪職人であり、普段から商品を持ち歩いている。
「おお! これは有り難い!! 任せておけ、私が沢山の客を連れてくるから」
 その簪を受け取り大喜びで駆け出していく彼女。だが、
「あ〜近日男性開拓者の鍛えられた肉体見放題の漁が始まるよ〜! 見学者は海の店まで〜…あ、そこのお兄さんは獲れたての魚介はどうだろうか?」
 と少しどっち付かずな呼び込みに苦笑しつつ近隣の海の家へ。
「よ、そこのお嬢さん! 明日から近くの漁村で俺潜るし来て見てくんねぇ」
 と彼はそこの女性客に声をかけて回るのだった。


 一方その頃、見世物としてシンクロを提案した二人はその動きの打ち合わせを始めていた。
「次は右に…その後はターンでいいかな?」
「そうですね。それで少し休憩に平泳ぎを入れて」
 着用水着を思うものに出来なかった事に若干の不満を抱きつつも蓮蒼馬(ib5707)の顔は真剣だ。
 ちなみに彼の希望は褌に他ならない。
「いいか、お嬢さん。褌とは何時如何なる時も俺と共にある、俺の一部、俺の魂だ!」
 倉庫の壁を激しく叩いて蒼馬が主張したのはつい数時間前の事だ。
「けれど褌は下着ですよ! お客様にお見せするにはやはりちょっと…」
「なぜだ。そこはちゃんと考慮して新しい物を…」
「駄目です! うっかりはらりがあっては困りますし、第一ペアの方も合わせて頂かないと変ですし」
 そう言ってペアであるユウキ=アルセイフ(ib6332)をちらりと見て…彼に褌はどう見ても似合わないだろう。
「あの…蒼馬さん?」
「ぐぬぬ…無念」
 その主張に蒼馬は折れざる終えなかった。
 そんなやり取りがあった後、二人は動く事を考えて色違いのボードショーツを着用する事となる。
「イルカみたいに跳んでみるのも面白いんじゃね」
 茶化すようにキサイが言う。彼はさっきまで潜っていたらしい。髪は濡れ、下げられた網には獲物が見え隠れしている。
「随分焼けたね」
 日焼け忍者ってなんだかおかしい…そう思うも口には出さずにユウキが笑う。
「仕方ないだろーが。日焼け止め…ってどわっ!!」
 そこへ一人の来訪者――キサイに抱きついたのは見知った顔。
「シーラさん!」
「え、シーラ!?」
 ユウキの言葉に振り返った彼であったが、抱きつかれた勢いで彼女ごと海へ転落する。
「なぬっ! あれはいかん…いざ参る!」
 それを見取って今度はごつい人影。上着を脱ぎ捨てると背中には天女の彫り物が…救助する為通りすがりの皇・月瑠(ia0567)も勢いよく飛び込む。が二人は勿論無事で拍子抜け。
「やっぱりキサイさんだったのね? ふふっ、本当は届け物ついでにバカンスと思ったのだけれど…何かやってそうだし、あたしも参加させてもらいたいわ」
 月瑠を置き去りに、濡れた事にも構わずキサイを抱きしめたままシーラ・シャトールノー(ib5285)が言う。
「ふむ…いつの間にそんな仲になったんだ?」
 とこれは蒼馬だ。
「ば、そんな…って、それより…まずは、その」
「あら、ごめんなさい。暑いかしら」
 言い辛そうにしたキサイを察しシーラが離れる。
「今、この近くでバイトをやっているんです。ではシーラさんもやりますか?」
 ユウキが問う。
「俺も人助けになるなら是非もない。参加させて貰う」
 そんな四人の中に月瑠も加わって…大漁とかかれた鯛柄のショートパンツ水着のマッスル親父、その年四十六の本気の漁が今、始まろうとしていた。


●海男参る
「わぁ、あれが海男なんだ…」
 少し引いた位置から恥らいながらも感想を漏らす観光客の八割は女性だった。
「うわ、マジで人来てるし…しかもあの目。何かヤバイ…」
 そんな中、少しの悪寒を感じるキサイ。その場を早く立ち去ろうと銛を片手に飛び込み体勢だが、
「若いとはいえ、前置きなしに潜ると後に響くぞ」
 月瑠に止められた。そして彼を傍観すれば突如始まる長槍の演舞。
「ふんぬぅ!」
 ぐわさと豪快に着物を脱ぎ捨てて、重量のある槍を豪快に構え躍動するのは鍛えられた筋肉。夏の暑さも相まって汗が飛び散る。そんな彼に観光客は釘付けだ。
「ふーん、準備運動って訳かよ」
 その意図を察して彼も軽く柔軟運動。けれど視線は全て月瑠だ。
「あらやだ…うちの旦那よりいい身体」
「当り前でしょう。あの方は開拓者なのよ」
 年はいっていても受けは上々。一通り終わると彼は切立つ崖へ上って、借りてきたゴーグルを装着して、いざ。
「なぜ人は飛び込むのか……そこに絶壁があるから飛び込むのだ…とぅっ」
 彼は躊躇することなく跳び出した。その高さは人として飛び込んでいい高さではなかったが、志体持ちならばそれは可能。大きく上がる水飛沫。場が一瞬ざわめく。けれど次の瞬間、
「うぬっ! 何たる事か……俺の目はそこではないぞ!?」
 浮かび上がって顔を出した彼のゴーグルは額にずれて、あろう事か目の部分に到達しているその姿に笑いが起こる。
「やだ、あのおじさん。おもしろーい!」
 その掴みと勢いにシンクロ組が続く。
「美しいお嬢さん方の為に大物を獲ってこよう。期待していてくれ!」
 あくまで爽やかに、嫌味のない様細心の注意を払って蒼馬が白い歯を輝かせる。
「僕も出来る限り頑張ってきますね」
 とこれはユウキだ。面の下の素顔を見せて、まだ少し幼い雰囲気の残る彼は年下好きにはたまらないだろう。二人共営業スマイルがかなり眩しい。
「俺にはあんなのできねえ」
 そんな二人の様子にキサイが呟く。忍ぶ事が主な彼は愛想笑いが苦手なのだ。
「何ぼーとしているの? キサイさんの為に特別メニューを用意しておくから頑張ってきてね」
 そんな彼を後押しするように昼の準備をしていたシーラが耳元で囁く。
 彼女はパティシエではあるが、勿論普通の料理も出来る。そこで海男達の食事と共に訪れた観光客にもオレイレットと呼ばれる揚げ菓子を振舞っていたのだ。ちなみにこのお菓子…揚げ物であるから客足が芳しくないかと言えばそうでもない。異国の菓子という事であっという間に準備した分がなくなっていたりする。
「特別? マジかよ!」
 案外単純…キサイが嬉しげに笑顔を見せる。
「ええ、だから頑張ってね」
 そう言った彼女の本心を彼はどれだけ知っているか。碧のセパレート水着にも目もくれない彼に一息はいて再び料理作りに戻るのだった。


 一方、秀春は既に海に入っていた。
 出会いから縁がある早矢と共に――勿論早矢はお客にばれない様サポートするのが役目だ。先に魚のいる場所をリサーチし、彼をそこへ誘導する。
『次はこっちだ。さっきホタテがあった』
 指差しで場所を示して彼女が伝える。
『いやぁ、助かるさね。自分で探してたら息が続かなくなりそうだ』
 陸と海とでは勝手が違う。潜るだけでも慣れない者はすぐに浮き上がってしまう為、彼は密かに錘をつけている。
『お、あっちには蛸の気配だ…あの隙間なら狙える』
 そんな中で早矢は新たな獲物を発見した。そして再び指示を出そうと近づいて…そこに思わぬ敵出現。隙間には何も蛸だけが隠れているとは限らない。そうあの名高い海のギャング・ウツボの住処でもある。彼女の髪が餌に見えたのかにょきりと顔を出して虎視眈々と狙いを定める。そしてすいっと飛び出して、狙われたのは彼女の指だった。
『危ない!』
 それにはっとし秀春は銛を手放して彼女に近付き、
『ッ!?』
 早矢は赤面した。
『あれ、私抱えられている?!』
 水中ではあるが、腕にはしっかりと秀春の手の感触があるし、間直には秀春の胸板があったりで。
『危なかったぜ…ウツボ、あんたを狙ってたさね』
『そ、そうか…あの、有難う』
 言葉には出来なかったが、身振り手振りでそんな会話が交わす。
(「…この仕事、受けてよかった」)
 なんとなく心からそう思わんでもない早矢だった。


 さて、潜るだけでは飽きられる。そこで再びあの二人の出番である。
 一日一回のシンクロショー――練習の成果の見せ所だ。
「そろそろだな。ユウキ戻ろうか」
「そうですね。急ぎましょう」
 正直な所を言えば潜るだけでも体力は消費され、潮の流れもあるから所定の場所に移動したりというのは重労働だ。しかし、発案者であるからやらない訳にもいかない。
「あ、始まる…」
 それに観客の目が彼らの泳ぎを待っていた。そこで定刻通り村娘の合図と共に演技開始。楽師の曲に合わせてまずはクロールで二人が円を描く。時折、手にしている銛を突き上げたり交差させたり。その後は距離を取って大技披露。相手の銛を投げ合って、綺麗にキャッチ。一歩間違えば怪我ではすまないその技に拍手が起こる。
 そしてフィニッシュは網を使った追い込み漁。場所は予め魚がいそうな場所を確保し、更にそこから逃げていかないよう細工がされている。その中での演技であり、網を使ったそれはある程度獲れる保障が確保されたものであるが、追い込み自体は実際の手法。ユウキは激しく動いて魚を誘い込み、蒼馬は派手に爆砕拳を海底近くの岸壁に叩き込む。するとその振動にびっくりして、逃げ出した魚は網の方へと向かう仕組みだ。
「うわぁ、凄い…」
 二人と魚の動きが観客にも見える様、水の透き通った場所を選んでいる。
 その様子に感想が漏れる。
(「気功波が推進力にならなかったのは誤算だったが、これでも十分だ」)
 蒼馬が海中で網に集まっている魚を前にほっとする。
 そこで二人は距離を合わせて岸へと上がり、網の魚を掲げて見せれば再びの拍手。
「やっぱりワイルド系がいいよねー」
「可愛くてもあんなに逞しいんだー」
 思い思いの感想を耳に二人は期間中懸命にコレをこなす。
「さぁ、あがったばかりのこのお魚をよろしければあちらで食べて行って下さい」
 そういうユウキに観客らは喜び勇んで彼らと共に向かうのだった。


●思い出提供
 シーラの簡易海の店――家でない所がミソである。
 漁に出ている皆を待つ間にすっかりと村娘と意気投合したシーラの手は実に軽やかに動く。
「メインデッシュは豪勢に…やっぱりこれよね」
 大型の海老を玉葱のみじん切りと一緒に炒めて、使うのは少し前に手に入ったオリーブオイル。その他にも大蒜と香辛料を加えてお酒で煮込んだら出来上がり。海老のぷりっとした食感を残しつつ、スパイシーに仕上げた一品である。そして、もう一つは海鮮ものの定番ブイヤベース。半端物や売物には向かないあら等を使ってじっくり煮込む、所謂海鮮スープ。隠し味のサフランが決め手であり、ここだけは譲らない彼女である。
「きっとこれ、この村の名物になると思うの…だから、ね♪」
「わかりました。きっちりメモしておきます!!」
 一時的な人気だけで終わらせない為、彼女は秘伝のレシピを村娘に教える。
「お〜いいねぇ。腹減ったし」
 そこへ海男達が客を連れて戻ってきた。
「あら、月瑠さんはウツボ…とオニカサゴばかりね」
 網に入っている魚を見てシーラが驚く。
「いや、後これだ」
 そこで取り上げたのは一匹のサメ。類は友を呼ぶ…なぜだか厳つい獲物ばかりに遭遇した月瑠。水着の上から割烹着を身につけ、周りの視線を気にせず捌き始める。
「おやおや、凄いこって。さて、自分はコレからが本番かね」
 そんな中、秀春は新たな趣向を提供した。
 テーブルの一つを借りて、取り出したのは海辺に落ちている貝殻の類。
「なら、これも使ってくれ」
 そう言って蒼馬が貝殻を手渡す。
「有難う…さぁ、お嬢さん方。料理を待つ間に思い出作りは如何かな?」
 そう言って始めたのは簪の実演販売――専用の道具を取り出して、土台は予め作ってきており、そこへ海岸で拾った珊瑚やら貝殻をうまく取り付ければ一品モノの簪の完成である。
「わぁ、これ凄く綺麗…」
 出来上がったものを手にワンピースの水着の女性が目を輝かせる。
「だろう? けどお嬢さんには、三つ並びのこの花簪なんかどうよ?」
「あ、これもいいかも」
「ならそれはプレゼントするさね。材料費はタダ同然…皆さんも欲しいのがあれば言って欲しいねぇ。材料持参も歓迎するぜ」
 にやりと笑って、そういうと記念に一つと次々と手が上がる。
「あぁ〜、まあまあ落ち着いてくれや。俺は逃げないからねぇ」
「そうよ。お料理も出来たし、ごゆっくりどうぞ」
 そんな客達に笑顔で対応。皆総出で店が活気付く。
(「ふむ…この分だと仲間の分までは手が回らないかもねぇ」)
 折角の思い出にと仲間の分も作ろうと思っていた彼であるが、この人気では……それでも手際よく要望に応え簪を仕上げていく。
 それは料理についても同様だった。シーラもリクエストに応えて、出来る限りの料理を提供する。そこに月瑠のウツボやらカサゴも加わって、一時的にオープンした店は大盛況。海男の客寄せイベントは連日賑わいを見せ終わりを迎える。
「ふぅ。なんだかあっという間だったわね…」
 片づけを終えたシーラが浜辺を見つめて呟く。
「あ…ってうわっ! たまかよ…」
 そこへキサイが通りかかって、始めの時同様抱きつく彼女。
「なぁ、シーラ。おまえ…」
「何かしら?」
 戸惑うキサイとは違い、はっきりと彼を見つめて彼女が問う。
「もしかして…南瓜の時のは…あ、いやあれ、また…食べたいかもだぞ」
 本心なのかよと聞きたかったキサイであるが、その先が言葉にならなくて慌てて話題をすり替える。
「ふふっ、有難う。あれってクッキーの事かしら?」
「そう、それ。今日のもうまかったけども…っとあれ、他のと何が違ったんだよ?」
 そう言えば自分のは特別だと聞いていたのに、見た目が変わらなかった事を思い出し彼が問う。
「あら、罠師のあなたが気付かないの? それじゃあまだまだね」
 そんな彼に少しの悪戯――正解は使った酒の違い。だが出されていたものしか食べていなければ、分らないのも当然なのだがそこはあえて言わずにおく。
「ちっ、言ったな。俺を試すとはいい度胸だぜ」
 だが、それで彼の心に火がついた。
 今度は食べ比べたいと要求――海の店の明かりはまだ消えそうになかった。